日本の高校情報教育 現状とこれからの動向 和田 勉 長野大学 企業情報学部/高校情報科教職課程 情報処理学会情報処理教育委員会 初等中等教育委員長 元 韓国 高麗大学 師範学部コンピュータ教育科(半年間) SEA SIGEDU 幽霊会員(^v^;;;) 高校教育の現行制度 n 普通科(73%)か専門学科(22%)か総合学科(5%) 専門学科は 工業科・商業科・農業科・水産科・情報科※ 家庭科・看護科・福祉科 理数科・体育科・音楽科・美術科・英語科 の13種類 ※全国に約30校のみ n 名乗っている学科名はいろいろだが必ずこのいずれか – 商業科の「情報処理科」、工業科の「情報技術科」… – 「情報科」はこれらと別:もちろん内容は重複多い n 普通科は基本的には、市民の教養としての教育 – 将来進む道を想定できない – 企業に入るとは限らない:公務員 弁護士 小説家 専業主婦… 高校の情報教育 n n 共通教科情報科(旧名:普通教科「情報」) 2003年から高校生は全員が必ず学ぶ – ただし専門学科(商業科、工業科等)で情報に関 する専門科目を学ぶところはそれでの代替が認 められている n 週2時間×1年間 または週1時間×2年間 – すべての高校生は共通教科情報科か代替科目 のどちらかも学ばない高校生はいない(はず) 共通教科情報科 n n n n 普通科と非職業系専門学科や総合学科で実施 科目は「社会と情報」と「情報の科学」の2つ – 制度上は生徒が選択、実際は生徒は選べない – 社会と情報を実施している学校が全体の約70% 2012年度入学生までは 情報A・情報B・情報C – 情報Aの選択校が70~80%だった 新旧とも科目ごとに内容は異なる – 学習指導要領や同解説でそう規定されている – 情報の科学的理解を重視する 情報の科学や 情報Bはいずれも選択校は少ない 情報の科学 (1) コンピュータと情報通信ネットワーク アコンピュータと情報の処理 イ情報通信ネットワークの仕組み ウ情報システムの働きと提供するサービス (2) 問題解決とコンピュータの活用 ア問題解決の基本的な考え方 イ問題の解決と処理手順の自動化 ウモデル化とシミュレーション (3) 情報の管理と問題解決 ア情報通信ネットワークと問題解決 イ情報の蓄積・管理とデータベース ウ問題解決の評価と改善 (4) 情報技術の進展と情報モラル ア社会の情報化と人間 イ情報社会の安全と情報技術 ウ情報社会の発展と情報技術 社会と情報 (1) 情報の活用と表現 ア情報とメディアの特徴 イ情報のディジタル化 ウ情報の表現と伝達 (2) 情報通信ネットワークとコミュニケーション アコミュニケーション手段の発達 イ情報通信ネットワークの仕組み ウ情報通信ネットワークの活用とコミュニケーション (3) 情報社会の課題と情報モラル ア情報化が社会に及ぼす影響と課題 イ情報セキュリティの確保 ウ情報社会における法と個人の責任 (4) 望ましい情報社会の構築 ア社会における情報システム イ情報システムと人間 ウ情報社会における問題の解決 高校の専門学科での情報教育 n n 共通教科情報科は学ばない それぞれの専門教科の中に科目がある – 工業科の「情報技術基礎」など多数 – 商業科の「情報処理」など多数 – 農業科の「農業情報処理」 – 家庭科の「家庭情報処理」 – 水産科の「海洋情報処理」 – 美術科、英語科などは共通教科情報科を実施 – 情報科の「情報産業と社会」など多数 情報関係専門学科 (専門学科情報科以外) n 「情報技術科」などは工業科 – 専門教科工業科の科目のうち情報関係: 情報技術基礎,生産システム技術,電子情報技術, プログラミング技術,ハードウェア技術,ソフトウェア技術, コンピュータシステム技術,… n 「情報処理科」などは商業科 – 専門教科商業科の科目のうち情報関係: ビジネス基礎,ビジネス実務,マーケティング,商品開発, 情報処理,ビジネス情報,電子商取引,プログラミング, ビジネス情報管理… 専門学科情報科 n n n 専門教科情報科を実施 全国に約20校(工業科や商業科よりはるか に少ない) 専門教科情報科の科目: 情報産業と社会,課題研究,情報の表現と管理, 情報と問題解決,情報テクノロジー, アルゴリズムとプログラム,ネットワークシステム, データベース,情報システム実習,情報メディア, 情報デザイン,表現メディアの編集と表現, 情報コンテンツ実習 共通教科情報科の現場 n n n n もちろんすぐれた情報教育をなさっている先 生もおられるが、多くの現場は貧弱 「Word・Excel・PowerPointの操作教育」と 「ネットワークべからず集」 学校の「パソコン便利屋」もさせられている 情報教育の「好循環」が始まらない理由: 教員採用 と 大学入試 共通教科情報科を担当する教員 n n 免許教科の「情報」 正式には: • 高等学校教諭第一種免許状(情報) 原則:四年制大学で教職課程を履修して卒業時に 免許を得て、教員採用試験を受け採用 • 情報科の教職課程は他教科に比してむしろ多いのだが… n n 例外のはずだが絶対的多数:認定講習 都道府県によって多い:臨時免許や免許教科外担任 教員採用と教員養成 n n n n n 大学の情報科の教職課程は他教科に比してむしろ 多い 情報科の教職課程を履修して教員免許を得る人は 一定数いる しかし 多くの都道府県市では情報科の教員免許があって も教員採用試験を受けられない 情報科免許で受けられる:5府県市のみ 大阪、山形、広島、熊本、沖縄 情報科免許と「副免」で受けられる:11都府県市 教員採用と教員養成(続) n すなわち 多くの都道府県では情報科免許(だけ)では 正規の教員になる道は無い • 私立高校は除く n こんな状況を見て学生は、学部入学時点で 情報科の教職課程履修をしなくなりつつある →学生がいない →各大学で情報科教職課程は廃止の危機 高校の情報科は誰が教えているのか n n 15日間の「認定講習」を受けただけの、 もともとは数学や理科の先生 →2003年以降認定講習は行われていない ので定年退職等でしだいに減少 臨時免許や免許教科外担任 =15日間の講習すら受けていない他教科の先生 • 本来はやむを得ない場合のための制度だが都道府県教 委が認めれば合法 • 県によってはほとんど:情報科の先生は現場にいない 免許と能力のある若い人はいるが職を得られない(臨時などのみ) 情報科(だけの免許の)教員を採用しない理由 n n 2単位だけなので1校の情報科の授業をぜんぶあわせ ても一人の教員の持ちコマのノルマを満たさない →他教科(数学等)も持つ必要→その免許も必要 近い将来情報科は廃止されるとの観測から? →情報科免許だけの教員を採用してしまうとその後の 人事処遇に困る(持てる教科が無い) 大学入試:センター試験 n n n n センター試験には共通教科情報科は無い 「情報関係基礎」はある:工業科・商業科・専門学科 情報科…の情報関係科目に共通の試験 受験人数:全国で400~600人 同じ時間に行なう「数学II・数学B」は約30万人 普通科の生徒も受検できるが、 難関大学志願者の場合、多くはその点数は無効 • 各大学学部が「出願時に情報関係基礎が有効なのは専 門学科卒業者のみ」としている • 多くの大学で必要な「数学II・数学B」を同一時間に実施 →当然志望大学出願に必要な科目を受験することに 大学入試:個別大学入試など n 全国のいくつかの大学では実施: 大学数はわずか、他科目との選択制 n 情報処理学会 大学情報入試全国模擬試験 情報入試研究会が準備・主催 高校生だけでなく高校教員・大学生などが受検 高校生が受けた場合入試に加点する大学も 小中学校での情報教育の 制度的枠組みと実際 n n 小学校:制度的に義務付けられた情報教育の時間 は無い-「総合的な学習の時間」などで実施している ところもある 中学校:教科「技術・家庭」 週2時間のうち「技術分野」(男女共通) A 材料と加工に関する技術 B エネルギー変換に関する技術 C 生物育成に関する技術 D 情報に関する技術 • 実際はあまり実施されていないところも多い 国の動向(H32~H35以降に向けて) n H25~26 閣議決定「世界最先端 IT 国家創造宣言」 「初等・中等教育段階でのプログラミング教育」 n H27 中教審初中等分科会 教育課程企画特別部会 「科学的な考え方を育成する共通必履修科目」 以前 情報A・情報B・情報C から選択必履修 →今 情報の科学・社会と情報 から選択必履修 → 科学的な考えかた育成の科目 全員必履修 + 発展的な内容を扱う選択科目 国の動向(H32~H35以降に向けて)(続) n H27 中教審 高大接続システム改革会議 いまのセンター試験は無くなる →2つの試験を行なう n n 高校基礎学力テスト 大学進学希望者に限らず受ける 大学入学希望者学力評価テスト 科目数は現行のセンター試験より減らす 新必履修科「情報」も次期学習指導要領と連動 して実施する 第二部・三部ワークショップのテーマについて 1,2 商業科のことはあまり知らないのですが… ①企業が求める人材像と高校教育の隔たり 普通科は企業へ進むことを前提にしない しかし「情報の科学的理解」は万人に大切 ②教育カリキャラムの作成ポイント 必履修教科は学習指導要領で規定 専門教科は大枠のみ規定 商業科についての具体的なことは知りません… 第二部・三部ワークショップのテーマについて3 ③指導体制及び指導者育成 共通教科情報科担当者は免許「情報」 問題は前述:認定講習、臨時免許や免許教科外担任… 商業科の専門教科担当者は免許「商業」 § 免許教科(=大学教職課程)を細分化すべき? § もっといろいろ相乗りの免許教科もあるが: 工業科、理科… 免許は1種類でも教員採用時に区分して採用 例:工業(建築)、理科(物理)、… 第二部・三部ワークショップのテーマについて4 ④学校と企業との連携 普通科でも情報科でもいろいろやっているところ はある…
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