量子力学 A(3 年前期) 期末テスト ヒント and/or 略解 問題 0. (4 点) (i) ダブリューの大文字と小文字の違いを(書体は同じで)サイズだけで書き分けたも のは不可としました. (ii) k = 2πn/L (n = 0, ±1, ±2, ±3, · · · ). • n = 0, 1, 2, 3, · · · は不可.問題文には「可能な値をすべて求めよ」とある. (iii) 二項展開の公式 1 (1 + t)−1/2 = 1 − t + · · · 2 を知っていれば(知らなくても t の 1 次の項までならすぐに導出できる),この式に t = −x2 を代入するだけ. • (1 − x2 )−1/2 を直接 x について展開してももちろん OK です.しかし,その場 合でも,展開式に x の 1 次(奇数ベキ)が出て来たら,その瞬間におかしいと いう感覚くらいは身につけて欲しいものです. (iv) 波動関数 ψ(x) = eipx/~ で与えられる状態は運動量が px = p に確定している状態であ る.したがって,∆px = 0. また,|ψ(x)|2 = 1 で波動関数は無限に拡がっているので 位置の不確定性は無限大である:∆x = ∞.これは,不確定性関係 ∆x & ~/∆px = ∞ とも矛盾していない. 問題 1. (40 点) (1) 絶対値の定義とも言える式, |a ± ib| = (a2 + b2 )1/2 , あるいは, |reiθ | = r と,定義から導かれる公式, z1 z2 · · · |z1 ||z2 | · · · w1 w2 · · · = |w1 ||w2 | · · · を組み合わせるだけ. (2) 例えば,(x が十分に大きいとき) ln x < (ln x)2 < x0.001 くらいはすぐに納得できる人ならば,これから直ちに, 1 < ln x < x0.001 ln x もわかるはず. いまだにギャンブルをして失敗する人が少なからずいます. (3) 量子力学における基本のキです.ちゃんと説明出来るようになって下さい. • それとなく(というよりはかなりあからさまに)予告していた問題にもかか わらず,あいまいにしか憶えてきていない人が多かったように思います.出題 される確率が 5 割程度だったら,5 割程度の理解度でしか勉強しないのでしょ うか. • この問題に限りらず,5 割程度の理解度でしか勉強しないのはとても効率の悪 い学習方法です.負の効率といってもいいくらいです.曖昧な知識を増やせば 増やすほど(それだけ,それらしい回答の候補が増えてきて)間違える可能性 がますます高くなるのですから. • 「波動関数に対する確率解釈」を問われているのに, 「波動関数」が一言も現れ ない説明をする人がかなりいました. 「波動関数」が出てこなければ問われてい ることに答えていないことになります. (4) 時間とエネルギーの不確定性関係,∆E · ∆t & ~ を使う.ここで,∆E はエネルギー の不確定さだが,注意すべきは,∆t は時間の不確定性ではなくエネルギー測定に かける(かけられる)時間であること. • 量子力学の問題にも関わらず,不確定性関係に ~ が含まれない人がまだいます. 問題2.(20 点) (1) 時刻 t における波動関数を ψ(x, t) と書けば, i~ ∂ψ(x, t) = Ĥψ(x, t). ∂t もちろん,Ĥ を具体的に書いたものも可. (2) (i) ψ1 (x, t) = e−iE1 t/~ u1 (x) と置くと,ψ1 (x, t) は (1) のシュレーディンガー方程式の 解で初期条件 ψ1 (x, 0) = u1 (x) を満たす. 実際,この ψ1 (x, t) を (1) の式の両辺に代入すると, ) ∂ ( −iE1 t/~ e u1 (x) = E1 e−iE1 t/~ u1 (x) ∂t ( ) (右辺) = Ĥ e−iE1 t/~ u1 (x) = e−iE1 t/~ Ĥu1 (x) = e−iE1 t/~ E1 u1 (x) (左辺) = i~ = (左辺) となって (1) の方程式を満たす.また初期条件 ψ1 (x, 0) = u1 (x) を満たすことは明 らか. (ii) 上と同様に,ψ2 (x, t) = e−iE2 t/~ u2 (x) と置けば,ψ2 (x, t) は (1) のシュレーディン ガー方程式の解であり,初期条件 ψ2 (x, 0) = u2 (x) を満たす. (1) の微分方程式は線形であるので,解の線形結合もまた解である.したがって,c1 , c2 を任意定数として ψ(x, t) = c1 ψ1 (x, t) + c2 ψ2 (x, t) も,(1) のシュレーディンガー方程式の解である.t = 0 ではこの解は ψ(x, 0) = √ √ c1 u1 (x) + c2 u2 (x) となるので,c1 = 1/ 2, c2 = i/ 2 ととれば与えられた初期条件 を満たすことになる.すなわち,求める解は, 1 i ψ(x, t) = √ e−iE1 t/~ u1 (x) + √ e−iE2 t/~ u2 (x) 2 2 である. • 時間を含むシュレーディンガー方程式の解で,変数分離型で表されるものは, ψ(x, t) = e−iEt/~ u(x) の形であり,u(x) は時間を含まないシュレーディンガー 方程式 Ĥu(x) = Eu(x) を満たす.つまり,時間変数が分離された解は,エネ ルギーが確定している解であり,定常状態を表す.したがって, (いろいろなエ ネルギーの重ね合わせで表される)エネルギーの確定していない状態は,変数 分離型の形では表すことが出来ない. にもかかわらず,後半の解も変数分離型で求めようとしていた人がかなりの数 √ いた.初期条件 ψ(x, 0) = 1/ 2(u1 (x) + iu2 (x)) を満たす解は,エネルギーが確 定していないことは明らかである.すなわち,変数分離で表されるはずがない! • 時間を含むシュレーディンガー方程式の解として,二つのエネルギー固有関数 の重ね合わせとして表されるものは,調和振動子の場合でやった(プリント第 5 章 5.3 節).そこが思い出せればとても簡単だったはずの問題である. (調和振動子に限らず「時間を含むシュレーディンガー方程式と時間を含まな いシュレーディンガー方程式の関係はきちんと整理しておいてください」と日 頃からアドバイスしていたつもりだったのだが・ ・ ・必ずしも伝わっていなかった ようですね.残念です.失敗した人は,整理が甘かったことを実感して下さい. ) • ポテンシャル V (x) を具体的に与えていないので,Ĥu(x) = Eu(x) を満たすエ ネルギー固有関数 u(x) の具体形もわかりっこありません.V (x) がごく特殊な 場合(例えば,V (x) = const., V (x) = mω 2 x2 /2 など) に限って u(x) の具体形 が求められるだけです.一般の V (x) の場合は近似解しか求められません.そ のため,WKB 近似などを考えるのです. ポテンシャルとしてはとても簡単な調和振動子の場合ですら,u(x) の具体形を 求めるのはかなり大変だったのではありませんか.にもかかわらず, (階段型ポ テンシャルをやったあとでは?)そのことを忘れ去って,一般の V (x) の場合 なのに,エネルギー固有関数が平面波の形で表されると思い込んでいる人が少 なからずいました. 問題 3. (40 点) (1) u1 (x) について:省略. u3 (x) について: x > L では V (x) = V2 .シュレーディンガー方程式は,E − V2 > 0 より, √ 2m(E − V2 ) k3 = ~ とおくと, d2 u3 (x) = −k3 2 u3 (x) dx2 となる.これより,解は (B, B 0 を任意定数として) u3 (x) = Beik3 x + B 0 e−ik3 x . ここで第二項は,x 軸正の無限遠方から負の向きに入射してくる入射波を表す.今 の問題設定ではこのような入射波は考えていないので B 0 = 0 と選ばなければなら ない.したがって,u3 (x) は透過波だけの u3 (x) = Beik3 x の形で表される. • B 0 e−ik3 x の項を落とす理由として, 「物理的に許されない」とするのは間違い. x 正の無限遠方からの入射波は物理的には考えられるが,今の問題では考えて いないだけである. (2) 0 < x < L に置いて,V (x) = V1 (V1 > E) より, √ 2m(V1 − E) κ= ~ と置けば,シュレーディンガー方程式は, d2 u2 (x) = κ2 u2 (x) dx2 となる.これより,解は (C, D を任意定数として) u2 (x) = Ceiκx + De−iκx . の形になる. • x の範囲は,0 < x < L であるので,x → ∞ とか x → −∞ の極限はとれない. したがって「x → ∞ のとき u2 (x) の第一項は発散するので C = 0」というよう なロジックは成り立たない. (3) u1 (0) = u2 (0), u2 (L) = u3 (L), u01 (0) = u02 (0), u02 (L) = u03 (L). • せっかく「関数 u1 (x), u2 (x), u3 (x) の記号を使って書き表せ」と書いてあるの に,平面波を使った解をもちいて,A, B, C に対する条件式を書いた人がいた. これでは,(1) や (2) の問題を間違えた人でもこの問題は正解できるようにした 問題設計が無駄になってしまう. 親ごころ(教師ごころ?)をわかって欲しいものです. • 導関数の x = 0 での連続性を表すのに, d d u1 (0) = u2 (0) dx dx と書いたら間違い.u1 (0) も u2 (0) も x にゼロを代入したものなので定数であ る.上の式は,これらの定数を微分したもの同士が等しいといっている.定数 を微分したらゼロになるので,これは「0 = 0」という自明な式である. d dx の記号を使って導関数の x = 0 での連続性を表すには, du1 (x) du2 (x) = dx x=0 dx x=0 などとしなければならない. (4) u1 (x) の第一項が入射波,第二項が反射波を表し,u3 (x) が透過波を表すことに注意 して, 3 |B|2 ~k | 透過フラックス | k3 m T = = = |B|2 , ~k 1 2 | 入射フラックス | k1 |1| m 1 |A|2 ~k | 反射フラックス | m R= = = |A|2 . ~k 1 2 | 入射フラックス | |1| m • フラックスに絶対値をつけるのを忘れてはいけない.もし,絶対値をつけなかっ たら, 1) |A|2 (−~k 反射フラックス m R= = = −|A|2 ~k 1 2 入射フラックス |1| m となってしまう.確率が負になったとしたら明らかに間違いである. 全体に関するコメント • 今回に限ったことではないですが,問題文をちゃんと読まずに解答をしている人が 多いように見受けられます.勝手に問題を解釈して,袋小路に入っている人とか.特 に,問題 2 の (2),問題 3 の (3), (4) など. こちらが親ごころでいろいろ注意書きを加えているのに,それを完全に無視したよ うな解答をみると,まるで「既読無視」された気分になります1 . • 問題 0 と問題 1 は,知っていて当然のこと,あるいは,基本中の基本です.問題 0 の (iv) を除いて,これまでも出してきた問題です.つまり, (前回出来なかったところ をちゃんとやり直しているとかして)それなりに勉強してくれば,この 43 点は黙っ て上げますよという問題です.問題 2 の (1) も同様です. • 問題 3 の (3) と (4) は, 「トンネル効果や有限の井戸型ポテンシャルの問題を出すと したら,接続条件をせっせと計算する問題は複雑すぎて出せない.そのかわり大枠 を理解しているかどうかを出題する」と予告していたものです.大枠を理解してき た人にとっては,ほとんど時間をかけずに答えられたと思います. • 上の二つのコメントにある,問題 0 の (i)∼(iii),問題 1 の (1)∼(4),問題 2 の (1), 問題 3 の (3),(4) の点数の合計は 73 点.そこそこ勉強してきた人には,この 73 点を まず楽々とって下さいという問題設計でした.イージーミスによる取りこぼしを除 いて,この 73 点を取れなかった人は,そこそこの勉強もしてこなかった人,あるい はおそらくこちらが当てはまるのでしょうが,間違った勉強方法をしている人です. • 上の間違った勉強方法をしているというのはどういう人でしょうか.おそらく,こ ういう人たちだと推測しています. – これは重要だからきちんと理解して置いてねと言われたところは,一通りは勉 強してくるのだけれど,いずれも,中途半端にしかやらない人. やるべきことが 10 個あったときに,4 割程度の理解度で 10 個やるくらいなら, 8, 9 割程度の理解度で 4 個やる方がはるかに効率がいいのです.もし試験をや れば,前者の人はせいぜい 2,3 割しかとれないでしょう.一方,後者の人な らほぼ確実にやってきた 4 割のことは正解が出せます. しかも,4 割程度の理解度では,あっというまに記憶が薄れて,そのテーマに ついてはやったことがあるというレベルまで下がります.再チャレンジの機会 が与えられてもまたゼロからスタートしなければなりません. (というよりは, やったことがあるけれどわからなかったという負のイメージをもってのスター トですので,ゼロからのスタートよりはひどいかもしれません. ) これに対し,8, 9 割以上の理解度で学んだ人は記憶の定着率も高くなります. こことここが関係しているといったことを隅々まで理解しているので,一部の 記憶が薄れたとしても,関連性を使って容易に修復ができるのです.こういう 1 すいません.思わず現代人の振りをしてしまいました.LINE はやってないので何のことかわからない です. 人は,次の機会には,10 個中 4 個は理解しているので残りの 6 個を集中して学 習すればいいのです.つまり,次につながる勉強方法です. 蛇足 こういう次につながる勉強方法なら,勉強時間に比例して理解が増える だろうと思うかもしれませんが,実際はそれ以上の効果があります.例えば, 勉強時間の 2 乗とか 3 乗に比例して理解が増えるのです. 10 個中 4 個のことを確実に理解していれば,残りの 6 個を学習する上で最初の 4 個の知識が使える場合が多いのです.そうすると,残りの 6 個を理解するの に,最初の 4 個にかけた時間ほどは必要としないのです. 「自分は一生懸命勉強 しているのに,どうして遊んでばかりいるあいつの方が成績がいいんだろう」 と感じたことはありませんんか.それはおそらく,このような勉強方法の違い が原因でしょう. – 過去問の解答を,理解もせずに丸暗記してくる人.これは,私が指摘するまで もなく,間違った勉強方法だというのはわかるでしょう. 憶えてきた過去問と全く同じ問題が出て,しかも,それが全く同じ問題だと認 識出来たときには,確かに完璧に答えられるでしょう.しかし,そのような状 況はまずあり得ません.本質的には同じことを問う問題が運良く出たとしても, 出題の仕方でバリエーションはいくらでもあります.無数にあるバリエーショ ンのうちの一個にぴったり当てはまるということはまずあり得ないでしょう. とてもハイリスクな賭です. にもかかわらず,理解なき丸暗記をしてきたとしか思えない解答をときどき見 かけます.一昨年のこの問題だったら正解だったのになあという解答です.卒 業や進級がかかっているにもかかわらず,このようなハイリスクな勉強しかし てこない人もたまにいます.信じられないほどハイリスクローリターン2 な賭 です. 2 ハイリスク:失敗する確率は限りなく 1 に近い.外れたら 1 年の時間と (1 年分の学費と生活費で)200 万円近くの出費が必要.ローリターン:奇跡的に成功したとしても,この時間と出費が回避されるだけ.
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