「恋する豚研究所」 食で地域に貢献、障害者を雇用

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「恋する豚研究所」 食で地域に貢献、障害者を雇用
余った野菜を活用する店も
2013/6/11 6:30 日本経済新聞 電子版
原材料にこだわり、おいしいものをつくろうという食品関連事業者が地域づくりにも
貢献し始めている。障害者や就職難の若者の雇用の場となったり、つくりすぎた作物を
買い取って農家を支援したりする動きが出てきた。事業者の思いや背景を探った。
千葉県香取市。畑が広がる田舎町の一
角が昼食時に女性や家族連れでにぎわ
う。週末には行列ができることもある。
4月にオープンした「恋する豚研究所」
だ。
■月給10万円目標
不思議な名前のおしゃれな建物は、地
元の畜産家が育てた豚肉や地元の野菜を
使った料理のレストラン。伝統的な手法
で時間をかけてつくるハムやソーセージ
障害者は食器洗いなどを担当する(香取市の「恋する豚研
究所」)
など加工品の工場や直売所も備える。
地元の主婦ら全体では約30人が働き、このうち9人は障害者。それもそのはず。研
究所の母体は地元の社会福祉法人、福祉楽団。そしてその法人の理事長は地元の畜産
家、在田正則さん(66)なのだ。
在田さんは「よりおいしい豚肉を作るには人と同じことをしていてはだめ」と、十数
年前から余った食品などを利用した特殊な発酵餌で豚を育て始めた。これで臭みが少な
く、うまみ成分が多い豚肉がつくれるようになった。一定の評価は得たものの「もっと
作り手の顔が見える売り方がしたい」との思いがあった。
一方で地域に貢献するために特別養護老人ホームなどを運営する福祉楽団を2001年
に設立していた。「養豚と福祉を合体できないか」とのアイデアから生まれたのが今回
の取り組みだ。
障害者の雇用の場はまだまだ少ない。職業訓練のため簡単な手仕事などをする福祉作
業所が全国にあるが、その生産物は市場流通には乗りにくく給料はわずか。ここでは清
掃やラベル張り作業などを障害者が担い、地元の食材を生かして付加価値の高い商品を
生産する。月給10万円を目指し、今は平均7万円ほどを払っているという。26歳の知
的障害のある男性は「ずっとここで働きたい」とほほ笑む。
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研究所代表で福祉楽団理事でもある飯田大輔さん(35)は「この仕組みを維持する
ためにも『恋する豚』ブランドを広めたい」と話す。ハムなどは東京都内の小売店やイ
ンターネットなどでも販売を始めている。
「地元農家がつくった旬の野菜を無駄なく利用したい」――。こんな発想から横浜市
青葉区に3月、小さな総菜店が生まれた。店名は「リバイヴ・レシピ テンゾ」。採れ
すぎて廃棄処分していたような野菜を引き取り、総菜としてよみがえらせるという意味
を込める。「テンゾ」は禅寺で食事を用意する役職「典座」からとった。
店主は近所にあるイタリア料理店「ナチュラーレ・ボーノ」を運営する植木真さん
(42)。こちらも地元野菜にこだわった料理が人気の店だ。地産地消のおいしさに目
覚めた植木さんが地元農家と仲良くなるうちに総菜店構想が生まれた。今の時期は「マ
イワシと新タマネギのマリネ」などが売れ筋という。
様々な事情で社会経験が乏しく、そのままでは就職困難が予想される地元高校生をア
ルバイトとして雇う「バイターン(アルバイトとインターンをかけた造語)」という企
業や学校の共同事業にも協力している。主婦ら全15人の従業員のうち、3人は高校
生。3月から働いている女子生徒(18)は「ここで教わって料理の腕が上がった。卒
業後も働き続けたい」という。
植木さんは「地元の農家が育てた野菜を、地元の
若者や主婦が料理して、地元の人においしく安全に
食べてもらう。こんな地域のみんなに利益となるよ
うな形を大切にしていきたい」と話す。
■全国に商品販売
「穀物の味がしっかりとわかる自然派のクッ
キー」をつくっているのは大津市にある「がんばカ
ンパニー」。国産の小麦粉をはじめ有機栽培の原材
料、輸入品であればフェアトレードにこだわる。
1996年から操業している菓子工場だ。
約70人の従業員のうち50人が障害者。そのほか
にも母子家庭の母親や高齢者など働きにくい事情を
総菜店「リバイヴ・レシピ テンゾ」で働
く女子高生(横浜市)
抱える人も多い。地元の社会福祉法人、共生シン
フォニーが運営する障害者の就労施設でもある。
そもそもは仕入れた自然食品を障害者らが売る店だった。しかしかつては商品の数は
少なく、あまりおいしくもなかった。「それならば自分たちでつくろう」とクッキーづ
くりが始まった。
衛生面には特に気を配り、品質で勝負できる製品を目指してきた。今ではネット販売
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のほか、全国の自然食品系小売店が扱う。障害者の月給も平均で約9万円に達する。
一般的な菓子工場よりも生産効率が低い面はある。それでも所長の中崎ひとみさん
(48)は「普通の企業のように発展させることではなく、いいものをつくって雇用の
場を確保することがここの目的」と説明している。
■地元への関心高く
食や農、環境などの分野に詳しい出版社コモンズ代表、大江正章さんの話 「食」は
だれにとっても身近なもので、ここを中心に物事を仕掛ければ、いろいろな人がかかわ
りやすい側面を持つ。食と福祉もつながりやすく、各地で様々な取り組みが出てきてい
る。
自分が住む地域、足元に目を向けようとの機運が強まっていることも様々な取り組み
の背景だろう。小さな自治体や小さな地域単位で経済を回し、その中のだれもが豊かに
なれる地域をつくっていきたいという意識も高まっている。
ここ10年で全国の有機農家の大半がレストランと提携するようになった。こだわり
の店では客との会話も多く、その中で農に関心を持つようになって、農家にも行ってみ
ようという人たちが出てきた。こんなつながりがもっと増えれば「食」を核とした地域
づくりもさらに増えるだろう。
(編集委員 山口聡)
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