報告のレジュメ・資料(PDF)

中東研究会
2015 年 5 月 28 日
東洋英和女学院大学
リビア情勢:2 つの「議会と政府」の対立
高橋雅英
[email protected]
はじめに
・現在のリビア情勢
・2011 年アラブ政変のその後
本発表の目的
① リビア情勢がどのように一国二政府に陥ったのかを考察すること。
② 現在の二項対立構図の 実態を明らかにすること。
1.リビア情勢: 一国二政府への展開
(1) 2011 年の内戦から暫定政権へ(2011 年 2 月~2012 年 7 月)
‐2011 年 2 月:東部ベンガジで反カダフィ運動が開始。
「国民評議会(NTC)」を設立。
‐2011 年 3 月:国連安保理の決議(No. 1973)を採択。NATO 軍事作戦の開始。
‐2011 年 8 月:憲法宣言、トリポリ解放作戦、
‐2011 年 9 月:民主化移行にむけた政治行程表の発表
・8 ヶ月以内の「制憲議会」の選挙と「憲法起草委員会」メンバーの選出
・その後の 12 か月、
「憲法の国民投票」および「国民議会・大統領選挙」
(2)制憲議会(GNC)の誕生(2012 年 7 月)
‐2012 年 7 月 7 日:制憲議会選挙の実施
→議席配分をめぐって、東部・南部地域が反発。
→NTC は東部・南部地域に譲歩し、議席配分を変更。
→憲法起草委員会メンバーを直接選挙で選出(「憲法宣言」の修正)
‐比例区でリベラル派政党「国民勢力連合(NFA)
」が第 1 党に。
次いで、リビア MB の政党「公正建設党(JCP)」。
(3)リビア政治における勢力構図の変化(2012 年 8 月~2013 年 8 月)
‐「NFA」は、ジンターン民兵や GNC 議長、ゼイダーン暫定首相と連携。
→同連合に不満をもつ勢力が結集。2013 年 5 月、「政治的罷免法」を制定。
→同法案の審議過程で、ミスラタ民兵や準軍事組織が武力に脅迫行為を行う。
目的:前政権幹部を 10 年間、公職に就けなくさせること
⇒「政治的罷免法」の影響により、GNC 議長ポストがイスラム主義陣営に移る。
⇒ジンターン民兵がイスラム陣営に対抗するため、東部連邦主義者や親カダフィ部族と協力
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2015 年 5 月 28 日
東洋英和女学院大学
(4)ハフタルの登場と代表議会の選挙決定(2014 年 2 月)
‐2014 年 1 月:GNC の任期延長に対して、大規模なデモが発生
GNC の任期:18 か月(2012 年 7 月 7 日~2014 年 2 月 7 日)
‐2 月 3 日、GNC が「憲法宣言」を修正。代表議会(HOR)の選挙実施。
‐2 月 14 日:ハフタルが GNC の凍結と憲法宣言の停止を表明
‐2 月 20 日:憲法起草委員会(当初、2012 年 8 月設置)の選挙
(5)首相ポストをめぐる争い(2014 年 3 月~6 月)
‐2014 年 3 月:ゼイダーン首相の不信任案を可決
→シンニー国防大臣が暫定首相に就任。
‐2014 年 5 月:GNC でミスラタ出身のマイティークが新首相に選出。
→6 月:最高裁がマイティークの選出プロセスに対して違憲の判決。シンニーの続投を指示。
(6)2 つの「議会と政府」
‐6 月 25 日:代表議会選挙の実施。
→イスラム主義陣営は敗北。
‐8 月 4 日:トリポリで GNC から HOR への権限移譲式典を開催
→GNC 議長は式典を欠席した HOR 議員および議会の違憲性を主張。
→GNC 議長は GNC の続投、
「救国政府」(首相ハーシー)を形成。
‐9 月:グワイデル HOR 議長もシンニー前首相を暫定首相に任命。
⇒2014 年 9 月、東西に「議会」と「政府」が並列。
まとめ 1
2. 二項対立構図の実態
「カラーマ(尊厳の戦い)作戦」
‐2014 年 5 月 16 日:ハフタルがイスラム主義者掃討作戦を開始。
→離反軍やジンターン民兵、親カダフィ部族、キレイナイカ軍が合流。
→10 月、HOR が同作戦を国軍の公式的な軍事作戦と位置付ける。
‐2015 年 3 月:ハフタルが国軍最高司令官に昇進。
「ファジュル・リビア(リビアの夜明け)作戦」
‐2014 年 7 月 13 日:ミスラタ民兵等がトリポリ空港制圧作戦を開始。
→空港利権の奪還とジンターン民兵をトリポリからの排除が目的。
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2015 年 5 月 28 日
東洋英和女学院大学
‐11 月、12 月には南部や東部の石油施設の制圧を試みる。
まとめ
2
参考文献
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――――. 2015. 「政変後のリビアにおける民兵組織の活動: 南部地域に着目して」日本中
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2014 年 12 月 11
日)
Lacher, W. “Fault Lines of the Revolution: Political Actors, Camps and Conflicts in the New Libya”,
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2015 年 5 月 28 日
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Ulrichsen, K.C. “Qatar and the Arab Spring: Policy Drivers and Regional Implications”, Carnegie
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Wehrey, F. “Ending Libya’s Civil War: Reconciling Politics, Rebuilding Security”, Carnegie
Endowment for International Peace, September 2014.
Wehrey, F. and Lacher, W. “Libya’s Legitimacy Crisis”, Foreign Affairs, October 6, 2014
その他、報道記事を参考。
●産油量の推移
bpd
180
160
140
120
100
80
60
40
20
出典:Monthly Energy Review, 及び Reuters
2015年1月
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2014年11月
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