未熟児の脳性まひ、皮膚でモニタリングして予防を

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2015 年 9 月 16 日
未熟児の脳性まひ、皮膚でモニタリングして予防を
神戸大学大学院医学研究科の森岡一朗特命教授、飯島一誠教授(小児科学分
野)らの研究グループが、未熟児の脳性まひや難聴の原因となる黄疸を皮膚で非
侵襲的に客観的にモニタリングし予防できる可能性を明らかにし、米国の小児
医学雑誌のThe Journal of Pediatrics (ザ ジャーナル オブ ペディアト
リクス)に9月23日(米国東部標準夏時間:0:01am)付けで、電子速報版にて公
表される予定です。
1.本研究の意義
未熟児の黄疸を痛みのない非侵襲的に皮膚で測定するスクリーニング方法を初めて提唱し
た。同時に未熟児のどこの部位で測定することが望ましいかを明らかにした。この方法を用
いて未熟児の黄疸をスクリーニングし、適切に治療が行われることにより、現在の我が国に
おいて発生している未熟児の脳性まひや難聴(核黄疸)の減少につながることが期待される。
また、本研究は神戸大学小児科とその関連施設(加古川西市民病院、兵庫県立こども病院、
姫路赤十字病院、高槻病院)の共同臨床研究で行った成果である。
2.概要
未熟児医療技術の発展・新生児集中治療室の整備等により、我が国では現在多くの未熟児
が救命され、その救命率は世界一となっている。次は未熟児の“後遺症なき”生存を得るこ
とが大きな課題になっている。
現在の我が国において、黄疸により未熟児の脳性まひや難聴を残す症例があとをたたな
い(核黄疸という)。その原因として未熟児の黄疸は目視でははっきりわからないことに加え、
血管に針をさして血液を採取しビリルビン値を測定することでしかチェックできないため、
黄疸のモニタリングが不十分であった可能性があった。
私たちは、成熟児の日常診療で使用している経皮黄疸計を、未熟児の黄疸管理に応用でき
る可能性を考え、非侵襲的に客観的に黄疸をモニタリングできることを、神戸大学とその関
連施設(加古川西市民病院、兵庫県立こども病院、姫路赤十字病院、高槻病院)の共同臨床研
究で初めて示した。これは痛みのない非侵襲的な方法であり、たとえ未熟児でも毎日モニタ
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リングできる。さらに黄疸を客観的な数字で表現できるため、高値の時には速やかに治療へ
とつなげることができる。今回の研究成果は、現在の我が国において発生している未熟児の
脳性まひや難聴の減少につながることが期待される。
3.研究の詳細
背景
最近の我が国において、未熟児の脳性まひや難聴の原因となる核黄疸の発生が増加してい
る。最近、我々はこのような未熟児の核黄疸が、在胎 30 週未満の未熟児 1000 人出生あた
り少なくとも 2 人以上は発生している現状を明らかにし、我が国の新生児医療の解決すべ
き大きな課題であることを報告した(Morioka, et al. 2015)。さらに、後遺症を残した未熟児
の核黄疸症例の新生児期の経過を詳細に解析すると、症例により生後 2 週〜2 ヶ月間に黄疸
が増強し、予測が困難であることが判明した(Morioka, et al. 2015)。この事実は、未熟児の
核黄疸の発生を減少させるため新生児集中治療室(NICU)入院中は長期間、黄疸をモニタリ
ングする必要性があることを示している。しかし、小さな未熟児に毎日、皮膚に針をさして
血液を採取してモニタリングすることは現実的に不可能であった。
そこで我々は、非侵襲的で毎日測定が可能な経皮的黄疸計を未熟児の黄疸管理に応用でき
る可能性を考えた。成熟児では今や日常診療で用いられているが、成熟児と比較して未熟児
では、経皮ビリルビン値(TcB)と血中ビリルビン値(TB)が一致しない、どこの部位で測定す
るのがよいかが明らかでなかったという問題があった。我々は TcB 値と TB 値がたとえ一
致しなくても TcB 測定が治療の要否決定のためのスクリーニングとして使用する(TB
10mg/dL を検出するための TcB を決定する)、未熟児の 5 箇所の部位(額部、胸部、下腹部、
背部、腰部)でどこが正確性に優れているかを検証した。
研究の対象と方法
対象は、神戸大学とその関連施設(加古川西市民病院、兵庫県立こども病院、姫路赤十字病
院、高槻病院)の NICU に入院した体重 1500g 未満で出生した 85 人(在胎週数の中央値 29
週(範囲:22〜36 週)、出生体重の中央値 1154g(範囲:470〜1490g))で、TcB と TB を同時
に測定したのべ 383 測定。TcB 測定には JM-105 経皮黄疸計(コニカミノルタ社製)を使用し
た。5 箇所の各部位の TcB と TB の決定係数(R2)を算出、Bland-Altman plots で TcB と TB
の差を調べた。TB 値 10 mg/dL を検出するための ROC 解析を行い、TcB のカットオフ値
を求め、各部位の感度・特異度などを算出した。
結果
1.
全ての部位において TcB と TSB に有意な相関が得られたが、R2 は腰部、胸部、背部、
下腹部、額部の順で高かった。
2.
TcB と TB の差は胸部、下腹部、背部、額部、腰部の順で小さかった。TcB と TB の差
2
のばらつきを示す SD 値は腰部、胸部、背部、下腹部、額部の順で小さかった。
3.
TB 10mg/dL 以上を検出するための TcB を求めるための ROC 曲線下面積は、腰部、背
部、胸部、額部、下腹部の順で大きかった。胸部あるいは背部測定で TB 10mg/dL 以
上を検出するために、TcB を 8 とすると感度が 100%となった。
まとめると、未熟児の TcB の正確性は各部位により異なり、黄疸の治療適用となる TB
10mg/dL 以上を検出するためには、胸部あるいは背部測定で TcB を 8 以上になることを用
いることで黄疸スクリーニングとして使用できるものと考えられた。
精度
TB 10mg/dL 以上を検出するために、TcB 値のカットオフ値に関する検討
額部
胸部
背部
下腹部
腰部
n=277
n=222
n=177
n=174
n=157
カットオフ値
8
8
8
8
8
感度
84.2%
100%
100%
63.6%
84.6%
特異度
88.0%
85.5%
85.4%
86.5%
93.1%
TB:血液総ビリルビン、TcB:経皮ビリルビン
4.発表論文
Screening for hyperbilirubinemia in Japanese very low birthweight infants using
transcutaneous bilirubinometry
Daisuke Kurokawa,1 Hajime Nakamura,1 Tomoyuki Yokota,1,2 Sota Iwatani,1 Takeshi
Morisawa,2 Yoshinori Katayama,3 Hitomi Sakai,4 Tomoaki Ioroi,5 Kazumoto Iijima,1
Ichiro Morioka1
1Department
of Pediatrics, Kobe University Graduate School of Medicine; 2Department
of Pediatrics, Kakogawa West Municipal Hospital; 3Department of Pediatrics, Takatsuki
General Hospital; 4Department of Neonatology, Hyogo Prefectural Kobe Children’s
Hospital; 5Department of Pediatrics, Japanese Red Cross Society Himeji Hospital
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