子どもの社会脳研究(4) 永 江 誠 司

福岡教育大学紀要,第64号,第4分冊,67   82(2015)
子どもの社会脳研究(4)
A study of the child’s social brain (4)
永 江 誠 司
Seiji NAGAE
教育心理学講座
(平成26年 9 月30日受理)
子どもの自閉症と社会脳
自閉症スペクトラムとは何か
他者との社会的関係をうまくもてない社会性の
障害,また他者とのことばによる交流がうまくも
てないコミュニケーションの障害,そして興味や
関心の幅が狭く特定のものへのこだわりが強い想
像力の障害,これらをその症状の特徴とするもの
を広汎性発達障害と言う。
広汎性発達障害には,自閉症(高機能自閉症を
含む)と,自閉症ではないが自閉症に類似した症
状を示すもの(アスペルガー症候群を含む)があ
る。自閉症は,社会性の障害とともに知能と言語
能力にも障害のみられることが多いが,このうち
知能に障害がなく社会性と言語能力に障害のみら
れる自閉症を高機能自閉症と呼ぶ。そして,自閉
症類似の症状を示すものの中で,知能と言語能力
に障害がなく社会性にのみ障害のみられるものが
アスペルガー症候群と考えられている。
自閉症は,その症状がきわめて重度のものから
一見すると外部からは気づきにくいものまで多様
であり,またその境界もはっきりしていないこと
から,これらの症状をまとめて自閉症スペクトラ
ム(連続体)と呼ぶようになった。
自閉症スペクトラムの子どもは共通して社会性
の障害がみられることから,これらの子どもの症
状を脳機能との関連で調べていけば,自閉症スペ
クトラムのしくみとその特性を社会脳の働きとそ
の障害から明らかにできるのではないかと期待さ
れる。このことは,同時に社会性にかかわる脳が
どこにあって,どのような働きをしているのかと
いう社会脳のしくみについても併せて明らかにで
きることを意味している。
自閉症の理解
自閉症は 3 歳までにその症状が現れ,社会性の
障害,コミュニケーションの障害,そして想像力
の障害をその主要な特徴とし,中枢神経系に何ら
かの機能不全のある障害のことを言う。
自閉症の症状は,子どもが集団活動をするよう
になる頃から明らかになってくる。2 〜 3 歳の頃
から,例えば仲間に入れない,コミュニケーショ
ンがうまくとれない,落ち着かない,ひとりで勝
手なふるまいをするなどの行動特徴が,集団の中
で他者とかかわる機会が出てきた時に現れてく
る。その意味で,子どもが最初に集団にかかわる
保育園や幼稚園の保育士や教諭の早期発見者とし
ての役割は大きい。
他者との社会的関係をうまくもてない社会性の
障害とは,例えば自ら親を求めない,他者と視線
が合わない,あるいは合わせない,他者に抱かれ
るのを喜ばない,勝手にどこかへ行ってしまう,
周囲の人と交わろうとしない,相手の表情などか
らその人の気持ちを理解することが苦手などの相
互的な対人関係をもつことが難しい障害のことを
言う。
他者とのことばによる交流がうまくもてないコ
ミュニケーションの障害とは,例えばことばの発
達の遅れ,反復的なことば(オウム返しのことば)
の使用,抽象的なことばを理解することの困難さ,
会話による気持ちの交流の困難さ,身ぶりや表情
を適切に使うのが苦手,想像的遊びの困難さなど,
言語的,非言語的コミュニケーションの使用にか
かわる障害のことを言う。
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永 江 誠 司
興味や関心の幅が狭く特定のものへのこだわり
が強い想像力の障害とは,例えばくるくる回る,
手を振るなどの反復的,常同的行動,特定のもの
にだけ著しい興味を示す局限的行動,順番やもの
の位置,あるいはスケジュールへの強い固執など
のこだわり行動などのことを言う。このこだわり
行動のために,新しいことをやりたがらない傾向
が自閉症児にはとくにみられる。
中枢神経系に何らかの機能不全のある障害と
は,自閉症が例えば親のしつけや養育態度などの
環境要因によって起こるものではなく,脳機能の
障害や遺伝的要因によって起こるものであること
を意味している。
み,興味,達成感を他者と分かち合うことを自発
的に求めることの欠如(例えば,他者に興味のあ
る物を見せる,持ってくる,指さすなどをしない),
そして対人的または情緒的相互性の欠如をあげ,
これらのうち少なくとも 2 つ以上の症状のあるこ
とを診断基準のひとつにあげている。
この基準からもわかるように,自閉症スペクト
ラムに含まれるアスペルガー症候群の主要な特徴
が子どもの社会性の発達の遅れや障害にあり,そ
れは視線,顔,表情,仲間関係,共感,心の理論
などの社会的認知の発達の遅れや障害として,子
どもの社会脳の問題に直結していると考えること
ができる。
高機能自閉症とアスペルガー症候群
自閉症の中で,知的発達の遅れを伴わないもの
を高機能自閉症と言う。高機能自閉症も,中枢神
経系に何らかの機能不全をもつと考えられてい
る。ここで言う高機能とは知的発達の遅れを伴わ
ないという意味であり,知能指数で言えば 70 以
上であることを基準にしている。したがって,高
機能自閉症児は,知的障害はないか普通以上の知
能をもっているが,社会的,対人的な判断や行動
が適応的でなく,人間関係でつまずきやすい特徴
をもっている。
その障害が外部からは見えにくいために高機能
自閉症と認識されないこともある。そのため,親
のしつけが悪いとか子ども自身の努力が足りない
などとしてみられやすく,2 次的な情緒障害や精
神病のような症状を発症することもある。とくに
思春期以降の心身の発達的変化を経験する中で,
そうした社会的不適応や精神病のような症状が発
生しやすいとみられている。
アスペルガー症候群は,自閉症の特性の中で知
的発達の遅れを伴わず,さらにことばの発達の遅
れも伴わないものを言う。アスペルガー症候群の
子どもは,対人関係にかかわる障害とともに,他
者に共感し他者の気持ちを推測する能力,すなわ
ち心の理論の獲得に遅れのあることも指摘されて
いる。さらに,特定のものに強いこだわりを示し
たり,運動に不器用さを示すこともある。
アメリカ精神医学会の『精神疾患の診断・統計
マニュアル(DSM- Ⅳ)』では,アスペルガー症
候群の診断基準の中で社会的相互作用の質的障害
にかかわるものとして,目と目を合わせる,顔の
表情,体の姿勢,身振りなどの対人的相互反応を
調節する非言語的行動の障害,それぞれの発達水
準にふさわしい仲間関係を作ることの失敗,楽し
対人関係をもつことの困難さ
自閉症スペクトラムは,社会的関係をつくるこ
との困難さ,つまり対人関係をもつことの困難さ
を共通にもつが,精神科医ローナ・ウィングはそ
の困難さの特性から次の 3 つの型に分類している
(高原,2001)。
積極奇異型の子どもは,人に積極的に近づこう
とするが,それが一方的なものなのである。つま
り,人に対し自分から積極的に接しようとするが,
その接し方が彼らなりの独自で奇異な接し方なの
である。例えば,自分がしてほしいこと,自分が
関心をもっていることを身近にいる人に矢継ぎ早
に,そして一方的に話し続けたりする。相手が話
しを止めたりすると怒りだすこともある。この型
の子どもは,相手の意思や感情に気づいたり思い
やったりして交流することが難しく,そのために
相手とトラブルを起こすことも少なくない。
受動型の子どもは,人と接触するのを避けるこ
とはないが,自分から積極的にかかわろうとはし
ない。つまり,人とのつきあいが受け身的なので
ある。小学生の頃までは周囲に従順で,言われた
ことにも素直に従う。したがって,対人的なトラ
ブルは少なく比較的安定した生活を送ることも可
能だが,思春期以降の心身の発達的変化が大きい
時期に入ると社会的不適応,対人関係困難などの
問題を引き起こすこともある。
孤立型の子どもは,人に対して関心をもたず,
同年齢の子どもとも接触しようとしない。つまり,
特定の人以外は人とのつきあいを避けてしまうの
である。人が話しかけてもそれに反応しない傾向
がある。同じ部屋にいても,誰もいないように行
動し,呼びかけても返事をしたり,対応的な行動
をとることはない。人は物と同じように受け止め
られる。人に心というものが備わっていることを
子どもの社会脳研究(4)
理解できないかのようにふるまう。思春期以降も
このような孤立した状態が続くこともあるが,変
化していく場合も少なくない。
自閉症スペクトラムは,とくに対人関係をもつ
ことの困難さ,他者の考えや気持ちを適切に読み
取り,理解することの困難さという点で共通の特
性をもつところから,社会脳の発達の遅れやその
障害という観点からも検討が進められている。そ
の成果によって自閉症スペクトラムの理解を深め
ていくことが期待されている。
自閉症児の自己理解
自閉症児は,自己への気づきや自己理解の発達
が遅れている,あるいは損なわれていることが指
摘されている。発達心理学者ドナ・スパイカーは,
3 歳 7 か月から 12 歳 8 か月の自閉症児にギャラッ
プが用いた鏡映像実験を行い,彼らの自己像認知
について調べている(Spiker & Ricks, 1984)。そ
の結果,52 人の子どものうち 31 パーセントにあ
たる 16 人が鏡に映った像を自己像と認知するこ
とに失敗したのである。通常,2 歳を過ぎるとほ
とんどの子どもが鏡に映った像を自分だと気づく
ようになるのだが,自閉症児ではそれがかなり遅
れている,あるいは損なわれていると考えられる。
鏡に映った像を自己像と認知できた自閉症児の
場合でも,例えば鏡を見て困惑したり,恥ずかし
がったりといった自己意識的情動にもとづく反応
はみられず,無表情で明確な感情を示すことはな
かった。自己意識的情動とは,例えば自分がひと
りでいる時に服を脱ぐのは何ともないけれども,
人が見ているところで脱ぐのは恥ずかしいといっ
たように,他者から自分がどのように見られてい
るかを想像することから生ずる感情のことを言
う。
鏡を見て困惑したり,恥ずかしがったりする子
どもの表情は,マークがついたいつもと違う自分
の顔に対して,他者から見られるその顔を意識す
ることから出てきたものと解釈されるわけであ
る。子どもが恥ずかしさから照れるのは,他者か
ら見られる対象としての自己を意識することから
生ずる感情と言えるのである。
乳幼児の鏡映像実験を行なった研究によると,
鏡に映った像が自分であるという自己認知がみら
れる子どもは,同時に自己意識的情動反応も現れ
ることを示している。健常児の場合は,自己認知
と自己意識的情動は関連しているのだが,自閉症
児の場合はたとえ自己認知ができたとしても,他
者が自分のことをどのようにみているか,あるい
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はどのように感じているかということを理解する
のが難しいことを示している。
Spiker & Ricks(1984)が示したように,自閉
症児では自己への気づきの遅れがみられるのだ
が,それは例えば彼らが自分自身について話すこ
とがきわめて少ないこと,また「わたしに会って
くれて,ありがとう」と言うべきところを「あな
たに会ってくれて,ありがとう」と言うなど,自
己と他者の認識およびその区別と関係性について
の認識がはっきりしていないこと,そして自分が
したことよりも他の子どもがしたことをよく覚え
ていることなどの事実とも一致している。自閉症
の子どもは,このように自己への気づきと自己理
解に問題をもっていると言え,自分について少な
くとも健常児とは異なる理解をしているのではな
いかとみられる。
4
4
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4
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自閉症児はなぜ顔を見ないのか
子どもは,誕生直後から顔状の視覚刺激を好
んで注視したり(Johnson, et al., 1991),また自
分を見ている人の顔を好んで見る(Batki, et al.,
2000)。これに対し,自閉症児は人の顔に注意を
向けようとしない傾向をもつのである(Baranek,
1999)。早い子どもでは,1 歳頃から人の顔に注
意を向けようとしないことが報告されている。自
閉症児は,健常児と同じように人の顔を顔として
認識することができるので,顔処理能力そのもの
が損なわれているわけではなく,その処理の仕方
に健常児とは質的な違いのあることを認知神経科
学者千住淳は指摘している(千住,2004)。
健常児は,上下が逆さになった倒立顔を認知す
るのが正立顔を認知するより難しいことをみてき
たが,自閉症児では倒立顔と正立顔の認知に違い
がみられないのである。これは,自閉症児が顔の
認知において少なくとも健常児とは質的に異なる
ことを示す例と言える。
また,健常児は人の顔の変化を物の変化よりも
素早く認知するが,自閉症児は人の顔の変化と物
の変化を同じ程度に早く認知する。これは,健常
児が人の顔に対して特別な注意をはらって見てい
るのに対し,自閉症児は人の顔と物に対して同
程度の注意をはらって見ていること,人の顔を
特別なものとして見ていないことを示している
(Kikuchi, et al., 2009)。これも,自閉症児と健常
児の顔に対する処理の質的な違いを示す例と言え
る。
さらに,健常児は人の顔を見る時に目をよりよ
く見る傾向があるが,自閉症児はまず顔を見るこ
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とが少なく,その中でもとくに目を見ないことが
多いのである。ここにも,健常児との顔処理の質
的な違いがみられる。
顔は,その人が誰なのか,何を考え,何を思っ
ているのかということについて重要な情報を提供
してくれる。その顔処理には,後頭側頭内側部に
ある紡錘状回がとくに重要な役割を果たしている
(Haxby, 2000 ; Johnson, 2005)。これに対し,自
閉症児では顔を処理している時の紡錘状回の活動
は低いことが指摘されている(千住,2009)。自
閉症児は,人の顔つきからその心理を読みとるの
が困難で,とくに目からそれを読みとることが難
しいと思われるが,これは顔処理にかかわる紡錘
状回がうまく働いていないからではないかと考え
られる。自閉症児は,他者の顔を見ることにあま
り関心をもたないために紡錘状回が働くことが少
なく,その結果その機能の発達が遅れているので
はないかと考えられる。
表情よりも帽子を気にする
自閉症児の表情認知は,一般に健常児と比べる
と劣る傾向にあることが示されている。例えば,
自閉症児と健常児に顔写真を分類する課題を与え
る。顔は,性,年齢,表情,そしてかぶっている
帽子の種類で異なっている。この分類課題で,健
常児が顔写真のとくに表情を手がかりにして分類
していたのに対し,自閉症児は表情よりもかぶっ
ている帽子の種類によって分類する傾向が強かっ
たのである(千住,2004)。
また,自閉症児,知的障害を伴うダウン症児,
そして健常児を対象として表情の意味理解につい
て調べた研究では,自閉症児は他の 2 群の子ども
より表情理解が劣り,またより長い時間のかかる
ことが示されている。さらに,アスペルガー症候
群の子どもと健常児に提示された顔の表情を認知
させる課題で,顔と同時に提示された感情語が表
情の認知に及ぼす影響を調べた研究では,アスペ
ルガー症候群の子どもが表情と感情語が一致して
いない時に表情認知の成績がよくないことを報告
している。健常児では,そのような影響はみられ
なかった。これらのことから,自閉症の子どもは,
顔認知だけでなく表情認知においても健常児とは
質的に異なる処理をしていることが考えられる。
自閉症児の表情認知と脳内処理の関係について
調べた研究は,表情認知には紡錘状回だけでなく
扁桃体もかかわっていることを指摘している。自
閉症の表情認知の困難さは,彼らの紡錘状回およ
び扁桃体の機能障害に関係しているのではないか
と考えられる(榊原,2007)。
視線を合わせるのが苦手
アメリカ精神医学会『精神疾患の診断・統計マ
ニュアル(DSM- Ⅳ)』では,自閉症の主要な特
徴として対人的相互反応における質的な障害をあ
げ,その具体的行動として視線の回避と共同注視
の障害をあげている。そこで,ここではまず自閉
症児の視線の回避についてみていきたいと思う。
自閉症児の視線回避については必ずしも一般化
できないという見解もあるが,相手と視線を合わ
せるのが苦手,あるいは相手との視線を外してし
まう,そして相手の視線の方向を認知することが
難しいなどの報告が多くあることから,自閉症児
の視線行動が健常児とは質的に異なることが考え
られる(別府,2005)。
発達心理学者ロバーツ・ファンツは,生後 48
時間以内の新生児がすでに人の顔刺激を他の刺激
よりも長く注視すること,つまり好んで見ること
を示しているが(Fantz, 1961),自閉症児が発達
の早期から視線を回避する行動傾向をもつこと
は,彼らが人の顔に対して選択的,優先的に反応
する傾向を欠いていることと関係しているのでは
ないかと考えられる。
人を見つめる視線行動は,子どもの上側頭溝の
活動を促進するが,自閉症児では人を見つめる視
線行動によってこの領域の活動が促進されるとい
うことがみられなかった。ここから,自閉症児に
は人を見つめる時の視線に対する特別な応答メカ
ニズムが備わっていないのではないかと考えられ
る(千住,2005)。さらに,視線による情報処理
は心の理論とも関係していることが示されてお
り,したがって自閉症児で強い視線回避傾向のあ
ることは,彼らが心の理論の獲得に何らかの問題
をもっていることを示している。
自閉症児の共同注視
自閉症児の視線にかかわるもうひとつの特徴,
共同注視の障害について考えてみる。子どもの
共同注視は,生後 6 か月頃に他者が見ている方
向を自分も見るところから始まり,12 か月頃に
なると特定の対象を他者とともに見るようにな
る(板倉,1999)。しかし,自閉症児ではこのよ
うな共同注視の発達が多くの子どもでみられない
(Landry & Loveland, 1988)。
自閉症児は,例えば母親と一緒に近くにいる犬
を見るような共同注視がうまくできない。あるい
は,その対象を指さして見ることが難しいのであ
子どもの社会脳研究(4)
る。自閉症児が母親に「イヌ」と言って犬を指さし,
母親が「そうね,イヌね」と言って同じくその犬
を見るという状況がつくれないのである。共同注
視や指さしは,他者と対象を共有することを意味
している。それは,指示するものと指示されるも
のとの記号関係の原形でもあり,また自他の感情
体験などを共有する共感性の原形でもあるのだ。
子どもは,他者とくに母親と視線を共有し,対
象を共有することを通して親密な関係を形成して
いく。自他が一体化した中から,子どもの自己意
識は分化して出てくる。自閉症児には,この自他
の一体化が乏しく,したがって他者と感情を共有
することが難しいと考えられるのである。そのこ
とが,自閉症児は他者との対人的な相互交渉がう
まくできないひとつの要因とみることができる。
さらに,自閉症児は心の理論の発達が遅れてい
る,あるいは欠如していると言われるが,それは
心の理論の発達以前にみられる共同注視の発達に
障害があるからではないかとみる見方がある(大
神,2005)。つまり,自閉症児は自己,他者,そ
して対象の 3 項関係を心の中でうまく表象できな
いことから,他者の心を読む心の理論の発達が損
なわれているのではないかと考えられるのであ
る。
共同注視には二者のそれぞれの上側頭溝が働い
ていることから,自閉症児でみられる共同注視の
困難さは,この上側頭溝に何らかの機能障害のあ
ることが考えられる。さらに,共同注視は子ども
のコミュニケーション能力や他者の心の理解など
多くの高次精神機能の発達とも関係していること
から,自閉症児の共同注視の困難さは,このよう
な機能の発達の遅れ,あるいは障害にも関係して
くることが考えられる。
自閉症児と心の理論
自閉症を心の理論の観点から理解しようとする
見方がある。自閉症児の症状の中で対人関係をも
つことの困難さ,すなわち社会性の障害は自閉症
のより本質的な障害とみられるが,心の理論はこ
の社会性の障害に深くかかわるものと考えられる
からである。つまり,自閉症児の社会性の障害は,
人の心が読めないことにあり,そのことは自閉症
児に心の理論がうまく働いていないことを示して
いるとみられている。
Baron-Cohen, Leslie, & Frith(1985)は,平均
年齢 11 歳 11 か月の自閉症児に心の理論を確かめ
る誤信念課題を行い,課題の通過率が約 20 パー
セントであったことを報告している。これは,4
71
歳すぎの健常児で多くの子どもがこの課題を通過
していることを考えると,かなり低いものと言え
る。ここから,Baron-Cohen, et al.(2000)は自
閉症児の心の理論欠如仮説を提唱したのである。
この仮説は,精神年齢が同じ健常児と比べて自閉
症児が誤信念課題において一貫して通過率が劣る
ことをその根拠としている。
ま た, ス マ ー テ ィ 課 題 と い う 同 じ く 心 の 理
論の獲得を調べる課題を 3 歳から 13 歳の自閉
症児に行ったものに,発達心理学者 Perner, et
al.(1989)の研究がある。スマーティとは,筒型
の容器に入っているチョコレート菓子のことであ
る。この容器を子どもに見せて「中に何が入って
いますか」と聞けば,多くのアメリカの子どもは
「スマーティ」と答える。それほど,子どもたち
にはポピュラーな菓子なのである。ところが,子
どもの目の前にある容器にはスマーティではな
く,エンピツが入っているのである。それを子ど
もに見せた後で,「ビリーは,この筒を見ていま
せん。ビリーにこの筒を見せて,中に何が入って
いるかと聞いたら,ビリーは何と答えるでしょう」
と聞くのである。
この問に対して,自閉症児では「エンピツ」と
答える子どもが圧倒的に多かったのである。この
答えからも自閉症児は自分がそうだと信じている
ことは,他者もそう信じているだろうと受け止め
てしまうことがわかる。ここでも,自閉症児では
心の理論の獲得の遅れあるいは欠如のあることが
示されたわけである。
また,自閉症児では共同注視が難しいことも
す で に み て き た(Baron-Cohen, 1991)。BaronCohen(1991)は次のような実験を行っている。
実験者と自閉症児が一度お互いに目を合わせた後
で,実験者が左右どちらかの視標を見る。その
時,自閉症児の視線がその視標に向けられるかど
うかを確かめると,彼らは健常児に比べて明らか
に劣っていたのである。
Baron-Cohen(1991)は,共同注視は心の理論
が成立する前提条件と考えており,この行為の欠
如が自閉症児に心の理論が欠如している理由だと
考えているわけである。たしかに,共同注視の困
難さやその欠如は,自閉症のひとつの特徴である。
このことが心の理論の獲得を困難にし,他者の気
持ちの理解を難しくして対人的な相互交渉をでき
にくくしているのではないかと考えられるわけで
ある。
前頭前野に何らかの機能不全があると,心の
理論の遂行に障害の現れることが示されている。
72
永 江 誠 司
fMRI を用いた研究で,心の理論課題を遂行中の
自閉症者は,扁桃体とともに前頭前野に機能障害
がみられ,上側頭回がそれを代償している可能性
のあることが示されている。自閉症児の心の理論
の欠如は,前頭前野および扁桃体などの領域の機
能障害と関係していることが考えられる。
自閉症とミラーニューロン
ミラーニューロンは,他者の行為を自分の心の
中でシミュレーションすることによって,他者の
気持ちや意図といったものを推測する働きに関係
していると考えられる神経細胞である。心の理論
や他者への共感,あるいは思いやりは,脳の中の
ミラーニューロンシステムの働きによって生み出
されているのではないかとみられている。
ミラーニューロンは,模倣行動にも働いている。
子どもが他者の行為や態度,あるいは表情を真似
ることを通して学習できるのもミラーニューロン
の働きによるものと考えられる。また,ことばの
獲得にも他者の話ことばを真似ることによる学習
が働いており,ここにもミラーニューロンが関与
していることが考えられるのである。
さらに,自分自身を客観的に見ることにもミ
ラーニューロンが働いているのではないかとみら
れている。自分を認識し,理解するのにもミラー
ニューロンは大切な働きをしているのである。こ
れらの働きをするミラーニューロンは,前頭前野
および側頭連合野に多く存在することが示されて
いる。
ミラーニューロンは,他者理解力,模倣能力,
言語能力,そして自己理解力に働く神経細胞シス
テムとして考えられるのだが,これらの能力の多
くが基本的に自閉症スペクトラムにおいて発達が
遅れている能力,あるいは欠如している能力と関
係していることがわかる。そこから自閉症スペク
トラムの主要な症状が,ミラーニューロンシステ
ムの障害によって生じているのではないかという
仮説が提案されているわけである。
そうだとすれば,ミラーニューロンの機能を測
定する技術を開発することで,自閉症スペクトラ
ムの兆候を早期に発見することも可能になるので
はないかと期待される。さらに,ミラーニューロ
ンの機能を回復する方法が構築されれば,自閉症
スペクトラムの症状を効果的に治療できる可能性
も出てくるかもしれない。自閉症という障害をミ
ラーニューロンから説明する仮説はきわめて魅力
的なものだが,それを実証するデータが現時点で
はまだ十分とは言いがたく,今後の検証が望まれ
るところである。
自閉症と社会脳の障害
自閉症は,中枢神経系に何らかの機能不全のあ
る障害とみられているが,これまでに指摘された
自閉症にかかわる脳の疾患領域は,前頭葉の障害,
側頭葉の障害,頭頂葉の障害,連合野の障害,小
脳の障害,大脳辺縁系の障害,脳幹の障害,さら
に脳の優位半球の欠如,右脳の障害,大脳皮質の
形態的障害など多様である。自閉症そのものが多
様な機能障害を伴うことを考えれば,このように
脳の多領域にわたる疾患が指摘されるのもうなず
けるところである。
ただここまで見てきたように,自閉症は対人的
関係をもつことに困難さがあり,このことは高機
能自閉症やアスペルガー症候群のように知能に問
題のない場合でも変わらないことから,自閉症ス
ペクトラムはとくに社会脳の機能不全とかかわり
が深いのではないかと考えられる。
社会脳の観点から注目されている自閉症におけ
る脳機能の疾患領域は,顔処理にかかわっている
紡錘状回,表情認知にかかわる紡錘状回と扁桃体,
視線行動にかかわる上側頭溝,そして心の理論や
社会性にかかわる前頭前野の内側部などをあげる
ことができる。つまり,自閉症の脳疾患領域を社
会脳から見た時にも前頭前野,側頭葉,大脳辺縁
系など,広い領域の多くの部位がかかわっている
ことが考えられる。
今後,社会脳研究を通して自閉症にかかわる脳
領域が明らかになれば,社会性や社会行動の発達
とその障害にかかわる脳領域,およびその脳内メ
カニズムも併せて解明される可能性が出てくる。
そこから,子どもの社会脳の解明がさらに進めら
れることになると期待される。
子どもの社会性を育む脳
子どもの多重知能
学校教育の主要な目標としては,子どもの学力
と体力の育成,人格の形成,そして社会性の確立
などがあげられる。これらの学力,体力,そして
人格と社会性を統合した社会力を支えている子ど
もの能力を知能と考えれば,学校教育はその知能
に働きかけ,それを活かし,その結果として子ど
もの学力,体力,社会力をさらに向上させるもの
と言えるだろう。その知能とは何かということに
ついては,これまで新しい事柄を学習する能力,
新しい環境への適応能力,高次の認知機能の総称,
子どもの社会脳研究(4)
そして知能検査で測られるものなどと定義されて
きた。
これらに対し,学校教育にかかわる,そして脳
機能にもかかわる新しい知能概念として,認知科
学者 Gardner(1983, 2001)が提唱した多重知能
理論がある。この知能論は,従来,知能指数(IQ)
を構成すると考えられてきた 3 つの知能,すなわ
ち言語的知能,論理数学的知能,空間的知能に音
楽的知能,身体運動的知能,対人的(他者理解)
知能,内省的(自己理解)知能,そして博物的(自
然理解)知能を加えた,8 つの知能として人間の
知能を捉えている。
これらの知能の中で対人的知能と内省的知能
は,これまで述べてきた社会的知能との間に密接
な関係があること,さらに 8 つの知能は脳にそれ
ぞれ対応する領域をもっていると考えられている
ことから,この知能論は社会脳との関係がきわめ
て深いと言える。
子どもの 8 つの知能
Gardner(1983, 2001)は,知能をある文化に
おいて価値があるとみなされる問題を解決し,価
値があるとされるものを創造する能力と定義して
いる。そして,人間には相互に独立した 8 つの知
能があるとしている。定義にある問題解決能力は
思考力とみることができる。そこでまず,これら
8 つの知能の内容についてみていく。
言語的知能は,言語を効果的に使いこなす能力
のこと言い,ことばを使う能力,文章を書く能力,
ことばを学ぶ能力,ことばを使って情報を保持す
る記憶力,ことばを使って他者にある行動をとる
ことを納得させる説得力などがこれに含まれる。
論理数学的知能は,問題を論理的に分析し,数
学的な操作を実行する能力のことを言い,何かを
明快に論証する能力,数字を有効に使う能力,論
理的で抽象的な操作をする能力などがこれに含ま
れる。
空間的知能は,広い空間のパタンを認知して操
作する能力のことを言い,イメージする能力,視
覚的・空間的なアイディアを描く能力,空間の中
で自分の位置を正確に認識する能力などがこれに
含まれる。
音楽的知能は,音楽を作り出したり,表現した
り,あるいは認識,識別する能力のことを言い,
作曲する能力,演奏する能力,鑑賞する能力など
がこれに含まれる。
身体運動的知能は,自分の考えや感情を身体全
体や手や口などの身体部位を使って表現する能力
73
のことを言い,身体の動きをコントロールする能
力,身体全体を使って表現する能力,ものを手指
で作る能力などがこれに含まれる。
対人的知能は,他者の感情,信念,そして意図
を認識,理解し,他者との関係をうまくつくり上
げていく能力のことを言い,他者理解能力あるい
は人間関係形成能力と言えるものである。人の表
情や声,身体の動きに対する感受能力,人間関係
にみられる様々な合図を読みとる能力,それに対
し適切に対応できる能力などがこれに含まれる。
内省的知能は,自分自身の感情,意図,そして
意欲を認識し,それをふまえて適切に行動する能
力のことを言い,自己理解能力あるいは自己統制
能力と言えるものである。自分の長所や短所など
を正確に認識する能力,自分の気分や思い,願い
や欲求を自覚する能力,自分を律し大切にする能
力などがこれに含まれる。
博物的知能は,自分の周りにある様々な種類の
植物や動物を見分けて分類する能力のことを言
い,自然理解能力あるいは自然との共生能力と言
えるものである。自然現象の変化を敏感に感知し,
また生物だけでなく無生物間の違いを区別し,そ
れらの関係を把握できる能力などがこれに含まれ
る。
多重知能は,それぞれに社会脳と直接,間接に
かかわっていると考えられるが,その中で他者理
解にかかわる対人的知能と自己理解にかかわる内
省的知能は,社会脳との関係がとくに深い知能と
言えるだろう。
多重知能と脳
Gardner(1983, 2001)の多重知能理論は,そ
れぞれの知能がそれに対応する脳領域をもってい
ることを前提としている。多重知能理論を基盤に
学校教育の実践を行っている(アームストロング,
2002)の指摘を考慮に入れて,子どもの 8 つの知
能に関係する脳の主要な領域を示すと次のように
なる。
8 つの知能のうち,言語的知能は左前頭葉(ブ
ローカ中枢)と左側頭葉(ウェルニッケ中枢),
論理数学的知能は左前頭葉と頭頂葉,空間的知能
は右脳後部領域,音楽的知能は右側頭葉,身体運
動的知能は運動野,体性感覚野,小脳,大脳基底核,
対人的知能は前頭葉,側頭葉,大脳辺縁系,内省
的知能も前頭葉,側頭葉,大脳辺縁系,そして博
物的知能は左頭頂葉というように,それぞれ知能
と脳領域の関連性が高いことを指摘している。
ここに示された知能と脳領域との関係は主要な
74
永 江 誠 司
ものであり,知能ごとに関係する脳領域は,ここ
に示されている領域以外にもあることは言うまで
もない。次に,これら多重知能の中でとくに社会
脳との関係が深い対人的知能と内省的知能につい
てみていきたいと思う。
社会脳としての対人的知能
相手の気持ちや考えを察して適切な行動をとっ
たり,またことばをかけたりして相手との良好な
関係をもとうとするような,他者の感情,信念,
意図などを認識し,他者との関係をつくり上げ,
維持していく子どもの対人的知能は,前頭葉,側
頭葉,大脳辺縁系に主要な領域をもっている。
人に対する好き嫌いの感情には,大脳皮質の前
頭前野と大脳辺縁系の扁桃体,および間脳の視床
下部がかかわっている。扁桃体には,視覚,聴覚,
体性感覚,味覚,嗅覚などの感覚情報が集まる。
それによって扁桃体が興奮すると,その情報が視
床下部に伝えられて快・不快などの情動反応が起
こるのである。同時に,視床下部につながってい
る A-10 神経(ドーパミン神経)からドーパミン
が分泌され,その時の快感が例えば相手が好きだ
という感情を生み出す。
このように,子どもが人を好きになり愛着や愛
情を感ずるようになった時,脳の中にはドーパ
ミンという物質が分泌される。ドーパミンを分
泌するのは,A-10 神経という快感中枢だが,そ
の A-10 神経は脳幹から発して視床下部,扁桃体,
そして前頭前野へと神経を巡らせている。ここに
ドーパミンが分泌されることによって脳が覚醒さ
れ,気持ちがいい,嬉しい,くつろいだ感じがす
るなどといった快感が生まれるのである。
大脳辺縁系で生み出された情動は,A-10 神経
を通って前頭前野に運ばれ,そこで微妙な調整を
受けてより人間らしい感情が生み出される。子
どもの愛着や愛情は,A-10 神経にかかわる領域,
なかでも大脳辺縁系と前頭前野の働きにかかわっ
て生じた快感として経験される感情と言える。
一般に大脳辺縁系の成熟時期は早いのだが,前
頭前野は他の領域に比べると遅く,10 歳から 20
歳という思春期から青年期の後期にかけてその成
熟が完成される。幼児期では,愛着や未成熟な愛
情がまず親や家族に向けられる。その後,児童期
になるとそれが仲間や教師など,家族以外の他者
に向けられる友情や尊敬になっていく。さらに,
思春期以降には信頼や尊敬あるいは責任などに支
えられた愛情が,異性や友人あるいは自分の子ど
もに向けられるかたちで現れてくる。このような
発達過程には,A-10 神経に関係する脳領域がか
かわっていると考えられる。
自分が心をもっているのと同じように他者も心
をもっていることを理解し,その心について理解
できる心的概念を心の理論と言う。心の理論は,
人にみられる特有な能力であり,4 歳以降にその
働きが伸びていく。心の理論の獲得は,子どもの
他者理解能力の発達,社会性の発達の基盤になる
と考えられる(Stuss, et al., 2001)。この心の理
論の働きが脳のどこで営まれているのかという
と,これまでの研究から前頭前野の内側部が主要
な領域であることが示されている。
心 の 理 論 に 関 係 す る 脳 機 能 と し て, ミ ラ ー
ニ ュ ー ロ ン の 働 き が 注 目 さ れ て い る。 ミ ラ ー
ニューロンは,自分がある行為をする時にも,ま
た自分以外の他者がそれと同じ行為をするのを見
ている時にも活動する神経細胞のことを言う。こ
の神経細胞は,他者の模倣をしたり,他者の心を
読みとったり,また他者とコミュニケーションを
とるといった働きを支えていると考えられてい
る。ミラーニューロンは,ブローカ中枢を含む前
頭前野でもみつかっており,このことから前頭前
野のミラーニューロンの働きが,子どもの心の理
論を支える重要な役割を果たしているのではない
かとみられている。
社会脳としての内省的知能
自分自身の気持ちや考え,そしてやる気につい
て理解し,それをふまえて適切な行動をとると
いった自己観察的,また自己統制的能力としての
子どもの内省的知能も,前頭葉,側頭葉,大脳辺
縁系に主要な領域をもっている。
内省的知能は,子どもの人格および意識と密接
なかかわりをもっているとみられている。人格に
かかわる脳領域として,前頭前野,側頭葉,そし
て大脳辺縁系などが考えられている。ただ,人格
そのものが包括的な概念であるために人格と脳と
の関係は単純なものではなく,複数の脳システム
が共同して多様な人格の働きを支えていると思わ
れる。
人格にかかわる神経心理学的研究は,人格の障
害が大脳辺縁系と緊密な連絡路をもっている前頭
前野および側頭葉内側部の病変に関係しているこ
とを示している。前頭前野および側頭葉内側部は,
大脳辺縁系の扁桃体による情動,および帯状回に
よる意欲の性質を調節し,統合する働きをしてい
る。
側頭葉に病変があると,てんかん性の性格に関
子どもの社会脳研究(4)
係した変化が起こる。例えば,思考力が落ちる,
発話が乏しくなる,ユーモアがなくなったり理解
しなくなる,突然爆発的に怒る,物事に執着する,
誇張的態度が目立つなど,粘着性と感情反応が増
幅する症状となって現れるのである。
また,前頭前野は人格特性にかかわる働きをし
ていることから,例えば前頭前野の底部にあたる
眼窩部の病変は,人格の変化,情動の不安定,不
注意,衝動の抑制低下,怒りの爆発,判断力の欠
如といった症状を引き起こす。
さらに,前頭前野の背側正中部の病変は意欲の
低下,自発性の欠如,周囲への無関心などの症状
を引き起こし,いわゆる無気力,無関心,そして
無感情の症状をもたらす。そして,背外側部の病
変は計画立案,認知的柔軟性,注意,判断,問題
解決といった高次の認知機能の障害を引き起こす
ことが示されている。
前頭前野は,大脳辺縁系の働きを調節すること
によって情動反応を統制し,また大脳辺縁系から
の情動情報と大脳皮質の認知情報を統合して外界
への適応行動をプログラムし,そしてそのプログ
ラムを実行するという働きをしているのである。
さらに,この統合によって社会的価値と結びつい
た感情としての情操を生み出していく。例えば,
音楽を聴いて気持ちが落ち着く,絵画を見て感動
するといった美的情操を生み出す働きを前頭前野
は行っているのである。
人格の働きというものを,自らの情動を調整し,
外界からの情報を適切に処理することによって適
応行動をとっていくその個人的な方略のことを指
すとすれば,前頭前野はまさに人格の中枢と考え
ることができ,また社会脳としても重要な役割を
担っていると言えるだろう。
多重知能と社会脳
子どもの多重知能の中で,社会脳により密接に
かかわる対人的知能と内省的知能についてみてき
た。これ以外の知能も社会脳として間接的にかか
わっていると考えられる。例えば,身体運動的知
能や空間的知能もそれぞれ子どもの社会生活や社
会行動を支える上で一定の役割を果たしている。
その意味でこれらの知能を支えている脳も,子ど
もの社会性を支える脳,すなわち社会脳と言えな
くもない。
ただ,社会脳として取り上げられているのは,
こうした脳を含む多くの領域ではなく,脳のさら
に特定の領域としてみられている。社会脳は,人
と人が交流をもち,ともに生活していく中で,例
75
えば他者の考えや気持ちを推察し思いやり,そし
てその関係に適した判断を行い,意思決定をして
行動を選択するという一連の過程で働いている脳
領域のことを指している。
心の理論のように,他者の考えや気持ち,期待
や欲求など,外からは直接見えない他者の内面を
予測し,推察し,理解する能力は,子どもの社会
性を支える重要な能力と言える。また,他者が示
し,送ってくる社会的信号としての表情,視線,
しぐさなどから,その人の意図や考え,感情といっ
たものを読み解く能力も,同じように子どもの社
会性を支える大切な能力と言える。
心の理論が内側前頭前皮質,側頭葉と頭頂葉の
接合部,側頭極などの脳領域によって営まれ,ま
た人の表情や視線の理解に対応する脳領域として
扁桃体および上側頭溝などがかかわっていること
が示されている。したがって,子どもはこれらの
社会脳に支えられた社会的知能を発揮することに
よって社会生活を営んでいると考えることができ
るだろう。
対人的知能は,他者理解能力あるいは人間関係
形成能力と言えるものであり,人の表情や身体の
動きに気づき,その意味を察知し理解する能力で
ある。また,内省的知能は,自己理解能力あるい
は自己統制能力と言えるものであり,自分の考え
や気持ちを意識し,それを分析して理解し,また
統制する能力である。これらの知能は,子どもの
社会脳と密接にかかわるものと言えるだろう。
多重知能と学校教育
Gardner(1983, 2001)は,言語的知能,論理
数学的知能を学校活動にかかわる知能と考え,空
間的知能,音楽的知能,身体運動的知能を芸術活
動にかかわる知能としてまとめている。さらに,
応用心理学者ゴールマン(1998)が示し心の知能
指数(EQ)と言われた感情的知能は,対人的知
能と内省的知能を混合したものと考え,Gardner
(1983, 2001)はそれを人格的知能(個人的知能)
と呼んでいる。したがって,社会脳にかかわる社
会的知能は,Gardner(1983, 2001)では人格的
知能であるとみることができる。博物的知能につ
いて Gardner(1983, 2001)は直接ふれていない
が,これは主として学校活動にかかわる知能と考
えることができるだろう。
学校教育では,言語的知能および論理数学的知
能が重視され,授業時間も多くとられるのが一般
的 で す。 し か し,Gardner(1983, 2001) は 8 つ
の多重知能に優劣はなく,すべてが同じように重
76
永 江 誠 司
要であることを強調している。
学校において言語的知能,論理数学的知能に優
れていない子どもは一般に評価が低く,そのため
それ以外の知能を引き出して伸ばすという経験を
もつことがきわめて困難である。そのことから自
らの自尊心を育てることが難しく,自己否定的な
感情を助長してしまうことになりがちである。し
かし,学校での成績がふるわなくても社会に出て
成功するケースは数多くあり,また逆に学校の成
績は優秀でも社会人として適応力を欠くケースも
同じように多くあることを Gardner(1983, 2001)
は指摘している。社会脳にかかわる対人的知能と
内省的知能が,これらのことに深くかかわってい
るとみることができるだろう。
子どもの知能を多重知能としてみることで,そ
の成長の範囲や可能性が大きく広がる。特定の知
能が低いからといって,その他の知能も同じよう
に低いとはかぎらない。むしろ,子どものある知
能は低くても,別の知能は標準レベルであったり,
またそれ以上に高かったりすることも少なくな
い。多重知能理論に立つことによって,学校教育
はより多くの子どもの知能発達の可能性を広げ,
そして伸ばすことができる。多重知能理論に基づ
いた学校教育は,子どもの個性を見直し,そして
新たに引き出すものと言えるだろう。
高めたとしても,彼らが社会に出て適応力を欠い
た性格,あるいは未熟な社会性しかもっていなけ
れば,結果的に獲得された学力や才能も適切に発
揮できず,周りからの評価も得られないという
ことになると思われる。つまり,Gardner(1983,
2001)が人格的知能と呼んだ対人的知能,および
内省的知能が適切に獲得されていなければ,いく
ら学力や才能を磨いて高めたとしても,それがう
まく活かされないと考えられるわけである。
また,生きる力の概念から見ても,学習力,思
考力,判断力,それに表現力といった知性的能力
を伸ばして子どもの学力や才能を高めても,自律
性,協調性,共感性,それに愛他性といった情意
的・社会的能力が形成されていなければ,彼らの
学力や才能もうまく活かされないのではないかと
言えるだろう。
対人的知能や内省的知能,また情意的・社会的
能力は,ともに社会脳と密接にかかわる知能,ま
た能力である。つまり,子どもの学力を高め,才
能を磨いても,社会脳にかかわる知能,能力がそ
れに伴って育っていなければ,獲得された学力や
才能も適切に活かされないと考えられるわけであ
る。言い換えれば,社会脳を育て,社会脳が適切
に働けば,培われた学力や才能も社会の中で適切
に活かされるということになると言えるだろう。
学力と才能を活かす社会脳
子どもの将来が幸せであることを願い,そのた
めに子どもの知能を伸ばして学力や才能を高めた
いと考える親は多いと思う。頭の良い子に育てた
い,学校の勉強ができる子どもになってほしい,
芸術やスポーツなどに優れた才能を発揮する子に
育ってほしいと望む親も少なくないだろう。
それでは,子どもがこれらの学力や才能を獲得
すれば,それですべてがうまくゆくのだろうか。
学校の勉強がよくできたとしても,またよい学校
に入ったとしても,例えば社会に出てから人との
付き合いがうまくできない,何かと理由をつけて
途中で仕事を投げ出してしまう,その結果自分の
能力も適切に発揮することができず,周囲から評
価されないのであれば何の意味もないではない
か,とこれも多くの人が考えるところだろう。
Gardner(1983, 2001)の多重知能から言えば,
言語的知能,論理数学的知能,博物的知能などか
らなる学校活動にかかわる知能を伸ばし子どもの
学力を高めたとしても,また空間的知能,音楽的
知能,身体運動的知能からなる芸術活動あるいは
身体活動にかかわる知能を伸ばし子どもの才能を
社会脳と学力
子どもが社会脳として獲得している社会性の能
力の高さは,彼らの学力と実際にはどう関係して
いるのだろうか。このことについて,教育社会学
者の門脇厚司(門脇,1999, 2010)は,人が人と
つながり社会をつくる力としての社会力を測定
し,それと子どもが自己判断した自分の成績との
関係を小学 3 年生から 6 年生,そして中学生を対
象として調べている。
子どもの社会力の基盤は,他者を認知し理解す
る能力,また他者への共感能力にあると考えられ
ており,そしてそれらの能力を形成するためには
子どもの社会的相互行為が大切であるとされてい
る。この調査で子どもの社会力を測定するために
用いられた尺度は,5 つのカテゴリーから構成さ
れている。すなわち,大人への信頼感,他者への
配慮,知的好奇心,未知の人への関心,そして人
間への信頼感の 5 つである。
大人への信頼感は,例えば「大人と話をしたり,
一緒に何かをしたりするのが好き」,「信頼できる
大人が身近に何人かいる」などの 6 項目によって,
大人との交流を通して獲得される子どもの大人へ
子どもの社会脳研究(4)
の愛着や信頼感として測定される能力である。
他者への配慮は,例えば「相手の気持ちをよく
考えてつきあう」,「友だちが何かしてくれたら,
必ずお礼を言う」などの 8 項目によって,他者に
対する気遣いや思いやりとして測定される能力で
ある。
知的好奇心は,例えば「知らないことがあると,
誰かに聞いたり,自分で調べてみたくなる」,「他
の人がやっていることは,何でも自分でやってみ
たくなる」などの 4 項目によって,知りたい,やっ
てみたいといった好奇心として測定される能力で
ある。
未知の人への関心は,「他の国の人の悲しい
ニュースを聞くと,自分も悲しくなる」,「事件の
ことをニュースで聞くと,どうしてこんなことが
起きるのだろうと,あれこれ考える」の 2 項目に
よって,いまだ会ったことがない人への関心とし
て測定される能力である。
人間への信頼感は,「知らない人でもすぐ仲良
くなれる」,「ひとりでいるより,大勢の人といる
ほうが好き」の 2 項目によって,人間一般に対す
る信頼感として測定される能力である。
調査の結果は,学校での成績がよいと自己判断
している子どもほど社会力の得点が高く,逆に成
績がよくないと自己判断している子どもほど社会
力の得点は低いことを示している。この調査は,
学校での教科の成績に対する子どもが自分に下し
た自己判断の指標が,社会力と高い正の関係をも
つことを示したわけである。さらに,この調査で
は学習意欲との関係も調べられており,成績の自
己判断と同じように,社会力との正の関係が併せ
て報告されている。
子どもの社会力を構成するカテゴリーからみる
と,それは自分を知り,他者の心を察し,他者と
関係を結び,ともに社会をつくっていく能力とか
かわる社会脳と共通の特性をもっていると考える
ことができる。したがって,子どもの社会力と彼
らの学力,および学習意欲がそれぞれ高い正の関
係をもっていたということは,子どもの社会脳が
彼らの学力,および学習意欲とも高い正の関係を
もっていると考えることができるだろう。
ここから,子どもが高い学力および高い学習意
欲をもつことと,彼らが高い社会脳の機能をもつ
こととは密接に関係しているとみることができ
る。言い換えれば,子どもが高い学力および学習
意欲をもつためには,高い機能をもった社会脳を
養うことが大切であるということになる。
77
社会的実践力と学力
教育方法学者田中博之(田中,2009)も,自ら
が提唱する子どもの社会的実践力と教科学力との
関係について調べている。社会的実践力は,他者
を尊び,互いに支えあう力とされており,したがっ
てそれは社会脳に通ずる特性をもっていると考え
ることができる。子どもの社会的実践力は,問題
解決力,社会参画力,豊かな心,そして自己成長
力から構成されている。
問題解決力は,課題設定力,企画実践力,思考
力,判断力などからなり,自ら課題を発見し,仮
説をたて,課題を解決していく能力である。
社会参画力は,協調性,社会対応力,社会貢献,
公共力などからなり,人と共に協力しながら,社
会的ルールを守り,よりよい社会を築き上げる力
であり,学んだ知識や技能を日常の暮らしや社会
生活に活用し,積極的に社会参画をめざしていこ
うとする能力である。
豊かな心は,責任感,勇気・熱意,思いやり,
バランス感覚などからなり,自己の生き方と人と
のかかわりを積極的,道徳的,人間的にする心で
あり,積極的に物事に挑戦し,異なる意見や考え
を尊重し協調して生きていこうとする能力であ
る。
自己成長力は,自己コントロール力,自己評価
力,自信・自尊感情,自己実現力などからなり,
社会的実践力を伸ばそう,身につけようと計画的
に努力する力であり,自ら成長しようとする意欲
や行動を促していく能力である。
子どもの社会的実践力の内部構造からみると,
社会力と同様にそれは社会脳に共通する特性を
もっていると考えることができる。この社会的実
践力と教科学力との間にどのような関係があるの
か,小学 5 年生と中学 2 年生を対象に調べられて
いる。
調査の結果は,社会参加力を含め社会的実践力
と国語,算数・数学,そして英語などの教科学力
は高い相関のあることを示している。社会的実践
力の高い子どもほど教科学力が高く,また社会的
実践力の低い子どもほど教科学力が低くなってい
る。この結果は,社会力と同じように社会脳が教
科学力とも強く関係していることを示唆してい
る。このことからも,子どもが高い学力をもつた
めにも自らの社会脳を高めていくことが欠かせな
いと言えるだろう。
社会的実践力のある子ども,あるいは社会力の
高い子どもは,学校での勉強が好きで,学習意欲
も高く,結果的に学力も高い傾向にあることが示
78
永 江 誠 司
されていると言え,ここから社会脳の高さが学力
の高さと関係しており,さらに学力の高さを社会
脳が支えていると言えるだろう。
おわりに
人間とは何か。この根源的でまた普遍的な問い
に対する答えを求め,古来より多くの人々が思索
し知恵を絞ってきた。本稿では,「人間は社会的
動物である」ということばを起点として,社会脳
の視点からこの問いに答える試みを展開してき
た。
その際,子どもの社会脳という視点をとったの
は,人間を成長の原点からみていくことで,この
問いへの答えを多元的にみていくことができると
考えたからである。つまり,完成された個として
の人間ではなく,完成に向けて変化していく子ど
もの社会脳としてみていくことで,この問いへの
答えはより洗練されたものになっていくと考えた
のである。
今ここに在る子どもは,これまで変化してきた
者であり,今も変化している者であり,さらにこ
れからも未来に向けて変化していく者であるから
である。時間の変化の中で展開される子どもの成
長現象と成長過程をみていくことで,子どもの発
達のリズム,法則はより明確にとらえていくこと
ができる。このことは,子どもの社会脳とそれが
生み出す社会的な心理と行動との関係をみていく
時にも言えることだと思う。
社会的動物としての子どもの社会性は,その発
達の初期から現れてくる。生後 2 か月を過ぎると
母親を見て微笑し,8 か月頃には人見知りを示し
はじめ,1 歳過ぎには母親が指さした方向に自分
の視線を送り,2 歳になれば鏡を見てそれが自分
であることに気づき,4 歳を過ぎれば見えない他
者の心に気づき,それを思いやる心の理論の働き
が現れてくる。これらのことは,社会脳が発達の
早い時期から働きはじめ,そして成長していくこ
とを示している。
本稿では,子どもの社会脳を社会的知能の観点
からみていくことを主軸としたが,この社会的知
能を多重知能理論から分析して社会脳との関係を
明らかにする立場をとってきた。社会的知能は多
重知能を媒介として脳との関連,対応が明確に
なってくる。同時に教育との関係も具体的なもの
として理解することができる。とくに,多重知能
の中で対人的知能と内省的知能は,社会脳として
の社会的知能の中核をなすものである。多重知能
理論が設定した対人的知能と内省的知能にかかわ
る脳領域は,社会脳研究が設定した脳領域とほぼ
一致している。
子どもの社会性を育てるにはどのような保育や
教育が必要なのか,どのような育て方がよいのか
ということを考えていくためにも,社会性を生み
出している脳内のシステム,すなわち社会脳のし
くみを解明していくことが何よりも大切だと言え
る。このことは,同じく自閉症の問題を考えてい
く時にも言えることである。その意味で,これか
らの子どもの社会脳研究にかけられている期待は
大きいものがあると考えている。その研究を押し
進めることが,これまで変化してきた者,現在も
変化している者,そしてこれからも変化していく
者としての子どもたちへの価値ある贈り物になる
と思うのである。
本稿は,拙著『社会脳 SQ の作り方─ IQ でも
EQ でもない成功する人の秘密』(講談社 : 講談社
プラスアルファ新書,2012)を加筆・修正して作
成したものである。なお,引用文献の後に本稿の
基盤となる筆者の文献,およびその関連文献を掲
載している。
引用文献
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染矢俊幸(訳) (2002).DSM-Ⅳ-TR 精神疾患
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教育と脳─多重知能を活かす教育心理学 北大路
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世界一の子ども教育モンテッソーリ─ 12 歳まで
に脳を賢く優しく育てる方法 講談社(講談
社 プ ラ ス ア ル フ ァ 新 書 ),2010.( 韓 国 語 版,
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認知と脳─ラテラリティの心理学 おうふう,
2012.
80
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発 達 と 脳 ─ 神 経 発 達 心 理 学 入 門 お う ふ う,
2012.
社会脳 SQ の作り方─ IQ でも EQ でもない成功
する人の秘密 講談社(講談社プラスアルファ
新書),2012.
[著書 : 編著・共著・共訳]
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現代青年心理学 協同出版,1977.
情操保育 川島書店,1978.
教育心理学図説 北大路書房,1980.
教育・臨床心理学辞典 北大路書房,1980.
教室で生きる教育心理学(共訳) 新曜社,1983.
学校教育のための心理学実験 ナカニシヤ出版,
1984.
人生周期の中の青年心理学 北大路書房,1991.
右半球の神経心理学 朝倉書店,1991.
発達心理学用語辞典 北大路書房,1991.
図説生徒指導と教育臨床 北大路書房,1993.
左右 / みぎひだり 學燈社,2006.
子どもはどう考えるか おうふう,2010.
認知・学習心理学 ミネルヴァ書房,2012.
キ ー ワ ー ド 教 育 心 理 学( 編 著 ) 北 大 路 書 房,
2013.
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登校をしぶる多遅刻児童に対する教師の心理教
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脳と左右(左右 / みぎひだり─あらゆるものは
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子どもの社会力の発達と内省的知能に関する心理
学的考察─学校教育と脳(6)福岡教育大学紀
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モンテッソーリ教育における言語教育と脳─幼児
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モンテッソーリ教育における算数教育と脳─幼児
教育と脳(6)福岡教育大学教育実践研究,20,
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脳科学から見えるモンテッソーリ教育の意義 モ
ンテッソーリ教育,45, 4-14, 2012.
青年期の心理的自立と適応をめぐる問題へのアプ
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Hemispheric lateralization in processing
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Bulletin of Fukuoka University of Education,
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子どもの発達障害と脳に関する心理学的考察─学
校教育と脳(7) 福岡教育大学紀要,62, 79-93,
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モンテッソーリ教育における文化教育と脳─幼児
教育と脳(7)福岡教育大学教育実践研究,21,
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子どもの社会脳研究(1)福岡教育大学紀要,63,
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青年期における「個」と「関係性」のアイデンティ
ティ発達と自己開示との関連 (共著) 福岡教
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子どもの社会脳研究(3)福岡教育大学紀要,(印
刷中)
子どもの社会脳研究(4)福岡教育大学紀要,(印
刷中)
脳のラテラリティ研究覚書─顔認知の視野分割研
究を中心に 福岡教育大学紀要,(印刷中)