カーボン短繊維強化ナイロンの疲労強度とその温度依存性 構造エネルギー工学専攻 M2 竹内広志([email protected]) 指導教員 河井昌道([email protected]) 2. 試験片および試験方法 2.1 試験片 供試材はカーボン短繊維とナイロン 6(東 レ製 CM1001)を用いたペレットを用いた射出成形材である. 試験片の形状と寸法を Fig.1 に示す.長繊維ペレット材と短 繊維ペレット材をそれぞれ射出成形することで,不連続強化 繊維の長さが異なる 2 種類の試験片を作成した.試験片の繊 維体積含有率は一定値 20%とした.また,ナイロン樹脂は, 吸湿性が高く,吸水によって機械的特性が低下する.本研究 では,すべての試験片に対して試験前に 80°C で 15 時間の加 熱乾燥処理を施し,試験開始時の吸水状態を一定に揃えた. 2.2 試験方法 静的試験と定常疲労試験には油圧サー ボ式卓上材料試験機を用いた.試験は室温,50°C,70°C,90°C で行った.静的引張試験は変位制御下で行い,制御速度は公 称ひずみ速度が 1%/min となるように設定した.定常疲労試 験は荷重制御で行い,繰返速度は f = 5Hz,荷重波形は正弦波 とした.応力比は R = 0.1 とした.疲労試験の打ち切り繰返 し数は Nf = 106 回とした.高温試験には温度制御可能な環境 槽を使用しており,試験片全域の温度を均一にするために, 環境槽内が設定した試験温度に達してから疲労試験を開始 するまでに 1 時間の温度保持時間を設けた. Fig.1 Specimen geometry and dimensions (unit: mm) 2.3 光学式ひずみ計測装置 試験中のひずみの計測に は画像相関法(DIC)を用いた.試験片表面には予めスプレ ーによって白地に黒のスペックルパターンを形成する.2 台 の CCD カメラで撮影したデジタル画像を画像解析ソフト Vic-3D を用いて解析することで標線全域の 2 次元ひずみ分 布を求めた. 3. 試験結果および考察 3.1 応力-ひずみ関係 繊維長が異なる 2 種類の材料の 室温(RT),50°C,70°C,90°C における応力-ひずみ関係を 比較した.この結果,カーボン短繊維強化ナイロンの機械的 特性は温度に大きく依存しており,長繊維材よりも短繊維材 の方がその傾向が顕著に現れていることがわかった.また, 温度の上昇に伴って破断ひずみが大きくなり,延性の増加が 認められた.先行研究によりナイロン 6 のガラス転移温度は 34°C から 42°C の間に観測されており,各高温下の試験はガ ラス転移温度を超えた状態に相当するため,分子鎖の運動性 が大きくなっていることが予想される. 3.2 引張強度の温度依存性 カーボン短繊維強化ナイ ロンの引張強度,ヤング率および破断ひずみの温度依存性を 同定するため,試験温度の逆数に対する相関を調べた.その 結果,繊維長に拘わらず,上記特性量と温度の逆数の片対数 プロットに直線関係の成立することが分かった.このことか ら,カーボン短繊維強化ナイロン材の温度依存性が Arrhenius の式によって記述できることが示唆された.例として,引張 強度の Arrhenius プロットを Fig.2 に示す.引張強度に対する Arrhenius プロットの回帰直線の勾配に差が見られることか ら,繊維長の違いが静的強度の温度依存性に影響を及ぼし, 特に,高温下で顕著な差が生じる可能性が示された. Fracture stress ln σxf, MPa 1. 緒 言 炭素繊維強化複合材料は,航空宇宙分野に留まらず,一般 輸送機分野などにも用途が拡大している.汎用機器への応用 に際しては,適度な軽量高強度性と高速成形性が求められる. 強化材と母材にそれぞれ不連続繊維と熱可塑性樹脂を用い た射出成形は,生産性に優れており,多種機器要素を必要と する自動車をはじめとする一般輸送機器分野などへの広範 な応用が期待されている.このような要請に伴い,炭素短繊 維強化熱可塑性樹脂複合材料(CFRTP)に対しても性能を最 大限に発揮できるように設計に使いやすい耐久性評価技術 を開発・整備することが強く求められている. 実機要素の設計には,疲労寿命の評価が不可欠の要件とな る.使用中に作用する疲労荷重はその振幅や平均レベルが時 間とともに変化することが多い.このため,疲労解析におい ては,非定常繰返荷重を受ける CFRTP の寿命評価が重要と なる.変動疲労荷重に対して工学的な寿命解析を実施するた めには,変動疲労波形に含まれる任意の定常疲労波形成分に 対して疲労寿命を正確に予測できることが基礎的な要件と なる. 機器構造要素は,一般に,応用ごとに異なる一定温度範囲 で使用できることが求められる.このことから,CFRTP の 疲労寿命は,室温についてだけでなく,異なる高温について も評価することが求められる.熱可塑性樹脂は顕著な温度依 存性を有し,高温下で強度が大きく低下する.したがって, 熱可塑性樹脂を用いた CFRTP に対しては,疲労寿命の温度 依存性を明らかにし,その予測技術を開発することが特に重 要となる. 本研究では,繊維長の異なる 2 種類のカーボン短繊維強化 ナイロン複合材料を対象として,それらの定常疲労挙動と温 度依存性を明らかにすることを目的とする.まず,3 種類の 温度(室温,50°C,70°C,90°C)で静的引張試験を行い,静 的強度と温度依存性を調べる.次に,各温度で定常疲労試験 を行い,温度の違いが疲労寿命に及ぼす影響を明らかにする. 5.4 5.2 Discontinuous CF Reinforced Polyamide Experimental 1%/min Tension DIC (50x5) 5 4.8 4.6 ▲ ● Long fiber Short fiber 0.0027 0.0028 0.0029 0.003 0.0031 0.0032 0.0033 0.0034 Temperature 1/T, /K Fig.2 Temperature dependence of tensile strength ている.これらの図から,繊維長に拘わらず,S-N 関係の温 度依存性を良好に記述することができる. 1 y = 590.18 - 0.029415x R= 0.95691 y = 601.56 - 0.029168x R= 0.97003 240 0.5 Short CF Reinforced Polyamide Experimental RT,50ºC,70ºC 5Hz R = 0.1 0 100 101 102 103 104 2Nf 200 ○ RT □ 50ºC △ 70ºC 105 Discontinuous CF Reinforced Polyamide Experimental RT, 50ºC, 70ºC R = 0.1 5Hz C=45 Fitted 220 → → 106 σmax , MPa σmax / σUTS 1.5 107 180 160 140 120 100 (a) Short fiber ○ □ △ Short fiber ● ■ ▲ Long Fiber 80 1.3 104 1.4 104 1.5 1.5 104 1.6 104 L-M parameter 1.7 104 1.8 104 1 250 → 200 0.5 Long CF Reinforced Polyamide Experimental RT_50ºC_70ºC 5Hz R = 0.1 0 0 10 101 102 103 104 2Nf ● RT ■ 50ºC ▲ 70ºC 105 106 107 σmax , MPa σmax / σUTS Fig.4 Master curve which was identified as organized using the Larson-Miller Parameter PLM = T (C + log Nf ) (1) ここで,T は温度,Nf は破断に至までの繰返し数を表し,C はラーソンミラー定数と呼ばれ,実験結果に合うように決定 する.異なる温度(RT,50°C,70°C)の疲労データに対し て縦軸に最大応力,横軸に Larson-Miller パラメータ PLM を とり,繊維長毎にプロットして整理することでマスターカー ブを同定することができる.Fig.4 に示すようなマスターカ ーブを利用して予測した短繊維材と長繊維材の S-N 関係を それぞれ Fig.5(a),(b)に示す.図中の実線は予測結果を表し → 100 → Short CF Reinforced Polyamide Experimental RT, 50ºC, 70ºC 5Hz R = 0.1 Prediceted 50 (b) Long fiber Fig.3 Normalized S-N curves at different temperatures 0 100 101 102 103 104 2Nf ○ RT □ 50ºC △ 70ºC 105 106 107 (a) Short fiber 250 200 σmax , MPa 3.3 S-N 関係の温度依存性 定常疲労試験から得られ たカーボン短繊維強化ナイロンの各温度における S-N 関係 を短繊維材と長繊維材についてそれぞれ Fig.3(a),(b)に示す. S-N 関係の形状を比較するために縦軸は各々の静的強度で除 して無次元化している.図中の矢印は打ち切り繰返し数 Nf = 106 回までに破断しなかった疲労データを示している.長繊 維材の無次元化した S-N 関係を見ると,温度の違いによる勾 配の差はあまり大きくないことがわかる. 一方,短繊維材の無次元化した S-N 関係においては,長繊 維材と比べて,温度による勾配の差が確認された.長繊維材 および短繊維材のいずれにおいても,室温における S-N デー タが高温における S-N データよりも下側にプロットされる 傾向が認められる.この結果は,高温になるとマトリックス 樹脂の延性が増加し,それに対応して相対疲労強度が向上す る可能性を示唆する. 3.4 温度依存性を考慮した疲労寿命予測モデル 疲労強度の温度依存性を考慮するために以下の式で定義 される Larson-Miller パラメータ PLM を導入する. 150 150 100 50 → Long CF Reinforced Polyamide Experimental RT, 50ºC, 70ºC 5Hz R = 0.1 Prediceted 0 0 10 101 102 103 104 2Nf ● RT ■ 50ºC ▲ 70ºC 105 106 107 (b) Long fiber Fig.5 Predicting S-N curves using Larson-Miller parameter 4. 結 言 (1)長繊維材の場合,無次元化 S-N 関係の勾配は温度が上 昇してもほとんど変化しない. (2)短繊維材の場合,無次元化 S-N 関係の勾配は温度の上 昇に伴って室温の勾配よりも小さくなる傾向を呈する. (3)繊維長に拘わらず,Larson-Miller パラメータを用いて, 温度を考慮したマスターS-N 関係を同定することができる. (4)繊維長に拘わらず,マスターS-N 関係から異なる温度 の S-N 関係を良好に予測することができる. 一方向 CFRP の非主軸疲労に及ぼす切欠きの影響とそのモデル化 構造エネルギー工学専攻 M2 渡邊 駿 ([email protected]) 指導教員 河井 昌道([email protected]) 2.試験片および試験方法 2.1 試験片 供試材は,炭素繊維 T700S(東レ)と 熱硬化型 Epoxy 樹脂(#2592)で構成されるプリプレグ T700S/Epoxy#2592 を繊維方向が一方向になるように 16 枚積層した一方向積層板である.試験片の繊維配向角は θ= 0, 10, 30, 45, 90°の 5 種類,厚さ約 3mm である.静的 引張試験と引張荷重のみが作用する疲労試験(T-T 疲労 試験)に対しては,標線間距離 100 mm,試験片幅 20 mm の試験片(長試験片)を使用した.但し,繊維方向(θ = 0°)に対しては試験片幅 10 mm とした.静的圧縮試験と 圧縮荷重が作用する疲労試験(C-C, T-C 疲労試験)に対 しては,座屈抑制のため,標線間距離 10 mm,試験片幅 10 mm の試験片(短試験片)を用いた.切欠きの寸法は 中央円孔の直径 D を試験片幅 W で無次元化した相対切 欠寸法を 2 通り(D/W = 0.1, 0.4)に設定した.比較対象 として同じ寸法の平滑材も用意した. 2.2 試験方法 引張および疲労試験には油圧サー ボ材料試験機を使用した.試験温度は室温(23°C)とした. 静的引張試験はひずみ速度1.0%/minの変位制御で行った. 疲労試験は繰返し速度f = 5 Hzの正弦波で行い,打切繰返 し数を10 6回とした.3種類の応力比R = 0.1, χ, 10につい てそれぞれ定常疲労試験を行った. 3.試験結果および考察 3.1 静的挙動 各繊維配向角について,相対切欠寸 法 D/W = 0.1, 0.4 の切欠試験片を用いて引張試験と圧縮 試験を行った.図1に引張強度を示す.図 1 の平滑材(UN) の強度は先行研究 (2) で得られた結果を示している.繊維 配向θ= 30, 90°の D/W = 0.1 については円孔端部から破 壊しなかったため記載していない.図 1 より,相対切欠 寸法が増大するほど引張強度が低下しており,切欠寸法 依存性を明朗に確認することができる.また,繊維配向 角が大きくなるほど引張強度が低下する繊維配向角依存 性も確認できる. 切欠きの影響について考察する.このため,切欠材の 強度 σ N を平滑材の強度 σ 0 で無次元化した切欠強度比 σ N /σ 0 と相対切欠寸法 D/W の関係(切欠感度図)を図 2 に示 す.図 2 の破線は,応力集中が発生していないと仮定し た 場 合 の 切 欠 強 度 比 を 表 わ す 切 欠 不 敏 感 線 ( Notch Insensitive Line)である.図 2 より,θ = 0, 10°の結果は切 欠不敏感線に対し下側にプロットされていることから, 切欠きに対して敏感であることがわかる. 一方,θ = 30, 45, 90°の結果は切欠不敏感線付近にプロ ットされていることから,切欠きに対して不敏感である ことがわかる.このように繊維配向角が大きくなるほど 切欠不敏感線の近くに実験値がプロットされていること から,切欠感度が繊維配向角依存性を呈することが確認 できる. 2000 Fracture stress σxf , MPa 1.緒 言 炭 素 繊 維 強 化 プ ラ ス チ ッ ク CFRP (Carbon Fiber Reinforced Plastics)は,金属材料に比べて比強度と比剛性 に優れることから,航空宇宙機器をはじめとして,近年 ではエネルギー機器や輸送機器などの分野において用途 が拡大している.この使用用途の拡大に伴い, 一般性が 高く,また工学設計に応用し易い CFRP の耐久性評価技術 の開発および整備が強く求められている.実構造物の設 計において,破壊原因の約 70%が疲労に関するため, 疲 労寿命評価が不可欠の要件となる.構造物は長期的に使 用されることから,CFRP の疲労特性を解明することが CFRP の長期信頼性の確立にとって重要な課題となる. 実環境下において構造物は,風や振動などの変動疲労 荷重を受ける.この変動疲労荷重における疲労寿命を精 度良く予測するためには,変動疲労荷重に含まれる定常 疲労波形成分について正確に疲労寿命を予測できること が基礎的な要件となる.一方,実設計における構造物の 構成要素には,切欠きなどの幾何学的な不連続部の付与 を避けられないことが多い.このため,応力集中を伴う 切欠部材の疲労寿命を評価することが重要となる.また, CFRP は顕著な異方性を呈する材料であり,繊維方向と 異なる方向(非主軸方向)に荷重が作用した場合,主軸 方向に比べ強度が低下する.実環境下では荷重が作用す る方向は無造作かつ様々であることから疲労特性評価を 行うためには主軸疲労強度だけでなく非主軸疲労強度を 適切に予測する技術を整備することが重要となる. 本研究では,一方向 CFRP 積層板の非主軸疲労強度の 切欠寸法依存性と応力比依存性を実験によって明らかに し,それらを効率的に予測するための工学的な方法を確 立することを目的とする.まず,繊維配向角が異なる 5 種類の試験片に対し,相対切欠寸法が異なる 2 種類の円 孔切欠きを施す.これらの試験片を用いて静的試験と疲 労試験を行う.これらの結果に基づき,切欠きを有する 一方向 CFRP の S-N 関係の特徴を明らかにする.次に, 先行研究 (1) で提案された切欠疲労モデルを用いて一方向 CFRP の切欠き疲労寿命を予測し,実験結果との比較に 基づいてその予測精度を評価する. UD T700S/Epoxy/#2592 16ply 1%/min Experiment (RT) Tension UN D/W=0.1 D/W=0.4 1500 1000 500 0 0 10 30 45 90 Off-axis angle θ ,degree Fig.1 Comparison of off-axis notched strengths in tension 1.2 UD T700S/Epoxy/#2592 16ply 1%/min Experiment (RT) 16ply Center Hole Tension 1 σN/σ0 0.8 ● 0 10 30 45 90 0.6 0.4 ψ Axis = σ max σ 0 (1− D / W ) (4) 一方,非主軸方位に対しては,切欠感度を保持すること を表現するため,強度パラメータ ψ Off-Axis を以下のように 設定する. σ max σN ψ Off − Axis = (5) このモデルを用いて予測した切欠材の S-N 関係を図 3 (a)と(b)に実線で示す.予測結果と実験値が良好に一 致しており,このモデルの妥当性が確認できる. 0.2 0 0 0.2 0.4 0.6 D/W 0.8 1 1.2 3000 2N f = a 2 1 (1− ψ 2 ) (1− D / W ) 2 ψ1n (ψ 2 − ψ L )b " ψ $ Axis ψ1 = # $% ψOff −Axis ψ2 = σ max σN (1) (2) (3) 式(5)を応用する場合,主軸方位に対しては,疲労過程 で切欠感度が低下し,長寿命域で切欠不敏感になること を表現するため,強度パラメータ ψ Axis を以下のようにお く. T700S/Epoxy#2592 UD [0]1 6 2500 Experimental ( RT , 5Hz ,R = 0.1 ) 2000 ● UN, D/W= 0 ◆ CH, D/W= 0.4 Fitted Predcted 1500 1000 500 0 100 101 102 103 104 2Nf 105 106 107 (a) θ = 0° 500 σmax , MPa 3.2 疲労挙動 代表例として,θ= 0,10°,相対切欠 寸法 D/W = 0.4,応力比 R = 0.1 の定常疲労試験から求め た疲労データを図 3(a)と(b)に示す.図中の矢印は, 繰返し数 N f =10 6 回までに破断しなかった試験結果を示 している.図 3 の一点鎖線は先行研究 (2) において得られ た平滑材(UN)の S-N 関係の予測線に対して,応力集中が 発生していないと仮定して評価した切欠き不敏感に対す る S-N 関係を示している. 図 3(a)θ= 0°では,切欠材(D/W = 0.4)が平滑材(UN) の S-N 関係の勾配に対して近づいていく傾向があり,試 験した寿命範囲においては長寿命域になるほど平滑材と 切欠材の疲労強度の差が減少する傾向を示す.このこと から,繊維支配の影響が大きいθ= 0°においては,疲労 過程で切欠感度が低減し,長寿命域では切欠不敏感にな ると考えられる.一方,図 3(b)θ= 10°では,切欠材 (D/W = 0.4)が平滑材(UN)の S-N 関係の勾配に対し て平行に推移しており,長寿命域においても切欠感度を 保持するような傾向を示す. 4.切欠き疲労モデル 疲労試験結果より,引張支配と圧縮支配では疲労過程 での切欠感度低下の傾向に大きな違いは無いものと考え, 先行研究 (1) で提案された主軸疲労に対する切欠き疲労モ デルの非主軸疲労への拡張を試み,さらに切欠材の非主 軸疲労に対する S-N 関係の予測に適用した. 切欠疲労モデルは平滑材の S-N 関係の近似に用いる疲 労損傷発展式を修正したもので式(5)によって与えられ る.式(1)を式(2)に用いて修正を行った.式(1)の k,K,n, a は材料定数, ψ L は強度パラメータである. σmax , MPa Fig.2 Comparison of off-axis notch sensitivities T700S/Epoxy#2592 UD [10]1 6 ● UN, D/W= 0 ◆ CH, D/W= 0.4 400 Experimental ( RT , 5Hz ,R = 0.1 ) Fitted Predicted 300 200 100 0 100 101 102 103 104 2Nf 105 106 107 (b) θ = 10° Fig.3 Comparison of S-N relationships for off-axis unnotched and notched specimens 5. 結言 (1)繊維支配となる主軸方位θ=0°の場合,疲労過程で 切欠感度が低減し,長寿命域においては切欠不敏感とな る. (2)樹脂の影響が大きい非主軸方位θ=10°の場合,繊 維支配の主軸(θ= 0°)と異なり,疲労過程で切欠感度の 低下が小さく,長寿命域においても切欠感度を保持する. (3)非主軸切欠き疲労モデルは良好な予測精度を示す. 6. 参考文献 (1) 東海吉秀,切欠きを有する平織 CFRP に非主軸疲労寿 命とそのモデル化,筑波大学工学システム学類卒業論文 (2012) (2) 寺沼峰人,一方向 CFRP 積層板の室温における等寿命 線図とそのモデル化,筑波大学大学院構造エネルギー工 学博士前期過程修士論文(2011) 斜め配列中の球にかかる流体抗力 システム情報工学研究科 博士前期課程 2 年 高木 亮輔 E-mail:[email protected] 指導教員 文字 秀明 1.序論 水や空気などの流体中に気泡や固体粒子が混在する分 散二相流は様々なところで見られる.固液二相流としては 石炭などのスラリー輸送,気液二相流としては発電所内の ボイラーで水を加熱した際に発生する気泡流などが例と して挙げられる.分散二相流では分散粒子の分布が重要で, それが変化すると,管路内の圧力損失や熱伝達特性が変化 する.また,粒子が良好な分散状態を保てず集団を形成す るクラスター化が起こると,不規則な流れが生じる原因と なる.そのため,工業プラントなどの安全かつ効率的な運 用のためには分散二相流の挙動を把握する必要がある. しかし,これまでの研究では主に管群や球群などの集団 全体としての流体抗力や圧力損失を調べており,個々の粒 子の挙動に注目した研究は少ない.また,粒子同士の相互 作用の研究に関しては,2 球間においての個々の粒子にか かる流体抗力や,球が列をなしたときにかかる流体抗力は 調べられている[1]が,主流に対して斜め方向に配列された 球にかかる流体抗力に関する研究はまだ十分行われてい ない. そこで本研究では,分散二相流において粒子挙動に影響 を与える要因の一つである粒子間の相互作用に注目し,球 群を形成した際に球同士が及ぼす影響を調べるため,球を 斜め方向に配列したときに個々の球にかかる流体抗力を 計測することを目的とした. 2. 実験装置及び実験方法 実験には幅 0.3m,高さ 0.2m,長さ 1.1m の矩形管が試験 部となっている回流水槽を使用した. Fig.1 に回流水槽の概 略図を示す.試験部管壁はアクリルでできており,PIV な どの可視化計測が可能となっている.回流水槽には吐出流 量を変えることができるポンプがついており,試験部の主 流速度を調整することができる. では,2 球の中心間距離 L を 30mm とし,主流と 2 球がな す角θを 0~180°の範囲で 15°毎に変え計測を行った.配列 図を Fig.2,3 に示す.上記それぞれの場合において球直径 を代表長さとした球レイノルズ数 Re を 5000,6000,7000, 8000 と変えて計測を行った. また,実験では各位置で球が受ける流体抗力が変化する 原因を探るため,球周りの流速分布を調べる.流速分布の 計測には PIV を用いており,レーザーは Nd-YAG レーザー を用い,ミラーを介して試験部下部からレーザーシートを 照射した.撮影は試験部側部に設置したハイスピードカメ ラによって行った. Fig.2 Arrangement of pattern A Fig.3 Arrangement of pattern B 3. 実験結果 3.1 抗力計測結果 各配列の前方球と後方球ごとに球にかかる流体抗力を調 べた.pattern A の抗力計測結果を Fig.4 と Fig.5 に,pattern B の結果を Fig.6 にそれぞれ示す. Fig.1 Schematic of passing water tank 試験球の抗力は微小荷重用ロードセルで計測した.作動 流体は水道水を使用し,直径 0.02m の球を用いた.主流方 向に対して斜めに 2 球(pattern A),同一円周上に 1 球とその 円の中心に 1 球(固定球)を配した pattern B となるように設 置した 2 つのパターンについて実験を行った.前方球と後 方球をそれぞれ試験球とし,pattern A では,主流方向中心 間距離 LX を 30mm に固定し,主流垂直方向中心間距離 LY を 0~25mm の範囲で 5mm 毎に変え計測を行い,pattern B Fig.4 Drag force of front sphere (pattern A) で剥離した流れが後方球に当たっており,LY/D=0.75,1, 1.25 では,2 球間に流れ込んでいることがわかる.これは, 後方球が LY/D=0.25, 0.5 で抗力係数比が 1 以上の値をとり, LY/D=0.75,1,1.25 で 1 以下の値をとっている抗力計測結 果と対応している. Fig.7 Coordinate System Fig.5 Drag force of back sphere (pattern A) Fig.6 Drag force of sphere (pattern B) Fig.4 と Fig.5 は縦軸に計測球の抗力を単一球の抗力で除 した抗力係数比 CD /CD0,横軸に主流垂直方向中心間距離 LY を計測球の代表長さ D で除した LY/D としている. pattern A の前方球では,LY/D が大きくなるにつれて抗力係 数比が小さくなり,すべての中心間距離で抗力係数比が 1 以上の値をとった.(Fig.4)これは 2 球間への流体の流れ込 みにより,前方球後方の圧力が単一球に比べ低くなったた めだと考えられる.pattern A の後方球では,LY/D が小さい とき抗力係数比が 1 より大きい値をとり,LY/D が大きくな るにつれて 1 以下の値で一定となった.(Fig.5)前方球と後 方球ともにレイノルズ数による抗力係数比の大きな変化は 見られなかった. Fig.6 は縦軸に固定球の抗力係数比 CD /CD0,横軸に主流 と 2 球がなす角度としている.pattern B において,主流方 向に対して計測球が固定球の後方に配置している 0~75°で は,角度によって抗力係数比が 1 より大きい場合と小さい 場合があり,前方に配置されている 105~180°では,pattern A の前方球と同様に抗力係数比が 1 以上の値となった.また, 45°の条件では,レイノルズ数によって抗力係数比の差が見 られた. 3.2 球周りの速度場計測結果 各配列で球が受ける流体抗力が変化する原因を探るため, 球周りの流速分布を調べた.Fig.7 に流速分布を計測した座 標系を示す.Fig.8 は,Fig.7 に示した pattern A の後方球前 方(X=-11mm)の位置での X 方向速度 u を主流速度 U0 で割 った速度比 u/U0 の時間平均値を縦軸にとり,横軸に座標 Y をとっている. Y=0 付近で LY/D=0.25,0.5 では,u/U0 がほぼ 0 の値をと っていることに対し,LY/D=0.75,1,1.25 では,u/U0 が 0.5 の値をとっていることから,LY/D=0.25,0.5 では,前方球 Fig.8 Distribution of the velocity u (pattern A) 4. 結論 本研究は,斜め配列中の球にかかる流体抗力を計測し, 以下の知見を得た. ・pattern A,B 共に,前方球の抗力係数比が 1 以上の値と なった.これは 2 球間への流体の流れ込みにより,前 方球後方の圧力が単一球に比べ低くなったためだと考 えられる. ・pattern A,B 共に球間隔によって後方球の抗力の違い が見られた.これは前方球で剥離した流れが後方球に 当たる場合と 2 球間に流れ込む場合があるため違いが 見られたと考えられる. ・pattern B において,θ=45°のときレイノルズ数の違い によって抗力の違いが見られた. 5. 今後の予定 ・現在は,球にかかる流体抗力の主流方向成分を計測し ているが,斜め配列の場合,球間の流れ込みにより主 流垂直方向にも力を受けているため,主流垂直方向に かかる力を計測する. ・pattern B において,θ=45°のときレイノルズ数の違いに よって抗力の違いが見られた原因を PIV による速度場計 測で調べる 参考文献 [1] S. Ichikawa, Y. Itamoto, H. Monji, Proc. 8th Int. Conf. Multiphase Flow, ICMF2013-549(2013). [2] Y. Tsuji, Y. Morikawa, K. Terashima, Int.J.Multiph.Flow 8, 71-82(1981). 水中を落下する球群の相互作用 システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻 博士前期課程 2 年 三浦 航平 指導教員 文字 秀明 E-mail : [email protected] 1. 諸言 スラリー輸送などに見られる固液二相流において,粒子 取り誤差を考慮し,補正を行った.ワイヤの有る場合と無 のクラスター化が問題となっている.クラスター化とは, い場合についての単一球の実験および初期球間隔を変え 分散している粒子が互いに接近し集団を形成する現象で た直列 2 球の実験を行った.表 1 に実験条件を示す. ある.クラスター化によって流れは不規則になる.そのた め,粒子の挙動を明らかにする必要がある. 個々の粒子に注目した先行研究として,水槽内に配置され た球群における個々の球にかかる流体抗力について研究 がされており,球列の後方球の流体抗力が低下することが 報告されている[1]. しかし,先行研究では,流れの中に球を固定し流体抗力 の測定を行っているため,クラスター化を実際に観察する ことはできない. そこで,本研究では静止流体中に球群を自由落下させ, 球の相互作用を明らかにすることを目的とした. 図 1 実験装置概略 2.自由落下球の理論 水中を落下する球には重力が働き,抵抗として抗力,浮 表 1 実験条件 力,仮想質量力が働く.力の関係から,水中を自由落下す る球の運動方程式は,式(1)で表される.式(1)から,理論的 水温 な水中の球の自由落下運動を計算することができる.また, 球材質 実験においては,落下球の速度と加速度を得ることで,抗 球直径 [mm] 力係数を求めることができる. 球質量 [g] 初期球間隔 [mm] 30,60,90 撮影速度 [fps] 30 測定範囲 [m] 1.0 𝑑𝑢 𝑑𝑡 = 2𝑔(𝜌s −𝜌w ) 2𝜌s+𝜌w − 3𝐶D 𝜌w 2𝑑(2𝜌s +𝜌w ) 𝑢2 (1) [℃] 22±2 アクリル 20 5.05 3.実験装置および実験方法 図 1 に,実験装置の概略図を示す.球を実際に落下させ 4.実験結果 ると,球は搖動することが知られている.したがって,直 ワイヤの有る場合と無い場合についての単一球におけ 列配置された球の観察は困難である.そこで,1mm の穴 る実験結果を図 2 に示す.図 2 より,ワイヤを用いた落球 が空いた球に 0.27mm ワイヤを通して実験を行った.落下 運動の場合,1sec 前後において,落下速度の低下が見られ 速度へのワイヤの摩擦の影響は無視できることが報告さ た.先行研究においては,ワイヤの影響はないとされてい れている[3].水槽の全長は,1.4m であり,自由表面と底面 たが,本研究ではワイヤによる影響があった.これは,実 の影響を考え,測定範囲は 1m とした.ワイヤを通した球 験球の質量の違いが考えられる. 図 2 より, 落下開始後 2sec をシャフトによって球下部から支え,そのシャフトをハン 程で速度増加が見られなくなることから,終端速度とみな ドルを回すことで球の支持を外し,球を落下させた.シャ した.終端速度へのワイヤの影響が見られないことから, フトは,球に対し非常に細いため,落下操作の際の周囲流 本研究では,2sec 後での落球運動に注目することとする. 体への影響は無視している.撮影のために球を艶消し黒で 実験による終端速度は,理論による終端速度よりも小さい 塗装した.落球運動の様子を大まかな運動を得るために, ことが得られた.理論による計算結果での抗力係数は,一 水槽から 1.5m 離れた点からデジタルカメラによって測定 様流中に置かれた球の抗力係数であり,落下する球の抗力 範囲を全体撮影した.水槽にはスケールが張られており, 係数は大きくなることが知られている[2].ワイヤを用いた 撮影画像の球の位置をスケールから読み取った.この際, 単一球での終端速度域での抗力係数 CDt を求めた結果, 水およびアクリルによる屈折と測定球の高さによる読み 𝐶Dt = 0.516であった. 図 4 初期球間隔 60mm における抗力係数比 図 2 単一球における落下速度 初期球間隔 90mm においては,球が接近する運動と離反 初期球間隔 30mm における実験では,球同士の衝突が確 する運動が見られ,複雑な挙動となった.この球の接近と 認された.しかし,ワイヤによる落下速度減速域での衝突 離反は,ワイヤによる落下速度の減速域での挙動が最も顕 であるため,本稿では省略する. 著であったため,初期球間隔 90mm における実験では,ワ 初期球間隔 60mm における落下速度を図 3 に示す.初期 イヤの影響が支配的であったと考えられる.したがって, 球間隔 30mm の場合と同様に, 球同士の衝突が確認された. 初期球間隔 90mm 以上では,球による相互作用の影響が小 また,落下開始後 2sec 以降での衝突であるため,ワイヤに さいと考えられる. よる影響がない条件下での,球の接近を確認することがで きた.図 3 より,前方球は単一球による実験結果と近い落 下速度であるのに対し,後方球が大きく加速している.し 5.結言 複数の球の自由落下を測定する実験装置を開発し,実験 たがって,前方球によって,後方球にかかる抗力が低下し を行った結果,以下の知見を得た. たことにより,後方球の速度が増加したと考えられる.そ (1) こで,落下速度に移動平均処理を施し,球の抗力係数を求 めた.そして,単一球による実験結果での抗力係数との比 方球に接近することを実際に観察することができた. (2) CD/CD0 を求めた.図 4 に,初期球間隔 60mm における抗力 係数比を示す.図 4 より,後方球の抗力係数が前方球を下 回っていることから,後方球の抗力低下による速度増加に 直列に配置させた球を落下運動させると,後方球が前 落下球の抗力係数を求め,球の接近が後方球にかかる 抗力低下によって発生することが確認できた. (3) 球同士が衝突する際,衝突直前に抗力は急激に低下す ることが分かった. よって,前方球に接近したことが得られた.また,球が衝 突する直前の前方球および後方球の抗力係数が急激に低 下することがわかる.これは,先行研究より,一様流中で 6.今後の予定 今回の実験では,ワイヤによる影響が見られたため,検 の直列に固定された球において,球が非常に接近した際に, 査領域が狭くなり,球群の相互作用を正確に得ることが困 前方球および後方球の抗力係数が急激に低下することが 難であった.そこで,材質の違う密度の大きな球で実験を 報告されており,本実験においても同様の現象が起きたと 行う予定である.その後,ハイスピードカメラを用いて落 [3] 考えられる . 球運動の詳細な画像を得る予定である.また,トレーサー 粒子,レーザーを用いて PIV 計測を行い,球周りの流れを 観察する予定である. 参考文献 [1] S. Ichikawa, Y. Itamoto, H. Monji, “Drag Force on a Sphere in Lines of Spheres “, Proc. of 8th Int. Conf. on Multiphase Flow, ICMF2013-549, 2013. [2]菊池謙次ら, “水中を落下する球に作用する非定常抵抗 の係数” , 日本機械学会論文集 B 編 79 巻,(2013), pp.151-160. [3]伊藤瞭, “球間隔を詳細に変えた前後 2 球にかかる流体 抗力の計測”平成 26 年度筑波大学卒業論文. 図 3 初期球間隔 60mm における落下速度 流量変動を与えた際の水平管内気液二相流の気泡合体特性 システム情報工学研究科 2 年 濵山 翔太 Email:s1420925@u.tsukuba.ac.jp 指導教員:文字 秀明 1. 緒言 軽水炉では水が冷却材と減速材を兼ねるため、冷却 系内における気泡流のボイド率や流動様式の変動は熱 伝導率や中性子減速能の変化をもたらし炉の性能や安 全性に影響する。そのため地震など非常時事態によっ て炉心に振動が与えられた際の炉内のボイド率及び流 力と流量データの同期計測を行った。 図 3 に気泡長さの定義概略を示す。主流方向の気泡 の長さを気泡長さ dy と定義した。可視化計測部では、 テストセクションの中心を気泡の先端が通過した dy を計測し、気液混合部では、気泡注入部より 8mm の 位置を気泡の先端が通過した dy を計測した。 動様式の変化を把握することは原子炉の運転・制御に とって重要である。 過去の研究において、気液二相流に流量変動を与え た際、先行する気泡に後方の気泡が追いつき、気泡が 合体する様子が観察され、気泡の合体により流動様式 が変化することが示唆されている。 [1][2] そこで本研究では気泡の合体現象に着目し、水平管 内を流れる気液二相流に周期的な正弦波の流量変動を 加えた際の実験を行う。また、流量変動の周波数を変 図 1 実験装置 え、気泡の合体にどのような影響をもたらすか調べる。 2.実験装置及び実験条件 2.1 実験装置 図 1 に実験装置の概略を示す.図 2 は流体加振装置の 概略図を示す。装置はタンク、ポンプ、コリオリ流量計、 圧力計、気泡注入部、可視化部、流体加振装置(ピスト ン-クランク機構)、気液分離部からなり、各部を内径 14mm の配管でつないでいる.タンク内の水をポンプで 流路に送り込み、ピストン-クランク機構により流量変 動を加え、気泡注入部で内径 0.58mm のノズルにより気 泡を注入し、可視化部にて気液二相流の挙動を観測する. 気泡注入部から気液分離部までは透明アクリル円管を 使用し、可視化部では撮影時の画像の歪みを妨げるため に透明アクリル円管にウォータージャケットを取り付 けた.ポンプコントローラによって管路の送り込む水の 流量を一定にしている.加振装置は、ディスク径と変動 周波数を変更することにより、流量変動の調節を可能と している。 2.2 実験条件と計測方法 実験条件を表 1.1、1.2 に示す。作動流体としてイオ ン交換水、気体には窒素ガスを用いた。実際の地震動 で顕著な影響を及ぼす振動周波数の範囲は 0.5~10Hz の間である。今回の実験では、地震動の範囲内である 変動周波数 3、8Hz とし、流量変動量がほとんど一定 となるようクランク径を変更して調節した。 気泡形状をより詳細に取得するためにハイスピード カメラを用いて可視化計測を行った。可視化計測を行 う際、気泡の輪郭の情報をより鮮明に取得するために LED ライトを使用したバックライト法を用いた。撮影 した場所は気泡注入部と可視化部の二箇所である。圧 力と流量を測るために圧力計とコリオリ流量計を用い た。コリオリ流量計はピストン-クランク機構の上流部 と下流部に取り付けてある。流量のデータはロガーを 通して収集した。 本実験では可視化部と気泡注入部での画像取得と圧 図 2 流体加振装置 図 3 気泡長さの定義図 表 1.1 作動流体条件 水温[℃] 作動流体 注入気体 液相見かけ速度 j l[m/s] 20±1 イオン交換水 窒素 0.4 気相見かけ速度 i g[m/s] 0.02 容積比 β 0.05 表 1.2 加振条件 流速変動周波数 f[Hz] 3 流速変動量 v[m/s] ±0.061 8 ±0.064 3. 実験結果および考察 3.1 気泡長さによる評価 図 4 に可視化計測部を 15 秒間で通過した気泡の気泡 長さ確率密度関数を流速変動周波数別に示す。無振動 時に 30 回の気泡合体を可視化観察した結果、気泡長さ dy が 26mm 以上となるプラグ気泡合体が多く確認され た。プラグ気泡合体が起きた範囲を図 4 の黒枠に示す。 図 4 より流速変動周波数 8Hz ではプラグ気泡合体気泡 が少ないことから、あまり起きていないことがわかる。 ここで、周波数別にプラグ気泡合体を比較するために、 図6 0.8 周波数 3Hz では、無振動に比べ、頻度が多いことから 気泡の合体が促進され、8Hz では頻度が少ないことか 周波数を変化させ、各周波数における合体挙動を可 視化し、観察した。図 6 に無振動と変動周波数 3Hz に おける代表的な気泡合体を示す。変動周波数 3Hz では、 流速[m/s] 3.2 可視化計測結果 液相流速 45 後方気泡速度 40 後方気泡長さ 0.6 できた。 0.2 15 10 5 13.2 13.4 速度、後方気泡長さの関係を示す。後方気泡長さ dy 図7 は、液相速度が加速から減速への切り替わり時に気泡 時間 [s] 13.6 0 13.8 気泡速度と気泡長さの関係(3Hz) 後端から前端に向かって伸び始めた。(図 6(a)) 3.3 PIV 計測結果 気泡長さが変形し始める位相における気泡周りの速 度場を PIV 計測で算出し、その結果を図 8 に示す。気 泡後端に液相流速が速い流れが確認された。この流れ が後端から前端に伝わることにより、気泡変形が起き たのではないかと推測される。 0.3 無振動 3Hz 8Hz 0.25 PDF 0.2 図 8 気泡周りの流れ場 4.結言 0.15 気泡の合体現象に着目し、水平管内を流れる気液二 0.1 相流に周期的な正弦波の流量変動を与えた際の実験を 行った結果、以下の知見を得た。 0.05 ・プラグ気泡となる合体は、変動周波数 3Hz で促進さ 0 0 10 20 30 気泡長さdy [mm] 40 プラグ気泡合体 の頻度 図 4 可視化計測部を通過した気泡の気泡長さ分布 0.3 0.2 0.1 れ、8Hz では抑制されることがわかった。 ・変動周波数を与えると、気泡が変形し、合体メカニ ズムに影響を及ぼすことが示唆された。 参考文献 [1] van Wijngaarden、 L. and Biesheuvel: A. Transient Phenomena in Multiphase Flow (1988)、 275-317. [2] Ivan B. Ivanov、 Effect of Surface Mobility on the Dynamic 0 無振動 3Hz 8Hz 変動周波数 図 5 プラグ気泡合体範囲における周波数特性 30 20 0.4 0.3 35 25 0.5 気泡が伸長変形して接近し、合体していることが確認 図 7 に変動周波数 3Hz における液相速度、後方気泡 (a) 0.7 らプラグ気泡合体はほとんど起こっていないと考えら れる。 気泡合体挙動 Behavior (1980)1241-1262 of Thin Liquid Films 長さ [mm] 図 4 における黒枠で囲む頻度を図 5 に示す。 図 5 より、 横縞形固体酸化物形燃料電池における Cr 被毒および酸化還元の影響を考慮した耐久性・信頼性向上 構造エネルギー工学 博士後期過程1年 指導教員 1.研究背景および目的 石田 藤田顕二郎([email protected]) 政義 副指導教員 花田 信子、西岡 牧人 各材料をコーティングし、同様にハーフセルを用いて分極抵抗 燃料電池は 1839 年にイギリスのグローブ卿により実験的に へ与える影響を確認した。ハーフセル試験後は電解質とカソー 実証されて以来、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体高分子形、固体 ド界面の EPMA 測定、合金断面の酸化被膜の観察を SEM/EDX 酸化物形(SOFC)といったタイプの燃料電池が研究されている。 を用いて実施した。 燃料電池は化石燃料から直接電気エネルギーを取り出すため、 2.2 レドックスによる電解質の内部応力への影響 約 1000K 以下の温度帯でカルノー効率を超える理論効率を有 ASC セルにおいてアノードの膜厚を変えたサンプルおよび、 し、2014 年に閣議決定された「エネルギー基本計画」でも環境 アノード側に電解質とほぼ同程度の熱膨張係数である MgO の に優しい分散型発電システムとして導入が期待されている。こ 多孔質材料でアノードを挟む構造としたサンプル、さらにアノ のような燃料電池の中でも SOFC は、他の燃料電池よりも高温 ードに活性層(AFL)を塗布したサンプルの4種類を表2に示す で作動し、最も高い発電効率を実現することが可能である。 とおり作製した。さらに、これらのサンプルを 750℃で 100 時 SOFC は電池(セル)を構成するカソード、電解質、アノードの 間還元、酸化を繰り返し、各状態において XRD 測定を実施する 材料がセラミックスであり、そのセル形状を支持する部材によ ことで、電解質の内部応力を算出し、サンドイッチ構造の効果 って、カソード支持形、電解質支持形、アノード支持形などの種 を検証した。 類に分けられる。近年では効率の面で優位性が高いアノード支 持形 SOFC(Anode supported cell: ASC)の研究が報告[1]されて 表 2 レドックス耐性を評価した ASC の種類 Prepared samples Thickness / mm Cathode Electrolyte Anode 一つは発電時間経過に伴う性能の低下、もう一つは起動停止に Sandwiched ASC w/o AFL 3 LSCF 8YSZ Ni-YSZ 伴うアノードの再酸化によるセルの破壊である。径時劣化につ Sandwiched ASC w/ AFL 3 LSCF 8YSZ Ni-YSZ ASC t = 3 mm 3 LSCF 8YSZ Ni-YSZ ASC t = 0.5 mm 0.5 LSCF 8YSZ Ni-YSZ いる。この ASC タイプの実用化に向けて大きな課題が2つある。 いては、セルに燃料を供給する構造部材に用いられる高 Cr ステ ンレスに含有される Cr が SOFC のカソードの劣化を引き起こ すと報告[2]されている。後者については、レドックスによりア 2.3.横縞形 SOFC セルスタックの耐久性評価 ノードが酸化膨張する現象が報告[3]されている。そこで、本研 耐 Cr 被毒やレドックス耐性を採用できるスタック構造を検 究ではこの2点に着目し、横縞形 SOFC の耐久性向上への影響 討し、横縞形セルスタックを選定、設計、製作した。この横縞形 を検討した。 セルスタックを用いて、連続発電試験およびレドックス耐性評 価を実施し、それぞれの効果を検証した。 2.実験方法 2.1 各種ステンレス鋼上の酸化被膜やコーティング層が SOFC 性能へ与える影響の検討 3.実験結果および考察 3.1 酸化被膜コーティングによる Cr 被毒抑制効果 カソード近傍の部材(セパレーター)が SOFC 性能へ与える影 各種セパレータを用いた分極抵抗の測定結果[4]を図1に示し 響を検討する手段として、ハーフセルによるカソード分極性能 た。化学的安定性が高い(La,Sr)CrO3、アルミナ被膜を形成する の経時的変化を評価した。カソードガスの供給ラインとなるガ 16Cr-3.3Al、Cr を含有しない Ni において分極抵抗は初期から スセパレーターを模した部材の材料は (La,Sr)CrO3、Ni、16Cr- 一定であり良好な結果が得られた。一方、クロミア被膜を形成 3.3Al、Inconel600、SUS430、ZMG232 の6種類を用いた。次 する Inconel600、SUS430、ZMG232 においては初期から分極 いで、ASC と比較的熱膨張係数の近い ZMG232 に表1に示す 抵抗が増加する結果であった。また、試験後のカソードと電解 表1 ステンレス上に製膜したコーティング膜 質界面で EPMA により Cr の存在を確認したことから、カソー ドの分極抵抗増加要因が Cr であると特定した。次に ZMG232 Substrate Coating material Thickness μm Coating method ZMG232 Y2O3 ~2 Spin coating 図2に示した。ZMG232 上に(La,Sr)Co2O3、YSZ をコーティン ZMG232 La2O3 ~2 Spin coating グしたサンプルにおいて分極抵抗の増加抑制効果が確認できた。 ZMG232 Zn2O3 ~2 Spin coating YSZ は 電 気 伝 導 性 が 乏 し い 事 か ら 実 用 的 で は な い が 、 ZMG232 LaAlO3 ~2 Spin coating (La,Sr)Co2O3 をコートすることで同程度の Cr 被毒を抑制する ZMG232 (La,Sr)Co2O4 ~2 Spin coating ことが可能である結果が得られた。これは、次式で示される反 に各種酸化物をコートし、同様の分極性能を評価した結果[5]を 応により Cr 蒸気の発生を抑制しているためによると推定され たことから、応力が緩和されたと考えられる。一方、サンドイッ る。 チ構造の ASC セルにおける内部応力は、初期から酸化還元によ 1.5Cr2O3(s)+3(La,Sr)CoO3(s)→ って、ほぼコンスタントな値を示した。これは、アノードの酸化 3(La,Sr)(Cr,Co)O4+(Cr,Co)3O4+0.25O2 膨張、還元収縮によるサイズ変化をサンドイッチ構造で拘束す ることで、電解質へ圧縮応力を緩和したためと考えられる。 0.5 IR. 0.0 3.3 横縞形 SOFC セルスタックの耐久性評価 SOFC のカソードが Cr 被毒の影響を受けることを最小限に -0.5 -0.5 留め、アノードのサンドイッチ構造を実現することを両立させ (La,Sr)CrO3 16Cr-3.3Al -1.0 -1.0 O.V. Ni IR (V) Overvoltage (V) 0.0 ZMG232 SUS430 Inconle600 (La,Sr)CrO3 Ni 16Cr-3.3Al ZMG232 -1.5 -1.5 SUS430 -2.0 20 40 60 -2.0 100 80 Time (h) 図1 の横縞形 SOFC の連続運転試験による耐久性評価およびレドッ クス耐性評価[6]を実施した。連続運転試験においては、4000 時 間の測定を実施し、0.62%/kh の耐久性を実現した。図 4 に示す 通り、平板形と比較しても、良好な電圧低下傾向を確認した。レ inconel 600 0 る SOFC スタックとして、横縞形 SOFC を設計、製作した。こ ドックス耐性の評価についても、平板形では 1 回目の再酸化で 電解質割れによる発電不能になるのに対し、横縞形 SOFC では ほぼ一定の性能を維持できることを実証した。 各種セパレータを用いたカソード分極 0.90 0.0 (La,Sr)CrO3 YSZ 0.85 ASC with ZMG232 coated by LSCO 0.80 Voltage (V) Overvoltage (V) -0.5 (La,Sr)Co2O3 -1.0 Y2O3 ZMG232 -1.5 ASC with ZMG232 0.75 0.70 Segmented-in-series -2.0 0.65 LaAlO3 La2O3 0.60 -2.5 0 10 20 30 40 0 50 50 Time (h) 図2 100 150 Time (h) 図4 コーティングセパレータを用いたカソード 分極への影響 横縞形と平板形の耐久性評価結果 4.結論 3.2 レドックスによる電解質の内部応力への影響 SOFC の実用化に向けての主要課題である耐久性とレドック 各サンプルの酸化還元に伴う電解質の内部応力の測定結果[3] ス耐性に着目し、次の結論を得た。 を図3に示した。2種類の膜厚の ASC のいずれにおいても電解 ・SOFC の性能劣化要因の主要因が Cr 被毒であることを数種 質の初期内部応力は 600MPa を超える圧縮応力が発生していた 類の合金セパレータを用いた実験で実証した。更に Cr 被毒はカ が、アノードの還元により急激に内部応力が緩和し、再酸化で ソードの分極性能低下 を引き起こすが、 ステンレス合金に 更に応力が低下した。通常であれば、アノードの酸化膨張によ (La,Sr)Co2O3 等をコーティングすることで耐久性を向上させる り応力は圧縮側になるが、この時点で電解質クラックが発生し 事が可能であることを示した。 ・一般的な ASC はアノードの再酸化時の膨張により電解質にク 0 ラックを生じるが、アノードを電解質とそれと同等の熱膨張係 t = 0.5 mm Residual stress / MPa -100 t = 3 mm ASCs 数を有する層でサンドイッチすることで、レドックス耐性が向 上することを示した。 -200 ・これらの2つの知見を融合させた横縞形 SOFC セルスタック w/ AFL -300 を製作し、耐久性とレッドクス耐性が両立することを示した。 w/o AFL -400 参考文献 Sandwiched ASC -500 [1] D.A. Osinkin et al., J. Power Sources 288 (2015) 20. -600 [2] S. Taniguchi et al., J. Power Sources, 55 (1995) 73. [3] K. Fujita et al., J. Power Sources 196 (2010) 9022. -700 0 図3 1 2 3 4 5 Number of redox cyclings. 6 レドックスに伴う電解質の内部応力測定結果 [4] K. Fujita et al., J. Power Sources 131 (2004) 261. [5] K. Fujita et al., J. Power Sources 131 (2004) 270. [6] K. Fujita et al, J. Power Sources 193 (2009) 130.
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