平成18年度(2006) 香小研大会

第 5 学 年
1
単元名
伝えよう!心に残った物語
2
単元が目指す「語る子供」
国 語 科 学 習 指 導 案
−注文の多い料理店・昔話をしょうかいしよう−
○ 色や擬態語などの表現の工夫に注目したり,他の物語との比べ読みをしたりして,登場人物に対す
る自分の考えを深めることができる。
○ 作品から読み取ったことや自分の思いをもとに,地域の昔話をこくぶんじ荘のお年寄りに対して,
語りで表現することができる。
3
単元について
(1)本単元は,登場人物の変容を捉え,その人物に対する自分の考えや思いを明らかにし,表現方法
を工夫して効果的に伝えることを目指している。これによって,「C読むこと」の「ウ
登場人物
の心情や場面についての描写など,優れた叙述を味わいながら読むこと」につながる。教材文「注
文の多い料理店」は,巧妙なしかけにより,自分たちの身に付けている,いわゆる「文明」を一つ
一つはぎ取られていく自己中心的な二人の紳士の愚かな姿を描いている。自己の存在を意識し始め,
自己主張も高まってきているこの時期の児童に,人間を見つめ直す活発な活動を引き出してくれる
この作品に出会うことは,大変価値があると思われる。
まず,教材文「注文の多い料理店」の「作品の星座図」作りによる客観的な読みによって全体を
つかむ。次に「作品の心」を支える文に思いを関わらせながら人物像を読み取っていく。そうする
ことで,児童一人一人の読みを確かなものに高めていくことができるだろう。そして,その後の自
分が選んだ物語においても,深い読みが可能になり,語り手の表情や声に変化が生まれ,価値ある
「語り」につながっていくものであると考える。最終的には,ここで学んだことを生かして「あか
もん学習」(総合的な学習の時間)で取り組んでいるボランティアとして,心に残った昔話をお年寄
りに「語り」で紹介する活動へとつないでいく。このような明確な相手意識のある表現活動の場を
設けることにより,本校の目指す「語る子供」に少しでも近づけていきたいと考える。
(2)公開1
本学級の児童の多くは,物語を好んでいる。(物語文・・・83%,説明文・・・16%)。物語文の学習
が好きな理由として,
「気持ちや様子を想像するのが好きだから」
「クライマックスがあるから」な
どを挙げている。本文の叙述を根拠として自分で想像することが楽しいと感じている児童が多い。
説明文に比べ,物語文の方が読むことに抵抗がすくないようである。また,音読や暗唱をすること
が好きな児童は 40%,苦手な児童は 60%である。人前で声に出して表現する活動に苦手意識をも
っている児童の方が多い。
公開2
本学級の児童は,77%が物語教材を好んでおり,登場人物の気持ちを想像するのが楽しいと感
じている。
「作品の星座図(客観編)」作りは,5年生になって3回目であり,物語の学習に星座図
作りは大切だという意識をもっている児童が多い。また,
「作品の星座図が書ける。」と答える児童
は74%である。しかし,自力読みの力の個人差は大きく,支援を必要としている者も数名いる。
表現活動については,「音読や暗唱,語りをすることが好き。」と答える児童が39%しかおらず,
人前で表現することを苦手とする者が多い。
(3)①
意欲的に表現活動に取り組むための「おはなしの部屋」の方の朗読会
−仮説1より−
本単元での導入で,「おはなしの部屋」の方々の「注文の多い料理店」の朗読を聞くという活動
を設定している。「おはなしの部屋」の方々は,様々な学校などで朗読会のボランティアをしてい
る団体である。夏休みの高松市の夏季研修会(国語部会)で,「注文の多い料理店」の朗読を聞か
せていただく機会があった。その朗読は,語り手が登場人物になりきり,また,声の表情で場面の
様子が分かるすばらしいものであった。そこで,今回子供たちのこの作品との初めての出会いを,
「おはなしの部屋」の方にお願いすることにした。「おはなしの部屋」の方々の朗読を聞いて,自
分たちの表現活動の目標になり,意欲づけになるのではないかと考えたからである。「こんな風に
表現したい。
」というめあてをもつことは,深い読み取りへつながっていくものであると考える。
②
多様な読みを導き出すための比べ読み
−仮説2より−
「注文の多い料理店」を深く読み取るために,様々な比べ読みを行う。1つ目は,場面ごとの比
べ読みである。終結場面と導入場面を対比することによって,変化しない二人の紳士の人物像を深
く読み取っていく。紳士たちは,導入場面の叙述から,見栄っ張りで傲慢な人物だと分かる。しか
し,クライマックス場面の自分がねらわれるという恐ろしい体験をしたにもかかわらず,全く懲り
ることなく,終結場面においてその性格は変化していない。これは場面を対比したことによって理
解できることである。
また,2つ目は他の物語との比べ読みである。「注文の多い料理店」では,既習の「ちかい」と
の比べ読みを行う。場面ごとの比べ読みによって,二人の紳士の人物像の変化は全く見られないこ
とが理解できる。しかし,気持ちはどうだろう。今後,同じような恐ろしい目に遭わないためにも,
もう二度と狩りには行かない,また,命を粗末にするのはやめようという気持ちに変化したのでは
ないだろうか。このように気持ちが変化したという点では「ちかい」の主人公ヤミーナと同じであ
る。「ちかい」と類比することによって紳士の気持ちの変化に気づくのではないかと考える。
どちらの比べ読みの際にも,物語を構造的に表した「作品の星座図」を用い,比べる対象(場面,
物語)との類似点,相違点を見つけることにより,効果的に比べ読みを行っていこうと考えている。
③
4
読み取ったことを効果的に伝えるための「語り」−研究仮説3より−
「語り」の基本は,その話から語り手が思い描いた世界を聞き手に伝えることである。また,原
文を暗唱して視線を聞き手に直接向けながら表現するので,相手意識は高まり,聞き手と一体とな
って行われる活動である。自分の心に残った物語の想像世界を伝えるためには,より効果的な方法
であると考える。また,暗唱をする過程で,物語の叙述を味わうことができるようになる。宮沢賢
治の作品は,その擬態語・擬音語が特徴的であり,繰り返し声に出して読むことによってその面白
さが感じられる面がある。しかし,今回初めて「語り」に取り組むので,「注文の多い料理店」に
登場する二人の紳士の心情を読み取りながら,「語り」での表現方法の工夫について考えさせてい
きたい。
さらに,「注文の多い料理店」で身につけた「語り」の技法(視線,表情,速さ,声量)を生か
して,昔話の「語り」に取り組ませたい。教材文「昔話をしょうかいしよう」にある補足や繰り返
し,身ぶり手ぶりなどの技法にも目をつけて,自分たちの「語り」に取り入れさせたいと考えてい
る。「注文の多い料理店」のような文学作品は,文章に手を加えることは控えたいが,人々によっ
て語り継がれてきた音声表現の作品である昔話については可能である。なお,「語り」を行う昔話
は,香川県や国分寺町に伝わる昔話や民話の中から,児童が心に残った話を選択させるようにする。
また,今回の「語り」の表現相手は,お年寄りである。子供たちは,1 学期に 1 度こくぶんじ荘
を訪問して,お年寄りの方々と交流している。その時,体の不自由なお年寄りの方々と心を通わせ
るような交流をする事の難しさを感じている。寝たきりであったり,手先が不自由であったりする
お年寄りの方々に心と心のふれあいを実現させるためには,何か物を使ってのふれあいではなく,
体から訴えかけるものでのふれあいが大切なのではないかと考える。そこで,本単元では,目と目
をつないで行う「語り」を学習し,それを使って,お年寄りの方々と交流しようと考えている。
単元の評価規準
関心・意欲・態度
読む
進んで教材文を読み,登場人
6つの点や物語の設定を捉
物の言動から生き方や考え方
えることができる。表現の工夫
を想像し,表現活動(語り)に
を捉え,情景や登場人物の心情
生かそうとしている。
を読み取っている。
言語事項
語感,言葉の使い方に対する
感覚を身に付けている。
5
学習指導計画(総時数18時間)
時
学習活動
1
一 次
2
3
4
5
6
7
二
8
次
9
公
開
1
10
11
12
13
14
三
15
「おはなしの部屋」の方々の
朗読を聞き,自分の語りへの意
欲をもつ。
「注文の多い料理店」を聞い
て,初発の感想を書く。
物語の設定を書く。
場面分けをし,場面タイトル
をつけ,6つの点を見つける。
5つの点(クライマックス以
外)について,交流,検討し,
決定する。
導入場面を読み,2 人の紳士
の人物像を読み取る。
展開場面を読み,6まいの戸
に書かれた11の注文に従う紳
士の気持ちを読み取る。
クライマックス場面,終結場
面を読み取り,二人の紳士の気
持ちを想像する。
終結場面を「ちかい」と比べ
読みをしながら読み取り,「語
り」の仕方を考える。
クライマックス場面を読み返
し,クライマックスについて話
し合い,決定する。
物語のあらすじ,表現の工夫
(色,擬態語,しかけ)をまと
める。
「おはなしの部屋」の方に「語
り」を聞いてもらうために,ビ
デオレターを作り,送る。
紹介したい昔話を選び,作品
の星座図を作る。
次
語りの台本を作り,語りの練
習をする。
17
公
開
2
補足や繰り返しの工夫を加え
て語りの練習をする。
四次
合
他者に向かって
読み
組み
読み
組み
取る
立て
取る
立て
力
る力
力
る力
○
○
○
○
○
「おはなしの部屋」の方々の朗読を聞き,自
分たちもこくぶんじ荘の方に表現しようとい
う意欲をもっている。
(関)
登場人物に対する自分なりの感想を書いて
いる。
(関)
物語の設定(時,場,人物,視点)を捉え
ている。
(読)
自分なりに考えて6つの点を見つけ,場面
タイトルを付けている。
(読)
5つの点について自分の考えを説明し,友
達の意見と比べ,検討,決定している。
(読)
西洋料理店の中を喜んで進んでいる紳士の
思い込みや勝手な解釈を表現の工夫を押さえ
ながら読んでいる。
(読)
都合よく考えていた紳士が,注文されてい
たことに気づいて,動揺する様子を読んでい
る。
(読)
クライマックスの前後の紳士の言動の対
比,前物語単元「ちかい」との対比をしなが
ら読み,紳士の心情を想像している。 (読)
○
○
○
○
○
本時の評価規準
紳士の性格が分かる叙述を見つけ出してい
る。
(読)
○
最も響いた一文を選び,作品
の心を考え,物語の星座図(主
観編)を書く。
作品の星座図(主観編)をも
とに,友達と交流する。
16
総
文章に向かって
○
○
○
同じように「作品の心」を捉えた友達とペ
アになり,自分の読みを深めている。 (読)
○
○
○
○
○
クライマックスに対する自分の考えを友達
と話し合い,根拠を明確にして決定している。
(読)
重要な事柄を落とさず,あらすじを書いて
いる。
(読)
おもしろいと感じた表現や工夫していると
思った表現を捉えている。
(読)
最も響いた一文をもとに作品の心をまとめ
ている。
(読)
聞き手が場面の様子を思い浮かべることが
できるよう,工夫しながら「語り」をしてい
る。
(読)
自分が選んだ物語の作品の星座図を書き,
物語の大体の構成を理解している。 (読)
○
語り方の工夫を書き,それを生かして練習
している。
(読)
○
友達と交流して,自分の語り方をより工夫
している。
(読)
こくぶんじ荘に行って,語りのボランティアをする。
6
本時の学習指導案(公開1)
(1) 目標
顔が紙くずのようにくしゃくしゃになった二人の紳士の様子や心情を読み取り,語りをする際の気持ちと表情を決めることができる。
(2) 学習指導過程
学習活動
(前時)
終結場面の二人の紳士の
気持ちを想像する。
1
本時の学習課題をつか
む。
2
紙くずのようになった
顔がなぜ,元通りになら
なかったのか考える。
3
語る時の表情を考え
る。
4
表情に注意し,語りの
練習をし,聞き合う。
○語る子供を育成するために
児童の意識の流れ
助かってよかった。早
どうして顔が戻らな
く東京に帰ろう。
いんだろう。
怖かった。もう二度と
狩りにはいかないよ。
支援活動
・クライマックス場面の紳士の気持ちと
対比させながら,終結場面の二人の紳
士の気持ちを想像しておく。
・語りの表情を記号で表せるよう,表情
の記号を提示する。
・
「終わり」の一文は地の文なので,登場
人物ではなく,語り手の気持ちを考え
・二人の紳士の顔が戻らないのは,かわいそうだ。だから,悲しい表情で語ろう。
なければならないことを確認する。
・二人の紳士は後悔している。かわいそうだから,悲しい表情で語ろう。
・語り手になりきって(語り手=自分)
として,語り手の気持ちを考えるよう
助言する。
なぜ,顔が元通りにならなかったのだろう。
・二人の紳士の導入場面と終結場面で変
わっていないところに気づかせるため
・ 山猫軒での体験が,あまりにも恐ろしかったから,そのショックでなおらな
本文の叙述に着目するよう助言する。
いんだ。
・見つけた紳士の叙述を人物像が分かる
・ 恐怖感がのこったままだから,顔もくしゃくしゃのままなんだ。
もの,気持ちが分かるものに分類して
でも,見栄っ張りな性格,傲慢さは,変わっていないよ。だから,元にもどら
板書する。
ないんだ。きっと罰があたったんだ。
○人物像の変化が分かりやすいように,
二人の紳士の人物像を追っている作品
の星座図を提示しておく。
「ちかい」との比べ読み
○「ちかい」の作品の星座図を提示して
おき,意識して比べ読みができるよう
紳士たちの性格は,何一つ変わっ
生き物の命を粗末にする気持ちは,
にする。
ていないよ。
なくなったんじゃないかな。
○「ちかい」との類似点を見つけること
で,児童が選ぶ表情が一つに偏らない
ようにする。
○自分がどの表情で語るか分かりやすく
二人の紳士は,全然こ
きっと紳士たちは,反省し
全くこりていない二
するため,名前磁石を黒板に貼らせ,
りていない。顔が元に戻 て,二度と狩りには行かない 人の紳士は許せない。
自分の立場をはっきりさせる。
らなかったのは仕方がな よ。顔が元通りにならなかっ だから,怒った顔で語
(評) どの表情で語るかを決め,その
い。いい気味だ。だから, たのは,かわいそうだな。だ ろう。
理由をノートに書くことができる。
笑って語ろう。
から,悲しそうな顔で語ろう。
・なぜその表情を選んだか理由を述べ,
その表情での語りを聞き合う時間を設
読み取り方の違いで,語りの仕方も変わってくるのだな。
ける。
「終わり」の一文を語る時の表情を考えよう。