講演内容 1.鉄筋コンクリート構造物の劣化 2.表面

道路橋床板の長寿命化対策に関わる技術講習会
【第4部】
「アクリルゴム系表面被覆材による
コンクリート構造物の劣化・剥離防止工法
平成27年5月8日(金)
名古屋国際センター
東亞合成株式会社
博士(工学) 谷川 伸
1
講演内容
1.鉄筋コンクリート構造物の劣化
2.表面被覆材による構造物の長寿命化
(1)要求性能と適用部位
(2)化学組成と耐久性
(3)コンクリートの劣化防止に対する実証試験
(4)施工事例と耐用年数、規格適合性
2
1.鉄筋コンクリート構造物の劣化
3
コンクリート耐久性神話の崩壊
1981年 荒廃するアメリカ(America in Ruins)発刊
*米国では日本より30年早い1980年に多く
の道路施設が高齢化
1984年 コンクリートクライシス(NHK特集)
*永久的と言われたコンクリート構造物
の早期劣化 (塩害・アルカリ骨材反応)
2014年 インフラ元年
1950~60年代の15千橋が2010年代に高齢化
4
鉄筋コンクリートの劣化
劣化は水が絡む化学反応:アレニウス反応速度式
中性化
塩害
アル骨
凍害
○(鉄筋腐食)
○
○
○
○
現 象
原
因
水
炭酸ガス
塩分
酸素
○
○
○
反応性骨材
通常劣化
早期劣化
全ての劣化に水が絡んでいる
5
鉄筋コンクリートの劣化速度
2.塩害
(腐食)
3.アルカリ骨材反応
劣
化
4.凍害
1.中性化
1.中性化 d=kt1/2
2.塩害
d=t0+kta
拡散律速
a=0.5 、
反応律速 a=1.0
3.アルカリ骨材反応
d=t0+ktb (b>1.0)
4.凍害: d=t0+kt
d:劣化度
t0:開始
T:経過時間
k:個々のメカニズム
時 間
とコンクリートで定
まる定数
6
コンクリートの抱える問題
(1) 不均一でポーラスな材料(細孔構造)
マイクロクラック、マイクロポア
(2)コンクリートのパラドックス
鉄筋を不動態 ⇔ 腐食因子の浸透を許す
(3) ひび割れの発生は免れない
乾燥収縮ひび割れは宿命
7
2.表面被覆材による構造物の
長寿命化
その(1)
要求性能と適用部位
8
コンクリート保護効果を示す実証
ASRを受けたゴム堰ダム(全景)
ゴム堰で覆われた
コンクリート部
9
劣化要因遮断の効果(建設14年後)
(水、日射遮断)ASRの進行を抑制:「劣化環境の緩和」
ゴム堰取り外し部のコンクリート(ひび割れ少)
10
表面被覆材への期待
1.外的劣化要因の遮断
中性化
CO2
塩害
アルカリ骨材反応
凍害
遮塩性(Cl-) 防水・透湿・(遮塩性)
防水
*鉄筋腐食:必須要因(水・酸素)+塩分(触媒的作用)
→劣化環境の緩和
2.剥離防止
鉄筋腐食膨張、ひび割れの拡大による
かぶりコンクリートのはく離・落下を防止
11
アクリルゴム系塗膜(約1mm厚さ)の拡散抵抗性
劣化因子
透水性(ml)
空気透過率(cc/mhr/mmHg)
塩化物イオン(cm2/sec)
水蒸気透過(g/m2/day)
測定値
相当コンクリート厚さ
0ml
0.7~0.8m
2.8×10-4
1~5m
-11
1.4×10
1~4m
12.5* (水蒸気は通す)
0.04m(4cm)
100%伸び時の拡散抵抗性
1/4(塩分)~1/2(空気)に低下
*阪神高速道路規格(水蒸気透過過性)
アルカリ骨材反応に対応
12
コンクリート橋:表面被覆工法の適用部位
外・内高覧
桁
橋脚
床板下面
桁
13
2.表面被覆材による構造物の長寿命化
その(2)
化学組成と耐久性
14
表面被覆材の種類
1.建築物
JIS A 6909 「建築仕上塗材」 合成樹脂(主にアクリル系)
JIS A 6021 「建築用塗膜防水材(外壁用)」
1) アクリルゴム系、2) ウレタンゴム系、3) クロロプレンゴム系、4) シリコンゴム系
2.土木構造物(コンクリート橋等)
1) エポキシ樹脂系
2) 弾性エポキシ樹脂系
3) アクリルゴム系
4) ウレタンゴム系、
5) ポリブタジエンゴム系
6)ビニルエステル系、
7 )クロロプレンゴム系
8)ポリマーセメントモルタル系
15
アクリルゴム系表面被覆材の種別
1. アクリルゴム系 (水性1成分系)
*高粘度、既調合の液状
2.
無機・有機ハイブリッド形
アクリルゴム系 (水性2成分系)
*アクリルゴム系ベース(低粘度液状)
+セッター(紛状)→現場で混合調合
16
アクリルゴム塗膜形成モデル
(水中分散ゴムエマルション粒子の融着)
17
アクリルゴム塗膜の伸び性能(低温~高温)
低温でも伸びる!
アクリルモノマー
ガラス転移温度
アクリルゴム
高級アクリル酸エステル
-80℃~-75℃
アクリル樹脂
低級アクリル酸エステル
-10℃~+30℃
アクリル樹脂とアクリルゴムはモノマーの違いである。
18
アクリルゴムの化学結合に基づく耐候性
構 造
式
名 称
劣化理由
ポリブタジエン
主構造に二重結合を持つ
と隣の原子が弱くなる
エポキシ系
構造中にベンゼン環があ
ると弱くなる
ウレタン系
アクリルゴム系
構造中にC-Nのような弱
い結合があると弱くなる
アクリルゴムは、主構造に
二重結合やベンゼン環等、
弱くなる結合がない 19
表面被覆材の化学結合エネルギーと紫外線劣化
*紫外線劣化は、ポリマーの化学結合エネルギーで決まる。
・アクリルゴムの主鎖(-C-C-結合)
351kJ/mol
・ウレタンゴム(-CONH-)の主鎖(- C-N-結合)
288kJ/mol
*ウレタン結合の化学結合エネルギーは、アクリルの約82%
と弱い。(288/351=0.82)
20
アクリルゴム/ウレタンゴム/ポリブタジエンゴム
オゾン・紫外線劣化
オゾナイド結合から破断
21
2.表面被覆材による構造物の長寿命化
その(3)
コンクリートの劣化防止に対する
実証試験
22
アクリルゴム系保護塗膜
による塩分浸透防止
シェフィールド大学 Swamy教授、
港湾技研 濱田主研との共同研究(1990~ )
W/C:0.45(No.1)
0.60(No.2)
0.75(No.3)の3水準
23
コンクリート造の劣化防止に関する実証実験
(1)塩害防止
1)コンクリート中への塩分浸透
(英国シェフィールド大学/港湾技研)
2)RC構造物を用いた沖縄暴露実験(琉球大学)
(2)アルカリ骨材反応(ASR)防止
1)異なる自然環境:内陸/海岸(金沢大学)
2)持続荷重下でのASR抑制(シェフィールド大学/港湾技研)
3)アクリルゴムとエポキシ樹脂との抑制効果の違い
24
沖縄塩害暴露試験 (1984年開始)
琉球大学 大城教授との共同研究(1984~ )
25
沖縄海岸暴露
暴露10年後の浸透塩分量
被覆前4ヶ月の浸透塩分
日本建築学会標準仕様書 JASS 5 「コンクリート工事」
JASS 5N 「原子力発電所施設における鉄筋コンクリート工事」
“海水の作用を受けるコンクリート”の項に引用
26
アルカリ骨材反応防止
異なる自然環境下での効果
金沢大学 川村教授との共同研究
27
ASR屋上暴露(8.6年後)
非保護
アクリルゴム保護
28
持続荷重下でのASR膨張圧低減効果(はり供試体)
シェフィールド大学 Swamy教授、港湾技研 濱田主研との共同研究
B1 被覆なし×乾燥
B2 被覆×4%塩水
B3 被覆なし×4%塩水
B4 暴露中に被覆×4%塩水
仮想外力=ASR膨張圧(4.8N/mm2)
29
持続荷重下でのASR膨張圧低減効果(柱供試体)
シェフィールド大学 Swamy教授、港湾技研 濱田主研との共同研究
C1 被覆なし×乾燥
C4 被覆なし×4%塩水
仮想外力=ASR膨張圧(7.5N/mm2)
C2 被覆×4%塩水
C3 暴露中に被覆×4%塩水
30
ASR抑制効果:アクリルゴム/エポキシとの比較
G.P.Mallet 著 (技報堂出版1997)
望月、上田、宮川共訳 プレストレストコンクリート技術協会
PC技術標準研究委員会・耐久性向上分科会 監修
コンクリートコンクリート橋のリハビリテーション(記載)
“SwamyとTanikawa(1992)は、室外のほかに3つの苛酷な促進環境に暴露
したアクリルゴムコーティングの効果に関するデータを発表している。
高弾性アクリルゴムがエポキシコーティングよりも効果的であり、もとのコン
クリート強度の約80%の強度を保持していた。”
透湿性:アクリルゴム
エポキシ樹脂
12.5g/m2・日
3.8g/m2・日
阪神高速道路規格(平成元年) アルカリ骨材反応 F種防水系
5~15g/m2・日(可) 31
2.表面被覆材による構造物の長寿命化
その(4)
施工事例/耐用年数/規格対応
視認幅(現場管理)
32
表面被覆材の暴露 2年(駒井ハルテック
富津工場)
アクリルゴム
エポキシ樹脂
ウレタンゴム
33
表面被覆材 暴露2年
( 2012年3月~2014年1月:駒井ハルテック 富津工場)
アクリルゴム系
エポキシ樹脂
ウレタンゴム系
はく離
異常なし
塗膜の破断・剥離
塗膜の割れ
34
施工事例:大阪市交通局地下鉄中央線 高架構造物改良工事
中塗材塗布
施工数量:Z-X(25m2)
メッシュ貼り付け
下塗材塗布
Z-Y(25m2)
①中塗材接着塗布
施工時期:2011年4月
壁高欄内面の表面保護
右写真はメッシュ施工のZ-X工法を
示す。
標準仕様(水系タイプ)
工程
下地処理
鉄筋防錆
断面修復
使用材料
()内は標準使用量 kg/m2
アロンカチオクリート
(必要に応じて)
施工方法
アクリル樹脂
ポリマー
ポリマーセメント
水系エポキシ
樹脂
水系アクリルゴム
ビニロン樹脂
水系アクリルゴム
1
下塗材塗布
2
中塗材塗布
メッシュ張付け
アロンブルコート A-450X(0.5)
*ビニロンメッシュ 150K(1.1)
*アロンブルコート A-450 X(0.5)
3
中塗材塗布
アロンブルコート A-450 X(1.0)
*の場合使用量は[1.5]
水系アクリルゴム
4
上塗材塗布
アロンブルコート T-1000(0.2)
水系アクリル
シリコン樹脂
アロンブルコート P-300(0.1)
劣化防止(Z-Y)仕様の場合は,*印材料を省略し、[ ]の使用量とする.
はけ
こて
中塗材塗布
中塗材塗布
メッシュ貼り付け
メッシュ貼り付け
②メッシュ貼り付け
①中塗材接着塗布
ローラー
こて
*ローラ
こて
ローラー
エア吹
ローラー
エア吹
中塗材塗布
上塗材塗布
スプレー
35
兵庫県網干大橋
橋側歩道橋 補修工事
Z-X工法 71m2(2011.8)
36
35
剥落防止 Z-X工法 (稲里西高架橋)
国交省関東地方整備局(長野県) 4,000m2, 2012.9
37
アクリゴム系塗膜の施工実績
長寿命化への貢献
本州四国連絡橋(瀬戸大橋)
南北備讃大橋アンカーレイジ
100年後に塩分が1.2kg/m3を超えると想
定される範囲を施工(2008年施工)
23年間の実績
岩黒島橋、櫃石島橋のケーソン部
ケーソン上部に施工
18年経過後の被覆外観
38
本州四国連絡橋における耐久性の確認
コンクリートケーソンに0.2~0.5mm幅のひび割れが生じ(写真-1)、
1991年に上面と側面に防水工工事として施工した。
写真-1
施工前のひび割れ部処理状況
写真-2
17年後のアクリルゴム塗膜状況
塗膜採取で、密着性良好・ひび割れ追従性良好!
を確認
<ひび割れ追従性試験>
初期: 6.5mm
17年後: 3.2mm
39
建物外壁から採取したアクリルゴム系
防水塗膜のひび割れ追従性(32年)
7
下地ひび割れ追従幅 (mm)
6
塗り重ねによるリフレッシュ
5
4
3
2
1
0
0
5
10
15
20
25
30
35
40
経過年数 (年)
40
表面被覆材の規格(その1)
1. 国土交通省関連の規格
(1) (社)日本道路協会(国交省関連)
道路橋の塩害対策指針(案)・同解説
(2) 建設省総プロ (財)土木研究センター
1)塩害を受けるおそれのあるコンクリート構造物
の表面被覆材
2)アルカリ骨材反応による劣化を受けたコンクリート
の表面被覆材の規格値と測定値
41
表面被覆材の規格(その2)
2. 東日本・中日本・西日本高速道路(株)(旧 道路公団)
(1)はく落防止 、(2)コンクリート表面被覆材
3. 首都高速道路(株)
(1) はく落防止 、(2)既設コンクリート塗装(兼はく落防止)
(3)既設コンクリート塗装
4. 阪神高速道路(株)
予防保全、中防食(B,C種)、高耐久(D種)、耐汚染(E種)、
ASR(F種)
42
アロンブルコートZ-X(劣化+剥落防止),Z-Y工法(劣化防止)
1. 国土交通省(道路橋の塩害対策指針(案))
【A種】 PC部材 遮塩性(mg/cm2・日) 10-2以下、 伸び1%以上
【B種】 RC部材
〃
10-2以下伸び4%以上
【C種】 塗り替えが難しい場所や著しく腐食される部分
遮塩性(mg/cm2・日) 10-3以下、 伸び1%以上
2. NEXCO(東日本・中日本・西日本高速道路(株))規格(旧道路公団)
・押抜き試験 1.5 kN以上、変位10mm以上
・中性化防止 1mm以下 ・遮塩性 5×10-3 mg/cm2・日以下
・ひび割れ追従性 伸び0.4mm以上
*水蒸気透過性 5.0mg/cm2・日以下 =5 0g/m2/day以下
アクリルゴム 12.5g/m2/day (NEXCOに適合)
3. JR
【A種】
【B種】
【C種】
(東海道新幹線コンクリート構造物維持管理技術)
高架橋ハンチRC桁部 ひび割れ追従性 0.6mm以上
高架橋中央スラブ
〃
0.4mm以上
はねだしスラブ 押抜き試験 1.5kN以上、変位10mm以上
43
押し抜き試験(NEXCO試験)
6.0
アクリルゴム系(アロンブルコート Z–X)
押しぬき荷重(kN)
5.0
4.0
Push-out
load(KN)
押しぬき荷重(kN)
変形性能:大
塗膜が柔らかく、ゴムの
性質が現れ、荷重が大き
くなるにつれて変形が大
きくなる弾性的性格があ
る。
変位50mmに追従
(エポキシの2.5倍)
6.0
5.0
4.0
3.0
3.0
2.0
1.0
2.0
1.0
0.0
0
0.0
10
エポキシ樹脂系
20
30
Push-out
load(KN)
押しぬき荷重(kN)
押しぬき荷 重(kN)
40
50
変位20mmに追従
5.0
4.0
4.0
3.0
NXCO規格
10mm以上
2.0
3.0
1.0
2.0
0.0
0
1.0
維持管理上、小さな損傷状態から変形を目視で
観測することができ、早期に対策を行うことがで
きる。
50
変位(mm)
6.0
6.0
5.0
変形性能:小
塗膜が固く、変形が小さ
い段階で大きな荷重を支
えるが、その後は脆性的
な破壊をする。
40
変位(mm)
10Displacement(mm)
20
30
0
10
20
30
40
50
変位(mm)
Displacement(mm)
0.0
0
10
20
30
40
50
変位(mm)
44
44
(株)駒井ハルテック 梁の曲げ試験によるひび割れの視認性確認
20150306
Z-X工法(メッシュあり)
ひび割れ
追従状態
(視認可能)
アロンMDカラーSiの割れ
ひび割れ
Z-Y工法(メッシュなし)
アロン水性Siの剥がれ
梁試験体
ひび割れ
追従状態
(視認可能)
ひび割れ
確認用試験体(今回設置)
45
ひび割れ追従性と視認幅
劣化防止
Z-Y
膜厚
580μ
荷重 (kN)
7.6
視認ひび割れ(mm) 0.21
破断ひび割れ(mm) 1.35
剥落防止
Z-X
エポキシ系
700μ
90μ
7.2
7.0
0.93
-
破断せず
0.23
*Z-Y ひび割れと同時に視認可
*Z-X ひび割れ幅が0.9mmで視認可
*エポキシ ひび割れ発生と同時に破断
46
表面被覆材 3つの原則
1. 膜厚があること
2. 柔軟性があること
3. 塗膜自体の耐久性が最低10年はあること
ご清聴ありがとうございました。
コンクリート構造物の「長寿命化」に貢献
株式会社駒井ハルテック
東亞合成株式会社
47