White Paper 高性能オシロスコープにおける DSP John J. Pickerd Systems Engineering Tektronix, Inc. Beaverton, Oregon 97077, USA 要約:デジタル信号処理の革命は、汎用のデジタル信号プロセッサが登場し始めた 1980 年ごろに始まりました。それ以来、DSP( デジタル・シグナル・プロセッサ)は現代の様々なエレクトロニクス機器に組込まれてきましたが、オシロスコープも例外ではありません。 この時期から、デジタル・ストレージ・オシロスコープがほぼ全面的にアナログ・オシロスコープに取って代わるようになりました。デジタル・ ストレージ・オシロスコープは、アクイジション・モード、アベレージング、補間、表示、帯域幅拡張フィルタ、光リファレンス・レシーバ、マ スク・テスト、測定、波形演算、FFT スペクトル解析、およびその他のアプリケーションで DSP を使用します。本資料では、帯域幅 拡張、光リファレンス・レシーバ、および補間の様々な属性について説明します。DSP アプリケーションでは、現在のオシロスコープ・テ クノロジで使用できる帯域幅を 15GHz まで引き上げることができます。 1.0 はじめに 過去 25 年にわたり、デジタル信号処理は、エレクトロニクス産業のほぼすべての分野に進出してきました。その傾向は、真に汎用 的な最初の DSP マイクロプロセッサが広く入手可能になった 1980 年ごろに始まりました。それ以来、3 大オシロスコープ・メーカはア ナログ・オシロスコープの設計を完全に中止し、今ではデジタル・ストレージ・オシロスコープ(DSO)だけを製造しています。しかし、 DSO のフロントエンドのプリアンプは、A/D コンバータまでは当然ながらアナログです。帯域幅は従来、プリアンプと A/D コンバータのア ナログ帯域幅として規定されてきました。しかし技術が進歩するにつれて、オシロスコープ・チャンネルの振幅と位相応答の拡張およ び補正のために、デジタル・フィルタ・アルゴリズムが適用されるようになりました。 図 1. 4 つのチャンネルを持つ DSO のブロック図に、アナログ・ブロックと DSP ブロックが示されています。 DSP を使用する理由:デジタル処理では、一旦信号が取込まれると、アナログ回路に関連するハードウェア・コンポーネントの公差 、温度変化、およびエージングに影響されません。またデジタル・ドメインでは、アナログ・ドメインよりも複雑な処理のアルゴリズムを採 用することができます。具体的な例として、FFT や、多数の極とゼロを持つ任意のフィルタがあります。任意フィルタは、帯域幅拡張と 光リファレンス・レシーバに使用されます。DSO に組込まれるその他の DSP アルゴリズムとして、補間、アベレージング、測定、波形 の演算機能、ET(等化時間)アクイジション、表示処理などがあります。 後述するように、アナログ処理とデジタル処理の組み合わせをうまく設計することができれば、最終的に、より理想的なアクイジション・ チャンネルが実現します。 2.0 デジタル・ストレージ・オシロスコープの基本構造 ここでは、DSP アルゴリズムが存在する環境での状況を示すため、DSO 構造について簡単に説明します。図 1 を参照してください 。 一般的な DSO のチャンネル入力には、アナログ増幅器とアッテネータがあります。その後、トラック・アンド・ホールドにて、オシロスコー プの各チャンネルで増幅器からアナログ出力を受信します。その目的は、アナログ・スイッチとして動作して、A/D コンバータに各チャン ネルの信号をルーティングすることです。4 チャンネル動作では、各増幅器はそのチャンネル用の A/D コンバータに接続されます。イン ターリーブ動作でサンプル・レートを増やすには、サンプル・クロックがスキューされた状態で 4 つの A/D コンバータすべてに単一のチャン ネルを接続します。各 A/D コンバータは常にその最大サンプル・レートで動作し、高性能リアルタイム・オシロスコープではすべて 8 ビッ ト分解能となっています。 A/D コンバータの出力は、DEMUX と呼ばれる IC に入力されます。この IC は非常に複雑で、様々な機能を実行することができま す。ただしその主要な動作は、A/D コンバータの変換レートでサンプルされたデータを取込み、それよりも遅いレートでそれらをアクイジ ション・メモリに書込むことです。したがって、通常は一度に 16 または 32 のサンプルがメモリに書込まれます。また DEMUX では、ハ ードウェアに様々な DSP 処理回路が実装されており、専用 DSP チップも組込まれています。このハードウェアが提供する一般的な 機能は、帯域幅拡張フィルタ、ハイレゾ・アクイジション・モード・フィルタ、ピーク検出モード・アクイジションおよびトリガ・ポジション計算 です。 アクイジション・メモリは、メイン・システムのプロセッサ・メモリとは別のブロックです。DEMUX には循環アドレッシングと制御ロジックが あり、トリガ・システムからトリガを受信します。データ・ストリームは、トリガ・イベントが発生するまで循環形式で継続的に書込まれ、 過去のデータは上書きされます。必要な量のポスト・トリガ・データが取込まれると、DEMUX はメモリへの書込みを中止します。 一旦アクイジションが完了すると、メイン・システムのプロセッサはデータに対して DSP 操作を実行できます。また、その他の DSP 操 作を実行するため、データが DEMUX IC を介して戻される場合もあります。 3.0 帯域幅拡張 DSP 任意等化フィルタを使用して、オシロスコープ・チャンネルの応答を向上することができます。このフィルタによって、帯域幅が拡 張され、オシロスコープのチャンネル周波数応答が平坦になり、位相の直線性が向上するとともに、チャンネル間での一致性が高まり ます。また立上り時間が高速化され、時間領域でステップ応答が改善します。このフィルタは、50mV/div、100mV/div、および 200mV/div の各チャンネルおよびアッテネータ設定に合わせて、製造時に SMA TekConnect® 入力で校正されています。このフィ ルタは、他 のすべてのV/div 設定(感度設定)でも動作します。50mV/div 未満の設定では、50mV 設定用の校正フィルタが使用 されます。200mV/div より大きい設定では、200mV/div 用に校正されたフィルタが使用されます。このフィルタは、20GS/s 以上の 等価時間アクイジション(ET)のベース・サンプル・レートおよび補間サンプル・レートで動作します。これは ET、つまり等価時間アクイ ジション・レコードに、データを格納する前に適用されます。したがって、アイ・ダイアグラム表示でも効果を発揮します。ステップ、位相 、振幅応答での帯域幅拡張とのチャンネルの特性の一致が、オシロスコープ市場での新たな優先課題になっています。それを初め て実現したのは、8GHz の帯域幅を持つ当社の TDS6804B 型デジタル・ストレージ・オシロスコープです。今では 15GHz の帯域 幅を持つ TDS6154C でご利用いただけます。 2 図 2. このチャンネル構造は、アナログ帯域幅と DSP 拡張帯域幅の違いを示しています。 3.1 帯域幅拡張フィルタ用のアプリケーション TDS6804B 型では、ユーザが帯域幅拡張を有効にするかしないかを制御できます。帯域幅拡張フィルタ(BW+)を使用すると、多く の場合、測定精度が向上します。以下に、フィルタが威力を発揮する領域を示します。 f 立上り時間測定:BW+フィルタを使用するとオシロスコープ・チャンネルの立上り時間が速くなり、その結果、より精度の高い 立上り時間測定が可能になります。図 3 は、TDS6804B 型の BW+フィルタで達成された精度を示しています。これは、 DUT として 15ps ソースの出力に適用され、チャンネル 1 に 75ps および 100ps のハードウェア・フィルタを使用して接続し ています。TDS6804B 型では、BW+フィルタをオフにした場合よりもオンにした場合の方が、精度の高い立上り時間測定が 可能です。 f 複数チャンネルでの信号の比較:BW+をオンにすると、より精度の高い複数チャンネル信号比較が可能になります。これは、 各チャンネルが製造時に独自のフィルタ係数で校正されており、チャンネル間で位相応答と振幅応答がより一致するように なっているためです。 f アンダシュートやオーバシュートなどの測定:ユーザは、帯域幅拡張をオンにしておく必要があります。8GHz の帯域幅を持 つオシロスコープで信号が測定され、信号の立上り時間が 50ps よりもかなり遅い場合は、オーバシュート測定で良好な 精度が得られます。入力信号の立上り時間が 50ps に近づくと、ギブズ現象によるプリ・リンギングとポスト・リンギングのため 、オシロスコープの帯域幅はオーバシュート測定の実行に適したものではなくなります。つまり、この時点で、オシロスコープに は入力信号のすべての高調波を正確に観測できるだけの十分な帯域幅がなくなります。これは、DSP フィルタを使用した 場合にも、しない場合にも当てはまります。 f スペクトル解析:BW+をオンにすると、より精度の高い周波数領域測定が可能になります。これは、位相と振幅の両方に当 てはまります。 f アイ・ダイアグラム:BW+フィルタを使用すると、ある程度のノイズとエイリアシングが除去され、オーバシュート量が減るので、 アイ・ダイアグラムがよりきれいになります。図 5 は、10Gbps アイ・ダイアグラムに帯域幅拡張フィルタを適用した場合の影 響を示しています。この例では、TDSRT-Eye™シリアル・コンプライアンス・テスト/解析ソフトウェアを使用してクロックをリ カバリし、アイ・ダイアグラムを表示しています。 f B W+フィルタが動作するのは、TDS6804B 型ではベース・サンプル・レートが 20 GS/s の場合、TDS6154C 型では 40 GS/s の場合のみです。TDS6804B 型では、4 つのチャンネルすべてで 20GS/s 動作が可能です。また、2TS/s までの IT(補間)および ET サンプリングでも動作します。これらのモードでは、フィルタが ET モードあるいは補間以前のベース・レ 3 ートで適用されます。TDS6154C 型では、フィルタは 2 チャンネルでのみ同時に動作可能です。チャンネル 1 と 2 あるいは チャンネル 3 と 4 の組み合わせを除く任意の組み合わせが可能です。 f TDS6154C 型のオシロスコープでは、フィルタはベース・サンプル・レートである 40GS/s で動作し、周波数は 15GHz カット オフされています。 図 3. TDS6804B 型のステップ応答が、立上り時間測定の確度を示しています。左側には、75ps ハードウェア・フィルタを 併用し た DUT からの 76.64ps の立上り時間の測定が示されています。右側には、100ps ハードウェア・フィルタを併用した DUT からの 101.4ps の立上り時間の測定が示されています。この測定では、IT モードではなく ET モードを使用すれば、誤差はさらに減少しま す。 立上り時間=27.9ps オーバシュート=11% 図 4. 帯域幅が 15GHz の TDS6154C 型のステップ応答。白い線は DSP フィルタの非適用時、黄色の線は DSP フィルタの適 用時を示します。この図から、フィルタ適用時の立上り時間は 27.9ps で DSP フィルタの非適用時は 32.04ps であることがわかる。 4 図 5. 5Gbps アイ・ダイアグラムの比較。左側では BW+がオフになり、右側では BW+がオンになっています。 ユーザが帯域幅拡張フィルタをあえてオフにすることも可能ですが、それは以下のような場合です。 f テスト中のデバイスと入力チャンネルとのインピーダンスの不整合。テスト中のデバイスのソース・インピーダンスが、フィルタの 校正に使用されるステップ・ゼネレータの規格の 50 入力と整合していない場合、BW+拡張フィルタの精度は低下します。 B W+拡張フィルタは、製造時に、規格の 50 のソース・ステップ・ゼネレータで校正されています。銅線やバック・プレーンでの シリアル・データ伝送などの 50 トランスミッション・ラインの場合、これは最適なソリューションになります。ただし、50 以外 の環境では、インピーダンス不整合も考慮に入れて BW+拡張フィルタを使用する必要があります。これは、DSP を使用した 場合にも、しない場合にも当てはまります。基準面は、TCA-SMA アダプタ(TekConnect® SMA 変換アダプタ)の入力コ ネクタとなります。 f ユーザ独自の DSP フィルタまたは補間を使用する場合。ユーザは、独自の DSP アルゴリズムをフィルタに適用したり、取 込んだデータを補間したりします。この場合、未処理のサンプル・ポイントの A/D 変換データの方が適している可能性があり ます。 5 3.2 帯域幅拡張フィルタの性能 オシロスコープのチャンネルには通常、3dB 以内の平坦な通過帯域振幅応答があります。通過帯域上の周波数応答の平坦度に はばらつきがあります。同様に、チャンネルごとの応答には、互いにある程度のばらつきがあります。これは、偏差が 0.175dB の場合 は 2%の振幅誤差、偏差が 0.915dB の場合は 10%の振幅誤差、偏差が 1.938dB の場合は 20%の振幅誤差、偏差が 3.098dB の場合は 30%の振幅誤差となります。 TDS6804B 型の時間領域ステップ応答を、図 6 に示します。BW+フィルタによってオーバシュートが減少し、立上り時間が短縮され ます。また、ギブズ現象の直接の影響であるプリシュートが多少追加されます。それは、この特定の信号の高調波をすべて観測でき るだけの十分な帯域幅がないことを意味します。つまり、この図に表れているのは、直線でない位相応答を理想的な直線位相応 答に近づけるための修正の結果として、またこの信号に対する不十分な帯域幅のためです。一方、前記の図 3 には、正確な立上 り時間測定を実行できることが示されています。信号の帯域幅がオシロスコープの帯域幅よりも完全に低くなった場合、ギブス・リン ギングは表示されなくなります。 図 6. BW+ をオフにした場合のステップ応答(青色)と、BW+ をオンにした場合のステップ応答(赤色)の比較。この例では、ET アクイ ジション・モードを使用した立上り時間は、15.5ps ステップ・ゼネレータで 10~90%のレベルを使用した測定で約 46.8ps です。 6 3.3 時間領域でのチャンネル間の一致 図 7 は、帯域幅拡張 BW+フィルタを使用して達成された、高度なチャンネル一致性を示しています。 図 7. 4 チャンネルすべての BW+をオンにして重ね書きし、時間相関がデスキュ調整されています。10~90%を使用した立上り時間 測定のリードアウトは、15.5ps ステップ・ゼネレータを使用した場合で 46.86ps です。500 回のアベレージングを使用しています(帯 域幅は 8GHz)。 各チャンネルの BW+ステップ応答は、時間デスキュ用に調整され、REF メモリ(リファレンス・メモリ)に保存されています。図 7 では、 4 つのチャンネルすべてが、それぞれの上にオーバーレイされた REF1~4 に保存されています。 オーバーレイされた 4 つのチャンネルそれぞれのステップ応答の拡張ビューを、図 8 に示します。ここでは、BW+ がオフにされています。 図 9 では、BW+がオンにされ、チャンネル一致性が向上しています。どちらの図も、垂直スケールと水平スケールは同じです。 7 図 8. B W+をオフにした場合の、4 図 9. B W+ つのチャンネルすべてのステップ応答の時間領域表示。 をオンにした場合の、4 つのチャンネルすべての時間領域表示。 3.4 周波数領域でのチャンネル間の一致 図 10 の周波数領域プロットは、BW+をオフにした場合の TDS6154C 型の、4 つのチャンネルの振幅応答を示しています。図 11 は、 B W+をオンにした場合に得られる周波数応答チャンネルの一致性を示しています。任意 FIR フィルタ(Finite Impulse Response Filter)に よりほとんどの通過帯域を補正し、平坦な振幅応答とより直線的な位相応答をそのチャンネル用に得ることができます。 8 図 10. BW+をオフにした場合の、4 つのチャンネルすべての周波数領域表示。 図 11. BW+をオンにした場合の、4 つのチャンネルすべての周波数領域表示。高いチャンネル一致性が示されています。 9 3.5 スイープ信号とパワー・メータを使用して測定した BW+周波数応答。 スイープ信号(正弦波)とパワー・メータを使用して測定した、TDS6804B 型の周波数応答の例を図 12 に示します。2 つの抵抗 器のパワー・デバイダが、ケーブルを使用せず直接 TekConnect® SMA の SMA 入力に接続されています。デバイダの一方の側に パワー・メータが接続され、もう一方の側を TekConnect® SMA の SMA 入力に接続しています。スイープ信号の振幅は、各周波 数で同じ電力レベルに設定されています。その後、オシロスコープ・チャンネルからの応答結果が測定され、以下のようにグラフ化され ました。(このプロットは、8GHz に近いカットオフ周波数を示す初期の製造ユニットから作成されました。ただし以降のユニットは、公 表された仕様が 8GHz であっても、実際には 8.6GHz に近いカットオフ周波数に調整されています。) 図 12. TDS6804B 型でフィルタをオンにした場合の、BW+のスイープ信号とパワー・メータの振幅結果。 10 3.6 すべてのチャンネルでの位相応答間の一致 B W+をオフにした場合の、TDS6804B 型の 4 チャンネルすべての位相応答を、図 13 に示します。BW+をオンにした場合の応答を、 図 14 に示します。拡張された応答によって、15.0GHz までのチャンネルの通過帯域全体の直線性が向上しています。この拡張さ れた直線位相応答によって、チャンネルを通るパルスの歪みが減少し、位相を含むスペクトル解析測定精度が向上します。この測 定で使用されたステップ・ゼネレータの位相エラーは、これら 2 つのプロットに表示される結果からは削除されません。 図 13. BW+をオフにした場合の、4 チャンネルすべての位相応答。縦軸はラジアン単位の位相、横軸は GHz 単位の周波数です。 図 14. BW+をオンにした場合の 4 チャンネルすべての位相応答で、チャンネルの一致性が高くなっています。縦軸はラジアン単位の 位相、横軸は GHz 単位の周波数です。 3.7 機器間の一致 一致は、チャンネル間だけでなく、機器間でも達成されます。これは、異なる機器からのテスト結果を比較する場合にきわめて重要 です。TDS6804B 型は、7GHz アナログ帯域幅仕様を持つように設計されました。ただし他の機器と同様に、使用されるコンポーネ ントはプロセスによるばらつきを持ちます。この分布は通常はガウス分布で、6σの最小値が 7GHz(保証仕様)、平均 7.5GHz(代 表仕様)、および最大値が 8GHz です。単一の機器の場合は、アナログ帯域幅でこのように極端な違いが示されることはありません が、異なる機器における応答の場合は可能性があります。すべてのチャンネルを同じ 8GHz フィルタ応答に校正することにより、機器 間で、より再現性の高いシグナル・インテグリティ測定が保証されます。このように、BW+によって帯域幅、およびチャンネル間とオシロス 11 コープ間での振幅応答と位相応答の偏差が確実に小さくなります。帯域幅拡張フィルタおよび TDS6804B の校正済みターゲット 3dB ポイントは前述のように 8.6GHz 以下ですが、公表されている仕様は 8GHz です。TDS6154C では、ターゲットのレスポンス は 15.4GHz です。 時間領域ステップ応答の例は、前記の図 5 に示されています。15.5ps 立上り時間のステップ・ゼネレータは、SMA コネクタを介して オシロスコープ入力チャンネルに接続されています (この文書で言及している立上り時間はすべて、10~90%のレベルで測定されて い ます)。1000 回のアクイジションに対してアベレージングをオンにすると、ステップ応答が得られます。フィルタを使用しないステップは 青色、拡張されたステップは赤色で示されています。 3.8 ギブズ現象 高速エッジを構成する高次の高調波が低域通過フィルタによってカットされる場合、結果としてプリ・エッジ・リンギングとポスト・エッジ・ リンギングの両方が予想されます。オシロスコープの 8.0GHz 帯域幅は、この高速エッジに対する高次の高調波をすべて取込めるほ ど広くありません。その結果として、オシロスコープ・チャンネルが低域通過または直線位相である場合は、エッジでギブズ現象による プリ・リンギングとポスト・リンギングが発生します。帯域幅拡張フィルタの主な仕様の 1 つは、直線位相の要件でした。これはすべて の周波数が、同じ遅延時間でチャンネルを通過することを意味します。非線形の位相を持つシステムでは、時間が経つといくつかの 周波数が他の周波数に対してシフトしていきます。これによって、パルスの形状に歪みが生じます。より遅い立上り時間のエッジがオ シロスコープに入力されると、より多くの高調波が通過帯域内に入り、リンギングが減少します(注:光リファレンス・レシーバなどのアプ リケーションでは、4 次ベッセル・トンプソン・フィルタを使用します。これには、レートのスロー・ロールとカットオフ周波数が指定されてい るので、高次高調波が真の値から減衰します。これによって、不十分な帯域幅で発生するリンギングは、必要なマスク・テストでは減 少します。この場合、ユーザは「実際」の信号の形状よりも、実際の信号がリファレンス・フィルタ・チャンネルを通過する際にどのように 見えるかに関心があります)。 3.9.0 補間アクイジションでの帯域幅拡張 補間アクイジション・モードでは、帯域幅拡張フィルタと同時に計算される sinx/x 補間フィルタの使用が必要です。下の図 15 に示さ れているように、これによってシステムの周波数応答はやや異なったものになります。赤色のトレースは、BW+をオフにした場合の ET モ ードです。黒色のトレースは、BW+をオンにした場合の IT モードです。青色のトレースは、BW+をオンにした場合の ET モードです。マ ゼンタ色のトレースは、BW+をオンにした場合の IT モードです。10GHz ナイキスト周波数点以前の BW+フィルタのロールオフは、エイ リアシングを多少除去するので、効果的です。これらのグラフからわかるように、補間フィルタが帯域幅拡張に与える影響はごくわずか です。ただし 11~12GHz の周辺に、フィルタによってやや増える傾向があると誤認される、周波数応答エネルギーが多少あることに 留意してください。 図 15. ET アクイジション・モードと IT アクイジション・モードでの帯域幅拡張応答の比較。縦軸は dB 単位の振幅、横軸は GHz 単位 の周波数です。 12 3.9.1 BW 拡張でのアベレージ・アクイジション・モードの使用 アベレージ・アクイジション・モードを使用すると、20GS/s のベース・サンプル・レートで BW 拡張フィルタを使用した場合に、ステップの リンギングでノイズとばらつきが減少する可能性があります。アクイジションごとに、サンプルはアナログ・トリガ・レベルの交差点に対して 異なる位置に置かれます。これにより、それぞれが波形ステップ上の異なる位置にあることになります。これらのサンプルの位置は、フィ ルタが適用される際のリンギングの量に影響します。例えば、サンプルがエッジ上の高低の中間にある場合は、非常に低いリンギング で最も対称的な結果が発生します。しかし、その他のアクイジションでは、サンプルがより高い位置または低い位置に移動するので、 リンギングがより多く発生します。この影響を、以下の 3D 面プロットに示します。X 軸は横軸で、Y 軸は縦軸です。ステップは、X 軸 に対して電圧として示されています。Z 軸では、連続するアクイジションが示され、波形ステップ上の様々な位置にサンプルが置かれ ています。ここに示されているように、サンプルが中央から高い方または低い方へ移動すると、リンギングが最大になります。 図 16. 様々な位置にサンプルを持つステップの、様々なアクイジションの 3D プロット このように、アベレージングを行わない場合、図 17 に示されているリンギングがほとんどない状態から、図 16 の面プロットの各終端に 示されているリンギングが最大の状態まで、様々なリンギングのノイズが発生します。 図 17 に示されている波形がアベレージングされると、その結果は、サンプルがエッジの中央に置かれた場合に取得される応答と基本 的に同じになります。このように、帯域幅拡張フィルタを使用したアベレージ・モードでは、フィルタのリンギング効果が除去されます。こ れは、サンプル・レートがフィルタのベース 20GS/s である場合です。ET モードまたは IT モードでは、これは起こりません。リンギングは そのままになります。 1.1 1 0.9 0.8 0.7 0.6 qqn 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0.1 40 56 72 88 104 120 136 152 168 184 200 n 図 17. サンプルが立上りエッジの中央に置かれた場合のステップ応答。アクイジションがアベレージングされた場合に見られる応答に 酷似しています。 ベース・サンプル・レートでアベレージングが実行されると、ナイキストにおける-4.01dB の周波数応答にロールオフが発生します。これ は、波形上のアナログ・トリガの位置に対するサンプル・クロックの位置に対して、サンプル間隔が不確かであるためです。ただし、より 高い ET または IT サンプル・レートを使用すると、この影響は減少します。ET サンプル・レートが高いほど、アベレージ・モードが帯域 幅に与える影響は低くなります。 13 4.0 BW 拡張フィルタの説明 帯域幅拡張フィルタのタイプは FIR(有限インパルス応答)です。FIR フィルタは、安定性が保証されている点と厳密な直線位相応 答が可能である点で、IIR(無限インパルス応答)フィルタよりも優れています。また FIR フィルタは、チャンネルの通過帯域ほぼ全体 における位相と振幅の任意等化の実装にも適しています。このアルゴリズムでは、フィルタをサポートする各オシロスコープ・チャンネル およびアッテネータ設定が、製造時に校正される必要があります。製造時に、サポートされる個々のアッテネータ設定および個々のチ ャンネルごとに、測定されたオシロスコープ・チャンネルの応答に基づいて一連の FIR フィルタ係数が計算されます。これにより、4 つの チャンネルすべてにおいて位相応答と振幅応答の最高の一致度が達成されます(注:前述のように、TDS6804B 型では、3 つのア ッテネータ設定だけがフィルタ応答用に校正されています。つまり、50mV/div、100mV/div、および 200mV/div です。50mV/div 未満の設定では 50mV/div フィルタが使用されます。200mV/div 以上の設定では、200mV/div フィルタが使用されます)。 目的の フィルタ応答 取得した応答 校正 アルゴリズム 製造 時間 校正 信号の取得 フィルタ 係数 FIR フィルタ 帯域幅拡張信号 オシロスコープ・ランタイム 図 18. 製造時に実行される校正とオシロスコープの実行時に適用されるフィルタを示すブロック図。 4.1 フィルタ校正アルゴリズムの説明 B W+フィルタの実装における最初の段階は、望ましい応答を設計することでした。これは、オシロスコープがフィルタにかけられた後の周 波数応答と位相応答になります。ベッセル・トンプソン・フィルタは、ガウス・フィルタ応答に最も近いことから、チャンネルの成形に一般 的に使用されています。ただし、このフィルタを含む多くの標準的フィルタ・タイプは、帯域幅拡張フィルタに対しては望ましい結果を出 すのに適していないことがわかりました。そのため、当社では修正したガウス関数を使用して独自のフィルタ・タイプを発明し、それを割 当てることで厳密な直線位相を実現しました。このフィルタ転送関数は、最適なステップ応答用に微調整されています。そのステップ 応答は、オシロスコープの製造時に実行される校正アルゴリズムの一部として使用するため、オシロスコープに格納されています。アル ゴリズムに関する以下の説明では、これを「望ましい応答」と呼びます。測定された帯域幅拡張の望ましい応答のプロットを、図 12 に示しています。このフィルタ・アルゴリズムが光リファレンス・レシーバに使用された場合、望ましい応答は、SONET およびファイバ・チ ャンネル業界の要件によって指定されている、4 次ベッセル・トンプソン・フィルタ応答になります。図 20 に例を示しています。 14 フィルタ係数は、望ましいチャンネル応答を獲得するため、実行時にオシロスコープ・アクイジションにたたみ込まれます。それらの係数 は、サポートされるアッテネータおよびチャンネル設定ごとに製造時に計算され、オシロスコープ内に格納されます。これらのフィルタ係 数は、ブロック最小二乗アルゴリズム[3]を使用して求められます。この方法では、入力として、任意に指定された望ましいフィルタのイ ンパルス応答を含むベクトル d と、オシロスコープ・チャンネルの取込インパルス応答を含むベクトル x が必要です。帯域幅拡張の場 合、望ましいフィルタは、(パルス形状の歪みを避けるために)修正ガウス関数を使用した直線位相です。SONET およびファイバ・チ ャンネルの光フィルタの場合、望ましい応答は、業界標準で指定されている 4 次ベッセル・トンプソン・フィルタ設計です。製造時の帯 域幅拡張の校正プロセスでは、実際の応答 x を獲得するため、オシロスコープ・チャンネルの SMA 入力に接続されたステップ・ゼネ レータを使用する必要があります。これと同じアルゴリズムが光リファレンス・レシーバ・フィルタ設計にも使用されていますが、 CSA7404B 型コミュニケーション・シグナル・アナライザでは、ステップ・ゼネレータは、O/E(Optical to Electrical)コンバータ入力を 介して接続された光 インパルス・ゼネレータに置き換えられます。入力チャンネルおよび望ましいインパルス応答の例は、図 19 を参 照してください。注:BW+のその他の独自校正の場合、操作はフィルタの設計プロセスに組込まれています。 1.1 L 0.83 L 1 L 2 0.57 xzdl dzdl 0.3 0 0.0333 0.23 0.5 150 171 192 213 234 255 276 297 318 339 360 dl 図 19. 実際のインパルス x が左側、望ましいインパルス d が右側にあります。 実際の応答を x、望ましい応答を d、フィルタの長さを L、自己相関内のポイント数を N とした場合、次の方程式でフィルタ W を計 算するアルゴリズムが定義されます。 k := L … N + L –1 u := 0 … N + L – 1 m := 0 … L –1 n := 0 … L – 1 (1) (2) R m , n := P n := 1 ⋅ N 1 N ⋅ ∑ x k -m ⋅x k -n ∑ d k ⋅x k -1 k k (3) W := R-1 P 実際の応答の自己相関マトリックスは、(1)の R で表されています。実際のインパルスと望ましいインパルス間の相互相関ベクトルは、 (2)の P で表されています。ベクトル W は、結果の FIR フィルタ係数を含んでおり、方程式(3)を使用して計算されます。 15 5.0 光リファレンス・レシーバ CSA7404B 型の光リファレンス・レシーバは、帯域幅拡張フィルタに関して、前のセクションで説明したものと同じフィルタ・アルゴリズ ムを校正用に使用しています。 SONET、ファイバ・チャンネル、およびその他の業界マスク・テスト標準では、O/E コンバータとプリアンプからなる測定チャンネルおよび デジタイザが、公称 4 次ベッセル・トンプソン応答[1] [2]を示す必要があります。振幅応答が標準制限内に収まる場合は、測定チャ ンネルが光リファレンス・レシーバとして参照されます。これにより、様々なテスト機器のセットアップでの測定が均一になります。 光マスク・テスト用の第一世代のオシロスコープ・ソリューションは、光マスク・テスト用に 20GHz 以上の広帯域を持つサンプリング・オ シロスコープに依存していました。サンプリング・オシロスコープは、トリガ・イベントごとにサンプルを 1 つだけ収集します。これは依然とし て、最高周波数マスク標準の市場における主要な選択肢の1つです。このソリューション用の信号パスは、O/E コンバータ、アナログ・ ベッセル・トンプソン・フィルタ、オシロスコープ・チャンネルへの入力、デジタイザの順に構成されています。このソリューションでは、オシロ スコープの帯域幅がアナログ・フィルタの帯域幅よりも、ずっと広くなければなりません。そのため、このソリューションの一番の欠点は、 過大な帯域幅が必要となることによるコストです。 1 つの代替策は、リアルタイム・オシロスコープを使用して、製造プロセスで校正可能な任意 FIR フィルタを使うことにより、コストを低 減することです。信号パスは、O/E コンバータ、オシロスコープ・チャンネルへの入力、デジタイザ、ソフトウェア FIR フィルタの順に構成 されています。このアプローチの利点は、光標準帯域幅がオシロスコープの帯域幅とほぼ同じになることです。これにより、一定のオシ ロスコープ帯域幅内で、より高い周波数と、より低いコストでの光マスク標準の実装が可能になります。このフィルタは、振幅と位相の 両方で簡単に校正可能で、妥当なオシロスコープ応答であれば何であれ、望ましい 4 次ベッセル・トンプソン応答に良好な精度で 変換することができます。また、このアプローチを使用すると、オシロスコープ帯域幅内に適合するすべての光マスク標準を、追加のハ ードウェア・コストをかけずに実装できます。リアルタイム・オシロスコープは、サンプリング・オシロスコープよりも広範なアプリケーションに 利用できるため、さらにコスト削減が可能となります。 5.1 望ましいフィルタの説明 4 次ベッセル・トンプソン・フィルタの仕様は、標準文書[1][2]で公開されています。公称フィルタ応答には、以下の転送関数があり ます。 (4) H(s) = 105 / (s4 + 10s3 + 45s2 + 105s + 105) フィルタの通過帯域公差は、標準によって±0.3 または 0.5dB 内である必要があります。1.5 倍のビット・レートの周波数では、交 差は±3dB に広がります。これらの制限が、図 20 に示されています。この図には、結合された O/E コンバータとオシロスコープ・チャ ンネル応答のロールオフに非常に近い、望ましいフィルタ応答が示されています。その目的は、O/E オシロスコープ応答に適用し、そ れを望ましい応答に変換する FIR フィルタの設計です。 16 5 B B2 0 5.7 5 O/E オシロスコープ・ チャンネル応答 10 15 Mn M4 振幅公差制限 21.5 20 n Ma1 理想的な第4次応 25 n Ma2 n Mar n 30 第 7 次校正 OC48 フィルタ応答 35 40 45 50 55 60 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 n 図 20. O/E オシロスコープ・チャンネルを、公称 4 次ベッセル・トンプソン応答の振幅制限に変換。 5.2 オシロスコープにおける光フィルタの適用 CSA7404B 型では、フィルタは O/E コンバータからの取込波形データに適用されます。これは、オシロスコープの最大リアルタイム・サ ンプル・レートで行われます。それより低い周波数標準では、オーバ・サンプリングの程度が大きくなります。そのため、浮動小数点計 算がフィルタのたたみ込みに使用されます。このオーバ・サンプリングによって、オシロスコープ・チャンネルの帯域幅がアンチ・エイリアス・ フィルタとして動作できるようになります。この時点からフィルタにかけられたデータは波形データベースに置かれ、図 3 に示された光マス ク標準で画面に表示されるアイ・ダイアグラムのソースが作成されます。データの配置は、等価時間サンプリング・モード・アルゴリズム を使用して行われます。その結果、サンプル・レートはベース・サンプル・レートよりもずっと高くなります。したがってアイ・ダイアグラムで は、良好な測定結果を得るために十分なサンプルが、多数のトリガ・アクイジションに蓄積される必要があります。 図 21. 光リファレンス・レシーバからの光マスク標準とアイ・ダイアグラムの例 17 6.0 より高いサンプル・レート用のアクイジション補間 オシロスコープには、3 つの異なるアクイジション・モードがあります。これらを使用すると、波形のサンプル・レートを増やして、データの 取込みに使われる A/D コンバータよりも高くすることができます。これらのモードは、インタリーブ・アクイジション、補間アクイジション、 ET サンプリングです。 6.1 タイム・インターポレータ これらのアクイジション・モードを見る前に、タイム・インターポレータについて説明する必要があります。アクイジション内のサンプル・クロ ックは、波形のトリガ位置に対して非同期です。したがって、トリガ位置に対するアクイジション内のサンプルの位置は、アクイジション ごとにランダムに変化します。多いときは、1 サンプル間隔分も変化する場合があります。オシロスコープには、アナログ・トリガ位置から その時点以降の最初のサンプルまでの時間を測定する、タイム・インターポレータが組込まれています。結果の TTOFF 値は、1 つの サンプル間隔に対して正規化された時間として値の範囲は 0.0~1.0 になります。その後、この値は ET または IT アクイジション・モ ードと連動して使用され、波形のサンプル・レートがベース A/D コンバータよりも高いレートとなります。TTOFF 値は、IT アクイジショ ンに対する波形の正確な時間位置を決定します。ET アクイジションの場合は、bin と呼ばれる、各アクイジションを配置するためのタ イム・スロットを決定します。タイム・インターポレータは、A/D コンバータのベース・サンプル・レートで、時間測定をごくわずかなベース・ サンプル間隔に分解します。 6.2 オーバ・サンプリング オシロスコープの帯域幅が 20GS/s のベース・サンプル・レートで約 8GHz である場合でも、2.0TS/s などのより高いレートでのオー バ・サンプリングによって得られる利点があります。これは、IT アクイジション・モードまたは ET アクイジション・モードのいずれかで達成 することができます。タイム・インターポレータは、波形内のイベントの時間位置をより小さく分解することによって、この利点を実現して います。この場合、ユーザが波形内でその他の詳細を見ることはできません。詳細を見るためには、より広い帯域幅が必要です。 オーバ・サンプリングのもう 1 つの利点は、エイリアシングの減少です。 6.3 インターリーブ・アクイジション・モード インターリーブ・アクイジション・モードは、複数の A/D コンバータを使用し、そのサンプル・クロックをスキューすることによって、サンプル・ レートを高速化するために使用されます。そして各 A/D コンバータからのデータはその他の A/D コンバータからのデータでインターリー ブされ、単一の A/D コンバータのベース・サンプル・レートよりも高いサンプル・レートを獲得します。以前のアーキテクチャでは、チャン ネルごとに A/D コンバータが 1 つありました。そのため、インターリーブを実行すると、使用可能なチャンネルの数が減少します。最新 のオシロスコープ・アーキテクチャでは、個々のチャンネルでインターリーブ A/D コンバータを使用して、より高いベース・サンプル・レート を獲得しています。さらに、複数のチャンネルをインターリーブすることもできます(機種に依存します)。 6.4 等価時間(ET)アクイジション・モード このモードでは、A/D コンバータが 20GS/s などのベース・サンプル・レート、またはそれよりも高いインターリーブ・サンプル・レートで動 作します。結果として生じる波形は複数のトリガ・アクイジションで構築され、2TS/s などの高い ET サンプル・レートで波形が埋まり ます。タイム・インターポレータは、ET の波形に置かれる時間位置、bin、各アクイジションを決定します。タイム・インターポレータ値は アクイジションごとにランダムなので、波形は複数のアクイジションの後に埋まります。このモードのアクイジションには、反復波形が必要 です。ただし、アイ・ダイアグラムでは、アイを構築するために、波形が様々な位置でトリガされる可能性があります。 注:ET モードが動作している場合は、データが ET レコードに置かれる前に、帯域幅拡張フィルタがデータに適用されます。その結 果当社のオシロスコープでは、帯域幅拡張が有効になっている間は、アイ・ダイアグラムを ET モードで表示することができます。 18 6.5 Sinx/x アクイジション補間 補間は、オシロスコープが取込波形のサンプル・レートを増やすための、もう 1 つの手段です。これには、シングル・ショットでの動作とリ ピート・アクイジションという利点があります。sinx/x 補間の詳細については、[4]を参照してください。補間プロセスでは、低域通過フィ ルタを使用して補間を実行します。これには、元の波形データの獲得とサンプル間でのゼロの追加が伴います。ゼロの数は、希望す る補間率によって異なります。波形データへのゼロの追加プロセスによって、周波数領域内の高調波が、補間サンプル・レートで新 規ナイキスト周波数までシフトします。元のスペクトル内容だけを通し、すべてのイメージを拒否する低域通過フィルタを適用すると、 ゼロが補間ポイント値を取込みます。そしてタイム・インタイム・インターポレータの TTOFF が使用され、アクイジションごとに、補間さ れたポイントがトリガ位置に対して正しく配置されるようになります。 ここでは、直線補間の Mathcad 例を使用して、補間の影響を説明します。最初の例では、図 22 に示されている直線補間を使 用します。オシロスコープのアクイジションごとに、トリガ位置に対して異なる位置でサンプルが発生することに注意してください。このよう に、これらの異なるサンプル位置間の直線補間によって、補間波形にばらつきが生じます。 図 22. アクイジションごとに示された、直線補間 Mathcad シミュレート・アクイジション 10 回のシミュレート・ステップ波形の平均が、次の図 23 に赤で示されています。この平均は、元の波形に向かう傾向があります。 図 23. 複数の直線補間波形の平均 19 またアベレージング処理では、サンプルが整列するように個々のアクイジションがすべて時間シフトされていることに注意してください。そ の結果アベレージングによって、ナイキストでのよく知られた–4.01dB の周波数応答ロールオフが発生します。このロールオフを回避 する最も実際的な方法は、アベレージングされている波形を高度にオーバ・サンプリングすることです。 アベレージングによる–4.01dB ロールオフを回避するもう 1 つの方法は、アベレージングされる前に波形を補間し、TTOFF 値 にした がって再配列してから、それらをアベレージングすることです。ただしこのアプローチは、ユーザがオフラインで行う必要があります。 それにより、Mathcad 内の pspline 補間が、前述の例と同じ元のデータに適用されます。その結果が図 24 に示されています。この 例では、アクイジションごとにサンプル位置が異なることによって、各アクイジションの補間がどのように異なるかを再度示しています。 (注:当社のオシロスコープは、sinx/x または直線補間を使用しています。この例では Mathcad pspline が使用されていますが、こ れは該当するトピックを説明しやすくする都合上です。pspline よりも sinx/x の方が波形補間には適しています)。 ただし、この例の 10 回のアクイジションがまとめてアベレージングされている場合は、赤色の実線のトレースが現れます。リンギングの 各ピークが多少シフトしているため、赤色のトレース上の平均は、低いピーク・リングになっています。 図 24. Mathcad pspline 補間を使用した複数のアクイジション 6.6 補間の歪み インターポレータは完全ではないので、わずかな歪みが生じます。一般に、直線補間では sinx/x 補間よりも歪みが多くなります。こ れは、電圧の急速な変化に対応するサンプルが多くない場合に特に当てはまります。この場合は、直線補間よりも sinx/x 補間の 方が歪みが少なくなります。ここでは、適切な補間フィルタが使用されていると想定しています。 sinx/x 補間を使用した場合、歪みの量に影響する要因は数多くあります。1 つの要因は、通過帯域リップル、ストップバンド減衰、 遷移バンド・スロープなどの、補間フィルタの品質です。もう 1 つの要因は、補間率です。率が高いほど、歪みが発生しやすくなり ます。TDS7000/B シリーズ・オシロスコープでは、その前の TDS700 シリーズに比べて、sinx/x フィルタ・システムが改善されています 。このインターポレータのすぐれた性能により、ET モードで生成されるアベレージング波形によく似たアベレージング波形が生成されま す。最も顕著な違いは、立上り時間が 75ps から、およそ 1ps ほど短縮されたことです。 6.7 ET アクイジション・モードに対する補間の比較 サンプル・レートを増やしてタイミング分解能を向上させるために、なぜ IT アクイジションと ET アクイジションの両方が必要なのか疑問 に思われるかもしれません。2 つのモードの最も明白な違いは、IT は単一ショット・アクイジションで実行できるのに対し、ET モードは 波形を埋める多数の繰返しアクイジションを必要とすることです。 20 前のセクションで説明した補間の効果は、ET モードに比べて劣っているように見えるかもしれません。ET モードにはこのような効果は ありませんが、アクイジションの bin による別の効果があります。データを ET bin に置く際に発生するエラーによって、オシロスコープの 帯域 幅よりも高い高周波ノイズが生じることがあります。アベレージングまたはスムージングを使用すると、帯域外のノイズを除去する ことができます。興味深いことに、補間された波形の平均と ET モードの波形の平均は、ほぼ同じ結果になります。このことは、「 sin(x)/x 補間では高速デジタル信号が正確に再現されない」という誤解に対する反論になりそうです。 7.0 結論 この資料では、現代のデジタル・ストレージ・オシロスコープで実行される DSP のいくつかを、重点的に取り上げました。当社は、帯 域幅拡張や光リファレンス・レシーバに使用される任意フィルタの設計能力において、他社を凌いでいます。このことは、これらのタイプ のフィルタが製造時に校正され、それによって特定のチャンネル応答が、望ましいチャンネル応答に変換されるようになっていることから も言えます。帯域幅とサンプル・レートの性能レベルが上がるにつれて、DSP はオシロスコープ応答の確度の強化と向上において、ま すます多くの役割を果たし続けるでしょう。一般にこれらの複雑なアルゴリズムは DSP の技法に適しており、アナログ回路での実装 は実用的ではありません。またこの資料では、光リファレンス・レシーバに使用される DSP についての基本的な説明も行ってきました 。さらには、補間、インターリーブ、等価時間などのアクイジション・モードについても説明を行いました。 参考文献 1. ITU-T G.957 (06/99) Transmission Systems and media Digital Systems and networks… (光 SONET 標準 について) 2. GR-253-CORE Issue 2, December 1995 pages 4-1 to 4-22 3. Bernard Widrow and Samuel D. Stearns, Adaptive Signal Processing , page 19-22, Prentice Hall, ISBN 0-13-004029-0 4. Ronald E. Crochiere and Lawrence R. Rabiner, Optimum FIR Digital Filter Implementations for Decimation, Interpolation, and Narrow-Band Filtering, IEEE Transactions on Acoustics, Speech, and Signal Processing. VOL ASSP-23, NO 5. October 1975 Copyright © 2005, Tektronix, Inc. All rights reserved. Tektronix products are covered by U.S. and foreign patents, issued and pending. TEKTRONIX and TEK are registered trademarks of Tektronix, Inc. All other trade names referenced are the service marks, trademarks or registered trademarks of their respective companies. 03/05 DV/WOW 55Z-17589-2 21
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