Page 1 Page 2 九州工業大学研究報告 (工学) N。`59 ー989年9月 35

九州工業大学学術機関リポジトリ
Title
ある電気回路におけるアトラクターの構造
Author(s)
縄田, 雄次; 宮浦, すが
Issue Date
1989-09-01T00:00:00Z
URL
http://hdl.handle.net/10228/4408
Rights
Kyushu Institute of Technology Academic Repository
九州工業大学研究報告(工学)No.59 1989年9月 35
ある電気回路におけるアトラクターの構造
(平成元年5月27日 原稿受付)
川崎製鉄㈱縄田雄次
設計生産工学科宮浦すが
Attractor in a Electric Circuit
by Yuuji NAWATA
Suga MIYAURA
Abstract
This paper deals with some electric circuit Its mathematical model is presented the auton.
omous differential equations with three dimensions.
This is referred to the last reports“Experimental Considerations for Dynamic Behavior in a
Electric Circuit”. In the last reports, we experimented on electricity and observed some orbits by
means of changing the value of resistances. There were the equilibrium points, some periodic
orbits, and many chaotic orbits.
In this paper, we carry out some numerical analyses and construct some attractors of the same
model. The model is the nonlinear system. However, we can divide this system into three parts,
and each one is the linear system, We find the equilibrium points, the eigenvalue of the equilibrium
points, and the eigenspaces.
イナミクスは次のような3次元自律系の常微分方程式で
1.はじめに
表される。
本論文は,3次元自律系の微分方程式で表される電気
回路の,解軌道について考察する。
これは,前に報告した「ある電気回路に生ずる動的挙
動の実験的考察、・・につづくものである.前回は実際↓・ . ・一÷
回路を組み,パラメーターのひとつである抵抗値を適当
−
に変化させて,平衡点,周期軌道,カオス的軌道等をオ
シロスコープで観測した。
負
本論文では,同じモデルを用いて数値実験を行ない,
アトラクターの構造を調べる。系は非線形である坑あ 妬
2
る3つの領域に分けると,それぞれは線形であり,平衡
C2 L
秒c1
@ ㍍
点,平衡点の固有値,固有空間を求めることができる。
2.ダイナミクス
図1 回路図
図1はモデルに取り上げた電気回路の回路図である。
負性抵抗のV−1特性は図2で表される。この回路のダ
CII
性
抵
抗
36 縄田雄次・宮浦すが
式(3)は原点対称になっている。
z=g(め 次に平衡点を求める。
‘=9(め
書一裂一暑…一・ (・)
7π0
●
●
●
●
●
■
●
■
●
B. とおくと3つの平衡点,P+,0, P一が次のように定ま
Bρ
■
…
一Bρ
0
砂
1 砂 る。
…
■
■
●
●
仇、i P+=(ん,0,一ん)εD1
●
●
η↓1
:
●
’ 0−(0,0,0)ε1)。 (5)
■
P}=(一ん, 0,ん)εD−1
?η0
ただし,κ=(b一α)/(b+1)とおいている。また,D1,
図2 負性抵抗の特性 D・・D−1は次のような領域を表す。
D1={(エ, y, z)1エ>1}
G雲一G( D。ニ{(エ,y, z)1〃cro。、)−9b。、) D.1={(エ,脇z)慧} (6)
C、雲一G(砂α一ρC2)+‘、 (・)
3.実験結果
L芸一噛 文献2)によると,式(・){・おいてパラメーターの値が
一{鷲:1:ll:::1;≡iii〔卑←→『⑦
のとき,‘L−〃C1,‘L−〃。2,〃。1−〃C2特性においてカオ
変数変換を施すために ティックなアトラクターが現われると報告されている。
o。, o。、 τL そこでパラメータの値が式(7)のときの可変抵抗のコンダ
ェ=兀’y=兀’z=瓦ご クタンスの値G。を難とし,G。をG倍することによっ
。一島 (、)て・峰Gをダイナミクスを左右するパラメータと考え
C2 ることにする。すなわち,式(7)より
C2 C2 7η1 ?η。
α=τ’β=LG2’α=τ’b=τ ・−9,β一謬,・一一☆, b−一☆(・)
とおくと,式(1)は次のように表すことができる。
皇一・(・…ノ(エ)) とζ1°解軌道
砦一・・一・+・ (・)(‥・z)空間内の解⊇・図3一図13に示す・
いずれも,初期値はエ=y=z=0.1とし,過渡状態を
器一β・ 欝㌫蕊熟麟8㌘る軌道及び発散
…一一 o1∵:籔曇㌶二;:二驚㌔
を描いたものである。これは,解軌道が定常状態で
ある電気回路におけるアトラクターの構造 37
X
X
5
Y
Y
5
Z
5 Z −2 畠 2 Z
一5
一5
−2
図3 1周期軌道(G=0.9)
図7 ダブルスクロール(G=1)
X
X
5
2
Y
Y
●
、
一2
5 Z −2
5 Z
一5
2
Z
一5
−2
図4 2周期軌道(G=0・91) 図8 3周期軌道(G=1.08)
X
4
Y
、
4
一4
Z
一4
図5 4周期軌道(G=0.92)
図9 ダブルスクロール(G=1.097)
X
1
Y
”■
1
一1
Z
一1
図6 DbD・領域内のカオティックアトラクター(G 図10 D1,D。領域内のカオティックアトラクター(G
=0.95) =1.11)
38 縄田雄次・宮浦すが
X エーz平面を横切るときのコc座標を縦軸にとり,パラ
1 メータGを横軸にとっている。ただし,エ座標の値は平
Y
衡点P+,P のエ座標,+κから一んまでに限定した。
4.数値実験の検討
1 Z
数値実験によって得られた解軌道と,分岐図との対応
は明らかである。これらより,解軌道はGの変化に対し
一1 て,表1のように変化していくことがわかる。ただし,
Gの値はそれらの軌道が発生する際の代表的なものをあ
図11 4周期軌道(G=1・12) げている。
カオティック・アトラクターには,D1, D。, D−1の
X すべての領域を往復するもの(ダブルスクロール)と
Y D1, D。の領域のみを往復するものの2種類があること
が確かめられた。分岐図をみると,この2種類のカオ
ティック・アトラクターが,互いに急激に姿を変える様
1 Z 子がよくわかる。
5.アトラクターの構造
系はD、,D。, D.1の各領域で線形なので,式(3)は行
図12 2周期軌道(G=1・122) 列をもちいて表すことができる。まず,
X
一α(c十1) α 0
l A=
Y
1 −1 1
⑩
0 一β 0
とおく。ただし,CはD。領域内でα, D1, D.1領域内
表1 解軌道の変遷
図13 1周期軌道(G=1.135)
X
1.5
0.8
収束(P・へ)
0.9
周期軌道
0.91
2周期軌道
0.92
4周期軌道
0.95
1.0
D1,Do内のカオティック・アトラクター
ダブルスクロール
1.08
3周期軌道
1.097
ダブルスクロール
0。5
0
一〇.5
1.11
D1,Do内のカオティック・アトラクター
1.12
4周期軌道
1.122
一1.0
.9.951.01.051.11.15G
図14分岐図
2周期軌道
1.135
周期軌道
1.15
収束(原点へ)
1.1674
周期軌道(安定限界)
1.2
発散
ある電気回路におけるアトラクターの構造 3g
でbをとるとする。このとき,原点のまわりでの系の方 不安定であるので,これをEμ(0)と表す。固有ベクトル
程式は [エ,y, Z]Tの満たす関係式は
d
dτ
(1⇒
y
と表せる。原点以外の平衡点P土のまわりの解の挙動は すなわち
Cを考慮すれば願をそれぞれの平衡点に平行移動し ト。(。+、)一融 +。。 一。
たものと一致するので,いずれの平衡点での解軌道のふ
エー(万十1)y十 z=0 04
るまいも,式(11)に支配されると考えられる。
一βy一万z=0
次に行列Aの固有値λを求める。固有ベクトルを,
エ=[エ,y,2]「とすれば, Aエ=λエより特性方程式は次 となる。これを解くと次式のようになる。
のようになる。
工 _y z
、 , %・+%+β一㌃==万 ⑮
λ十[α(c十1)十1]λ十(αc十β)λ十〇β(c十1)=0 (②
λは実験を行なったすべてのGの範囲で,1つの実根 式⑮で表される直線が固有空間Eμ(0)である。
と1組の共役複素数をもつ。そこで,各平衡点での固有 λ=σ。±τω。に対応する固有空間は,σ。〈0であること
値を次のようにおく。ただし,P+, P一の固有値は等し より安定であるのでこれをE8(0)と表すと,固有ベクト
いので,これらに関しては一緒に取り扱う。 ルの満たす関係式は
原点:λ=γ。,σ。±砲。
G㌫ご㌘の__のよう イ1]一一匡 ⑯
になる。
(i)0・175∼0・866:γ・>0,σ・〈0,万く0,σρ〈0 となり,これを解くと
(ii) 0.866∼1.142:γo>0, σo〈0, γp<0, σρ>0
(iii)1.142−1.、7,%<。,砺く。 (%2+万+β)・・+剛+・・一・ (1カ
(i・)1.17∼ :γ。<0,σ。>0 となる。式(1カで表される平面がE8(0)である。
ただし・Gが(iiD・(i・)のとき・平衡点P土はD・領域に吸 λ=万に対応する固有空間E・(P・)は,λ・=万に対応す
収される。上の各範囲において・各平衡点はそれぞれ次 る固有空間E・(0)を,%を万として,P・=(±ん.0,
のような点となる。 干旬まで平行移動したものであるのでこれは
(i)原点:鞍点, P土: 安定な沈点
(”)原点:鞍点・
@P±:鯨 万幕β一妾一当 (1θ
(iii)原点:安定な沈点
(i・)原点:鞍点 で表される直線である。
したがって,Gが(i)の範囲ですべての解軌道はP土に収 λ=σ。±τω。(σ。>0)に対応する固有空間E〃(P土)は,
束する。Gが(i∋の範囲では,原点に収束するか,または λ=σ。±吻。に対応する固有空間ES(0)を,%を%とし
発散する。Gが(i・)の範囲では,すべての解軌道は発散す て原点からP・まで平行移動したものであるので,これ
る。そして,Gが(ii)の範囲において,3つの平衡点はす は
べて不安定となり,周期軌道およびカオティック・アト
ラクターなどの興味深い解の挙動が存在する.そこで, (万2切+β)(エ酬+囎+・(z±ん)=° (1③
各固有値に対応する固有空間を求める。 で表される平面である。
λ=万に対応する固有空間は,%>0であることより (エ,y,2)空間内でのこれらの平衡点,固有空間の構
40 縄田雄次・宮浦すが
成と,典型的な解軌道を図15に示す。
X
酬P・)↑
初期値を安定な固有空間E8(0)上の点Aにとったとき, ノ
まゆ
解軌道はE8(0)上を回転しながらZ→。。で原点に漸近 ⇒.
_∠ヤ
’D1領域
,
≧嘘㌻蒜㌶露ζ誘 慈⊂}7”㍑
遮㍍.鷲}慧㌫灘撚蕊 ・蘂⑳
2
の成分が合成されて,EU(Pつ平面に近づくと同時に, 一
一1’
回転しながらP+から遠ざかる。初期値を点Cにとった } ぺ
場合は,点Bにとった場合と逆に,D.1領域に入り,図 ノ } ぐ D瀬域
のような軌道を描く。 1 、怠
1 ζ〉
このように固有空間の影響を受けながら解軌道は発展 Eμ(Pつ 1 ン
「
していく。さらに,パラメータGを変えることによって
図15 固有空間の構成
/’ @ .〆苦〉
/〆 ・ 碧’口
口、\
.〆 .ザ
Y’
・マ゜ ⇔ 一
@、
ノ’ 、
、 今・
〆’
’
! /
/
..・,A、
、 、 シ ■ ,
@ ノ
図16
!
Fr;;)酷㍊のカオティツクアトラクター(G 図17ダブルスク・一ル(G−1)の断面
(切断面:上からエ=2.5,1.818,1.5,1,0.5,0) (切断面:上からエ=2,1.5,1,0.6,0.3,0)
ある電気回路におけるアトラクターの構造 41
固有空間の構造が微妙に変化して,実験で得られたよう
な周期軌道やカオティック・アトラクターが発生するも
のと考えられる。
6.アトラクターの断面
カオティック・アトラクターの構造を調べるために,
これを,y−z平面に平行な平面で切ったときの断面図
を描いた。実験で得られた2種類のカオティック・アト ペ
ラクターについてこれを行なった。これらを図16,図17
に示す。
図を見ると,Dl領域では軌道がE8(P+)によって
Eμ(P+)平面に押し付けられたるために,その断面も
EU(P+)平面の断面にそって現われている様子がわかる。
図16と図17を比較するとダブルスクロールが“二重”の
構造であることがわかる。これは,原点に近づくほど明
確になっている。
7.おわりに
本論文では,3次元常微分方程式で表される電気回路
をモデルとして数値実験を行なった。さらに,系が非線
形であったにもかかわらず,3つの線形系が結合したも
のとしてとらえることができたので,固有空間を構成す
ることにより,アトラクターの構造を明らかにすること
ができた。
図14の分岐図からもわかるように,Gの値を大きく
(抵抗値を小さく)するにつれて軌道は周期倍加分岐,
カオス,3周期,カオスと変化していく。前回に報告し
た回路実験でもここまでの同じような軌道の変化を観測
することができたが,今回はさらにGの値を大きくとる
と,4周期,2周期,1周期へと周期倍加の逆をたどる
軌道の変化を数値実験で得ることができた。
最後に,筆者のひとり宮浦は叱咤ご激励を賜っている
西日本工業大学学長,井上順吉先生に心より感謝いたし
ます。
参 考 文 献
1)野瀬,永岡,宮浦:ある電気回路に生ずる動的挙動の実験
的考察,九州工業大学研究報告(工学),第57号,P.11−16,
1988
2)松本,小室,LO. Chus:電子回路のchaotic attractor:
Double Scroll,フィジクス, VoL 7, No.1, P.56−65,1986