千葉大学人間生活工学研究室卒論概要(2002) 卒業研究区分:論文 休憩中の照明色温度が休憩後の作業効率に及ぼす影響 キーワード:色温度、休憩、作業能率 人間生活工学研究分野:谷口純也 ■背景 実験は以下のスケジュールで、1日の実験で1条件、計3条件 人間が生きていく上で疲労を無視することはできない。疲労 を異なる日の同じ時間帯に行ってもらった。 は日常的に誰でも経験し、用いる言葉であり、何か作業をすれ ば多かれ少なかれ疲労が付きまとうものである。疲労について 5000K、1000lx 条件A 条件B 条件C 5000K、1000lx タスク(前半) 休憩 タスク(後半) は、種々の定義が、時代、時代によってされているが、基本的 には、身体または感覚器などに代表される生理機能の低下とし てとらえる場合や、疲労感などに代表される精神活動の低下、 仕事内容の質的、量的低下などに代表される作業能率の低下と EEG/EOG計測 HRV計測 してとらえる場合が多い。かつての人間の作業は、筋的負担を 伴う作業がそのほとんどで、その作業に付随して起きる疲労も 20 10 15 min :主観評価 近点距離 計測 筋疲労が大半であった。しかし、近年、産業構造の変化により、 業務中の作業内容は筋疲労を伴うものから、精神疲労を伴うも 図1.実験スケジュール のへと移行してきている。例えばオフィスでのVDT (Visual タスクパフォーマンス、主観評価、脳波(EEG)、心拍変動 Display Terminal)作業などが顕著なものとして挙げられる。 性(HRV)、近点距離の全測定項目について、測定された結果 長時間作業に従事していると、疲労による作業能率の低下が見 の統計処理は、StatView5.0上で条件を要因とする一元配置の られる。作業能率の低下を防ぐためには、一時作業を中断して 反復測定分散分析を行い、主効果の要因が有意であった場合は 休憩を取る必要がある。現在までに筋疲労、精神疲労共に作業 対比比較を行った。 中の休憩の効果に関する研究は多く行われている。しかし、休 憩中の光環境の変化、とりわけ照明の色温度に関する研究は少 ■結果 ない。 タスクパフォーマンスに関して、0分∼5分の回答時間の平均 そこで、本研究は精神疲労を伴う作業時の休憩における、光 と5分∼10分の回答時間の平均の差において条件Aが条件Bより 環境、特に照明の色温度の変化との関連性に着目して行われた。 大きい傾向にあった。つまり条件Aは条件Bに比べ、作業時間が 経過すると反応時間が長くなっていくことを示している。 ■目的 主観評価については効率の項目で条件Aが条件Bより大きな回 本研究では、精神的疲労の伴う作業の、休憩時の色温度の相 復をする傾向にあった。 違による休憩後の作業への影響を調べた。 HRVについては、休憩の終了時に副交感神経の活動指標が条 先行研究によると、低色温度光の照明は中枢神経系の活動を 件Cより条件Bが小さいという傾向が見られた。つまり、条件B 低下させ(Noguchi and Sakaguchi,1999)、高色温度光の照明 は休憩の終了時において条件Cより覚醒水準が高くなっていた は自律神経的な機能を活性化する(Mukae and Sato,1992)と言 ということが言える。また、後半の作業の終了間際には条件A われている。また、休憩時は、高い色温度光に比べ低い色温度 が他の条件に比べ、交感神経の活動が抑えられ、逆に副交感神 光のほうが、作業後の疲労を早期に回復させる(森川,1997)と 経の活動が活発になっている傾向があった。 言われている。 本研究では休憩時の色温度を直線的に変化させることで後半 ■まとめ の作業へのスムーズな覚醒水準の移行を期待した。休憩前後で 測定項目の結果から、主観的に「効率」が回復するのは条件 精神的負担の伴う作業を課す実験を行い、心理的、生理的側面 Aであるが、タスクパフォーマンスや、心拍変動性と言った生 の両方から評価した。それらの結果から、より作業効率の低下 理指標からみると、後半の作業時間が経過すると作業能率や覚 を防止し、疲労回復の向上につながる、休憩中の光環境を提案 醒水準が下がることがわかった。また、条件Bは休憩の後半の することを目的とする。 交感神経の活動が活発であるため、生理的には休憩中にあまり リラックスできていないことが伺える。 ■方法 先行研究でもそうであったように、低色温度照明の条件Aで 被験者6人に、一定の照明下で作業後、3種類の異なる条件の は、休憩中に覚醒水準の低下し、後半の作業への影響が出てい 色温度の照明下で休憩した後に再び作業を行わせた。それぞれ たと考えられる。逆に休憩中にあまり低色温度照明に曝されて の条件での主観的、生理的疲労及び作業効率の評価を行った。 いない条件Bでは後半の作業への影響は見られなかったが、休 条件A:休憩時 色温度3000K 照度1000lx(一定) 条件B:休憩時 色温度3000Kから5000Kへ直線的に変化 照度1000lx 条件C:休憩時 色温度3000K(5分間、一定) その後5000Kへ直線的に変化 照度1000lx 作業中のタスクとして、被験者にVDT作業を仮想したディス プレイ上でのアルファベット探索タスクを課し、作業効率の評 価のために回答時間と正答率が記録された。また、実験中に心 理的指標として主観評価、生理的な指標として脳波(EEG)、 心拍変動性(HRV)、近点距離、眼球電図(EOG)が測定された。 憩中にリラックスできていない状況が考えられる。 休憩中の照明環境として、休憩後の作業前に比較的高めの色 温度の照明によって覚醒水準の向上を図ることは、その後の作 業の活性化という点において有効な手段であると言うことが推 測される。
© Copyright 2024 ExpyDoc