膜生物学・医学学術講演会 非ヒト霊長類、特にコモン・マーモセットを対象にした 精神・神経領域におけるトランスレーショナル研究 池田和仁先生 大日本住友製薬・創薬開発研究所・特命研究池田ラボシニアスペシャリスト 日時: 7月24日(金)午後3時半~午後5時 場所: 共同会議室(研究棟B 2階) 現在、統合失調症や鬱病といった精神疾患領域において新しい作用機序を有した新薬の登場もなく、多くのメガファーマが 同分野の縮小・撤退を余儀なく強いられている。この状況に至った事は、精神疾患の治療薬開発の歴史を鑑みると必然であ るようにも考えられる。すなわち、抗ヒスタミン薬であるクロルプロマジンが統合失調症の陽性症状に有効である事が偶然見出 されたように、脳・精神機能の本質的な理解からではなく、臨床経験から創薬研究を推進してきたことが行きづまりの原因の1 つである事は否定できない。そこでこの状況を打破すべく脳機能を本質から総合的に理解する事を目的として、欧州では 2013年よりHuman brain project、米国ではBrain initiative プログラムが開始された。一方、本邦においては革新脳(革新的技 術による脳機能ネットワークの全容解明)プログラムの開始が決定された。本邦プログラムの特徴として、非ヒト霊長類であるコ モン・マーモセットをモデル動物として、脳構造・機能・行動を有機的に解析する点にある。精神疾患で重要となるのが前頭葉 皮質であるが、同部位がヒトでは全皮質の28%を占めるのに対し、齧歯類では1%未満、マカクサル11%、マーモセットは9% を占める。さらにトランスジェニック技術の導入も研究推進の原動力となる。次にマーモセットを対象に臨床を反映した評価法 の確立が、成功確率の高いトランスレーショナルリサーチ成立の鍵と考えられる。 本発表ではマーモセットを用いた行動・生理学的な評価法について、1)注意・衝動性の検査法である ORDT(Object retrieval with detour task)、2)空間認知など複数の認知バッテリーを有するCANTAB (Cambridge neuropsychological test automated battery) 装置、3)社会性認知を評価する音声コミュニケーション法、JVA (Joint visual attention) および視線追尾試 験法、4)不安評価法、5)さらに安静時脳波への薬物の作用評価(quantitative EEG)を紹介します。我々製薬企業の研究員が、 新薬創出するために悪戦苦闘している姿を見て頂き、その難しさを理解して頂くと伴に、これからの神経・精神疾患研究のあ り方を考えていけたらと思っております。 コーディネーター:薬理学分野 教授 古屋敷 智之(連絡先 内線5443)
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