資料はこちら - 国立大学法人電気通信大学 インキュベーション施設

電気通信大学を中心とする
イノベーション創出
7年で、調布をシリコンバレー的なイノベーションの中心に
ブレークスルーパートナーズ株式会社
マネージングディレクター
赤羽 雄二
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2014年7月28日
日本は、米国の国家をあげた努力に負けた

日本が全盛期だった1980年代、米国はなぜ日本が優れているのか、どうやって勝つべきか、国家を
あげて競争力強化の研究をした

その後、米国は、国家戦略として競争力強化、イノベーション促進に取り組んだ。台湾・中国・インド・
ベトナム・ロシア等からの人材流入を増やし、大学でのコンピュータ学科を強化し、小学校からの科学
技術振興を進め、あらゆる分野での規制緩和を進めた結果、有望ベンチャーへの投資額が急増し、上
場あるいは成長したベンチャーの高額での買収というExitも一般化して、すさまじい好循環が始まった

シリコンバレーの人口の過半が中国・インドなど外国系と言われるほどで、IT系企業の中核人材の多
くを占める。彼らの子息や新たな留学生など最優秀な人材がスタンフォード大学、MIT等に行き、多く
が起業し、再生産を加速している

この間、オラクル、マイクロソフト、シスコ、クアルコム、アップル、グーグル、アマゾン、Facebook、
Twitter等が続々と設立され、上場し、時価総額 10兆円以上の世界的企業となっている。こういった
企業が高額買収を重ね、好循環をさらに加速している(アップル56兆円、グーグル39兆円、マイクロ
ソフト34兆円、GE26兆円、オラクル18兆円 http://www.180.co.jp/world_etf_adr/adr/ranking.htm )

一方、90年代まで世界的ブランドであったパナソニック、ソニー、シャープ、キヤノン、NEC、富士通、
沖電気等の電機系製造大企業の競争力はその後急落し、一部を除いて回復の目途が立っていない。
トヨタ、ホンダ等の自動車メーカー、コマツなどの建機メーカー、日立、東芝等の重電メーカーは好調
であるが、時価総額はトヨタの19兆円以外、せいぜい数兆円規模で、米国企業の高業績・高時価総
額とは比較できない水準に留まっている
($1=100円として算定)
1
米国企業との距離は、さらに急拡大中

日本にも、もちろん、ソフトバンク、NTTドコモ、セブン&アイホールディングス、ファーストリテイリング
等急成長を遂げている高収益企業もあるが、米国発の世界的企業(先ほどのリストに加え、インテル、
IBM、GE、ウォルマート、P&G、コカコーラ、ボーイング等)とは比べるべくもない

日本企業が高度成長期に急成長できたのは、日本人のものづくり力の高さによっていた。高品質・
低価格の商品を大量生産し、売りまくった。米国が巨大な消費国として君臨し、台湾、韓国、中国等
が生産国として登場していなかった時代に、日本企業は大活躍した

ただ、その時代が終わり、付加価値の大半がIT、インターネット、プラットフォームに移った今、大半の
日本企業は新しい付加価値をほとんど取れないまま、業績を急速に悪化させていった。しかも、今の
ところ、対応の目途は全く立っていない

3月にテキサス州オースティンで開催されたSXSW2014では、ウェラブル、IoT、デジタルヘルス、コネ
クテッドカー・車の自動運転、ロボティクス、ビッグデータ、3Dプリンティング・メーカー革命、クラウド
ファンディング、セキュリティ・プライバシーの10分野で圧倒的なイノベーションと産業創造が同時並行
的に始まったことが、はっきりと示された

これらすべてに渡って、IT、インターネット、プラットフォームが付加価値の大半を占めるため、日本企
業が追いつくことはほぼ不可能に近い

日本がやるべきことは、この深刻な事態を直視し、抜本的な施策を同時並行かつ10年以上の長期に
わたって進めていくことではないか
2
日米製造(IT関連)大企業の競争力変化
相
対
的
産
業
競
争
力
「IT」 x 「データ」 x 「プラットフォーム」 x
「ネットワーク化されたハードウェア」の
イノベーションによる数百兆円に及ぶ
産業創造
1. ウェアラブル
2. IoT(モノのインターネット化)
3. デジタルヘルス
4. コネクテッドカー、自動運転車
5. ロボティクス
6. ビッグデータ
7. 3Dプリンティング、メーカーズ革命
8. クラウドファンディング
9. 共有経済、共有サービス
10. セキュリティ、プライバシー
米国企業
日本企業
GM、フォード、
クライスラー、
RCA等、米製
造業の低迷
韓国、台湾、
中国、インド
企業の台頭
IT活用に
よる挽回
驚異の高度
成長期(モノ
づくりによる)
ギ
ャ
ッ
プ
が
急
拡
大
IT活用の弱さ、ベン
チャーによるイノ
ベーション、新産業
創出の貧弱さ
各分野ですさまじい数のベンチャーが生まれ、
数十億円~数百億円の資金が投入され、
数年後に買収され、拡大再生産されている。
一部は数千億円~数兆円の大企業に育つ。
2014
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
3
日本で研究開発型ベンチャーがうまく育たない理由
 研究開発型ベンチャーに取り組もうという人材が少数
– 優秀な技術系人材の大半を大企業が吸収し、大きな成果をあげずに滞留させている
– 特に優れた技術を持った技術者が大企業から独立したりスピンアウトしたりすることは、非常に少数
– 独立しても、研究開発と市場導入が進まず、元の勤務先からの受託開発に陥るケースが多い
– 外国人の起業は、ほとんどない
 大企業がベンチャーからの製品・サービス購入に極めて消極的であるため、ベンチャーの売上実績が
上がらない。どのベンチャーも大変な苦労をしている。助成金に頼りがちで、競争力は全くつかない
 政府、自治体等の中小企業、ベンチャーからの優先購買が限定的(海外ではかなり優先されている)
 研究開発型ベンチャーの成功事例がほとんどない
– 上場企業の中にも、研究開発型ベンチャーとしての技術と独自性を誇る説得力ある成功事例は少数
– したがって、研究開発型ベンチャーの成功イメージがほとんど共有されていない
– 技術者、研究者にとっては、身近にベンチャーを起業し、大成功させた技術者・研究者社長などの成
功体験者がほとんどいないため、実感が湧かない
– シリコンバレーでは、週末のちょっとしたパーティーに成功したベンチャー創業者が参加することも多
く、ものすごく刺激を受ける。起業がごく当たり前の選択肢になっている
 結果として、研究開発型ベンチャーが急成長して優秀な人材を雇用し、刺激を受けて一定年数後に自ら
起業する、というサイクルがほとんど働かない
 ベンチャーを成功させて得た資産を基に、次の世代のベンチャーに投資し育てようという人がまだ少数
– 米国はベンチャーを成功させてベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家になる人が極めて多い
– 日本は研究開発型ベンチャー以外でも、ベンチャー成功者の後輩支援が弱い
4
大学周辺でベンチャーが順調に育たない理由(仮説)
 第4次ベンチャーブームとは言われても、優れたベンチャーそのものの数が米国等に比べて圧倒的に
少なく、優秀な学生もほとんどが大企業に就職する
 大学内外での出会いが少なく、起業につながらない
 研究開発型ベンチャーを起業しうる、実用性・応用性に優れた研究成果が少ない
 実用性に優れた研究への評価が低く、教員はベンチャーを成功させて世に貢献しようという強い意欲を
持ちづらい
 大学の研究成果を基にベンチャーを成功させようという起業意欲と事業経験のある人材は、例外的
 研究開発型ベンチャーに関して、説得力のある事業構想・計画の作成を手伝い、起業前からきめ細か
く支援するスキルと意欲を持つベンチャー支援者、ベンチャーキャピタルがほとんどいない
 結果として、ポテンシャルの高いベンチャーはほとんど起業されず、成功例が少なく、成功体験を持つ
人材も乏しく好循環が始まらない
 大学発ベンチャーに対する誤解、間違った期待もいまだに大変強い
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大学発ベンチャーに対する誤解、間違った期待
誤解、間違った期待
より適切な考え方
大学の先生が会社を設立した
り、社長になることが、大学発
ベンチャー . . .
大学での研究成果、大学周辺の人材、民間の活力が触
発現象を起こし、事業意欲が刺激され、ベンチャーが生
み出される
優れた研究成果があれば、いい
ベンチャーができる . . .
優れた研究成果は、ベンチャー成功の必要条件の1つに
すぎない。大部分の研究は事業化に無縁か、実用まで先
が遠い
特許をいくつか取得したので、
きっと、ベンチャーは成功する
はず . . .
それだけでは不十分。周辺特許も含め、明確な特許戦略が
必要。しかも、特許だけでは不十分で、創業者のリーダー
シップと市場機会の方がはるかに重要
研究成果は、専門家じゃない
と分からない . . .
専門家ではない人が説明を聞き、重要性、競合優位性、事
業性を理解し、第三者に説明できるようでなければ、事業と
して成功しない
6
大学周辺でのベンチャーの位置づけをどう見るべきか
 第一のタイプ: いわゆる「大学発ベンチャー」
– 大学の研究成果を活用してベンチャーを起業する「狭義の大学発ベンチャー」と、学生・卒業生・企
業派遣の研究生などが大学周辺のインフラを活用して起業する「広義の大学発ベンチャー」とがあ
る  「大学周辺ベンチャー」
– ベンチャーというからには、外部から資金を調達し、高成長を遂げ、比較的早く上場を目指すことが
期待される。新しい産業の創造に直接インパクトがある
– 当該ベンチャー創業者・経営陣の間でもし資金調達、高成長、上場・買収といった言葉に違和感が
あるとすれば、その企業は「ベンチャー」というよりは、第二のタイプに属する
 第二のタイプ: 「大学周辺のSOHO的企業」
– 一人あるいは数人で小額の資金を持ち寄り、比較的簡単に起業する。生活の糧を得るため、ある
いは自分の好きなことを続けるため、自宅や小さなオフィスで始める
– 高成長や上場を目指すわけではないため、VCからの資金調達は期待できない。ただし、雇用創出
・起業精神の高揚という面では重要である
– ハードルはそれほど高くない。自然発生的
 第三のタイプ: 「大学から既存企業への技術提供・指導、共同研究」
– 新事業創造のシーズ提供、研究開発上のボトルネック克服の支援
– 日本企業の競争力向上の点から重要
– 従来から比較的行われてきた。ただし、受け皿である企業側の経営力・新事業創出力が課題
– 起業ではないので、新陳代謝を促進しない
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大学を核とした、ベンチャー創出コミュニティのイメージ
企業
⑦企業の社員
が技術移転
を受け、起業 起業
⑥ 企業から派遣
された研究員が
大学周辺で起業
企業
入学
学生
ベンチャー
卒業・就職 企業
研究員
派遣
⑤ 企業から派
遣された研究
員が技術移
転を受け起業
弁護士・公
認会計士・
弁理士
VC
大学
技術移転・
技術顧問
教員
起
業
研究員
派遣
企業
エンジェル
教員の
起業
起業
起業
起業・スピ
ンアウト
① 卒業生が
② 学生・研 就職後、技
④ 教員が ③ 学生・ 究員が技 術移転を受
大学を離 研究員 術移転を け、起業
れ、起業 が大学 受け、起業
周辺で
起業
インキュ
ベータ TLO 地域の事業家
8
起業する技術者、研究者とは?
行動の特徴
機会があれば自ら飛び出す。
本来的
アントレプレナー すでにスピンアウトしたか、準
備中
アントレプレ
ナー予備軍
フォロワー
出向組
様子見。早期退職制度で若
干は動く。外資系企業への転
職は以前から多い
先輩のスピンアウト時に従って
退社。あるいは、一応順調なこ
とを見定め、転職
組織内の割合
このタイプへの働きかけ
ごく少数
先輩アントレプレナーとの
接触がきっかけに
1割程度?
中堅クラス
先輩からの刺激と場の提供
が不可欠
1~2割?
若い層ほど多
い
スピンアウトベンチャーの
評判がよければ自らコンタ
クトしてくる
対象になれば
自ら独立する勇気はないが、
職場・チームごとスピンアウトし
てしまったのでやむを得ず. . .
スピンアウト、分社化の進
展により増える。適性があ
る人は転籍も
9
起業にいたるパターン
大企業・中堅企業
外資系
に転職
外資系企業
起業
外資系をクッ
ションにした
起業
大手外資系企業へ
は転職しやすい
チームで
スピンアウト
出向後、
転籍
少数の本来的アントレ
プレナーがリードするス
ピンアウト
スピンアウトベンチャーに参
加し、刺激を受けたフォロ
ワーの起業
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スピンアウトベンチャーへの人材供給と
アントレプレナーの養成・増殖
2014 15
16
17
18
19
20
21
22
23 2024
ベンチャーでの経験
で刺激し、アントレ
プレナーを増殖
起業
転職
起業
中堅・
大企業
転職
起業
中堅・
大企業
転職
中堅・大企業
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7年で、調布をシリコンバレー的なイノベーションの中心に
 シリコンバレーは、スタンフォード大学を中心に生まれた
– 卒業生の多数がベンチャーを起業したり、ベンチャーに参加
– あるいは、いったんグーグル、アップル、Facebook等の大成功したベンチャーに入社し、数年後に起業
– 起業して成功し、数十~数百億円を手にした各社の創業社長、経営幹部がエンジェル投資家やベンチャーキャピ
タリストとしてエコシステム(ベンチャーが成功する環境・インフラ)上、大活躍している
– スタンフォード大学は1891年に設立されたが、HPが1947年に創業後、産業創造の中心になった。特に、1957年
のフェアチャイルドセミコンダクター創業、1968年のインテル創業と大成功が優秀な人材を世界中から惹きつけ、
その後の大発展のきっかけとなった
 電気通信大が調布を中心とする地域において、同様の役割を果たしていただくことはできないだろうか
– 第1フェーズ: キャンパス内にインキュベーションスペースを置き、常時30~40社が切磋琢磨。調布での雇用増
– 第2フェーズ(3年後): 成功事例が出始め、徐々に研究開発型ベンチャーの起業も増える。調布での雇用拡大
– 第3フェーズ(7年後): 研究開発型ベンチャーの成功事例が続き、優秀な人材が集まる。留学生が数倍増
 第1フェーズは、具体的には
– 大学キャンパス内にネット・冷暖房完備・24時間使用可能なインキュベーションスペースを設置する
– 30~40社のベンチャーが入居できるスペースを提供する
– 各ベンチャーは6ヶ月間、最大でも12ヶ月間の入居とする(成果が出ない場合は、退去)
– 募集は年2回
– ベンチャーの早期立ち上げに効果的な助言のできる優秀なインキュベーションマネジャーを置く
– 渋谷、三軒茶屋、恵比寿、目黒、新宿、高田馬場等での起業を検討するベンチャーを惹きつけるには以下が必要
• オフィス代・サーバー代等無料
• 効果的な経営支援(どこも無料だが、質が低い)
• 無料のマーケティング・プロモーション支援、HP作成支援(ほとんど提供されていない。あっても有料)
• 有能なソフトウェアエンジニアのコミュニティ(全ベンチャーがエンジニア確保に苦労している)
• 内容の濃いセミナー・ワークショップの頻繁な開催(内容のある、ネットワーキングのできるセミナーが人気)
• 米国ベンチャーキャピタリストの招待講演(Fenox Venture Capitalのアニス・ウッザマンを確保できます)
• 大企業からの協業提案等(何社かご紹介できます)
• 3年間、人件費補てんや、特区として交渉可能であれば法人税免除等
– 地域および学校側の本気の取り組みが大前提
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