Title Author(s) Citation Issue Date URL アポロニオス・ロディオス『アルゴナウティカ』の比喩 の特徴 岩谷, 智 西洋古典論集 (1991), 9: 31-50 1991-12-20 http://hdl.handle.net/2433/68599 Right Type Textversion Departmental Bulletin Paper publisher Kyoto University アポ ロニオス ・ロデ イオス 『アル ゴナ ウテ イカ』の比境 の特徴 岩谷 智 1 比橡 の研究 アポロニオス ・ロデ イオス 『アル ゴナ ウテ イカ』の研究 はホ メロスの詩 その もの との比較検討 を抜 きに しては成 り立たな いのは言 うまでもな いが,その さいホ メロスの詩 の研' 究 の成果か らも大 いに得 る ところがある.そ して比橡 を扱 う場合 もその例外 ではな い. 本章 で は まずホ メロスの比喰研究 の流れ を概観 したのち, 『アル ゴナ ウテ イカ』の比喰研究 が いか にそ こか ら影響 を受 けて いるか を検討 し,そ して同 時 にその問題点 も指摘 した い. 1- 1 ホ メロスの比境 に関す る研究 ホ メロスの比晩 につ いて これ まで言われてきた ことをすべて要約す るのは不 可能であろ うし, また本稿 の考察 の範囲 を越 えるものでもあるので, ここで 1 ) は叙述 との対応 にポ イン トを しぼって代表的な見解 を挙 げ ることにす る ( 比境 と叙述 の対応 にかんす る研究 は 3つの段階 を経 て発展 してきた.それ はまず,比境 と叙述 の具体 的な対応点 を探 る段階,そ して対応 を トー ンの一 致 と見 る段 階,そ して,比橡が詩 の構成 に対 してもつ役割 を重視す る段 階で ある. G . Fi nsl er( 19 14 )はまず,ホ メロスの比晩 は物語 のなか で独立 した生命 を 持 った完結 した小詩 で,聴 き手 はそれ によってまった く別 の世界へ と連れ だ され,新 たな思念 に漂 った後 に,新鮮な気拝 で叙述 に引 き戻 され る とす る. そ して これ はホ メロスの比橡 が叙述 とただ一 つの点でのみ結びつ いて いる と いう性質か らくるものであ る とし,その t e rti u mco mp ar ati o ni s を探 るア プローチを とる (2) - 31- それ に対 して,W i l a m o wi t z( 1 9 2 0 )は比境 と叙述 との トー ン( S ti m m ng u ) q) 一致 を重要視 す る.た とえば, 『イ リアス』第 8巻 の末尾 で,優勢 の トロイ ア軍 が一晩 中かが り火 を焚 き続 けて いるさ まが明るい星月夜 にた とえ られ て いるのにた い し,第 9巻 冒頭 で,非勢 のアカイア軍 は,北西 の風 に荒れ る海 にた とえ られ て いるのは,詩人が比晩 によって両軍 の雰囲気 を対比的 に表現 しようとしたためである とす る (8)。 H . F r a e n k el ( 1 9 2 1 )はこう した Wi l a m o wi t zのアプローチ を継承 し,叙述 との対応 を探 す ことに汲 々 とす る態度 に最終 的な決別 を告 げた.すなわち, 比境 と叙述 の多様 な結びつき, トー ンの寄与 ,比橡か ら比境 へ の e c h o e sを 検討 し, どの結びつきも正 当である とした上 で,比境 の基本 的な 目的 と第の効果 はそれ らが喚起 す る感情 にある と述べたのである.そ して比境 は視覚 的,知 的,感情 的な さまざまな レヴェル の意味 に同時 に働 きか けることによ って, いわば単純 な叙述 のテーマ にた いす る付随旋律のよ うな もの とな って いる とす る (4)。 またB o w r a( 1 9 3 0 )も同様 に,ホ メロスの比晩 はそれ 自体 で完結 し, また し ば しば驚 くべ き美 しさをも って いるけれ ども, シェイクス ピアや ミル トンな どの凝 った文学 に見 られ るよ うな正確 な対応 は打ちだ しては いな いとし,そ の 目的 は,二 つのものが, い くつもの点 で対応 している とい うことを言わん とす ることではな く,それ らに共通す る- つの性質 を強調す ることにある と す る (5) それ に対 し,T . B . L . W e b s t e r( 1 9 5 8 ) は,比境 には 「クロス リフ タレンス」 の働 き,すなわち,叙述 のなかの離れた部分 をむすびつける働 きがある と蹄 a r r ol l皿o ul t o n( 1 9 7 7 )は,比境 を個別 に扱 った リ,氏 持 した ( 6 ). さらに,C 境 とコンテ クス トの対応点 にのみ注意 を向けるアプローチ は不十分 である と 断言 し,比境 が詩 の大 きな輯成 に対 して持つ役割 を重視すべ きである と強調 して いる (7) 1- 2 『アル ゴナ ウテ イカ』の比橡 に関す る研究 『アル ゴナ ウテ イカ』の比喰研究 は前節 で概観 したホ メロス の比喰研究 に大 -3 2- いに影響 を受 けて いる. G . W . 比 o o n e y( 1 9 1 2 )は 『アル ゴナ ウテ イカ』注釈 の序 のなかで 「比橡 は,そ れが結びつ いて いる出来事 に明るい光 を当て,適切なデ ィテール でも ってそ れ を説 明す る.そ こにはホ メロスの比境 には見 出 し得 な いような適切 さがあ る」 と述 べ る. これ はアプ ローチ としてはホ メロスの比喰研究 の第-段 に相 当す る見方 である (8) それ に対 して,J . F . C a r s p e c k e n( 1 9 5 0 )は H . F r a e n k e lの研究I を受 けて, 「アポ ロニオス ・ロデ イオスの比境 は,物語 に対 して常 に密接 に結びつ いて いることによって,叙述 のなかの特定の瞬間の意味 と効果 を高 め,時 には叙 述 の役割 を果 した り,あるアクシ ョン,あるいは場面 を, よ りはっき りと 目 に見える局面 に移 しかえる ことによって雰 囲気 を強 めた りす る」 とす るが, 同時 にホ メロスの比境がもっていた働 き,すなわち,叙述 との ` l o o s e 'で, c̀ a s u al 'で さえある結びつきによって,叙述 の意味 と効果 を拡大 し,次元 の違 うよ り複雑な感情 を喚起 し,皮肉なコ ン トラス トを作 りだ し,時 にはア クシ ョンによって作 りだ された緊求 を緩和す る働 き, を失 って しまって いる とす る ( 9 ). これ はホ メロス研究 の成果がもっ ともみ ごとに 『アル ゴナ ウテ イカ』研究 に応用 された例 である. そ してホ メロスの比喰研究 の第三段階に相 当す るのが J . K . N e w m a n(1 9 8 6 ) である.彼 はアポロニオス 。ロデイオスの比境 には,物語 の中の離 れた部分 をつなぎあわせ て一 つの出来事 を別 の出来事 の観点か ら眺 め させ よう とす る 役割がある とす る ( 10 ). しか し, 『アル ゴナ ウテ イカ』はた しか にカ ッリマ コスが k a k o nとして しりぞけた長大な叙事詩であるが (ただ し四巻合計 で 六千行 に満 たず, 『オデュ ッセ イア』の半分以下 である),実質的 にはエ ピ ソー ドをひ とつひ とつつなげていくといった手法 で作 られたもので,ホ メロ e w m a n スの詩 のよ うに統一 的な輯成 を 目指 したものではな い.それ ゆえに,N の説 はうのみにできな い. 2 ア レクサ ン ドレイア 以上 のように, 『アル ゴナ ウテイカ』の比喰研究 は,ホ メロスの比喰研究 の - 33- 成果 を取 り入れ て発展 して きたわけであるが,無理 な応用 で しかな い場合 も ある.我 々はホ メロス研究 の貴重 な成果 はむろん取 り入れ るべ きであるが, それ に縛 られ るべ きではな い.今なすべ きは 20世紀 のホ メロス研究 という フィル ター ご しではな く,直接 ,ヘ レニズム時代 に生 きた アポ ロニオス ・ロ デ イオスが どのようにホ メロスの伝統 を解釈 し,そ してあ らた に創造 したか を考 えるこ とである. アポ ロニオス ・ロデ イオスの生涯 につ いて詳 しいことは分か っていな い. S ui das には 「アポ ロニオス,ア レクサ ン ドレイア生 まれ.叙事詩人. ロ ド ス島で暮 ら した時期 がある. シッレウスの息子。カ ツリマ コスの弟子 で,ニ ラ トステネス とテ ィマル コス と同時代 の人.プ トレマイオス三世 の時代 に活 躍 し,ア レクサ ン ドレイア図書館 の館長 としてエラ トステネスの跡 を継 いだ」 との記事が ある。 またス コ リアに付 された二つの伝記か らは,彼 が最初 に発 表 した 『アル ゴナ ウテ イカ』は酷評 され,その後 ロ ドスに赴 いて修辞学 を教 え,市民権 を贈 られ るほ ど大 きな評判 を得 た ことな どが知 られ る.そのほか にエ ピグラム詩や ,一般 に 『都市建設 Eti s ei s』 として知 られ る諸都市 の 歴史や特徴 な どを扱 った叙事詩 を書 くとともに,ホメロス研究 家 としても名 高 く, 「ゼ ノ ドトスへ の反論 」 と題 され る論文 を書 いた ことな どが分か って いる. こう したプロフィールか ら浮び上が って くるのはいうまでもな く学者詩 人 としての姿 であ り,そ して いまとくに重要 なのはホ メロス研究 家 としての側 面 である. 「ゼ ノ ドトスへ の反論 」の内容 はいま直接知 る ことはできな いが, ア レクサ ン ドレイアの学者 たちの関心 の的であったホ メロス のテキス トに関 す る諸問題 ,すなわち,個 々の単語 の形態論 的な異 同か ら,ある部分 をテ キ ス トに含 めるか否 か という問題 にいたるまでの様 々な点が扱 われて いたであ ろ うことは想像 に難 くな い.そ してそ う した研究 の成果が 『アル ゴナ ウテ イ カ』 にも反映 され ている と考 え られ る.た とえば単語 の選択 に関 して言えば, 『アル ゴナ ウテ イカ』 はゼ ノ ドトスの方針 と一致す る点 も多 く見 られ るもの の (とくに代名詞 の選択 ),全体 としてはア リス タル コスの方針 に従 って い ll ). ることが指摘 されて いる ( これ らの点以外 にもホ メロス研究 の成果 が 『アル ゴナ ウテ イカ』 に反映 さ - 34- れ て いる と考 え られ る点 がある.すなわち,ホ メロス にで て くる表現 で酸味 であ った り畢解 であった りす るものがあれ ば,それ を分 か りやす く言 い換 え た り, あ る いは合理化 のた めにモチーフを改変 した りす る ことがあ る. た と えば 『イ リアス 』4 .1 17 で 「まだ使われて いな い矢 ( i o nabl e t a)」 に 「黒 い 痛 みの座 ( mel ai n eo nhe r m'o d y n ao n」 とい う形 容句 が用 い られ て いるが , . 27 9では,エ ロス の持 って いる 「まだ使 われ て い 『アル ゴナ ウテ イカ 』 3 な い矢」 にた い して 「 苦痛 にみちた ( pol _ yst o no n)」 とい う明確 な形 容詞 が与 . 210 え られて いる. またモチーフの点 に関 して は, 『アル ゴナ ウテ イカ 』3 1 4 はヘ ラが アイエテスの館 に赴 くイアソ ンらの一行 を零 で隠す場面 であ る .1 4-15でアル キ ノオ ス の館 に向か うオ が, この場 面 は 『オデ ュ ッセ イア』7 デ ュ ッセ ウス をアテネが霧 で隠すモチーフに基 づ いて いる. ところが アテネ がオデ ュ ッセ ウス 自身 を好 で包むのに対 し, 『アル ゴナ ウテ イカ』で はヘ ラ は町 を欝 で包 むのである ( di 'as t e os ). これ はホ メロスのモ テ ィー フに対す るバ リエ ー シ ョンであ り,そ こには合理化 の意識 が働 いて いる と考 え られ る (12). また モテ ィーフの改変 としては, 『イ リアス 』2 2. 1 4 7 -52 で,スカマ ン ドロス河 の二つの源泉が一方 は温か い水 を,そ して他 方 は冷 た い水 を湧 き 出させ て いる とされ るが, 『アル ゴナ ウテ イカ』3 . 2 2ト7 で はアイエテス の 館 の一 つ の泉が季節 に応 じて冷た い水 と温 か い水 を出す とされ て いる こ とも その一 つ の例 と して挙 げ られ よ う。 3 アポ ロニオス ・ロデ イオスの比橡 の特徴 アポ ロニオス ・ロデ イオス の比境 は 灘o o ne y以来 その 「適切 さ」 で知 られ て きた。 しか しその適切 さ とは どのような性 質 のものであ ろ うか.本節 では, アポ ロニオス ・ロデ イオス の比境 の修辞的技巧 ,梼成 的工 夫 を糸 口に してそ の特徴 をさ ぐ りた い. 3- 1 厳 密 な対応 ア リス トテ レスは 『トビカ 』8 . 2 .1 5 7 a で, 「分か りやす くす るた め には, - 35- 例 証 や比橡 を加 え るべ きで ある. しか し例 証 は, コイ リロス に使 われ るよ う な もので はな く,ホ メロス に使 われた よ うな,適切 で, しか もわれ われが よ く知 って いるものか ら取 られな けれ ばな らな い. そ うすれ ば,提示 され た事 柄 は いっそ う分 か りやす いものにな るだ ろ うか ら」 と語 って いる. こう した 評 か ら,ホ メロスの比橡 はその適切 さのゆえに高 い評価 を受 けて いた こ とが 分 か る. た しか に,次 のよ うな例 は対応 のはっき りした, ア リス トテ レスの称 賛 を Od.9. 38 2f f. ) . 受 けるにふ さわ しい比境 である ( 部下 た ちが先 の尖 ったオ リー ヴの丸太 を掴 んで, キュクロブスの眼 に突 き刺す と, ′私 は上 か ら押 さえ付 けなが ら 回転 させた. それ は,船材 に孔 を穿 つ とき,一人 が錐 を支 え, その下 で仲 間が両側 に張 った皮紐 を引 いて, 錐 を休 みな く回転 させ るさまに似 て いた. こ こで は先 の尖 った丸太 が錐 にた とえ られ て いる というだ けでな く,丸太 の 上 か らの しかか るオデ ュ ッセ ウスが錐 を支 え る船大工 に対応 し, また, とも に突 き刺す だ けでな く回転 させ る動作 にも共通性 が認 め られ る (18). しか しこの例 は じつ はホ メロスの比橡 と しては一般 的な もので はな く,普 通 はただ一点 の対応 があるのみであ った.た とえば メネ ラオスがパ ンダロス の矢 に射 られて負傷す る場 面 の比嘘 である ( Il .4.1 41 ff .). ち ょう ど人が真紅 に象牙 を染 めた ときのよう, マ イオニ アか カ リアの女 が,馬 の頼 当て飾 りにす るた め に. 大勢 の騎士たち に求 め られた けれ ど,部屋 にず っ と しまって置 かれ る, 王 の宝物 として.馬 には飾 りで駁者 には 自慢 の種 だ. そのよ うに, メネ ラオスよ,御身 の恰 好 のよ い腿 か ら, ふ くらはぎや ,かか とまでが血 にまみれ て しまったのだ. この比境 で は, メネ ラオス の肌 に血 が流れ るのが,象牙 をそ める紅 にた とえ - 36- られて いるが,その点以外 の,た とえば,頼 当て飾 りが王 の宝物 である とか, 多 くの駁者 の 自慢 の種 であ る とか という事柄 はメネラオスの負傷 とは何 のか かわ りもな いのである (14) しか し,つぎのように極端 に対応 の薄 いものにつ いては古代か ら分か りに Il . 1 0 . 5 f f .). くいとされ て いた ことがス コ リアか らうかが い知れ る ( ち ょうど髪美 しいへ レ女神 の夫ゼ ウス神 が稲妻 を光 らせ , おそろ しい大雨 か定か を降 らそうとな さる ときのよう, あるいは吹雪 か.それ は雪 が,田畑 か, また ははげ しい戦 さの顎 に降 り積 もる時の こと, そのよ うにアガメム ノンは胸のうちで い くども呼きたてた. この比境 に対 して S c h ol i aAは 「(ゼ ウスが稲妻 をひ らめかせた) と同 様 にアガ メム ノンの魂 は坤 いた. しか し比境 はあ らゆ る点 に対 してあ るわ け ではな いので,個 々の点 には働 いていな い」 と述べ る.一 方, S c b ol i ab T は 「 激 しさ と銭 さ と思索 にふ けっている」点 で類似す る とし, さらに 「ギ リ シアの大将 が最高神 にた とえ られて いるのもふ さわ しい」 と述べ る. こう し た見解 が出 され ること自体 , とりもなおさず対応 が唆味 である と考 え られ て いた ことの反映である (15) アポ ロニオス ・ロデ イオスが こうした批判 を念頭 に置 いて比境 を作 ったの は疑 いな く,彼 の比境 は対応 の明確 さと多 さという点で いわば模範 的なもの 3 . 8 7 6 以下 ) と, とな って いる. メデ ィアが アルテ ミスにた とえ られ る比喰 ( o ur c eと考 え られ る,ナ ウシカアが アルテ ミス にた とえ られ る比喰 その s ( O d . 6 . 1 0 2 f f .) とを比べ てみればその ことははっき り分 か る (18). すなわ ち 『オデュ ッセ イア』では,侍女たち と雀遊び に興 じて いるナ ウシカアが, ニ ンフ と共 に狩 を して いるアルテ ミスにた とえ られて いるわ けだが,そのポ イン トはナ ウシカアが他 の女 たちよ り技 きん出て美 しいということに尽 きる. 一方, メデ ィアの場合 も 「美 しさ」はた しかに対応点 であるが, じつ はそれ はいくつか の要素 のうちの一 つにす ぎな い.ヘカテの杜 に急 ぐメデ ィア と h e c a t o m b eを受 けるために赴 くアルテ ミス,馬車 と戦車,恐れおのの く野獣 - 37- とたみび と, というように複数 の対応点が認 め られ るのであ る (17). 3-2 修辞 的技巧 以上 のように対応点 の多 さはた しかにアポ ロニオス ・ロデ イオスの比槍 のひ とつの特徴 であ り, さまざ まな研究者がすでに指摘 している ところ車もあ る. しか し,アポ ロニオス ・ロデ イオスの叙述 と比境 の結び付 きはただ単 に対応 点 の多 さだ けに基 づ くものではな い.ヘ レニズム文学 の特徴 である細かな修 辞 的技巧 が叙述 と比喰 とをさらに厳密 に結び付 けて いる例 がある.つぎに挙 げるのは, メデ ィアが魔法 の薬 をイアソンに手渡す場面 で, キアスムスの構 3. 1 0 1 9 f f . ) . 文が使われ て いる比橡 である ( ‥‥‥胸 の中は熱 くな った ( i ai ne t o ), t e k o m e n e )ほ どに.それ はば らの露 が とろける ( t e ke t ai ) のに似 て いた,朝 の光 に暖 め られて (i ai no m e n e ) . 消 える ( この比嘘 はイメジェ リも非常 に美 しいが,技巧 的 にも見 るべ きものがある. ai ne t o( 1 0 1 9 ). ‥t e k o m e n e( 1 0 2 0 )と t e k e t ai ( 1 0 2 1)‥ .i aト す なわち ,i n o m e n e( 1 0 2 1 )というキアスムス碑文が見 られ, しかも前 の鼠 では本動詞だ っ た i ai n oが後 の鼠 では分詞 とな り, また ,t e k oはその逆 にな って いるので あ る.そ して重要 なのはこのキアスムスが,比喰 内部だ けにお さまって いる のではな く,叙述 と比境 の両方 にまたが って いる点 であ る. この場合叙述 と 比橡 の結び付 きは対応点 にあ る とともに,キアスムス韓文 にもある といって よい (18). つぎに挙 げるのは A l l i t e r a ti o nが用 いられて いる例 であ る. これ はさき ほ どの魔法 の薬 の由来が語 られ る箇所 である ( 3. 8 5 1 f f . ) 。 その草 が最初 に生 え出たのは,生 肉を食 う薯が カ ウカソス山の斜面 で,不幸 なプ ロメテ ウスの体 か ら 真 っ赤な体液 を地 に したた らせた ときの こと。 - 38- 花 は地面 か ら- キュー ピッ トほ どの高 さに咲 き, コ リュ コス岬のサ フラ ンに似た色で, 二本 の茎 で支 え られて いる.地下 の板 は いま切 られたばか りの肉そのものだ. メデ ィアは,山に生 える樫の樹液 そっ くりの, その板 の黒 い汁 をカス ピ海 の点穀 に集 めて薬 をつ くった. ここも大変 に凝 った構成 にな っている.魔 法の薬 の原料 となる花が 「コ リュ Ko r y ki oii kel o pkr o koi )」( 85 5)にた とえ られ,その前 コス岬 のサ フラ ン ( 後 の叙述 のなか に 「カ ウカ ソス山の斜面 ( k ne moi seniEau kasi oi si n) 」( 8 5 Kas pi eie nk oc hl oi )」( 85 9)という語句 が配 され て 2 ), 「カス ピ海 の見穀 ( l i t e r ari o nは,叙述 と比境 の いる.地名形 容詞 と名詞 の組 み合わせ によるAl 両方 にまたが り,一体 とな ってメディアの魔法 の薬 にエ ヰ ゾテ ィツクな雰 囲 気 を与 えて いる (= ). 一方,同 じよ うにAl l i t er ati o nが使われて いなが ら,叙述 とのつなが りと いう点 では疑 問符 をつけざるをえないものがある.仲間 を呼ぶ イアソンが獅 子 にた とえ られる比境 であ る ( 4. 13 3 8 f f .). ‥. さなが ら森 のなか で 雌 を求 めて獅子が呪 えるよう,鋭 い ( b a rei ei )声 に谷 あ い ( b es s ai )は hy p o br o m e o usi n), 遠 くの山 まで鳴 り響 き ( ゎo es ) や 恐 ろ しさで野 の雄牛 ( 牛( bo o n)を飼 う者 たち ( bo up el at ai )の毛 は逆立 つ。 だが仲 間たちにはイア ソンの叫び 昼 決 して恐 ろ しくなか った,友 を呼ぶ声だったか ら. ここでは b a rei ei ,( hy po) b ro me o usi n,b es s ai ,b o e s,bo upel a t ai ,b oo n というよ うに,獅子 の叫びが谷間にこだ まする様子が b̀ ' のAl li te rati o n によって効果 的に表現 され て いる (20). しか し,比境では獅子 の叫び を聞 い た牛や牛飼 いが恐れおのの くのに対 し,す ぐあ とでイアソ ンの叫び を聞 いて - 39- も仲 間たち は決 して恐 ろ しくなか った と言 われ る。 これ は ,Al l i t er ati o n に こだわ るあ ま り,叙述 との対応 が おろそか にな って しまった ということか も しれ な い. 3-3 構成 的工 夫 修 辞 的技 法 が比橡 と叙述 の緊密 な結び付 き に寄与 す るもので あ る とすれ ば, 棒成 的工夫 は い くつもの対応 の存在 という前提 にた って,比晩 の効果 を高 め るものであ る.つ ぎの例 は比橡 が叙述 を移行 させ る例 であ る ( 2 . 1 3 0 f f ) . ち ょう ど,岩穴 に巣 をつ くる蜜蜂 の大群 を 羊飼 いか養蜂 家が煙 で いぶす と, 蜂 は しば らくは巣 の中 に群 が った まま, ぶんぶん動 き回 って いるが,やがて黒 い煙 に燦 し出 され て 岩 か ら遠 くへ飛 んで い くよ う, そのよ うにベ ブ リュキア人たちはもはや長 くは踏 み と どまれず 奥 地へ散 って ア ミュコスの死 を知 らせ る ことにな った . これ は,緊迫 した戦 争 の場面 を平和 な牧畜 の情景 にた とえ る というホ メロス によ くみ られ るタイプの比嘘 である. しか し, アル ゴナ ウタイ と羊飼 い (あ る いは養蜂 家 ),ベ ブ リュキア人 と蜜蜂 といった厳 密 な対応 が見 られ る点 で はアポ ロニ オス ・ロデ イオスの比橡 の特徴 が よ く出て いるものでもあ る. さ らに ここで は,叙述 の時 間的経過 に比喰 内部 の時 間的経過 が対応 して いる. つ ま り比橡 のあ いだ に叙述 のひ とつ の局面 が次 の局面 へ移 行 して いるので あ る. 直前 の叙述 :アル ゴナ ウタイがベ ブ リュキア人 をけち らす。 比境 の前半 :羊飼 い ( 養蜂 家)が蜂 を いぶす 。 比境 の後半 :蜂 が逃 げ 出す. -4 0- 直後 の叙述 :ベ ブ リュキア人が逃 げ出す . 比橡 の内部 における 「いぶす 」 行為か ら 「 逃 げ出す」行為へ の移行 は,叙述 の時間的経過 に対応 し, また先取 りす るもの とな って いる. これ は,比境 と 叙述 のそれ ぞれ の要素 が数 多 く対応 して いる という前提 が あ っては じめて可 能 にな る手 法 でもある. .1 0 0 3 -5の木 こ りの比境 で は, こう した例 は他 にも見 られ る.た とえば1 直前 の叙述 :アル ゴナ ウタイ らが 「大地 の子 」 を倒 す . 比橡 の前半 :木 こ りが木 を倒す. 比境 の後半 :その丸太 を木 こりは波打 ち際 に並べ る. 直後 の叙述 : 「 大地 の子」 らが港 に横 たわ る. とな って いる. . 9 6 8 7 1ではへ カテの杜 でおちあ った イアソ ンとメデ ィアが 山中の また ,3 軽 あるいは樵 の木 にた とえ られて いるが, これも 直前 の叙述 :二人 は黙 って立 って いる. 比境 の前半 :風 のな い とき,木 が静 か に立 って いる. 比橡 の後半 :風が 出て きて,木が揺れ動 く. 直後 の叙述 :二人 は これか ら多 くを語 りだそ う とす る. といった よ うに物語 の局面 を移行 させ る比境 と考 え られ る. これ らの比嘘 は,ホ メロスの戦 闘場面 によ くあるような物 語 の流れ のなか a u s eとな って決定的瞬間 を際立 たせ る といった種類 の比喰 で の印象 的な p はな く,逆 に,ある局面 を別 の局面 に移行 させ る ことによ って,その瞬 間 を 印象付 けよ う とす るもの と考 え られ る (21 ). 次 の例 も同様 の移行 を含 んで いる とみなすべ き比嘘 であ る ( 3 . 6 5 6 f f 。 ) . ち ょう ど,部屋 の中で新妻 が若 い盛 りの夫 (の死 ) を -4 1- 嘆 いて いるよう.その夫 に彼女 を嫁 がせたのは兄弟 と両親 だ ったが. 侍女 らとは まだだれ とも顔 を合 わ さな いのは, 恥 らい と自制 のゆえ.それ で奥 にひ き こもって悲 しみ に くれ ている. ある定 めが夫 を滅 ぼ したのだ.二人が互 いの思 いに 6 6 0 喜び を見 出さな いうちに.そ して心 を引き裂 かれ, 夫 の いな い寝 台 を見つめて,静 か にはげ しく涙 を流す. 女 たちに噸 られ,罵 られた りしな いよう. そのよ うに, メデ ィアは悲嘆 に くれて いた. この比境 は,H . F r a e n k e lが大腿 なテキス トの入れ替 え ( 6 5 8 9を6 6 2のつぎに 移す) を提唱 して以来 ,大 きな論議 の まとにな ってきた. F r a e n k e lは,6 6 2 行 までの状況 は 「夫 をな く した若 い妻が心 に苦悩 を抱 いて,夫の いな い寝 台 を見 つめ,静 か に部屋 のなかで泣 いて いる」 というなん ら説 明を要 しな いも のであるのに,6 6 3 行で 「 女 たちの噺 リとか らか いを避 けるため 」 そ うして いるのだ と聞か され るのは驚 きである,それ ゆえ, ここにはなん らか のギ ャ ップが存在 す る, と考 えるのである.そ こで ,6 5 8 6 5 9 行 を6 6 2 行 と6 6 3 行の 間 に置 いてみる と,そのつなが りが はっき りす る という.すなわち, 「彼女 はまだ侍女 たち と親 しく交 わ らず,部屋 に閉 じこも って悲 しみを隠 している. 内気でもあ り,賢明でもあるか らだが,それ は女 たちのあ ざけ りとか らか い をさけるため...」 というエ 合 にうまく結びつ く, というのである (22). それ に対 して ,H . E r b s eは次 のように反論す る (28) . この比橡 の直前 の叙 6 5 3:ai d o s )と大胆 な恋心 ( 6 5 3: t h r a s y s 述 のなかで, メデ ィアの恥 らい ( の葛藤が措 かれ る.そ して恥 らいが一時的 に打ち勝 ち, メディアは hi m e r o s ) 臥床 に倒れ る. この状況 を明示 して いるはず の比境 は,特殊 な前提条件 の描 6 5 6 6 6 1 a )と, メデ ィアの 目下 の状況 に厳密 に対応 す る行為 の 写 をす る前半 ( 叙述 となる後半 ( 6 6 1 b 6 6 3 )の二つ に分かれて いる. 前半 :若 い花嫁 が,結婚 の幸せ を楽 しむ前 に夫 を失な い,侍女 たち とのつ きあいを避 ける. 後半 :夫 を奪われた寝台 を見 つめて泣 くが,侍女たちの噛 りを受けな いよ -4 2- う静 か に泣 く. す なわ ち ,6 62 行 と6 6 3行 は密接 に結びつ いて, この不幸 な 乙女 は と りわ け 愛 の享楽 の期待 が失 われ て しまった こ とを悲 しみ,それ ゆえ に,女 た ちの う わ さ話 を恐 れ て いる ということを示唆す る.も し,F ra e nkelの言 うよ うに, 6 5 8 -9 行 を6 6 3行 に結 びつ けて しまえば,花嫁 の振舞 いは まった く理 解 で きな くな る. というのも,も し彼女 の悲 しみが 乙女 にふ さわ しいものであ るな ら ば,侍女 た ちが彼女 を頓笑 う理 由はな いか らである. アポ ロニオス ・ロデ イ 5 3 行 目の t hr as yshi m e r os という表現 によって暗示 され た メデ ィ オス は ,6 アの欲望 を比境 のなかで品 よ く表現 して いる. この E r bs e の論 は H urstの支持 をうけた のち (24),札C a mp bel lによ っ て極端 に まで推 し進 め られた (25㌦ c am pb el lは とくに この比境 に用 い られ た単語 に性 的な含意 がある と主張す る.す なわち, t hr as yshi m er os( 6 5 3 ):as e x u alu rge. t hal e ro n( 65 6):h ei si nhi sp ri m e,ri p ef o ran dc a pa bl eofs ex ual a cti vi t y. p ar ost arp e me nai。‥ de ne si nal l el o n( 66 0 1):t he yha dno tye tha d S eX。 t ar pe me nai( 66 0):s ex uale nj o y me nt / f ul fi l me nt . d ai o m e ne( 66 1):a nuns ati s fi e ds e x u alu r g e。 であ る と し, こう した表現 は まとまって ` ap o wer f ulpi ct ur eofas ex ual ur ge' を作 り出す として いる. また ,H l l nte r に至 って は ` t hei d e at ha tal i ttl es ex ualex pe ri e nce me r el yi nc r e ase st hel o n gi n gfo rmo rei sc o m m o n.'とまで言 う (28) E r bs e らが この比境 か ら読 み取 る人物像 はきわめて品位 を欠 普,物 語 のな かの メデ ィア像 とは まった く掛 け離れ て いる.彼女 はエ ロス の矢 に射 られ な が らも, 「 処女性 と両親 の館 が私 のもので あ り続 けます よ うに」( 3。 640)と 願 う女性 であ り,大地 か ら生 まれ る勇士 と雄牛 を倒す手立 て をイア ソ ンに教 -4 3- えた後 で さえ, 「メデ ィアの名 を患 いだ して下 さい」( 3. 10 69 -7 0) , 「ただ 私 の こ とを思 いだ して下 さ い」( 3. 11 0 9 -1 0)ということ しか ロに しな い乙女 な のであ る. はた して t h al er o n,de ne si n,d ai o m e n e な どの単語 は C amp b el lの指摘 す るよ うに ` as ex ualur ge ' を示 唆 して いるのであろ うか .そ してなぜ こ の比橡 の花嫁 は侍女 たちのあ ざけ りを恐れ るのであろ うか . まず ,t bal e ro nにかん しては, 『イ リアス 』l l. 22ト47の イ ピダマスや, 『アル ゴナ ウテ イカ』第-巻 のキュ ジコス のエ ピソー ドな どの,若盛 りの夫 の死 のモテ イー プの一環 と して考 えてなん ら不都合 はな い し, 自然 である. 一 方,d e nesi n と dai o me ne にかん して は,た しか に唆 味 な使われか たが e ne a は本来 は L. S. に ` c o ns u el s,pl a ns ,ar ts ,wh et he r な され て いる.d goo do rb ad' とあるよ うに 「策略」 の意 であ り, 『アル ゴナ ウテ イカ』で も, メデ ィアの魔 法 の薬 の 「 策 」( 3. 11 68 ),ある いはキル ケの 「計略 」 ( 4 . 5 59)な どと使 われ て いる. しか し, この比境 ではも うす こ し意味範 蹄 を広 げ て, 「 考 え」 くらいが妥 当か も しれな い. とすれ ば ` t ar pe me naide ne si n all el o n'は 「お互 いの考 え を喜 び あ う前 に」ある いは 「お互 いの心 が通 じあ う前 に」 くらいの意 味 であ ろ うか. d ai o m e ne にか ん しては,da主 o( A):t obu r nu pと,d a主 o( ち):t odi vi deの どち らの完 了分詞 に とるか で見解 が分れ て いる.前者 を とれ ば, 「 心 を燃 や して」 とな り,後者 を とれ ば, 「 心 引 き裂 かれ て」 とな る. しか しいずれ に せ よ唆 味 で ある こ とはた しかであ り,最終 的 には この比喰 内部 だ けで は解 決 不可能 と考 え られ る. とすれ ば アプ ローチを変 えて,前後 の叙述 か らこの比境 を検 討 してみる こ ともむだで はな い。比境 という修辞技法 は叙述 との相互作 用 で成 り立 って い る し, しか も 『アル ゴナ ウテ イカ』の比橡 の特 質 はす で に述 べ た よ うにそ の 厳 密 な対応 にあ るか らであ る. 約 200行物語 をさかのぼ る ことにす る. メデ ィアはエ ロス の矢 を受 けて イア ソ ンに- 自惚 れ したあ と,彼 の姿 を心 のなかで患 い浮 べ る ( 3. 439 f f. ). その とき,彼女 は 「 彼 がす でに死 んで しまったかの よ うに嘆 き」, 「頬 に大 粒 の涙 を流 し,静 か に泣 く」.そ して恋 の苦 しみ に耐 えかね て 「さっさ と死 -4 4- ね ば いい」 と言 う. しか し,す ぐに 「無事 に ( 死 の運命 を) のがれ た らい い のだが」 とも言 う.そ して 「も し雄牛 に負 けて滅 ぶ定 めな ら, どうかそ の前 に,わた しが けっ して忌 まわ しい禍 を喜 んだ りしな い こ とを分 か っても らえ ます よ うに」 と言 う. つ ま り,花嫁 の比境 は この最初 の出会 い直後 の メデ ィアの苦悩 が下敷 にな ・ って いる と考 え られ るのである.も しそ うだ とすれ ば,比橡 の d ai o me ne は enesi n は 「お互 いの理解 」すな わ 「 心 引 き裂 かれ て」 と考 え られ よう し,d ち 「 J E Jの通 いあ い」 と考 え られ るのである. それ ではなぜ メデ ィアは6 6 3 行 ( me m上 nke rt o m eo us ai epi s t o be osigy - n ai ke s)にあ るよ うに女 た ちのあ ざけ りを恐 れて静 か に涙 を流 して いるので あろ うか.H u nt e r は66 2行 目の ` si g a'にかん して ` Gr ee kgri e fwasus ual - l yl o uda ndo ve rt .'であ る と指摘 し, この新妻 が静 か に涙 を流 して いるの は性 的な感情 を抱 いて いるのを恥 として いるか らだ と見 る (27). しか し, メ デ ィアの感 じて いるai dosとは本 当にそ う した性質 のもので あ ろ うか. do s はエ ウ リピデ スの 『ヒ ッ じつ は この比境 で例示 され るメディアの ai ポ リュ トス』のパ イ ドラのそれ と共通す る ところがある.パ イ ドラは ヒッポ リュ トスへ の恋 に苦 しみ,狩 を した い,馬 を駆 りた いとうな され る.乳母 は 「 人前 で気 がふれた ような ことをいって はな りませ ぬ 」( Hi pp .2 13 f.)といさ do umet ha める.す る とパ イ ドラは 「いまロに した こ とが恥 か しいか ら (ai 菖 art al el e gm e n amoi ) 」( 2 4 4 )と言 って いったん外 した ヴェール を顔 にか け ても らう。 この ときパ イ ドラが 口に した内容 は, ヒッポ リュ トス と一緒 に い た い という願望 はた しか に裏 に隠 され て いるにせ よ,あ くまでも狩や乗馬 の 望 みであ る.そ して彼女 の 「 取 らい」 は, 「口に した内容」 にた いす るもの である と同時 に,王家 の女 として人前 で心 乱す ことにた い してでもあ る.乳 母 の, 「た とえも し他人 に言 えな いような ことでお苦 しみだ と しても, こ こ gy nai k es )ですか ら,大丈夫 」( 29 3f .)とい う言葉 にもパ に_ いる人 た ちは女 ( イ ドラは沈 黙 を守 る ( 最終 的 に彼女が沈黙 を破 るのは乳母 の 「嘆願 の手 」 を 尊重 す るた めである) (28) パ イ ドラも夫 をな くした花嫁 に喰 え られ る メデ ィアも, とも にアプ ロデ イ チ (エ ロス) によって恋 に落 ち,ai d os の ゆえに,気心 の知 れ た女 た ちにも -4 5- ゝ 打ち明け られず に,ひ とり苦 しんで いる.状況的 にもパ イ ドラは乳母 によ っ て告 白を余儀 な くされ る直前 であ り, メデ ィアはカル キオペ にイアソンを救 う手立 て を話す直前 であるように共通性 を持つ. こう したふた りの沈黙 と苦 悩 に見な ければな らな いのは,決 して性 的な欲望な どでな く,王家 の女 と し ての誇 りな のである. ra e n kelや E r bse らの解釈が生 じる余地 があるのセあろ う では どこに, F か. この部分 の樟戊 か らその点 を考 えてみた い. 3. 65 663)か らな る.E rb seは 5行半 と 2行半 に分 この比橡 は全体 が 8行 ( けて解釈 したが,Vi a n は前後半 4行ずつ に分 け,後半部分 は,前半 に使わ れた語句 を言 い換 えなが ら花嫁 の内面 にまで踏 み込 んだ描 写 を して いる とす る (29). すなわち, :6 60 -6 61 a= 65 66 夫 の死 花嫁 の悲 しみ と部星 に閉 じこもる姿 :6 61 b66 2=( 6 5 8 ), 65 9 b :6 63 = 6 58 -65 9 a 部屋 に閉 じこもる理 由 という点がそれ ぞれ に共通す る要素 である とす る.た しか に前半 と後半 の対 応 は Vi an の指摘 す る とお りである. しか し,重要なのは対応 す る要素で は n t h al am oi si な く,対応 しな い要素 の方 である.すなわち,前半 では, e ( 65 6) ,myc boi( 6 5 9)といった 「部屋 に閉 じこもる」 という状況が強調 され て いるのにた い し,後半 では,そ う した表現 はな い.一方,後半 にあるsiga mal a( kl ai ei )( 6 62 )という 「 静 か に激 しく嘆 く」 といった表現 に相 当す る詩 句 は前半 にはな い. これ は じつ は移行 の技法が用 い られて いる ことを意味す る.すなわち, 直前 の叙述 :メデ ィアが取 らいによって部屋 に引き止 め られ る. 比槍 の前半 :新妻 が恥 ちいと自制 のゆえに部屋 にひ き こもる. ' 比橡 の後半 :新妻 が静 か にはげ しく涙 を流す. 直後 の叙述 :メディアが侍女 たちに気付 かれな いよう嘆 く. - 46- という棒成 にな って いるのである. 以上 の点 か ら, この比境 には叙述 か らの数 多 くの対応点 が織 り込 まれ , し か も移行 の技法 までが用 い られて いる ことがわか る. しか しそ う した要諦 は ひ とつ の短 い比橡 に とって は過重なもの とも いえる.その結果 , この例 で は, 本来 は明確 でな けれ ばな らな いデ ィテール に唆味な単語 が もち い られた り, 前後半 のつなが りがな いよ うな樟成 にな って しまった ので ある. おわ りに アポ ロニオス ・ロデ イオス は,ホ メロス の比境 にた いす る批判 を意識 して, 「 適切 な」比橡 を作 ろ うと した.そ してそ の 「 適切 さ」 とは第一義 的 には対 応 の数 の ご とであ ったが,ヘ レニズム文学 に特徴 的な細 かな技巧 ・工 夫 も, 叙述 との結 び付 き を密 にす るのに一役か って いる場合 が あ る. 『アル ゴナ ウ テ イカ』 の比境 の魅力 は, そ う した厳密 な対応 ,修辞 的 ・輯成 的工 夫 , イ メ ジェ リの美 しさ といった さ まざまな要素 が組 みあわ さ リ,決定 的な瞬 間が 印 象的 に表現 され て いる ところにある。 しか しときに破綻 を感 じさせ る場令 も あ り,それ は,数 多 くの点 で対応 を作 り出 し,その うえ修 辞 的 ・構成 的工 夫 を放 り込 む という要請 が個 々の比橡 にた い してやや もす る と過重 な負担 とな りかね なか った こ とを示 唆 して いる。 注 テ キス トと して は主 に F. Vi a n,Ap ol l o ni osd eRh o d e,A rgo n auti q uesTo m e トⅠ ⅠⅠ,Pa ri s, 1 97 4 -19 80 を使用 した. ( 1) ホ メロスの比境 を言語 的 に考察 した もの として は,G. P. S hi p p,St u - -4 7- di esi nt heL an guageofHo mer,C a mbri dge,2 nde d.1 97 2 がある.S hi p p に対す る反論 としては,岡道男, 「 比境の言語」, 『ホメロスにおける伝統 98 8年,創文社参照 のこと.o ral poet r y の観点か の継乗 と創造 』所収 ,1 A. Not opoul os,Ho meri cSi mil esi ntheLi ghtofO ral らの研究 としてはJ. P oetr y,C J 52,1957 ,およびW.S cott ,TheOr alNat ureoft heHomeri c e zl er は二 Si mil e,L ei de n19 74 がある. また,別のアプローチ として ,Ri つの別 々の事象 に本質的な一致点 を見出す比境 に哲学的思考 の芽生えをみた. E. Ri e zl er,Dasho me ri sc heGl ei c hni su nd A nf angde rPhil os op hi e,Di e A nti ke,1 2,193 6,p p. 25 3-271. さらに W.S ch adewal dt,Yo nHo me rsWel t utt gart ,4。 Auf1 ., 19 65 ,13Off. ,および B.Smel l ,I ) i eE nt u ndWer k, St dec ku ngdesGei st es,Go etti nge n,5. Auf1 .,1 980,R ap.XI .参照 のこと. ( 2) G.Fi nsl er,Ho me r :II ) e rDi chte rundsei neWelt ,Lei pzi gan d B erli n,2. Auf1 . ,19 14,328f f. n, ( 3) U.vonWil amo wi t z一 班o el l e ndor ff ,Di ell i asundHo me r, Berli 2.A uf1 . ,1920 ,32. ( 4) H.F raenkel ,Di ehomeri s chenGl ei c hni s se,Goet ti ngen,19 21 ,3 . 30 , ( 5) C, A. Bo wr a,T ra di ti ona ndD esi g ni nt helli ad,Oxfo rd, 19 26f. ( 6) T. B. L。 We bste r,Fro m恥ce naetoHo mer,Lo ndo n, 1958,223ff. ( 7) Carrol l皿o ul t o n, Si mil esi nt heHo me ri cPo e ms,Goetti nge n, 1 977,1 54. ( 8) G. W. 出oone y,TheArgo na uti c aofApoll oni usRhodi us,A mste rdam, 1 964 ( D ubli n, 191 2) ,29f. こうしたアプローチはまだすたれて いな い.た G arso n はAr g。4. ー 139f f.の とぐろを巻 く・ 大蛇が,渦 を巻 いて舞 とえば,R.G. い上が っていく煙 に喰え られ る比境 と,そのモデル とな った 『イ リアス』の Il .1 8. 20 7ff.21. 52 2f f. )とを比較 して,単純 に, ー 「ァポ ロ 二つの煙 の比喰 ( ニオス ・ロデ イオスの比橡の方が適切 さの点 でもイメジェ リの点 でも優れて いるのは疑 いな い」 とす る.G. G arso n, Home ri cEc hoes i nApoll oni us Rho di us'Ar go na uti c a,C Pb6 7,1 97 2,1 -9. ho di usa ndt heHo meri cEpi c,yes ( 9) I. F. Cars peck en,Apol l o ni usR - 48- E i i Z lpJ tFn Ht O 1 1 1 2 l l( ( ( 3 1 1 95 2,3 3 1 4 3. ∫. E. Ne w ma n,T heCl a s si c alT ra di ti o n,比a di so n,1 98 6,8 3f f. 加oo ne y,o p.ci t .,5 0 1 . C f.氏.L . H unt e r,Apl l ol o ni uso fRh o d es ,Ar go na uti c aBo okI II , C a m bri d ge,19 89 ,o n3 . 211 -1 4。H unt e rは,2 1 3 -1 4の記述 (「だが,かれ ら が平野か ら町 とアイエテスの館 に着 くと,す ぐさまヘ ラは零 を晴 らした 」 ) か らみて,霧 はイアソン一行が平野 にいる間だけかか って いる と考 え られ る 'ast eo s という表現 はつ じ? まがあわな いとす るが, ここではそ ので,di う した厳密 な論理 よ り, コル キス人 らの住む 「町」そのも のを零 に包む とい ari ati o n の意識 の方が優先 されて いる と考 えるべ きである. う v ( 13 ) Cf.A.C of fe y,T heF ncti u o noft heH o meri cSi mil e,A JP7 8, 1 9 5 7,1 13 -1 32 . ( 1 4) C f.B o wr a,op .°i t.1 2 6 f. ( 15 ) S c hol i aG ra ec ai nH o me rill i ade m,r ec .H. Er bs e,Ⅰ ⅠⅠ ‥ B erli n oc. C f.W . L e af,T heIli adI -I I,L o n do n, E nde d. ,19 00 -2 , I 97 3, ad.l o n10 .5 . `Th esi mi l ei ss oc o n f us e dast obep ra cti c al l yu ni nt eト l i gi bl e.Fr o m9i two ul ds e e mt hatf r e q ue nc yofA ga ma mn o n'sg ro ani s IaSi ng ul arl y c o mp a re dtot hef re qu e nc yo ffl as he sofl i ht g ni ngp oi ntl essc o m pa ri s o n. チ ( 16 ) Cf.H unt e ro n3. 8 7 6 -8 6. .のゼテス とカライスが猟犬 にた とえ られ る比晩 も対応点 の ( 17 ) 2. 27 8 ff とくに多 い比境 である. ( 18 ) Cf.L e af,o p.ci t .o n2 3. 5 9 7. ( 19) C f.H unt e r,o p. °i t.o n85 1 3. ( 20 ) 1 34 0の hy po br o meo usi n の読 みにかん しては ,F. Vi a n,A poll oni o s g o n auti qu esTo m eII I ,P ari s ,1 9 80 ,1 9 3 の注 を参照 の こ と. d eRh o de,Ar ( 21 ) C ars p ec ke n はホ メロスにも こう した移行 の比境 はい くつか認 め ら れ るが;それ は詩人が意 図的にお こな ったのではな く,偶然 の結果 だ とす る. C ar sp ec ke n,o p. °i t. ,86. ( 22 ) H. F r a e nkel ,P ro bl e msofTe x tan dI nt e rp re t ati o ni nAp ol l o -4 9- ni u s 'A r g o n a u ti c a ,A J P7 1 ,1 9 5 0 ,1 1 3 1 3 3 .F r a . e n k e l は傍証 と して, この LS c h o l i u m 部分 をパ ラフ レーズ している 『アル ゴナ ウテ イカ』のス コ リア ( を挙 げ, これ も6 5 8 9を6 6 3 行 に結びつけて いる と指摘す る. a d3 . 6 5 6 6 3 a ) ( 2 3 )H . E r b i e .A p ol l o ni iR h o d i iA r g o n a u t i c ae d .F r a e n k e l ,G n o m o n ,1 9 6 3 ,1 8 2 7 . 3 5 o d e s ,血 2 3 , ( 2 4 )A .H u r s t ,S u rd e u xp a s s a g e sd ' A p o l l o ni o sd eRh 1 9 6 6 ,1 0 7 l l. ( 2 5 ) 臥C a m p b el l ,S t u di e si nt h eT hi r dB o o ko fA p ol l o ni u sRh o di us ' ,H i l d e s h e i m ,1 9 8 3 ,3 9 f . A r g o n i u ti c a ( 2 6 )H u n t e r ,o p .c i t .o n6 5 6 6 4 . ( 2 7 )Ⅰ bi d . ,o n6 6 2 . d o sにつ ( 2 8 ) エ ウ リピデス 『ヒッポ リュ トス』 におけるパ イ ドラの ai . S . B a r r e t ,E u ri p i d e sHi p p o l y t o s ,0 X f o r d,1 9 6 4 ,o n2 4 4参照 の いてはW . T a p l i n,G r e e k こと. また,乳母 の 「嘆願 の手」の重要性 につ いては,0 ,L o n d o n ,2 n de d .1 9 8 5 ,6 9 f . 参照 の こ と. T r a g e d yi nA c ti o n ( 2 9 )F . Vi a l,o p . ci t . ,1 3 0 f . - 50-
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