多剤耐性菌感染症克服を意図した 多剤排出ポンプ阻害剤 大阪大学 産業科学研究所 教授 山口 明人 大阪大学 産業科学研究所 教授 加藤 修雄 1 従来技術とその問題点 従来技術:抗菌薬による細菌感染症の治療 問題点 ・多剤排出ポンプの過剰産生に起因する グラム陰性多剤耐性菌感染症が発生 臨床投与できる有効な治療薬が存在しない 2 研究の背景 グラム陰性菌多剤耐性の背景には多剤排出ポンプの高発現がある グラム陰性菌主要多剤排出ポンプ の模式図 ・多剤排出ポンプはすべての細菌が持っている細菌 の生体防御機構。 ・多剤耐性菌では多剤排出ポンプの発現が亢進して いる。 ・多剤耐性菌の広い耐性スペクトルは多剤排出ポン プの高発現によるものである。 多剤耐性緑膿菌臨床分離株(MDRP)における多剤排出ポンプの高発現 3 3 排出ポンプの構造決定 世界初の多剤排出ポンプ構造決定により、構造に基づく 阻害剤のデザインが可能になった 私たちは、2002年に世界で初めて大腸菌の多剤排出ポ ンプAcrBの構造を決定したのを皮切りに、2006年には初 めて薬物結合構造を決定し、2011年には複数の多剤結 合ポケットの存在を証明、さらに2013年には大腸菌と緑 膿菌の多剤排出ポンプの阻害剤結合構造を決定した。 2006年Nature誌に報告した 多剤排出ポンプAcrBの薬物 2002年Nature誌の表紙を飾った 結合構造 初の多剤排出ポンプ構造決定 2006年薬物結合構造決定 4 排出機構 多剤排出ポンプは、ホモ3量体が機能的回転輸送機構で 薬物を排出する細胞膜の掃除機だった。 drug binding monomer access monomer distal pocket proximal pocket ② extrusion drug H+ drug periplasm ③ ① Central Cavity proton relay site ion pair triplet inner membrane access binding Arg971 H+ cytoplasm 3つの入り口に1つの出口、2つの結合ポケット、 プロトンリレーサイトを持つホモ3量体ポンプ 機能的回転輸送機構の模式図 3つのモノマーが待機→結合→排出と順に構造 変化する 5 多剤認識機構 多剤結合を可能にしていたのはマルチサイト結合だった extrusion monomer access monomer 小分子量薬物 PN2 MINO(青) DOX(橙) PN1 PC1 PC2 open cleft binding monomer 大分子量薬物 RIF(マゼンタ) EM(黄) 6 阻害剤結合部位の決定 既知の狭域阻害剤ABI-PPとの結合構造を決定した Nature 2013 ABI-PP: AcrB, MexBを阻害す るが、MexYを阻害しない。 extrusion 90° binding access 7 ABI-PPがMexYを阻害できない理由 AcrB/∆acrB MexY/∆acrB∆tolC MexB/∆acrB∆tolC EM 2µg/ml AcrB MexY MexB F178 V139 F178 V139 W177 I138 crystal structure homology model crystal structure AcrB, MexBでは阻害剤結合ピットのフェニルアラニン178がABI-PPのピリドピリミジン環とπ-π結合を形成しているが、 MexYの対応する部位はトリプトファン177で占められており、その大きなインドール側鎖が結合ピットに張り出してABIPPの結合を立体的に障害しているということが、構造解析によって解明された。 8 広域阻害剤の設計と合成 MexYのTrp177側鎖を迂回して結合できる新規Hx化合 物の合成に成功 Hxはエリスロマイシンとの併用で、 はエリスロマイシンとの併用で、MexB, MexYどちら どちら はエリスロマイシンとの併用で、 の過剰発現株の生育も阻害する MexY Hx濃度 W177 Hx Hx濃度 PP 9 新技術の特徴・従来技術との比較 ・グラム陰性菌多剤排出ポンプの広域阻害剤を開発。 ・多剤耐性緑膿菌を始めとするグラム陰性多剤耐性菌に対する 従来型抗菌薬の抗菌活性を復活させる。 ・これまでグラム陰性細菌には適応のなかったマクロライド薬な どの抗菌薬の使用も可能になる。→グラム陰性菌には耐性が 広まっていないことが期待できる。 ・阻害剤自体には抗菌力がないので、阻害剤への耐性菌の出 現可能性は低いと期待できる。 ・単剤投与が原則の従来の抗菌薬治療に対し、ポンプ阻害剤 併用投与という新しい治療形態により、耐性菌の出現を抑え、 抗菌薬使用量を劇的に低減できる。 10 想定される用途 • 既知抗菌薬との併用により、多剤耐性緑膿菌 (MDRP)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)などの 治療薬。 • CRE, BLPAR, BLNARなど、多剤排出ポンプ過剰産 生以外の多剤耐性菌に対しても、多剤排出ポンプ阻 害効果により有効になる抗菌剤が期待できる。 • 阻害剤配合抗菌薬という形で、これまでグラム陰性 感染菌には無効であった抗菌薬を治療に生かせる。 • 耐性菌以外の感受性菌に対しても、阻害薬を併用す ることで抗菌薬の投与量を大幅に低減できる。 11 実用化に向けた課題 Hxをリード化合物としてさらに阻害能の向上し た化合物を設計・合成すると共に、臨床開発に 向けてデータを積み重ねていく 現在:大腸菌、緑膿菌、サルモネラ菌に対する 各種抗菌薬との組み合わせによる抗菌力 のデータが得られた段階。 今後:臨床的に重要な他の菌種に対するデータ を集めると共に、細胞毒性、薬物動態など のin vivoの検証を行う。 12 企業への期待 ・多剤耐性菌に対する有効な抗菌薬を開発する 意欲を持つ企業と共同研究することで、私たち の開発した多剤排出ポンプ広域阻害剤を臨床薬 として育てたい。 ・新たな化合物の合成、ポンプの結合構造決 定、対象細菌の遺伝子操作や抗菌力測定は大 学で分担できるので、企業には培養細胞や動物 を用いた細胞毒性や薬物動態等の検証をお願 いしたい。 13 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :多剤排出ポンプ阻害剤 • 出願番号 :特願2015-238703 • 出願人 :国立研究開発法人科学技 術振興機構 • 発明者 :山口明人、加藤修雄、 井上雄太、山崎聖司 樋口雄介、櫻井啓介 中島良介、西野邦彦 14 お問い合わせ先 【ライセンスについて】 科学技術振興機構 知的財産戦略センター 下岡 正志 TEL 03-5214 - 8486 e-mail [email protected] 【技術内容について】 大阪大学 産業科学研究所 教授 山口 明人 TEL 06-6879 - 8418 e-mail akihito@sanken.osaka-u.ac.jp 15
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