1 策定の背景 - あきる野市

Ⅰ 策定の背景
策定の背景
1
生物多様性とは
あきる野市には、鳥やけもの、虫、魚、草、木などのたくさんの動物や
植物が生息・生育しています。また、市域の約6割に及ぶ森林のほか、秋川
などの河川、横沢入などの里山、地産地消型農業を展開する農地、街なかの
緑など、様々なタイプの自然環境が存在しています。
多様な生きものは、それぞれの生息・生育に適した場所に暮らし、本市の
豊かな自然環境の中で、「食う-食われる」の関係でつながっています。
また、この他にも、生きものは「共生」や「寄生」といった関係を持つ
ことが知られています。
このように、多様な生きものが互いに関係しながら、暮らしていることを
「生物多様性」といいます。
本市は、全国的にみても希少となる多様な生きものが生息・生育するまち
であり、豊かな生物多様性は、本市の特長の一つとして認識されるように
なってきました。
2
これまでの歩み
市では、豊かな生物多様性の保全と活用に向け、「生物多様性あきる野戦略」
(以下「あきる野戦略」という。)を策定し、本格的に生物多様性の取組に
着手することとしました。
一方、かねてから推進している「あきる野市郷土の恵みの森構想」(以下
「郷土の恵みの森構想」という。)に基づく「あきる野市郷土の恵みの森
づくり基本計画」(以下「郷土の恵みの森づくり基本計画」という。)では、
「地域との協働による森づくり事業」や「森林レンジャーあきる野」(以下
「森林レンジャー」という。)による地域資源の掘り起こしなどを進めて
きました。
これらの取組は、地域の特性を踏まえながら、森の健全な環境の保全と
地域活性化を目指すものであり、まさに森を中心とした生物多様性の取組と
なります。
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(1)「生物多様性
(1)「生物多様性あきる野戦略」とは
生物多様性あきる野戦略」とは
本市は、豊かな自然環境の中で、多様な生きものが息づいているまち
です。また、こうした環境や生きもの達のつながり(生物多様性)がもた
らす恵みは、私たち人間が生きていく上で必要不可欠なものです。
あきる野戦略は、本市の豊かな自然と生物多様性を将来の世代に贈り届け
られるよう、生物多様性の保全と活用の方向性を示しています。
図1 生物多様性あきる野戦略が目指す望ましい姿
生物多様性を将来に引き継いでいくためには、生物多様性やその恵みを
正しく理解することが重要です。
また、生物多様性の保全の取組により、本市の豊かな生物多様性の
維持・向上を図り、エコツーリズムをはじめとする観光に活用するなど、
保全と活用の循環を創出し、地域活性化を進めることで、継続的な取組
とする必要があります。
さらに、生物多様性の恵みは、日常生活や事業活動、観光などの様々な
場面で享受されるものであることから、恵みを享受する全ての主体が連携
して生物多様性の取組を進めていくことが求められます。
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「生物多様性あきる野戦略
「生物多様性あきる野戦略」
あきる野戦略」のポイント
<基本理念>
1 生物多様性や生物多様性の恵みを理解し、保全と活用の循環に
より、生物多様性の維持・向上と地域活性化を図ります。
2 生物多様性の取組は、本市の生物多様性の恵みを享受する全て
の主体が連携して進めます。
3 豊かな自然と、その中で育まれてきた生活を、可能な限り良い形
で将来の世代に継承します。
<目的>
1 望ましい姿の共有
2 施策の基本方針の明示
3
4
施策を進めるための仕組みの構築
各種取組の位置付け
<望ましい姿>
「美しい自然と生物多様性の恵みにあふれ、
その恵みを大切にしながら、みんなで守り育て伝えていくまち」
<ポイントとなる 5 つの取組>
1
2
3
4
5
※
(仮称)生物多様性保全条例の制定
あきる野市版レッドリストの作成
カントリーコードの設定
(仮称)あきる野生きもの会議の設置(※)
実施計画の策定
すでに「あきる野市生きもの会議」が設置されていますが、ここでは、
あきる野戦略の策定当時の表記をそのまま用いています。
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(2)「あきる野市
(2)「あきる野市郷土の恵みの森構想
あきる野市郷土の恵みの森構想」とは
郷土の恵みの森構想」とは
本市の西部を中心に広がる森林は、市域の約6割に及んでいます。かつて
は、木材供給で得た収益などの様々な潤いをもたらし、地域の発展に寄与
してきましたが、高度経済成長期以降、林業を取り巻く環境や生活スタイル
の大きな変化により、人と森との関わりが希薄になるとともに、森の荒廃が
懸念されるようになりました。このままでは、永きにわたり受け継がれて
きた大切な財産である森とその豊かな恵みが失われてしまうかもしれ
ません。
そこで、市域の森を、市民はもちろん市外の人や将来世代とも共有する
みんなの「共通の財産」として捉え直し、様々な角度から森の保全と活用
を図る「人と森との新たな共生の姿」を創出するため、「郷土の恵みの
森構想」を策定しました。
この構想では、市が目指す「環境都市あきる野」の実現に向け、10年後、
50年後、100年後の将来を見据えた森づくりのあり方とその方向性が
示されています。
(3)「あきる野市
(3)「あきる野市郷土の恵みの森づくり基本計画」とは
あきる野市郷土の恵みの森づくり基本計画」とは
郷土の恵みの森構想は、本市の森づくりに関する基本的な考え方を示した
ものであることから、この構想を具体化するため、「郷土の恵みの森づく
り基本計画」を策定しています。
この計画は、平成23年度から平成27年度までの5年間を計画期間と
し、森の健全性や生物多様性などについて、現状と課題を整理するとと
もに、市内各地区における森づくりの進め方などをまとめています。
この計画の策定をきっかけに、地域の皆さんとの協働による森づくりや
地域づくりなどの取組が本格化し、現在に至っています。
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3
「あきる野市郷土の恵みの森づくり基本計画
あきる野市郷土の恵みの森づくり基本計画」
郷土の恵みの森づくり基本計画」の評価
市では、郷土の恵みの森づくり基本計画に基づき、主に「森の健全性」「生
物多様性」「絶滅危惧種」「特定外来生物など」の取組を進め、「環境都市
あきる野」の実現を目指してきました。
計画期間である5年間の主な成果と課題は、次のとおりです。
(1)森の健全性
本市では、かつて人と森との関係性が緊密であったことから、人が森に
手を加えることが森の健全性を取り戻す手段の第一歩であると考え、まず
は森林レンジャーによる森の健全性の調査に着手しました。
調査で得た情報を基に、森が存在する町内会・自治会等の皆さんと協働し、
昔道の再生や尾根道の補修、景観整備を行い、地域の皆さんやハイカー
などが安全に森を楽しめる環境を整えてきました。
平成27年度においては、15の町内会・自治会等が主体となって森の
整備を進めており、昔道・尾根道補修等事業では 21.1km、景観整備事業
では 79.19 千㎡の取組が行われました。
森の健全性の維持・向上を図るためには、主体となる町内会・自治会等
による継続した取組が必要となります。一方、必要経費や人員の確保に
課題があることから、市では、交付金の交付や森づくりのボランティア
組織である「森林サポートレンジャーあきる野」(以下「森林サポート
レンジャー」という。)による支援を行ってきました。
今後も、継続して森の整備を進めていくためには、引き続き、財源や
担い手を確保していく工夫が必要となります。
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主
体
内
深沢自治会
自然を昔に戻す会
養沢自治会
三内自治会
樽自治会
高尾自治会
菅生町内会
容
期間
(年目)
距離
(km)
大カシ・堀田尾根道整備事業
6
3.8
大杉への探索路整備事業
日向峰道補修等事業
サルギ尾根登山道補修事業
大野道補修事業
天竺山周辺散策道整備事業
金比羅山接続登山道整備事業
高尾神社周辺尾根道整備事業
菅生北尾根周遊道整備事業
3
6
6
3
6
5
5
6
0.6
1.5
3.0
1.4
1.2
0.6
1.2
3.8
菅生南尾根周遊道整備事業
5
4.0
—
21.1
合
計
表1 昔道・尾根道補修等事業(平成27年度)
期間
(年目)
面積
(千㎡)
深沢川周辺景観整備事業
南沢地区景観整備事業
日向峰地内景観整備事業
長岳尾根周辺景観整備事業
軍道地区石原沢景観整備事業
軍道地区まがめひろば景観整備事業
6
6
1
1
6
3
17.00
11.60
2.70
1.60
4.00
1.50
乙津自治会
乙津地内景観整備事業
5
13.60
落合自治会
加茂原周辺景観整備事業
5
5.20
青木平自治会
西青木平橋周辺景観整備事業
5
2.75
寺岡自治会
二反坂周辺景観整備事業
5
4.90
山下自治会
堂沢周辺景観整備事業
5
2.50
小机自治会
まいまい坂周辺景観整備事業
5
2.00
網代自治会
弁天山公園周辺景観整備事業
2
9.84
—
79.19
主
体
深沢自治会
自然を昔に戻す会
軍道自治会
内
合
容
計
表2 景観整備事業(平成27年度)
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(2)生物多様性
昭和6年に本市の草花丘陵で
発見されたトウキョウサンショウ
ウオは、現在もあきる野の里山で
生息しており、本市の豊かな自然
環境を象徴する生きものとなって
います。このため、トウキョウサン
ショ ウウ オ の保 全に 向け 、森 林
レンジャーによる生態調査を実施し、
生息場所の把握と保護に取り組ん
できました。
そして、平成23年5月には、
写真1 トウキョウサンショウウオ
環境保全の必要性を広く PR する
ため、このトウキョウサンショウ
ウオをモデルとしたキャラクター
「森っこサンちゃん」が誕生しま
した。
「森っこサンちゃん」は、着ぐ
るみ化され、様々なイベントで活躍
するとともに、デザインが事業者
図2 森っこサンちゃん
に よ る 商 品 開 発 等 に使 用 さ れ る
など、幅広く活用しています。平成27年3月末までで、着ぐるみで73件、
デザインで66件の利用がありました。
また、本市の豊かな水環境の象徴であるホタルについても、「地域との
協働による森づくり事業」の一環として、その保全に取り組んできました。
具体的な取組としては、ホタルが生息している河川の清掃活動などがあげ
られます。
トウキョウサンショウウオやホタルなどの生きものの生息には清流が
必要であることから、森の水源かん養機能の向上に向け、針葉樹から
広葉樹への樹種転換にも取り組みました。
これらの取組については、生息場所の維持などの一定の成果が得られた
ものの、より大きな成果を得るためには、あきる野戦略に基づく生物多様性
の保全に向け、更に推進していく必要があります。
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(3)絶滅危惧種
絶滅危惧種については、郷土
の 恵み の森 構想の 推進 役と し
て 発足 した 森林レ ンジ ャー や
「 あき る野 市環境 委員 会自 然
環境調査部会」(以下「自然環境
調査部会」という。)を中心に、
平成21年度から生態分布調査
を実施してきました。
調査結果は、「森林レンジャー
あきる野活動報告書」や「あきる
野市自然環境調査報告書(平成
21年度~23年度)」にまとめ 図3 絶滅危惧種分布状況(平成24年度)
ら れ、 市内 全域の 絶滅 危惧 種
(把握できたもののみ)の分布状況が明らかになってきました。
今後は、これらの調査結果を基に、あきる野戦略に基づく希少生物の保全
の取組として、具体的な保護対策の検討・実施が必要となります。
(4)特定外来生物など
外来種(アライグマ・ハクビシン)については、在来種の生息場所を
奪ったり、在来種を捕食したりするなどの生態系被害を引き起こすため、
平成24年10月から対策事業に取り組んでいます。
自然環境調査部会などにより確認された外来種の生息域を中心に、市民
からの目撃情報などに基づき、箱わなを設置し、捕獲を行っています。
この事業により、平成27年3月末までで、84頭のアライグマ(特定
外来生物)、15頭のハクビシン(外来種)を捕獲しました。
今後、更に外来種対策を進めていくためには、地域住民の理解と連携の
維持・拡大が必要となります。
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4
あきる野市生物多様性地域連携保全活動計画
生物多様性の保全や活用の取組を着実に進めていくためには、多様な主体の
参画が不可欠であることから、あきる野戦略の実施計画として、「あきる野市
生物多様性地域連携保全活動計画」(以下「本計画」という。)を策定する
ことにしました。
また、本計画は、平成27年度に計画期間が満了する「郷土の恵みの森
づくり基本計画」の第二次計画に相当するものです。
本計画の策定に当たっては、市民の皆さんをはじめとする実施主体の方々
とともに、これまでの取組の実施状況の把握や見直し、新たな取組の洗い
出しを進めてきました。
※
地域連携保全活動と地域連携保全活動計画とは
「地域連携保全活動」とは、地域の自然的・社会的条件に応じ、多様な
主体が有機的に連携して行う生物の多様性を保全するための活動のこと
です。また、「有機的に連携して」とは、地域で活動を行う多様な主体が
相互に連絡を取り合い、知識や経験を共有し、各主体が適切な役割分担の
下で、共通の目標に向けた活動を一体的に行うことを意味しています。
地域連携保全活動を計画として取りまとめる場合には、①計画区域、
②計画目標、③活動の実施主体・実施場所・実施時期・実施方法等を
具体的に定める必要があります。
なお、こうした考え方は、平成22年に制定された「地域における
多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に
関する法律」(生物多様性地域連携促進法)に基づくものです。
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