日本経済情報 2016 年 3 月号

Mar 24, 2016
伊藤忠経済研究所
日本経済情報 2016 年 3 月号
Summary
【内 容】
1. 景気の現状
2015 年 10~12 月
期の成長率は上方
修正ながら内容は悪
化
設備投資の先行き
懸念は変わらず
個人消費は回復力
の乏しさを再確認
輸出は米国向けに
復調の兆し
2. 今後の見通し
政策対応への期待
が高まり消費増税の
行方は不透明に
物価目標達成のた
め追加の金融緩和
は不可避
輸出は持ち直すも設
備投資は低い成長
期待が天井に
個人消費は所得環
境の改善程度には
持ち直す
デ フ レ 脱 却 は 2018
年度以降に
政策オプシ ョン によ
って異なる先行き
伊藤忠経済研究所
主任研究員
武田淳
(03-3497-3676)
takeda-ats
@itochu.co.jp
日本経済の先行きは晴れず政策対応への期待高まる
2015 年 10~12 月期 GDP の 2 次速報値は 1 次速報から上方修正された
が、内需の停滞に対して在庫調整が遅れたという見方ができ、内容はむ
しろ悪化した。
設備投資は、10~12 月期の小幅上方修正に加え、1 月の機械受注が大幅
に増加したものの、いずれも今年度の強気な設備投資計画を反映したに
過ぎず、先行きの懸念を払拭する材料ではない。また、個人消費の下方
修正は耐久財販売の不振をより鮮明とし、1 月以降の販売統計も冴えな
い動きとなるなど、消費の回復力は依然乏しい。背景には株価下落など
を受けた消費者マインドの悪化があるとみられる。一方で、輸出は数量
ベースで持ち直しの動きが見られ、なかでも輸出停滞の主因であった米
国向けが自動車関連を中心に復調の兆しを見せた。
このように日本経済は主に内需の不振により停滞状態が続いているた
め、このところ追加の景気対策や消費増税先送りといった政策対応への
期待が高まりつつある。今後、伊勢志摩サミット首脳会議を控えて議論
が深まるとみられるが、現時点では消費増税の行方は不透明である。
ただ、日銀は物価目標達成のため、4 月の決定会合で追加の金融緩和に
追い込まれ、量的拡大にも踏み切る可能性が高い。さらに今後は米国経
済に対する過度に悲観的な見方が後退するとみられ、ドル円相場は 2016
年度には再び円安基調となろう。
円安基調は輸出の持ち直しや企業業績の改善に貢献するが、期待成長率
が高まらないため、設備投資は 2016 年度中にピークアウトしよう。ま
た、個人消費は緩慢な所得環境の改善ペースに応じた程度の拡大にとど
まろう。追加の景気対策がなく、消費増税が予定通り行われれば、駆け
込み需要により 2016 年度の実質 GDP 成長率は前年比+1.3%へ高まる
が、需給ギャップは消費増税の直前にようやく解消する程度である。さ
らに、反動落ちで景気が下押しされる 2017 年度には再び需給ギャップ
が拡大するため、デフレ脱却は 2018 年度以降に持ち越されよう。
なお、「追加の景気対策」や「消費増税先送り」という政策オプション
によって景気の先行きが異なるが、その効果を踏まえた判断には今しば
らく時間を要することとなろう。
日本経済情報
伊藤忠経済研究所
1. 景気の現状
2015 年 10~12 月期の成長率は上方修正ながら内容は悪化
今月 8 日に発表された 2015 年 10~12 月期 GDP の 2 次速報値は、前期比▲0.3%(年率▲1.1%)と
なり、1 次速報の前期比▲0.4%(年率▲1.4%)から上方修正された。ただし、主因は民間在庫投資
(GDP に対する前期比寄与度▲0.1%Pt→▲0.0%Pt)や政府消費(前期比+0.5%→+0.6%)の上方
修正であり、民間企業設備投資(前期比+1.4%→+1.5%)は小幅上方修正にとどまり、個人消費(前
期比▲0.8%→▲0.9%)や公的固定資本形成(▲2.7%→▲3.4%)が下方修正されたことを踏まえる
と、内需の停滞に対して在庫調整が遅れたという見方ができ、内容はむしろ悪化したと言える。
実質GDPの推移(季節調整値、前期比年率、%)
機械受注と設備投資の推移(季節調整値、年率、兆円)
15
80
12
名目設備投資
10
実質GDP
その他
機械受注(後方3期移動平均)
75
11
設備投資
5
純輸出
70
10
個人消費
65
9
0
▲5
公共投資
60
▲ 10
8
※機械受注の最新期は2016年1月単月
55
▲ 15
2010
2011
2012
2013
2014
7
2005
2015
( 出所) 内閣府
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
( 出所) 内閣府
設備投資の先行き懸念は変わらず
また、これらの修正のうち、大方の予想の範囲外だったのは設備投資の上方修正と個人消費の下方修
正である。設備投資については、法人企業統計季報の発表を受けて当研究所を含め下方修正を見込む
向きが多かったが、結果は小幅ながら上方修正となった。さらに、設備投資の先行指標である機械受
注は、1 月に前月比+15.0%もの大幅増となり、1 月の水準は 10~12 月を 11.7%も上回る結果となっ
た。ただ、急増の主因は鉄鋼業における一時的な増加とみられ、鉄鋼を除くと概ね横ばいにとどまる。
こうした機械受注の動きは、設備投資が 2016 年 1~3 月期も前期比で増加が続く可能性を示唆するも
のの、それは鉄鋼業界において比較的強気な今年度の設備投資計画が実行されただけに過ぎず、来年
度も設備投資が堅調な拡大を続けることを示すものではない。さらに言えば、鉄鋼を除くと横ばい程
度という機械受注の数字は、最近の円高地合いや海外景気の不透明感といった環境の悪化を受けて、
後述のように設備投資のピークアウトが近い可能
家計消費の財別推移(季節調整値、前期比、%)
性を示していると言えよう。
4
3
個人消費は回復力の乏しさを再確認
2
1
また、個人消費の下方修正は、回復力の乏しさを
0
改めて認識させる結果である。修正の内容を財別
▲1
▲2
に見ると、衣料品などの半耐久財が上方修正(1
▲3
次速報:前期比▲3.7%→2 次速報:▲3.1%)され
その他
非耐久財
耐久財
▲4
▲5
た一方で、耐久財が大幅に下方修正(前期比▲
半耐久財
サービス
家計消費
▲6
3.1%→▲4.3%)となっており、耐久財の販売減
2010
( 出所) 内閣府
2
2011
2012
2013
2014
2015
日本経済情報
伊藤忠経済研究所
が消費不振の主因であることがより鮮明となった。
2016 年に入ってからも主な小売業の販売動向に目立った改善は見られない。百貨店販売(既存店ベー
ス)は、暖冬の影響による衣料品の落ち込みを化粧品などの雑貨がカバーして、1 月の前年同月比▲
1.9%から 2 月は+0.2%へ改善したが、外国人客の購入増によるところが大きく、国内需要の好調さ
を示すものではない。スーパー売上高(既存店ベース)も惣菜や一部の春物衣料の好調により 1 月の
前年同月比+2.3%から 2 月は+3.4%に伸びを高めたものの、うるう年により営業日が 1 日多かった
影響で売り上げが 3%押し上げられたという指摘もあり、実態としては強い数字ではない。コンビニ
売上高(既存店ベース)も、1 月の前年同月比+1.0%から 2 月は+1.6%へ伸びを高めたが、スーパ
ー同様うるう年による影響が大きかったようである。
また、乗用車販売台数は、1 月の前年同月比▲4.4%から 2 月は▲7.5%へ落ち込み幅が拡大した。当
研究所試算の季節調整値でも、1 月の年率 414.4 万台から 2 月は 406.6 万台へ減少、2015 年通年の
421.6 万台を割り込む状況が続いている。内訳を見ると、軽自動車が底堅く推移している一方で、12
月から 1 月にかけて水準を高めた普通車が 2 月は反動で落ち込み、1 月に大きく落ち込んだ小型車も
2 月は小幅増にとどまり低迷から脱していない。
業態別小売り売上高の推移(前年同月比、%)
乗用車販売台数の推移(季節調整値、万台)
20
15
小売業計
コンビニ
スーパー
百貨店
18
10
16
普通車
小型車
軽自動車
14
5
12
0
10
8
▲5
6
※直近期は小売業計が1月単月、各業態は1~2月平均。
百貨店、スーパーは店舗調整済、コンビニは既存店。 小売計のみ消費税含む。
▲ 10
2010
2011
2012
2013
2014
2015
4
2008
2016
( 出所) 経済産業省、 各業界団体
※当研究所試算の季節調整値
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) 自動車工業会
このように個人消費の回復力が弱い背景には、消費者マインドの悪化があろう。代表的な消費マイン
ドの指標である消費者態度指数は、2015 年 10 月から 12 月にかけて改善が続いたが、2016 年 1 月に
4 ヵ月ぶりの悪化に転じ、2 月には大きく低下した(12 月 42.7→1 月 42.5→40.1)
。株価の下落など
を受けた景気の先行きに対する懸念が雇用不安などにつながり、消費者マインドを悪化させたとみら
れる。
輸出は米国向けに復調の兆し
暗さの目立つ内需に比べ、輸出にはやや明るさが見られる。2 月の通関輸出は、金額では前年同月比
▲4.0%となり、5 ヵ月連続のマイナスを記録、前月比(季節調整済)でも▲2.4%と 2 ヵ月ぶりのマ
イナスに転じるなど落ち込んでいるが、主因は素材分野の市況悪化や円高進行による価格下落である。
数量ベース(輸出数量指数)では、1 月の前年同月比▲9.1%から 2 月は+0.2%と 10 ヵ月ぶりのプラ
スに転じ、前月比(当研究所試算の季節調整値)でも 1 月の+2.0%から 2 月は▲0.3%と概ね横ばい
にとどまり、1~2 月平均では 10~12 月期を 1.2%上回るなど、持ち直し傾向を維持している。
仕向地別に見ると、10~12 月期に前期比+3.9%と持ち直した EU 向け(2015 年金額シェア 10.6%)
3
日本経済情報
伊藤忠経済研究所
が 1~2 月平均でさらに 2.8%水準を高めたほか、アジア向け(シェア 53.3%)も 10~12 月期の前期
比+1.6%から 1~2 月平均は 2.1%増加し、それぞれ回復傾向を維持した。輸出停滞の主因であった
米国向け(シェア 20.1%)も 1~2 月平均の水準が 10~12 月期を 3.1%上回り復調の兆しを見せた。
輸出数量指数の推移(季節調整値、2010年=100)
米国向け輸出数量の推移(季節調整値、2014年Q1=100)
150
130
140
米国
合計
130
120
EU
アジア
※最新期は1~2月平均
110
120
100
110
90
100
80
90
70
80
60
自動車
自動車部品
70
50
鉄鋼
プラスチック
60
2008
※当社試算の季節調整値で、最新期は1~2月平均
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
40
2010
2016
( 出所) 財務省
2011
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) 財務省
米国向け輸出について、数量ベースの動向が統計で確認できる品目に限って見ると、鉄鋼(輸出全体
に占める金額シェア 2.2%、10~12 月期前期比+13.3%→1~2 月平均の 10~12 月期比▲23.4%)や
映像機器(シェア 1.2%、▲5.7%→▲10.7%)が大きく落ち込む一方、最大シェアの自動車(シェア
26.8%、▲4.6%→+7.9%)は一進一退ながら緩やかな拡大傾向を維持し、自動車部品(シェア 6.5%、
+2.1%→+1.9%)やプラスチック(シェア 1.4%、+1.9%→+4.2%)が持ち直しつつある。
2. 今後の見通し
政策対応への期待が高まり消費増税の行方は不透明に
以上の通り、日本経済の現状は、輸出には持ち直しの兆しが見られるものの、設備投資は持続的な拡
大に疑問符が付き、個人消費はマインドの悪化などから回復が遅れるなど、停滞から抜け出せない状
況が続いている。そのため、追加の景気対策のほか、2017 年 4 月に予定している消費税率の引き上
げ(8%→10%)の是非を巡る議論が出始めている。
追加の景気対策については、安倍首相が伊勢志摩サミット首脳会議(5 月 26~27 日)議長の準備と
いう名目で著名な経済学者を招聘し開催している「国際金融経済分析会合」などで、その必要性が指
摘されるなど、ここにきて待望論が出始めている。その規模は GDP の 1%、5 兆円程度ともされ、サ
ミット首脳会議前に意思決定すべきとの声もある。
また、消費増税について安倍首相は、前回の増税延期時 1において、景気が悪化した場合に実施を先
送りできるオプション(いわゆる「景気条項」)を敢えて削除したこともあり、現時点では予定通り実
施する方針を維持している。しかしながら、上記の「国際金融経済分析会合」では消費増税を見送る
べきとの指摘が複数の経済学者から出ている。さらに、増税延期に対する信を問うという意味で、7
月 25 日の任期満了に伴う参議院選挙だけでなく、衆議院の解散総選挙の可能性も含めて、政治的な
思惑も絡まり、その行方は、意思決定の時期を含めて、全く不透明な状況である。
1
2015 年 10 月実施予定を 2017 年 4 月に延期。意思決定は 2014 年 11 月 18 日。
4
日本経済情報
伊藤忠経済研究所
仮に景気動向を見極めた上で衆参同時選挙を行うとすれば、
5 月 18 日の 1~3 月期 GDP1 次速報発表、
ないしは 6 月 8 日の 2 次速報発表が、消費増税の是非を判断する一つのタイミングとなろう。また、
追加の景気対策や後述の金融緩和を実施の上、その効果を見極めて夏から秋にかけて消費増税の是非
を判断する可能性も、高いとは言えないものの残されていると思われる。
物価目標達成のため追加の金融緩和は不可避
金融政策については、展望レポートの発表を伴う 4 月 27~28 日開催の次回決定会合において、日銀
が追加緩和に踏み切るかどうかが注目される。その判断を左右する主な要素は、4 月 1 日に発表予定
の日銀短観(3 月調査)のほか、企業や消費者のマインド低迷の背景にある株価や為替相場であり、
日経平均株価については前年同時期の 2 万円前後から 1 割以上落ち込んだ水準から回復するのか、ド
ル円相場については 1 ドル=110 円前後という企業の想定を超える円高水準が修正されるかどうかが
重要なポイントとなろう。
日経平均株価の推移(円)
ドル円相場の推移(円/ドル)
125
22,000
120
20,000
115
18,000
110
16,000
105
14,000
100
95
12,000
90
10,000
85
8,000
6,000
2007
80
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
75
2010
2016
( 出所) C EIC DAT A
2011
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) C EIC DAT A
それぞれの先行きを展望すると、日経平均株価については、内需を中心に停滞する景気や一頃に比べ
て円高地合いで推移する為替相場が下押し要因となり、昨年ほどの上昇を期待できない状況にある。
また、為替相場についても、専ら米国の緩やかな利上げがドル安材料とされており、ドル高円安が進
む気配は感じられない。こうした状況から判断する限り、株価上昇や円高修正は期待できず、4 月に
日銀が追加緩和を迫られる可能性が高いと考えられる。
その場合、追加緩和の内容は、政策金利のマイナス幅拡大という金利政策だけでなく、国債や ETF
の買い入れ額増額などの量的拡大を含めたものとなろう。なお、マイナス金利の効果について、巷間、
否定的な見方が少なからずあるが、金融緩和の直接的な効果である金利低下に関して言えば、着実に
広っている。例えば、「イールド・カーブの起点」
イールドカーブの状況(国債利回り、%)
である無担保コール翌日物金利は、実際にマイナス
0.3
金利が適用された 2 月 16 日に一時的にマイナスを
0.2
付け、18 日以降は概ねマイナスで推移している。ま
0.1
た、長期金利の代表的な指標である国債 10 年物利
0.0
回りも、2 月 9 日にマイナスに転じた後、しばらく
▲ 0.1
プラス圏で推移していたが、2 月下旬以降はマイナ
▲ 0.2
スが定着している。
▲ 0.3
2016/02/09
2016/01/28
2016/03/18
1年
2年
( 出所) C EIC DAT A
5
3年
4年
5年
6年
7年
8年
9年
10年
日本経済情報
伊藤忠経済研究所
にもかかわらずマイナス金利の効果に否定的な見方が多い一因として、これまでの金融緩和と異なり
円安が進んでいないことが挙げられよう。マイナス金利導入以降のドル円相場の動きを確認すると、
日本の金利が低下するなか、3 月上旬には米国雇用統計(3 月 4 日発表)の改善期待が、中旬には日
銀の金融政策決定会合(3 月 14~15 日)における追加緩和への期待感がドル買い円売り材料となり、
ドル円相場は 3 月 2 日から 3 日にかけて 1 ドル=114 円台へ、14 日から 15 日にかけても 114 円近く
までドル高円安が進んだ。一方で、米国の賃金上昇ペースの鈍化(4 日)や、FOMC(16 日)で利上
げペースの想定が年内 4 回から 2 回へ引き下げられたことなどがドル安円高材料となり、17 日以降は
111 円台の円高水準で推移している。つまり、日本の金利低下(マイナス金利)はベースとしての円
安ドル高要因とはなっているものの、ドル円相場が専ら米国側の材料によって大きく変動していたた
め、その効果が陰に隠れてしまったわけである。別の表現をすれば、マイナス金利を導入していなけ
れば、今以上に円高が進んでいたということだろう。
なお、当研究所では、米国経済が今後も堅調な拡大を維持することで過度に悲観的な見方が後退する
(ドル高要因)ことに加え、日銀の追加緩和(円安要因)もあり、ドル円相場は 2016 年度に入り再
び円安基調に戻ると想定している。
輸出は持ち直すも設備投資は低い成長期待が天井に
ドル円相場の円安基調は、輸出の持ち直しを後押しし、価格効果も相俟って輸出企業の業績改善に貢
献しよう。企業景況感は足元では悪化している模様であるが、今後は改善に向かい、株価の復調を後
押しするとみられる。
しかしながら、こうした輸出や企業業績の改善は、
民間設備ストック循環図
設備投資の前年同期比(%)
15
設備投資の持続的拡大にはつながらない。ストッ
ク循環図で見れば(右図)
、最近の設備投資は期待
10
成長率 1%程度を前提とする循環の中にあるとみ
5
期待成長率
2015年Q4
2011年Q1
2012年Q1
0
られ、過去の経験則に基づけば今後 1 年程度でピ
2017年Q1
▲5
ークアウトする可能性が高いとみられる。拡大局
▲ 10
面が長期化するためには、期待成長率が高まる必
▲ 15
要があるが、2016 年 1 月調査の「企業行動に関
▲ 20
するアンケート調査結果」
(内閣府)によると、企
2010年Q1
2018年Q1
2.0%
1.5%
1.0%
2009年Q1
5.0
5.1
5.2
5.3
5.4
5.5
5.6
0.0%
0.5%
5.7
5.8
5.9
6.0
前期のIK比率(%)
( 出所) 伊藤忠経済研究所による試算
業が予想する中長期的な平均成長率は 1.0~1.1%程度 2にとどまっている。
仮に前述の追加景気対策によって一時的に成長率が押し上げられたとしても、通常、企業はその反動
を含めて考慮するため中長期的な期待成長に大きな変化はないと考えるのが一般的である。景気対策
に期待成長を高める効果を求めるのであれば、大きく整理すると製造業で供給過剰、非製造業では供
給力不足(特に人員)という現状を踏まえ、製造業の需要拡大と非製造業の供給力強化につながる政
策パッケージが必要であり、さらに実効性のある成長戦略が加わることが望ましい。規模の議論が先
行しているが、追加の景気対策の中身にこそ注目すべきである。
正確には、
「今後 3 年間」の平均実質成長率を 1.0%、
「今後 5 年間」を 1.1%と見込んでいる。なお、前年の調査ではとも
に 1.4%であり、期待成長率は低下したことになる。
2
6
日本経済情報
伊藤忠経済研究所
個人消費は所得環境の改善程度には持ち直す
個人消費の先行きについては、引き続き所得環境が最重要変数である。ただ、期待された春闘賃上げ
状況は、組合側の要求段階から昨年の実績を下回っていたこともあり、賃上げ率は低下した模様であ
る 3。一方で、一時金は満額回答が散見されるほか、非正規雇用の処遇改善が進められるなどのプラ
ス面もあり、所得環境は全体として見れば改善方向にあることは間違いないが、低迷する個人消費を
景気の牽引役にまで押し上げるには力不足である。ただ、日銀が追加緩和を行い株価が持ち直せば、
消費者マインドの改善が見込まれることもあり、所得環境が改善する程度の緩やかなペースであれば、
個人消費の拡大を期待することはできよう。
また、消費増税が予定通り行われれば、駆け込み需要が加わり、個人消費は 2016 年度後半には増勢
を強めるとみられる。ただ、その中心となる耐久財消費は、これまでの需要の先食いが相当に大きか
ったため、前回(2014 年 4 月)に比べ増税幅が小さいことを割り引いたとしても、駆け込み需要の
規模は比較的小規模となろう。住宅投資についても、個人消費と同様、需要が先食いされているとみ
られ、前回の消費増税時に比べ駆け込み需要の規模は相当小さくなるとみておくべきであろう。
デフレ脱却は 2018 年度以降に
現時点では、追加の景気対策が実施され、消費増税が先送りされることをメイン・シナリオとするほ
どに議論が煮詰まっているとは言えないため、これらを織り込まず今後の主な需要の動向を展望する
と、2016 年度前半までは設備投資の拡大が続く一方で、期待外れの所得改善により個人消費は持ち直
し程度となるため、景気は緩慢な拡大にとどまろう。ただ、2016 年度後半には米国経済が堅調な拡大
を続ける下で再び円安傾向が定着、輸出
が徐々に増勢を強めることに加え、消費
日本経済の推移と予測(年度)
増税前の駆け込み需要により個人消費や
前年比,%,%Pt
住宅投資の増勢が強まるため、景気の拡 実質GDP
大ペースはやや加速すると見込まれる。
国内需要
この結果、2016 年度の実質 GDP 成長率
2013
2014
2015
2016
2017
実績
実績
予想
予想
予想
2.0
▲1.0
0.7
1.3
0.1
2.4
▲1.5
0.6
1.4
▲0.4
2.2
▲1.9
0.6
1.6
▲0.6
は、2015 年度の前年比+0.7%(見込み)
個人消費
住宅投資
2.3
▲2.9
▲0.4
1.0
▲0.6
8.8
▲11.7
1.0
0.7
▲6.2
から+1.3%へ高まると予想する。
設備投資
3.0
0.1
2.2
4.2
▲1.8
(▲0.3)
(0.5)
(0.3)
(0.1)
(0.3)
民間需要
在庫投資(寄与度)
しかしながら、この程度の成長では、デ
政府消費
フレからの脱却を確実にすることは難しい。 公共投資
純輸出(寄与度)
デフレ圧力の指標となる需給ギャップ(需
輸 出
要と供給力との差)は消費増税直前の
1.6
0.1
1.4
1.0
0.8
10.3
▲2.6
▲2.1
▲2.0
▲2.9
(▲0.3)
(0.8)
(0.1) (▲0.0)
(0.5)
4.4
7.8
0.4
2.4
3.9
2017 年 1~3 月期に一旦解消する可能性 名目GDP
6.7
3.3
▲0.2
2.9
1.5
1.7
1.5
2.2
2.0
0.5
はあるが、消費増税による景気の冷え込 実質GDP(暦年ベース)
1.4
▲0.0
0.5
0.8
0.6
みにより 2017 年度には需給ギャップが 鉱工業生産
3.3
▲0.5
▲1.0
2.6
0.7
失業率(%、平均)
3.9
3.5
3.3
3.2
3.2
消費者物価(除く生鮮)
0.8
2.8
0.0
0.4
2.0
再び拡大する。そのため、需給面からの
デフレ圧力解消は 2018 年度以降に持ち
輸 入
(出所)内閣府ほか、予想部分は当研究所による。
3 月 18 日時点で連合が集計した結果によると、定期昇給込みの賃上げ額は 6,341 円、率に直すと 2.08%にとどまった(711
組合の組合員数による加重平均)
。昨年と比較できる組合(285 組合)に限ると、賃上げ率は昨年の 2.35%(うち賃上げ分
0.60%)から 2.09%(0.32%)に低下した。
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日本経済情報
伊藤忠経済研究所
越されることとなろう。
政策オプションによって異なる先行き
では、
「追加の景気対策」や「消費増税先送り」という政策オプションが行使された場合、デフレ脱却
時期は前倒しされるのだろうか。
これらの政策オプションの効果を単純に考えれば、前者は主に 2016 年度の成長を押し上げるが、2017
年度は同規模の事業を継続しない限り反動で下押しされることになる。一方で、後者は駆け込み需要
が消滅するため 2016 年度の景気を押し下げ、反対に 2017 年度は反動落ちや増税による悪影響がなく
なるため景気を押し上げる方向に働くことになる。したがって、両者を併せて実行すると、2016 年度、
2017 年度とも効果が相殺し合い、十分な成果が得られない可能性が高い。
また、「追加の景気対策」のみを実行すれば、2016 年度後半にかけて、景気は消費増税前の駆け込み
需要と相俟って急速に回復、一旦は需給ギャップが解消、物価上昇圧力も高まろう。ただし、2017
年度には大きな反動落ちが見込まれるため、十分な賃金上昇や成長期待の高まりがないと 2014 年度
の二の舞になる。一方で、「消費増税先送り」のみの場合は、2016 年度に駆け込み需要が見込めない
分、景気の回復力は乏しくなる。ただ、駆け込み需要や景気対策という需要の大きな変動を排除する
ことで、時間は多少かかっても賃金と物価がバランス良く上昇する自律的な景気回復を実現し、結果
的に健全な財政の下での安定成長という最終目標到達の近道となる可能性もある。いずれの選択も不
確実性を多分に含んでいるため、効果の検証を踏まえて実行の可否を判断するには今しばらく時間を
要することとなろう。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊
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