生命の起源および進化学会 第 41 回学術講演会 March 2016, No.6 鉄の酸化による二酸化炭素の脱酸素を介した有機物の合成 The synthesis of organic substance through the deoxidization of carbon dioxide by oxidation of iron 唐澤信司(宮城高専・名誉教授) Shinji Karasawa (Miyagi National College of Technology, Professor emeritus) 鉄(Fe)の超微細粒子はドライアイス(CO2)と混ぜると酸化することを実験で確かめた[1]。鉄の 超微細粉末はシュウ酸鉄(FeC2O4・2H2O)を加熱して作ることができる。この粉体に二酸化炭素の気 体を注入しても顕著な変化は起こらない。しかし、この鉄の超微細粉末をドライアイスの上に撒 いた場合には次の反応が起こる。鉄の超微細粉末をドライアイスの上に撒くと、発火することが ある。撒いてしばらくすると、そこから煙が上がり、その煙はしばしば赤みを帯びる。ここで、 鉄は酸化して酸化第一鉄(FeO)となるが、酸化第一鉄は更に酸化して酸化第二鉄(赤色酸化 鉄:Fe2O3)になる。この鉄の酸化で二酸化炭素の炭素は酸素原子を失うことになる。この二酸化炭 素による鉄の酸化は発熱反応である。この事実は、固体の接触部で酸素原子が結合相手の原子を 炭素から鉄に入れ替える反応を示している。 ここで、金属が微細粒子にすると反応が容易になるという金属結合の性質が関与している。す なわち、多数の金属原子が接近すると電子軌道のエネルギーがバンド構造となり、そのバンドの 低い方のエネルギー状態を電子が占有することにより金属の塊となる。その金属結合の組織の中 から一個の原子を取り出すには大きいなエネルギーが必要になる。接触した物質で原子を交換す る反応では孤立原子を取り出す必要がない。 他方、炭酸水中に鉄粉が混入すると、鉄が酸化して酸化鉄が沈殿する[2]。その際に電気陰性度 の関係で二酸化炭素の酸素が鉄を酸化する。ここで遊離した炭素原子は陽イオンにも陰イオンに も炭素自身とも結合する。炭素原子は炭素原子と2重結合も3重結合もできる。炭素原子は有機 分子の要の原子である。 生物は呼吸して、食事をして、新陳代謝をしている。その全ては有機分子が原子を入れ替える 反応により実現する。分子間結合の分子の組織が熱運動で頻繁に原子を入れ替える状況はウエッ トプロセスにある。水と二酸化炭素と鉄を原料に有機物が無機的に合成されることが先に行われ て、有機物で組織される生命の誕生が可能になる。 参考資料 [1]:動画 [二酸化炭素による超微細鉄粉末の酸化]―原子の入れ替えによる化学反応― https://youtu.be/0qchcYRxuG4 [2] S. Karasawa, Prebiotic reactions in the bubble that was formed in carbonated water by iron atoms, Viva Origino 42 (2014) pp. 12 – 17.
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