人間科学研究 Vol. 28, Supplement（2015） 修士論文要旨 オンライン大学に入学した社会人学生の入学動機と 学習継続要因および卒業後の変化 A Study on Enrollment Motivation, Factors Affecting the Decision to Continue Learning , and Changes after Graduation for Adults Students who Enrolled in Online Universities 田中 理恵子（Rieko Tanaka） 指導：向後 千春 １．序論 共分散構造分析の結果，以下のことが明らかになった （図 近年，日本では，社会で活躍している職業人に学習の機 １）．学友との交流を良かったと評定した人は，卒業後，e 会を提供している．大学においては，履修形態の柔軟化等 スクール入学を勧めたいと考えている．また，論理的に表 を図ることによって，社会人の受け入れ態勢を促進してい 現できるような能力を身につけたと考えている人は大学を る．しかし，社会人が大学卒業に至るまでは様々な困難が 高く評価している．思考力とスキルへの影響は，論文作成 予想される．そこで，本研究では社会人学生の入学動機と の過程のなかで書くことの困難さを体験しながら論理的な その背景や学習継続要因，卒業後の社会人学生に与えた影 思考力とスキルが鍛えられることで達成される．同時に指 響を明らかにし，卒業後の大学の満足度にどのように影響 導教員からの論文指導を良かったと感じている．卒業後の しているかを検討する． 仕事とキャリアへの影響は時間管理の困難さを感じている． ２．研究１：社会人学生の入学動機 学友との 交流 調査は2013年６月にX大学通信教育課程2013年度入学の 社会人学生90名（男性33名，女性57名，平均年齢42.88歳， * .26 .15 論文指導 SD =8.88）を対象に実施した．調査方法は，社会人の入学 動機30項目（５件法）と，ライフイベントに関する２項目 .11 † .13 *** .15 思考力と スキル .37 （自由記述含む）の質問紙を作成した． 書くことの 困難さ 因子分析の結果，可能性と挑戦，友人と人脈，仕事と専 * .24 .62 門の３因子を抽出した．また，入学動機にライフイベント .06 ** .20 eスクール入学を 勧めたい .48 仕事と キャリア 時間管理の 困難さ の影響があるのかを分析したところ，８割の学生はライフ イベントが入学動機のきっかけとなっていた． 図１ 因子間の因果モデル ３．研究２：社会人学生の学習継続要因 ５．結論 調査は2013年７月にX大学通信教育課程2013年度入学の 社会人学生の入学動機，学習継続要因，卒業後の社会人 社会人学生77名（男性31名，女性46名，平均年齢44.01歳， 学生に与えた意識の変化や大学の満足度を検討した結果， SD =8.66）を対象に実施した．調査方法は，社会人の学習 以下のことが明らかになった．⑴社会人学生は，可能性と 継続要因22項目（５件法）の質問紙を作成した． 挑戦，友人と人脈作り，仕事の専門性を目的に入学してい 共分散構造分析の結果，学友とのつながりが，教員・教 る．また，ライフイベントの変化をきっかけに入学してい 育コーチへのコミュニケーションに影響を与える要因とな る．⑵学習継続要因では，学友とのつながりが，教員・教 り，家族の協力が，学費や学習時間を確保する要因となる 育コーチへのコミュニケーションに影響を与える要因とな ことが示された． る．このことから学業上の不安を解消させ，ポジティブな ４．研究３：卒業後の変化と大学の満足度 学習姿勢になり，学習継続に繋がる．また，家族の協力が， 調査は2013年６月にX大学通信教育課程（以下e スクー 学費や学習時間を確保する要因となり，学習継続に繋がる． ル）を2007年～ 2013年に卒業した135名（男性67名，女性 ⑶大学の満足度は，学友との交流と思考力とスキルが身に 68名，平均年齢47.97歳，SD =9.40）を対象に実施した．調 ついたことによって規定される．思考力とスキルは，書く 査方法は，入学して良かったこと14項目（５件法），入学し ことの困難さを体験することで達成されると同時に論文指 て大変だったこと６項目（５件法） ， 卒業後の自分自身に与 導も影響を与える．在学中に，時間管理の困難さを経験す えた影響９項目（５件法） ，eスクール入学を他の方に勧め ることで，時間管理のスキルが鍛えられ，卒業後の仕事と たいか１項目（５件法）の質問紙を作成した． キャリアに影響を与える． － 114 －
© Copyright 2024 ExpyDoc
