米国の製造業を楽観できるか?

2016 年 3 月 25 日
市場営業統括部
FOREX WEEKLY
チーフ・エコノミスト
山下えつ子
Tel: +1-212-224-4561 (ニューヨーク)
[email protected]
Global View 「米国の製造業を楽観できるか?」 → p.2

米国の製造業関連指標には下げ止まり感が出ている。

それ自体は良いニュースだが、中期的な回復期待を膨らませるのは尚早だろう。
US View
… 今週は閑散、来週は重要イベント
→ p.3

今週は大きな材料なく、閑散。ただし、地区連銀総裁発言で、じわじわと相場は動いた。

来週はイエレン議長の講演、製造業 ISM、雇用統計、と重要イベントがある。
FX Outlook
… ドル戻り基調 → p.4

大きな強い材料はないが、今週はじりじりとドルが買い戻された。

来週はイエレン議長の講演にまず注目。1 日には米国雇用統計、日銀短観。
今週のレンジ
来週の予想レンジ
6 月末の予想レンジ
12 月末の予想レンジ
ドル/円
110.83-113.00 円
112.00-114.00 円
110.00-115.00 円
110.00-120.00 円
ユーロ/ドル
1.1144-1.1337ドル
1.1050-1.1200ドル
1.0000-1.1500ドル
1.0000-1.1500ドル
ユーロ/円
124.67-126.27円
125.00-126.50 円
120.00-130.00 円
120.00-135.00 円
(今週のレンジは先週金曜日東京 9 時~本日東京 9 時、予想レンジは本日東京 9 時~来週金曜日東京 9 時)
・今週号本文はニューヨーク時間木曜日15時までの情報をもとに作成しています。
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1
FOREX WEEKLY 2016/3/25
Global View
… 「米国の製造業を楽観できるか?」
米国の製造業関連指標に下げ止まり感が出ている。左下グラフのように各地区の企業景況指数は
2015 年は右肩下がりのトレンドにあり、業況の悪化を示すマイナス圏に入っていた。全国レベルの
製造業 ISM も然りで(赤太線)、これは業況悪化を示す 50 以下が昨年 10 月から 2 月まで 5 か月連続
だった。数字のマイナスの程度は小さいが、製造業だけを見れば米国経済はリセッションだと心配に
なる向きがあっても仕方がないだろう。
ところが最新の 3 月分の地区企業景況指数の多くが上向き、来週 1 日に発表される製造業 ISM も今
回は 50 を超えると予想されている。ISM の数字は 1 月、2 月も 50 以下ながら次第に上向いており、
下げ止まり感は出始めていたが、50 を超えれば今度は急に米国景気に懸念なし、といった論調が出
てくるかもしれない。
製造業の景況感の改善はドル高進行の一服と金融市場全般の混乱の収拾といった金融環境の改善
が大きな背景だろう。企業マインドの改善によって全体に動きが出てきたことは良いニュースだが、
これは在庫の積み増しという短期的な動きには繋がるが必ずしも中長期的な事業計画や設備投資計
画の改善に繋がるとは限らない。そのためには需要の明瞭な回復、ならびに将来の売り上げ増加見込
みや投資環境の改善に対する自信も必要だからである。
米国の製造業がこのまま右肩上がりとなり、2016 年は回復の年となる、と楽観できるのだろうか。
筆者はそこまで楽観的ではない。右下グラフは資本財受注額の推移である。2 月分が最新データとは
なるが、
グラフの形状はダウントレンドのままである。10-12 月は 7-9 月対比でマイナスとなったが、
このままいけば 1-3 月も前期比マイナスとなる。資本財受注は設備投資の先行指標であるが、このト
レンドは企業設備投資に近い将来の増勢が見込めないことを示唆している。製造業が中期的にも前向
きとなるためには、中国その他新興国の経済リスクの緩和、米国内の大統領の行方、および海外市場
における地政学リスクや政治リスクの緩和、といった様々なリスクファクターの緩和が必要だろう。
足元での製造業の景況改善を見て、中期的な回復や更には世界経済の回復までをも深読みするのは尚
早である。
80000
75000
70000
65000
60000
55000
(資料)US Census Bureau
(データ)Bloomberg
2
2016
2015
2010
50000
2014
55
54
53
52
51
50
49
48
47
46
45
2013
ISM
資本財受注(非国防除く航空機)
2012
カンザス
百万ドル
リッチモンド
2011
フィラデルフィア
2015/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
2016/1
2
3
25
20
15
10
5
0
-5
-10
-15
-20
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エンパイア
FOREX WEEKLY 2016/3/25
US View
… 今週は閑散、来週は重要イベント
先週の FOMC の後、今週は材料が乏しく、更に、週末は欧州市場はイースター休暇、米国も金曜日
は休日ではないが市場はクローズ。だが振り返ると、FOMC 後に一旦後退した利上げ観測がじわじわ
と戻りつつある。FOMC は思った以上にハト的だったが、この 1 週間の地区連銀総裁の発言が逆に思
ったよりもタカ的だったためだ。「4 月にも利上げの可能性はある」との発言もブラード・セントル
イス連銀総裁やウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁の口から出ており、ハト的だった FOMC を
修正する目的なのではないか、との憶測がマーケットに出るほどである。
しかし、ニュースヘッドラインで流れた発言に比べると、実際の各地区連銀総裁の発言はタカ的で
はない。共通しているのは「12 月に比べて 3 月の方がリスクが高く、3 月の FOMC での慎重なスタン
スは正当化される」という見解で、FOMC で利上げを主張したジョージ総裁以外は利上げに積極的な
参加者は少ないと思われる。このため、「4 月にも利上げの可能性がある」との発言も“可能性の有
無”を述べているに過ぎず、利上げプレアドの目的でもなければ、発言者が 4 月利上げを主張してい
るわけでもない。
金利先物市場は 6 月までの利上げの可能性を 40%強織り込んでいる。五分五分よりもやや低め、
という水準である。年間 2 回の利上げを想定すれば、単純には 6 月と 12 月といった分配になり、6
月の利上げ織り込みはもう少し高くてもよい。だが、6 月の利上げを 70%織り込むといった水準を
Fed が期待しているだろうか。
その答えは来週 29 日に行われるイエレン議長の講演で分かるだろう。
FOMC 記者会見ではイエレン議長も 4 月の利上げも“可能性としてはある”と答えているが、4 月ある
いは 6 月の利上げをマーケットに織り込ませるような積極的な発言は一切なかった。その結果の利上
げ織り込み 40%を不足と思うならば、自ら修正をするだろう。もし議長の口から利上げプレアドが
あれば、インパクトは大きい。6 月利上げ織り込みは 60%、70%といった高さまで一気に上がり、2
年債利回りは 1.0%を超えるだろう。
しかしながら、筆者の予想を言えば、その可能性は低い。FOMC 時の記者会見の内容を考えると Fed
は現在、様子見である。6 月の利上げの可能性はゼロではないが、海外リスクが晴れ、金融環境(株
や社債スプレッド、ドルなど)が十分に緩和しなければ、難しいだろう。テロの発生なども含めて多
くの不確実性に満ちている。少なくとも、今から 6 月の利上げをプレアドするほど Fed は自信がない
だろう。また、プレアドすることで再び金融市場のボラティリティが上がってしまうことも嫌うはず
だ。(FOMC を受けた今後の考え方については 3/18 号を参照。)6 月利上げ(6/15)だとすれば、確
信を持ってプレアドできるのは 5 月半ば以降となるだろう。
ただし、イエレン議長の講演であり得るリスクは、利上げを継続する、という意思表示が前回の記
者会見に比べて明瞭になされるケースである。今年も 2 回の利上げが FOMC 参加者の予想中心である
ため、利上げが継続されることは明白ながら、議長の口から“利上げ継続方針”と聞くか否かは心理
的には随分異なる。記者会見ではその明言がなかった分、ハトに寄り過ぎた。6 月の利上げプレアド
はないと思うが、利上げ継続明言はあり得る。この場合、6 月利上げ織り込みも自ずと上がって 50%
超、2 年債利回りは 1.0%に迫るだろう。
イエレン議長の講演については、メインシナリオ:FOMC 記者会見とほぼ同じ(確率 60%)、リス
クシナリオ:利上げ継続方針を明言(30%)、サプライズシナリオ:6 月までの利上げプレアド(10%)。
3
FOREX WEEKLY 2016/3/25
来週はその他、1 日に製造業 ISM と雇用統計の発表がある。製造業関連の指標には暫く前から下げ
止まり感がある。今週発表された耐久財受注の弱さを見ると、トレンドがこのまま上向きと考えるの
は尚早だが、少なくとも来週の製造業 ISM は 50 超えに浮上(51 程度?)すると予想される。雇用統
計についても NFP は 20 万人前後と良好な数字が予想されるが、注目は前回予想外にマイナスとなっ
た時間当たり賃金。恐らく前回は季節調整の不具合などが理由で次回はプラスとなるだろう。再びマ
イナスとなれば驚きである。
FX Outlook
… 相場は戻り基調
先週の FOMC では結果がハト寄りで、ドルが大きく売られたが、そのままドル安のトレンドとなる
には材料はなく、むしろ、複数の地区連銀総裁から早期利上げの“可能性”にも言及があり(US View
参照)、じわじわとドルが買い戻された。ブラッセルでのテロ発生によるリスクオフや原油相場反落
による株安などもあったが、ドル円は FOMC の後に一時 111 円を割り込んだところから今週後半には
113 円台へ回復している。対ユーロではドルは FOMC 前の 1.10 台後半から FOMC を受けて 1.13 台半ば
近くまでドル安・ユーロ高、その後じわじわと 1.11 台後半までドル買戻し。1 週間を振り返ると、
気が付くと FOMC 前の水準へと相場は戻りつつある。
来週はイエレン議長が講演を行うため、FOMC 時の記者会見対比どれだけ近い将来の利上げの可能
性に議長が触れるかが注目点である。今週、地区連銀総裁の発言だけでもドル売りが巻き戻されてき
たが、議長自身が FOMC での慎重な“様子見”スタンスから利上げへ積極的なスタンスへ変われば、
現水準からまだドル高方向へ進む余地は十分にある。
ただ、前述のように、議長のスタンスに変更がない可能性が最も高く、この場合は 4 月 1 日の製造
業 ISM、雇用統計まで相場は動きにくい。(製造業 ISM、雇用統計はドル高材料となると予想。)議
長が利上げの継続を口にすればドル円は 1 円以上のドル高、もし 6 月利上げをプレアドすれば 2 円以
上のドル高、と予想する。逆に、議長のスタンスが FOMC 時点よりも一段とハトとなっている可能性
は低いため、ドル安への戻りの可能性は低い。結果として、ドルの下値は固く、上値に可能性がある。
3 月の日米欧の金融政策決定会合では金融政策と為替レートのリンクが断ち切られる結果となっ
た。ただ、ドル高からドル安、円安から円高、ユーロ安からユーロ高、とリンクが断ち切られた反動
による為替相場の方向転換は大きめだったが、そのままドル安、円高、ユーロ高のトレンドを形成す
るだけの材料もない。
相場の順番としては、次はそこからどこまで戻るかを見る時間帯に入ってきた。
29 日のイエレン議長の講演、1 日の雇用統計、また日本では日銀短観発表など、重要イベントが来週
はあるが、これらを経て早くも金融政策がテーマとして戻ってくるならば、為替相場も再びボラティ
リティを増すことになる。
4
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(円)
126
124
122
120
118
116
114
112
1/1/2015
2/1/2015
3/1/2015
4/1/2015
5/1/2015
6/1/2015
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9/1/2015
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11/1/2015
12/1/2015
1/1/2016
2/1/2016
3/1/2016
110
(ドル)
ユーロ/円
1.30
150
1.25
145
1.20
140
1.15
135
1.10
130
1.05
125
1.00
120
(円)
1/1/2015
2/1/2015
3/1/2015
4/1/2015
5/1/2015
6/1/2015
7/1/2015
8/1/2015
9/1/2015
10/1/2015
11/1/2015
12/1/2015
1/1/2016
2/1/2016
3/1/2016
128
ユーロ/ドル
1/1/2015
2/1/2015
3/1/2015
4/1/2015
5/1/2015
6/1/2015
7/1/2015
8/1/2015
9/1/2015
10/1/2015
11/1/2015
12/1/2015
1/1/2016
2/1/2016
3/1/2016
ドル/円
(データ出所:Bloomberg)
ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性~ブルベア)
月
2月
3月
週
15 日~
22 日~
29 日~
7 日~
14 日~
21 日~
28 日~
予想
-2
±0
-4
+1
-3
-8
+1
実績
中立
中立
中立
中立
ベア
ブル
≪見方≫
当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。今週の東京市場 9 時から、
ドルブル(終値から1円以上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ド
ルブル人数-ドルベア人数)で表記。+(プラス)は円安ドル高、-(マイナス)は円高ドル安を示す。
5
FOREX WEEKLY 2016/3/25
各種相場の動き
債券(日本国債・10 年債利回り)
債券(米国債・10 年債利回り)
%
株(日経平均株価)
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/1/1
2015/4/1
%
2.6
2.4
2.2
2.0
1.8
1.6
1.4
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
-0.1
-0.2
株(米ダウ)
22000
20000
20000
19000
18000
18000
17000
16000
16000
原油(WTI 先物(期近物):ドル/バレル)
2016/1/1
2016/1/1
2015/1/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
1500
2015/10/1
2500
2015/7/1
3500
2015/4/1
13000
12000
11000
10000
9000
8000
4500
2015/4/1
2015/10/1
株(ドイツ DAX 指数)
5500
2015/1/1
2015/7/1
2015/1/1
株(上海総合指数)
2015/4/1
15000
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
14000
金(NY 先物(期近物):ドル/トロイオンス)
70
60
50
40
30
20
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
1400
1300
1200
1100
1000
900
(データ出所:Bloomberg)
6
FOREX WEEKLY 2016/3/25
今週のプライスアクション(ドル円)
(出所:Reuters)
① ベルギー・ブリュッセルで
連続爆破事件が発生したこ
とを受けて、一時的にリスク
オフの展開となった。ドル円
は 112 円台前半から一時
111.38 円まで急落。
② エバンズ・シカゴ連銀総裁
が「米国のファンダメンタル
ズは非常に良好」と発言した
ことを背景に、ドル円は上
昇。
③ タカ派な米当局者発言もあ
り、ドル円は 112 円台後半を
中心とした推移。
③
②
①
来週のチャ-ト分析
日足 JPY=EBS
日足 EUR=EBS
2016/02/01 - 2016/04/04 (TOK)
(出所:Reuters)
2016/02/01 - 2016/04/06 (TOK)
価格
価格
1.135
1.13
120.00
1.125
118.00
1.12
1.115
116.00
1.11
1.105
114.00
1.1
1.095
112.00
1.09
110.00
1.085
.12
01日
08日
15日
22日
2016年 2月
29日
07日
14日
21日
2016年 3月
28日
1.08
自動
04日
01日
08日
15日
2016年 2月
22日
29日
07日
14日
21日
28日
04日
2016年 3月
<ドル円、日足、ボリンジャーバンド>
<ユーロドル、日足、一目均衡表>
・ボリンジャーバンドとは移動平均±2σ(σ=標準偏差、ここ
・現在雲の上を推移。
・4/1 の雲上限は 1.1067 ドル、下限は 1.1044 ドル。
では 20 日間の平均)を上限・下限とするバンド。
・バンド中程付近を推移。現在の上限は 114.46 円、下限は 111.49
円
16 4
来週の主な材料
3/28(月)
(米)2 月個人所得・支出
3/29(火)
(日)2 月失業率、2 月有効求人倍率、2 月家計調査、2 月百貨店・スーパー販売額
(米)3 月消費者信頼感指数、イエレン FRB 議長講演
3/30(水)
(日)2 月鉱工業生産(速報) (欧)3 月ユーロ圏企業景況感、3 月ユーロ圏消費者信頼感(確報)
3/31(木)
(日)2 月住宅着工件数(欧)3 月ユーロ圏 HICP(速報)(米)3 月シカゴ PM
4/1(金)
(日)日銀短観(3 月調査)
(欧)ユーロ圏製造業 PMI(確報) (中)3 月製造業 PMI
(米)3 月雇用統計、3 月製造業 ISM、3 月ミシガン大消費者センチメント(確報)
(時間は全て現地時間)
(本ページの担当:阿部)
7