JOGMEC 調査部 永井 一聡 アナリシス 東南アジアで進むLNG受入基 地の建設 -天然ガス生産地域から需要地域へ- はじめに LNG 業界で東南アジアといえば、1 9 7 2 年に LNG 生産を開始したブルネイをはじめ、インドネシア、 マレーシアなどの LNG 輸出国をイメージすることが多いだろう。事実、日本が輸入する LNG(2 0 1 4 年) のうち、3 割近くはこれら 3 カ国からのもので、輸送距離が短いといった地理的な条件も含めて、日本 の天然ガス調達にとって非常に重要な位置にある地域となっている。 しかし、近年急速な経済成長を続ける東南アジア地域では、エネルギー消費地としての側面が拡大し、 LNG に対する需要がこれまで以上に高まってきている。2 0 1 1 年のタイの LNG 輸入基地の操業開始を皮 切りに、現在東南アジア各地で LNG 受入基地の建設および計画が進んでいる。そして、それはインド ネシアやマレーシアなど伝統的な LNG 大輸出国においても同様である。 本稿では、将来的に LNG の純輸入地域に転じると予想される東南アジア地域の LNG 受入基地の最新 建設動向を報告する。 1. 東南アジアのエネルギー需要見通し 東南アジアは近年、堅調な人口増加にも支えられ、 特別版として、 「Southeast Asia Energy Outlook 2 0 1 5」 著しい経済成長を続けている地域である。図 1 は、東 を刊行した。このレポートは、東南アジア地域 (ASEAN) 南アジア各国(ASEAN〈東南 アジア諸国連合〉1 0 カ国)の GDP 成長率の実績と見通し であるが、近年の実質 GDP 成長率はほとんどの国で平 均 5 %を超えている。また、 2 0 1 6 ~ 2 0 2 0 年にかけても これら10カ国平均で年率5% 10 % 2014 2011∼2013平均 2015 2016 2016∼2020平均 8 6 4 を上回る成長が続くとの見 通しである。 これらの状況を受け、IEA は 2 0 1 5 年 1 0 月、毎年発行す る 「World Energy Outlook」 の 49 石油・天然ガスレビュー 図1 ASEAN 諸国の実質 GDP 成長率(実績と見通し) ASEAN カ国平均 -4 出所:OECD Economic Outlook for Southeast Asia, China and India 2016 ミャンマー すると考えられる。 ラオス カンボジア シンガポール ブルネイ ベトナム タイ -2 フィリピン なエネルギー需要地域に変貌 マレーシア 0 伴い、東南アジアは今後大き インドネシア こうした急速な経済成長に 2 10 アナリシス におけるエネルギー市場の動向に加え、2 0 4 0 年までの需 と 2 0 1 3 年を比較したものだが、この 1 3 年間で約 1.5 倍 給見通しや今後の課題をまとめた内容となっている。 に 増 加 し た。 ま た、 図 3 に は、 世 界 の 各 地 域 ご と の 図 2 は東南アジアの 1 次エネルギー消費量の 2 0 0 0 年 GDP と 1 次エネルギー需要の推移(見通し含む)を示し た。これによれば、東南アジ 2000:386百万toe 2013:594百万toe 4% 15% 5% 8% Coal 26% 41% 1% き、1 次エネルギー需要だけ から 8 0 %増加。これは、欧 Hydro Bioenergy 州連合(EU-2 8)に匹敵する水 2% 36% Other renewables* 19% ルギー需要ともに伸びてい を見れば、2 0 4 0 年には現在 21% Oil Gas アは、今後、GDP と 1 次エネ 22% 準である。 また、燃料別の需要推移を 見たのが図 4 である。特に石 Includes solar PV, wind, and geothermal. * 炭の増加が顕著で、2 0 4 0 年 出所:IEA Southeast Asia Energy Outlook 2015 図2 東南アジアのエネルギー需要の変化(2000 年対 2013 年) には石油と並ぶ割合となる。 天然ガスは石炭に次ぐ成長率 だが、石炭との競合や域内に 4,000 おける埋蔵量の減少などを受 百万 toe け、相対的に緩やかな増加に なると予測されている。とは 3,000 いえ、天然ガス需要は 2 0 4 0 年までに 2 0 1 3 年比 6 5 %増加 2,000 する見通し。そして、域内天 然ガス需要の増加により、東 1,000 南アジア地域全体として天然 ガ ス 輸 出 量 は 徐 々 に 減 少、 0 0 10 20 30 40 兆ドル(2014 market exchange rates) 出所:IEA World Energy Outlook 2015 図3 世界の地域別 GDP および 1 次エネルギー需要の推移と見通し 2040 年までに 100 億㎥ /年 を輸入する純輸入地域になる と見られる。 東 南 ア ジ ア は、 伝 統 的 に LNG や石炭を輸出するエネ 350 百万toe ルギー資源の供給地域だが、 域内エネルギー需要の増加に 300 伴い、既にこれらエネルギー 250 資源の域内振り向けが進み、 200 今後もその傾向は強くなると 150 思われる。 しかし一方で、エネルギー 100 を供給するインフラが未整備 50 であること、国土が多くの島 0 1990 2000 2010 2020 * Inclludes solar PV, wind, and geothermal. 2030 2040 年 出所:IEA Southeast Asia Energy Outlook 2015 図4 東南アジアの燃料別 1 次エネルギー需要見通し で構成されているほか、需要 地域と生産地域が離れている といった地理的特性によっ て、それら需要を満たすため の条件や課題も多い。 2016.3 Vol.50 No.2 50 東南アジアで進むLNG受入基地の建設 -天然ガス生産地域から需要地域へ- 2. 東南アジアの天然ガス需要と LNG 輸入の現状 (1) 大きく伸びる天然ガス需要 る。 具 体 的 に は、 マ レ ー シ ア、 イ ン ド ネ シ ア な ど の LNG の生産・輸出地域のイメージが強い東南アジア LNG 輸出国の近年の探鉱・開発が決して順調ではなく、 だが、域内での天然ガス利用については歴史が浅い国も 天然ガス生産量が頭打ちになっていることが挙げられ 多い。ちなみに、フィリピンやシンガポール、ベトナム る。しかも、これらの国は、長期売買契約による供給義 で天然ガス利用が本格化し てき た の は こ こ 数 年のこ と。しかし、近年の経済成 長・発展に伴い、天然ガス 利用は各国で年々増加して いる。天然ガスの利用先は 1,400 億m3 1,200 1,000 主に発電と産業用だが、多 くの政府は電源構成を発電 コス ト の 安 い 石 炭 火力を ベースロード電源と考えて いるのが通常で、天然ガス 800 600 400 はミドルロードまたはピー クシェービング電源という 200 位置付けが一般的だ。 0 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 図 5 には東南アジア主要 国の天然ガス需要推移を示 日本 マレーシア フィリピン した。参考までに日本の天 然ガス需要推移についても ス需要は約1,700億㎥弱で、 300 百万トン 250 台湾 200 入の背景と現状 天然ガス需要の拡大とと もに、東南アジア地域では LNG による天然ガス調達 を求める国が増えてきてい シンガポール、マレーシア 輸入開始 タイ輸入開始 1,3 5 0 億㎥)の約 1.2 倍の規 (2) 東 南アジアの LNG 輸 年 図5 東南アジア主要国の天然ガス需要(消費量)推移(実績) 南アジア地域全体の天然ガ 模である。 インドネシア ベトナム 出所:IEA Natural Gas Information 2015 載せている。2 0 1 4 年の東 日 本 の 天 然 ガ ス 需 要( 約 タイ シンガポール インド 150 韓国 100 日本 中国 る。この背景には、これま で述べてきた単なる経済成 50 長に伴う域内ガス需要の増 加以外にもいくつかの要因 が存在する。 まず、域内天然ガス生産 量・埋蔵量の伸び悩みがあ 51 石油・天然ガスレビュー その他 (アジア以外) 0 2009 2010 2011 2012 2013 出所:各種情報を基に JOGMEC 作成 図6 世界の LNG 供給量推移と構成国の輸入割合(主にアジア) 2014 年 アナリシス 務を抱え、これが国内への振り向けよりも優先されるた ジア 5 カ国の存在は依然として大きいが、2 0 1 1 年にタ め、必然的に国内向けに供給できる天然ガス量は制限さ イが東南アジアとして初めての LNG 輸入を開始して以 れてしまう。したがって、これら従来の天然ガス生産国 降、2 0 1 3 年にはシンガポール、マレーシアが LNG 輸入 であっても、国内生産量のみでは増え続ける国内需要を 国への仲間入りをした。また、インドネシアは外国から 賄うことが困難である。また、ガス田が豊富に存在する の LNG 輸入はしていないが、2 0 1 2 年に浮体式の LNG 天然ガス生産地域と都市部の需要地域が距離的に離れて 受入基地(FSRU)「Nusantara Regas Satu」が操業を開 いることが多い。しかも国土は島嶼部が多く、地形的に 始、国内での LNG 輸送・供給を行うようになった。イ 天然ガスパイプラインの建設が高コストになることか ンドネシアは国内で天然ガスが産出されるものの、遠隔 ら、取り扱いが容易な LNG による天然ガス輸送のほう のガス田からはパイプラインではなく LNG によって需 が経済的なのである。 要地まで輸送を行っている(需要地から近いガス田につ 図 6 に、世界の LNG 供給量とその構成国の輸入割合 いてはパイプラインで供給)。 とうしょ の推移を示す。日本、韓国、中国、インド、台湾の東ア 3. 東南アジアの LNG 受入基地建設状況と各国の動向 (1)LNG 受入基地建設状況 (2)国別動向 図 7 と表に、LNG 基地(液化基地、受入基地)の建設・ ①タイ、ミャンマー 計画状況を示す。 タイは、アジアでは有数の石油・ガス生産国だが、天 タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアでは 然ガス生産量も年々増加傾向にある(図 8)。しかし、増 既に LNG 受入基地が操業を開始し、フィリピン、ベト 加する国内需要を満たすため、1 9 9 8 年よりミャンマー ナム、ミャンマーでは現在建設計画が進められている。 からパイプラインによる天然ガス輸入を開始している。 これら国内生産とパイプライン輸入によって、2 0 1 1 年 に東南アジア地域で初の LNG 受入基地となる Map MYANMAR LNG受入基地 (稼働中) LAOS LNG受入基地 (計画中) LNG液化基地 (稼働中) THAILAND 名称未定 LNG液化基地 (計画中) Pagbilao LNG Map ta Phut ( 名称未定 Batangas VIETNAM CAMBODIA Son My, Binh Thuan PHILIPPINES Thi Vai :浮体式) Ta Phut LNG 基地(図 9) が操業を開始した。 Map Ta Phut LNG 受入 基地の現在の LNG 受け入 れ容量は 5 0 0 万トン / 年だ Philippine Sea が、第 2 次開発として拡張 を計画している。この拡張 Arun Petronas FLNG2 Lumut BRUNEI MALAYSIA Petronas FLNG1 Melaka SINGAPORE Pengerang Kalimantan 運転開始の予定で、拡張後 Bontang の同基地の LNG 受け入れ Donggi Senoro LNG Tangguh INDONESIA Indian Ocean 2 0 1 7 年に建設完了、商業 MLNG Jurong Island Sumatera は 2 0 1 5 年 に 建 設 開 始、 Lahad Datu Brunei LNG Lampung LNG West Java, Nusantara Sengkang Bojonegara Central Java, Semarang North Java Java Central Java, Cilacap East Java New Guinea 容量は計 1,0 0 0 万トン / 年 となる。 ま た、Shell が 参 画 し た Sunrise LNG 出所:各種情報を基に JOGMEC 作成 図7 東南アジアの LNG 基地 Abadi タ イ の 企 業 2 社(ItalianThai Development Public Company Ltd. と LNG Plus International Company 2016.3 Vol.50 No.2 52 東南アジアで進むLNG受入基地の建設 表 国 タイ -天然ガス生産地域から需要地域へ- 東南アジアの LNG 基地一覧 LNG 受け入れ能力 (万トン / 年) 名称 Map Ta Phut Phase 2 LNG 貯蔵容量合計 (万 kℓ) 操業開始 (年) 500 32 2011 500 32 2017 予定 ミャンマー 名称未定 N.A N.A 計画中 マレーシア Melaka 380 N.A 2013 Pengerang 350 40 2018 予定 Lumut N.A N.A 計画中 Lahad Datu 100 N.A 計画中 シンガポール インドネシア Jurong Island(Phase 1、1B) 600 54 2013、2014 Phase 3 500 26 2018 将来拡張 (合計 1,500) N.A 計画中 300 N.A 2012 West Java、Nusantara Regas FSRU Lampung FSRU フィリピン ベトナム 200 ~ 300 17 2014 Arun 300 N.A 2015 Central Java、Semarang 300 N.A 計画中 Bojonegara 400 N.A 2019 予定 Central Java、Cilacap 160 N.A 2017 予定 North Java N.A N.A 計画中 East Java N.A N.A 計画中 Pagbilao LNG 300 13 2016 予定 Batangas FSRU 400 17 2017 予定 名称未定 N.A N.A 2017 予定 Thi Vai 100 10 2017 予定 180(拡張計画あり) 32 2019 予定 Son My、Binh Thuan 出所:各種情報を基に JOGMEC 作成 Ltd.)とともにミャンマー 億m3 600 に LNG 受入基地を建設す る計画だ。この基地からタ イへ天然ガスを輸送・供給 国内生産 輸入(パイプライン) 500 輸入(LNG) 消費量 す る 計 画 も あ る。 ミ ャ ン マ ー の Dawei 経 済 特 区 に 400 LNG 受 入 基 地 を 建 設 し、 同経済特区における事業用 300 と し て LNG を 利 用 し、 残 りの 容 量 分 の 天 然 ガスを 200 ミャンマーの他の地域とタ イに販売するもくろみとい 100 Shell は技術面でサポート する。ミャンマーは現在も 53 石油・天然ガスレビュー 出所:IEA Natural Gas Indormation のデータを基に JOGMEC 作成 図8 タイの天然ガスバランス推移 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 加 し た と さ れ る。 な お、 0 1995 イの両国の政府関係者も参 1994 締結時にはミャンマー、タ 1993 う。この建設に関する契約 年 アナリシス 天然ガスの主要生産国であるにもかかわらず、国内への への輸出は、1 9 8 3 年の同国 LNG の生産開始以降、常に 供給はわずかで、 ほとんどが中国とタイへ輸出している。 大きな比率を占め(2 0 1 4 年は 1,5 0 0 万トン)、日本にとっ ても重要な LNG 輸入先である。 ②マレーシア しかし、近年は天然ガスの生産量・埋蔵量ともに伸び マレーシアは言わずと知れた伝統的な LNG 輸出国で、 悩み、LNG 長期売買契約による供給義務を抱えるなか 2 0 1 4 年は約 2,5 0 0 万トンの LNG を輸出した。特に日本 で国内ガス需要が増加(図 1 0)。国内向け供給の不足分 を補うために 2 0 1 3 年より LNG 輸入を開始した (2 0 0 2 年からパイプラインによる 輸入も行っている) 。 また、マレーシアの天然 ガス供給の課題は、上記の ような需給ギャップだけで はない。埋蔵量に余裕があ るガス田の多くはマレー半 島から離れたカリマンタン (ボルネオ)島サバ州・サラ ワク両州(東マレーシア)の 沖合にあるのに対し、需要 の中心がマレー半島にあり パイプラインでの天然ガス 輸送が困難である地理的条 件も挙げられる。そのため、 現 在 建 設 中 の Petronas FLNG 1, 2 などでやがて生 出所:PTT LNG ホームページ 産されるLNGは主に国内供 図9 Map Ta Phut LNG 受入基地 給向けになると見られる。 なお、今年操業開始予定の 1,000 Petronas FLNG 1は、 フロー 億m3 国内消費量 900 ティング LNG の操業として 2013 LNG輸入開始 輸出量 生産量 は世界初の試みになる。 生産量<輸出量+消費量 =ギャップ拡大 800 2002 パイプライン輸入開始 現在操業中の LNG 受入 700 基地は、Melaka 受入基地 600 (図 1 1)だけだが、さらに 2 件 の LNG 受 入 基 地 を マ 500 レー半島に、サバ州にも 1 400 件の LNG 受入基地を建設 300 す る 計 画 が あ る。 な お、 200 Melaka 受入基地は、マレー 100 シア LNG プロジェクトで 使用されていた LNG タン 図10 マレーシアの天然ガス生産量・消費量・輸出量推移 14 20 13 12 11 10 出所:IEA Natural Gas Information のデータを基に JOGMEC 作成 20 20 20 20 20 09 08 20 06 05 04 03 07 20 20 20 20 20 02 20 01 20 20 00 0 年 カー 2 隻を転用した浮体式 LNG 貯 蔵 設 備(FSU: Floating Storage Unit)を 備えている。 2016.3 Vol.50 No.2 54 東南アジアで進むLNG受入基地の建設 -天然ガス生産地域から需要地域へ- ③シンガポール シ ン ガ ポ ー ル で は、2 0 1 3 年 に、Jurong Island の LNG 受入基地(図 1 2)が操業を開始した。同基地は、シ ンガポールのエネルギー供給セキュリティの強化はもち ろん、LNG 貯蔵・再積み込みサービスや新規建造され た LNG のクールダウンサービス、LNG 燃料船への燃料 供給サービスなどを視野に入れた戦略の下で建設され た。同基地は、現状 LNG タンク 3 基を擁し LNG 処理能 力 6 0 0 万トン / 年だが、2 0 1 8 年までに処理能力 1,1 2 5 万 トン / 年に拡張される予定である。さらに将来的には処 理能力 1,5 0 0 万トン / 年まで拡張する可能性がある。 同国は、アジアにおける LNG スポット取引の透明性 向上と価格指標の確立を目的に 2 0 1 5 年 9 月に“SLInG” (Singapore LNG Index Group)と称する価格指標グルー プを設立。地理的な要衝に位置することからも、アジア 地域における LNG トレーディングのハブ(hub =中枢) になることを目指す(図 1 3) 。Jurong Island の LNG 基 地は、シンガポールの国際戦略のなかで重要な位置を占 めている。 ④インドネシア インドネシアは 1 9 7 0 年代から 2 0 0 0 年代半ばまで世 界最大の LNG 輸出国だった。しかし、国産天然ガス生 産量の伸び悩みに伴う原料ガス供給の減少と国内エネル ギー需要の高まりを受け、2 0 0 0 年代後半には天然ガス を国内市場に振り向ける方針を決めた。図 1 4 は同国の (注)向 かって右側の 2 隻が LNG タンカーを転用した FSU(浮体式 LNG 貯蔵設備)。左側が着桟中の LNG タンカー。 出所:Petronas 図11 Melaka LNG 受入基地 天然ガスバランスの推移を 示したもの。2 0 1 0 年頃よ り東アジア諸国(日本、韓 国、台湾)向けの LNG 長期 契約数量を大きく削減して いるのが分かろう。 ま た、2 0 1 2 年 に West Java で Nusantara Regas (Pertamina と 国 営 ガ ス 会 社 Perusahaan Gas Negara 〈PGN〉の合弁)が運営する FSRU の稼働を開始して以 降、 生 産 さ れ た LNG の 一 部は国内需要向けに供給さ れている。この FSRU 稼働 以降も、2 0 1 4 年に同じく FSRU 設 置 の Lampung LNG 基地が、2 0 1 5 年には 元々液化基地であったもの 55 石油・天然ガスレビュー 出所:SLNG ホームページ 図12 シンガポール Jurong Island LNG 基地の概観 アナリシス を受入基地に転換させた Arun LNG 基地がそれぞれ操業 設すると発表。こちらはインドネシアにとって、初の陸 を 開 始 し た。 ま た、2 0 1 5 年 1 1 月、 東 京 ガ ス と 上型 LNG 受入基地となり、2 0 1 9 年の稼働開始を目指し Pertamina は、Bojonegara に LNG 受入基地を共同で建 ている。 図 1 5 は Pertamina が公 表しているインドネシアの 天然ガスバランスの見通し である。現状については同 国 内 間 で の LNG 輸 送・ 供 給 の み で、 海 外 か ら の LNG 輸 入 は 含 ま な い。 し かし、2 0 2 5 年におけるイ ンドネシア国内の天然ガス 需 要 は 約 1 0.1Bcf/d(LNG 換算約 7,8 0 0 万トン / 年)と なる見通しで、国内供給量 とのギャップ分約 3,3 0 0 万 トンの LNG 輸入が必要に なると予測。 この予測を受けて Pertamina は、アメリカの Corpus Christi プロジェク トからの LNG 調達につい て 2 0 年間の長期売買契約 (2 0 1 8 年供給開始)を既に 出所:SLNG ホームページ 締 結 す る な ど、 海 外 LNG 図13 アジアの LNG トレーディングハブを目指すシンガポール の調達に動いている。 国内間 LNG 調達を行っ 1,000 億m ている背景として、インド 3 ネシアでは天然ガス需要 国内消費量 900 の中心がスマトラ島と 輸出量 ジャワ島であるのに対し、 国内生産量 800 天然ガス埋蔵量に余裕が 700 あるのが東部地域である 600 という、他国同様の地理的 500 ギャップがあることだ。図 400 1 6 は、同国国内の各地域 の天然ガス需給バランス 300 を表したものだが、スマト 200 ラ島やジャワ島地域では 100 需要 >供給となっている 出所:IEA Natural Gas Information のデータを基に JOGMEC 作成 図14 インドネシアの天然ガスバランス推移 2014 2012 2013 2010 2011 2008 2009 2006 2007 2004 2005 2002 2003 2000 2001 1998 1999 1996 1997 1994 1995 が、埋蔵量が比較的豊富な 1993 0 年 東部地域では需要 < 供給と なっている。このように需 要地と生産地が遠隔かつ 海によって阻まれている 2016.3 Vol.50 No.2 56 東南アジアで進むLNG受入基地の建設 ことも、パイプラインの敷 設・ 整 備 を 難 し く し て お り、国内間の天然ガス輸送 手段として LNG が選択さ れる理由となっている。 さ ら に、 発 展 途 上 に あ る イ ン ド ネ シ ア で は、 現 在天 然 ガ ス イ ン フ ラの整 備が 大 き な 課 題 と なって いる(図 1 7)。スマトラ島 -天然ガス生産地域から需要地域へ- 百万scfd 13,000 12,000 11,000 10,000 9,353 8,899 9,000 7,931 7,718 8,000 6,824 6,662 7,000 5,967 6,106 5,971 6,000 5,622 5,299 4,942 5,000 4,453 4,273 4,000 3,000 2,000 1,000 0 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 10,065 9,758 9,615 9,794 Demand 4.4 Bcfdgap in 2025 to be met through LNG imports 6,307 5,910 5,994 5,531 LNG imports New discovery CBM Existing Pertamina Existing Others New Pertamina New others 2022 2023 2024 2025 年 出所:Pertamina ~ジ ャ ワ 島 地 域 で のパイ 図15 インドネシアの天然ガスバランス見通し(2015 年 3 月時点予測) プラ イ ン も 含 め た 天然ガ スイ ン フ ラ の 整 備 が計画 されているのと同時に、島 嶼部が多い地形要因から、 スモールスケール LNG(小 規模 LNG 供給)と呼ばれる 百万scfd Indonesia’s deficit : North Sumatra -264 -275 LNG のブレークバルク事 業の 拡 大 が 期 待 さ れてい -1,102 -2,189 -2,114 -1,153 -2,361 -2,673 -3,618 -4,372 -426 -459 Others Central Sumatra Central Java る。大規模な LNG 輸入基 地を 拠 点 に 内 航 船 等によ -545 -600 -657 -575 -631 -742 -660 -367 -320 -323 -358 -387 -426 -461 る LNG の分配供給を行い、 点在 す る 需 要 地 の 火力発 1,072 831 電用(特に現状高コストな ディーゼル発電の代替)や 591 397 South Sumatra 天然 ガ ス を 使 用 す ること West Java Surplus region Deficit region East Java -1,477 -1,706 -2,036 -2,639 -1,490 -1,719 -2,127 -2,730 鉱物 資 源 採 掘 事 業 向けに 855 1,446 773 730 732 430 805 593 -241 -494 -597 -663 -823 -953 2015 2018 2020 2025 出所:Pertamina を 計 画。 ま た、LNG そ の 図16 インドネシアの地域別天然ガス需給バランス もの を 船 舶 や 陸 上 輸送車 両用 の 燃 料 と し て 活用す ることも期待される。 ⑤フィリピン フィリピンは、Shell がオ ペレーターとなって開発し ているMalampayaガス田が Pipeline, regas, and LNG development Existing pipeline Planned pipeline Existing Regas Planned Regas Existing LNG Plant Planned LNG Plant LNG KTI development Arun Mini LNG Simenggaris Trans Sumatra pipeline 2 0 0 1 年に生産開始したの DSLNG Mini LNG Salawati が事実上の天然ガス利用の 始まりで、国内生産された 天然ガスは全量自国内で消 FSRU NR LNG RT Bojonegara 費されている。現在は他地 FSRU Cilacap LNG RT E.Java LNG Regas Makassar LNG RT Bali 区での天然ガスの開発が進 められ、生産量は増加傾向 だが(図18) 、Malampaya ガス田への依存度は大きく、 57 石油・天然ガスレビュー 出所:Pertamina 図17 Pertamina によるインドネシアの天然ガスインフラ計画 アナリシス 今後の生産減退やインフラ整備も含め、Shellとのライセ フィリピンでは現在少なくとも 3 件の LNG 受入基地の ンス期限が切れる2 0 2 4 年以降の天然ガス開発および供給 建設計画が進み、LNG 輸入国になろうとしている。これ が大きな課題である。天然ガス調達源の一つとして、LNG らの LNG 受入基地はいずれもルソン島に建設される計画 による輸入が計画されているのはそのためだ。 で、天然ガスインフラの総合開発プロジェクトの一環と して進行中だ (図19) 。 45 同 国 初 と な る Pagbilao 億m3 LNG 受 入 基 地 は、 オ ー ス 国内生産 40 トラリアの Energy World 消費量 Corp. が火力発電所の建設 35 と併せて進めているプロ 30 ジェクト。こちらは当初計 画からはやや遅れて 2 0 1 6 25 年早期に建設が完了する見 20 込 み だ。 ま た、Shell が 参 15 画している Batangas LNG 基地建設計画は、FSRU の 10 LNG 受入基地で、2 0 1 7 年 に操業開始を目指す。 また、 5 同 国 の First Gen Corp. も 14 年 20 12 13 20 20 20 11 10 20 09 20 07 08 20 20 06 20 05 20 04 20 02 03 20 20 01 20 20 00 0 LNG 受入基地の建設を計 画 し て お り、2 0 1 6 ~ 出所:IEA Natural Gas Information のデータを基に JOGMEC 作成 図18 フィリピンの天然ガスバランス推移 2 0 1 7 年に建設を開始する 予定である。 LNG PROJECT IN LUZON AG&P ENERGY CITY PROJECT (2017-20190 SHELL FSRU TERMINAL PROJECT (2017) FIRST GAS LNG TERMINAL PROJECT (2019/2022) BATCAVE (Batangas–Cavite) 40 kms(2020) EWC LNG TERMINAL PROJECT (2015) BATMAN 1 (Batangas Manila) 80-100 kms. (2013) 出所:フィリピンエネルギー省プレゼンテーション資料 図19 フィリピン Luzon 島の LNG 関連プロジェクト 2016.3 Vol.50 No.2 58 東南アジアで進むLNG受入基地の建設 ⑥ベトナム ベトナムは現状 LNG 受入 基地を保有しておらず、LNG 輸入は行っていない。天然ガ 120 -天然ガス生産地域から需要地域へ- 億m3 国内生産 消費量 100 ス生産は 1 9 9 0 年代より始ま り、現在はほぼ全量を自給自 80 足している (図20) 。しかし、 天然ガス需要の増加に伴い、 60 国 営 石 油 企 業 Petrovietnam に よ っ て 2 件 の LNG 受 入 基 40 地建設の計画が進められてい る。ベトナムの LNG 受入基 20 Thi Vai LNG 受 入 基 地 が 2 0 1 7 年 操 業 開 始 予 定、Son 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 られなかった。 現状計画では、 0 1994 あったものの容易に進展が見 1993 地建設は、これまでも計画は 年 出所:IEA Natural Gas Information のデータを基に JOGMEC 作成 図20 ベトナムの天然ガスバランス推移 My LNG 受入基地が 2 0 1 9 年 の操業開始予定である。 まとめ 東南アジアは、近年の急速な経済成長と人口増加によ ンドネシアではスモールスケール LNG によるサプライ り、総じてエネルギー需要も大きく伸ることは確実のよ チェーンモデルの構築も期待されるが、他の各国も島嶼 うだ。中国やインドに続く新興のエネルギー需要地域へ 部が多いという点では同じ地理的条件下にあるので、同 と成長し、世界のエネルギー市場にも大きな影響を与え 様のビジネスモデルが拡大していく可能性もある。 ていくと考えられる。天然ガス需要は増加し、タイやシ LNG 受入基地の建設が進み、その輸入に参画する国 ンガポール、そして伝統的な LNG 輸出国であったイン が増えていくことは、LNG 市場の拡大を意味する。北 ドネシアやマレーシアにおいても LNG 受入基地の操業 米やオーストラリア、東アフリカでの新たな LNG プロ が開始されている。これまでの姿であった天然ガス・ ジェクトが進捗し、生産者が増加していくことと同様に、 LNG の生産・供給地域から需要地域へと転換しようと LNG 市場はさらに拡大・多様化していこう。また、今 しており、既に東南アジアを取り巻く LNG 輸出入の流 後数年間は世界的に LNG の供給過剰が予想されるが、 れは変わりつつある。 上流における投資の停滞を防ぎ LNG 産業が健全に発展 一方、東南アジアではエネルギーへのアクセスのため していくためには需要の発掘が欠かせない。 のインフラが未整備であることが大きな課題となってい 今後 LNG 産業と、その世界的市場への影響力も大き る。LNG 受入基地の建設も天然ガスインフラ整備の一 くなっていくであろう東南アジアの LNG 輸出入動向に 環としてであり、LNG 受入基地を軸としたエネルギー ついて、引き続き注視していきたい。 ハブの形成が各国で進んでいく可能性が高い。また、イ 59 石油・天然ガスレビュー アナリシス 執筆者紹介 永井 一聡(ながい かずあき) 東京大学大学院工学系研究科修了。 2002年、東京ガス株式会社入社後、主にLNG受入基地の操業管理、プロセスエンジニアリング業務等に従事。 2013年4月より現職。 趣味は毎週末興じる野球。最近のマイブームは、愛車に七輪を積んでドライブに出かけ、漁港等で調達した食材 を浜焼きで食べること。 2016.3 Vol.50 No.2 60
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