人間科学研究 Vol. 28, Supplement(2015) 修士論文要旨 青年期における友人への自己開示に対する葛藤とその対処方法の変化の検討 The conflict of self-disclosure toward peers and the process of coping with it in adolescents. 河口 麻衣(Kawaguchi Mai) 指導:菅野 純 【問題と目的】 【結果と考察】 自己開示とは, 「自分がどのような人物であるかを他者に 研究Ⅰ 言語的に伝える行為」 (榎本,1997)とされており,Waring 自己開示度尺度,自己開示動機尺度,自己開示の抑制要 & Reddon(1983)やWaring(1988)は自己開示をする能 因尺度を用いて,中学3年生・高校3年生・現在の3つの 力が親密な関係の発展に寄与し,特に情緒的な自己開示の 年齢段階を設定し,年齢段階における得点の変化を明らか できる人は満足のいく関係を結ぶことが出来るとしている。 にすることを目的とした。 その一方で自己開示には抵抗感が伴うことも指摘されて 自己開示度尺度では,高校3年生時において得点が高い いる。特に中学生においては,本音を出すことと本音を出 ことが,自己開示動機尺度では,現在よりも高校3年生時 さずにいることの間で葛藤を起こしている生徒が多く,ス において得点が高いことが明らかとなった。これには,高 トレス反応が高いことが明らかにされており(橋詰,2010), 校3年生という時期が進路選択を行う時期であり,他者へ 友人に本音を出したいという気持ちと,一方で本音を出す 相談する機会が増えるために自己開示も増えることが影響 ことで周囲から異質であると思われ,孤立することを恐れ していると考えられた。自己開示の抑制要因尺度では,中 る気持ちとの間で,葛藤が生じていることが考えられる。 学3年生時において得点が最も高いことが明らかとなった。 そこで本研究では,自己開示したいという気持ちと,一 これには,中学生という時期において,周囲との同調を求 方でそれを躊躇う気持ちがある状態を(自己開示の)葛藤 め対立することを恐れ避けようとする意識が強く,自己開 と定義し,中学~大学までの青年期における特に親しい同 示に伴って友人との関係が壊れることや,自身が孤立する 性の友人への自己開示に対する葛藤とその対処方法が発達 ことへの恐怖が強いことが影響していると考えられた。 と共にどのように変わっていったかを具体的に明らかにす ることを目的とする。 研究Ⅱ 中学3年生時~現在にかけての自己開示の葛藤経験とそ 【方法】 の対処方法および変化を分析・検討した。 研究Ⅰ 自己開示の葛藤とその対処方法の変化: 「自己開示の葛藤 調査対象:関東圏の大学に通う大学生231名(男性90名,女 内容」の質は年齢段階があがるにつれ, “相手や自分のネガ 性141名。平均年齢19.84歳) ティブな側面に関する内容や本音”といった,自他にとっ 調査方法:独自の質問項目によって作成された個別自記入 て侵襲性の高い“深い内容”に変化していた。また, 「葛藤 式の質問紙を用いた。 の詳細」においては,年齢段階があがるにつれ,相手との 分析方法:記述統計量を算出し,年齢段階(中学3年生時・ 関係や自分を守りたいという気持ちに基づく葛藤から,相 高校3年生時・現在)を要因として分散分析・t検定を行い 手の特性や性格を考慮した上で自分の開示したい気持ちと 平均値の比較を行った。 折り合いをつけようとする葛藤に変化するか,または,そ 研究Ⅱ ういった葛藤が生じなくなることが明らかとなった。 調査対象:関東圏の大学に通う大学生7名(男性3名,女 そして,自己開示の葛藤への対処方法は年齢段階があが 性4名。平均年齢20.85歳) ると共に,“開示しない”というものから,“相手の特徴や 調査方法:個別の半構造化面接を90分行った。 性格,自身が自己開示に求めていた目的に応じて開示相手 分析方法:質的データ分析法(佐藤,2008)を援用し,事 や開示の仕方を調整し対処を行う”というものへと変化し 例―コード・マトリックスを作成した。 ていった。 - 76 -
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