金属微粒子含有ガラスの作製とレーザ照射による微粒子の

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金属微粒子含有ガラスの作製とレーザ照射による微粒子の移動
千葉大学
〇岩元建樹 ◎比田井洋史
松坂壮太
千葉明
森田昇
ガラス内部への金属微粒子の導入方法として,CW レーザ背面照射法を提案している.これはガラス越しの金属箔にレーザを照射する
ことで微粒子を導入する手法であるが,箔の熱伝導により伝導率の低い金属しか導入できていない.本発表では箔の代わりに微粒子を用
いることでより多くの金属の導入可能性を検討し,金属微粒子を含有したガラスの作製を行った.その結果,SUS 微粒子含有ガラスを作
製し,レーザ照射による移動を確認した.
1. 緒言
ガラスは化学的,物理的な安定性に優れており,高い透明性を
有することから,電気的,光学的に広く応用されている.電気的
な応用例として,半導体パッケージ基板に応用する例が挙げられ
る.これは内部に配線を施したガラスを基板として用いることで,
より高密度かつ自由度の高い回路基板とする技術である 1).また,
光学的な応用例としては,光情報処理用材料として応用する例で
ある.例えば,2 価のサマリウムイオンをガラスにドープするこ
とで,光メモリーとして情報を記録できることがわかっている 2).
このような背景に対して CW レーザ背面照射法(CW-LBI 法)で
は,ガラスの背面に密着させた金属箔に向かって CW レーザを照
射することで金属微粒子がガラス内へ導入されるという手法であ
る 3).このようにレーザによりガラス内部に微粒子を導入する手
法は従来になく,様々な応用が期待できる.しかし,箔の熱伝導
が高いと熱が拡散し,照射部が十分に加熱されないことから熱伝
導率の低い金属しか導入できない.そのため,導入可能な金属は
限られている 4).
本研究では箔の代わりに微粒子を用いることでより多くの金属
の導入可能性を検討する.そのために,微粒子として導入可能な
微粒子を含有したガラス試料の作製を行い,微粒子を原料とした
ガラス内での移動を実現した.
2. 種々のガラスへの微粒子導入
先行研究 4)より,CW-LBI 法により直接微粒子の導入が可能なガ
ラスは限られていることがわかっており,その中でもホウケイ酸
ガラスは直接微粒子の導入が可能なガラスである.しかし,ホウ
ケイ酸ガラスは軟化点が高く,加工が困難である.そこで,軟化
点の低いソーダライムガラスや鉛ガラスを用いることができれば,
加工が容易になると考えた.そこで,本項目ではソーダライムガ
ラスと鉛ガラスを試料として利用するため,微粒子導入可能性を
検討した.
2.1 実験方法
実験方法を Fig. 1 に示す.レーザ発振器には Raycus 社製のフ
ァイバーレーザ装置(20W CW Fiber Laser)を用いた.また,本研究
で用いたガラス及び金属の物性値を Table. 1 に示す 5)6).まず,SUS
箔にレーザ照射を行うことでホウケイ酸ガラス内に微粒子を導入
する.その状態でレーザ照射を続け,焦点位置を一定にし続ける
ことで微粒子が光源方向に移動した.その後ホウケイ酸ガラスを
経由して目的のガラスに微粒子を入れ,その中の微粒子を CCD カ
メラで観察した.
2.2 実験結果
Fig. 2 にソーダライムガラスへの微粒子導入の様子を,Fig. 3 に
鉛ガラスへの微粒子導入の様子を示す.ホウケイ酸ガラスを経由
してソーダライムガラスへと導入された微粒子は,Fig. 2(b) に示
されているように微粒子として存在している.同様に,Fig. 3(b) よ
り,鉛ガラス内で微粒子は確認できず,変質部のみが確認できた.
これはより低い出力でガラス自体の光吸収が生じてしまうからで
ある.よって,鉛ガラスへの微粒子導入は困難である.
以上から,ソーダライムガラスへの導入が可能,鉛ガラスへの
導入は困難であり,試料に適していないと考えられる.しかし,
今回の実験でソーダライムガラスへレーザ照射をした際,頻繁に
ソーダライムガラスが割れてしまい, 微粒子の移動が困難であっ
た.よって,ソーダライムガラスも試料として利用するのは困難
であると考えられる.
SUS foil
Soda lime (Lead) glass
Heat insulator (silica glass)
Borosilicate glass
CW Laser
Particle moves towards laser
Fig. 1 Manipulating SUS particle into the glasses through borosilicate glass
Soda lime glass
Borosilicate glass
Soda lime glass
(a) SUS particle inside
borosilicate glass
100μm
(b) SUS particle inside
soda lime glass
: Direction of the laser
Fig. 2 Manipulating SUS particle into soda lime glass
Borosilicate glass
Lead glass
50μm
(a) SUS particle inside borosilicate
glass
第22回「精密工学会 学生会員卒業研究発表講演会論文集」
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(b)SUS particle inside lead glass
: Direction of the laser
Fig. 3 Manipulating SUS particle into lead glass
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Table 1 Properties of materials
Borosilicate
glass
Soda lime
glass
Lead glass
SUS304
Softening point[K]
820
730
858
-
Melting point[K]
-
-
-
1673
CTE* [×10 /℃]
37
90
80
-
Density[g/cm3]
2.23
2.5
4.8
7.9
-7
Tokura,Metal partcile manipulation by laser irradiation in borosilicate glass,OPTICS
EXPRESS,18,19, 2010
5)コーニングジャパン株式会社:
http://www.corning.com/lifesciences/japan/en/index.aspx
6)株式会社ニラコ:http://nilaco.jp/pdf/ALLOY.000139.pdf
Pulse laser
Fixed by jig
Borosilicate glass
*Coefficient of thermal expansion
3. レーザアニーリングによる試料作製
前述したように,ホウケイ酸ガラスは電気炉等で熱処理を行う
際に結晶化してしまい,広範囲の加熱による加工は困難である.
そこで,レーザアニーリングを用いた局所的な加熱であれば試料
作製が可能と考え,作製を行った.
3.1 実験方法
Fig. 4 に実験方法を示す.レーザ発振器には PSL 株式会社製の
パルス列制御レーザ装置 PYS-2003 を用いた.SUS 粉末(100mesh)
を撒いた石英ガラスの上に,ホウケイ酸ガラスをかぶせ治具で固
定した.その試料に向け,パルス幅 0.6ms フルエンス 1.4J/cm2 の
パルスレーザを照射することでアニーリングを行った.試料は自
動ステージ上に設置してあり,スポットサイズ程度ずつずらしな
がらレーザ照射を行うことで粉末を撒いた範囲全体が 1 パルスず
つ照射されるようにした.
.
3.2 実験結果
レーザ照射と同方向から,レーザ顕微鏡を用いて試料の一部の
形状測定を行った.形状測定を行った図を Fig. 5 に示す.Fig. 5 (a)
が形状測定の図であり,Fig. 5(b)が実際の写真を合成したものであ
る.破線円部で代表されるように,100μm 程度の凸部が形成され
ていることがわかる.本実験で用いた SUS 粉末の直径は最大でも
150μm である.そのため,この凸部は SUS 粉末がホウケイ酸ガラ
スに埋め込まれていることにより生じたと考えられる.
4.アニーリング試料のレーザ照射
前項目において作製した試料に項目 2 で用いた実験装置と同じ
装置を用いて,微粒子の導入可能性を検討した.
4.1 実験方法
CW レーザを照射し,アニール後の試料の微粒子導入を試みた.
出力は 20W で照射を行い,試料を自動ステージで移動することに
より焦点位置の調節を行った.
4.2 実験結果
レーザ照射を行った結果を Fig. 6 に示す.Fig. 6 に示されている
ように,粒径 50μm 程の微粒子の導入が確認できた.さらにレー
ザ照射を続けた場合の図を Fig. 7 に示す.Fig. 7(a)の 3 秒後の画像
を Fig. 7(b)に示す.光源方向に向かって微粒子が移動しているこ
とが確認できる.ガラス内の微粒子が光源方向に向かって移動し
たことから,この微粒子は導入した SUS 粒であるといえる.以上
から,アニーリングにより微粒子として導入可能な金属微粒子を
含有したガラス試料作製ができた.
5. 結言
レーザアニーリングを用いることで,SUS 粒を含有したホウケ
イ酸ガラスの作製に成功した.試料にレーザ照射を行い,SUS 微
粒子の導入を確認した.
6. 参考文献
1)株式会社フジクラ: http://www.fujikura.co.jp/rd/field/ed.html
2)平尾一之:光情報を制御する赤色ガラス,材料 Vol.45,Feb.1996,249-250 3)
3)山崎貴斗,比田井洋史,戸倉和, “CW レーザ背面照射法(CW-LBI)
によるガラスの内部変質(第 3 報),精密工学会誌,76,5,577-581, 2010
4) Hirofumi Hidai, Takato Yamazaki, Sho Itoh, Kuniaki Hiromatsu, and Hitoshi
SUS powder
Silica glass
Fig. 4 Annealing process of borosilicate glass
100μm
(a)
-150
(b)
150 [
0
Fig. 5 Shape measurement of annealed sample
100μm
Fig. 6 SUS particle imported from SUS powder
50μm
(a)
50μm
(b)
Fig. 7 SUS particle moving towards laser
第22回「精密工学会 学生会員卒業研究発表講演会論文集」
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