日消外会誌 27(4)'849∼
857,1994年
実験的急性胃潰瘍発生におよぼす閉塞性黄疸 の影響
に関す る胃粘膜壁細胞 ミトコン ドリアの
電子顕徴鏡学的組織計預Jによる検討
東北大学第 1 外 科
松田 好 郎
舟山 裕 士
佐 々木 巌
内 藤 広 郎
神 山 泰 彦
松 野 正紀
D a w l e y r a t を用
閉塞性黄痘 時 の急性潰瘍 発 生 にお け る 胃粘膜 エ ネ ル ギ ー代 謝 につ いて S p r a g u e ‐
い, 実 験 1 で は対照群, 黄 疸 2 , 4 , 6 , 8 週
群 お よび減黄群 ( 黄疸 2 週 後減黄 3 日 間) を 作成 し,
実験 2 で は対照群, 黄 疸 2 週 群 お よび減黄群 に対 して水浸拘束 ス トレスを負荷 し, そ れぞれ壁細胞 ミ
トコン ドリア ( M t ) の超微形態 を組 織計測学的 に検討 し以下 の成績 を得た。 1 ) 黄 疸 2 週 では対照群 に
比 べ M t 数 , ク リステ数 は有意 に増加 した。2 ) 黄 疸 4 週 , 8 週 では M t の 膨化 な どの形 態異常 が 出現
した 。3 ) 減 黄群 では M t 数 , ク リステ数, M t 断 面積 が対照群 とほぼ同様 レベル に回復 した , 4 ) 水 漫
拘束 時 の M t は 対照群 に比 べ 黄痘群で よ り高度 の障害像 を呈 した。以上 よ り, 黄痘 時 の急性潰瘍発生 に
は壁細胞 M t の 超微形態像 で示 され る 胃粘膜 エ ネル ギ ー代謝障害 が深 く関与す る と考 え られた。また ,
これ らは滅黄 に よ り改善 され る ことが確 かめ られた.
Key words:
acute gastric ulcer, obstructive jaundice, ultrastructure of parietal cell, water-immersion
restraint stress, effect of biliary drainage
は じめに
臨床 的 に 閉塞 性 黄痘 時 に手術 な どの ス トレス が 加
わ った場合,急性漬瘍 の発生 が高頻度 に認 め られ ,い っ
たん発生す る と治療 に難渋 し予後 は きわ めて不 良 で あ
るll 。
。これ らの急性漬瘍 の発生機序 につ いては,臨 床
お よび実験 的 に種 々の検討 が な されてい るがい まだ不
ル ギ ー代 「
alの一 端 を解 明す るため, 胃粘膜 エ ネルギ ー
代謝 の大部分 を担 うと考 え られ る壁細胞 ミ トコン ドリ
アlめ
につ いて組織 計測的手法 を用 いて超微形態学 的 に
検討 した。
I.対 象 お よび方法
Dawley(SD)雄
体重約200grの Sprague‐
性 ラット
明な点 が 多 い。Percutaneous transhapatic bile drain‐を対象 として用 いた 。実験群 としては単 開腹群 (対照
ageな どの減黄操作 に よ りその発生 が抑制 され る との
∼
報告 が あ るがゆ の, これ までの教 室 での検 討 で は 閉塞
群),総 胆管結紫切離 に よる黄痘作成群 (黄疸群),お
よび胆 管 に シ リコンチ ュー ブを カ ニ ュレー シ ョン して
性黄疸時 には 胃粘膜 potential direrence,胃
粘膜 血 流
ー
ー
ル
量,胃 粘膜 ATP量 ,エ ネ ギ チ ャ ジで示 され るエ
ネル ギ ー代謝 な どの防御 因子 の低 下 が著 し くな る こ と
これを結繁 して黄疸 を作成後 2週 目に 3日 間開放 した
に よ り,急 性潰場 の発生 しやす い状態 にあ る と考 え ら
れ,減 黄術 は これ らの防御 因子 の低 下 を改善 し,潰 瘍
∼
発生 を防 ぐ効果 が あ る こ とが示唆 されてい る。 121。し
か し, これ まで黄痘 時 の 胃粘膜 エ ネルギ ー代謝 に関す
群 (減黄群)の 3群 を作成 した。
1.実 験 ス ケジ ュール
1)実 験 1
ス トレスが加わ らな い場合 の 閉塞性黄疸期 間 お よび
減黄術 の 胃粘膜 に対す る影響 を検討す る 目的で,対 照
る超微形態学的 な検 討 は少 ない。 そ こで 本研究 で は,
群,
群 と黄痘継続期間の異 な る,黄 疸 2,4,6,8週
お よび黄疸 2週 後減黄群 をおのお の 3頭 ず つ 作成 し,
閉塞性黄疸時 の急性潰瘍 発生機序 に関す る 胃粘膜 エ ネ
約 18時間 の絶食 の後,以 下 に述 べ る方法 にて 胃を摘 出
<1993年 12月 8日 受理>別 刷請求先 t松 田 好 郎
〒980 仙 台市星陵町 1の 1 東 北大学 医学部第 1外
科
し, 胃粘膜 を電子顕微鏡 にて観察 した (Fig.1).
2.実 験 2
ス トレス負荷時 の 胃粘膜 に対す る黄疸 お よび減黄術
実験的急性 胃漬瘍発生 におよぼす閉塞性黄疸の影響
16(850)
行 った。
3.組 織計測 に よる検討
壁細胞 ミ トコ ン ドリアの変化 を5,000倍の電 子 顕 微
1い
を も とに し
鏡 写 真 に よ り,Weibelの 組織 計測 法 l。
・
て,半 自動 画像解 析装置 エ コン コスモ ゾー ン① (ニ コ
I . Experiment1
ｄ
ｅ
ｃ
ｉ
ｄ
ｎ
帥
帥
ｕ
ａ
ｉ
帥
!aparotomy specimen
↓
○
一
BDL
O
o
O
W
BDL
tilhrvdralnodI
group
4号
倍 で観 察 撮影 し,ま た電 顕写 真 を用 いて 組 織 計測 を
Fig. 1 Scheduleof experiments. BDL; common
bile duct ligation
↓
日消外会誌 27巻
biliarydrainase
O o
3D
O
ン社,Tokyo)に
て次 の項 目を計測 した。
① 単位細胞質断面積に対す るミトコン ドリア数( 各
群 n=3× 10)
② ミトコン ドリア断面に出現するクリステ数( 各群
n=3× 200)
II . Experiment2
嗣廻
taparotomy
↓
一
③
water immerston stress
●
specimen
○
O O
O
2W
,DL
0
1
2
6H
↓
und田と __…
ね
__ギ
伴 1挙■
group
blFary
°
2
6H
路伊耐性_蝉 雪缶H
ミ トコ ン ド リア 1 個 あ た りの 断 面 積 ( 各群 n =
3 Xl,000)
④
ミ トコ ン ドリアの 細胞 質 に対 す る体 積 分 率 ( 各群
n=3X10)
⑤ ミトコン ドリアの傷害 の程度 (各群 n=3× 20)
この場合, ミ トコン ドリアの内部構造 につ いては,
そ の傷害 の程度 に よ り以下 の ご と く grade l∼grade 3
に 分 類 し,そ れ ぞ れ の100分 率 を 求 め た 。す な わ ち
の影響 を検討す る 目的で, 対 照群, 黄 痘 2 週 群 に対 し
て, 1 8 時 間絶食後 に高木 らの方法 1 0 に従 い 6 時 間 の水
grade l.内 部構造 に異常 を認め な い もの (無傷害像),
一
grade 2.ク リステの 部分 の破壊像,小 さな空砲化 を
浸拘束 を負荷 し, 拘 束前, 拘 束後 1 , 2 , 6 時 間 の 各
認 め る もの (軽度傷害像),grade 3.ク
時点 で 胃粘膜 を摘 出 して壁細 胞 を電子顕徴鏡 にて観察
した 。減黄群 で は拘束前 お よび拘束後 1 時 間 につ いて
内部構造 の不 鮮 明化 を認め る もの (高度傷害像)で あ
る。
4.各 群 の肝機能検査
同様 に検討 した ( F i g 。1 ) .
2 . 電 顕試料作成法
試料作成 につ いては, エ ーテル麻酔下 に開腹 したの
ち腺 胃に触れ な い よ うに, 食 道 お よび十 二 指腸 を結繁
し, 前 胃 よ り2 5 % グ ル タ ール アル デ ヒ ドを2 ∼2 . 5 m l
と入 した のち, 迅速 に 胃を摘 出 し, 約5 0 m l の 2 5 % グ ル
タ ール アルデ ヒ ドに 5 分 間浸漬 した. 水 浸拘束時 に潰
瘍 の最 もで きやす い部位 で あ る 胃体部前壁 で潰瘍 発生
を認 めない一 定部位 を実体顕 微鏡 下 にl m m × l m m の
大 きさに 冒腺 の縦 断面 を切 り出 した。これ を2 . 5 % グ ル
タ ール アル デ ヒ ド, 0 。l M カ ヨジル 酸 バ ッファーで,
1 . 5 時間室温 で前 固定, 1 % オ ス ミウム酸 0 . l M カ コジ
ル酸 バ ッファーで 2 時 間 0 ℃ で後 固定 した。 5 0 , 6 0 ,
70,80,90,95,100,100,100%の
リステの破壊,
エ タノール系列 に
て各 1 5 分脱水 し, プ ロピ レンオキサ イ ド置換 した 後 エ
ポキシ樹脂 ( エポ ン8 1 2 ) に包埋 した。 これを3 7 ℃で2 4
実験 に用 いた ラ ッ トは,組 織採取 と同時 に心 腔穿刺
を行 い採 血 し,血 清総 ビ リル ビン値 ,GOT値 ,CPT値
お よび アル カ リフ ォス ファタ ーゼ値 (以下 ALP)を 測
定 した。 ビ リル ビン値 は,Evelyn‐Malloy法 を,GOT
値 と GPT値
は Reitman‐Frankel百 瀬 変 法 を,ALP
値 は Kind‐King法 を用 いた.
5。統 計学的処理
統計学的処理 につ いては,実 測値 は平均値 (M)± 標
準偏差 (SD)で 表 し,有 意差検 定 は,Student'st,test
を用 い,p<0.01を
もって有意差 あ りと判定 した 。
H.成
A.実
績
験 1,壁 細胞 ミ トコン ドリアに及 ぼ す黄痘 持
続期間 の影響 につ いて
1.各 群 の肝機能検査
血 清総 ビ リル ビン値,GOT値
,GPT値
,ALP値
は,
時間, 6 0 ℃ で4 8 時間熱重合 した 。つ いで, P o r t e r B‐l u m
ウ ル トラ ミク ロ トー ム M T I I を 用 い8 0 0 Åに 超 薄 切
黄痘 2週 群 で最 も高値 を と り,そ の後高値 を と りなが
し, 酢 酸 ウラエル, クエ ン酸鉛 で重染色 し, 透 過型電
れの検査値 も対照群 とほぼ同様 の値 とな った。しか し,
0 0 , T o k y o ) に て, 2 , 0 0 0 倍お よび5 , 0 0 0
顕 ( H i t a c h H3‐
いず れ の検査値 も,各 群間 で統 計学 的 な有意差 は認 め
ら緩や かに低 下す る傾 向を示 した 。減黄 に よ り,い ず
1994年4月
17(851)
られ なか った (Fig.2).
2.黄 痘 お よび減 黄術 の 胃粘膜細胞 に対 す る影 響 に
つ いて
1)壁 細胞 の超微形態 の変化
Fig. 2 Liver function test after 2,4, 6, and 8 week
of bile duct ligation and 3 days after biliary
drainage of 2 week jaundiced model.
Total bittrubin
(mg/dl)
a
対照群 の壁細胞 は 円形,四 角形,三 角形 の大型 の細
胞 で類 円形 の核 を有 した。細胞質 には細胞 内分泌細管
f
が存在 し,多 数 の卵 円形 か ら円形 の大型 の ミ トコン ド
リアが 介在 していた (I「
i g。3).ミ トコン ドリア内 は ク
'
0
Ｔ
Ｐ
側
Ｇ
群, 6週 群, 8週 群 では,検 討 した 各群 のほ とん どす
べ ての壁細 胞 で ミ トコン ドリアの形態 が不整 とな り,
8●
8
=
●
● ● ●
↓
8陥
aユ
分裂 あ るいは癒合 と考 え られ る像 が増加 し, ミ トヨ ン
ドリア外膜 の染色性 が増 した (Fig.4),一 方,い ずれ
の群 で も ミ トヨン ドリア内 の ク リア ランスは保 たれて
いた,減 黄群 では対 照群 の ミトコシ ドリアに類似す る
.
'
billary
drainase a
リステが密 に配列 していた。黄疸 時 の変化 としては,
黄痘 2週 群 で, ミ トコン ドリアが やや小型化 し,染 色
性 が増 し,そ の数 が増加 し,高 倍率で の観察 では, ク
リステの配列が よ り密 にな る こ とが認め られた, 4週
o
O
O
格常
a還
8‖
傾 向 で あ った 。核 お よび細胞 内分泌細管 にはいず れ の
群 において もとくに変化 は認 め なか った.
duration of iaundlce
duration of jaundice
Fig. 3 Electronmicroscoppic findings of parietal cells in control and 2 week
jaundiced group. Shrincage of mitochondria and densely arranged crystae are
seen in 2 week jaundiced group.
2)壁 細胞 の組織計測
週 以降 は対照群 とほぼ同様 の値 とな った。 また,黄 疸
2週 後滅黄群 では83.5±13.5と黄痘 2週 群 に比 べ有意
① 単位細胞質断面積 に対す る ミトコン ドリア数
対照群 では85,3±226(n/100/m2area Of cytoplas‐ に減少 し,対 照群 と同様 の値 に回復 した (Fig.5).
ma)の ミ トコン ドリア数 で あ り,黄 痘 2週 群 で は
② ミトコン ドリア断面に出現す るクリステ数
114.7±22.5と対照群 に比べ右意 に増加 したが,黄痘 4
対照群では ミトコン ドリア1 断面に出現す るクリス
18(852)
実験的急性胃潰瘍発生 におよばす閉塞性黄痘の影響
Fig. 4 Mitochondrial structures on electronmicroscopic findings in 2, 4, 6, and 8 week jaundiced
groups. Number of crystae was increased in 2
week jaundiced group, fusion and deformity of
mitochondria were seen in 4. 6 and 8 week
models.
日
消外会議 27巻
4号
Fig.S Influence of jaundice on mitochondrial
structures on electronmicroscopic findings in rat.
numb€r ot mltchondria
(n/lmtmzaadot cytoplasmr)
number of crystaa
(/mlt@hondrla)
aral軍
]ヤ 穐5X淋
size of mltochondria
(!n2)
mitchondria€ytoplasa
(% : mlt/cytoph.m!)
duration of jaundlce
ratio
duratlon of jaundic€
や低下 したが,有 意差 は認 め られ なか った (F七.5),
B.実 験 2,水 浸拘束時 の 胃粘 膜壁細胞 の 変化 に及
テ数 は, 1 1 . 0 ±2 . 2 であ ったが , 黄 疸 2 週 群 で は1 5 . 1 ±
2 , 7 , 黄 疸 4 週 群 で は, 1 7 . 4 ± 3 . 0 といず れ も対照群 に
比 べ 有意 に増加 していた 。一 方, 減 黄群 で は, 1 3 0 士
2 . 0 と黄疸 2 週 群 に比 べ 有意 な減 少 を示 した ( F を. 5 ) .
③ ミトコン ドリア 1個 あた りの断面積
対照群では, ミ トコン ドリア 1個 あた りの断面積は
0.42±0.19″
m2で ぁった が,黄 疸 2週 群 で は0.37土
m2と ミトコン ドリアが対照群 に比べ有意 に小型
0.18″
化 した。し か し,黄 疸 4週 以降対照群 に比べ有意 に大
型 となっていた。一方,減 黄群 では0.42±0,18と対照
ばす黄痘 お よび減黄術 の影響 につ いて
1)壁 細胞 の超微形態 の変化
水浸拘束前 の壁細胞 は,前 述 の ご とく豊富 な ミ トコ
ン ドリアを含有 してお り,細 胞 内分泌細管 の拡大 も認
め られ な いが,水 浸拘束後 1時 間 で は, ミ トコン ドリ
アの膨化 が認 め られ,細 胞 内分泌細管 の拡大 も認 め ら
れた。水浸拘束後 2時 間で は,そ れ らの変化 が一 層 明
らか とな り,水 浸拘束後 6時 間 で は, ミ トヨン ドリア
の膨化 が著 明 とな り,空 胞化 ク リステの破壊像 も認め
られた.ま た細胞 内分泌細管 は 目立 た な くな った。黄
群 と同様の大 きさに回復 した (Fig.5).
④ ミトヨン ドリアの体積分率
疸群 においては拘束前 においては実験 1の ご とく ミ ト
コン ドリアの小型化 と ミトコン ドリア数 お よび ク リス
対照群 は40.0±6.2%で あ り,黄 疸 2週 群 で42,35士
5.6%, 4週 群で40.5±5.6%, 6週 群で41.2±6.3%,
8週 群で40.3±62%と 対照群 に比 べ て有意 な変化 は
群 と同様 の変化 では あ ったが,対 照群 に比 べ て よ り早
期 に よ り高度 な ミ トヨン ドリアの傷害像 が認 め られた
認め られなか った。また,減 黄群 では36.0±5.7%と や
(Fig.6).
テ数 の増加 が 認 め られ,拘 束後 の変化 は質的 には対照
1994年 4月
Fig.6 Electromnicroscopic views of parietal cell
in control and jaundiced models aFter 2 and 6
hours water iminersion stress.
19(853)
Fig. 7 Influence of water immersion stress on
mitochondrial structure of parietal cells.
numberofmitochondria
(n/lo0rmrarea of cytoplasma)
mitochondrh-cytoplasmaratio
(% : mit/cytoplasma)
H
contlol SrOUp
( n =ax30)
jaundlcod troup
(n={x30)
,H
tiliery dEln d @p
ネ
(n=2X30,
H
Size of mitochondria
percent change of
(rm2)
dathdic‐。
2)水 浸拘束時 の壁細胞 ミトコン ドリアの組織計預J
① 単位細胞質断面積 に対す る ミトヨン ドリア数
対照群 は水浸拘束前85.3±22.6であ り水浸拘束後 1
時間で85.7±213と 前値 と同様 の値を とった後,負 荷
s P<0.01
VS beforo stress
duration of water immersion stress
m2,
時間後 0.56±0.27/m2,拘 束 2時 間後 0.52±0.26″
後 2時 間 よ り低下 し,負 荷後 6時 間で59.8となった。
一方,黄 疸群では,負 荷前値 114.7±22.5より急激 に低
拘束 6時 間後 0,77±0,47/m2と 断面積 が拡大 し膨 化 が
下 し,負荷後 1時 間で84.1±13.4と有意 な低下 とな り,
その後 も低下 した。減黄群 では,前 値83.5±13.2より
1時 間 後 0.51±0.21″
m2,拘 束 2時 間 後 0.60±0.26
低下 し,負荷後 1時 間で74.4±12.4となった(Fig.7).
② ミトヨン ドリアの細胞質に対す る体積分率
細胞質 に対す る ミトコン ドリアの体積分率 について
m2ょ り拘束
進 行 した。黄疸群 で も拘束前0.37±0,18″
″m2と 同様 に膨化 が進行 し,ま た減黄群 で も,拘 束前
m2ょ り拘束 1時 間後 056± 0.21μ
m2と 膨
0.42±0 18μ
コ
ン
ミ
ドリアの
の
の
ト
の平
した
断面積
化
。各群 拘束前
均値 を100%と した ときの拘束 負荷後 の ミ トヨン ドリ
は,対 照群 では水浸拘束前40.0±6.2%,拘 束後 1時 間
で45,3±5.5%,拘 束後 2時 間で37.4±4.5%,拘 束後
6時 間で44.3±6.6%と なった。
黄痘群 では水浸拘束前
133.3%,拘 束 2時 間後 123.8%と な ったが,減 黄群 で
42.3±5.6%で あ り水浸拘束 による変化 はほ とん どな
早期 に膨化 が進行 した (Fig.7).
く,拘 束後 6時 間で43.5±52%と なった。また減黄群
では水浸拘束前36.0±57%で ,拘束後 1時 間で40.6±
4,7%で あ り,3群 とも水浸拘束前後 のいずれの時点で
も経過による有意 の差 は認めなかった (Fig.7).
③ ミトコン ドリアの断面積
④ ミトコン ドリアの内部構造 の異常について
99.5%,grade 2が
対照群 は水浸拘束前 は grade lが
0,3%で あ り,ほ とん どの ミトコン ドリアの内部構造 に
m2ょ り拘束 1
対照群で は水浸拘束前 の0.42±0.19″
アの膨 化 率 を比 較 す る と,対 照 群 で は 拘 束 1時 間 後
は拘束 1時 間後 137.8%,拘 束 2時 間後 162.2%と よ り
異常を認 めなか った。水浸拘束後経時的 に grade 2お
よび grade 3の占め る害J合が増 し,負 荷後 6時 間では
/。
, grade 3'43.8%
grade l:25。9%, grade 2 i 30,5°
実験的急性胃漬瘍発生におよぼす閉塞性黄疸 の影響
20(854)
Fig. 8 Variation of mitochondrial damage before
and 1,2,6 hour after water immersion stress in
control, jaundiced and billiary drained group.
grade 1 i normal. grade 2 i slight injured. grade
3 i severe injured.
control
lroup
jaundiced
group biliary
drained
group
ー
ロー エ 漱 罐 ■ ■
帥
ｍ
ｍ
％
︱︱
︲
同日︱
日︱日日日日日日日日日日易物ｈ
︱︱
ｈ
同日︱︱日日日日日日日日日日日日以Ｏ
０
０
ｈ
同期磯枚の
テ
敗一
一一一一一一一一一６
︱
︱
︱
ｈ
向門日日︱︱日︱日腸巖甑鍼笏物一２
︲
日日
賜惚ｈ
同
日
日
日
日日日日日日日日日
︲
︲
︲
︲
︲
︲
ｈ
日日
日
日
日
日
四Ｏ
︲
︲
同
日
日
日
日
日
︲
︲
︲
︱
︲
６
一
一
一
一
一
一
一
一ｈ
向
日
日
朗
椒
物
獣
笏
枷資
︲
︲
︱
︲
︱
︱
２
日日︱
日︱
日︱
日物︱
誡密ｈ
︱︲
︱︱︲
︱日︱
同日日︱︱
︲
︱︱︱日︱日︱夕ｈ
同日︱
日︱
日︱日︱︱日︲
ｈ
同門︱︱日日日日日︲日日日日日日口Ｏ
とな った 。一 方, 黄 痘群 では, 水 浸拘束前 は g r a d e l が
合 で あ った
9 8 . 9 % , g r a d e 2 が1 % と 対照群 と同様 の害」
が, 負 荷後 は対照群 に比 べ よ り g r a d e 2 お
よび g r a d e 3
の 占め る割合が大 き くな った。減黄群 で は, 負 荷前 は,
, grade 2: 1.8%と 対照群, 黄疸群 と
grade l:97.9°/。
の
で
同様 値 あ り,ま た,負 荷後 1時 間 では対照群,黄
痘群 の 中間 の値 を とった (Fig.8)。
III.考
察
これ まで 閉塞性黄疸 時 の急性潰瘍発生 につ いて教 室
日消外会誌 27巻
4号
デル,減 黄 モ デル として これ まで教室 で行 った実験 の
∼
場合。 11)と
同等 の モ デル と考 え られ る。電顕標本 の作
成法 につ いては,今 回採用 した浸漬 固定法 のほかに,
濯流 固定法 が あ るが,実 際 に コン トロール モ デル にお
いて灌流 固定 を行 った場合,粘 膜 固有層 お よび細 胞 間
が著 明 に開大 し,生 理的 な条件 での観察 に不 向 き と考
え浸 漬 固 定 法 を 採 用 した 。組 織 計 源」法 に つ い て は
1の
Weibelの 組 織 計 預J法 1の
を も と に し た が,pOint
ツ
こ文壬く予十
counting inethodよ りもよ り実測値 ″
預U可能 G
あ る半 自動 画像解析装置 を用 いた 。
黄 痘 の 目粘 膜 壁 細 胞 ミ トコ ン ドリア に対 す る影 響
は,今 回の検討 で は黄痘 2週 群 では ミ トコン ドリアが
小型化 し, ミ トコン ドリア数 お よび ク リス テ数 の増加
が認 め られ,ま た, 4週 群, 6週 群, 8週 群 では ミ ト
コン ドリアの膨 化,形 態異常 が 出現 した。黄痘 の 胃粘
膜 エ ネル ギ ー代謝 に及 ぼす影響 につ いては, これ まで
11)は 疸群 の 胃粘膜 ATP含 量 お よび
乾 らり,成 井 ら
,黄
エ ネル ギ ーチ ャー ジは ス トレス負荷前 には対照群 と差
は認 め な いが,ス トレス負荷 に よ り有意 に低下 し,減
黄 に よ り,対 照群 に近 く回復す る と報告 してい る。電
いとす る超徴形 態 の近年 におけ る急速 な進 歩 に
顕 を中″
よ り,細 胞 の エ ネル ギ ー代謝 につ いて ミ トヨン ドリア
の機能 と形態 が密接 に関連 づ け られて きて い るが1の
,
これ まで 胃粘膜細胞, と くに壁細胞 ミ トコン ドリアに
で は 胆管 結 紫 2週 目の ラ ッ トに 水 漫 拘 束 を 負荷 し,
対す る水浸拘束時 を含 んだ黄痘 の影響 を超微形態的 に
種 々の パ ラメー タにつ いて検 討 して い る。宮 川 ら的は
攻 撃 ・防 御 両 因子 の 指 標 と して 胃内 pHお よび 胃壁
検 討 した報 告 は著者 らの検索 で は見 うけ られ な い。黄
痘 の肝細胞 ミ トコン ドリアに対す る影 響 につ いては多
くの研究 が あ るが,小 山 ら10はラ ッ トを用 いて胆道 閉
塞期 間 と ミ トコン ドリア機能 を検討 し, ミ トコン ドリ
potential direrence(PD)を用 い,閉 塞性黄痘時 には
対照群 に比 べ攻撃 因子 には差 は ないが,防 御 因子 が さ
らに低 下す るため急性潰瘍 が発生 しやす くな る と報 告
してい る。また ,乾 らのは 同様 の実験 モ デルで 防御 因子
の低下 につ いて 胃粘膜 エ ネルギ ー代謝 が 閉塞性黄痘 時
は 胃粘
では水浸拘束 に よ り障害 され る こと,今 野 ら1い
アの無傷性を表 現す る呼吸調節 RC,ATP生
成量 とも
胆道閉塞期間 とともに低下 し, と くに 3週 以降 は対照
例 の40%に まで 障害 された と述 べ てい る。形態学的変
1り
は黄疸肝 ミ トコ ン ドリア
化 に つ いて は Takasanら
膜 血 流 の 低 下 が 黄 痘 群 で よ り著 明 で あ る こ と,成 井
ら11)は
減黄 に よ り胃粘膜血流 の低下 が抑制 され,同 時
エ
に ネ ル ギ ー代 謝 障 害 も改善 す る こ とを報 告 して い
の呼吸酵素量 と形 態的 な関係 につ いて,酸 素量 か らみ
て エ ネル ギ ー代謝 の代償 が行 われて い る肝 においては
る。
れ るが,代 償 が十 分 に行 えない状態 では ク リステ数 の
減少 と ミ トコン ドリアの膨化 が生 じる と述 べ てい る。
2い
JeZequelら は,閉 塞性 黄疸 患 者 の 肝 biopsyの 検 討
にて ミ トコン ドリア ク リステの surface densityが
増
ー
Pコ
ル
こ
い
ウ
加 して る とを認 め,ま た, タ
酸 に よる
そ こで今回 は,胃 粘膜 エ ネ ル ギ ー代謝 の大部分 を 占
め る と考 え られ る1。
.壁細胞 ミ トコン ドリアに注 目し,
その超微形態 を検討 し,閉 塞性黄疸 時 の急性漬瘍 発生
につ いて,そ の病態 を さ ぐった。
まず ,本 実験 に用 いた モ デ ル と方法 に関 して,実 験
モ デ ルの妥 当性 につ いてみ る と,実 験期 間中 の肝機能
の推移 につ いては,前 述 の ご とき成績 で あ り,黄 痘 モ
ク リステ数 の 増 加 と matrix densityの増 加 が 認 め ら
負荷 に よって も同様 の変化 がお こる と報告 して い る。
Yamauchiら 21)は
胆管結繁 ラ ッ トにつ いて,経 時的 に
7週 間,肝 組織 を電顕的 に観察 し, ミ トコン ドリアは
1994年4月
一 般 に膨化 しク リス テの curlingを め
認 ,そ の 数 と容
べ
が
積比 経時的 に増加す る と述 てい る。 また鈴 木 ら2の
は黄疸 2週 群 では対照肝 に比 べ , ミ トヨン ドリアの大
き さに不 均 一 性 が あ り著 明 に腫 大 した もの が あ る一
方,分 布 をみ る と全 体 として対照 よ り小 さい傾 向 がみ
られ ることを指 摘 してい る.今 回検討 した 胃粘膜壁細
胞 にお け る ミ トコン ドリアの変化 につ いては,黄 痘 2
21(855)
液上皮細胞 の分泌状態 を検討 した もので,壁 細胞 ミ ト
コン ドリアにつ いては,十 分 に検討 されていない.熱
傷 ス トレスにつ いては,鳥 居 3のは熱傷 負荷後 2時 間 で
ミ トコン ドリアの膨化 ,融 合,内 部 ク リステの破壊,
ミエ リン化 な ど低 機能 あ るいは無機能状態 を皇 し,ま
た ATP,エ ネ ル ギ ー チ ャー ジ も有 意 に減 少 した と述
べ てい る。北 島 ら31)は
,熱傷 ス トレス に よ り正常状態 で
週群 で ミ トコン ドリアが 小型化 し, ミ トコン ドリア数
お よび ク リステの増加 がみ られ,Takasanら 1い
,鈴 木
22jの
ら
肝 での報告 にみ られ るご と く黄痘時 には, 胃粘
観察 され なか った動 静脈 吻合 が 開大 し,粘 膜 血 流 の減
膜 において も細胞 内呼吸障害 が存在 し,黄痘 2週 で は,
い る。今回 の検 討 においては,対 照群,黄 痘群 とも水
漫拘束 時 ミ トコン ドリアの膨化, ク リス テの破壊, ミ
これ らに対す る代慣性 の変化 が生 じてい るもの と考 え
られた。 また,黄 痘期間 の延長 に伴 い膨 化 お よび ミト
コン ドリアの形態異常 が 出現 した こ とにつ いては,代
少 を まね くとして お り, この 胃粘膜 の微 小循環障害 が
細胞 の エ ネル ギ ー代謝 に直接的影響 を及ぼす と述 べ て
トコン ドリアの空胞化 が経時的 に進 行 したがその程 度
は黄疸群 で よ り高度 で あ った 。 この ことは, も とも と
償 が破綻 してい く形態的 な変化 と考 え られ,Takasan
21)の べ た肝 におけ る変化 と類
ら1り
,Yamauchiら
述
似
してい る。黄疸時 の ミ トコン ドリア機能障害 につ いて
は,黄疸肝 の分離肝細胞 を用 いた検討 で,黄痘
小 山 ら2り
ヨ
肝 ミ ト ン ドリアの機能低 下 の機序 は それ 自体 の障害
細胞 内呼吸障害 の存在す る黄疸群 において,水 浸拘束
よ りもむ しろ ミ トコン ドリアを と りま く環境 因子,す
なわ ち ビ リル ビン ・胆汁酸 な どに よる呼吸阻害 が主体
低下 が認 め られ る と報告 してい るが,今 回の ミ トコ ン
ドリアの形態的変化 につ いての成績 では,乾 ら。,成 井
ら1'の報告 を形態的 に支持す る結果 と考 え られた,
また ,減 黄操作 の影響 につ いては,拘 束 1時 間 につ
と考 え られ る こ とを指 摘 してい る。
次 に,減 黄 に よる影響 につ いて み る と,今 回の検 討
では ミ トコ ン ドリア数, ク リス テ数 ・ミ トコン ドリア
断面積 が す べ て 対 照 群 とほぼ 同様 の値 に回復 して い
た 。神 山 ら1カ
に よる と同様 の モ デルで黄疸 2週 群 の血
中総胆汁酸濃度 は対照 に比 べ 約 180倍,成井 らlDに よる
と血 中総 ビ リル ビン値 は約 70倍 と報告 されてい る。 さ
よる と,減黄時 の血 清 ビ リル ビンは 1
らに,成井 ら11)に
日目で5.4mg/dl,3日 目で1.6mg/dlと 急速 に改善 し,
に よる と血 中胆汁酸 は ビ リル ビン よ りも早期
村 田 ら2つ
に低下す る と述 べ られてい る。閉塞性黄痘 時 に血 中 に
が,酸 化的 リン酸
ゃ胆汁酸2の
増加す る ビ リル ビン292い
2の
化 の uncouplerであ る こと2"∼
を考 える と,黄痘 時 に
は 胃粘膜細胞 内呼吸障害 が存在 し,そ れ に対す る生 体
の代償 が行われ て ミ トヨ ン ドリアの形態変化 が生 じる
が,減 黄 に よ りその生体 環境 が 改善 す るに伴 って, ミ
トコン ドリアの形態変化 も急速 に正 常化す る もの と考
え られ る。
次 に,ス トレス負荷 時 の変化 をみ るために水浸 拘束
時 の 胃壁細胞 ミ トコン ドリアの変化 とそれ に及 ぼす黄
疸 お よび減黄 の影響 につ いて検討 した。 水浸拘束時 の
胃粘膜 の超徴形態 を検 討 した報告 は数少 な く,津村2ゆ
,
の報告 が あ るが,い ず れ も壁細胞,主 細胞,粘
大橋 ら2い
後 よ り早期 に細 胞 内呼吸障害 に対す る代償 が破綻 し,
ミトコン ドリアの傷害像 が 出現 しやす い もの と考 え ら
れ る.乾 ,成 井 は水浸拘束時の 胃粘膜 エ ネル ギ ー代謝
につ いて,対 照群 では変化 を認め な いが,黄 痘群 では
いての み しか検討 で きな か ったが,そ の成績 では黄痘
群 の拘束後 1時 間 で 認 め られた ミトコン ドリアの形 態
的変化 が減黄群 で は改善 され る ことが認 め られた.こ
の ことは減黄操作 が黄疸群 におけ る ス トレス負荷時 の
胃粘膜 エ ネ ル ギ ー代 謝 を改善 させ る もの と考 え られ
た,
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23(857)
1994年 4月
Influence
of Obstructive Jaundice on Experimental Acute Gastic Ulcer with
Electronmicroscopic
Study of Histometric Mitochondrial
Structures oI Gastic Mucosal Parietal Cells in Rats
Yoshio Matsuda, Iwao Sasaki, Yasuhiko Kamiyama, Yuji Funayama, Hiroo Naito and Seiki Matsuno
The First Department of Surgery, Tohoku University Schoolof Medicine
To determine the effect of obstructive jaundice on electronmicroscopicchangesof mitochondrial structures of
parietal cells during water-immersion restraint stress, male Sprague-Dawleyrats weighing about 200 g were used.
Experiment 1, control (sham operation),2-,4-,6-, and 8-weekjaundiced (bile duct ligation) rats and biliary drained
rats were used to study the effect of duration of jaundice. Experiment 2. 2-weekjaundiced rats and biliary drained
rats were used to study the effect of the stress on jaundice and biliary drainage. The number of crystae was
significantly higher in the 2-weekjaundiced group than in the control group. Fusion and deformity of mitochondria
were seenin the 4-, 6-, and 8-weekjaundiced groups. In the 2-weekjaundiced group, the mitochondria were restored
to normal by biliary drainage. Mitochondrial damage during the stress in the 2-week jaundiced group was more
severe than in the control group. These results indicate that an acute gastric mucosal lesion can easily occur in
obstructive jaundice owing to severedisturbance of energy metabolism,which is demonstratedby histometry of the
mitochondrial structure in parietal cells. Biliary drainage will protect this ulceration by reducing mitochondrial
damage.
Reprint requests:
Yoshio Matsuda The First Department of Surgery, Tohoku University Schoolof Medicine
1-1 Seiryocho,Aobaku, Sendai,980JAPAN
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