複式学級における社会科学習

弘前大学教育学部附属教育実践総合センター
11
研究員紀要 第 10 号(通号第 20 号):11 ~22(2012 年3月)
複式学級における社会科学習
複式学級における社会科学習
~3・4年生の社会科指導計画と学習を深める工夫~
- 3・4年生の社会科指導計画と学習を深める工夫 -
天内純一 弘前大学非常勤講師
弘前大学非常勤講師
天内純一
要旨
一本案をもとにして、見学・体験を取り入れて問題解決力を育成するための社会科
指導計画を作成した。二つの学年が同じ学習をするため学年差が生じるが、対処と
して一部を異内容にする折衷案とした。
[キーワード]
社会科学習
複式教育
1. はじめに
中学年の社会科は見学や体験を通して豊かな追究活動をすることが大切である。し
かし、複式学級ではそれらをあまりともなわず、教室で資料や文の読み取りに費やす
時間が多くなりがちである。それは教師が二つの学級を指導していることから生ずる。
これまでの実践例 2) 3)を調べてみると、中学年でも教科書や副読本を使い、二学年に異
内容の指導をするものが多い。また、担任が二つの学級を指導できず、他の教師(教
頭先生など)の力を借りて、単式学級の形を取っている例も多い。これでは複式の五
つの課題(後述)に対処できない。また、社会科本来の目標である問題解決力の育成
が弱い。
そこで、子どもに学習課題をしっかりと把握させ、主体的に追究活動がなされるよ
うな指導計画や指導方法を提案する。
2. 研究内容
(1)複式学級3・4年生の社会科指導計画を立てる。
(2)学習を深める工夫点を考える。
3.社会科学習の特性と問題
小学校の場合、社会科は他の教科に比べて次のような特性がある。
それは、目標が追究活動のできる子を育てることである。調べ方がわかる子、自分
で調べる(「資料読解力を含む)ことのできる子の育成するため、知識・理解よりも問
題解決力を重視する。また見学、観察、調査活動を大切にするということである。
これまでの実践例を調べてみると、中学年複式の場合、以下のような問題がある。
(1)見学・体験・調査活動の不足
(2)同単元同内容指導とした場合、3年生が年度初めから「市のまわり」を学習したり、
「火事からくらしを守る」の学習をしたりすることになる。
(3)みがき合い・高め合う場の不足
原因として、次のことが挙げられる。
12
天内 純一
(1)単式化を図り、3・4年を分離して指導している学級が多い。そのため、学習の進
度に合わせた見学が実施されない。例えば3年生は「市のまわり」を学習し、4年
生は「火事からくらしを守る」の学習をしている場合、別々に見学をすることが難
しいので3・4年一緒の見学となる(市のまわりと消防署など)。そうすると、どち
らの学年も現在学習していない施設をもう一つ見学せざるを得ない。特に3年生に
とっては「消防署の見学」は学習と直接関わらないので、問題解決のための見学と
いうより物見遊山的な見学になりがちである。
それでは、3・4年が別々に見学に出かけることが可能かといえば、引率教員、
居残りの学年の指導を考えると実際上無理がある。現状はこのような課題を抱えて
いる。その他、年間を通して体験や調査活動を数多くさせたいと考えても、異なる
学習をしているために問題解決に直接関わらない形で行われたり、縮小されて行わ
れたりすることが多い。
(2)3・4年生を同単元同内容で指導する方法として一本案と二本案がある。学習内容
を A 年度B年度に分け、二年間で学習を終えるものである。この例として青森県内
に広く使用されている東京書籍の指導書に指導計画例が掲載されている。これによ
れば、3年生は一本案と二本案とも「学校のまわり」の学習をせずに次単元の学習
から入っている。時間数の不足と同じ学習が二度繰り返される無駄を省くためであ
る。
しかし、3年生は生活科を経験して初めて社会科の学習に入るのである。自分たち
の学校のまわりを(社会科の目標を持って)調査したり、地図に表したりする学習
から始めないと実態に合わないことになる。
(3)複式学級の子どもの数は少ない。みがき合わせ、高め合させるためにはある程度の
人数が必要である。自分の考えを持ち、他との関わりの中で思考力・判断力を育て
ていくことを重視したい。
ところで、多人数の単式学級で話し合いが活発に行われるかと言えば、必ずしも
そうとは限らない。一斉授業では一人の子どもが意見を発表する回数は限られてく
る。また、グループ発表をさせた場合、グループの数が多いので質疑にかける時間
も限定される。それに対して複式・少人数の学級では、子どもの発表回数も多く、
グループ発表についても十分すぎるほど時間を確保することができる。
4
複式社会科学習の果たす役割
複式教育の課題としてへき地複式ハンドブック 2)に次のようにあげられている。
1.刺激の少ない単調な生活や家庭的な雰囲気の学校生活を反映し、依頼心が強く、積極性、
計画性が乏しい。
2.語彙に乏しく表現力が不足しており、発表意欲が低調。
3.思考や発想の多様性、論理性が不足。
4.集中力や決断力が弱く、学習意欲や学習技能が不足。
5.観察力に乏しく感動や疑問を持つことがすくないため、学習の深まりや発展をあまり期待
できない。
これらの課題は各教科の学習によって解決されなければならないが、学習の中に問
題解決を取り入れるという特質から、社会科学習に大きな期待が寄せられる。問題解
決学習を通して次のような能力が高められる。問題発見の技能、調査技能、考える技
能、話し合い・高め合う技能、発表・発信の技能である。これらは前記した課題であ
る、積極性・計画性の希薄、学習意欲・技能の不足、思考・判断力の不足を補う役割
を果たす。
複式学級における社会科学習
5
複式学級の社会科指導計画
5-1
指導計画作成にあたって
作成にあたって前述した問題点の解消と「社会科学習の果たす役割」を達成するた
め、重視する点を次の4点とした。
①同単元同内容指導とした場合の問題点の解消
②問題解決力育成と二学年によるみがき合いの場の確保
③見学体験重視・調査活動重視
④発信の場の確保 、総合的な学習・学校行事等との関連を図る
5-2
複式学級の社会科指導計画の類型
複式学級における社会科の指導法として、主として次の三つの方法がある。
(1)異単元指導
表1 異単元指導の例
担任は二つの学習の教材研究をする。わた
A年度、B年度の区別なし
3 年 生 は 3 年 生 4 年 生 は 4 年 生 りやずらしを効果的に行い、二つの学年に異
なる単元を同時に指導する。複式学級に多く
の学習をする。
の学習をする。
みられる一般的な指導法である。 へき地・複
(3・4 下巻 )
(3・4 上巻 )
式教育ハンドブックに指導例と して、第5学年
「わたしたちの国土と環境」第6学年「わたしたちの生活と政治」が掲載されている。
担任の多忙化に対処法するため、教務・教頭等が授業に入り、担任はどちらか一方の
学年のみを指導するという方法をとっている学校もある。
(2) 同単元同内容指導
①一本案(繰り返し案)
表2 一本案の例
A年度に3年生、B年度に4年生を指導し、2
年間で2年分の学習が終了する。3・4年それ
3年生の学習
4年生の学習
ぞれの教材を同じ領域・分野・ジャンルで単元
をする。
をする。
を構成し、可能な限り、共通指導場面(同単元
類似内容等)を多く設定し、同じような学習内容を展開させる。
A年度
B年度
②二本案(A・B年度案)
表3 二本案の例
A年度
B年度
3年生(1)-①
3年生(1)-②
3年生(2)
3年生(3)
4年生(1)
4年生(2)
4年生(3)-①
4年生(3)-②
一本案と同じように、2年間で学習するが、3・
4年の教材を2年間にわたって、領域、分野、
ジャンル等が平均的になるように配分する。そ
して、3・4年同時に、同じ指導内容を同じ目
標のもとに同じ程度に指導する。
13
14
天内 純一
(3)折衷案
同単元指導一本案を主体に、一部二本案を取り入れて作成した指導計画、または同
単元指導二本案を主体に、一部一本案を取り入れて作成した指導計画である。
5-3
社会科指導計画例
これまでに述べてきたことをもとに、次のような指導計画を立てた。
A年度
3年
学校のまわり
市の様子
店ではたらく人
農家の仕事
古い道具と昔のくらし
のこしたいもの、つたえたいもの
合
計
B年度
3年
学校のまわり
市の様子
火事からくらしを守る
事故や事件からくらしを守る
水はどこから
ごみのしょりと利用
時数
12
10
14
11
9
8
64
4年
学校のまわり
市の様子・わたしたちの県
店ではたらく人
農家の仕事
古い道具と昔のくらし
のこしたいもの、つたえたいもの
わたしたちの県
合
計
時数
6
10
14
11
9
8
25
83
4年
時数
学校のまわり
6
市の様子・わたしたちの県
10
火事からくらしを守る
9
事故や事件からくらしを守る
8
水はどこから
14
ごみのしょりと利用
14
きょう土をひらく
13
合
計
67
合
計
74
※残った時間を学習の導入やまとめ、発展、評価テストなどにあて、3年は 70 時間、
4年は 85 時間、計 155 時間とする。
学校のまわり、市のようすをA年度もB年度も二回行うのが大きな特徴である。
(そ
の内容が二学年では異なることは項を変えて述べる。)また、時数の関係で二学年が同
時に学習できない時間帯が生ずるが、その時に「私たちの県」
「郷土を開く」の単元の
学習を行うこととする。
5-4
時数
12
10
9
8
14
14
問題解決力育成を重視
(1)単元の導入で子どもに問題意識を持たせることが何より大切である。そこで、以下
に問題意識を持たせるための例を述べる。
①学校のまわり
前の3年生が作った地図を見て、4年生(前の3年生)にいろいろ質問してみよ
う。
(地図の説明とともに、うまく描けていないところや反省なども4年生に発表
させる。)
複式学級における社会科学習
15
学校のまわりを探検して地図を作ろう
②市の様子
「学校のまわり」と同様にする。前の3年生が作った地図を見て、4年生(前の
3年生)にいろいろ質問してみよう。
(地図の説明とともに、うまく描けていないところや反省なども4年生に発表さ
せる。)
平川市を探検して地図を作ろう
③店ではたらく人
平川市の大型スーパーの売り場の写真を見ながら考えさせる。
(プロジェクターを
使って拡大する。)
「先生が買ってきた○○(実物提示)は、この売り場のどこにあったのでしょう。
いろいろ予想を話し合う。
スーパーを探検して、どこにあったのか、そのわけも調べよう。
※その他、スーパーに関連したクイズをいくつか出し予想させる。それを確かめ
るために見学させる。
(例・お客さんがたくさんやってくる訳をスーパーの人は
何だと考えているか。・朝何時に出勤しているか。・働いている人の数は?)
④農家の仕事
小国でとれた野菜は関東地方にも運ばれていくことを社会科副読本で調べさせる。
インタビューして小国の野菜が県外に運ばれるわけを調べよう。
・わけ
・苦労していることなど
⑤昔のくらし
平川郷土資料館から借りてきた昔の道具を見せる。東京書籍の教科書「昔のくら
し の 絵 」 の ど こ に あ る か 考 え さ せ る 。( プ ロ ジ ェ ク タ ー を 使 っ て 拡 大 し て 提 示 す
る。)
いろいろな昔の道具の使い道やくらしを調べよう
⑥のこしたいもの、伝えたいもの(猿賀の祭り・関所祭り等)
平川市に昔からある建物や祭りを考えさせる。社会科副読本で調べさせる。
猿賀小学校、碇ヶ関小学校の子どもや先生に聞いてみよう
⑦火事からくらしを守る
平賀の大火の写真や資料、現在の火災資料から学習問題を作り、学習計画を立て
る。
最近、平賀大火のような大きな火事がおこっていないのはなぜだろう
16
天内 純一
※この「火事からくらしをまもる」の単元構成と平賀大火の資料を巻末の付録に
掲載した。( 付 録 1 )
⑧事故や事件からくらしを守る
小国にやってくる警察官の人の服装・持っているもの等を予想させる。
巡回でやってきたお巡りさんにお話を伺って調べよう。
※警察の方に学習時に合わせて来校していただく。事前の打ち合わせが必要であ
る。
⑨水はどこから
濁った水(大水の日)を見せる→「本当にこれが飲めるようになるのか?」「どのよ
うにしてきれいになる?」
浄水場を見学して調べよう。
飲める水にするための努力
危険な水になったらどうするか
図1
大水の日と普段の小国川の水
水道管はどこを通って学校や家まできているのだろう。
※平川市東部地区(小国地区を含む)の場合は簡易水道であるが、その仕組みや
経路に気付いていない。
⑩ごみのしょりと利用
給食の残菜を調べる。
給食の残採はどうなるのだろう?
・埋め立て ・家畜のえさ ・それとも・・
いろいろ予想を話し合わせた後確かめさせる。
清掃車の人に質問したり、清掃工場を見学したりして調べよう。
⑪きょう土をひらく
リンゴ畑のある所を調べよう。
平川市のリンゴ作りはどのようにしてさかんになったのかな?
※平川市の社会科副読本で調べ、よくわからないところを竹館小学校の子どもや
先生に質問する。
※ 小国の水路橋についても合わせて学習する。
複式学級における社会科学習
5-5
見学体験重視・調査活動重視
問題を意識した子どもたちに追究活動をさせる場合、実際に見学させたり体験させ
たりしながら調査させる活動は欠かせない。例えば前記の学習の例では、学区・市の
探検、スーパー・商店街の見学、農家の人へのインタビュー、電話やインターネット
を使った問い合わせ・交流、消防署・浄水場の見学、お巡りさんへのインタビュー等
である。これらを複式の異単元指導で行うのは適切ではない。一つの学年が見学、一
方は学校に残って別な学習ということになり、学習が深まらない。このように考える
と、一本案を基本とした折衷案が適切であるということがわかる。
ところで、二つの学年が一緒に見学する場合、学校のまわり・市のようすの学習を
どうするかということが問題である。これをA年度に入れてしまうと、B年度の三年
生は、学校のまわりや市のようすを学習しないまま、「火事からくらしをまもる」の
学習に入ることになる。一段上の学習がいきなり始まるわけである。この点に対処す
るため、B年度でも学校のまわり・市のようすの学習を行うことにする。
その場合、前年既習している4年生はどうするか。4年生は「私たちの県」の学習
を控えているので、学区や市を県と関連付けて学習すれば良い。(時数の関係で3年
生で全く同じ学習をする余裕はない。)
その場合の留意点を以下に書く。
(1)学校のまわり
3年生と一緒に探検しながら、学区に隣接しているものやその先についても調べ
させる。「3年生の時に作った地図の『続き』を調べよう。」という学習問題を持た
せるのである。そして、道路標識や案内板をもとに調べさせ、地図で確かめさせる。
調べてわかる例として、
①学区にある二つのゴルフ場に他市町村からお客さんが来る。
②国道が山地を越え、大鰐町に続いている。
③国道102号線は国立公園・十和田湖に向かっている。
④小国川が浅瀬石川となり、津軽平野に流れる。
などがある。
(2)市のようす
同様に「3年生の時に作った地図の『続き』を調べよう。」という学習問題で調べ
させる。調べてわかる例として、
①弘南鉄道は黒石市と弘前市を結んでいる。
②高速道路は青森市から平川市を通り、秋田・岩手県に向かっている。
③平川市の水田は津軽平野の中でも広い面積を占めている。
④市を流れる平川はいくつもの市町村を通っている。
などがある。
(3) 市内循環バスを利用した市内探検
平川市には市全体を把握するには便利な市内循環のバスが走っている。これに乗
車して市のようすをとらえさせるのだが、地図を手にして、バスが走っているコー
17
18
天内 純一
ス、自分が降り立っている場所を確実に把握させることが大切である。留意点とし
て、
① まず大きな地図を持
参すること。
② 地図を何枚も用意し、
自由に書き込みが出
来るようにする。思い
つくまま、見たこと、
思ったこと、気がつい
たこと、疑問などを多
彩に書かせる。
写真 1
市内循環バス
③学習は総合的なものである。社会科の学習に関わるかどうかは、その場で判断せ
ず、ともかく幅広く、たくさん書き込みさせることを目的とする。その中から、
一人学習(編集作業など)、集団学習(話し合いや共同作業など)を通して、集
約・精選していくのである。
5-6
二学年によるみがき合いの場の確保
二つの学年のみがき合いの場として、「学校のまわり・市のようす」では、4年生
は前年に学習したことを3年生に説明する。それによって、昨年の学習の振り返りが
なされ、学習に連続性が保たれる。また、3年生にとっては学習の方向性がある程度
把握できる。
ただ、ここで注意すべきことは、3年生が前年と同じような経路を探検し、同じよ
うな地図を作って良しとしてしまうことである。それを回避するためには、4年生に
「私たちの地図にはこんな点が入っていない、こうするべきであった。」というよう
なアドバイスを入れながら発表してもらうことが必要である。
また、その他のいろいろな学習でも二学年でのみがき合いの場を設定するが、その
場合、どうしても4年生の発言力が3年生を圧倒してしまうことがある。対処法とし
て、発表を一斉指導の中で行うのではなく、ジグソー学習方法などを取り入れるのも
効果がある。 4)
5-7
発信の場の確保 、総合的な学習・学校行事等との関連を図る
社会科の時間は3年 70 時間、4年 85 時間、計 155 時間である。この時間だけでは
いろいろな見学を取り入れることはできない。そこで、総合的な学習の時間と合わせ
て計画する。例えば、後述するようにパソコンに記録した画像の処理、発信のための
ホームページづくりなどである。また、学校行事として社会科見学を計画し、集団行
動による調査活動を実施し、その中で特別活動の目標達成も行う。
複式学級における社会科学習
19
6 学習を深める工夫
重複する部分があるが、これまで述べてきたことに追加して、学習を深める工夫に
ついて述べる。
6-1
学習問題を持たせるために
問題解決力を育成するためには、まず、
「問題ありき」である。学習問題が子どもに
意識されることが最も重要である。そのための教師の工夫を 5-4 で述べた。まとめる
と次のようになる。
(1)学習の連続性を保たせるために資料や児童の作品を保管する。
複式の少人数の場合、教室内に保管場所の余裕がある。教室もある程度固定してい
るので物品を引き継ぎやすい。これらの利点を生かして、学習に使ったものや資料、
作り上げた地図をはじめとする数々の作品を保管し次年度の学習に役立てる。
(2)教材の準備と教材提示の工夫をする。
スーパーに有った物、大水の時の小国川の水、平川郷土館から借り受ける昔の道具
など。これらをただ提示するのではなく、子どもとのタイミングを計りながら、問題
を持たせるように提示して興味を持たせるのである。教育技術の練磨が求められる。
昔の道具・つば釜などを子どもは何に使うかもよくわからないので、初めにその使
用目的を聞いてみてもよい。また、スーパーの見学前に納豆は何種類あるのかなど、
クイズを出してその正解を実際にスーパーで調べさせるという方法も考えられる。
(3)関係者との打ち合わせを密にする。
社会科副読本に資料を載せている先生、取上げられている学校の子どもたち、また、
インタビューする農家の人、お巡りさんなどに、学習者が突然質問しても答えられな
いことが多い。学習のねらいや調査内容を伝えて置くことが大切である。場合によっ
て、児童への話し方、分かりやすい内容などついて細かなアドバイスをする必要もあ
る。
また、見学にあたっては、子どもの実態、調べたいことは何か、焦点を絞って伝え
ておかないと物見遊山のような見学になってしまう。例えば清掃工場に見学に行って
担当の方にいろいろ説明して戴くのだが、子どもが最も知りたいと思っていることで
はなく、通り一遍の説明に終始することがある。時間が無駄だというだけでなく、子
どもの関心を奪ってしまうことになりかねない。説明の前に子どもが知りたいことを
しっかり出させなくてはならない。それらを中心に説明して戴くことが大切である。
6-2
調査技能の習得
問題解決のための調査技能は社会科だけでなく、各教科・総合的な学習の時間など
学習活動全体を通して培っていくべきものである。調査技能には次のようなものがあ
る。
(1) 調べる方法を考える。
①直接聞く ②電話 ③メール ④インターネット ⑤録画など
⑥教科書・地図・資料集 ⑦その他
(2)電話のかけ方・インタビューの仕方を習得する。
箇条書きにしたメモをもとに要点を押さえて、話したり質問したりする。
(3)伺った話を、要点を押さえて記録する。
20
天内 純一
(4)文や資料を的確に読み取る。文や資料から思考し判断する。
(5)映像(デジカメ)に大事な場面を記録する。
これらを教師が常に意識し、子どもに考えさせ、身に付けさせるようにしていく必
要がある。
6-3
グループ発表などによる学習の連続
学級の人数が多いとグループの数も多く、全部のグループの発表に時間がかかる。
しかし、複式・少人数の学級では発表回数が少ないので、一つの発表に時間をたくさ
んかけることができる。そこで、隣接学年の発表を聞き合い、質疑・意見交流をする
ことによって下学年は学習の見通しを持つことができる。同時に上学年は1年前の学
習を振り返ったり、学習の発展を考えたりすることができる。
社会科の学習は小学校の4年間を通して「連続」することになっているが次の学年
に進んだ時、前年度の学習内容は忘れられてしまい、連続性を保てないことが多いの
が実情である。両学年からの発表を通した交流はこの課題解決のために有効である。
6-4
デジカメ、パソコンを一人一台利用できる
少人数学級の利点の一つとして、デジカメやパソコンの数が人数に比して多い。こ
れを活用して子どもの学習を深める。地図作り、調査結果、見学してわかったことの
記録にパソコンやデジカメを活用させる。一人ひとりに自分の考えを持たせ、自分の
記録・自分のまとめをさせるのである。
また、発信にあたっても自分の考えを前面に出したホームページを作成させる。な
お、ホームページ作成にあたっては3年生は教師の指導を全面的に入れ、作成された
画面も一般公開せず、交流相手にメールで送るという方法を考える。
7
まとめと今後の課題
複式の社会科指導計画とそれに関わる学習活動を深める工夫について述べてきた。
見学・体験を中心にした折衷案による指導計画が中学年の実態に合っていると思われ
る。実践できる場があれば是非検証してみたい。
また5・6年の複式社会科について指導計画を立てる機会があれば取り組んでみた
い。
参考・引用文献
1)平成 17・18 年度指導資料集第 33 集(2008); へき地・複式教育ハンドブック(一般編),青森
2)平成 19・20 年度指導資料集第 34 集(2009);へき地・複式教育ハンドブック(事例編)
3)平成 21・22 年度指導資料集第 35 集(2009);へき地・複式教育ハンドブック(授業実践編)
4)天内純一:学習意欲を高める学習形態の開発-ジグソー学習と社会科学習-,
弘前大学教育学部・附属教育実践センター研究員紀要第5号,2007.
5)小学校複式学級指導資料(平成 6 年);文部省,教育出版
6)小学校学習指導要領
7)有馬毅一郎(2002);へき地・複式教育の基礎的研究 - 社会科を中心に -, 黒潮社
複式学級における社会科学習
8)全国へき地教育連盟;http://www4.ocn.ne.jp/~x59y91/
10)北海道へき地・複式教育研究連盟;http://hekiken.kus.hokkyodai.ac.jp/dofukuren/index.htm
11)平成22年度小国小学校研究集録(2010);小国小学校
12)平成22年度第 46 回南地方へき地・複式教育研究会開催要項・公開授業学習指導案(2010);南地
方へき地・複式教育研究会
13)平成22年度研究紀要第 24 号(2010);南地方へき地・複式教育研究会
14)平成22年度研究紀要(2010);青森県へき地・複式教育研究会
15)平成23年度版「新しい社会」複式学級用指導計画;東京書籍,
http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/shou/keikaku/syakai.html#book5
16)東奥日報朝刊 昭和 31 年 5 月 11 日・5 月 12 日版:東奥日報社
付録 1「災害からくらしを守る」単元構成
()は時数
1.平賀の大火の写真や資料、現在の火災資料から学習問題をつくり学習計画を立てる。
(1)
最近、平賀大火のような大きな火事がおこっていないのはなぜだろう
予想 ・消防署人たちの道具が良くなった。 消防団がある。
・連らくが速くなった。
・水がある。
(水道の発達)
・建物が燃えにくくなった。
・その他
予想をもとに学習計画を立てる。
2.消防署を見学して消防署の仕事について調べ、大火事がおこらないわけを考える。(4)
・消防自動車 ・勤務時間 ・防火服や道具 ・その他
・病院
・警察
・ガス会社
・電力会社
3.まちの消防施設や、消防団の組織・活動を調べる。(1)
4.大火事がおこっていないわけをまとめる。
(1)
最近、平賀大火のような大きな火事がおこっていないのは、
①消防署の人たちの努力がある。 消防団や地域の人々の努力がある。
②連らく体制がしっかりしている
③消防しせつがしっかりしている
④建物が燃えにくくなった。
⑤その他
※火事をおこさないために自分にできることを考える。
5.大火事がおこったら、避難場所として学校がどうなるのか調べる。(1)
・避難場所の指定 ・連らく体制
・役場の人のはたらき
・備蓄倉庫
・物資の運送
・学校の先生
・子どもたち
・その他
21
天内 純一
22
平 賀 町( 現 在 平 川 市 )の 大 火
小学校学習指導要領第1章 総則 第2 内容等の取扱いに関する共通的事項5
に、
「学校において2以上の学年の児童で編成する学級について特に必要がある場合に
は、各教科、道徳、外国語活動及び特別活動の目標の達成に支障のない範囲内で、各
教科、道徳、外国語活動及び特別活動の目標及び内容について学年別の順序によらな
いことができる。」と示されている。
また、社会科中学年の目標及び内容は「第3学年及び第4学年」として示されてい
る。これは地域や児童の実態に合わせて、学習内容の順序を変えて指導してよいとい
うことである。
昭和三十一年五月十一日 午後八時
平賀町本町Sさん方の作業小屋から出火
弘南鉄道平賀駅前十字路から駅前商店街を
北へ燃え広がり、平賀町農協、柏木農業高校
旧校舎などをふくむ、約百二十棟、七十三世
帯を焼き午後十一時ようやく鎮火した。
はじめ、約二キロメートルはなれた平田地
区まで火の粉が飛び、地元の消防団が警戒し
たが、八時三十分頃から風向きがかわり、柏
木高校新校舎、弘南鉄道本社があぶなくなっ
た。
風下だからと安心していた本町通りの人々
は突然火の粉に見舞われてしまった。柏木高
校旧校舎に火がついたのは九時頃であった。
かけつけた柏木高校の生徒達が、応援旗をた
てて校具や教材を一生懸命運び出していた。
柏木高校は校舎を新築中だが、新校舎はまだ
一棟しかよりなく、現在使用中の校舎がほと
んど焼失。校長宅も消失した。弘南鉄道本社
はモルタルづくりのため、火が燃え移らなか
った。
火事が大きくなった原因として、下水掃除
のため、現場付近の小川やため池などの水が
少なく、水利の便が悪かったことがあげられ
る。水がないので、自然に火がおさまるのを
待つしかなかった。
付近の市町村から消防車七十台余りがかけ
つ け た 。水 が な い の で ど う し よ う も な か っ た 。
平 賀 町 農 協 で は 、保 管 中 の 政 府 米 六 千 俵( 二
千 四 百 万 円 )な ら び に カ マ ス 八 万 点 が 焼 け た 。
消防団と一般の方二名が重傷。被害額は二億
円にのぼった。
(東奥日報の記事を参考にしました)
複式独自の指導計画作成の法的な根拠