食物アレルギーを食べて治す

No.116
No.116(平成 22 年 1 月号)
事務局:林薬局 (大垣市長松町)
TEL:(0584)91-8077
FAX:(0584)91-8153
食物アレルギーを食べて治す
患児をアナフィラキシーのリスクから解放
原因食物を食べさせて耐性を誘導する免疫療法が注目されている。国内で
も複数の臨床研究の結果が発表され、普及に期待が高まる。ただし、方法や
対象患者の基準、メカニズムの解明など課題も多い。
食物アレルギーの患児に、原因食物を徐々に増量しながら食べさせて耐性
を誘導する経口免疫療法が注目を集めている。一般的に食物アレルギーの患
児は、3 歳までに半数が小学校入学までに 90%が自然に耐性を獲得し、原因食
物を食べられるようになる。しかし、残りの多くは原因食物を接種するとアナフィ
ラキシーを起こすような重度の食物アレルギーで、小学校入学後もひたすら除
去を続けるしかなかった。
ところが、数年前から国内外で経口免疫療法の有効性を示す論文がなど発
表され始めた。国内でも複数の病院が臨床研究を実施中だ。
国立病院機構相模原病院・臨床研究センターアレルギー性疾患研究部長蛯
原澤元宏氏は、「重度の食物アレルギーの患児が、誤食の恐怖から解放される
恩恵は大きい」と話す。
■入院させて短期間で増
量
国内で積極的に臨床研究
を進めているのが神奈川県
立こども医療センターだ。同
センターは 07 年 9 月から重
度の卵アレルギーの患児に対し、入院の上短期間で原因食物の摂取量を増や
して耐性を誘導する経口免疫療法を行っている。これまでに 5 歳以上の患児 12
例全例が 20 日以内に加熱卵 1 個を食べられるようになった。
同センターの方法は先ず、乾燥卵白粉末を混ぜた飲料と混ぜていない飲料
を使って二重盲検の負荷試験を行い、症状が出る閾値を決定。閾値以下の量
から毎回 1.2~1.5 倍ずつ漸増した乾燥卵白粉末を、1 日 5 回を目標に摂取させ
る。摂取量が 1 g(加熱卵(スクランブルエッグ)に変更。その後も加熱卵 1 個
(60g)に達するまで増量し続ける。アレルギー症状が出た際は、必要に応じて治
療。退院後は、加熱卵 1 個を週に 2 回以上食べ続ける維持療法を行う。
ちなみに 12 例は治療中、一人当たり平均 53.3 回卵を摂取したが、発症したア
レルギー症状は軽度が中心であった。具体的には、局所の皮膚症状や口腔内
違和感・軽微は呼吸器疾患など、広範囲にわたる皮膚症状・腹痛・下痢などの
消化器症状、全身性の皮膚症状や強度の消化器症状・呼吸困難などが 0.17 回。
これらの症状に対して行った治療は抗ヒスタミンの内服や β2 アゴニストの吸入
がほとんど。アナフィラキシーなど、エピペンを要するような重篤な症状は起きな
かった。
全例とも経過は良好だ。同センターでは、ピーナッツや小麦に重度の食物アレ
ルギーを持つ患児に対しても同様の経口免疫療法を実施しているほか、今後牛
乳についても行う計画だ。
■家族の不安でドロ
ップアウトする例も
あいち小児保健医療
総合センターでは負荷
試 験 を 行 い 、 1ml 以 下
(累計 1.8ml)で症状が
出た重度の牛乳アレル
ギーの患児 11 例に外来で経口免疫療法を実施した。自宅で毎日 1 回摂取し、1
~2 週間ごとに 1.5 倍ずつ摂取量を増やした。
しかし、皮膚の発赤や咳など軽いアレルギー症状に家族が不安を抱き、 4 例
が脱落。7 例は治療を継続しているが、10ml まで摂取できるようになった患児の
中には、運動後に呼吸困難や喘鳴、全身紅斑などの症状を呈する症例もあった。
「重度の食物アレルギーの患児に対し、この方法では家族の不安や負担が大き
かった。短期間で安全に治療するためには、入院の方が望ましいだろう」と同セ
ンターアレルギー科医長の伊藤浩明氏は話す。
■対象患児の基準など課題も
経口免疫療法は、その有効性が臨床研究でやっと示された段階。治療法とし
て確立するためには、耐性が誘導されるメカニズムの解明、どの原因食物でも
免疫療法が有効なのか?どのような症例であれば外来で実施できるのかといっ
た検討が不可欠である。 -出典は日経メディカル 2009.12-
原稿及び質問に対する答え・意見など FAX をお待ちしています。
…………担当:高田理恵