No.105 号(平成 20 年 3 月号) 注射前のアルコール消毒(必要なのは

No.105 号(平成 20 年 3 月号)
事務局:林 薬 局 (大垣市長松町)
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注射前のアルコール消毒(必要なのは関節注か体内留置するとき)
注射や採血の前に、アルコール綿で皮膚をゴシゴシと消毒する--。
「この行為には、全く根拠がない。むしろ、多くの医師は意味がないと感じなが
ら、慣習によって続けているだけではないか。米国の糖尿病患者が服の上か
らインシュリン注射をしても、なんか問題になっていない現状を考えれば、納得
できる。
アルコール消毒に根拠がない理由は、皮膚表面と体内の環境の違いにある。
正常な皮膚の上には、常在菌が定着している。常在菌は皮脂を栄養源として
おり、その代謝産物としてパルミチン酸やステアリン酸などを生成し、それによ
って皮膚表面はpH5.5 の弱酸性に保たれる。一方で、体内はpH7.4 の中性環
境。
「皮膚常在菌が生存できるのはpH5.5 の環境。pH7.4 の環境下では生存でき
ない。
逆に、黄色ブドウ球菌など、pH7.4 の体内で増殖する菌は、弱酸性の皮膚の
上では外部から通過菌として付着し、休眠状態で張り付いているのがやっと、
健常な皮膚の上では、感染を成立させるまで増殖することはない。
められなかった。「04 年から、採血の際もアルコール綿・水道水綿、若しくは拭か
ないと言う 3 つの選択肢から好きなように選んでもらっているが、全く感染は起き
ていない。ただし、実施には、丁寧な説明が必要である。
風邪の予防にヨードうがい。「水道水では効果があるのに…」
プライマリーケアの現場で、風邪予防として患者にうがいを奨励するケースは
多い。院内感染の予防のため、調剤時間が終わった後などに自らうがいをす
る人も多いのではないか。だが、ヨード液を薄めてうがいをしても、風邪の予防
にはならないことが明らかになった。2002 年から 2003 年の冬にかけて 387 人
に対して、「水うがい群」「ヨードうがい群」「うがい介入無し群」の 3 つ割り付け
て。2 ヶ月間追跡調査した。結果、うがい励行の介入をしなかった軍と比較し
て、水うがい群では、風邪の発症者が 40%減少した(ハザード比 0.6)に対し
て、ヨードうがい群では、有意差がなかった。
■入る菌は僅か数個
では、このような通過菌が注射によって体内に入り込み、感染を引き起こすこ
とはないのだろうか。針の表面積などから、注射によって体内に持ち込まれる菌
の数を推計する。また、針は注射が終わればヌキさるため、菌は直ぐに体内の
免疫細胞に攻撃されてします。
もちろん、注射前に皮膚に念入りに消毒すべき場合もある。血管カテーテル
や点滴など、感染源となる異物を体内に留置するとき、もしくは関節に注射する
ときだ。関節腔は本来無菌状態が保たれており、外部からの感染に弱い。
■ヨードは常在菌叢を破壊?
そもそも、うがいという行為自体が有効なのか?以前から疑いの目は向けら
れていた。ウィルスは感染時、強固に細胞の受容体と結合する。そして 30 分程
度で細胞内に進入・増殖段階にはいるため、いくら帰宅後にうがい液で粘膜表
面からウィルスを洗い流したとしても、その効果は限定的だと考えられるから
だ。
しかし、ハウスダスト由来のプロテアーゼがインフルエンザウィスルの感染を
促進するという報告があり、うがいによってウィスルを洗い流しさるのではなく、
感染を促進するプロテアーゼを洗い流している可能性がある。
一方、水道水で効果がありながら、ヨード液で効果が無くなったことに対して
は、ヨード液が粘膜の常在細菌叢を破壊したためか?粘膜を構成する細胞が傷
害され、水道水と比べて感染が成立しやすくなったのではないかと考察できる。
うがいの歴史を辿ると室町時代の文献に記述があるほど古来からの文化で、
語源は、長良川の「鵜飼」。日本固有の風習で米国や韓国ですら行われていな
い。「この試験結果から、今度は、風邪予防のためにうがいをしなさいと、日本
の文化として自信を持ってアドバイスすることができる。」
(文責:田丸)参考:日経メディカル
■ランダム化試験も実施
実は、注射前のアルコール消毒が本当に必要かどうか?ダブルブラインドラ
ンダム化試験で厳密に検討した研究が存在する。それは、2003 年、インフルエ
ンザの予防接種の際に、673 人をアルコール綿で拭く群と蒸留水綿で拭く群に
割り付け、注射による皮膚感染の有無を比較した。摂取二日後若しくは三日後
に摂取部位を確認した結果、アルコール綿群・蒸留水群ともに、1 例の感染は認
原稿及び質問に対する答え・意見など FAX をお待ちしています。
……担当:高田理恵