調査結果 - 山陽学園大学・山陽学園短期大学

保 育 士 に 関 す る 調 査
報 告 書
平成 27 年
3月
山陽学園大学・山陽学園短期大学
潜在保育士復職支援プロジェクト
-
I.
目次 -
調査概要
1.
調査概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
2.
対象者について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
II. 調査結果の概要
1.
本校卒業生全体の実態
2.
現在保育士・幼稚園教諭就業者の実態 ・・・・・・・・・・・・・・・・13
3.
過去保育士・幼稚園教諭就業経験者の実態 ・・・・・・・・・・・・・・23
4.
保育士就業未経験者の実態
5.
保育士研修会への関心と動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
III. 保育所等への現場復帰に向けた課題と展望
1.
潜在保育士復職を阻む壁に対する課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・38
2.
潜在保育士復職支援についての具体的な取り組み ・・・・・・・・・・・42
3.
展望 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52
IV. 資料
1.
調査票 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
1
≪はじめに≫
平成 27 年度、本格施行が予定されている「子ども・子育て支援新制度」に向けて、保育の
量的拡大が図られる中、保育を支える保育士の人材確保は喫緊の課題となっている。
本学山陽学園短期大学は、昭和44年に開校して以来、現在(平成25年度)にいたるまで、約
6.000名の保育士資格者を送り出してきた。しかしながら、保育士資格を持ちながら就労してい
ない卒業生(潜在保育士)も数多く存在する。
本調査は、本学卒業生に対し、
「保育士に関する」調査を実施することで、潜在保育士を掘り
起し、復職ニーズ、復職に関する問題点を浮き彫りにし、保育所等への現場復帰などに向けた
支援を実践することを目的としている。また、それと同時に、保育士として就労している卒業
生の今後の就労に関する意向を把握することにつながると考える。
本調査での結果が「潜在保育士」、保育士の確保対策を進めていく足掛かりとなり、子育ての
現場が改善されることを願う。
なお本調査は保育士を志望する者の持つ待遇への具体的要求(たとえば賃金の額や勤務形態な
ど)のほか、目的意識や保育士という職業への期待感、また幼稚園教諭や他の職種と比較した
場合の、本人の自尊感情や職業意識など、結果に影響を及ぼすであろうことが考えられる本人
の情緒的問題、社会的評価に対する意識などを含む諸条件には深く切り込まなかったが、それ
は今後の課題である。
2
Ⅰ.調査概要
1. 調査概要
(1) 調査目的
本調査は、今後の岡山県の保育士確保及び定着策のための基礎資料とする事を目
的に実施した。
(2)調査対象
昭和 46 年から平成 25 年までの山陽学園短期大学幼児教育学科卒業生全員(現住所
不明者を除いた人数)4,886 名
(3)調査方法
郵送による配布
郵送による回収及び専用フォームによる WEB 回答
(4)調査実施期間
平成 26 年 8 月 5 日~平成 25 年 9 月 20 日
(5)回収数
回収数 802 件(回収率 17%:宛先不明 161 件を除く。)
(6)調査項目
・対象者について
・現在の保育士・幼稚園教諭就業者について
・過去の保育士就業経験者について
・保育士就業が未経験者について
・研修会の希望内容・研修会参加希望について
(7)調査実施機関
山陽学園大学・山陽学園短期大学 潜在保育士復職支援プロジェクト
3
2. 対象者について
図表Ⅰ-2-A01
図表Ⅰ-2-A02
年齢
性別
男性回答者 2 名のみ。全体の中では統計的に無視しえる数字であり、ほとんどが女性回
答者である。
・幼児教育学科が共学に移行した年数が浅いために、男性卒業生が少ないためと考えられ
る。
図表Ⅰ-2-A03 所在地
所在地は岡山県内が 88%であり、地元へ就職したいという希望の強さが窺える。また岡山
市、倉敷市、赤磐市など大都市に集中している。他方、他府県からの入学者は地元に帰る
場合と岡山県にとどまる場合の両方の場合がある。
その他市町村一覧
市町村名
総社
瀬戸内
回答数
3
2
玉野
27 新見
26 美作
笠岡
13 里庄
2
津山
10 吉備中央
9 勝央
1
浅口
4
回答数 市町村名
28 和気
2
1
高梁
5 庄原
1
矢掛
1
井原
5 西粟倉
4 川口
真庭
4 浅口郡里庄
1
早島
3 都窪郡早島
1
美咲
1
1
図表Ⅰ-2-A04
配偶者の有無
配偶者の有無には、保育士と幼稚園教諭との間にほとんど差はないが、過去就業経験者が
やや多い傾向がみられる(86.8%)
。
)
。
(%)
図表Ⅰ-2-A05
子どもの有無
(%)
子どもの有無では保育士と幼稚園教諭の比較では、幼稚園教諭の方が統計的に有意に子ど
も「有」が多い(85.4 %:69.6%)
。年代別のグラフを描いてみると、20 代では保育士は幼
稚園教諭の約 2 倍の割合であり、40 代・50 代では逆転する。
(%)
5
図表Ⅰ-2-A05-1a 子どもの人数
子どもの人数には全体として特に有意な差は見られなかった。ただし、保育士と幼稚園
教諭との比較では、保育士は 1 人が多く(18.6%:11.1%)
、幼稚園教諭には 2 人が多い
(54.3%:63.9%)傾向がみられた。これには上述の、年齢構成の違いも理由として考え
られる。
(%)
図表Ⅰ-2-A05-1b
末子の年齢
末子の年齢では保育士と幼稚園教諭とでは、6 歳までは保育士が多く、それ以上は幼稚園
(%)
教諭が多い。また過去就業経験あり群では 2 歳までの子が多いがこれは若くして退職し
子どもを産み育てた人が多いためとも考えられる。
(%)
6
図表Ⅰ-2-A05-2
未就学児の日中の主な保育者
未就学児に関しては、グラフで見る限り保育士が保育所へ、幼稚園教諭が幼稚園へ、と
いう傾向がみられる。なお就業経験あり群・無し群は、
「自分」という答えが多くなって
いる。
(%)
主な保育者その他詳細
育休中
兄:幼稚園
弟:保育園
生活支援員
図表Ⅰ-2-A06 同居家族の介護
同居家族の介護については全体として有意差は見いだせなかったが、過去就業経験あり群
が 11.3%と最も多かった。
(%)
7
図表Ⅰ-2-A09
図表Ⅰ-2-A07
収入
別居家族の介護
別居家族の介護については、全体として有意差は見いだせなかった。
「いない」が平均 90%
を超えた。ただし保育士就業経験なし群が 13.6%と最も介護に従事しているのが判明し
た。
(%)
図表Ⅰ-2-A08 生計の担い手
生計の担い手は保育士と幼稚園教諭とでは有意差が無かったが、過去就業経験あり群は
8.6%と低い傾向にあった。これには収入の問題との関連も考えられる。
(%)
8
図表Ⅰ-2-A09
収入
収入の割合は年代によってばらつきがあり、幼稚園教諭のデータが少ないため、結果は
不確実である。ただし、過去就業経験者は全体的に低いがこれは、専業主婦ないしパート
タイムの仕事等によって、収入が低下したためと考えられる。統計的検定の結果では、年
代別にみた場合、保育士と幼稚園教諭の収入には有意差が無かった。
(%)
9
図表Ⅰ-2-A10
保育士登録について
保育士登録者は、現職が最も多いのは当然であるが、保育士就業経験なし群が 22.4%と際
(%)
立って低いのが目立つ。全体としては統計的に有意傾向であり、群間に差が見出される。
(%)
(%)
図表Ⅰ-2-A11
保育士登録についての考え
保育士登録制度については「制度を知らなかった」という割合が、特に保育士就業経験
なし群で 59.2%と際立って多いのが目立つ。本人に興味が無い、というのも一因であろ
うが、より効果的な広報の必要性が求められる。その他、保育士勤務者では手数料が高
(%)
い(28.2%)や原本送付が不安だった(18.2%)が多く、幼稚園教諭の場合は手続きに時間
がかかった(20.6%)
、登録制度を知らなかった・登録は不要だと思う(いずれも 14.7%)
が目立った。
(%)
10
(前項続き)
その他 記述意見
あまり覚えがない。
しないといけないことはわかっていたが、日々忙しくなかなか進まなかった。
ずいぶん前にしたので覚えていない。
すでに登録されていた。
なんとなく時間が過ぎていた。
稼業があるため。
稼業を手伝うため、保育士はしないから。
学校でしてくれた。
結婚したので登録しなおすべきなのかなど、わからないことが多いです。
結婚後の書き換えが手間。
現在申請中、受け取りまち。
現状必要ではない。
行政の怠慢。
今のところ必要ないから。
今の職場では必要ないため。
今の生活には登録が必要なかったため。
今は必要なかったので。
今は不要。
今までは必要がなかったので登録をしていなかった。
今まで必要と考えていなかった。
最初の登録は勤務先で行ったが、その後結婚し退職、昨年保育士の仕事をする際に姓の変更手続きを自分で行い、面倒に感じた。また、時間もか
かった。
子育てに忙しくて、その時は必要性を感じなかったため。
資格証のため必要と思い手間と思っていない。
資料は取り寄せたが、多忙でしていない。
実際に勤務したいと本気で思ってからでも遅くないと思ったから。
若いころのことで、よく覚えていない。
手続きが不明瞭だった。
手続きが面倒でわかりにくかった。
職場でしてもらったので、特に問題はなかった。
職場で手続きをしてくれたので助かった。
制度自体は知っているが、詳しい内容は知らない。
知っているがしていない。
登録し中ればと思いながら、日ごろの忙しさから未登録である。
登録するか迷っている。
特になし。
特になにも感じない。
特には思いませんでした。
特に登録制度については意見はありません。
内容をあまり理解せず手続きを行った。
年齢的に。
必要ないことだと思う。
必要ないと思った。
必要になった時に登録しようと思っていた。
保育園の先生に教えてもらってしました。
保育士として勤めず、ほかの仕事をしており保育士として勤める予定がなかった。
保育士の仕事を始める前にしようと思いました。
保育士資格を有する人に無料で変えるべき。
保育士復職を考えていなかったから。
忘れた。
面倒くさい。
面倒でしなかった。
友達(同級生)がおしえてくれなかったら知らなかった。
幼稚園で働いていたため。
11
図表Ⅰ-3-A12 就労状況
この図表Ⅰ-3-A12 から見る限り、保育士としての就労は 38%であり、幼稚園教諭 6%
の6倍以上となっている。他方、
「幼稚園・保育所勤務経験あり」が 38%、
「幼稚園・保
育所勤務経験なし」が 18%となっていて、全体の 56%が保育士・幼稚園教諭のいずれ
にも勤務していない状況である。
「幼稚園・保育所勤務経験あり」のうち何%が保育士で
あったかはこの図からは不明であるが、就労中の両者の比からも、また保育士と幼稚園
教諭の年齢構成の最頻値が異なり、幼稚園教諭の方がより高年齢であることからも、か
なりの部分が元保育士であろうと考えられる。
12
2 保育士・幼稚園教諭就業者の実態
図表Ⅱ-2-B01 勤めている施設
勤めている施設は図から明らかなように、私立認可保育所が最も多く、ついで公立認可
保育所の順と成る。これらに比べれば幼稚園は公立・私立ともにはるかに少ない。勤務
している保育所と幼稚園との比率は 5:1 ぐらいであり、その他の施設も多くはない。
その他 記述意見
二か所で働いているため
NPO法人
院内病児保育
公立適応指導
子育て支援センター
市設民営保育所
市役所・保健福祉局(赤ちゃん相談ダイヤル相談員)
児童ディサービス
児童発達支援・放課後等ディサービス
児童発達支援センター
児童発達支援事業所(2か所でパートとして勤務)
所属は公立認定こども園ですが、現在は、市内小学校「ことばの教室」(幼児)担当者として、小学校に勤務しています。
小規模認可保育所
小児科併設児童支援施設
発達支援センターディサービス
13
図表Ⅱ-2-B02 現施設における勤務年数
現施設に於ける勤務年数は、保育士は 10 年以上が最も多く、次いで 5 年以上~1 年未満
となっている。ここも双峰型の分布となっており 2 年から 5 年の間が少ない。
図表Ⅱ-2-B03 通算勤務年数
保育士・幼稚園教諭の通算勤務年数は 10 年以上が多く次いで 5 年以上 10 年未満となっ
ている。ここにも双峰型の分布が見られる。
14
図表Ⅱ-2-B04 これまでに勤務した施設数
これまでに勤務した施設数は、3 箇所以上が多く、ついで現勤務先となっており、2 箇所
というのは比較的少ない。
図表Ⅱ-2-B04-1 勤務形態
現施設の勤務形態パート・非常勤と正規職員とがほぼ同数である。
アルバイト
講師
常勤
嘱託
嘱託職員
正職パート
派遣
その他 記述意見
派遣社員
臨時
臨時助教諭
臨時職員
臨時職員・特別支援員
臨時保育士
15
図表Ⅱ-2-B05 勤務時間が希望に沿っているか
勤務時間は多くが希望にそっていると答えている。幼稚園教諭との割合の違いは殆ど無
い。
16
図表Ⅱ-2-B06 勤務時間
勤務時間はフルタイムが圧倒的に多い。幼稚園でも事情は同様である。
10:00-16:00
1日5時間
1日または半日(夏休みなどは1日あり)
3期休業(春、夏、冬休み)は午前から、それ以外は午後から
6-5時間
6時間
8:00-15:00
8:30-14:00
8:30-14:30 5.75時間
8:30-15:30
8:30-16:30
8:30-16:30 水曜日だけ8:30-11:30
8:30-17:15
8:30-16:30
8:50-14:00
9:00-15::30
9:00-13:00.13:00-16:30.9:00-16:30
9:00-14:00
9:00-15:00
9:00-16:00
9:00-16:30
9:30-15:30
いろいろ
シフトによる
その他詳細
その日によっていろいろ
フルタイム・月2回当直
フルタイム週2.3日
基本午後・学校長期休業中は不規則
月によって異なる
午前または1日
午前中もあれば、一日もある
交替
交替に入らず規定時間9:00-16:00
公立幼稚園3歳児サポーター
週29時間以内
週2フルタイムそのほか午前のみ
週2日半日、2日フル
週30時間勤務
週4日勤務
週末は午前、平日は夕方
早朝から午前のみと夕方以降のみ
早朝と夕方
多様な時間
日中6時間
不規則
扶養範囲内で8:30-16:30
平日14:0-17:30 夏休みの間8:30-17:30(非常勤のため毎日ではない)
17
図表Ⅱ-2-B07 給与は妥当か
給与は勤務時間と比較してやや安い、妥当、かなり安い、の順となった。幼稚園教諭で
も同様の傾向であった。
図表Ⅱ-2-B07-1 給与が安い・かなり安いと感じる理由
給与が安いと感じる理由としては、勤務の大変さ、責任に比べて安い、勤務時間が長いに
もかかわらず安い、の順となった。
その他 記述意見
1.2.3のすべて。臨時だけと正規の人と同じでしかも夜遅くまで残っており、持ち帰りがいつもある
1つを選択できない、すべてあてはまる。正直給料の安いといわれる介護士より、ボーナス給料とも保育士の方が安い
Wワークが禁止が少々難あり(岡山市が政令指定都市になってからです)講師として呼ばれても“交通費”の受け取りを拒否すると相手方も困惑とい
うことがよくあり“ボランティア”という立場の難しさを感じる。またその件(講師)を上司に許可をいただくまでの手続きが大変。
経験年数が考慮されていない、昇給がない
月給制でないから
公立との給与差
他と比べて
扶養から抜けているので、保険等ひかれると少ない
保育士基本給の低さ
18
図表Ⅱ-2-B08 労働条件としての一番の問題
労働条件としての一番の問題は、保育士の場合は給与、勤務時間、仕事内容の順であっ
た。他方幼稚園教諭は、勤務時間を挙げた回答が最も多かった。
図表Ⅱ-2-B09 今後の就労意向
保育士も幼稚園教諭も、
「現在の職場で働き続けたい」という回答が最も多かった。
19
図表Ⅱ-2-B09-1 現在の施設で働き続けたい理由
その他 記述意見
パートの立場ではやりがいがない。気づきも何も言えない
ブランクはあったが、以前に新卒で勤務していた園だから
まだ2年未満なので、生活するのに困ったり、無理な仕事状況になるまでは続けようと考えている。
もう、いまさらほかの職場へ転職する元気もない
わが子が就学の時に勉強を見てやりたい
園児がかわいく信頼関係ができている
公立だから
子どもがかわいいから
施設がきれいだから
事業所内の保育施設だが、有給がない
新しいところに行って一からしたくないので
長年働いた場所だから
働き続けてほしいと園から希望されているから
保育士の正規職員で定時に帰れる職場はなかなかないため
20
図表Ⅱ-2-B09-2 他の施設で働きたい理由
その他 記述意見
この仕事は仕方ないといって、休憩時間を取ってもらえない。
まだ一年たったばかりですが、後輩がアスペルガーみたいな人が多い。空気読めない、何回言っても理解できない。
子どもが障がいがあるため、いっしょに働けるような事業を立ち上げるため。
子育て支援“お母さん”を育てる方へ力を注ぎたい。今まで自分が学んだ技術を次の世代の先生に伝えたい。
地域子育て支援拠点を新規に運営したいから
保育士が休みの時、子どもへの対応が不十分になるため
図表Ⅱ-2-B9-3a やりがいを感じる
か
保育士・幼稚園教諭共に「よく感じる」が最も多く、次いで「時々感じる」であった。
21
図表Ⅱ-2-B03b やりがいを感じる時
保育士は「子どもの成長を感じられた時」が最も多く、ついで「子どもが喜んだり満足し
た時」
「信頼関係が深まった時」であった。幼稚園教諭もほぼ似た傾向であった。
22
3 過去保育士・幼稚園教諭就業経験者の実態
図表Ⅱ-3-C01 過去の就職活動
就職活動方法は、卒業校での求人票が圧倒的に多い。次に友人・知人の紹介、ハローワー
クと続く。その他、直接の問い合わせも多い。
その他 記述意見
臨時職員募集の登録。
市広報誌。
役所へ問い合わせた。
市の臨時職員の募集があるのを知人から聞き、履歴書を出しました。
直接保育課へ採用の有無を問い合わせた。
市の臨時採用。
町の広報誌。
市の方へ直接問い合わせた。
地元役所に採用の有無を問い合わせた。
市の保育所だったので、直接市役所に問い合わせた。
大学在学中の夏のバイト(保育園)経験で、スカウトしていただきました。 子どもが通園している園からの紹介。
前職場からの紹介。
採用試験を受けた。
親の紹介。
県の採用試験。
実習先から声をかけてもらった。
教育委員会へ直接。
実習とバイトがきっかけ、特別な活動はしていない。
教育委員会への登録。
実習した経験あり、その姉妹校。
家族のコネ。
自治体に登録。
岡山市採用試験。
市役所に登録後、連絡がきた。
岡山市の採用試験を受けた。
バイトから。
図表Ⅱ-3-C02 就労時期
就労時期については「新卒」が最も多く、以下、転職などが続く。
23
図表Ⅱ-3-C03 就労動機
就労動機は、子どもとかかわりの有無が最も多く、資格、保育職の専門性が続く。子ども
が好きで関わりたく、また保育職という専門性が気に入り、資格をとり就労する、という
パターンと考えられる。
その他 記述意見
友人に手伝いを頼まれたため
働く母親の力になりたかったので
昔からの夢だったため
障がいのある方とのかかわり
子どもの頃からの夢
子どもが好きだったので、楽しく仕事ができると思った
子どもが好きだから
交通の便
希望の仕事で資格が取れたから
家を出て自活したかったから
ボランティアに参加して
24
図表Ⅱ-3-C04 過去に就労していた施設
過去に就労していた施設私立認可保育所、公立認可保育所の順に多く、公立幼稚園、私
立幼稚園がそれらに続く。
その他 記述意見
無認可保育園
発達支援センター
認可外保育園
障がい者施設
障がい児施設
児童館
学研幼児教室・保育士保育所支援センター
家族で経営する寺の院内保育所・病児保育(小児科内)障がい児通園保育
スポーツクラブ内託児所
25
図表Ⅱ-3-C05 退職の理由
退職の理由については結婚が最も多く、妊娠・出産がそれにつぐ。これらのつぎには仕
事量が多い、給料が安い、職場の人間関係、子育て・家事、労働時間が長い、などと続
く。
その他 記述意見
臨時職員であったため。
両親の介護をしたいから。
保育園を経営していたが、自立支援に興味があり、その会社を始めたため。
任期が終わったため。
短期採用だった。
体力がなくなってきたため。
他にしたいことがあった。
早出の時も遅出の人と同じ時間じゃないと帰れないのでしんどい。
家での仕事が多いので、OFFも仕事のことでいっぱいいっぱいになる。
専門学校への進学のため。
切迫流産・早産になり退職を求められたため(それぞれちがう勤め先)。
人員不足(結婚など)で心労、将来への不安が重なり。
職場でリストラをにおわせてきた。(誰かが辞めなければならない雰囲気)。
職場での人事異動。
出産後すぐ復帰する予定だったが、子どもを預けられる保育所がないために断念。
主人の海外勤務に伴い。
仕事をする期間が決まっていた。
産休代理だったため。
公立は5年期限だったため。
結婚当時主人は平日休みで、休日が全く合わなかった。私は通勤にも時間がかかり、
有給もとりにくいために退職を選んだ。
結婚しても長く勤めていたが、子どもがなかなかできなかったため。
契約満期。
園長の考え方及び、二重帳簿、市の提出物と実際が違っていた。
育児をしながら仕事をする先輩がいなかった。子育てと仕事とどちらも中途半端になりそうで子育てを取った。
より専門的な学習をしたかった。
ドクターストップがかかった。
スキルアップのために進学した。
26
図表Ⅱ-3-C05-1 希望給与額
月額希望金額は、20 万以上~25 万未満が最も多く、ついで 25 万以上~30 万未満、さら
に 15 万円以上~20 万円未満と続く。
図表Ⅱ-3-C06 就労中の職場環境の悩み
勤務時間、給与、責任の重さや事故への不安、人間関係の悩みなどが多い。
27
(前項続き)
その他 記述意見
臨時職員のため1年に1回、月休みを取らされ、その間保険がきかずに病院へ行けず病気が悪化し退職したこと。
膨大な数の書類、監査内容。
保護者対応が難しい。
保育士の経験が30年以上前のために悩みがわからない。
正規職員が少なくなり、臨時やパートが多くなり、正規職員への責任が重くなってきた。
私立は経営者のカラーが強く、学校で学んだことが生かせない。
県や市が違うと教育方針が異なり戸惑う。事務仕事が多く持ち帰ってするしかなく大変だった。
休日なども書類などに追われる。
休みの日も仕事がたくさんあって休めない。
休みがとりにくい、変わりがいないので、インフルエンザになっても勤めていた。
家庭に持って帰ってする仕事が多い。保育活動の下準備。
モンスターペアレンツが多いです。任せてくれません。信頼も難しいです。これには大変ショックでした。
クレーム(親)。
図表Ⅱ-3-C07 重視したこと
自己実現・仕事のやりがいが非常に多く、また自分の適性・能力への不安も重要視されて
いる。
その他 記述意見
体力
人間関係
子どもへのかかわり方、親へのかかわり方
子どもの成長、自立すること
すべてが新しいのですべて
サービス(深夜)残業の有無
28
図表Ⅱ-3-C09 退職してから次の就職までの期間
退職してから次の就職までの期間では、保育所・幼稚園以外の仕事が最も多く、就業して
いないがそれに次ぎ、以下 1 年未満やブランクなしが続く。退職してから再就職までの
期間は長い人は長く、短い人はすぐに再就職する傾向がある。
図表Ⅱ-3-C10 個人の悩み
家庭との両立の悩みが最も多い。それに次いで、知識・技術への不安、自身の健康と続
く。
29
4 過去保育士・幼稚園教諭就業経験者の実態
図表Ⅱ-4-D01 就労しない理由
保育士として就労しない理由は、別の職業を希望したから、が最も多い。適性がないと
感じた、採用されなかった、がこれに続く。
その他 記述意見
保育士の求人がなかった
別の職業につき、結婚後は家事育児に専念したから
知的障がい者更生施設に勤務、入学時からそのつもりだった。
他の就職先が決まったから
前勤務先からパートに来てほしいと頼まれたから
就職活動時、希望職場がなかったため
採用されたが交通の便が悪かった(早出とか大変早くいかないといけない)
家業をついだため。
一般職の方が先に決まったため。
ピアノ講師になったから。
図表Ⅱ-4-D02 就労意向
「今後保育士として働きたい」という希望は、3 択の中で最も少なく「現在では働く気が
ない」は、その 2 倍以上である。
30
図表Ⅱ-4-D02-1 保育関係の仕事につく条件
「職場の人間関係が良い」が最も多く、ついで「通勤が便利である」
「休暇が取りやすい」
「給与が仕事に見合っている」が続いている。
その他 記述意見
今の会社が辞められる
現在看護師なので、そのつもりはない
図表Ⅱ-4-D03 不安要素
不安要素は「自分の健康・体力」
「能力・知識」
「責任の重さ・事故への不安」などが続い
ている。
その他 記述意見
人間関係
ストレスから発症した持病がある
31
図表Ⅱ-4-D04 就労する時に必要なサポート
必要なサポートは、
「具体的な仕事」が最も多く、研修、個別相談の機関、就職情報の順
である。
その他 記述意見
万が一事故があった時のサポート体制、保険等充実したもの。預ける側も預かる側も安心できるサポート体制が必要
図表Ⅱ-4-D05 今後の希望勤務形態
希望勤務形態は、
「パート・非常勤」が最も多く、正規職員の約 5 倍である。
その他 記述意見
保育補助
現在の仕事はそのままでアルバイト
希望しない
32
図表Ⅱ-4-D06 就労の希望施設
就労希望施設は、事業所内保育施設、院内保育施設、公立認可保育所、私立認可保育所、
公立認定こども園、私立認定こども園などであるが、幅広く望んでいる。
その他 記述意見
病児・病後児保育施設
体力的に無理
現在学童保育所のし動員をしている
図表Ⅱ-4-D07 就労の希望勤務地
希望勤務地は自宅近くが非常に多く、2 位の居住市町村内の 3 倍以上である。
近隣市町村記述
和気郡
倉敷市
岡山市東区内
岡山・倉敷
33
図表Ⅱ-4-D08 こっこスクールについて
こっこスクールとは。
こっこスクールとは、幼児教育学科の学生が同じ敷地内にある附属幼稚園で、
「預かり
保育」を行うボランティア活動のことです。幼児とのかかわり方や保育の仕方等を体験
的に学べる場となっています。その場を復職の実習先として利用するかどうかの問いか
けです。
こっこスクールを利用しての復職実習参加希望は 48%と約半数である。ただし知ってい
るのは 4%である。
34
5 保育士研修会への関心と動向
図表Ⅱ-5-E01 参加の有無
研修会への参加意向は、38%であった。
図表Ⅱ-5-E02 参加可能日
参加可能日は日曜・祝日が最も多く、ついで平日の日中、土曜日と続いている。
35
図表Ⅱ-5-E03 就職情報の受け取り方
就職情報は、ハローワークから受け取る場合が最も多い。次に卒業校の求人票、求人広告
と続く。
図表Ⅱ-5-F01
研修内容(就職技能)
研修内容希望は、身体表現技法、発達心理、スペシャルニーズケア・障害児保育と続く。
36
図表Ⅱ-5-F02
研修内容(ビジネススキル)
ビジネススキルに関しては、近隣・体外対応スキルが最も希望が多く、パソコン操作、
マナーと続いている。
図表Ⅱ-4-F03 研修内容(コミュニケーションスキル)
コミュニケーションスキルに関しては保護者対応が多く、連絡帳や書類の書き方、子ど
もとのコミュニケーションが続いている。
37
III 保育所等への現場復帰に向けた課題と展望
1.潜在保育士復職を阻む壁に対する課題
今回の実態調査により、潜在保育士の復職を阻むいくつかの要因が浮かび上がった。ここ
ではそれらを、
「潜在保育士復職を阻む壁」(図 1)として述べていきたい。
なお、当プロジェクトの目的を考え、ここでは幼稚園教諭としての就労ではなく、保育士
の就労に焦点を当てることにする。
夢
図1
潜在保育士復職を阻む壁イメージ図
第 1 の壁:仕事量の多さ
現役の保育士のほとんどが、今後の就職意向として「現在の保育施設で働き続けたい」と
考えていた(B09)
。しかし、
「保育士・幼稚園教諭以外の仕事で働きたい」という回答者も相
当数存在した(B09)
。
「他の仕事をしたい理由」として「仕事量が多いから」が最もあてはま
ると評定されており、
「労働時間が長いから」も高く評定されていた(B09-2)
。潜在保育士の
うち、過去に保育士または幼稚園教諭としての就労経験がある場合、退職理由として「仕事
量が多い」
「労働時間が長い」が多く挙がっていた(C05)。仕事量の多さ、労働時間の長さ
は、保育士としての就労を継続するうえで問題となりやすく、労務管理が重要といえる。
第 2 の壁:責任の重さ
過去に就労経験のある潜在保育士の退職理由には、「給与が安い」も多く挙がっていた
(C05)
。給与の低さについては、現役保育士、潜在保育士問わず、今回の回答の随所に挙が
38
ったが、注目すべきは、現役保育士が「給与が安い」と考える理由として「勤務の大変さ、
責任に比べて安い」が、300 名中 127 名と、最も多く選択されていたことである。これは、
保育士として就労することが給与に見合わないほど大変であると感じている回答者が多い
ことを意味する。
それでは、なぜ保育の仕事を大変だと感じているのであろうか。仕事の量や勤務時間の長
さだけでなく、次に述べるさまざまな壁が、保育士としての就労を困難にしていると考えら
れる。
第 3 の壁:職場内・保護者との人間関係の難しさ
現役の保育士では、
「現在の施設で働き続けたい理由」として、職場内や保護者との人間
関係が良好であることが(B09-1)
、
「やりがいを感じる時」として、
「職場でチームワークが
発揮できた時」(B9-3b)が多く挙げられていた。一方、
「他の仕事をしたい理由」として「保
護者対応の心労があるから」があてはまると評定されていた(B09-2)
。また、自由記述には
「後輩に、空気が読めない、何回言っても理解できない人が多い」というものがあり(B092)
、自らが経験を積むことで後輩の未熟さが目につくようになり、人間関係を難しくするこ
ともあると考えられる。人間関係が良好であることが保育士としての就労の継続につなが
り、逆に人間関係の難しさは退職につながるといえる。
また、潜在保育士のうち、過去に保育士または幼稚園教諭としての就労経験がある場合、
退職理由として「職場の人間関係」が多く挙がり(C05)、過去の就労中の職場環境の悩みと
しても当てはまっていた(C06)
。人間関係の難しさは、潜在保育士の復職を阻む壁となって
いる。
さらに、潜在保育士のうち、保育士・幼稚園教諭としての就労経験がない場合、保育の仕
事に就くための条件として、「職場の人間関係がよい」が(「通勤が便利である」とともに)
多く選択されていた(D02-1)
。潜在保育士は、人間関係のよい職場へ復帰したいと考えてい
る。
第 4 の壁:施設の方針・理念・文化
現役の保育士が「現在の施設で働き続けたい理由」として保育理念・方針が自分の考えと
一致していることは重要であった(B09-1)
。また、
「やりがいを感じる時」として、
「上司や
同僚から自分の仕事が認められたとき」
「職場内で自分に対する期待が感じられるとき」(B93b)が多く挙げられていた。現役の保育士にとって、自分の考えと同じ理念・方針を持つ施
設において、自分の頑張りが評価されることが望ましいことであり、就労の継続につながる
といえる。
逆に、施設の理念・方針が自分の考えと異なることは退職につながるといえる。潜在保育
士のうち、過去に保育士または幼稚園教諭としての就労経験がある場合、退職理由として
「職場の方針に疑問を感じた」
「継続できないような職場の雰囲気があった」が比較的多く
39
選択されていた(C05) 。
さらに、潜在保育士のうち、保育士・幼稚園教諭としての就労経験がない場合、保育の仕
事に就くための条件として、
「勤務先の保育や仕事上の方針に賛同できる」が多く選択され
ていた(D02-1)
。潜在保育士は、方針・理念に賛同できる職場へ復帰したいと考えており、
施設の方針・理念、雰囲気のような職場内文化は、場合によって復職を阻む壁となると考え
られる。
第 5 の壁:ワークライフ・バランス
潜在保育士のうち、過去に保育士または幼稚園教諭としての就労経験がある場合、退職理
由として、
「結婚」が最も多く、
「妊娠・出産」
「子育て・家事」も多数であった(C05)。また、
就労時に必要と思われた支援として「家族に対する支援」、個人の状況に関する悩みとして
「家庭との両立」が多く選択されていた(C08、C09)。
潜在保育士のうち、保育士・幼稚園教諭としての就労経験がない場合、保育の仕事に就く
ための条件として、
「通勤が便利である」が(「職場の人間関係が良い」とともに)最も多く
選択されていた(D02-1)
。
現役の保育士においては、勤務時間については「希望に沿っている」という回答が多かっ
た。(B05)。
「現在の施設で働き続けたい理由」としても、
「通勤が便利だから」
「勤務時間が
希望どおりだから」
「休暇が取りやすいから」といった自己都合に合致する内容があてはま
ると評定されていた(B09-1)
。
「保育士の正規職員で定時に帰れる職場はなかなかないため」
という自由記述もみられた(B09-1)
。その一方で、他の仕事に就きたい理由として、「子育
て・家事をしたいから」があてはまると評定されていた(B09-2)
。
これらから、結婚・出産・子育てといったライフイベントは、保育士の退職理由となりう
るが、勤務時間や通勤などの条件が整い家庭での役割の継続が可能であれば、退職に至らな
いといえる。また、ライフイベントによりやむを得ず退職した場合も、それらの条件が整え
ば、復職が可能になるといえる。
第 6 の壁:自信の喪失
潜在保育士のうち、過去に保育士または幼稚園教諭としての勤務経験がある回答者は、退
職理由として、
「自分の適性・能力への不安」を多く挙げた(C05)。また、
「保育士・幼稚園
教諭の仕事をしていた時に重要視したこと」として、「自分の適性・能力への不安」が多く
選択されていた(C07)
。さらに、就労していた時に必要と思われた支援として「仕事に対す
る知識・技能の研修」を最も多く選択していた(C08)
。
潜在保育士のうち、保育士・幼稚園教諭としての就労経験がない回答者は、保育所で就労
した場合の不安要素として、
「自身の健康・体力」を最も多く選択し、続いて「能力・知識」
を多く選択していた。また、保育の仕事に就くためのサポートとして、「具体的な指導」が
最も多く選択されていた(D02-1)
。
40
保育の現場は日々変化しており、現役保育士であってさえ、新たな知識・技能を習得する
ための研鑚が求められる。現場から離れて時間が経ってしまうと、現場の様子もわからなく
なってしまい、そこで求められる知識や技能にも自信が持てず、復職に二の足を踏んでしま
うことは十分に考えられる。復職のための研修の機会を提供することが必要といえる。
「健康・体力」については、既述の仕事の量や労働時間に関わりがあると考えられる。保
育士に自信を持たせるだけではなく、労務管理上の問題も解決する必要があろう。
第 7 の壁:情報入手の困難
潜在保育士では、
「保育士登録制度を知らなかった」という回答が多く、自由記述にも「手
続きが不明瞭だった」とあった(A11)ことから、登録制度と手続きの周知が必要と考えられ
る。さらに「手続きが面倒でわかりにくかった」
「結婚による姓の変更手続きが面倒で時間
がかかった」といった記述があり(A11)手続きの簡素化の検討も意義があるといえる。
他にも求人情報等の情報が簡単に得られることが必要と考えられる。
ここでは、潜在保育士復職を阻む 7 つの壁について述べたが、これらの壁を取り除くた
めの方策として、労務管理や施設の方針などの施設運営上の方策(施設管理職への働きかけ
や研修等が必要であるかもしれない)
、研修機会や情報の提供などの行政・養成校による方
策が考えられる。
現役の保育士が「現在の施設で働き続けたい理由」として、
「子どもがかわいいから」
「園
児がかわいく信頼関係ができている」という自由記述がみられた。
子どもが好き、かわいい、
という気持ちは、保育士にとって最も大きな就労動機といえるであろう。しかし、子どもに
対する気持ちだけでは、大きな責任を伴う専門職としての保育士への復職は難しく、具体的
な施策が求められる。
2.潜在保育士復職支援についての取り組み
平成 26 年度の単年度事業として岡山県から事業委託され、県下 3 つの保育者養成校が潜
在保育士の復職推進事業を実施することになった。その 1 校である本学では「潜在保育士復
職支援プロジェクト」(以下、
「当プロジェクト」と表記する)を立ち上げて事業推進を行った。
3 校に共通して委託された事業内容は、①卒業生を対象にしたアンケート調査、②研修及
び情報交換、③アンケート調査等の結果報告書作成である。しかしながら、潜在保育士の復
職に向けた取り組みは単年度で終わるような性質のものではない。そこで、県から委託され
た事業内容に加え、当プロジェクトでは本学独自の内容として、学生の就職支援機関である
キャリアセンターや幼児教育学科と連携しながら卒業生に対する持続的な就職支援に向け
た取り組みを行うことにした。
1)卒業生に対する本学就職支援の現状
潜在保育士復職支援についての取り組みを述べる前に、卒業生に対する本学の就職支援
41
の現状を記しておく。
まず、
本学では卒業生の就職支援は、
就職後に悩みを抱えて相談に来る卒業生への対応と、
卒業時に未内定である者や、離職した既卒者の対応に大別できる。前者についてはキャリア
センターや学科教員が個別に対応している状態である。後者の支援には前者のような相談
対応のほかに、キャリアセンターで運用している就職情報システムの活用がある。卒業生が
キャリアセンターでこのシステムに登録すると ID・パスワードを発行され、登録完了から
その年度末まで、既卒者対象の求人票を検索することができる。このシステムは平成 21 年
度文部科学省 大学教育・学生支援推進事業(学生支援プログラム:GP テーマ B)に採択さ
れ、平成 22 年度より運用しているものである。しかし、現在のところ登録既卒者ユーザー
数は 6 名であり、そのうち幼児教育学科の卒業生は 2 名である。
図2
山陽学園大学・山陽学園短期大学キャリアサポートシステム概念図
42
また、本学幼児教育学科に対する平成 26 年度の 1 月現在における専門職 1)の求人件数は図
3 の通りである。この中には既卒者対象のものも含まれている。
H26年度 専門職求人件数(611件)
既卒者のみ
対象の求人
1%(9)
既卒者も
応募可
の求人
18%(112)
新卒対象の求人
80%(490)
図 3 平成 26 年度 1 月現在の幼児教育学科専門職求人状況
既卒者も応募可能な専門職の求人件数は、平成 26 年度は 121 件で、そのうち既卒者のみ
対象は 9 件あった。求人件数の 1%にあたるこの 9 件については、教職員が心当たりの卒業
生に個別に声かけしているものの、実質的な就職には結び付いていないのが現状である。求
人件数の 18%に当たる 112 件は卒業年次生だけでなく既卒者も求人の対象となっており、
就職情報システムで検索可能な情報である。しかしながら、このシステムを知らずに卒業生
が学科教員やキャリアセンターに就職支援を求めてくるのが現状である。
これらの現状から、実際に運用している就職情報システムの存在を既卒者に周知させ、活
用を促進する必要性がある。
なお、卒業生に対する幼児教育学科の取り組みとしては、先に述べた離職防止を目的とし
た相談対応や、既卒者対象の求人情報を心当たりの卒業生に個別に声かけするほかに、就職
御礼訪問を行っている。これは、専門職として内定した県内の就職先に次年度になって学科
の教員が訪問するものである。その目的は、新卒者の勤務状況を把握するほか、そこに勤務
している過年度の本学卒業生の状況把握、そして訪問先の求人情報の入手である。また、毎
年のこうした訪問により、保育現場と学科との間に信頼関係を築くという副産物がもたら
されている。
43
2)潜在保育士復職支援についての具体的な取り組み
先にも述べたように、潜在保育士の復職支援は単年度で終わるような性質のものではな
い。上記のような本学の就職支援の現状を踏まえつつ、キャリアセンターや幼児教育学科と
連携しながら、当プロジェクトとして、卒業生に対する専門職への就職支援に関する取り組
みを実施することにした。方法は次の 4 つである。
①既卒者対象の求人をしている岡山県内私立保育所のリスト作成と卒業生への発送
②復職支援を目的とした研修の実施(平成 26 年 9 月 20 日、平成 27 年 2 月 25 日)
③研修時における具体的な就職情報提供
④卒業生に向けた持続的な就職情報提供
以下にそれぞれの取り組みの結果を述べる。
①既卒者対象の求人をしている岡山県内私立保育所のリスト作成と卒業生への
発送の結果
学科教員やキャリアセンターで行っている卒業生に対する就職支援の現状を考えると、
卒業生を対象にしたアンケート調査と研修だけでは実質的な復職支援に結び付きにくいと
判断し、本学独自の取り組みをする必要性を感じた。そこで学科の取り組みである就職御礼
訪問の実績を生かし、これまでの就職先に既卒者対象の求人の意向があるかどうか打診し、
そのリストを作成して卒業生へのアンケート調査票に同封して発送することにした。
リスト作成にあたり、平成 19 年~平成 25 年の間に本学卒業生が就職した岡山県内の私
立保育所 127 園に連絡した。それらのうち 71 園が既卒者を対象にした求人を予定してお
り、リストへの掲載を承諾した。71 園の内訳は、岡山市 28 園、倉敷市 30 園、その他地域
13 園である。ただし、具体的な求人情報をリストに掲載することは法規的にできない。2)
そのため、リストに掲載した内容は、園名、住所、電話番号、備考(該当する園のみ)に限
り、求人情報の詳細はリストを見て関心を持った卒業生が直接園に問い合わせるようにし
た。このリスト作成時には、複数の園から実質的な復職に結び付くよい取り組みだという評
価をいただいた。なお、リスト活用の注意として、次のような一文を記載して卒業生のリス
ト活用の実態把握ができるようにした。
「卒業生の皆様にお願い:この一覧を見て園に連絡
された場合、その旨を園にお伝えください。また、本学にもご一報ください。」
リストはアンケート調査票と同様に 4,886 名に発送した。その結果、5 名の卒業生から問
い合わせがあった。いずれも現職の保育者
3)であり、リストを見て他園への就職を考えて
いる様子であった。2 名が正規職の保育士で、勤務先での職務のあり方に不満を持っていた。
他の 2 名は 10 年ほど臨時職での勤務が続いており、正規雇用を求めているものの勤務先で
はその予定がないという状態であった。残りの 1 名は幼稚園の非常勤の嘱託職員で、正規
雇用で保育園に勤務したいという意向を持っていた。
これら 5 名のうち、2 名が実際に就職に結びつき、
「卒業してからもこのように母校にお
世話していただけてとてもありがたかった」と感謝された。しかし、こうした状況からは、
44
このたび行ったアンケート調査の結果で見えてきた、過去に専門職の就労体験がある潜在
保育士の退職理由である「職場の方針に疑問を感じた」(C05)との合致がうかがえる。
ただし、リストの活用で転園が決まったケースについては、当該卒業生が退職する園と新
たに就職する園の関係からみると、保育士の引き抜きとみなされかねない問題をはらんで
いた。今回は両園の間に学科の教員が仲立ちをして園長同士で話し合いが行われたために
スムーズに事が運んだ。
②研修の実施の結果「現場で役立つ保育技能研修会」
【1 回目 平成 26 年 9 月 20 日(土)の内容】
(1)
「保護者対応について」講師:山陽学園短期大学
幼児教育学科准教授 荒島礼子
(2)乳幼児安全法―乳幼児対象の一次救命処置― 講師:日本赤十字社岡山県支部救急法指導員
(3)情報交換会:卒業生と懇談しながら食事・情報交換
第 1 回研修参加者は 15 名ながら、一期生から今年の 3 月に卒業したばかりの者に至るま
で、さまざまな年代の卒業生が参加した。情報交換会では自己紹介・研修の感想などを述べ
合った。
写真 2「乳幼児安全法」の様子
写真 1「保護者対応について」の様子
写真 3 情報交換会の様子
45
参加者の感想

保護者対応の話がとても参考になりました。また聞いてみたいと思いました。

現代の親の状況がよくわかりました。なかなかコミュニケーションをとるのが難しい
と感じた。

保護者対応については、質疑応答があればよかったです。

もっと現場に復職するときの方法や問い合わせ先、給料体制などが知りたかった。

初めて AED に触れました、なかなか実際に使うことがないので勉強になりました。あり
がとうございました。

実際に AED の使い方を体験できてよかったです。このような講習に何度も参加して、現
場でスムーズに動けるようにしたいと思いました。
【2 回目 平成 27 年 2 月 25 日(水)
】
9 月に行った 1 回目の研修の企画段階がちょうどアンケート調査の回収時期と重なって
いたことから、研修内容は調査結果を反映したものではなく、結果を予測して企画した側面
がある。そのため特に情報交換会の内容は検討の余地が大いにあった。また講義数も 2 つ
と少なかった。このため、2 回目の研修ではこれらの点を考慮して研修を企画した。
具体的には、調査結果から見えてきた「潜在保育士復職を阻む壁」のうち、
「第 6 の壁:
自信の喪失」で述べられていた、研修の必要性を感じている実態に対応した内容にすること
と、「第 7 の壁:情報入手の困難」で述べられていた、保育士登録に関する情報提供や、よ
り具体的な就職支援情報の提供を行うようにすること、そして、子どもが被害者となる痛ま
しい事件が連日のように起きている時事的な側面をも考慮し、以下のような研修内容とし
た。
(1)倉敷市立短期大学 准教授 眞次浩司「障がいのある子どもとの関わり」
(2)山陽学園短期大学 幼児教育学科 准教授 中川淳子「みんなで楽しく動ける運動遊
び」
(3)情報交換会:岡山県、岡山市・倉敷市の保育担当者による保育士就労についての現状
説明会
(4)山陽学園大学 総合人間学部 生活心理学科 教授 近藤卓「自尊心をはぐくむ幼児
教育」
参加人数は前回より大幅に増えて 40 名であった。これについては、所在不明の卒業生に
向けた情報提供という目的で、新聞紙面上で研修の告知を行ったことと、希望者に対して保
育士登録の手引きを配布するようにしたことが参加者の増加につながったと思われる。
プログラム終了後も、岡山市、倉敷市の保育担当者に、詳細な情報を求めている参加者が
いた。また、保母資格証明書および保育士資格証明書の再発行の手続きをした卒業生 3 名
や、キャリアセンターで就職情報システムに登録する卒業生 2 名がいた。
46
写真 4
写真 5
写真 7「自尊心をはぐくむ幼児教育」の様
写真 6 情報交換会の様子
参加者の感想

仕事するうえで大切なことを教えていただき大変参考になりました。今後、このような
研修会があればぜひ参加させていただきたいと思っております。母校でもあるので、と
ても懐かしくうれしく思いました。お世話になりありがとうございました。

とても有意義な時間でした。久しぶりの短大は懐かしくてあたたかかったです。今後も
大学とつながっていきたいです。

保育士⇔幼児・園児についてはよくわかりました。できれば 保育士⇔保育園・幼稚園
も教えていただければもっと就職につながるかなと思いました(現場の状況)。

すべての話が退屈せず、楽しくわかりやすく、興味深かった。保育の場でもだが、十分
にわが子に対してもかかわる話で、実践はすでにできることだと思った。とてもいい機
会をいただき、有意義な 1 日で来てよかったと心から感じた。

机に向かうばかりではなく、体を動かす楽しさも味わうことができました。人と触れ合
いながらの研修も有意義でした。ありがとうございました。いろいろ勉強させていただ
きました。
47

自分自身のことや、わが子にも当てはまることばかりでとても勉強になりました。

幼児教育について専門的に勉強することの面白さがよみがえってきました。専門用語
がどんどん新しく改定されることも、それが現場に浸透するまで時差が生じること。子
どもの運動遊び、自尊心をはぐくむ幼児教育…。どれも新鮮に感じられ、とてもために
なりました。

自尊心・障がいについては就職にかかわらず関心があったので大変良かったです。運動
遊びは月例に応じたものも知ることができ役に立ちそうです。運動不足を痛感したの
で、日頃より心がけようと思います。

ブランクがあるため、忘れかけていたことを思い出せよかったです。先生方のお話面白
かったです。ありがとうございました。
以上のように 2 回の研修を行ったが、継続して参加した者は残念ながらいなかった。
また、2 回とも研修の受講前と受講後に参加者にアンケート調査を行い、研修に対する期
待度や受講後の満足度について調査した。その結果を図 4 と図 5 に示す。2 回の研修とも、
おおむね高い満足度であることが分かる。
110
105
100
106.67
100
90
95.56
92.86
95
86.67
84.44
85
84.44
80
75
70
図 4 第 1 回目の研修における受講前の期待度に対する受講後の満足度
48
100
97.58
95
96.77
91.11
90
85.66
85
80
75
71.19
70
65
60
図 5 第 2 回目の研修における受講前の期待度に対する受講後の満足度
③研修時における具体的な就職情報提供について
1 回目の研修の感想に「もっと現場に復職するときの方法や問い合わせ先、給料体制など
が知りたかった。
」というものが残されていた。これを踏まえ 2 回目の研修では、岡山県、
岡山市、倉敷市それぞれの復職支援機関の担当者を招き、実際にどのような復職支援機関が
あるのか、またその事業内容など、より具体的な情報提供を行った。(岡山県:岡山県福祉
人材センター、岡山市:岡山市保育士・保育所支援センター、倉敷市:保育・幼稚園課担当
者および保育園園長)特に倉敷市では保育士として就職を考えている保護者の子どもが保
育所に優先的に入所できるよう配慮するといった全面的な支援体制があることを担当者が
説明していた。
また、2 回目の研修に先立ち、
「第 7 の壁:情報入手の困難」で述べられていた「保育士
登録制度」とその手続きに関するに対する情報不足という実態を考慮し、参加申し込みの時
に保育士登録の手引きが必要かどうかを尋ね、研修当日に希望者に配布したところ、26 名
が持ち帰った。
④卒業生に向けた持続的な就職情報提供について
今回の調査結果から我々は潜在保育士の復職を阻む要因を「壁」というキーワードでと
らえ、7 つの「壁」の存在を明らかにした。その第 7 の壁が「情報入手の困難」である。
保育士登録制度に関する情報のみならず、求人情報等の情報が簡単に得られることが必要
49
である。そのことに加え、本学における卒業生の就職支援の現状を鑑みると、卒業生に対
する就職支援を「継続・持続・連携 」というキーワードでとらえる必要がある。つまり、
支援は継続して行うものであり、支援する側の過剰な負担増にならないよう持続可能なも
のでなければならない。そのためには学内、学外との様々な連携が不可欠ということであ
る。また、情報入手のしやすさも重要である。そこで、専門職に関する情報の提示を継続
的かつ持続的な卒業生の就職支援と位置づけ、本学ホームページ上に「潜在保育士プロジ
ェクト」のバナーを設置することにした。図 6 は、平成 26 年度卒業生に向けて作成した
「幼児教育学科の卒業生に対する就職支援」に掲載した内容の一部である。図 6 にあると
おり、現在のバナー内の構成は、復職への支援研修会の案内、復職応援サイト情報へのリ
ンク(全国の福祉関連のサイト 福祉のお仕事、岡山県ハローワーク、岡山市保育士・保育
所支援センター)である。今後は今回の調査結果も加える予定である。
ただし、目下の課題はこのバナーの存在を学生や卒業生に対して周知させていくことで
ある。まずは卒業生に第 2 回の研修の案内を郵送した際にこのバナーの紹介をした。また、
このバナーのことを含めた卒業後の就職支援体制を学生に周知させる目的で、図 6 の内容
が記載されている「幼児教育学科の卒業生に対する就職支援」を作成して卒業式当日に配布
することにした。今後は同窓会のホームページ上にも同じバナーを設置するとともに、同窓
会会報でも取り上げて卒業生への周知を図っていく予定である。
本学(または同窓会)ホームページ内にあるこのバナーをクリック
↓(クリックすると、以下の情報が得られます。
)
◆ 復職への支援研修会
◆ 復職応援サイト情報
以下のサイトにリンクが張られています。
全国の福祉関連のサイト 福祉のお仕事(こちらをクリック)
岡山県ハローワーク(こちらをクリック)
岡山市保育士・保育所支援センターについて(こちらをクリック)
図 6 「幼児教育学科の卒業生に対する就職支援」に掲載した内容
50
3)取り組みとその結果から見えてきた養成校の役割と課題
リストの作成と発送については、現在までの学科やキャリアセンターの就職支援体制や
支援の実態を土台として、当プロジェクトにおいて本学独自の取り組みを行ったといえる。
その結果は 2 名の就職というものであったが、リストが転園のきっかけとなって卒業生の
行動を促したことは間違いない。2 名は現職保育士であったため、潜在保育士の復職とはな
らなかったものの、離職率の高い保育士が離職を踏みとどまったことには大きな意味があ
る。アンケート調査結果で明らかになった、第 4 の壁である「施設の方針・理念・文化」が
離職を考える原因であり、新たな就職先に期待する部分でもあることが、リストを見て行動
した卒業生の様子からうかがうことができ、調査結果が実態を反映していることが分かっ
た。転園先の施設の方針・理念、雰囲気のような職場内文化が今度こそ本人たちの望むもの
であることを願わずにはいられない。
また、研修参加者の感想には「潜在保育士復職を阻む壁」のうち、第 6 の壁である「自信
の喪失」につながる「ブランクがあるため、忘れかけていたことを思い出せよかった」とい
う内容があった。これも、研修参加者の実態が調査結果と一致していることを示している。
ここからは調査結果や潜在保育士復職支援の具体的な取り組みを通して見えてきた養成
校の役割と課題について述べることにする。
今回の取り組みを通して養成校には、3 つの役割があると考えられる。第 1 には、研修機
関としての役割である。保育士として復職する自信を得るために、研修機関として今後も今
回の取り組みのような研修の機会を設けることが可能であるが、学生の実習機関として機
能している本学附属幼稚園の活用も将来的には見込まれる。また、本学で実施している子育
て支援関連のイベントへの参加を潜在保育士の研修内容の一つに位置付けることも可能と
思われる。
第 2 には、情報提示機関としての役割である。本学ではホームページ上に「潜在保育士プ
ロジェクト」のバナーを設置したことがこれに当たる。ここでいう情報とは、調査結果の公
開や研修情報の案内のほか、全国や各自治体の就職サポートサイトへのリンクである。すで
に、保育現場からは調査結果の公開を望む問い合わせがきている状況である。問い合わせの
主旨は、調査結果をもとに保育士の待遇改善を目的として自治体と交渉する材料としたい
というものであった。本学の取り組みに対し、このように保育現場が関心を持っていること
から、アンケート調査結果を公開して保育現場への還元を計ることは今後の課題の一つと
いえる。
そして第 3 には、専門職に就いた卒業生の離職を踏みとどめる防波堤の役割である。こ
れについてはすでに行っている卒業生への就職支援として述べているとおり、本学キャリ
アセンターや学科で、卒業生の就職の悩み相談に個別対応して離職を防ぐ取り組みを行っ
ている。しかしながら教職員は在学生に対する教育や支援が本来の業務であるだけに、その
対応にはおのずと限界がある。現職保育者の離職を阻止するには、自治体等で相談窓口を設
けるなどの対応が望まれる。
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潜在保育士の復職や現職保育者離職阻止のために、保育士養成校としてどのような役割
が果たせるのか、一定の道筋が見えたと考える。また同時に、養成校で行うことの限界も見
えてきたといえる。このような養成校の役割が効果的に発揮されるために重要になってく
るのは、自治体あるいは自治体間、専門職への就職を支援する機関、保育現場等との連携で
ある。復職のための研修を養成校単独で企画・広報・実施するだけでは情報が広がらない。
自治体が発行する広報誌へのそうした情報掲載は一定の情報伝達効果が見込まれるが、そ
れだけでは不十分である。なぜなら復職支援を行う機関や機会が増えれば、それらの時期や
内容の調整も必要になるからである。そのためにも、県のしかるべき部署に、情報を集約し
て潜在保育士の復職に向けた支援が効果的に稼働するような調整やマネージメントができ
る仕組み作りと人材の投入を強く望むものである。
3.展望
実態調査の結果から、種々のことが判明したが結論は慎重に導く必要があるであろう。例
えば給与や勤務時間、仕事内容、勤務日数等について問うと、保育士は幼稚園教諭と比較し
て給与の問題を提起する回答者が統計的にも有意に多い。他方、年齢構成をみると保育士は
40 代が最も多く、幼稚園教諭は 50 代が最も多かった。それゆえ給与の問題は、年齢との関
係を無視できない。
ところでこの年齢構成の違いはまた別の意味を有すると考えられる。保育士が 40 代を過
ぎて、すなわち幼稚園教諭より若くして減少していくのはなにゆえであろうか。様々な複合
的な要因が考えられるが、年齢的に継続が困難になりやすい傾向があることは本調査でも
明らかである。さらに子どもの有無では保育士・幼稚園教諭の 2 集団の比較では、p<.05 で
保育士の方が、子どもがいない確率が有意に高い。
もちろん年齢の最頻値が異なるという側面はあるが、保育士とて 20 歳を過ぎているはず
であるから、子どもを産みにくい、あるいは育てにくい原因があるはずである。どの職場に
もあり得ることではあるが、職場の人間関係の難しさも絡んでいるであろう。保育現場にお
ける人間関係の問題は、多忙さや勤務形態の在り方、待遇などの要因と交絡する。
さらに、保育所ではストレスフルな状況が生じやすいため、アサーション技法のような人
間関係を良好に保つ方法を身に付けるための研修が必要かもしれない。つまり、保育士には、
ただ単に仕事がこなせるのみならず、情緒の安定性、ストレスに対する耐性、アサーション
能力なども求められると言える。
このように多くの変数が複雑に絡み合っている状況の中ではあるが、アンケートの結果
から幼稚園教諭よりも保育士として就職する者が多い。
学校と福祉施設という違いが存在するが、アンケートの中では捉えきれない微妙な意識
について検討する必要がある。東京都福祉保健局の東京都保育士実態調査報告書 p.34(平成
26 年 3 月)に記されているように、保育士に対してマイナスイメージが存在している。限
られた時間の中で種々の行為をこなしていくのは、本当は高い能力と体力があるからこそ
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可能なのである。このような、社会において多くの人が有するマイナスイメージはともすれ
ば保育士の自信を失わせ、意欲喪失に陥る契機と成りえる点に注意する必要がある。
こう考えれば給与の問題の意味するところは個人と社会の相互作用として、深い問題に
繋がる。
すなわち、与えられた仕事に対して、その処遇に対して、またさらにその社会的評価に対
する補償としての意味を有する。保育行為は極めて重要でかつ能力を要しつつも重労働で
あるがゆえにこそ、十分な補償が必要なのであり、給与などの処遇はさらに良好に成るべき
であろうと考えられる。
保育とは誠に尊い仕事である。すなわち人の一生を方向づける乳幼児期において、乳幼児
が親、特に母親代わりに慕い、保育士との相互作用を通じて共に成長することで、保育行為
は成立する。
またこの調査において、多くの保育士は、特に子どもの成長を感じられた時、やりがいを
「良く感じる」と答えている(B09-2)
。
「ときどき感じる」を含めるとそれは回答者の 94.1%
に上る(同)。このような保育士にとってのやりがい、生きがいをより深く検討し、保育士自
身の自己実現を援助することこそ大切なことと言える。
もちろん乳幼児には個人差があり、成長の度合いも個人によって異なるために、保育士に
は忍耐も必要とされる。
保育には、保育士一人ひとりの力量が大切である。そのためには保育所内外での研修も欠
かすことはできない。岡山県においては平成 26 年度、潜在保育士のための研修会が、県か
ら委嘱を受けて、3 つの養成機関(短大・大学)において行われた。これらの研修は今後も継
続していき、可能な限り潜在保育士のみならず現職の保育士も参加出来るように工夫する
ことによって、保育士の力量を高めることに寄与するであろう。保育士をやめる原因として
「職場の方針に合わない」
「仕事が自分に合わない」というものは本調査でも少なくない。
離職防止を目的とした雇用者側の研修も充実させていく必要があるだろう。また、保育士の
能力を十分に引き出し伸ばすためには、職場環境の整備も欠かせない。保育士の成長を促す
ことのできる上司、社会的保障制度、保育士自身が健康な生活を送れるような職場環境と勤
務形態、そして仕事量に見合った給与の支給が
必要である。これらが保育士自身の不断の努力
と研修と相まってこそ、より望ましい保育士が
働く良い職場環境と成り得るであろう。これら
のことが質の高い保育へと繋がると言える。
さらに、保育士のイメージアップにつながる
CM を流すことも有効であろう。
「もんげー保育
士」
「でーれー保育士」などの岡山県ならではの
キャッチコピーで親しみを持たせ、保育士に対
図 7 保育士イメージアップイメージ図
するポジティブなイメージを浸透させる。近
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年 CM によりイメージが改善された職業として、自衛官などがそのよい一例であろう。
また、近隣への就職を希望する人が多かったことから(D02-1)施設検索のアプリを開発
し、スマートフォンなどの携帯端末で居住地周辺での施設情報を閲覧することが出来るよ
うにする。例えば、不動産情報検索のようなシステムである。
以上のような具体的な取り組みを行うことで、潜在保育士の復職を促進することが出来
ると考えられる。
図 8 求人中保育所の検索アプリイメージ図
註
1)専門職とは、幼児教育学科で取得できる免許や資格を生かした職種のことである。幼稚園教諭、
保育所保育士や施設保育士などがこれに該当する。
2)職業安定法の第 4 節には学生若しくは生徒又は学校卒業者の職業紹介等という記述があり、第
26 条として次のような内容が記されている。
「公共職業安定所は、学校教育法(昭和 22 年法律第 26
号)第 1 条に規定する学校(以下「学校」という。)の学生若しくは生徒又は学校を卒業した者(政令
で定める者を除く。以下「学生生徒等」という。)の職業紹介については、学校と協力して、学生生
徒等に対し、雇用情報、職業に関する調査研究の成果等を提供し、職業指導を行い、及び公共職業
安定所間の連絡により、学生生徒等に対して紹介することが適当と認められるできる限り多くの求
人を開拓し、各学生生徒等の能力に適合した職業にあつせんするよう努めなければならない。」ま
た、そのため学校による公共職業安定所業務の分担が第 27 条で認められている。その分担業務と
は次に掲げるものである。
一 求人の申込みを受理し、かつ、その受理した求人の申込みを公共職業安定所に連絡すること。
二 求職の申込みを受理すること。
三 求職者を求人者に紹介すること。
四 職業指導を行うこと。
五 就職後の指導を行うこと。
六 公共職業能力開発施設(職業能力開発総合大学校を含む。)への入所のあつせんを行うこと。
当プロジェクトでは上記の業務を行うことはできないため、既卒者対象の求人をしている岡山県内
私立保育所のリストについては、上記の法令に抵触しない内容と活用方法にした。
3)保育者とは、ここでは幼稚園教諭と保育士の両方を指す言葉として用いている。
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Ⅳ資料
1 調査票
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57
58
59
60
61
62
63
64
<潜在保育士復職支援プロジェクトメンバー>
(平成 27 年 3 月現在)
プロジェクトリーダー 幼児教育学科学科長 教授
看護学科 教授 村田 幸治
生活心理学科学科長 教授
近藤 卓
生活心理学科 准教授 松浦
美晴
生活心理学科 准教授 上地
玲子
生活心理学科 講師 神戸 康弘
幼児教育学科 教授 鈴江 毅
幼児教育学科 講師 鳥越
亜矢
幼児教育学科 講師 森 英子
事務 定藤
容志枝
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皆川 順
保育士に関する調査報告書(平成 26 年度岡山県委託事業)
発行日:平成 27 年 3 月
発行者:山陽学園大学・山陽学園短期大学
潜在保育士復職支援プロジェクト
住
所:〒703-8501
岡山県岡山市中区平井 1 丁目 14-1
電 話:086-272-6254
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