黒毛和種肥育牛における創傷性肝膿瘍の1症例

黒毛和種 肥育 牛における創傷性肝膿瘍 の1症例
西播基幹家畜診療所
○柳澤義人
𡧃﨑敬与
菅
保礼
玉井
登
小田修一
森本啓介
肥育牛における肝膿瘍は肥育期の濃厚飼料多給に起因するルーメンアシドーシスによ
り 引 き 起 こ さ れ る こ と が 多 い 。今 回 ,肝 炎 に て 加 療 し た が 回 復 し な い 症 例 に 対 し 病 理 解 剖 検
査 を 実 施 し た と こ ろ ,第 四 胃 壁 を 貫 通 し た 金 属 性 異 物 の 刺 入 が 原 因 と 考 え ら れ た 創 傷 性 肝
膿瘍であった。
材料および方法
農 場 の 概 要 : 約 440 頭 飼 養 の 県 内 黒 毛 和 種 牛 肥 育 農 場 。
症 例 : 2012 年 9 月 27 日 生 ま れ の 黒 毛 和 種 去 勢 牛 で ,2013 年 7 月 18 日 に 導 入 。
臨 床 経 過 : 2014 年 5 月 23 日 に 食 欲 不 振 の 主 訴 に て 求 診 。 初 診 時 , 削 痩 著 明 ,被 毛 粗 剛 ,体
温 39.1℃ , 活 力 低 下 ,食 欲 不 振 ,肺 音 粗 励 ,黄 色 水 様 便 を 呈 し ,血 液 検 査 に て AST の 顕 著 な 増
加 (1412U/L)と T-Bil の 増 加 (1.5mg/dL)が み ら れ た 。補 液 剤 ,抗 生 物 質 ,デ キ サ メ タ ゾ ン お よ
び 強 肝 剤 に て 加 療 し た が ,体 温 お よ び 食 欲 不 定 ,下 痢 便 と 硬 固 便 を 繰 り 返 し た 。6 月 13 日 よ
り 左 側 下 腹 部 に て 有 響 性 金 属 音 を 聴 取 し ,背 弯 姿 勢 を 示 し た 。 食 欲 ,活 力 と も に 回 復 せ ず ,
徐 々 に 削 痩 進 行 す る た め ,7 月 3 日 に 姫 路 家 畜 保 健 衛 生 所 に て 病 理 解 剖 検 査 を 実 施 し た 。
結
果
血 液 検 査 : 解 剖 時 ,WBC 221 × 10 2 / μ L,RBC 1088 × 10 4 / μ L,TP 7.4g/dL,A/G 0.32(Alb
1.8g/dL,Glb 5.6g/dL),T-Chol 19mg/dL,AST 498U/L,GGT 32U/L,T-Bil 0.8mg/dL で あ っ た 。
電 気 泳 動 : α 2 -Glb,γ -Glb の 顕 著 な 増 加 お よ び β -γ ブ リ ッ ジ 形 成 。
病 理 解 剖 検 査 : 第 四 胃 壁 に 約 6cm の 金 属 性 異 物 が 貫 通 し ,粘 膜 面 に 多 数 の 穿 孔 痕 を 認 め た 。
肝 臓 は 腹 膜 や 横 隔 膜 と 著 し く 癒 着 ,右 葉 は 線 維 素 の 塊 で 覆 わ れ ,漿 膜 面 に 穿 孔 痕 を 認 め た 。
白 色 膿 瘍 を 多 数 形 成 し ,右 葉 実 質 は 複 数 の 直 径 3~ 5cm の 巨 大 膿 瘍 に よ り 破 壊 さ れ て い た 。
肺 は 右 中 葉 ,後 葉 に 白 色 膿 瘍 を 多 数 形 成 ,胸 膜 や 横 隔 膜 と 癒 着 し て い た 。
細 菌 検 査 : 肝 臓 ,肺 の 膿 瘍 か ら Arcanobacterium pyogenes を 分 離 。
病 理 組 織 検 査 : 肝 臓 は 重 度 線 維 化 ,膿 瘍 内 に 細 胞 退 廃 物 充 満 ,周 囲 に マ ク ロ フ ァ ー ジ が み ら
れ た 。 肺 膿 瘍 内 は 細 菌 塊 ,細 胞 退 廃 物 を 認 め ,周 囲 に 好 中 球 ,マ ク ロ フ ァ ー ジ が み ら れ た 。
考
察
第 四 胃 壁 を 金 属 性 異 物 が 貫 通 し , 肝 臓 漿 膜 面 に 穿 孔 痕 を 認 め た こ と か ら ,金 属 性 異 物 の
刺 入 に よ り 細 菌 感 染 を 起 こ し ,肝 膿 瘍 が 形 成 さ れ た た め ,体 温 お よ び 食 欲 の 不 定 ,不 整 便 等
の症状がみられたと考えられた。肺病変は分離された細菌が肝臓と同一であることから,
血 行 性 あ る い は 肝 臓 と 癒 着 し た 横 隔 膜 か ら 波 及 し た 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。今 回 の 症 例 で は ,
金 属 性 異 物 が 病 態 の 形 成 ,進 行 に 関 与 し た 可 能 性 が 高 い た め ,肥 育 牛 へ の パ ー ネ ッ ト 投 与 を
再考する必要があると思われる。