1.USガイド下PTCD(PTBD) −基本手技とデバイス選択−

第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:伊佐山浩通
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PTBD
1 . US ガイド下 PTCD(PTBD)
−基本手技とデバイス選択−
東京大学医学部 消化器内科
伊佐山浩通
はじめに
胆道ドレナージは胆道 IVR の基本であり,必要不可
欠なルートである。近年,内視鏡的胆道ドレナージの
発達に伴い,その症例数は減少傾向ではある。しかし,
選択的なドレナージや,確実な胆管炎のマネージメン
トなど,今後も必要であり続ける手技であると考えて
いる。本セミナーでは,PTCD の基本的な手技を解説
するが,標準手技が存在しないので,各ステップにお
いて必要な事項を整理し,症例に応じて選択できるこ
とを心掛けた。また,デバイスに関してもその特性を
理解し,使用すること,症例に応じて選択することを
念頭に解説した。なお,本稿の内容は関東胆膵 IVR 研
究会(代表世話人:伊佐山浩通,共催:メディコスヒ
ラタ)
において討論されたものがベースになっている。
PTBD(PTCD)の歴史
オリジナルのテクニカルタームは PTBD ではなく
PTCD である。帝京大学の高田忠敬先生によって開発
1)
された PTCD は世界に広く普及し ,胆道疾患治療の
基本となった。当初は影像下直達法であったが,東
京大学の幕内雅敏先生により超音波ガイド下の手技が
2)
開発された以降は ,PTCD の進歩は超音波の機械と
デバイスの進歩によるところが大きい。太い胆管のみ
ならず,非常に細い胆管をドレナージする技術も発達
してきた。近年の PTCD 技術は超音波観測装置の発展
に負うところが大きい。また,最近の潮流は One step
法から Two step 法への移行である。これは,外科医
中心で始まった手技が内科,放射線科に広まった背景
とも関係している。いざとなれば開腹可能な技術を有
する外科医と,有していないその他の医師では,でき
るだけ細い針で刺したいという気持ちに差があるのは
当然であろう。また,それを支えるデバイスの進歩が
あったことも事実である。内視鏡全盛の時代となり,
PTCD が必要なのは細い胆管ばかり,という事態や,
教育目的で若い医師に穿刺させたときに,失敗すると
太い針では胆管が虚脱するが,細い針ではやり直しが
きく,ということも選択の理由であろう。
PTCD 手技の全体の流れ
前処置→穿刺部位決定→局所麻酔→穿刺→ GW 挿入→
瘻孔拡張→カテーテル挿入
というのが全体の流れである。これに沿って解説を加
えていきたい。
前処置
鎮静:呼吸が止められないといけないので,ジアゼパ
ムやミダゾラムのような薬剤の使用は通常しない。鎮
痛剤のみの使用にとどめる。呼吸を止める必要がなく
なった guide wire 挿入後には鎮静剤の使用が勧められ
る。硫酸アトロピンは迷走神経反射を防ぐために,可
能であれば投与する。
穿刺部位決定
中下部胆管閉塞時:左肝内胆管(B3 > B2)が第一選択
である。これは肋間からの穿刺と比較した合併症の少
なさを主体とした選択である。肋間アプローチは肋間
動脈損傷,胸膜炎(このルートは必ず胸腔を通る)
,カ
テーテル逸脱が多く勧められない。右でなければなら
ない理由がある時にそちらを選択するのは当然であ
る。左肝内胆管穿刺時には,肝表面に腸管が無いこと
を確認する。前もって CT で確認しておくことと,腸
管であれば蠕動があるので,超音波でよく観察するこ
とが重要である。
肝門部胆管閉塞例:穿刺は必要な胆管枝の可能な限り
末梢から穿刺する。ただし,その後の処置,たとえば
胆道鏡のルートであるとか,ステント留置位置などを
考えて部位を決定する。この場合には必ず MRCP 等
で全体像を事前に把握しておく。
肝門部胆管癌の術前ドレナージ:切除予定肝はドレ
ナージせずに萎縮させるので,残存予定肝のみドレ
ナージする。事前に外科医に相談することが重要であ
るが,実際に手術をしてくれる外科医と直接討論でき
ないときには,ドレナージをせずに当該施設に送った
方が患者さんのためである。切除予定肝をドレナージ
すると,かえって手術の妨げになるので,刺しやすい
方をドレナージするというのは言語道断である。
局所麻酔
麻酔剤を吸うときにシリンジ内に空気を入れない
(超音波画像が不良になるからである)。超音波ガイド
下に肝表,腹壁裏面を十分に麻酔する。麻酔が不十分
(421)49
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だと患者の体動により手技に集中できなくなる。
特に肋間穿刺ではやりにくい
心窩部での穿刺部位制限あり
コンベックスタイプ+外付けアタッチメント
長所:画質が良好
安価
(アタッチメントのみ購入)
角度調整が容易
針の遊びを調整できる
短所:穿刺部位が不可視
穿刺部位に制限有(アタッチメントがプロー
ブの外側についている)
中割れ式コンベックス(図 1b,c,d)
長所:穿刺部の描出が良好
画質が良い
心窩部でも穿刺部位制限が少ない
曲面なので皮膚面から浮きにくい
短所:アタッチメントが外しにくい
穿 刺
超音波観測装置の選択のポイント
細い胆管穿刺時には解像度の差が大きいので,超
音波観測装置はできるだけ高性能のものが望ましい。
PTCD は治療であり,機械の性能によって成功率,合
併症発生率ともに影響を受けるので,できるだけ解像
度の高い機械を使用したい。少なくとも院内中で最も
良い機械で施行したいものである。
穿刺用プローブの選択のポイント
通常観察と同等の画質が望ましく,穿刺部位制限の
有無が少ない方が良い。心窩部にはリニアー型は入ら
ない。また,穿刺部位の直下が見えることも重要であ
ると考えている。アタッチメントの選択に関しては,
はずし易いか(肝損傷)
,穿刺角度設定の自由度が高い
か,針の滑りが良いか,遊びが少ないか,などがポイ
ントである。
上記の選択のポイントを考慮した各種プローブの利
点,欠点を列挙する。
リニアータイプ
(図 1a)
長所:穿刺部の描出が良好
短所:描出能力が Convex よりやや劣る
穿刺角度の調整が困難
Probe の接地面が平らなので,皮膚から浮き
やすい
穿刺針の特徴
針に求められる特性は直進性,切れ味,GW の誘導
性,超音波ガイド下の視認性の 4 つである。ストレー
ト針は直進性には優れるが,GW を誘導する力はなく,
穿刺後に挿入した GW が後ろ側の壁を突き破ってしま
うことがしばしばある。穿刺針の各先端の特徴を表1,
図 2 にまとめたので参照されたい。
b2
a
b1
d2
c2
c1
50(422)
c3
d1
図1
超音波ガイド下穿刺専用プローブ
専用モデルの利点は穿刺部の真
下が見えることである。
a : リニアー型プローブ(Aloka 社
製)
:皮膚接地面が平らなため,
皮膚面から浮きやすい。幅があ
るので心窩部には入りづらい。
b : 中割れコンベックス(日立社
製):比較的画質も良く,どこ
でも穿刺可能。アタッチメン
トが改良の余地あり。
c : 中割れコンベックス 新モデル
(日立社製)
:b の改良版。針が
はずしやすくなった。
d : 先割れコンベックス
(東芝製)
:
穿刺角度が広くなったモデル。
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穿刺プローブの当て方と穿刺時の注意点
穿刺開始から胆管 puncture まで同一画面を描出し
続けることが重要である。穿刺の途中で画面がみえな
くなると正確な穿刺は難しくなる。穿刺はプローブの
向きに規定されているからである。針を刺すことより
もプローブを動かさないことに注力したい。Probe を
持つ手を浮かさずに手掌を体表にしっかりつける,穿
刺時に浮かないように押し付け気味に。
また,針の途中を持つことは針が曲がってずれを生
じることにつながることと,針の切れが悪くなるので
やらない方が良い。内針で切っていくのが基本なので,
針の頭を押すのが基本である
(図 3a)
。
刺す時は一気に刺す(上手でないとできない)方がず
れが少ない。呼吸は中間位で刺すが,患者さんによっ
ては呼吸が止められないので,最も長く呼吸が止まっ
ているときに刺す。このときも一気に刺した方が良い
が,分けて刺す時は画面に針と目的胆管が描出された
らすかさず刺す。中間位で刺した方が,留置後の逸脱
が経験的に少ない。
GW が胆管に入ったかどうかの確認
ポイントは胆管内かどうかの判定が確実かどうか,
GW 挿入までの時間をできるだけ短く(長いと針が抜
けてしまう)することである。
穿刺針から胆汁がでたからといって,必ず胆管に入
るとは限らない。そのために穿刺針には GW 誘導性能
も求められるわけではあるが,GW が確実に胆管内に
表 1 穿刺針の種類と特徴
S
H
D
良
普通
優
切れ味
優
普通
不良
GW の誘導性
普通
優
不良
直進性
視認性
メーカーごとに異なる
S; Straight type,H; Huber type,D; Diamond cut type
入ったかどうかの確認が必要である。確認から GW 挿
入に手間がかかって針が胆管から抜けてしまったり,
胆管ではなくグリソン鞘や肝動脈,門脈内にチューブ
を留置してしまったり,このステップで様々なトラブ
ルが起こりうる。
超音波ガイド:超音波の腕が必要であり,かつある程
度以上の太さの胆管
(3㎜以上は必要)
でないと難しい。
しかし,ちゃんと見えれば胆管内かどうかが確実であ
り,造影の手間が要らないので早くできるのが利点で
ある。
透視下(造影なし):GW 挿入までの時間は短いが,ど
この脈管に入っているかわからないのであまり勧めら
れない。チューブが入ってから造影して確認するので,
その時点で胆管以外の脈管に入っていることがある。
透視下(造影有)
:最も一般的で,わかりやすい。しか
し,二次元なのでグリソン鞘や門脈,動脈に入っても
わからないことがあるのが欠点で,注意が必要である。
また,造影している間に抜けてしまうことがある。
a
b
c d
図 2 各種穿刺針の形状
a : 21G ストレート針
(シルックス社製)
b : 18G Huber 針
(クリエートメディック社製)
c : Huber 針使用の実際:先端が湾曲し GW
誘導性に優れるため,鈍角の穿刺でも胆
管内への GW 誘導が可能である。
d : ストレート針使用の実際:先端の切れが
よいのが特徴。GW の誘導性能はないの
で,向かってくる胆管に鋭角に穿刺する
のにむいている。
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皮 切
皮切を穿刺前に行うか,後に行うかは施設ごとに多
少の差がある。以下にそれぞれの利点,欠点を挙げる。
穿刺前皮切:利点としては,針の穿刺が容易,針の穿
刺時のズレが少ないといったものであるが,欠点は穿
刺点を変更できない,皮切部に入った空気により,超
音波画像が不良になることである。簡単で太い胆管に
対しては有効である。
穿刺後皮切:利点としては自由に穿刺点を変更できる
ことであり,細く難しい胆管で何回も穿刺する場合に
有効である。また,皮切部に空気が入らないので,超
音波画面は見やすい。欠点としては,穿刺時に針がズ
レることがある(針の切れがよくなり改善)
,穿刺時に
皮膚がたわんで一瞬画面が見えなくなる,穿刺時に皮
膚がズレて穿刺してしまうことがある,などである。
皮下剥離
皮切に引き続いて行われるので,タイミングは皮切
に準じる。施行のポイントについて述べる。剥離に用
いるものはなるべく先端が細いものを選択(コッヘル
やモスキート鉗子)
。GW に沿わせて十分に行い,時
には透視下で GW を描出しながら行う。GW との摩擦
を感じながら徐々に深部に進めていくのがコツであ
る。剥離不十分だとカテーテル挿入時に抵抗になり,
初心者でカテーテルが入らないと訴えるときは大概剥
離不十分である。
ガイドワイヤ
(GW)
の選択と比較
PTCD の手技でどのような場面で GW を使用するか
をまずは考えてみたい。穿刺時に針から出て胆管内へ
入る時の誘導性能,穿刺後目的位置まで先進,針を抜
去しカテーテルを胆管内へ入れる時の誘導性能,狭窄
の突破性能,などである。
使用する GW は大きく分けて 2 種類である。スプ
リングワイヤと Radifocus に代表される親水性のすべ
りの良いタイプである。スプリングワイヤはスタン
ダードで,多少すべりは悪いが,経皮的治療では逆に
程よい。しかし,胆管内での先進はやや不良である。
Radifocus は非常に滑りが良くて先進性も非常に良い
が,滑りすぎるため熟練者でないと逸脱して危険なこ
とと,穿刺針から挿入時にコーティングがはげる危険
性が高いため,穿刺時に使用するのは勧められない。
逸脱防止にはコッヘル等で把持することが肝要であ
る。しかし,狭窄突破,胆管枝の選択性能に関しては,
Radifocus は秀逸である。
先端形状にもこだわりたい。J 型,アングル型,ス
トレート型の 3 種類がある。
J 型:穿刺針から出た時に巻くので胆管内に誘導しや
すい。側枝に引っかかることが少ないが,胆管枝の選
択性は不良である。0.018 inch ではカテックス社製の
ヘアーワイヤのみである。
a b
c
図 3 手技の実際
a : 穿刺時:針の頭を押す事と,プロー
ブ体表につけてしっかり固定する事
が重要である。
b : カテーテル交換時:GW を小指,薬
指で固定し,人差し指と親指でカテー
テルを持つ。カテーテルを押しなが
ら,逆の手でテンションをかける。
このポジションだと被曝に注意する。
放射線の照射野に手が出ないように
十分注意する
c : 左胆管枝を穿刺する場合は右手でカ
テーテルを押して,左手で GW を操
作したほうが被曝が少ない。カテー
テルを押す方向も合いやすい。
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アングル型:0.018 inch では主流であるが,0.035 inch
では殆ど Radifocus しか使用されていない。Radifocus
は穿刺時には胆管壁を貫いて,肝実質内へ入ってしま
うことが多い。0.018 inch の GW でも同様である。胆
管枝選択,狭窄突破で有効。
ストレート型:胆管内への誘導に苦労する。胆管壁を
突き抜けて肝実質内へ進んでしまう。
多孔式のチューブを交換する時に便利。多少アング
ル様にカーブを付けた方がトルクが効いて使い易い。
先端軟性部の長さについて:あまり気にされる方は少
ないかもしれないが,短い方が使いやすい。長いと先
端が負けてしまって進まない。胆管内への挿入長が短
いときにデバイスが追従できない。
カテーテルの挿入
GW とカテーテル挿入の方向性を合わせることが重
要である。無駄なく力をカテーテル先端に伝えるため
である。もう一つ重要なことは GW を引いてテンショ
ンをかけることである。カテーテルが進む分 GW を引
くのが基本であるが,狭窄部の突破の時には GW をか
なり強く引くことを意識するとよい。スムースな挿入
に重要なことであるが,狭窄部の突破の時に違いがで
る。中指,薬指,小指の 3 本で GW を持ってテンショ
ンをかけ,親指と人差し指でカテーテルを持って押す
(図 3b)
。右手で GW を操作し,左手でカテーテルを
挿入していく医師が多く,GW 操作に重きを置いた手
技であるが,放射線被曝を考慮し,左枝と右枝では変
えてほしい。胆管左枝の穿刺の際には,左手でチュー
ブを押すのは GW と方向が合わず,左手への直接被曝
があるので,薦められない。右手でチューブをおして,
左手で GW にテンションをかけることに習熟するべき
である(図 3c)。一方,胆管右枝では,放射線被曝に
関しては違いがなく,左手でチューブを押す方が方向
が合いやすく,GW のテンションもかけやすいようで
ある。
ダイレーターの挿入
皮膚,腹膜,胆管壁を貫通し,瘻孔を広げることが
目的である。意外に決まっていないのは,どの太さか
ら拡張を始めるか?である。細いサイズから始めた方
がスムースではあるが,回数が多くなり,患者苦痛は
増す。経験的に決めていくしかない。どこまで拡張す
るかについては,留置するカテーテルのサイズに合わ
せることでおおよその一致を見ている。ダイレーター
は硬いので穿刺の方向にあわせて挿入することがより
重要である。GW の自然な向きを見て,進めるべき方
向を判断すると良い。ダイレーターを選択するときは
先端の鋭利さ,GW との段差を基準に考える。図 4 で
図 4 各種ダイレーター
a : 通常のダイレーター(クリエートメディック社製)
b : Coons dilator(クック社製)
:先端がシャープで GW との段差が少なくなっている。
c : 2 step 用 3 重式ダイレーター(クック社製)
:金属の内針,先端シャープな内筒,0.035 inch GW が挿入
可能な外筒からなっている。
d : 同軸ダイレーター(クック社製)
:段差の少ない拡張カテーテルを順次かぶせて挿入していき,瘻孔の
拡張を図る。
e : スクリューダイレーター(Inter V 社製)
:先端スクリューになっていて,太いダイレーターをねじ込ん
で挿入していく。思ったよりも軽い挿入が可能である。
a c
d
b
e
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はクリエートメディック社製通常のモデルと,クック
社製の Coons Dilator を提示した。
特殊なダイレーター:図 4 には 2 step 用のクック社製
3 重式ダイレーターも提示した。先端が非常に鋭利で
かつ 0.018 inch の GW との段差が小さくて使いやすい。
胆管壁が切れたら内針の金属はそれ以上進めずに,2
本の外筒を進める。一番外側は0.035 inchのGWが通る。
使用上の注意は,GW よりもコシが強いので,胆管壁
を貫くときに勢い余って後ろ側の壁も突き抜けてしま
うことがあることである。
瘻孔を一気に拡張するときに有用なのが,同軸ダイ
レーター(図 4d)とスクリューダイレーター(図 4e)で
ある。どちらが良いともいえないが,スクリューの方
が確実で軽い感じがする。まだ普及していないので,
意見は固まっておらず,両方試してみられたい。
カテーテル選択のポイント
挿入性能:先端もドレナージホールとなっているので,
全般的にテーパー不足である。挿入しにくい製品があ
るので気を付ける。
逸脱防止:肝表面,皮下でのたわみによる逸脱が多い
ので,瘻孔ができるまでは,逸脱防止に優れたカテー
テルを使用する。肝表面でたわまないようなブレード
入りの硬いチューブか,バルーン,
(糸付)Pig tail のよ
うなストッパー機能を有する製品を選択した方が良い。
瘻孔のできやすさ:ポリエチレン製の方が炎症を惹起
して繊維性の瘻孔ができやすい。
患者苦痛の少なさ:やわらかいチューブ(シリコーン)
は患者苦痛が少ない。
バルーンつき内外瘻(図 5):逸脱防止,内瘻化,複数
領域ドレナージ,など用途は幅広く,常備しておきた
いカテーテルである。
One Step 法と Two Step 法
両手技の違いを表 2 にまとめた。2step 法は,細い
針で穿刺して,細い GW を挿入して,ダイレーター
で拡張し,0.035 inch の GW を挿入する。0.035 inch の
GW が挿入されてからは同じである。クック社製の 3
重式ダイレーターが秀逸である。
1step 法:針が太く(18G),コシがあるので胆汁逆流
a
b
c d
図 5 バルーン付内外瘻チューブ
(クリエートメディック社製)
逸脱防止のために狭窄の向こう側でバルーンを膨らませる。穿刺部から狭窄部までの距離が取れ
ないときに狭窄を突破してこのカテーテルをおくと,ドレナージ可能である。内瘻化以外に,対
側の枝に留置するなど,2 領域ドレナージが可能である。
a : 外観:先端から 9 ㎝まで 9 個の孔が開いている。
b : 先端:バルーンを膨らませたところ
c : 肝門部胆管癌で PTCD が 4 本入っている症例
d : B6 から入っているカテーテルが逸脱したので,狭窄を突破しその distal でバルーンを膨らませ
て逸脱防止を図った。
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表 2 One step 法と Two step 法の比較
One step
Two Step
穿刺針
18G
21G
針の超音波視認性
良好
やや不良
穿刺性能
良好
しなりやすい
胆管穿刺確認
胆汁逆流でわかる
造影するまでわからない
穿刺失敗時胆管虚脱
必発
少ない
Guide wire
0.035 inch
0.018 inch
手技
簡便
やや煩雑
合併症リスク
普通
やや少ない
Support tube
0.021 inch
Guide wire
うな時はなかなか次のカテーテルやダイレーターが
入っていかない。また,穿刺の角度が鈍角な時に 3 重
式のダイレーターを使用すると,腰が強いため,GW
が負けてしまい,胆管の逆側の壁を突き破ってしまう
事をしばしば経験する。慎重な手技が必要である。
サポートシステム(図 6):21G の穿刺針で 0.021 inch
GW を用いたシステムである。胆管への挿入性を向上
させるために,サポートチューブを作成し,その GW
との段差を極力少なくした。軟性部しか入っていない
ときでも追従する。さらに GW にこのチューブをかぶ
せた時には,
hard typeのGWと同じ位のコシが得られ,
0.035 inch に入れ替える必要がなく,後のチューブ交
換が容易になる。
終わりに
図 6 サポートシステム
(クリエートメディック社製)
筆者が考案した 0.021 inch GW を採用したシステ
ム。GW 挿入後のカテーテル挿入がスムースにで
きるサポートチューブ(GW との段差が少ない)を
GW にかぶせて一体化すると,hard wire 相当の硬
さになり,その後の手技に対してしっかりとした
サポート性能を発揮する。
がわかりやすく,直進性が良い。超音波画面での視認
性も良好である。反面,出血の危険性が高く,失敗し
た時には胆管が虚脱して再穿刺が困難となる。
2 step 法:針が細い
(21G)
ので出血の危険性が少なく,
穿刺失敗時にも胆管が虚脱する事が少ない。欠点とし
ては,穿刺針がたわみやすく,直進性が劣る事と,細
い GW でよいものがない,胆管に刺さっても逆流がわ
からない事が多く,造影するまでわからないこと,な
どである。細いGWは屈曲した胆管内での進みが悪く,
先端軟性部しか胆管内に入らないことがある。このよ
PTCD はなんとなく先輩から教えられた通りにやる
ものではなく,ステップごとに何が重要かを考える事
で手技は格段に上達する。本稿が会員諸氏の技術向上
に役立てば幸いである。
【参考文献】
1)Takada T, Hanyu F, Kobayashi S, et al: Percutaneous
transhepatic cholangiodrainage and cholangioscopy
for the cases of severe obstructive jaundice casused
by pancreatic tumor, In: Proceeding of the 18th
world congress of the international college of surgeons, Stefanini P, Speranza V, eds. Elsevier, New
York, 1972, p478 - 481.
2)Makuuchi M, Bandai Y, Ito T, et al: Ultrasonically
guided percutaneous transhepatic bile drainage: a
single-step procedure without cholangiography. Radiology 136: 165 - 169, 1980.
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PTBD
2 . 透視下穿刺法による PTBD
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 放射線科
熊野玲子,山内栄五郎
はじめに
透視下穿刺法は,透視上で造影されている胆管を透
視下に穿刺するという方法であり,慣れると拡張の
ない胆管も穿刺でき非常に有用な方法である。以下に
我々が行っている方法を簡単に説明する。
1. 22G の PEIT 針を用いて,超音波下に描出された胆管
を穿刺し,透視下に造影する事を第一とする。PEIT
針を用いるのは多孔のため,胆管に当たる確率が高
く容易に造影可能なためである。
US ガイド下で胆管が見えない拡張がないような時
には,門脈を目標に PEIT 針を穿刺し,傍を走って
いる胆管に当たるようにする。
2. 次にこの造影された胆管を透視下に 20G の PTBD 針
で穿刺し,あとは通常の方法と同様に行う。
ほとんどの施設は US ガイド下穿刺を第一選択とし
ていると思われるが,この場合も胆汁が引けるがうま
くガイドワイヤが送れなかった時には,適度に造影し
て胆管を確認してガイドワイヤ操作で探り胆管内に挿
入するであろう。この造影するのを最初から積極的に
行うのが透視下穿刺法と考えて良い。
US ガイド下のみでしか穿刺が出来ないと,超音波
で胆管拡張がほとんど無い場合や,中枢しか拡張して
いない場合,また高齢や体格の問題で超音波にて拡張
胆管がうまく描出出来ない場合などに,次の手立てに
困る事がある。このように,US ガイド下穿刺がうま
くいかない場合の次の手立てとして,非常に有用な方
法と思われる。ただ,US ガイド下穿刺が出来なかっ
たからと言って突然出来る方法ではないため,普段か
ら拡張の少ない胆管の場合はこの方法で行っておく方
が良いと考える。
また,US ガイド下穿刺法では
1. 超音波でうまく当たらず,何度か穿刺し,ちょっと
造影したりしていると,超音波画像がチラチラして
見にくくなり,やがて胆管と門脈が区別できなくな
り,穿刺がさらに困難になってしまう。
2. 超音波では,見えているところしか穿刺できず,見
える胆管を探すのに無駄に時間がかかり,結局入れ
られない。
など,しばしばもどかしい経験をした事があるかと思
うが,これに対し,透視下穿刺法だと,
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1 . に対しては,PEIT 針穿刺では,造影剤を出しなが
ら針を引いてくるので,胆管に当たっていなくて
もその経路が透視上に残るため,超音波が見えなく
なっても,次の穿刺は透視下でその経路を目印にし,
少し外して穿刺する事で当たる確率が高くなる。
2 . に対しては,PEIT 針は多孔であり,門脈を目指し
て穿刺しても胆管が造影される確率が高い。さらに,
透視上で全体が造影された胆管を穿刺するので,で
きるだけ末梢を選んで,どの胆管でも穿刺すること
が容易である。
など,非常に安心感があり,馴れれば,非常に簡単に
施行できる。このため,我々の施設では,よほど US
下で簡単に入りそうな症例以外は,この方法を第一選
択としている。
また,閉塞性黄疸の患者の胆管を造影すると胆管炎
などを生じるので禁忌などの意見があるが,全くの誤
解である。われわれは 1,000 例以上の PTBD を行って
来たがそのような経験は一つもない。
特に透視下穿刺法が有用な症例
基本は超音波で胆管が見えづらい症例となる。
①末梢胆管の拡張が乏しい,高齢や体型の問題で拡張
胆管が描出出来ない
(超音波で確認できない)
。
② US ガイド下でどうしても穿刺できなかった。
③ ENBD 後だが,どうしても PTBD をしてほしい,
・・・胆管拡張はもう残ってない。
④ US 装置が古く画像が見えづらいが,PTBD を依頼
された
(外勤先などで)
。
準備するもの
① PEIT 針(ディスポーザブル穿刺針 22G 200 ㎜)
クリエートメディック株式会社
②PTCD針
(メディキットPTCDキット 20G 長さ20㎝)
メディキット株式会社
③ラジフォーカスガイドワイヤ 0.035 150 ㎝ 先端柔
軟長 3 ㎝
テルモ株式会社
④ Amplats Super Stiff ガイドワイヤ 0.035 145 ㎝ 先端
柔軟長
(short taper)4 ㎝
⑤留置カテ-テルとして
P8 ASHIDA 8Fr. 50 ㎝ COOK,
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技術教育セミナー / PTBD
UreSil Drainage Catheter 8Fr. 24 ㎝ シーマン株式
会社,など。
その他,延長チューブ,10 ㎜ロック付きシリンジ,など。
PEIT 針を使用する理由
(図 1)
PEIT針は22Gであり,
本穿刺針の20Gと比較し細く,
穿刺回数が多くても,あるいは中枢を穿刺しても問題
となることはない。
PEIT 針は孔がいくつか開いており,単孔の穿刺針
と比べ胆管が造影される確率が高い。
手技の実際
図 1 PEIT 針は 22G で先に側孔がいくつか開いている。
付属の延長チューブの原液の造影剤を入れたロッ
ク付きシリンジを付けて造影する。逆流を確かめ
ようと陰圧をかけると閉塞してしまうため,陰圧
はかけない。
50 代女性で,画像の如く,胆嚢癌または胆管癌疑
いで閉塞性黄疸。中枢胆管は開いているが,末梢胆管
の拡張に乏しい症例
(図 2)
。
① CT 及び超音波で穿刺位置を確認し,次に透視下で
穿刺予定位置にペアンを置いて,深吸気で肺が重な
らないか確認(図 3)
。われわれはその後の IVR を考
え通常は右葉からの穿刺を原則としている。
②超音波下で確認できる胆管を PEIT 針で穿刺。
拡張胆管がわからなければ門脈周囲を穿刺。透視下
で造影しながら PEIT 針を引き,胆管が造影された
ら,その位置で造影剤を入れて胆管造影。この胆管
造影は必ずしも右葉から穿刺して造影することにこ
だわる必要はなく,正中から穿刺して右葉胆管を造
図 2 胆嚢癌または胆管癌(→)で,中枢の胆管拡張は
あるが,末梢胆管の拡張に乏しい。
図 3 穿刺目標胆管(→)
を CT 及び超音波で決め,透視下で肺が重ならない事を確認する。
(429)57
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影しても良い。
③胆管が造影されたら一枚写真をとっておく。
PEIT 針は,いつでも再度造影できるよう,また,
本穿刺の方向の参考とするために抜かずにそのまま
の位置に置いておく
(図 4)
。
④目標胆管が PEIT 針の穿刺されている胆管と同じで
良ければ,側面と正面で方向を確認しながら PEIT
針に沿わせて本穿刺針を穿刺
(図 5)
。
⑤目標胆管が PEIT 針よりも末梢胆管なら,側面にし
て目標胆管が PEIT 針の胆管より腹側なのか,又は
背側なのかを確認。
その方向に合わせて少し本穿刺針を進める。
その後,正面にもどして頭尾方向を確認しながら目
標胆管まで針を進める。
本穿刺針の前にカテラン針で方向を確認するとさら
に安心
(図 6)。
⑥胆管に当たると胆管が歪む。
もし当たらなければ,本穿刺針を置いたまま再度側
面にし,穿刺針と目標胆管との関係を確認し,再度
穿刺針の軌道を修正して穿刺
(図 7)
。
⑦胆管に当たったら,内筒を抜き,胆汁が出る位置ま
で外筒を抜き,ガイドワイヤーを挿入しチューブを
挿入する
(図 8)
。
図5
側面像でも方向
を確認しながら,
PEIT針に沿わせて
本穿刺針を穿刺。
PEIT 針
PEIT 針
図 4 透視下で PEIT 針を抜きながら造影すると,側
孔のうちの一つでも胆管に当たっていれば造
影される。
本穿刺針
カテラン針先端
本穿刺針
PEIT 針
図 6 本穿刺する目標胆管を PEIT 針より末梢胆管にしたい場合
a : 側面にてペアンで穿刺位置決定
b : 局麻をしながらカテラン針を穿刺して方向確認
c : 本穿刺針をカテラン針に沿わせて穿刺
58(430)
PEIT 針
a b c
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全く末梢胆管に拡張の無い症例
(図 9)
PEIT 針
本穿刺針
図7
側面像で,本
穿刺針は目標
胆管よりもわ
ずかに背側へ
刺さってしまっ
ている。
50 代男性,胃がん術後再発で,肝左葉から肝門部浸
潤による閉塞性黄疸があり,腹水もある状態。
胆管拡張は乏しく,腹水もあるが,胆管炎があるた
め,どうしても穿刺してほしいということで依頼され
たが,全く末梢胆管に拡張が無く,とても超音波での
穿刺は難しい状態。
PEIT 針造影後は胆管が拡張しているように見える
が(図 10)
,これは造影剤を入れた事で拡張している
だけであり,CT で分かる通り,肝内胆管は中枢がわ
ずかに拡張しているのみであり,末梢は全く拡張して
おらず,もちろん超音波で描出して穿刺出来るような
胆管は見あたらない症例である。超音波下では門脈を
目指して穿刺する。PEIT 針は多孔であるため,門脈
を目指して穿刺して引きながら造影すれば,近傍にあ
る胆管は造影されてくる。また1回で当たらなくても,
透視下で造影されて経路が残るため,その近傍を再度
透視下で穿刺すればよい。また PEIT 針は 22G である
図8
本穿刺針が当たれば,後は通
常通り。
図 9 胃癌術後再発
肝左葉~肝門部浸潤
(○印)
による閉塞性黄疸,腹水あり。
胆管浸潤または胆管炎により胆管壁が造影されている
(→)
。
末梢胆管は殆ど拡張していない。
(431)59
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固定後
図 10 末梢の門脈を目指して PEIT 針で穿刺。末梢胆管に当たったため,それに沿わせて
本穿刺をし,カテーテルを留置した。
ため,何回穿刺しても安心である。
胆管造影されると少し太めの胆管を穿刺したくなる
が,透視下で造影胆管を穿刺する場合は,目標胆管を
末梢胆管にしたほうが,穿刺距離が短いため,穿刺時
のずれが少なく,当たりやすい。細くても,出来るだ
け末梢の胆管を本穿刺目標胆管とする事が,ポイント
である。
もちろん,PEIT 針が末梢胆管に当たって入れば,そ
れに沿わせれば当たりやすい。
PEIT 針より末梢胆管を目標にする場合には,カテラ
ン針で一度穿刺し,それに沿わせば安心である。
60(432)
さいごに
高性能の超音波や様々な形態の穿刺プローベが発売
されている今,US ガイド下にて,多くの PTBD は造
影なく施行出来ると思うが,高性能の機器が揃ってい
ない外勤先で施行したり,全く拡張の無い胆管を穿刺
したり,既に PTBD や ENBD が挿入されていて胆管造
影が簡単に出来る症例などは,透視下穿刺法が非常に
有用な方法となる。普段からこの方法に精通しておい
た方が手技に対する安心感が高いので,是非試みて頂
きたい。
第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:中塚誠之
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
PTBD
3 . US ガイド下 PTBD 穿刺のコツと
非拡張胆管に対する PTBD
慶應義塾大学 放射線診断科
中塚誠之
US ガイド下 PTBD 穿刺のコツ
①穿刺位置と穿刺角度に関するコツ
(図 1)
PTBD の穿刺位置(末梢・中枢胆管,左葉・右葉)に
関しては依然として議論がある。施行医が知っておく
べきことは,中枢胆管穿刺では動脈,門脈合併症を
作った場合,対応に苦慮する場合があり,亜区域枝以
降の末梢胆管穿刺は技術的に困難な場合があるという
ことである。また,左葉穿刺では,呼吸性変動が少な
く皮膚から太めの胆管までが近いなど一般に穿刺が容
易である。右葉穿刺では,経路が胆管ステント留置な
どの IVR に適しており,さらに左葉穿刺に比較して術
者の被曝の危険性が少なくできるなどのメリットがあ
るが,経胸腔穿刺となりやすく,PTBD 挿入後に呼吸
性変動によるカテーテル逸脱が起こりうるというデメ
リットがある。一般的には胆管ステント留置とならな
い症例では左葉穿刺を優先するとよい。
拡張の少ない胆管に対する PTBD では,胆管穿刺で
きたにも関わらずガイドワイヤが入らず PTBD が難航
する場合がある。拡張が少ない胆管ではガイドワイヤ
を挿入する際に穿刺針から出た直後のガイドワイヤが
胆管後壁を貫いてしまうことによる。これを防ぐため
③
には胆管に鋭角に穿刺することが有効であり,PTBD
の最大のコツであると考える。
穿刺ガイドラインと胆管の走行が一致する,つまり
為す角が 0 度の胆管を穿刺するためには,消毒前に十
分に肝内をスキャンし該当する胆管を丹念に探し出
すことが重要である。もちろん見えている脈管(門脈,
肝動脈,肝静脈)は穿刺しないことが必要であるので,
鋭角穿刺が可能となる胆管は,左葉では B3 が門脈臍
部の横を前後に走る部分,B3 から前に分岐する末梢
枝が候補となる。胆管拡張の強い症例の穿刺では鋭角
穿刺に必ずしもこだわる必要はなく,B3 が横走する
部分に PTBD が挿入されることが多い。この場合,P3
が B3 の腹側に位置し,門脈損傷の危険があることを
考慮しなければならない。一方,B2 は P2 の腹側に位
置し門脈損傷の可能性は低くなるが,穿刺位置が深く
難易度が増す。
右葉内では B5,B6 から下降しつつ体表に向かう枝
が末梢胆管の鋭角穿刺に適している。胆管拡張が強い
場合は前区域枝や後区域枝自体に PTBD がなされるこ
とがあるが,やはり門脈損傷の危険性を考慮せねば
ならない。右葉では経胸腔穿刺に注意する必要がある
(図 2)が,深吸気で超音波下に胸腔最下縁を確認し,
②
①
④
図 1 穿刺胆管
拡張胆管では B3 から腹側に分岐する枝①を第一選択とし,次に B3 本管
②や B5,B6 の体表側に分岐する枝③,④を考慮する。非拡張胆管では
現在は①あるいは B6 の下方に分岐する枝④を選択することが多い。
(433)61
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さらにその数㎝尾側から穿刺を行うとよい。
②呼吸調整に関するコツ
穿刺を呼吸停止下に行う場合には,深吸気より浅い
呼吸で停止するのがよい。深吸気で穿刺,PTBD を行
うと PTBD の皮膚刺入部と肝表刺入部にギャップが生
じてしまい,カテーテルが逸脱しやすくなる恐れがあ
るためである。なお,呼吸の周期では安静呼気が最も
一定しているので,むしろ全ての手技を安静呼気で行
うことも推奨できる。慣れてくれば呼吸停止せずとも
PTBD 穿刺可能となる。
③穿刺前準備の留意点
局所麻酔時に穿刺経路にガスが混入すると超音波観
察の障害となるので,ガス混入には十分に注意する。
穿刺部に小切開を加えた後,穿刺方向に沿って筋層・
筋膜を十分に剥離すると穿刺針の穿刺がスムーズにな
り,針の直進性が向上する。
④穿刺ガイドライン上を穿刺するコツ
針を切開孔に当ててから探触子を動かしてスキャン
しなおすと,針が切開孔の部分で微妙に曲がってしま
い,そのため穿刺針が直進せず,スキャン断面および
穿刺ガイドラインからのずれ(X/Y/Z 方向)を生じる原
因となる(図 3)。この現象を予防するためには,局所
麻酔・小切開の前に十分にスキャンし,穿刺針と探触
子をあてたらすぐに胆管が見えるようになる位置を決
めておくことが重要である。そのほか穿刺方向を頭尾
方向に過剰に見上(下)げることも PTBD 針が屈曲する
原因となる。
すべてが整ったら穿刺。肝表面手前まで穿刺針を進
めて,穿刺針がガイドラインに沿っていること,目標
胆管に向かっていることを確認する。
⑤穿刺方向の微調整
次に呼吸を合わせて一気に胆管手前まで穿刺する。
この時,方向があっていればそのまま胆管を貫く。し
ばしばわずかに穿刺方向の微調整が必要になるが,そ
の微調整の方法を覚えておくと格段に成功率が向上
する。
穿刺方向の微調整には,穿刺針のベーベル角を使う,
穿刺針をしならせる,呼吸を使うなどの方法がある。
呼気あるいは吸気で穿刺針と胆管の位置関係が微妙に
変化するので,呼吸を調整して穿刺針が目的部位に向
かっているタイミングで穿刺針を進めるとよい。穿刺
針をしならせる方法も有効である。たとえば穿刺針の
手元部分を上に押し曲げると,穿刺針は下に凸の緩や
かなカーブを形成し,穿刺針は上方を向く。このよう
にさまざまな方向に穿刺針をしならせると数㎜のずれ
は確実に補正できる。
なお,これらの微調整は穿刺針を肝表から抜くこと
なく行うことができるので,肝被膜の穿刺回数を増
×
図 2 右葉の穿刺
胸腔経由とならないよう,なるべ
く下位の肋間から行う。位置決定
前に,深吸気にて確認された肺の
位置より数㎝下方から穿刺できる
ことを確認する。
62(434)
図 3 胆管穿刺のコツ
針を切開孔に当ててからスキャンし
なおすと,針が体表で曲がってしま
い,穿刺針が直進せず,スキャン断
面からのずれ(X/Y/Z 方向)を生じる
原因となる。
また,探触子の極端な見上げ,見下
げは穿刺針のスキャン断面からのず
れ
(Z 方向)を生じる原因となる。
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やすことなく穿刺確率を向上させることができる。ま
た,数回の穿刺で穿刺針が同じ方向にずれるようであ
れば,あらかじめ「ずれ」を計算にいれて穿刺ガイド
ラインを設定するとよい。
⑥ガイドワイヤ挿入のコツ
拡張の少ない胆管に対する PTBD など,ガイドワイ
ヤ挿入に難渋し PTBD が不成功に終わることがある。
既述したように胆管と穿刺ガイドラインが為す角を超
鋭角あるいは 0 度とすることが最も有効な予防方法で
ある。
胆管と穿刺ガイドラインが鋭角とならない場合に
は,ベーベル針の開口方向を胆管の走行に向ける,
ヒューバー針を用いるなどの方法がある。
親水性ガイドワイヤを使用する方法もあるが,親水
性ガイドワイヤは金属針から引き抜く際に金属針に
コーティングが引っ掛かってトラブルとなることが知
られているので注意が必要である。
非拡張胆管に対する PTBD
①適 応
生体肝移植後の胆管狭窄では肝内胆管の拡張が生じ
1)
にくく ,また,肝・胆道系の手術後の胆管損傷,縫合
不全による胆汁漏でも肝内胆管の拡張は見られないこ
とが多い。これらの症例で広範胃切除に伴う Billroth
II 法による再建,胆管空腸吻合術後など,胆道系への
内視鏡的アプローチができないことがあり,その場合
PTBD が必要となる。また,肝内胆管拡張の乏しい閉
塞性黄疸や胆管炎もあり,これらの場合も非拡張胆管
に対する PTBD が必要となる。
なお,非拡張胆管とは末梢胆管が並走する門脈枝よ
1)
り細く,かつその径が 2 ㎜以下である場合をいう 。
②En face approach(図 4)
非拡張胆管に対する PTBD は透視下 PTBD が一般的
1)
である 。我々の施設では非拡張胆管に対しても US ガ
イド下に PTBD を試みており,高い成功率を得ている。
胆管の走行と穿刺ガイドラインをまったく一致させる
という方法で,en face approach と名付けている。
この方法では,3 つの点で細径胆管穿刺および PTBD
に有利であると考えている。1 つは穿刺針が目標胆管
に刺さる可能性のある区間が長くなるという点,2 つ
目はガイドワイヤ挿入時に胆管壁を貫く可能性が低く
なるということである。3 つ目は,胆管穿刺・造影後
にガイドワイヤ挿入に難渋しても,穿刺針が自然に進
む方向に中枢寄りの胆管が長軸に走行しているので,
そのまま針を進めれば再穿刺できることである。
③ En face approach の実際
En face approach で最も大事な部分は穿刺胆管の決
定にある。まず安静呼気のタイミングでガイドワイヤ
挿入が容易と考えられる胆管
(穿刺ラインと胆管が成す
角が 0 度あるいは超鋭角となる末梢胆管)
を探す。胆管
がまったく見えない場合は,末梢門脈に平行に PTBD
2)
針を穿刺し(parallel approach )
,同様に造影を行えば
よいが,この場合穿刺成功率は必ずしも高くない。
局所麻酔後,US ガイド下に細径 PTBD 針にて胆管
を長軸方向に穿刺する。US で穿刺針が胆管の位置に
達したら,静止摩擦の小さいガラスシリンジを用いて
少しずつ針を引き抜きながら透視下に造影剤を超低圧
注入する。胆管が造影されたら,透視下にガイドワイ
ヤ挿入を挿入する。
胆管が造影されたにもかかわらずガイドワイヤが入
らない場合は,造影された胆管に向かって再度 PTBD
針を進める。En face approach では造影された胆管は
PTBD 針の進む方向に存在するので自ずと再穿刺が容
易である。
我々の施設では非拡張胆管の PTBD も 90%以上で成
功している。最近の症例では 1 ~ 2 回の穿刺で胆管穿
刺に成功している。拡張胆管でもen face approach を
練習して,非拡張胆管に備えることが勧められる。
★
図 4 En face approach(★)
胆管の走行と穿刺ルートを一致させる
か,少なくとも両者が為す角が鋭角と
なるようにする。
①胆管穿刺確率の上昇
長い区間で胆管穿刺できる。
②ガイドワイヤの挿入が容易
胆管壁を貫く可能性が減る。
③再穿刺の可能性
造影された胆管の中枢側の再穿刺が
容易。
(435)63
第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:中塚誠之
技術教育セミナー / PTBD
PTBD 時の術者の被曝防護について
① PTBD 時の被曝
放射線従事者は患者に不必要な被曝を与えてはなら
ないことは当然のことではあるが,施行医である自身
の被曝も最小限にとどめる必要がある。PTBD や胆管
ステントは治療部位がカテーテル操作位置と近接し,
しばしば術者の手が X 線の照射部位に入り込むことと
なるため,被曝を受けやすい IVR 手技の一つである。
IVR 学会の放射線防護委員会の行った胆道系 IVR に
関する被曝調査によると,一手技あたりの術者の手指,
頭部(水晶体近傍)の被曝はそれぞれ 0 ~ 51 mGy(平均
3)
4 mGy)
,0 ~ 1.5 mGy(平均 0.2 mGy)
であった 。それぞ
れ数百手技で職業被曝の法定線量限度を超えることと
なる。
また,従来用いられてきた X 線検出器(蛍光増倍管,
イメージインテンシファイヤー,以下 I.I.)は経年劣化
が激しい。古い透視装置では,感度の悪くなった I.I. の
透視画質を保つために X 線量を自動的に上げるという
フィードバック機能(automatic brightness control,以
下 ABC)が働き,古い透視装置を用いて PTBD を施行
している術者・患者は X 線被曝の多くなった装置で高
い線量を浴びてしまうということになる。最近出現し
たフラットパネルディテクター(以下 FPD)は,もと
もと X 線量も抑えられていることに加えて装置の経年
劣化が少ないというメリットがある。
②被曝防護の考え方
術者被曝は直接線に手を浴びせない限り散乱線によ
るものである。散乱線の発生は患者に照射された直接
線の量に比例するので,術者被曝を減らすためには,
患者への照射線量を減らす対策と,患者からの散乱線
による術者への被曝を減らす対策の 2 段階が考えられ
る。前者は装置の選択と装置の設定に分けられる。
④ PTBD 時の患者被曝の低減
患者被曝を低減することの最大の方法は透視時間を
必要最小限とし,パルス透視を使用することである。
同時に管電圧(kVp)を高く,管電流を低くする低線量
モードを選択することが勧められる。
また,アンダーチューブ型の装置を用いている場合,
寝台を高くして管球を患者から離し検出器を患者に近
づける。検出器が患者から離れている場合,ABC が X
線量を上げる方向にフィードバックするからである。
拡大透視は必要最小限とし,照射野の絞りを使用する
ことにも心がけるとよい。
③装置に関して
PTBD を含めた透視を用いた IVR では,従来ワーキ
ングスペースが確保できるという理由でオーバーチュー
ブ型の X 線装置が用いられることが多かったが,現在
は術者被曝低減のためアンダーチューブ型装置の使用
が強く推奨されている(図 5)
。前述した IVR 学会防護
委員会の調査では,術者手指,頭部の被曝はオーバー
チューブではアンダーチューブの 10 倍程度となると
3)
報告されている 。
⑤ PTBD 時の術者被曝の低減
直接線による被曝は透視や撮影範囲に術者の手が
入った場合にのみ生じ,被曝線量は散乱線に比べて桁
4)
違いに大きいとされる 。直接線に手指をいれないと
いう原則を守っていれば,術者の被曝は散乱線による
もののみとなる。
PTBD 手技で透視を必要とするのはガイドワイヤや
カテーテルが適切な方向に進んでいるかどうか確認す
るときであるが,この際ガイドワイヤやカテーテルが
a
b
管球
I.I.あるいはFPD
手
手
I.I.あるいはFPD
図 5 オーバーチューブ
(a)
とアンダーチューブ(b)
64(436)
管球
第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:中塚誠之
技術教育セミナー / PTBD
少しずつ進んでいく様子を逐一透視観察する必要はな
い。ガイドワイヤやカテーテルを少し進めてから,間
欠的にそれぞれの位置を確認するとよい。また,X 線
を適宜斜入させて術者の手が照射野内に入らないよう
にすることにも心がける。
次に X 線発生中は患者ならびに透視から離れるよう
心がける。散乱線は患者から散乱してくるということ
を念頭において手技を行うと良い。
遮蔽に関してはいくつかの工夫がある。防護エプロ
ンを着ることはもちろんであるが,角膜の被曝を減ら
すため防護メガネの使用も推奨される。なお,
アンダー
チューブ装置を使用する場合頸部の被曝は高くなく
頸部プロテクターは必要でないとされるが,オーバー
チューブ使用施設では頭頸部の被曝が高いので頸部プ
5)
ロテクターの使用も推奨される 。
我々の施設では,患者体内から発生する散乱線によ
る術者手指の被曝を防ぐことを目的として,患者の体
表と術者の手の間に遮蔽板を置くようにしている。古
くなったプロテクターを分解して再利用することが可
能である。これにより術者手の散乱線被曝をさらに
6)
1/10 ~ 1/30 程度に減らせるとされ ,手技時間が長め
となる胆管ステント留置では必須である。
【参考文献】
1)Funaki B, Zaleski GX, Straus CA, et al: Percutaneous biliar y drainage in patients with nondilated
intrahepatic bile ducts. AJR Am J Roentgenol 173:
1541 - 1544, 1999.
2)Lee W, Kim GC, Kim JY, et al: Ultrasound and fluoroscopy guided percutaneous transhepatic biliar y
drainage in patients with nondilated bile ducts. Abdom Imaging 33: 555 - 559, 2008.
3)日本 IVR 学会放射線防護委員会:胆道系 IVR の被曝.
IVR 会誌 18; 391 - 392, 2003.
4)石口恒男,亀井誠二,大野和子:X 線透視を用いた
IVR の被曝の基礎知識 . IVR 会誌 20: 136 - 141, 2005.
5)石口恒男:術者被曝対策の最近の動向 Interventional radiologist の立場から. 臨床放射線 47: 995 1101, 2002.
6)King JN, Champlin AM, Kelsey CA, et al: Using a
sterile disposable protective surgical drape for reduction of radiation exposure to interventionalists.
AJR Am J Roentgenol 178: 153 - 157, 2002.
(437)65
第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:古市欣也,他
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
PTBD
4 . PTBD の合併症と対処,対策法
東大阪市立総合病院 放射線科,鳴海病院 放射線科
2)
3)
奈良県立三室病院 放射線科 ,奈良県立医科大学 放射線科
1)
古市欣也,吉岡哲也1),阪口 浩2),穴井 洋3),吉川公彦3)
はじめに
経皮経肝的胆管ドレナージ術(PTBD)はガイドとし
て汎用される超音波装置の進歩に伴い比較的安全に施
行できるようになっている。しかし,合併症は Society
of Interventional Radiology(SIR)が編纂した quality im1)
provement guidelines(表 1)が示すように今なお少な
からず経験される。本稿では PTBD の合併症とその対
処や対策について述べる。
術中合併症
1 .迷走神経反射
(失神,徐脈,血圧低下)
対処:患者の反応が低下したり,不隠となったり,嘔
気を訴えだしたときにはすぐにバイタルサインを確認
する。徐脈,血圧低下が確認されれば,硫酸アトロピ
ン(副交感神経遮断薬,0.5 ㎎)静注,下肢挙上,さら
に必要に応じ酸素吸入を行う。
原因:強い疼痛刺激(穿刺,瘻孔拡張,胆管屈曲部を
越えてチューブを挿入するとき)
,患者の強い不安が
あるときに起こりやすい。ドレナージ後の急激な胆道
内圧低下でも生じるとされている。
対策:充分な局所麻酔,特に壁側腹膜,肝被膜の十分
な麻酔が重要である。抗不安薬や鎮痛薬の前投与も予
防に有効である。また胆管屈曲が強い場合は無理せず
細いカテーテルの留置にとどめておく。
2 .気胸
(穿刺時のエアー入り音,強い胸痛,背部痛)
対処:すぐに透視で気胸の程度を確認する。中等度
以上の気胸であれば胸腔穿刺(脱気)や胸腔ドレーン
挿入を行い,別経路から PTBD を行う。ごく軽度の気
胸であれば瘻孔形成も期待できるのでそのまま PTBD
チューブを留置し経過観察して良いが,後に高度な気
胸や胆汁性胸膜炎が生じることもあり,注意深く経過
観察する必要がある。
対策:右前胸部での穿刺ではできる限り前胸壁寄りか
ら,右側腹部での穿刺ではできる限り尾側から穿刺経
路を探す。さらに深吸気で経路に肺野が入らないか X
線透視で確認する
(図 1)
。
3 .出血
1)穿刺針からの出血(胆管に当たらず二重針外筒から
66(438)
表 1 PTBD の合併症に関するガイドライン(SIR)
Quality Improvement Guidelines for Percutaneous
Transhepatic Cholangiography and Biliary Drainage
and Percutaneous Cholecystostomy.
PTBD: Major Complications
Major Complications
(procedure related)
Sepsis
Hemorrhage
Localized inflammatory/
infectious
(abscess, peritonitis,
cholecystitis, pancreatitis)
Pleural
Death
Reported
Rates
(%)
Suggested Specific
Thresholds
(%)
2.5
2.5
5
5
1.2
5
0.5
1.7
2
3
各施設,各術者で点検し,万一提唱される許容値を超える場合は
原因を特定し,方法や用具を変更を検討する必要がある。
血液が逆流)
原因:肝静脈,門脈,肝動脈の損傷。
処置:まず造影し,肝静脈,門脈,肝動脈を判別する。
肝静脈ならそのまま抜去してよい。
門脈の場合,細径針(21,22G)ならそのまま抜去して
も問題ない。太径針(18,19G)の場合は外筒を血管外
の肝実質内まで引き抜いて閉鎖し,穿刺経路の血栓化
を待ち,外筒内の血栓を経路に押し出しながら抜去す
ることを薦める。
肝動脈の場合,細径針はそのまま抜去してもほとん
ど問題ない 。 太径針は門脈同様の処置後抜去,偽動脈
瘤を形成する場合もあることを念頭に十分に経過観察
する。
2)穿刺部からの出血
原因:肝内血管,胸腹壁や腹腔内の肝外血管(肋間,
内胸,大網動静脈など)
の損傷。
対処:動脈か否か,肝内からか肝外からかを判別する。
拍動性の有無,血液の色,出血程度で動脈性かどうか
を鑑別する。また胆管造影を行い,hemobilia(胆道内
出血)があれば肝内血管,無ければ肝外血管からの出
血とまず判断してよい
(図 2)
。
肝外血管で静脈性なら,放置するか太いチューブを
挿入して圧迫止血する。動脈性も太いチューブで圧迫
止血しつつ,TAE を考慮する
(図 3)
。
第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:古市欣也,他
技術教育セミナー / PTBD
肝内血管損傷の場合は次項目と同様に対処する。
対策(肝外血管損傷):術前に造影 CT で表在血管をよ
く確認,穿刺に際しては超音波プローベをずらして死
角になりやすい穿刺部直下をよく観察する。解剖の再
確認も重要で,例えば肋間動脈は肋骨下縁を走行する
が,中腋窩線より腹側では肋骨上縁を走行する分枝が
2)
発達しているため肋間中央から穿刺する方が良い 。
3)ドレナージチューブからの出血
原因:肝動脈や門脈の損傷,腫瘍出血,胆管壁からの
出血。
対処:経過を見て排液の血液が薄くなるようなら放置
する。門脈の細い枝からの出血,腫瘍出血,胆管粘膜
からの出血は自然に止血することが多い。
a b
図 1 高度な気胸を回避する対策
a : 右前区域穿刺はできる限り前胸壁側から c
穿刺する。
b : 右側腹部での穿刺はできる限り尾側から
穿刺する。
c : 穿刺経路を決定したらそのレベルに合わ
せて穿刺針を腹壁に置き,深吸気で経路
に肺野が入らないかX線透視で確認する。
図 3 内胸動脈損傷の症例
(肝生検後)
a : CT:生検後止血して帰室。病棟で急激な
血圧低下。多量の血性腹水と前腹壁左正中
の腹壁直下に extravasation が見られる。
b : DSA:左内胸動脈終末に extravasation(矢
印)
を確認,ゼラチンスポンジで TAEを施行。
肝外出血は止血されたように見えても腹腔
内へ出血していることがあり要注意である。
(公立甲賀病院 ご提供)
図 2 Hemobilia を示す鋳型像
PTBD 時は体表と肝との瘻孔が完成しておらず,
肝外出血はこの hemobilia 所見を呈しにくい。
a b
(439)67
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技術教育セミナー / PTBD
経過を見ても血液が薄くならない場合,チューブを
三方活栓などで閉鎖して経過を見る。またチューブ側
孔が血管損傷部と一致している可能性があり,この場
合側孔が胆管内に来るようにチューブ位置を変更する。
これでおさまらない場合,動脈性なら太いチューブ
に交換して圧迫止血をしつつ準備をして,血管造影・
TAEを行う。門脈性なら太いチューブに交換して圧迫止
血を試み,止まらなければ PTBD 経路塞栓を行う
(図 4)
。
自然止血後は経過観察を厳重に行う必要がある。動
脈性出血の場合間歇的あるいは遅発性に出血すること
がある。またチューブやチューブ周囲皮膚からの出血
が無くても,肝被膜下や肝表から腹腔内へ出血してい
ることがある。
○経路造影:肝動脈性か判断困難な場合は,血管造影
用シースと交換するか止血弁をチューブに取り付け
て over the wire で穿刺部近位まで引き戻し,サイド
ポートから造影剤を注入して PTBD 経路造影を行う
とよい。ただし動脈は圧入しないと造影されず造影
剤の広がり方で判断しなければならないことが多
い。過度の造影剤圧入は強い疼痛やエンドトキシン
ショックを引き起こすため避けるべきで,静脈や門
脈が描出されなければ動脈損傷として対処するのが
3)
よい 。
○ TAE:血管造影はドレナージチューブをガイドワイ
ヤに交換して行うとextravasation や pseudoaneurysm
が描出されやすい。塞栓は損傷部を挟んで遠位・近
位を塞栓する(図 5)。PTBD 経路を TAE 後も利用す
るなら金属コイルの使用が安全と思われるがエビデ
ンスは無い。経路を使用しないならゼラチンスポン
ジ,NBCA-Lip も適応である。なおチューブにより
併走門脈が閉塞していることもあり,術後肝梗塞・
肝膿瘍の発生に留意する。
○経路塞栓:シースなどから円筒形のゼラチンスポン
ジ片を押し出して塞栓する(図 6)。門脈損傷が適応
だが,TAE による肝機能低下を回避したい場合や選
択的 TAE が困難な肝動脈損傷例では試みてもよい。
4 .エンドトキシンショック
原因:PTBD 造影時の造影剤圧入による,感染胆汁の
血管内移行。
対処:酸素投与,輸液増量,昇圧剤投与,ステロイド
投与,抗生剤投与を行う。
悪寒,戦慄などの症状が発現すればこれを疑い,早
めの対処を行う。
対策:回収した胆汁量を超えない造影剤量で造影を行
うことが重要である。また手技時に有効血中濃度とな
るよう術前に抗生剤投与を行う。なお PTBD 術後 2 時
間までに生じることが多いので,病棟帰室後の経過観
察も重要である。
5 .造影剤に対するアレルギーやアナフィラキシー
ショック
対処:経静脈性造影剤の副作用対処に準じる。
門脈
肝動脈
放置
チューブの閉鎖
チューブ側孔の位置確認・変更
太いチューブに交換
経路塞栓
動脈塞栓術
図 4 出血(hemobilia)の原因と対処
図 5 肝動脈損傷に対する TAE
a : 胆道造影で hemobilia 胆管内は鋳型状に造影。
b : PTBD チューブをガイドワイヤに交換して左肝動脈 DSA を施行し,PTBD 経路への extravasation
(矢印)が確認された。
c : Microcoil(矢印)
で損傷部の遠位から近位にかけて TAE 後,extravasation の消失を確認。
68(440)
a b c
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術後(経過観察中)
合併症
1. 脱水,電解質異常
原因:胆汁が体外に失われたことによる。内瘻化した
状態では腸液逆流。
症状:尿量減少,口渇,不整脈など種々である。Hypovolemic shock に注意する。
対策:PTCD 排液量を含めた水分の in-out バランス,
血中電解質,BUN・クレアチン値をチェックする。
対処:輸液,電解質バランスの補正を行う。
2 .胆汁性胸膜炎
原因:経胸腔の PTBD で生じ,横隔膜のチューブ刺入
部から胆汁が漏出する。チューブの狭窄,閉塞,逸脱
などでドレナージ不良な場合に起こりやすい。
症状:側胸部痛,発熱,呼吸困難感。
対処:胸腔ドレーンを挿入する。また PTBD 造影で胆
汁のドレナージ不良が無いか検索し,チューブの交換
や位置修正などを行う。PTBD を長期留置する場合は
経胸腔とならない経路から新たな PTBD を行う。
対策:気胸と同様。
胆管
刺入部
ゼラチンスポンジ
小片
損傷部
PTBD経路
血管
シース
a
図 6 ゼラチンスポンジによる PTBD 経路塞栓
a : ゼラチンスポンジを長方形に切断し丸める。 b
b : シース(先端マーカー付きが便利)の準備と
塞栓。
1. シースを胆管まで挿入して内筒を抜去
し,外筒を皮膚外の適当な長さで切断。
内筒も切断しプッシャーとする。
2. ペアン鉗子などで入り口を漏斗状に形成。
3. ゼラチンスポンジ小片をプッシャーで送る。
4. stent 留置の如く外筒を引く要領で,経路
内に順次留置する。
3 .胆汁性腹膜炎
原因:腹壁と肝表との瘻孔形成が未熟(右側から深吸
気息止めで PTBD を施行した場合や腹水がある場合に
多い)で,チューブの狭窄,閉塞,逸脱などドレナージ
不良な場合に起りやすい。
症状:強い腹痛,発熱,腹膜刺激症状(反跳痛,筋性
防御)
。
対処:腹腔ドレーンを挿入する。また PTBD 造影で胆
汁のドレナージ不良が無いか検索し,チューブの交換
や位置修正などを行う。
対策:自然吸気息止めで PTBD を施行する。腹水症例
では胆汁性腹膜炎症状の軽減を目的に腹腔ドレーンを
PTBD 施行時に挿入しておき,PTBD 抜去の際には肝
実質の穿刺経路を塞栓する
(図 7)
。
4 .チューブ逸脱
原因:肝の呼吸性移動により,肝表-腹壁間でチュー
ブが撓む(右肋間アプローチに多い)自然逸脱が多い
(図 8)
。自己抜去や事故抜去もあり得る。
図 7 NBCA-LipによるPTBD
経路塞栓
a : 胆管細胞癌,腹水合併症
例。B5,B6からPTBD施行。
b : Stent留置後PTBD抜去時,
胆汁性腹膜炎の予防のた
め経路を NBCA-Lip(1:1)
で塞栓した
(矢印)
。
(441)69
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現象:排液量の減少,排液停止。胆汁性胸膜炎,胆汁
性腹膜炎の症状。
対処:不完全逸脱
(胆管末梢,肝実質内にチューブ先端
がある)
なら,親水性ガイドワイヤで探って再留置する。
完全逸脱の場合はまず穿刺部にシリンジを押し当て
て瘻孔造影を行う。穿刺経路が造影されればシーキン
グカテーテルと親水性ガイドワイヤで探る。穿刺経路
が造影されなければ新たに PTBD が必要となる。
対策:PTBD 留置後早期(1~3 日後)に必ず再撮影して
チューブ位置を確認することが予防に重要である。ま
た排液量減少があれば速やかに再造影して早期発見に
努めることが大切である。
狭窄部や十二指腸を超えて内瘻化したり,糸固定式
の先端形状付き(locking catheter:ρ型,pig tail 型など)
チューブ,先端バルーン付きのチューブを使用したり
すると,完全逸脱は少なくなる。
5 .その他チューブ関連
1)穿孔,穿通:ストレートチューブが総胆管や十二指
腸を貫通する(図 9)
。
対処:引き抜いて CT 撮影し,膿瘍形成や出血を確認
する。ほとんどの場合経過観察で問題ない。
対策:先端が pig tail 型などラウンド形状のチューブ
を使用する。
2)
閉塞
原因:胆泥,胆石,腫瘍による。
現象:排液停止,排液の脇漏れ。胆汁性胸膜炎,胆汁
性腹膜炎の症状。
対処:少量の造影剤を用いて再造影し,チューブ狭窄
や閉塞が確認できたらチューブを交換する。ガイドワ
イヤが通らない場合は,シースをかぶせて交換する,
チューブを引き出して胆管内留置部分にガイドワイヤ
の通る新たな側孔を作成して胆管内に戻してワイヤ置
換する,など工夫が必要である。
3)破損,切断
チューブ手元のハブ部分で折れることがあるのでハ
ブ部は動きの少ない胸壁にテープ固定する。また追加
作成した側孔部で折れることもあり側孔の作成は慎重
に行う。
おわりに
PTBDにおいて重大な合併症を回避するためには,画
像診断を含めた術前の十分な検討,合併症の早期発見・
早期処置,合併症に対する対処方法の熟知が重要であ
る。本稿を参考に合併症低減に努めていただきたい。
【参考文献】
1)Saad WE, Wallace MJ, Wojak JC, et al: Quality improvement guidelines for percutaneous transhepatic
cholangiography and biliar y drainage, and percutaneous cholecystostomy. J Vasc Inter v Radiol 21:
789 - 795, 2010.
2)伊東 隆:解剖学講義.2 版,南山堂,東京,2001,
p260 - 264.
3)SaadWE, Davies MG, Darcy MD: Management of
bleeding after percutaneous transhepatic cholangiography or transhepatic biliary drain placement.
Tech Vasc Interv Radiol 11: 60 - 71, 2008.
図9
PTBD チューブの
十二指腸穿孔
内瘻化したストレート
チューブ先端が十二
指腸水平脚を穿孔し
ていた。この例では
CT で後腹膜腔に少
量液体を認めたが経
過観察で改善した。
図 8 チューブの自然逸脱
a : 肝の呼吸性移動により,肝表腹壁間でチューブが撓む。右肋間アプローチで生じやすい。
b : チューブが肝表で撓んで
(矢印)
不完全逸脱の状態ですぐに修正しなければ,容易に完全逸脱する。
70(442)
a b