巻 頭 言 伊豆半島の東岸と西岸 伊豆半島は、 2000 万年前に本州のはるか南で誕生した火山群がフィリピン海 プレートとともに北上し、60 万年前に本州に激突、その後の火山活動によって 形成されました。火山の半島ゆえに海岸線まで山が迫っています。そのダイナ ミックな風景は観る者を圧倒します。一方、伊豆半島の東岸からは点在する伊 豆七島の島々を、西岸からは駿河湾越しの雄大な富士山を望み、どちらも時間 が過ぎることを忘れるほど、私たちを魅了してやまない風景です。 さて伊豆半島の東岸は相模灘、西岸は駿河湾に面しています。2つの海域と も急深で水深も非常に深く、沖を流れる黒潮の影響を受けることは共通してい ます。しかし伊豆半島の東岸と西岸の環境は、必ずしも同じではありません。 東岸の沿岸水温は西岸よりも若干(1℃ほど)低めです。これは沿岸湧昇と いう現象が関係しています。夏は南寄りの風が吹き続けることが多く、これに より表層の海水は東方向に流されます。 東岸では表層の暖かい海水が沖に流れ、 それを補うように下層の冷たい海水が上昇し水温が低めになります。冬は全般 に水温が低く季節風が吹き続いて沿岸湧昇が生じても水温に差は生じません。 この東岸と西岸の僅かな水温の違いがアントクメという海藻の分布に影響し ているといわれています。アントクメはより暖海性の海藻であり、伊豆半島で は水温が高い西岸の松崎町から土肥にかけて比較的よく分布しています。西伊 豆地域ではアントクメが特産品になっています。 次に東岸と西岸では沿岸水温の変化の伝わる方向が反対です。水温の変化は 北半球では岸側を右にして伝わるので、東岸では北から南へ、西岸では南から 北へ伝わります。沿岸水温が急激に変化する急潮は時として定置網漁場に大き な被害を及ぼします。東岸に設置されている多くの定置網漁場では、急潮対策 の一つとして、相模湾奥部の水温をモニターすることが有効といえます。 伊豆半島の東岸と西岸の違いについて水温の側面から2つ紹介しましたが、 その他にも生活、文化、歴史などたくさんあることでしょう。それらを整理す ると意外な発見があり、もしかしたら地域活性化のアイデアになるかもしれま せん。 伊豆半島は 2012 年 9 月に日本ジオパークに認定されました。 「南から来た火 山の贈りもの」が伊豆半島ジオパークのテーマになっています。伊豆を生活の 場にしている私たちに、伊豆半島は何を贈り届けてくれたのか興味は尽きませ ん。 (萩原快次) -1-
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