第 1 回地学セミナー 「財団法人電力中央研究所赤城試験センター」 報告 渋川青翠高等学校 武井伸光 第 1 回地学セミナーは、財団法人電力中央研究所赤城試験センターにて、7 名の参加で行なわれた。 午前中は「マツ枯れ」についての座学と、センター敷地内での枯れたマツを遠望、また枯れたマツ を資源として利用するペレット工場を見学した。午後は、電力中央研究所の概要の説明をしていただ いた後に、構内にある高性能電池実験棟、需要地系統ハイブリッド実験設備、100 万ボルト送電試験 設備、電中研式野菜工場、循環濾過養魚システムを見学した。以下、当日の内容を紹介する。 まず、午前中の座学として、電力中央研究所環境科学研究所研究参与の河野吉久様に「マツ枯れの 実態と原因」と題して講演いただいた。 マツ枯れというと、以前は大気汚染が原因と考えられていた。しかし、実際は、複合的な虫害が原 因である。具体的には、マツノザイセンチュウとマツノマ ダラカミキリの 2 種類の生物がマツ枯れを引き起こす。つ まり、カミキリムシがマツの若枝にかみついた際に、カミ キリムシに寄生したセンチュウはマツの枝に入りこむ。セ ンチュウは幹中の仮導管に充満するように増殖し、その結 果マツは枯れはじめる。枯れたマツにはカミキリムシが好 む青変菌が繁殖する。青変菌の繁殖したマツにカミキリム シが産卵、 幹内で越冬したさなぎが羽化するときに(マツの 導管内で増殖していたセンチュウが)カミキリムシ腹部の 気管内に潜りこむ、そして最初に戻る。カミキリムシが宿主で、センチュウが寄生虫の関係となって いる。 「大気汚染はマツを枯らすか?」と題された説明スライド群をまとめると、以下のようになる: SO2 や NOx 濃度は、2000 年時点では低濃度である(よって、これがマツ枯れの主原因ではないだろう)。対 流圏でのオゾンは光化学オキシダントの主成分で、植物の生長を抑制してしまう。AOT40(オゾン濃度 が 40ppb 以上の時の濃度と時間の積)を調べると、これは 1981 年から増加している。この指数が高い 地域ではマツ枯れが多く発生しているので、 対流圏オゾン量はマツ枯れの要因の 1 つと言えるだろう。 また、実例として、伊豆大島の三原山での松枯れについても明快な説明があった。つまり、伊豆大 島は火山島であるので SO2 は高濃度であるが、マツ枯れの被害は以前はなかった。しかし輸入材を住 宅資材として使ったあとでマツ枯れが始まった、とのことである。おそらく、外材に潜んでいたマツ ノザイセンチュウが前述の経過をたどってマツ枯れを引き起こしはじめたのではないかと考えられる。 さて、マツ枯れ林を放置すると、コナラを中心とした落葉広葉樹林へ遷移する。ナラ類にもナラ枯 れが認められている。 被害の流れとしては、 カシノキナガクイムシが集団で木に孔をあけて住みつく。 共生するナラ菌が樹木に広がると、水切れを起こし、ナラが枯れる。 まとめとして、林業をとりまく環境の変化が、マツ枯れやナラ枯れを引き起こす。アカマツやコナ ラ林などの二次林を維持するには、人為的に手を入れないといけない。以前は、マツタケ・シイタケ の生産、落ち葉かき・薪・炭焼きなど、循環利用されていた。戦後、化石燃料の利用が進み、薪炭材 としての利用価値が低下し、林業経営が成り立たなくなった。森林荒廃が進行し、枯木が放置される。 このあたりの内容は、理科総合 B の食物網に密接に関連しており、また自然の利用方法が変わってき たことの実例として、授業で紹介できそうである。 枯れたマツの最近の利用方法としては、火力発電 所での利用がある。石炭火力発電所において、伐採 樹木を石炭と共にボールミルで砕き、粉末状にした ものを燃料とする方法がある。この方法だと、燃料 全てを石炭とするよりは石炭消費量が削減されるた め、排出 CO2 量の削減につながる。理科総合 A のエ ネルギー利用の単元の授業において、具体例として すぐにも使えそうである。また、石炭を固体のまま燃焼させるのではなく、粉体にして粉塵爆発させ たほうが高いエネルギー出力になる、という興味深い話をいただいた。 構内のペレット工場(株式会社セレス)に移動して、枯れたマ ツをペレットにする過程を見学した。 赤城試験センターでは年間 2000 本のマツが枯れている。 以前 は廃棄物として処理していたが、ペレット化することで資源と して利用できるようになった。近隣のキノコ園やビニールハウ スのボイラーなどの燃料として使われている。また、ペレット ストーブという、22 畳程度は暖められる性能のストーブの燃料 にもなる。これは、座学に使われた建物のホールで静かに燃え ており、非常にやわらかな暖かみを放射していた。燃料である ペレットを自動で供給できるため、 灯油ストーブと代替できる性能があるのではないかと考えられた。 昼食のあと、概要説明をしていただいて、高性能電池実験棟において、全固体電池などを見学。 需要地系統ハイブリッド実験設備というのは、いわゆるスマートグリッドのことであり、家庭や企 業での太陽光発電の売電がさかんになるこれからに向けての研究である。 100 万ボルト送電試験設備の実験は終了してしまったので、現在は鉄塔しか残されていないが、そ れでも送電線の太さや、風切り音を低減する送電線の構造に感心した。 電中研式野菜工場は、水耕栽培でレタス、サラダ菜、みず菜などが栽培されており、地場野菜とし てスーパーマーケットにて販売されている。 循環濾過養魚システムは、最近の成果で、フグの養殖で話題になった。評判になって商売ができる のではと思ったが、財団法人なので利益を追求しないとのことなので、少し残念な気もする。 多方面の先進的な研究を見学できて、非常に密度の濃い一日であった。 本日の地学セミナーの開催に尽力いただいた橋本先生に感謝いたします。
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