I F S コ ラ ム ― 日 本 企 業 の グ ロ ー バ ル 化 へ の 対 応 第 2 回 グローバル対応に必要なこと 株式会社ティーディー・アンド・カンパニー代表取締役 村山 忠昭 新興国から先進国へ∼上海からの概観 本稿、中国の上海にて書いていま す。当地には、弊社が海外進出サ ポートを始めた10年前に精密機器 メーカーのシステム導入支援で訪 れて以来、年に1、2度のペースで定 期的に訪問しています。オフィス環境・住居、地下鉄、 空港等の社会インフラ、以前と比べてとても高くなって いる物価、作り過ぎではないかと思われる商業施設な ど、全てにおいて劇的に発展を遂げています。10年とい う短い期間での変化に純粋に驚きを隠せません。 各 国を賃 金 や 物 価 等でL C C (ローコストカント リー)、HCC(ハイコストカントリー)に分類すると、中国 全土はわかりませんが上海に限って言えば、自分の中 では間違いなくHCCに分類されます。 の工場を運営する「タイ・プラスワン」 という手法が広 まっています。 タイ・プラスワンに属する国としては、 タイと国境で 接していて陸送が可能、かつ人件費の安いラオス、カ ンボジア、 ミャンマー、それにベトナム(ベトナムは含ま れたり含まれなかったりしますが)のことでLCM(各国 の頭文字から) と呼ばれることもあります。その中でも ミャンマーはタイ語が通じることでタイ人が管理しや すいということ、人件費が特に安いことから最近注目さ れています。 ここでのポイントは、企業文化を理解したローカル のマネージメントを育てることが、現地のビジネス拡大 にとても重要だということです。 中国からタイ、 そして周辺国へ・・・ 「中進国のジレンマ」 と 「タイ・プラスワン」 ここ数年、中国の人件費高騰や政治的リスクにより、東 南アジア諸国へ工場を移転する動きが多く見られま す。新興国の発展はその国の国民にとっては給与が上 がり、購買力が上がることで生活の質が良くなる一方、 労働者を雇用する側にとっては、人件費の高騰に悩ま されることとなります。 日本の工場とも言われる、自動車・精密機器などの 産業集積が進んでいるタイにおいても同様に、人件費 の高騰により労働集約型の工場が高コストになってき ているにもかかわらず、知識・資本労働型の産業への 移行が進んでいない「中進国のジレンマ」 と言われる 状態になっています。そこで日本企業が取り始めた戦 略としては、 タイの工場をマザー工場として最終工程 を行う知識・資本集約型の設備、 または新興国向けの 開発拠点と位置づけて高付加価値の作業だけを行い、 タイ周辺国にタイ人の管理者を派遣して、労働集約型 グローバル化を進めるために必要なこと 企業がグローバル化を行うにあたって、人財の育成が 最も重要ですが、その人財を生かすため、現地法人の 運営に必要なことは、以下の3つと考えます。 I F S コ ラ ム ― 日 本 企 業 の グ ロ ー バ ル 化 へ の 対 応 1. 現地の状況を考慮した人事・評価プロセス 2.本社と現地法人の間の統制、ローカル製品 開発プロセス 3. 企業文化の伝達と現地の文化の理解、コミ ュニケーション まず、1) ですが、労働の対価としての賃金、仕事に 対する価値観の違い等、仕事に関する考え方は国毎に 異なります。アジアの国ではオフィスの中で社員同士 が給与についてオープンに話をしていることを良く見 かけます。仕事に対する責任、進め方も様々で、仕事の ミスに対して罰金制度しか有効ではないと言われる国 もあり、直属の上司の指示しか受け付けないという国 もあります。弊社においても、現地クライアントや現地 パートナーとのプロジェクトの進め方を改めなければ ならないと思うこともしばしばです。平均的な従業員の 定着率は日本より悪いかもしれませんが、弊社クライア ントの海外現地法人の中には10年、20年と長く勤めて いる人が多い定着率の高い会社もあります(もちろん、 いわゆるブラック企業と呼ばれるような1年で何割も 新入社員が辞めてしまう会社もありますが)。重要なの は、国毎の特徴は意識しつつも、 この国はこうだからと ステレオタイプに決めつけないことです。 2)の本社の現地法人への統制や管理方法も、国 によって様々です。欧米の企業は一般的に本社の経 営・運営スタイルを全く変えず、 ローカル運用は法的な 要件以外は認めないという会社が多いように感じます (IFSもこのケースと聞いています)。本社がコントロー ルしやすい反面、融通が利かないというデメリットもあ ります。アメリカ企業の方が欧州企業より、 より統制が 厳しい印象があります。日本企業はというと、きめ細や かな現地対応を行う一方、現地に任せすぎたり、現地 の意見を聞きすぎて、管理が出来なくなったり、高コス トになったりという傾向があります。業務プロセス、製 品開発、マネージメント報告など、本社で共通化すべき ものと、ローカルに任せるものの基準を決める必要が あり、そのさじ加減が日本品質を生かした海外展開マ ネージメントの重要なポイントの一つです。 続いて3)の相互理解ですが、日本企業がグロー バル化を行う場合、マネージメントは日本からの駐在 員が中心となり、駐在員の指示に従って現地マネー ジャーとスタッフが現地法人を運営するスタイルを取 る事が一般的です。海外展開がうまくいっている企業 に共通する事は、企業文化・品質基準・経営方針等を 現地スタッフと共有しながら、マネージメントとスタッ フが日本で必要と思われる以上にコミュニケーション を取っていることです。文化も仕事への考え方も違う 国で、日本スタイルの企業文化を伝えるのはとても骨 が折れる作業ですが、そこで時間を惜しまないことが 成功の秘訣ではないかと考えます。意外かもしれませ んが、かつて日本で良く行われていた社員旅行や運動 会等の全社行事が現地法人ではとても好評で、毎年楽 しみにしている社員の方も多いという話をどの会社に 行っても聞きます。 このように、古き良き日本の企業文 化が新興国では新鮮なものとして受け入れられること もあります。内部統制や職務分掌など、欧米の良い部 分を取り入れつつ、日本の強みである安定雇用による 企業文化の浸透を図ることが結果的に強いグローバ ル企業を作ることになるのではないでしょうか。 次回は弊社の本業である業務システムの海外展開事 例についてお伝えしたいと思います。 筆者プロフィール 村山 忠昭(むらやま ただあき) 株式会社ティーディー・アンド・カンパニー代表取締役 山口県宇部市出身、横浜国立大学経済学部卒 外資系企業を経て、2000年にティーディー・アンド・カンパニーを設立、 現在に至る。グローバルシステムの導入・運用支援を専門とする。 詳細はティーディー・アンド・カンパニーのWebサイトへ http://www.tdac.co.jp/ www.IFSWORLD.com
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