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I F S コ ラ ム ― 日 本 企 業 の グ ロ ー バ ル 化 へ の 対 応
第3回 業務システムの海外展開について(その1)
株式会社ティーディー・アンド・カンパニー代表取締役
村山 忠昭
ASEAN経済共同体創設の動き
~バンコクからの概観
本稿、バンコクにて書いています。
ア
ジアの都市間、例えばマニラからバ
ンコクに移動した時、高温多湿・街
の雑踏・匂い等が同じように感じ、
一瞬、自分がアジアのどの街にいる
のかわからなくなります。一方、マニラで感じる危険な
空気は、微笑みの国の首都バンコクではあまり感じら
れない、
といった国固有の感覚もあります。
(注:バンコ
クはマニラより相対的に安全というだけで、バンコクが
安全というわけではありません。)東南アジア地域での
単一市場を目指すASEAN経済共同体(AEC)創設の
動きがある一方で、国毎の出資規制や関税の違い等
は依然残っていて、資本や物、人の動きには制約があ
ります。東南アジアが一つの経済圏として機能するに
は、
もう少し時間がかかりそうです。
業務システムの海外展開を進めるために必要な
こと
とはいえ 、企業活動は、
ますます国内から海外に拡が
り、業務システムの海外展開も現地の業務に合わせて
必要となってきます。
企業が業務システムの海外展開を行う場合、通常、
以下のようなゴールを設定して進めますが、それらの
ゴールは各企業の長期・中期計画等に沿ったものであ
ることが大前提となります。方向性のない海外展開は、
例外なくプロジェクトの迷走と費用の増大を招きます。
1. グループ経営の見える化、内部統制強化
2. 業務効率の向上、商品・サービスの競争力強化
3. スケールメリットによるシステム費用の低減
日本本社と海外子会社では企業グループ共通の目
標を達成するという点では同じですが、個社の目的や
役割は異なりますので、それぞれの目的、
システム化の
範囲、役割という観点から考えてみます。
■ システムの海外展開の目的
1. グループ経営の見える化、内部統制強化
2. 業務効率の向上、商品・サービスの競争
力強化
3. スケールメリットによるシステム費用の低
減
先ず、
「 1.
グループ経営の見える化、内部統制強
化」については、意思決定の迅速化・精度向上、
リスク
管理を目的とし、各拠点のビジネス状況を把握する為
の報告、権限・承認管理、
また意思決定の為の数値分
析ツール、連結決算等のシステム化が求められます。
それらを実現する為の本社の役割は、意思決定に必要
なKPI(業績評価指標)の定義、世界共通のマスタ定義
(勘定コード、製品コード、事業セグメント等)、承認プ
ロセスや権限の定義を行うことです。同一製品が同じ
コードでなければ、国別の比較検討することも出来ま
せんし、業績評価の基準が統一されなければ、
グルー
プ共通の目標を達成したかどうかの判断も出来ませ
ん。
これらの定義はシステム化を進める前に決めてお
く必要があります。子会社の役割は、それらのグローバ
ル定義に基づいて、
コード体系の業務レベルへの詳細
化やユーザへの権限割り当て、承認プロセスや報告プ
ロセスのローカライズ(現地化)
を行うことです。
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次に、
「2.業務効率の向上、商品・サービスの競争
力強化」については、国内外の競合他社との差別化や
投資対効果の最大化を目的とし、
グローバルでの需要
予測、在庫の最適化、
グループ会社間取引の効率化、
資金集中管理等のシステム化が求められます。本社
の役割は、その企業グループの強みとなっている業務
プロセスを抽出し、標準テンプレートを作成すること
です。テンプレートとは、業務フロー、システムフロー、
プログラム定義書、
コード定義書等のドキュメントと、
実際のコンピュータプログラムを横展開しやすいよう
に纏めた手順書やソースコードのライブラリを一つの
パッケージにしたものを表します。
強みとなっている業務プロセス・システムをテンプ
レート化する為には、業務機能に優先順位をつけて定
義・開発する事が必要です。テンプレートの品質がそ
の後の海外展開の成否を分けるといっても過言ではあ
りません。テンプレートに最大公約数的な機能を求め
た結果、テンプレートが最低限の機能しか持たず、子
会社へ展開するときに、実際のビジネスで求められる
レベルとの差が大きすぎて、テンプレート機能が使え
ない、
または子会社から機能追加要求が多すぎてプロ
ジェクトの予算も期間もオーバーしてしまうということ
は多々あります。一方、最小公倍数を目指して、本社が
持っている詳細な業務を全て実装した場合、海外の子
会社規模ではそこまで詳細なレベルを求められていな
いにも関わらず、機能を盛り込み過ぎてしまい、現地ス
タッフが運用出来ない、
また、複雑すぎて機能追加や
組織変更、国要件・税要件に対応出来ない、
テンプレー
ト作成作業そのものに多額の費用と長い時間がか
かってしまう、
といったデメリットもありますので、機能
と投資のバランスが重要です。子会社の役割としては、
テンプレートと国要件・個社ビジネス要件とのギャップ
分析、追加が必要な機能の要件定義、優先順位付け
や、テンプレートに業務を合わせる必要が出た場合の
業務プロセスや組織の変更等が挙げられます。
ERPと呼ばれる統合型業務パッケージシステムの
中には、業種別・プロセス別・国別のテンプレートやベ
ストプラクティス(他社の成功事例)が用意されている
ものもあり、それらを有効に使うことでプロジェクト費
用を抑える事が可能です。重要なことは、投資を行って
でも必要な自社の強みとなる業務プロセスと、標準機
能で充分な競争優位に関係ない業務プロセスとに分
類することが出来るかどうかです。
最後に、
「3.スケールメリットによるシステム費用
の低減」については、
ライセンスのボリュームディスカ
ウントや、ハードウエアやヘルプデスク機能の集約、
シ
ステム導入のパターン化・期間短縮等が目的となりま
す。近年、本社では重要な業務プロセスやシステムの
定義、変更・追加における意思決定のみ行い、実際の
■ 業務システムの海外展開、成功のポイント
• テンプレートの作成・運用を重視し、システムの方向性を失わないよう注意する。
• 全社レベルの管理指標はグローバルで統一する。マスタデータの統合を行い、“One
Version of the Truth”を守るようにする。
• 法定要件・国要件への対応は、他社事例やベンダー提供のテンプレートを利用し、
最小限に留める努力を行なう。
• 海外子会社ユーザ間での実務レベルの情報交換、ベストプラクティスの共有を進
め、追加開発の優先順位を一緒に検討する。
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ヘルプデスク業務やプログラム開発業務は海外のオフ
ショアセンターを利用してコストを抑えるモデルが主
流となってきています。弊社の場合はフィリピンにオフ
ショアセンターを開設し、お客様からのお問い合わせ
に対して、日本語と英語で対応可能な体制をとってい
ます。オフショア運用時の課題としては、ローカル業務
要件への対応の難しさ、本社と現地法人、サポートセン
ター間の時差や距離によるサービスレベル・意思決定
のスピード低下が挙げられます。
これらの課題に対処
する為、弊社が取っている方法は原始的ですが、シス
テム導入プロジェクト時にオフショアメンバーも来日し
て一緒に開発作業を行ったり、現地法人を訪問して現
地のユーザと一緒にテスト作業を行ったり、食事会や
打ち上げパーティーを行ったりと、必要以上にオフライ
ンのコミュニケーションを促すことです。一見、無駄に
思えるかもしれませんが、
これがいざという時に力を発
揮することは実証済みです。子会社の役割は、サポート
センターへ変更要件の説明、複数の変更依頼がある場
合の優先順位付け、変更後の受入検証と実務メンバー
への教育になります。
また、子会社間での情報共有や
ベストプラクティスの共有を実行されていないお客様
が結構多いのですが、
これはとても効果的なことです
ので、必ずお薦めしています。
次回は業務システムの海外展開プロジェクトの進め方
についてお伝えしたいと思います。
筆者プロフィール
村山 忠昭(むらやま ただあき)
株式会社ティーディー・アンド・カンパニー代表取締役
山口県宇部市出身、横浜国立大学経済学部卒
外資系企業を経て、2000年にティーディー・アンド・カンパニーを設立、
現在に至る。グローバルシステムの導入・運用支援を専門とする。
詳細はティーディー・アンド・カンパニーのWebサイトへ
http://www.tdac.co.jp/
www.IFSWORLD.com