活動報告書

活動報告書
報告者氏名:杉山 美絵 所属:茨城県立下妻特別支援学校 記録日:2015 年2月 14 日
【対象生徒の情報】
○学年:高等部3年 女子生徒
○障害名:小児交互性片まひによる体幹機能障害,重度重複障害
○障害と困難の内容
・強い緊張と脱力が見られる。
・移動,食事,トイレは全介助である。
・簡単な言葉を理解し,カード等を用いて選択することができる。
・発声が不明瞭なため,相手に自分の気持ちがうまく伝わらないことがある。
・写真カードや連絡帳が好きで,コミュニケーションの手段として使用しているが,写真カードは枚数に限
りがあり,連絡帳は文字のみの記載になっている。
・家庭においての学校の話題は,連絡帳の情報だけである。
【活動目的】
○当初のねらい
・発声や身振りと iPad を組み合わせて,相手とコミュニケーションをとることができる。
→伝えることが難しいことや選択する内容などのコミュニケーションの手段として,iPad を活用
→家庭と学校間で生徒の様子を伝え合う連絡帳,トイレの意思表示の場面において iPad を活用
○実施期間:平成26年6月~平成27年2月
○実施者:小林 ひかり,杉山 美絵/共同研究者:中山 穣
○実施者と対象児の関係:小林 ひかり(グループ担当),杉山 美絵(学年主任)
【活動内容と対象生徒の変化】
○対象生徒の事前の状況
・給食の時間は,特定の先生と給食を食べたいと明確に意思が出ている。特定の好きな先生がおり,その先
生は一緒に生活する時間の長い先生である。かかわりの少ない先生とは給食を食べようとせず,イヤイヤ
と手を振る。発音が不明瞭なため,先生を呼ぼうという発声は見られても,相手に伝わらないことがある。
・排泄に関しては,オムツを使用している。全介助であり,教師が定時にトイレのベットで排泄の有無を確
認し,排泄があった時には,オムツ交換を行っている。排便があった際に,自分で股のあたりを叩いて知
らせることがある。
・教員の写真カードが大好きで,いつも持ち歩いている。写真カードを見ることで,気持ちが落ち着くこと
もあるが,写真に執着してしまい,活動ができないこともある。
・家庭では,家族に連絡帳を読んでもらい,問いかけに対し,発声や表情で応えることでコミュニケーショ
ンをとっている。連絡帳でのやりとりが好きで,自分でカバンから連絡帳を取り出して,用紙をくしゃく
しゃにしたり,破いたりすることもある。学校では,グループの朝の会で,家庭での様子を教員が発表し
ている。
・iPad に関しては,音楽遊びや感覚遊びなどのアプリを特に好み,自分から手を伸ばして操作しようとし,
興味をもっていることがうかがえる。
・iPad の操作に関しては,自分で起動をすることは難しいが,iPad の画面を手の甲や指先でタッチすること
ができる。
1
○活動の具体的内容
ア「給食の介助依頼で好きな先生を呼ぶ」
【 DropTalk HD】を使用し,先生の写真をタッチすると「○○先生」と音声が
出るようにしている。
*発音が不明瞭な部分を音声機能で補い,自分で好きな先生を選び呼ぶことで,
納得して一緒に給食を食べることができるようにする。
○1~6枚の写真を見て,一緒に給食を食べたい先生を決め,写真をタッチする。
↓
○音声読み上げを利用して先生を呼ぶ。
↓
○呼んだ先生と一緒に給食を食べる。
イ「排泄の有無確認」
【 DropTalk HD】を使用し,オムツの写真をタッチすると「トイレに行きたい
です。
」と音声が出るようにしている。
*オムツ交換が必要な時に,オムツの写真を選んで自分でオムツ交換を知らせる
ことができるようにする。
○オムツ(排泄有の場合の選択肢)と次の活動場所(排泄無の場合の選択肢)の写真を並べて提
示し,トイレに行くかどうかの確認をする。オムツ交換が必要な時はオムツの写真,必要のな
い時には次の活動場所の写真をタッチする。
↓
○オムツの写真を選んだ時のみトイレへ行き,オムツへの排泄の有無を
確認し,オムツ交換をする。
ウ「連絡帳としての活用」
【カメラ機能】
【RainbowNote】を使用し,文字+写真で記載している。
*いろいろな人に,iPad を見ながら自分の様子を伝えることができるよ
うにする。
○家庭との情報共有
○医療機関との連携ツール
○コミュニケーションツールとしての活用
○記憶の保持・表出の広がりへの支援
(活動の振り返り)
・連絡帳を見ながら,一日の活動の振り返りをする。
↓
・一緒に活動した教員の選択肢を選ぶ。
(家庭での様子を発表)
・学習グループの朝の会において,タブレットをテレビに
つなぎ,写真を提示しながら家庭での様子を発表する。
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○対象生徒の事後の変化
ア「給食の介助依頼で好きな先生を呼ぶ」
・iPad を操作することで,先生を呼ぶことができ,先生が来てくれるという因果
9月
iPad で先生を
呼ぶことの
因果関係の理解
10,11 月
先生を呼んだが
「食べない」
↓
「何をしたい
のか」の確認
関係を理解し,iPad を意欲的に操作しようとしていた。
・給食の時間内に落ち着いて給食を食べられるようになってきた。しかし,先生
を呼んでも,2,3口しか食べないことや全く食べないこともあった。
・給食時の様子の観察から,
「給食を一緒に食べたい」
「話をしたい」
「そばにいて
ほしい」「見ていたい」「褒めてほしい」の項目に絞り,生徒の意思の確認を行
った。その結果,
「褒めてほしい」という意思が見られたため,上手に食べられ
た時には,称賛の言葉をかけるということを繰り返した。満足した様子で,笑
顔や発声が見られ,給食も食べることができた。
・呼んだ先生とは違う先生が来た時には「違う,違う」と手を振る様子
が見られ,呼んだのに先生が来なかった時には,写真をタッチして呼
ぼうとする様子が見られた。
12 月
「何をするのか」
の明確化
↓
先生を呼んだ後
・先生を呼んだ後に「何をするのか」を明確にするために,音声読み上げを利用
して「給食を一緒に食べて下さい。
」と伝える活動を加えた。依頼することも分
かり始め,呼んだ先生とは給食を食べるようになった。
の依頼を追加
イ「排泄の有無確認」
・選択に関しては,意欲的に取り組む姿が見られた。
9月
トイレに「行くか
行かないか」の
確認
・オムツ交換が必要ない場合でも,トイレの写真を選ぶことが多かった。原因と
して,①写真を選択する意味を理解していなかったこと
②今まで排泄の有無にかかわらず,定時にトイレへ行っていたこと
が考えられた。
10 月
オムツの写真を
・トイレに行くという目的ではなく,オムツを交換するということが伝わるよう
選んだ時のみ,ト
に,トイレの写真をオムツの写真に変更した。その後,オムツの写真を選んだ
イレ行くように
時のみ,トイレで排泄確認を行った。
変更
・オムツの写真を選んだ後,写真の位置(左右)を変え確認を行っても,
オムツの写真を選ぶ様子が見られた。
12 月
・トイレに行く回数が減った。
「何をするのか」
・股のあたりを手でたたき,排泄を知らせることが増えた。
の明確化
↓
トイレの依頼
を追加
・オムツ交換が必要な場合にのみ,オムツの写真を選ぶことが多くなった。
・トイレに行くか行かないかの意思確認だけではなく,音声読み上げを利用して
「トイレに行きたいです。
」と伝える活動を加えた。
3
ウ「連絡帳としての活用」
家庭
・父親が連絡帳を記載してくれるようになった。
・写真があり分かりやすいため,姉や弟も一緒に連絡帳を見るようになった。
家庭・学校
・話題が増えたことで,コミュニケーションの機会が増えた。
・iPad に自分から手を伸ばし,連絡帳を見たいという意思表示が増えた。
・写真を見ながら身振り手振りで家庭や学校での様子を一生懸命伝えようとする姿が見られるようになっ
た。
・一緒に学習した先生の選択肢に答えることができた。
・
「あー」
「うー」と話しかけたり呼ぼうとしたりする発声が増えた。
・気持ちが安定している。
【報告者の気づきとエビデンス】
ア「給食の介助依頼で好きな先生を呼ぶ」
・いろいろな先生と,納得して給食を食べられるようになったのではないか。
・納得して給食を食べられるようになったのは,自分の意思で呼びたい先生を決め,iPad を操作すること
で確実に先生を呼ぶことができるようになったからではないか。
(気づきに関するエビデンス)
・決まった先生を呼ぶことが多いが,給食を一緒に食べられる先生が増えた。
・以前は,特定の先生としか食べなかったり,身体に力が入ってしまい食べられなかったりすることもあ
ったが,落ち着いていろいろな先生と食べられるようになってきた。
・写真をタッチして音声が流れると笑顔が見られた。
・呼んだ先生と違う先生が近づくと「違う,違う。
」と手を振るようになった。
・呼んだ先生が気づかない時には,何度か写真をタッチして呼ぼうとした。
・写真の場所が変わっても,呼びたい先生を選ぶことができた。
違う,違う
○○先生
あーん
イ「排泄の有無確認」
トイレに
・オムツの写真を選んだ時の排泄有の合致率が上がったのは,写真の
行きたいです
変更(トイレ→オムツ)が大きな要因ではないか。
・写真機能だけではなく,音声機能もある iPad を使うことで,
「何を
示す写真」かが分かりやすくなったのではないか。
(気づきに関するエビデンス)
・取組当初のトイレの写真と排泄有の合致率は 45%であったが,
トイレからオムツの写真への変更,オムツの写真を選んだときのみトイレでの排泄確認を行うように変
更した後には,オムツの写真と排泄有の合致率は 90%になった。
4
・iPad が手元にない時には,声を出したり iPad を指さしたりする姿が見られ,その後,iPad でトイレの
確認をすると,オムツの写真を選び,排泄もあった。
・
「トイレに行きたいです。
」と音声が流れると,真似て発声をすることがあった。
ウ「連絡帳としての活用」
・iPad を見ながら,家族や先生,障害者支援施設の支援員の方に,自分の様子を正確に伝えることができ
たのではないか。
(気づきに関するエビデンス)
・家庭や学校でのできごとを連絡帳の写真を見て思い出し,身振り手振りで伝えようとした。
・一緒に学習した先生を選択肢の写真を見ながら,その写真を指さしたり,問いかけに発声で答えたりし
て相手に伝えることができた。
・障害者支援施設の支援員の方から,好きな先生を聞かれると,発声しながら写真を選んで伝えようとし
た。
・連絡帳を見ながら問いかけをすると,笑顔が見られ発声や指さしでやりとりする姿が見られた。
【本実践のまとめと今後の見通し】
iPad で,先生を呼んだりトイレの意思表出をしたりすることで自分の気持ちが伝わることを経験し,他の
場面でも自分の気持ちを伝えようとする姿,身振り手振り,発声が増えた。iPad 連絡帳の家庭からの記載に
は,「iPad を使い始めた頃と今とでは,変わらずに,写真や動画の両方とも好きです。なかなか平日はやる
時間がなくて(本人が眠ってしまう)
,休日に色々タブレットで遊んでいます。ドロップトークを夕食時にや
ったら,嬉しくてキャーキャー喜んでいました。連絡帳を読みながら,その日にあった事をふりかえり笑顔
で返事をしてくれたり・・・。声もたくさん出るようになり,やる気もアップします。手を伸ばし画面を触
ろうとすることもしばしば。○○にとってプラスになっています。(原文:母)」という感想があった。
また,ア,イの実践については,写真の変更や依頼の追加をすることで,徐々に生徒の変容が見られた。
取組の途中で,実践を修正する観察を取り入れ,手だての調整を行うことの重要性を感じた。今回の取組で
は,対象生徒の発声が不明瞭な部分を,iPad の VOCA アプリで補完できたことが,もっとも有効であった
と考える。
今回の取組を機に,家庭で iPadAir を購入したことにより,進路
先の障害者支援施設での活用を検討中である。障害者支援施設と移
行支援相談を実施した結果,トイレと食事の意思表出の場面での活
用をしていただけることになった。その他,徐々にではあるが,他
の場面や iPad 連絡帳の取組も考えてくださるということであった。
今後は,現在有している発声や身振り手振りと iPadAir の活用を
組み合わせて,トイレの意思表出,食事の依頼,活動の選択等,自
分の意思を相手に伝えることができ,相手も本人の表出だけでは確
実ではない部分を iPadAir の音声機能や写真で確認をして確実に本
人の意思を受け取ることができるようになってほしいと考える。
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iPad 連絡帳 ~家庭から~