ダイヤカット円筒の FEM 解析におけるメッシュ依存

ダイヤカット円筒の FEM 解析におけるメッシュ依存性
環境構造工学講座
09705
井比 宏幸
指導教員
後藤 文彦
る。解析には GPL ライセンスの有限要素解析ツー
1.
ル Calculix2) を用い、三角形 1 パターンを 6 節点三
はじめに
航空機、自動車、建設構造物、医療材料など近年、
角形シェル要素 (S6) で図-1 に示すように、1, 4, 16
様々な分野での応用が期待されている折り紙構造
分割した解析を行い比較する。
は、単に剛性や強度を高めた薄肉構造ということに
3.
ばね定数
留まらず、折り畳み機能やばね性能など、様々な付
ダイヤカット円筒を圧縮した変位量から求まる軸
加性能を与えられることが注目されている。実物を
方向のばね定数を、円筒のばね定数で無次元化し、
製作するのが困難な複雑な折り紙構造では、有限要
図 2∼4 に示す。周方向、高さ方向パターンそれぞ
素法等の数値解析により挙動を予測するのが有効で
れの変化に対するばね定数を 3 次元プロットで示
ある。しかし、折り目が多く応力集中等の影響を受
している。高さ方向のパターンを大きくするとばね
けやすい複雑な薄肉構造では、要素分割等が精度に
定数は小さくなり、周方向パターンを大きくすると
与える影響が大きいため、本研究では、ミウラ折り
ばね定数は大きくなる。最もばね定数が大きくなる
等にも拡張され得る基本的な折り紙構造であるダイ
組み合わせは周方向パターンが大きく、高さ方向パ
1)
ヤカット円筒 について、要素分割数の違いが剛性
ターンが小さいところで、円筒のばね定数よりも 2
や座屈挙動に与える影響について確かめる。
割程度大きくなる (16 分割の場合)。以上の傾向は
2.
解析手法
いずれの要素分割数の場合でもほぼ成り立つが、要
素分割が粗い (とくに 1 分割) 場合は、周方向、高
さ方向の分割数に対して単調な増減ではなく、近接
1 分割数
素分割が細かくなるにつれて、ばね定数はなめらか
h=12cm
4 分割数
z
するパターン数でばね定数の値が凸凹している。要
y
に変化するようになる。4 分割と 16 分割では、ば
ね定数の分布形状は似通っているが、全体的に 4 分
x
16 分割数
図–1 ダイヤカット円筒モデル
割の方が 16 分割より大きめの値である。
4.
座屈荷重
座屈荷重についても要素分割数を変えた結果を図
図-1 に示す解析モデルは、アルミ缶飲料程度の
寸法と材料定数を想定し、半径 3cm, 高さ 12cm, 厚
さ 0.2mm, ヤング率 69GPa とする。円筒の開口部
の 1 端を固定し、他端から軸方向に圧縮する。ダ
イヤパターンは折れ角をなす二つの三角形によっ
て構成されているが、この三角形の周方向、高さ
方向の個数をここではパターン数と呼ぶことにす
キーワード: 折り紙構造、疑似円筒形凹多面体、CalculiX
連絡先: 後藤文彦 (http://www.str.ce.akita-u.ac.jp/˜gotou/)
5∼7 に示す。この座屈荷重は、図のようなパターン
数ごとに異なる局部座屈の座屈荷重を円筒の座屈荷
重で無次元化したものである。ばね定数の場合はど
の要素分割数でも周方向、高さ方向のパターン数に
対して同じような分布傾向が認められたが、座屈荷
重の場合は、要素分割数が変わるとパターン数に対
する分布形状がかなり変わっている。1 分割、4 分
無次元化ばね定数
1.2
0.8
0.4
0
4
1.2
0.8
0.4
0
20
12 16ーン数
8 12
8
タ
高さ方向 16 20 4
向パ
パタ
ーン数
周方
無次元化座屈荷重
6
4
2
0
6
4
2
0
20
周方16 12
向パ
ター8 4
ン数
4
8
20
12 16ン数
ー
向パタ
高さ方
図–5 座屈荷重 (1 分割数)
図–8 座屈モード (1 分割数)
図–2 ばね定数 (1 分割数)
無次元化座屈荷重
1.6
1.2
0.8
0.4
0
4
1.6
1.2
0.8
0.4
0
1.6
1.6 1.2
1.2 0.8
0.8 0.4
0.4 0
0
20 16
無次元化ばね定数
20
12 16 ーン数
8 12
8
タ
高さ方向 16 20 4
向パ
パタ
ーン数
向パ12 8
ター 4
ン数
周方
4
8
16 20
12 ー
ン数
向パタ
高さ方
周方
図–3 ばね定数 (4 分割数)
図–6 座屈荷重 (4 分割数)
図–9 座屈モード (4 分割数)
無次元化座屈荷重
無次元化ばね定数
1.2 1.2
0.8
0.8 0.4
0.4 0
0
20 16
20
数
周方
4 8
12 16 ターン
向パ12 8
8
12 16
ター 4
パ
4
ン数
向
高さ方向
20
方
パタ
1.2
0.8
0.4
0
1.2
0.8
0.4
0
ーン数
周
図–4 ばね定数 (16 分割数)
4
8
16 20
12 ー
ン数
パタ
さ方向
高
図–7 座屈荷重 (16 分割数)
図–10 座屈モード (16 分割数)
割では、パターン数の変化に対して凹凸が目立ち、
向パターンが大きい時に円筒よりも大きいばね定
それに比べると 16 分割が最もなめらかな分布をし
数となることが分かった。一方、座屈荷重は、要素
ている。図 8∼10 に円筒に最も近い周方向パターン
分割数が変わると、座屈モード自体が変わってしま
数が 20, 高さ方向パターン数が 20 の円筒の場合の
うことにより、パターン数の変化に対する分布形状
座屈モードを示す。要素分割数によって現れている
も変わってしまうことが分かった。16 分割の場合
座屈モードが異なっており、これにより座屈荷重も
の座屈荷重は、比較的なめらかな分布を示した。以
大きく異なっているものと思われる。他のパターン
上の結果より要素分割数を変えることにより、ばね
数の円筒においても、多かれ少なかれ座屈モードの
定数、座屈挙動に大きな影響を与えていることが分
違いが見られる。
かった。よってメッシュ依存性は認められると考え
5.
まとめ
ダイヤカット円筒の要素分割数を変化させ、軸方
向圧縮に対するばね定数と座屈荷重・座屈モードを
有限要素解析により求めた。ばね定数については、
要素分割数が変わると、パターン数の変化に対する
ばね定数の分布は、値は多少増減するものの、似た
ような形状を示し、高さ方向パターンが小さく周方
られる。
参考文献
1) 刈屋栄仁,工藤康広,後藤文彦: ダイヤカット円筒の
剛性特性,平成 20 年度 土木学会東北支部技術研究発
表会講演概要集 (CD-ROM), I-23, p.45-46, 2009.
2) http://www.calculix.de/