今、「よい仕事と社会連帯経営」を 考えるとき

 所報
平成3年9月15日創刊 平成27年9月15日発行・毎月1回15日発行・No. 274
一般社団法人 協同総合研究所 ISSN 1344-7300
第
特集
274号 2015.9
今、「よい仕事と社会連帯経営」を
考えるとき
学習会編
◎協同労働運動の新しい段階と社会連帯経営を考える 永戸 祐三
◎社会連帯経営−序説 社会変革をめざす協同労働の経営 坂林 哲雄
◎社会連帯経営論へのアプローチ 岡安 喜三郎
■私が考える社会連帯経営とは(学習会での発表順に記載)
馬場 幹夫/稲葉 健太/杉山 由美/平山 清一/成田 誠/川邉 晃司/酒井 厚行/
利根川 德/星平 順子
資料編
◎協同労働の協同組合法制化について 岡安 喜三郎
◎社会連帯経営の創造とリーダーに求められるもの 藤田 徹
(抜粋)
◎日本労協連総会、労協センター事業団総代会で定めた3ヶ年計画方針
◎協同労働定着プログラム
◎「協同労働の協同組合」新原則
■会員だより 新酒・発売記念!!『笹ノ陽』のはらむ夢 黒田 志保
一般社団法人 協同総合研究所
JAPAN INSTITUTE OF CO-OPERATIVE RESEARCH
題字/藤原 桂州
目 次
■ 第 274号 2015. 9 ■
■巻頭言
虹の彼方に何が立ち現れているか、協同組合とは「何」であるのか
������������������������� 島村 博
(協同総合研究所 主任研究員) 2
■特集 今、「よい仕事と社会連帯経営」を考えるとき
・特集リード
������������������������� 相良 孝雄(協同総合研究所 事務局長) 4
【学習会編】
・協同労働運動の新しい段階と社会連帯経営を考える
���������������������� 永戸 祐三
(日本労協連 理事長/協同総研理事) 6
・社会連帯経営−序説 社会変革をめざす協同労働の経営
~21世紀型社会運動の経営(あり方)を問う~
��������������������� 坂林 哲雄
(日本労協連 副理事長/協同総研理事)
・社会連帯経営論へのアプローチ
������������������������� 岡安 喜三郎(協同総合研究所 理事長)
【私が考える社会連帯経営とは(学習会での発表順に記載)】
・馬場 幹夫(労協センター事業団 前北海道事業本部 本部長/東京統括本部 本部長/会員) ������
・稲葉 健太(労協センター事業団 東海事業本部 本部長/会員)�����������������
・杉山 由美(労協センター事業団 東京三多摩山梨事業本部 西多摩エリアマネージャー) �������
・平山 清一(労協センター事業団 東京三多摩山梨事業本部 本部長/会員) ������������
・成田 誠(労協センター事業団 神奈川事業本部 本部長/会員)����������������
・川邉 晃司(日本労協連/労協センター事業団統合本部 総務部長/会員) �������������
・酒井 厚行(労協センター事業団 東京南部事業本部 本部長/会員)���������������
・利根川 德(労協センター事業団 東京北部事業本部 本部長/会員) ���������������
・星平 順子(労協センター事業団 九州・沖縄事業本部 本部長代行/会員) ������������
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【資料編】
・協同労働の協同組合法制化について
������������������������� 岡安 喜三郎(協同総合研究所 理事長) 88
・社会連帯経営の創造とリーダーに求められるもの
���������������������� 藤田 徹
(労協センター事業団 理事長/会員) 100
・日本労協連総会、労協センター事業団総代会で定めた3ヶ年計画方針(抜粋)
・協同労働定着プログラム-協同労働の協同組合らしい事業所・組合員となりきるために- 103
�� 日本労働者協同組合
(ワーカーズコープ)連合会(センター事業団第30回総代会資料より) 106
・「協同労働の協同組合」新原則
���������(日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会 第36回定期全国総会で採択) 113
■会員だより
新酒・発売記念!
!『笹ノ陽』のはらむ夢
労協運動30余年の歴史と労協法法制化後、FEC・6次産業化のシンボリックなお酒!!
� 黒田 志保
(日本社会連帯機構/東京バイオマス地域福祉事業所あぐり~んTOKYO 所長/会員) 116
■労協連だより������������������������������ 田嶋 康利
■研究所だより����������������������������� 岩城 由紀子
123
125
No.274
巻 頭 言
虹の彼方に何が立ち現れているか、
協同組合とは「何」であるのか
島村 博(協同総合研究所 主任研究員)
本年11月に開催されるICA総会で、ICA年アイ
協同組合企業の経済的発展に貢献することを切望
デンティティー声明中の「原則」の「解釈指針」
(ガ
し、全加盟国で一般に承認された組織形式である
イダンス・ノート)と称される文書が審議・採択
協同組合に対し、国境を越えた事業開発を促進す
されるとの由である。
る…法的用具」
(英独仏版「規則」前文6。以下、
協同組合とは何であるのかと、協同組合の「原
引用は邦語の表記法、文言に近い国の版に拠る。
)
則」とは、
「何」からすれば展開、
「原則」からす
が整えられる。むろん、それは(仏独版・6)
「協
れば収斂又は帰納という関係に立つ。では、
「何」
同組合が他の企業形式と同一の基盤の上で経済活
は何により把握されるのか。
動に参加可能な有利な環境」を保証する一環とし
この「何」を協同組合規定と呼ぶことにする。
てである。
規定は概念の一契機にすぎず不完全なものである
前文の第7以下、第10パラグラフにおいて、組
が故に、経済学、経営学、社会学、哲学等におい
合 に 固 有 の 運 用 原 則particular operating
て提出される認識による補完の必要がある。ここ
principles ; des principles de fonctionnement
では、不完全さを自覚しつつ法的意義での「規定」
particuliers; die besondere Funktionsprinzipien
に視野を限定する。
「原則」についても同様とす
が論じられる。その一例は「民主的組織構造及び
ると、それは組織基準を示す組合基準において検
監督並びに会計年度の純剰余の公平な配分」
(各国
出される。
語版・7)において示され、こうした固有の原則
だが、
「規定」と「組合基準」を展開又は収斂
は(英仏版・8)
「個人を第一とする原則」
、
(独版)
の関係において区別する実益があるのかと問う
「資本に対する人の優越という原理」に係り、
(仏
と、法的意義ではそれは乏しい。協同組合とは何
版)
「 組合員の加入、脱退及び除名の要件に係る。
であるのか、つまり協同組合規定は、ここでは、
当該の原理は、議決権が人格に結びつくというこ
協同組合組織とは「何」であるのかという問いと
とで「1人1票」で言い表され」
、かつ、
(英仏版)
ぴったり整合するからである。協同組合「である」
「組合の資産に対しいかなる権利も行使すること
ことは、されば、組合基準により示される。我が
はできない」
、
(独版「組合の財産に手を返してそ
国の現行法上の組合基準については各協同組合法
れを掴むことは禁じられている」
)
。むろん、
(仏版・
を参照いただくとして、目を欧州に転じてみよう。
9)
「一定の比率で、非利用者である投資組合員」
21世紀初頭、欧州連合理事会は、それまでの
を組合員とすることができる。
EU各国における協同組合法制史の機軸を一応の
第10パラグラフで以下7つの原則が列挙され
合意点としつつ、equal footingを導き手として協
る。1)経営原則は組合員の相互利益の実現を目
同組合規則と称する多国籍協同組合法を03年に採
的とするものであり、2)組合員資格は(英版)
「顧
択した。ここに、
「同一の競争条件を保証し、かつ、
客、被雇用者又は供給者でもある」者に認められ、
2015.9
2
巻頭言
3)
(仏版)
「 組合への貢献を反映させるために加
題し、
「協同組合とは、組合員数が限定されず、
重投票方法」が採用される一方、
「監督は組合員
組合員の産業若しくは経済又は社会的若しくは文
間で平等に権利として与えられ」
、4)(独版)
「外
化的関心事を共同の事業により促進することを目
部資本及び貸分に付される利子は制限」され、5)
的とし、この法律により「登録(済)協同組合」
剰余は割戻され、又は組合員の要求の満足のため
の権利を取得したものをいう」
(2006年改正法)と
に使用され、6)人為的加入制限を設けず、7)
し、フランス法でも第1条で「協同組合とは、自
清算時の残余財産は(英仏版)
「類似の目的又は公
発的に結集した者らが共同の努力により、かつ、
益目的に従事する他の協同組合組織」
(独版、
「比
必要な資力を確立することにより、その者らの経
較の対象となり得る目的に従事し又は公益に寄与
済的又は社会的必要を満たすために設立する組合
する協同組合的構造を有する他の機関」
)に(英仏
をいう」
(2014年に改正)とする。ちなみに、フラ
版)
「分配」
(独版、
「譲渡」
)されるものであること。
ンス法の「経済的又は社会的必要」なるくだりは
第7以下第10パラグラフは各加盟国において一
1992年改正で登場した文言、
「組合員の経済的又
般に承認された「何」
「である」を掲げたもので
は/及び社会的活動」に連なるもので、これ自体
あるかに思える。たしかに、第10において掲げら
は、本誌で記したように、
「欧州協同組合の規定
れた原則は概ねEU加盟国各国においても認めら
に関する理事会規則提案」
(1992)第1条3号に掲
れるが、第1条以下第80条の本体規定は欧州協同
げられた「組合員の活動、すなわち、経済的、社
組合SCEかぎりのものである。例えば、第59条で
会的活動」に則ったことが92年の改正審議の折に
議決権が規定され、協同組合金融機関では1組合
明らかにされている。
員あたり5票又は議決権数の20%を閾値として累
英国の規定の妥当性はともかくとして、独仏で
積議決権制度の導入(第2項第2文)を認め、投資
は、上記の意義での組合員の利益が図られる限り、
組合員には総議決権数の25%を限度として議決権
例えば、頭格議決権(1人1票)が累積議決権――
の保有(同第3項)を認めるものの、各国におけ
オーストリアでは、原始協同組合法(1873年制定、
る複数議決権の容認はこうした規定に制約されな
第27条第2項)以来保証されている――に席を譲
い。EU規 則 は、 各 国 協 同 組 合 法 の 調 和 化
ることがあっても、組合が現象的に資本会社化し
harmonizationを図るものではないからである。
ても、それ自体で協同組合性が揺らぐわけではな
よって、実定法上での「何」
「である」をEU各
いとの考え方が有力であることはかつて述べた。
国について尋ねると、英独仏の協同組合法が組合
ことフランスでは、1985年のScop法改正以降、従
基準という定めを掲げていないことに気づかされ
事組合員が議決権総数の65% (場合により51%)
る。むろん、総則や統治の章にそれぞれ原則に相
を確保するかぎりScopとして根拠法の仕組を活用
当する定めが掲げられるが、注意が引かれるのは、
する上で何らの妨げもない――協同組合規定は毀
組合の本質規定と称される定めがここ最近になっ
損されない――としてきたが、昨年に成立した社
て改定されたことである。むろん、2014年の英国
会連帯経済法は同法の重大な法改正を含み、結果
法(第1章第1節第2条「登記」3)は、産業節
としてこの仕切りも解除された。 約法以来、協同組合とは、投資資金等に配当等を
協同組合とは「何」であるのか、再び深刻な問
主として支払うために利益を生み出すことを目的
いを発しなければならない時が来た。
とする会社を含むものではないと、商行為範疇と
「
(湖に浮かべたボートを漕ぐように)我らは後
しての非営利団体性を明示するに止まるので、趣
ろ向きで未来に足を踏み入れる。目に映るのは過
を異にする。
去の風景ばかり。明日の景色は誰も知らない」
(P・
対して、ドイツ法は第1条で「組合の本質」と
ヴァレリー)としても。
3
2015.9
協同総合研究所は、労働者、 市民が自らの力で自律的に仕事と生活の
豊かさを求める活動を支援するシンクタンクです。わが国にも「大量
失業の時代」が到来する中で、労働者、市民が自主的に仕事おこしを
する労働者協同組合
(ワーカーズコープ)
への注目が増しています。
研究所は、
わが国唯一の「労働者協同組合」に関する専門研究機関です。
研究活動をネットワークし、蓄積された情報を資源
として支援する「協同の發見」を会員のみなさま
に毎月お届けいたします。