[4-22] H27 農業農村工学会大会講演会講演要旨集 福島県阿武隈川,新田川,太田川 流域における 河川水中の放射性セシウム濃度と土地利用の関係 Relationship between radiocesium concentration of river water and land uses in the Abukuma, Niida and Ota River Basins in Fukushima ○竹口 輝* 中村公人** 保高徹生*** 宮津 進*** Akira Takeguchi, Kimihito Nakamura, Tetsuo Yasutaka, Susumu Miyazu 1. はじめに 2011 年 3 月 11 日に起きた東北地方太平洋沖地震に 伴って福島第一原子力発 電所が被災し,多量の放射性物質が 大気中に放出された.放射性セシウム(以下,Cs)は 放出された主要な放射性物質の一つであり,陸域に沈着した Cs の大部分が地表面に残存 し,降水によって渓流や河川を通じて徐々に流出している. 福島県は地形の変化に富み, 多様な土地利用が展開されている ことから,土地利用毎の流出特性の違い の影響が河川水 の水質特性に現れるのではないかと考え, 本研究では Cs の流出特性と土地利用との関連 性を広域的に考察することを目的と した.具体的には,福島県東部を流れる阿武隈川,新 田川,太田川水系の河川水中の Cs 濃度を形態別に測定し,Cs 沈着量等の影響を考慮して, 流域の土地利用面積割合が Cs の流出特性に及ぼす影響を考察した. 2. 調査方法 2.1 調査地点とその流域 福島県内の 12 地点の河川水を採取した(図 1).全ての調査地 点は福島第一原子力発電所から半径 80km 圏内に位置している.各調査地点について,調 査地点の集水域の土地利用面積割合と Cs 平均沈着量をそれぞれ国土交通省が公開してい る GIS データおよび原子力規制庁が報告している第 7 次航空機モニタリング調査の結果を 用いて算出した(表 1). 2.2 河 川 水の 採 取と 分析 方 法 2014 年 5 月 10 日,6 月 8 日,7 月 4 日,9 月 2 日に 各調査地点で河川水を採取し,Cs 濃度を測 定した.Cs 濃度を測定するに当たり,サン プル水中の Cs を,孔径 1μm の SS 物質回 収カートリッジ 1) (日本バイリーン社製) にサンプル水を通し,SS 成分を分離した. この SS に吸着している Cs を懸濁態 Cs と した.続けて,サンプル水を亜鉛置換体プ ルシアンブルー担持不織布カートリッジ 2) (日本バイリーン社製)に通し,これに吸 図 1 調査地点 着した Cs を溶存態 Cs とした.これらの過 Observation points 程で得た 2 種類のカートリッジを所定容器 表 1 各調査地点の流域データ に 入 れ, ゲ ルマ ニウ ム半 導 体検 出 器 に より Catchment characteristics of each observation point Cs 濃度を測定した.SS 物質回収カートリ 土地利用面積割合(%) Cs平均沈着量 ッジの乾燥重量測定から SS 濃度が求めら 地点 地点名 No. 農用地 森林 市街地 その他 (Bq/m2) れる.懸濁態 Cs 濃度を SS 濃度で除して単 1 須賀川 34.33 54.25 8.04 3.39 26,693 位 SS 質量あたりの Cs 濃度(以下,SS あた 2 二本松 32.39 54.70 10.21 2.70 60,222 3 小金石 29.12 62.69 5.58 2.61 25,421 りの Cs 濃度)を算出した. 4 28.54 63.53 5.97 1.97 95,718 西川 3. 結果と考察 5 6.82 84.41 5.08 3.68 49,626 清水 3.1 Cs 濃度と土地利 用の関係 懸濁態 Cs 6 43.49 42.53 11.24 2.74 117,002 移川 7 21.24 73.36 4.21 1.19 165,681 大関 濃度,溶存態 Cs 濃度,全濃度(懸濁態+溶 8 光大寺 29.46 62.41 6.82 1.32 42,335 存態),SS あたりの Cs 濃度は集水域の各土 9 32.09 41.19 26.01 0.71 75,102 富田 地利用面積割合(農用地,森林,市街地) 10 八木田 16.77 68.46 9.28 5.49 41,438 11 20.31 75.29 2.22 2.18 640,372 原町 と明確な相関を示さなかった.Cs 平均沈着 12 4.63 92.54 0.42 2.42 1,227,913 太田 量が対象集水域で最大 3 オーダも異なって *京 都 大 学 農 学 部 Faculty of Agriculture, Kyoto University **京 都 大 学 大 学 院 農 学 研 究 科 Graduate School of Agriculture, Kyoto University ***( 独 ) 産 業 技 術 総 合 研 究 所 National Institute of Advanced Industrial Science and Technology キーワード: 放射性セシウム,河川水,流出特性 − 442 − 溶存態流出率(m2/kL) 7.0E-04 いることが主要因と考えられる. 6.0E-04 3.2 溶存態流出率 溶存態 Cs 濃度は Cs 平均沈 5月10日 5月10日 5.0E-04 着量と相関があった(決定係数 0.88~0.94).そ 6月8日 6月8日 4.0E-04 こで,溶存態 Cs 濃度から地点ごとの Cs 平均沈 7月4日 7月4日 9月2日 9月2日 3.0E-04 着 量の 違い によ る影 響を 排除 する ため に, 溶存 5月10日(R 線形 (5月10日)= 0.01) 2.0E-04 態流出率を以下の式で定義した. 6月8日(R 線形 (6月8日)= 0.40) 7月4日(R 線形 (7月4日)= 0.41) 1.0E-04 溶存態流出率 (m2/kL) = 線形 (9月2日)= 0.23) 9月2日(R 2 0.0E+00 溶存態 Cs 濃度 (Bq/L) / Cs 平均沈着量 (Bq/m ) × 1,000 0 5 10 15 20 25 30 溶存態流出率は農用地割合,森林割合と相関 市街地割合(%) 図 2 溶存態流出率と市街地割合の関係 を示さなかったが,図 2 に示すように市街地割 合と正の相関がみられた(決定係数 0.10~0.41) Relationship between runoff ratio of dissolve d Cs ことから,都市域に沈着した Cs は溶存態として and100ratio of urban area 90 流出しやすいといえる.これは粘土粒子や有機 80 物,腐植土に対して高い吸着性を有する Cs がこ 5月10日 5月10日 70 6月8日 6月8日 れらに乏しい都市域に沈着した場合,Cs は溶存 60 7月4日 7月4日 50 態として河川に流出する傾向を反映していると 9月2日 9月2日 40 5月10日(R = 0.56) 線形 (5月10日) 考えられる. 30 6月8日(R = 0.62) 線形 (6月8日) 20 3.3 連行係数 溶存態 Cs 濃度だけでなく,SS あ 線形 (7月4日) 7月4日(R = 0.51) 10 たりの Cs 濃度も Cs 平均沈着量と相関が確認さ 線形 (9月2日) 9月2日(R = 0.16) 0 0 10 20 30 40 50 れた(決定係数 0.60~0.71).そこで,SS あたり 農用地割合(%) の Cs 濃度から地点ごとの Cs 平均沈着量の違い 図 3 SS 濃 度 と 農 用 地 割 合 の 関 係 に よ る 影 響 を 排除 す るた め に , 連 行 係数 を 以下 Relationship between concentration of の式で定義した. suspended solids and ratio of farmland 0.20 0.05 二本松 須賀川 連行係数 (m2/kg) = R² = 0.4637 2 0.04 R² = 0.5251 0.15 SS あたりのCs 濃度 (Bq/kg) / Cs 平均沈着量 (Bq/m ) 0.03 連行係数は土地利用に依存すると報 0.10 0.02 3) 告されている が,連行係数と各土地利 0.05 0.01 用面積割合(農用地,森林,市街地)は 0.00 0.00 0 20 40 60 80 0 20 40 60 80 100 明確な相関を示さなかった.SS あたりの 0.20 0.25 移川 西川 Cs 濃度は,SS の Cs 吸着特性に依存す 0.20 0.15 R² = 0.8348 0.15 る.吸着特性を決定する土性や粘土鉱 0.10 R² = 0.6625 0.10 物,有機物含量が単純に土地利用によっ 0.05 0.05 て決まるものではないことがわかる. 0.00 0.00 3.4 懸濁態 Cs の流出特性 図 3 に示す 0 10 20 30 40 50 0 20 40 60 80 100 0.08 0.25 大関 富田 ように SS 濃度は農用地割合が大きい地 R² = 0.9443 0.20 R² = 0.5003 0.06 点 で 高 い 傾 向 に あ る ( 決 定 係 数 0.16~ 0.15 0.04 0.62).また,多くの地点において懸濁態 0.10 Cs 濃度と SS 濃度の相関が強い(図 4). 0.02 0.05 SS 濃度の増加は降雨に起因するため,SS 0.00 0.00 0 5 10 15 20 25 30 0 5 10 15 20 が流出しやすい農用地割合が大きい地 0.03 八木田 0.15 太田 R² = 0.5985 域では,降雨時に懸濁態 Cs が流出しや 0.02 0.10 すくなる. 4. おわりに Cs 濃度の特性が他地点の 0.01 0.05 傾向に合致しない地点も散見でき,その 0.00 0.00 要因については未解明な部分が多い.こ 0 5 10 15 0 2 4 6 8 SS濃度(mg/L) SS濃度(mg/L) れらの地点については,地域特有の要因 図 4 懸 濁 態 Cs 濃 度 と SS 濃 度 の 関 係 を想定した調査が必要である. 2 2 2 SS濃度(mg/L) 2 2 2 2 懸濁態Cs濃度(Bq/L) 懸濁態Cs濃度(Bq/L) 懸濁態Cs濃度(Bq/L) 懸濁態Cs濃度(Bq/L) 2 Relationship between concentration of particulate Cs and 謝 辞 : 本 研 究 は ,科 研 費 基 盤 研 究 A( 26241023) concentration of suspended solids の 助 成 を 受 け て 実 施 し た .日 本 地 下 水 開 発( 株 ),東 京 パ ワ ー テ ク ノ ロ ジ ー( 株 ), ( 株 )環 境 科 学 コ ー ポ レーションの調査,分析に対して感謝申し上げる. 参 考 文 献 :1)Tsuji et al. (2015) J Radioanal Nucl Chem, 303(3), 1803-1810. 2) Yasutaka et al. (2015) J Nucl Sci Technol, DOI:10.1080/00223131.2015.1013071 3) Yoshimura et al. (2014) J Environ Radioactivity, 139, 370-378. − 443 −
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