心臓外科術後管理Part 1(JC-CCM)

東京慈恵会医科大学附属柏病院
中西智博/田川学
目的
ü  CABG,弁置換術、大動脈手術を含めた心臓手術は 一般的に施行される外科手術
ü  手術後の良好な転帰は適切な術後急性期ケアにか
かっている
Circula@on2008;117:2969-76
ü  心肺の生理学および人工心肺の原理や後遺症につい
て深く理解する必要
JThoraccardiovascsurg2013;145:1446-47
ü  集中治療専門医と外科医を対象に心臓外科手術後の
患者に対する術後管理について述べる
人工心肺の仕組み
ü  上・下大静脈より脱血
ü  人工肺で酸素化
ü  大動脈へ返血
問題点
ü  ポンプによる非拍動流循環
ü  血液の人工的異物面への
長時間の接触
日本人工臓器学会教育セミナー
対外循環と補助循環 17:2001
後遺症と周術期イベント
GDT
循環
モニタ 不安定
リング
薬物
療法
SIRS
解離
人工心肺
体温
管理
凝固
障害
不整脈
血栓
塞栓
血糖管理
輸血
目次
ü ICU入室
ü モニタリングと初期検査
ü 循環動態管理(循環の指標、血圧、前負荷、血流の評価、
心拍出と静脈血酸素飽和度、急速輸液 昇圧薬と血管
収縮薬、血管拡張薬と後負荷低減 不整脈、徐脈と
temporaryペースメーカ)
ü 鎮静、鎮痛、譫妄
ü 呼吸器管理
ü 低体温と加温
ü 電解質管理
ü 血糖コントロール
ü 止血および輸血戦略
ü Fast-trackの不成功の予測と複雑な転帰
循環管理
ü 術後早期の循環動態は不安定
ü 心筋収縮力低下および左室機能低下がみられ、 血管内ボリューム低下と血管拡張を合併する
循環動態の把握が困難になる
CritCareMed2005;33:2082-93
新しい循環動態管理の指標としてGDTが注目される
GDT
ü 概念:酸素供給量、一回拍出量などの動的パラメータを
goalの指標とし、これを維持するために膠質液を積極的
に利用する戦略
ü CVP、肺動脈楔入圧、肺動脈拡張期圧は前負荷および
輸液負荷のsurrogatemarkerとして用いられてきたが、
静的な血管内圧は輸液反応性を予測するには不十分
ActaAnaesthesiolScand2013;57:206-213
Chest2002;121:2000-2008
デザイン:前向き 非盲検化 ランダム化比較対象研究
患者:CABGあるいは弁置換術を施行される100人
方法:コントロール群 v.s.GDT介入群
無作為に割り付け
術後ICU滞在期間とICU退出基準達成までの期間
および昇圧薬使用量について比較
コントロール群
ペーシング
Β刺激薬
アトロピン
鎮静、鎮痛
RBC輸血
Β-blocker
抗不整脈薬
術中~ICU退出までの管理目標は MAP>65mmHg,50<HR<110回とし、
循環管理のためにMAP,HR,CVPを使用 輸液負荷
血管収縮薬
カテコラミン
GDT群
求めたGEDI到達 またはSVV≦10%
血管収縮薬
上記まで輸液負荷 CIの低下かELWI増加
時には輸液負荷中止
利尿剤など 考慮
ペーシング
β刺激薬
アトロピン
ペーシング
β刺激薬
ペーシング
アトロピン
Β刺激薬
鎮静、鎮痛
アトロピン
β-blocker
RBC輸血
カテコラミン
個々のGEDIやSVVを基準としてCI>2.0l/m^2MAP>65mmHg,
50<HR<100回/minとなるように介入する
GEDI(心拡張末期容量指数)
前負荷の指標として用いられる
SVV≦ 10%となった時点で熱希釈法を
使用し個々人の最適GEDIを求めておく。
GEDI:globalend-diastolicvolumeindex
GDT群
求めたGEDI到達 またはSVV≦10%
血管収縮薬
上記まで輸液負荷 CIの低下かELWI増加
時には輸液負荷中止
利尿剤など 考慮
ペーシング
β刺激薬
アトロピン
ペーシング
β刺激薬
ペーシング
アトロピン
Β刺激薬
鎮静、鎮痛
アトロピン
β-blocker
RBC輸血
カテコラミン
個々のGEDIやSVVを基準としてCI>2.0l/m^2MAP>65mmHg,
50<HR<100回/minとなるように介入する
麻酔導入前 導入後CPB前 離脱後 ICU入室6時間 12時間 24時間
平均動脈圧、心拍数、中心静脈圧について
2群間の差はなし
麻酔導入後からICU入室まで有意差をもって
GDT群の方がSVVは低い
CPB前から閉創後24時間までノルエピネフリンの総量は
有意差をもってGDT群の方が低い
不整脈、出血、呼吸器合併症、感染症など合併症総数で
GDT群の方が少ない
合併症総数でGDT群の方が
有意差をもって少ない
合併症総数40
GDT群の方がコントロール群よりも
ICU滞在期間が有意に短い
コントロール群
62.9±58.2[39.0]h
p=0.018
合併症総数63
介入群
42.0±18.7[44.0]h
デザイン:システマティックレビュー
対象:MEDLINEで下記を満たす研究の検索 1.重症患者を対象とした輸液負荷
2.輸液負荷が一回拍出量または心拍出量に与えた影響の
有無により responderと nonresponderの2群で研究 3.輸液負荷前に2群間で背景を比較した研究
目的:輸液負荷への反応性を予測できるか検討
患者数15~40程度の小規模12研究について検討した
輸液負荷は膠質液が多く、200mL~500mL程度
全症例数334
動的指標はresponderにおいて高値をとり、輸液負荷前に
閾値を超えていれば輸液負荷への反応性を高い精度で予測できる
患者数 Cutoff値
吸気時右房圧低下
(ΔRAP)
陽性的中率 陰性的中率
33
1mmHg
84%
93%
29
1mmHg
77%
81%
呼気時収縮期圧低下
(Δdown)
35
5mmHg
95%
93%
脈圧呼吸性変動
(ΔPP)
40
13%
94%
96%
大動脈流速呼吸性
変動 (ΔVpeak)
19
12%
91%
100%
ΔRAP
デザイン:前向き観察研究
患者:心外術後にICUに入室した成人患者87人
方法:輸液負荷前後でPPVおよびPVIを測定し、輸液反応性により Responderと Nonresponder の2群に分けて PPVおよびPVIで輸液反応性を予測可能かどうか検討
Responder
負荷前 負荷後
Nonresponder
負荷前 負荷後
術後6時間以内に主治医が輸液負荷を決定した患者に
ヒドロキシルエチルデンプン 130/0.46%500mLを15分
かけて投与 CIが15%以上増加を認めたものを
Responder、認めなかったものをNonresponderとした
心外術後には不整脈や自発呼吸、灌流指数
低値や右室機能不全などの影響を除外して
も輸液反応性を予測する上でPPVは不十分
PVIはさらに精度が低い
PPV, SVVの制約
ü 自発呼吸のない人工呼吸管理下で、
一回換気量 <8mL/kgでは不正確
ü 規則正しい洞調律であることが必須
ü 開胸時には不正確
不整脈:予防と管理
ü 心臓外科術後30~40%の患者で上室性不整脈が生じ、
多くは心房細動や心房粗動
JAMA1996;276:300-306
ü CABGよりも弁手術で多く、術後2日目、3日目が最多
NEnglJMed1997;336:1429-34
予測因子
高齢
SleepApnea
不整脈既往
うっ血性心不全
上・下大静脈カニュレーション
人工心肺長期化
JAMA1996;276:300-306
AmJCardiol2014;113:919-23
ü 心房収縮の欠如により心拍出は著しく低下
ü 上室性不整脈による、脳梗塞リスク上昇、医療コスト増大
ü 適切な患者に予防を行うことで心房細動は約50%減少
CochraneDatabaseSystRev2004;4:CD003611
デザイン:システマティックレビュー
対象:theCochraneCentralRegisterofcontrolledTrials
MEDLINE,EMBASE,CINAHL
患者:selec@oncriteriaに合致する118研究17,364人
Primaryoutcome:心臓外科術後の心房細動や
上室性頻脈を 予防する効果について薬理学的、
非薬理学的治療を検討
β-blocker
ü 強心薬のサポートが必要ない患者において、β-blocker
は抗虚血作用と抗不整脈作用
AmJCardiol2014;113:565-569
HeartLungCirc2013;22:627-633
β-blocker
33研究4698人の患者に対し、術後の心房細動
および上室性頻脈に対する影響が検討
患者の81.8%は術前に投与開始、残りは術後に投与開始
発生率は治療群16.3%vsコントロール群31.7%と大きく減少
[email protected]
95%CI0.26~0.43
アミオダロン
ü Vaughan-Williams分類Ⅲ群
ü α,β-blocker, Nachannelblocker,Kchannelblocker,
Cachannelblocker作用のあるマルチチャネルブロッカー
ü 心機能が低下した患者においては不整脈の予防と治療と
いう観点からはβ-blockerより有効な可能性
ü 徐脈と低血圧の可能性
DrugSafe2010;33:539-558
JCardiothoracSurg2010;5:121
アミオダロン
33研究5402人の患者に対し、術後の心房細動
および上室性頻脈に対する影響が検討された
患者の半分は術前に投与開始、半分は術後に投与開始
発生率は治療群19.4%vsコントロール群33.3%と大きく減少
[email protected]
95%CI0.34~0.54
低体温と加温
ü 術中の低体温は人工心肺中の虚血から心筋保護
の目的で導入
ü 人工心肺離脱後の加温により、心外術後患者は
ICU入室時34~36℃台の体温で入室
ü 低体温による凝固機能異常や不整脈、低心拍出量、
呼吸器からの離脱の遅延
RohrerMJet,al.CritCareMed1992;20:1402-05
ReynoldsBRet,al.JTraumaAcuteSurg2012;73:486-91
El-RahmanyHKet,al.JClinAnesth2000;12:177-83
デザイン:多施設前向きコホート観察研究
患者:来院24時間以内に10単位以上輸血された外傷患者1961人
方法:受傷後24時間以内の最低体温34℃未満、34.1℃~35.0℃
35.1℃~36.0℃、36.1℃以上に層別化
死亡率および大量輸血リスクに関して比較
低体温群では高体温群に比べて有意に院内死亡率が高い
35℃未満では体温が低ければ低いほど凝固機能低下
がみられ、赤血球およびFFP輸血量も増加する
JTraumaAcuteCareSurg2012;73:486-91
Results
Kaplan-Meier生存曲線において、受傷後24時間以内の
最低体温が低ければ低いほど60日以内の死亡は上昇する
血糖コントロール
ü 糖尿病の有無にかかわらず、手術へのストレス反応や
外因性カテコラミンにより血糖コントロールが困難に
JThoracCardiovascSurg2013;145:1083-87
ü 術後2日以内は血糖値は180mg/dL以下が推奨される
AnnThoracSurg2009;87:663-669
ü 術後高血糖を避けることで、胸骨切開創感染や その他の感染症、sepsis、死亡率が低下
AmJInfectControl2005;33:353-359
研究デザイン:後ろ向きコホート研究
対象:St.VincentMedicalCenterでCABGの手術を受けた
糖尿病患者3554人
方法:インスリン皮下注射群 v.s.インスリン持続静注群
Primaryoutcome:在院期間、感染症発症、死亡率の差異 患者背景
診断:術前にDMと診断されている、あるいは複数回の採血 で血糖値が200mg/dLを超えている者
インスリン皮下注群(1987-1991)インスリン持続点滴群(1992-2001)
平均年齢 64歳
男性65%
インスリン使用33%内服治療50% 食事療法 11%未治療6%
結果
SQI群では4時間おきのスライ
ディングスケールで皮下注
インスリン持続静注群が
皮下注群よりも有意に
血糖コントロール良好
CII群では静注の持続インスリン
およびボーラス投与を施行
結果 術後平均血糖値の上昇
死亡率の増大
新規心房細動発生件数
ICU滞在期間、死亡に
おいても有意差あり
出血管理と輸血戦略
ü 術後大量出血:ドレーンチューブ内 1500ml/8hr
JThoracCardiovascSurg2009;138:687-693
AnnThoracSurg2013;96:478-485
輸血関連急性肺障害
輸血関連体液過剰
菌血症
死亡率上昇
・・・
Blood2011;117:4218-4225
Blood2005;105:2266-2273
AnnThoracSurg2006;81:1650-1657
Circula@on2007;116:2544-52
周術期になるべく無輸血とする施設が多い
デザイン:前向きランダム化比較対象試験
患者:人工心肺を使用して予定心臓外科手術を受けた502人
方法:予定心臓外科手術患者502人をランダムに割り付け
Ht<30%で輸血:Liberalgroupv.s.Ht<24%で輸血:Restric@vegroup
Primaryoutcome:30日時点での死亡率、重度合併症
Liberalstrategy
Yes
Ht>30%?
治療続行
No
1U輸血
Yes
No
Ht>30%?
手術開始前からICU退出時まで
このプロトコルで輸血療法施行
Restric@vestrategy
Yes
Ht>24%?
治療続行
No
1U輸血
Yes
No
Ht>24%?
手術開始前からICU退出時まで
このプロトコルで輸血療法施行
介入期間中の各群のHb値の推移
Liberalstrategy
Strictstrategy
Primaryendpoint
重度合併症全体:
ARDS
いずれも差は見られず
透析を必要とする急性腎不全
心原性Shock
30日時点での死亡
Secondaryendpoint
呼吸器系
いずれも差は見られず
循環器系
神経系
感染症
炎症
出血
デザイン:多施設 ランダム化比較対照試験
患者:イギリス17施設、心臓外科術後ICU入室しHb<9.0g/dL
となった17歳以上の患者2003人
方法:ICU入室後Hb<9.0g/dLとなった時点でランダム割り付け
Hb<9.0で輸血:Liberalgroupv.s.Hb<7.5で輸血:Restric@vegroup
Primaryoutcome:3ヵ月以内の重症感染症、虚血イベント発生
Liberalstrategy
Hb<9.0g/dLまたは
Ht<27%
で割り付け
1URBC輸血
No
Hb≥9.0g/dL?
治療続行
Yes
Restric@vestrategy
Hb<9.0g/dLまたは
Ht<27%
で割り付け
Hb<7.5g/dLで
1URBC輸血
No
Hb≥7.5g/dL?
治療続行
Yes
介入期間中のHb値の推移
Liberalgroup
平均1g/dLの差
Restric@vegroup
Liberalgroup:53.4%が輸血
Restric@vegroup:92.2%が輸血
重症感染症、虚血イベント
Liberalgroup
33.0%
HR=1.09,95%CI(0.93,1.27)p=0.29
Restric@vegroup
35.1%
輸血制限群と非制限群で重症感染症および
虚血イベントの発生に有意差なし
全死亡
Liberalgroup
2.6%
v.s.
Restric@vegroup 4.2%
HR=1.64,95%CI(1.00,2.67),p=0.045
輸血非制限群よりも輸血制限群で
有意に死亡率が高い
まとめ
ü GDT群では合併症が少なくノルアドレナリン使用量減少
ü 心外術後にはPPV,SVVなど動的指標が前負荷評価に
有効だが、不整脈患者や自発呼吸のある患者、右室機
能不全患者には適用できないという制約
ü 上室性不整脈予防において、β-blocker・アミオダロンは
有効だが血圧低下に注意する必要
まとめ
ü CPB離脱後にはしっかり加温してICU入室した方がよい
ü 周術期血糖コントロールは180mg/dL以下に保つべき
ü 心術中~術後ICUまで輸血はなるべく少なくし、
7.5g/dL≤Hb≤ 9.0g/dL程度でのコントロールが望ましいと
考え られるが、死亡率が上昇する可能性が示唆されて
おり今後の研究が待たれる
私見
ü 抗不整脈薬や体温管理、血糖管理については 死亡率に有意差がみられているため積極的な 治療介入が支持されると考えられる
ü GDTについても合併症、昇圧薬の量について有意
差が出ており施行に関して反対する理由はないよ
うである
ü 輸血戦略については輸血施行自体が死亡率上昇
リスクになるという論文と、術後輸血制限を行う方
が死亡率が高いという論文とが出ている
ü 今回の論文では輸血制限をした方がよさそうだと 述べられているが、死亡率に有意差が生じたこと を考慮すると術後輸血制限をした方がよい とまでは言えないのではないだろうか