プリントを使った学習~その有用性

算数プリントの使い方実践例
館山市立九重小学校 永島 俊之
1プリントを使った学習〜その有用性
すぐれた携帯性はプリントの大きな有用性で
す。
教育同人社がダウンロード・サービスを行って
いる算数プリント。
⑶ 非連続性
算数基礎プリント、計算プリント、思考力・表
ドリルは、冊子ですから、連続性が一つの有用
現力プリントの三種のプリントが用意されていま
性になります。
す。
「前はどんなことを学んだのか?」などと、つ
これらの三種のプリントには、それぞれ有用性
まずいたときに、見返すことが容易です。
があります。その有用性につきましては、本編で
「この次はどんなことを学ぶのか?」などと、
説明してまいります。
次の学習の見通しをもつことも可能です。
ここでは、
プリントそのものの有用性について、
それに対して、プリントには、逆に「非連続性」
ドリルおよびノートと比較しながら、述べてまい
という有用性があります。
ります。
すなわち、タイムマシンのように、一足飛びに
過去の学年の内容を学習することができるので
⑴ 俯瞰性
す。
プリントの特性は、一目で課題が俯瞰できるこ
たとえば、第5学年で、2.3 × 1.5 のような(小
とです。今日は、この一枚をやればよい、という
数×小数)の筆算でつまずいている子どもがいた
ような見通しがもちやすいので、意欲づけをしや
とします。
すいです。
その際、即座に第4学年で学習した 4.6 × 12
また、特にくりかえし計算ドリルは書き込まな
のような(小数×整数)の筆算のプリントを使っ
いことが原則なので、成果を実感しづらいです。
て、順を追って復習することが可能です。
その点、プリントは書き込み式ですから、自分の
あるいは、その子どもが乗法の筆算そのもので
書いた答えに赤々と輝く丸に 100 点の文字、と
つまずいている場合は、第3学年で学習した、
いった成果を一目で俯瞰することができます。
27 ×6や、27 × 20、27 × 26 のような、
(整数
×整数)の筆算のプリントを使って、即座に復習
⑵ 携帯性
することが可能です。
ドリルを宿題に出したとします。30 名の学級
プリントの非連続性は、準備さえしておけば、
では、朝、教卓の上にノートが 30 冊、うず高く
タイムマシンのように、時を自在にさかのぼった
積み上げられる光景が目に浮かびます。
学習が容易になるという有用性をもちます。
職員室で採点しようと、30 冊を抱えて廊下を
以上の三つの有用性をふまえながら、以下、三
歩く先生の姿も浮かびます。
種のプリントの活用実践例について説明します。
それが、プリントなら、その気になればポケッ
トに突っ込めるような量にすぎません。
…1…
1 授業編
⑴ 早く終わった子どものために
❶ 個に応じた練習量の保障
計算の速さには個人差があることは、言うまで
もありません。それも圧倒的な差となって現れる
ことも多々あります。
授業の最後のドリルタイム。授業でたった今、
学んだはずの問題が解けなくて呻吟している子ど
も。ほどなく終わって教師に丸をもらっている子
ども。中には「瞬間的に」終わってしまう子ども
もいます。
「瞬間的に」終わってしまう子どもに
は、与えられた時間に比べて問題の量が少ないの
です。 № 16 では、「スキルアップ1」は倍数を求めら
そんな時、そのような子どものためにプリント
れることが課題であり、「スキルアップ2」は、
が役立ちます。
公倍数を求めることが課題となっています。
この場合には、三種のうち計算プリントが有効
公倍数を扱う授業の冒頭に、前時に扱った倍数
です。能力の高い子どもですから、途中で終わっ
の概念を理解しているかを確かめるために「スキ
ても、すきまの時間をうまく見つけて、下校まで
ルアップ1」のみを行わせます。
にそれこそ「瞬間的に」終わらせて、提出するこ
そして、すぐに全体で答え合わせをし、できな
とでしょう。
かった子どもには正しい答えを書かせ、復習させ
ます。それでも理解が怪しい子どもはしかるべき
❷ 応用的発展的な問題に
時に個別指導をするべく、マークします。
同様に、共通の課題が早く終わってしまった子
「スキルアップ2」は、授業の終わりに、学習
どもに、基礎をふまえてさらに応用的発展的な問
したことが理解できているかどうかを確認するた
題に取り組ませたい場合には、思考力・表現力プ
めに使います。一斉に行わせ、できた子どもから
リントが有効です。
教師が採点します。その際、
子どもによっては
「ス
キルアップ1」
が理解できているかを確認します。
⑵ 全員の理解度の確認
授業の冒頭に、前時に学習したことを復習させ
解できたかどうかを確かめたい時には、算数基礎
2 放課後編
プリントが有効です。
放課後にプリントを使う機会としては、子ども
右の第5学年の№ 16 のプリントを参照してく
を残しての個別指導がまず考えられます。また、
ださい。
「算数基礎プリント」は1枚の中が「ス
自主的に学校に残って学習を行う場合も考えられ
キルアップ1」と「スキルアップ2」に分かれて
ます。
います。おおよそ、「スキルアップ2」は「スキ
ここでは、放課後の個別指導にしぼって、プリ
ルアップ1」をふまえた内容になっています。
ントの活用実践例について述べます。
たい時や、授業の終わりに本時学習したことを理
…2…
⑴ 基礎の習得と習熟に
連絡帳を見忘れたり、見てもやり忘れたりする子
つまずいている子どもに計算の仕方を機械的、
どももいることは事実です。
一方的に教えても、効果が上がるとは限りません。
例えば、連絡帳に「ドリル○番」と記入してあ
なぜそうなるのか、基礎となる考え方を改めて理
るとします。子どもは、ドリルの該当するページ
解させる指導が必要です。
を探して開き、ドリルノートを開いて、宿題を行
そんな時、算数基礎プリントが有効です。ステッ
うことになります。
プ1、ステップ2などと、理解する事項がコンパ
学習用具の管理能力が低い子どもにとって、こ
クトにまとめられていて、こういう場合、大変使
の作業は意外に大変です。ドリルかドリルノート
いやすいです。
のどちらかを忘れてしまったら、アウトです。
そして、このプリントで学習した後に、習熟の
その点、プリントならば、管理能力が低い子ど
ために計算プリントを使います。それも、すべて
もでも「この1枚をとにかくやればよいのだな。
」
解かせるのではなく、その子どもの実態に応じて
と、俯瞰しやすく、取り組みやすいです。
問題とその数を選んで解かせるとよいでしょう。
教師にとっても、プリントなら、出席番号順に
すべて終わらせなければ、という考えは捨てるこ
重ねて提出するしつけをしておけば、だれが出し
とです。その子どもの実態に合った使い方をする
てあって誰が忘れたのか、調べやすいです。
ことが大切です。もちろん、残りを家庭学習でや
平日の宿題に最も適しているのが計算プリント
りたいと子どもが言えば、話は別です。
です。家庭には教えてくれる人がいないと考えた
方が良いです。授業で学んだことを、とにかく理
⑵ 学年をさかのぼって
屈抜きに習熟する、というスタンスで平日の宿題
個別指導を要する子どもの多くは、前の学年で
は考えます。
学習したことが身についていないことが多いで
す。そこで、学年をさかのぼって復習する必要が
⑵ 休日の自主学習に
出てきます。
休日に、自主学習を課している学級も多いで
そこで、プリントの有用性である「非連続性」
しょう。そんな時はチャレンジの意味合いで、思
を活かして、先に述べたように、子どもがどの段
考力・表現力プリントが有効です。好きなプリン
階でつまずいているかを診断するために、前の学
トを好きなだけ自由に取り組ませます。
年のプリントを使います。そして、そのプリント
で復習し、弱点補強をします。
4 長期休業編
3 家庭学習編
夏休みや冬休みなど、長期休業中にもプリント
先に述べたプリントのもつ「携帯性」は、子ど
は有用です。
もにも有用です。子どもは何かと多くの荷物をラ
ンドセルに詰めて学校と家庭を往復します。プリ
⑴ 宿題として
ントは持ち運びしやすいので、家庭学習にも有効
長期休業用にプリント専用のファイルを用意し
です。
ます。日常からファイルに綴じている場合は、間
に色上質紙を挟み、区切りをつけます。
⑴ 平日の宿題に
その長期休業中にどれだけ頑張ったかは、プリ
教師の指示が届かない家庭学習では、連絡帳を
ントの厚みで分かります。色上質紙を挟むのは、
見て子どもが宿題を行うことが必要です。ただ、
一目で成果を実感させるためです。
…3…
教師から与える宿題ですから、全員に同じプリ
これまでの活用実践例を、表にまとめました。
ントを渡します。この場合は学級の実態に応じて
◎…特に有効 ○…有効
プリント
れをファイルと一緒にしておきます。
子どもはビニールから取り出し、終わって自己
採点したら、ファイルに綴じます。低学年は親に
計 算
算数基礎
その際、ビニール袋などに入れて渡します。そ
場 面
頼んでもよいでしょう。
最初から綴じてしまうと、どのくらいやっている
のかが、ファイルを開かないと分からなくなりま
授 業
全体
すので、この方法は有効です。
個に対応
頑張るほど、ファイルの厚みが増していきます。
⑵ 自主学習として
練習量の
保証
応用・発展
理解度の
確認
夏休みの自主学習として、子どもがプリントを
自由に選んで行うということも可能です。これは
放課後
個
個別指導
「非連続性」の有効性を活かしたやり方です。
これまで示してきた使い方を実践していると、
一人一人その学期にやったプリントは当然異なっ
家庭学習
てきます。
個
学期末に、自分がまだやっていないプリントか
ら、やりたいプリントを選ばせる機会を設けます。
子どもは教師の助言を仰ぎつつ選びますが、思考
長期休業
力・表現力プリントを重視したいです。時間がか
かるプリントにじっくり取り組ませたいからで
◎
思考力・表現力
三種のプリントから教師が選びます。 ○
◎
◎
○
◎
◎
○
低学年のプリ
ントも活用
平日の宿題
○
◎
○
休日の
自主学習
○
○
◎
宿 題
◎
◎
◎
自主学習
○
○
◎
個
す。
三種を使い分けて
学力アップ!
学級の実態や先生方のねらいに応じて、この実
践活用例が少しでもお役に立てば幸いです。
…4…