ケーブルと配線詳細

テクニカルノート No.22
振動センサーのケーブルと配線
はじめに
このテクニカルノートは、加速度センサーやその他の振動センサーの基本的な
ケーブルとその使用法について述べられています。これを読めば様々な用途
や環境で振動センサーの性能を最大限に引き出すことができるでしょう。以下
に述べるもののいくつかはセンサー取り付けの一般的な方法であり、また部分
的には特定の用途で使われるものです。 この他に何か必要な情報があれば
弊社にコンタクトして下さい。ウィルコクソン社のスペシャリストがアドバイス致
します。.
取り付けは、まず測定ポイントに適したセンサーを選ぶことから始まります。セ
ンサーの選択に関しては、ウィルコクソン社テクニカルノート No.16を参照して
下さい。
センサーの要求事項や、能力、測定限界をよく理解し、測定する機械や振動
源を考慮したうえで取り付け場所や取り付け方法を決めます。取り付けに関し
ては同じくテクニカルノート No.21を参照して下さい。センサーが適切に取り付
けられれば、次はケーブル配線です。
J9T2A 防滴用ケーブル付き
R6Q コネクター
電気的仕様
内蔵アンプ型の振動センサーは通常定電流 DC 電源を供給する必要がありま
す。一般的にこの電源は、2-10mA の定電流ダイオードで 18-30V です(図1参
照)。もしこれ以外の電源を使用するのであればセンサーメーカーと検討した
ほうがよいでしょう。
AC カプリングと DC バイアス電圧
センサー出力は受ける振動に比例した AC 信号です。この AC 信号は、バイア
ス出力電圧(BOV)とか静止電圧と呼ばれる DC バイアス信号に重なります。こ
の信号の DC 成分は、コンデンサーによってブロックできますが、そのことで
AC 出力を残します。振動データ解析器、モニター、センサー電源ユニットの多
くは AC カプリングのための内部ブロッキングコンデンサーを含んでいます。
振幅巾と供給電圧
図1 振幅巾対供給電圧
ケーブルの重要ポイント
振動センサーの取り付けにもっとも重要な要素のひと
つはケーブルですが、これには4つのポイントがあり
ます。①ケーブル長と電気容量②ルーティング③接地
④固定 などです。
長いケーブルを使用
最近の産業用圧電型加速度センサーは通常電圧モード型で
すが、これにより測定対象物の振動に応じて電圧を発生しま
センサーメーカーは通常バイアス電圧をノミナルの供給電圧の半
値に設定します。バイアスとカットオフ電圧の差異により、センサ
ーの出力における電圧幅が決まり、この出力電圧幅により振動振
幅巾が決まります(図1参照)。このように、100mV/g の感度、5V の
出力スイングをもつ加速度センサーは 50g ピークの振幅をもつこと
になります。加速度センサーによっては通常の 5V 以上の電圧スイ
ングが可能なものもあります。ご検討中のセンサー電圧スイング
の詳細についてはメーカーに問い合わせが必要です。電源供給
が 18V よりも低い場合、それに応じて振幅巾も小さくなります。バイ
アス電圧をより高くしたり低くしたカスタム品も用途に応じて供給で
きます。
定電流ダイオード(Constant Current Diode)
アンプを内蔵している振動センサーはすべて CCD によって整流さ
す。この振動電圧信号は AC 電圧であり、AC 信号の制限の対
象となります。高周波の AC 信号は AC 回路の容量により影響
を受け、その結果容量性リアクタンスを引き起こします。多く
のユーザーは RF に比べると振動信号は高周波ではないと思
いがちですが、回路中の容量性リアクタンスによっても影響は
受けます。.
電圧モード振動センサーのユーザーにとってこれは何を意味
するのでしょう。センサー電源とセンサー間のケーブル長が短
い場合(<30 メートル)、振動データでの回路の容量はそれほど
影響を受けません。しかし、長いケーブルを使用した場合、振
動信号を歪ませるに十分な容量をもつことになり、結果エラー
信号となってしまいます。この余分な容量はセンサーアンプの
出力において容量性負荷を生み出してしまいます。アンプは
ある程度の電流を抑えられますが、キャパシタンスを駆動す
るための無制限な電流は供給することができません。
れた電源が必要になりますが、この CCD によりセンサーへの電流
が制御されます。また、上限を設けていない電源電流を使えば、
ほとんどの場合アンプ内蔵型センサーにダメージをもたらします。
この理由により、市販されているデータ解析器や振動モニターは
センサーへのパワーを制御するため CCD を含む電源回路になっ
ており、供給されるパワーはほとんど例外なく 2-10mA の間に入る
ようになっています。また、電源のほとんどがバッテリーの長寿命
化のため、2mA の CCD が入っています。ライン電源の場合(消費
電力は問題にはならない場合)は長いケーブルで駆動させるため
6-10mA 用の CCD が入っていることが望まれます。また、100℃以上
での操作の場合、加速度センサーの内部アンプの加熱を防ぐた
め、電流値は 6mA 以下が望まれます。通常の CCD としてはビシェ
イシリコニクス社の J500 シリーズ(J507、J509)があります。この CCD
は電源の電圧出力にシリーズで取り付けます。
図2 センサー出力等価回路
回路図2では信号電圧が正の時に、ケーブルの容量を電
荷するため CCD がすべての電流を供給する必要があり
ます。センサー用アンプから出る AC 信号の毎サイクル
で、ケーブル容量をドライブするのに十分な電流があるこ
とが重要です。アンプ自身が使うための電流を約 1mA の
電流が必要ですが、このオンボードアンプに必要な電流と
ケーブルをドライブするための電流が不十分な場合、アン
プからの電圧は 回転率限界となります。こうなると一般的
には出力信号は、正弦波が実際の信号を反映することが
できなくなります。
I = C dv(t)
v(t) = V sin wt w = 2pf f は測定物の周波
数、V はピーク電圧
dt
v(t) を微分すると以下の通りになります。
dv(t) = Vw cos wt or I = C V (2pf) cos (2pf)t
dt
ここではピーク電圧を満たすための電流値を見ているた
め、値がピークになるポイントをこれにより算出します。cos
wt = 1 のとき電圧はピークとなり、制限周波数を求める場合次の
図3 回転率限界信号
ようになります
I = C V (2 pf) I はコンデンサーに必要な電流値
しかし、コンデンサーに必要な電流は全電流の一部であり、
全体の電流を求めるには以下のようになります。
Iccd = I + 1mA
図3は回転率限界の波形を示しています。このサイン波
Iccd は定電流電源からの電流値で、セン
サーのオンボード回路を駆動させるには
1mA が必要となりますとなり、
I = Iccd - 1mA
の正の部分は、ケーブル中の信号をドライブするのに十
分な電流値がないことを示し、そのため「直線」になってし
これらの式を合わせると以下の通りとなります。
まいます。サイン波の負の部分ではコンデンサーにより出
Iccd - 1mA = CV (2pf)
る電流を低下させるか、 または吸収させる必要がありま
すが、この場合アンプはこの電流を吸収するのには十分
必要な周波数 f を求めるには
な能力があり、よって高周波操作における制限要素がケ
ーブル容量をチャージするのに必要な電流を供給できる
CCD の能力を持つことになります。
f=
Iccd - 1mA
------------------2p (C) (V)
電流制限値が近づいた場合、正の部分のみの信号が影
これで周波数が求められますが、再び代表的な用途でのス
響を受けることになりますが、この場合の実際の影響とい
ケール要素を追加する必要があります。
うのは、信号が歪み高調波が発生します。これにより振動
信号は高調波成分により信頼性が低くなってしまい、極
端な場合、信号が三角波に近くなってきます。三角波とい
うのは複数の基本周波数において強い高調波成分をもっ
ています。
最大周波数を算出する
コンデンサーを通しての電流値は次のような微分方程式
によって算出できます。
ケーブルの最長寸法を算出する
9
10
fmax = ——————————
2 p C V / (Iccd-1mA)
ケーブル長の限界を算出するための計算プログラムは、ウィル
コクソン社ホームページの “
Knowledge Desk”
にありますのでご使
用下さい。
振幅の過負荷
ここでは fmax= 最大周波数 (Hz)
C= ケーブル容量 (pf)
これまでの説明が根本的に意味することは、高周波数、高振幅
信号は信号の歪を生み出し、低周波においてエラー信号を引き
V= センサーよりのピーク信号出力 (v)
起こすということです。その他高周波負荷の要素としては、ギヤ
Iccd= シグナルコンディショナーの定電流(mA)
のインパクトや蒸気リリースバルブのヒス音などがありますが、
109 = 単位をあわせるためのスケール要素
この方程式は、ケーブル容量が増えると、式のバランスを取り信
ウィルコクソン社製品のほとんどはフィルターにより高周波負荷
から防御されるよう設計されています。
高温でのセンサー電源供給
号の歪をなくすために、定電流値を増やさなければならいか、ま
たは使用可能な最大周波数を落とさなければならないことを示し
100℃以上の温度でセンサーを使用する場合、オーバーヒート
ています。
による加速度センサーの内部アンプへのダメージを避けるため
電流は 6mA 以下にします。
ケーブル設置と電磁干渉
トランシーバ、送電線、電気スパークなどは信号の干渉になりま
図4 ケーブル長限界対種々の電流ドライブレベル
す。以下のガイドラインによりEMIやESDによる測定エラーの
大部分を取り除くことができます。
十分にシールドされたケーブルが望ましいことは言うまでもあり
ません。
適切なケーブル設置もまた重要です。ACラインの近くにケーブ
ルを置かないよう配慮し、ACラインと交差するところでは適切な
角度を持つことが推奨されます。可能であれば、ケーブル用導
管に入れることが望ましく、またモーター、発電機、トランスなど
電波発生装置からは遠ざけて設置するようにします。最後にES
Dが発生しそうな場所を避けます。センサーがESD対策をして
いたとしても、極端なESD発生の結果一時的に信号が歪むこと
もあります。.
この図は、式で求められたケーブル長の限界を示したもの
です。30cm当たり、最大電圧スイングは 5V で、ケーブル容
量が 30 pF となります。30pF/1 フィートがウィルコクソン社の
ケーブルでは一般的であり、5V というのは加速度センサー
のダイナミックレンジを計算する場合一般的に許容される
スイングです。例えば、ユーザーが振動を 50g のレベル(50g
x 100mV/g = 5 Volts)まで測定するのに 100mV/gの感度を要求
し、加速度センサーを 4mA 定電流電源で駆動、また 10KHz
で信号測定をしたい場合、ケーブルの長さはどこまで使用
できるのでしょうか。図下部の 10,000Hz のポイントから上に
上がり 4mA の線までいくと約 90 メートル強のケーブルにな
ります。従って、上記の条件で使用する場合、90 メートルま
でのケーブルを使って信頼性の高い振動測定をすることが
可能になります。
電磁モーターの近くにケーブルを設置する場合、ケーブルの方
向がローターの軸に直交するようにします。またケーブルはモニ
タリング場所から常に遠くに置き、ステーターの磁界からもっとも
遠くになるようにして下さい。DCモーターの場合、モーターブラ
シから発生するブロードバンドRFノイズを避けるため、できるだ
け遠くに設置するようにして下さい。
ケーブルの接地と接地ループ
測定装置の配線では、通常の電源配線における接地とは別
の働きをさせることがあります。電源での接地は、人と高いポ
テンシャル間にバリアを設けることで電気的ショックを防ぎ安
全を確保するのが主な目的ですが、一方電気配線によって
は電流の一部を伝える場合もあります。
それにより装置のグラウンドが不安定になり、装置全体がノイ
ズを拾うことになります。
振動モニタリングではシールドされた、ツイストペアのケー
ブルを使用することが最善の方法です。このケーブルは2
つの導線をもっており、それぞれがケーブル長一杯にね
じれるように作られています。この導線は交流ワイヤール
測定装置の配線における接地は、測定対象の信号に影響す
ープを作っており、これにより電磁場にさらされた場合ワ
るような予期せぬ電磁場やノイズから測定装置をシールドし
イヤーにおける電流をキャンセルし、その結果電磁ノイズ
たり防護するために使います。この場合唯一の適切な接地は
を低減します。同様の技術がテレコム技術でも使用され
ループをもたないもので、装置の接地系統においてグラウン
ており、高圧パワートランスミッションでもツイストされたケ
ドされたポイントのうちただひとつ接地する道筋となります。交
ーブルが使用されています。
差したり接触したりする大きな枝がない特徴的な構造になっ
ているため、たびたび接地ツリーと呼ばれます。測定装置の
配線では通常すべてのケーブルは電磁ノイズを拾わないよう
にシールドされていますが、このシールドは導壁やジャンクシ
ョンボックスに決して触れないようにします。さもなければ偶発
的な接地ループができてしまいます。
さまざまな振動モニタリングシステムで使用される装置シ
ールドは、ケーブル配線の一端にのみ接続しなければな
りません。図6で、ケーブルのデータ取り込み装置側では
シールド接続されていますが、センサー側では絶縁され
ています。
配線に接地ループがあると、接地系統を通して電流が流れて
しまい、装置の配線におけるループ回路があれば産業用機
図6 装置側では接地され、加速度センサー側は絶縁
器の周辺で引き起こされた電磁場をソースとして配線内部に
電流が発生します。図5にあるように、このシールドにおける
ループ電流は振動測定回路電磁カプリングを起こさせます。
電源ライン、モーターのステーターフィールド、モーターのロー
ターフィールド、それにRF装置は産業用の現場では一般的な
ソースとなり得ます。
その他の装置接地の接続としては、ケーブルのセンサー側で
シールドを接地させること方法があります。この方法は図7に
図5
加速度センサー取付けにおける不適切な接地
書かれています。ケーブルのセンサー側が接地されている場
合は、装置側ではシールドを接地させないように注意して下さ
い。
図7
オンラインモニタリングシステムやその他の永久接続された装
置は、すべてそれぞれのグラウンド接続をもっていますが、そ
の接地を電気回路の接地に使用してはいけません。もし使用
された場合
装置側では絶縁し加速度センサー側で接地
永久設置されたセンサーからの信号を可搬型データ収
図8
シールドを絶縁したままでのジャンクションボックスの接続
集装置が使う場合、設置の問題はそれほど重要にはな
りません。これは回路でコモンとして使われるリファレン
スを装置自身が内部にもっているためです。データ収集
装置はバッテリー駆動されるため、装置の電源からアー
ス接続がありません。いかなるアース接続もセンサーを
経由してのみ行って下さい。アース接続は1系統のみで
行われ、グラウンドループは形成させないで下さい。
ケーブルの種類
ケーブルを固定する
永久設置の振動センサーに最適なケーブルはシールド
ケーブルの止め部でのストレスを低減し、振動やインパクトに
されたツイストペアーです。このシールド・ツイストペアー
より発生するエラー信号を防止するため、センサーを取り付け
はまたプロセスコントロール用プラント設備では一般的
たあとはケーブルを固定する必要があります。過多な動きを
に使用されています。センサーのパワー/信号用の 2
与えられたケーブルは最終的にケーブル材料や絶縁を疲労
芯で、また装置回路を完成ためのコモン接続として使わ
させますが、この疲労はツイストや絶縁を壊し、その結果デー
れます。このツイストペアーの外側はシールドされてい
タにノイズが乗り、破壊されてしまいます。これを防ぐためには
ますが、金属箔タイプよりも低周波数シールドでは優れ
図9のように十分余裕を持たせ振動物に取り付けるようにしま
ているブレードシールドが使われています。金属箔は
す。またこのことは高い変位振幅をもった機械には特に重要
RF シールドが必要な場合に良く使用されます。
となります。
同軸ケーブルは仮設置または可搬用途でしばしば使わ
図9
適切なケーブル固定
れますが、ケーブルが引っ張られるような導管やその他
密閉されたケーブル管を通して同軸ケーブルは決して
使用してはなりません。ケーブルジャケットの絶縁が引
っ張られ破損した場合、シールドは接地導管やトレイに
触れたりし接地ループを作ります。同軸シールドはセン
シング回路の一部であるため、振動測定装置が拾うノ
イズは大変シビアになります。ノイズの最も目立つもの
は電源ライン周波数で、振動信号を見えなくしすべての
データが使えなくなります。
ジャンクションボックスを使ってセンサーを永久設置する
場合、グラウンドに接地しないで常にボックスまでシー
ルドをもっていきます。このシールドはセンサー回路の
両端との間で絶縁されたままにしておく必要がありま
す。図8ではジャンクションボックスの適切な接続が示さ
れていますが、唯一の接地接続はセンサー側か測定装
置側のいずれかのみです。
まとめ
振動測定のためのケーブルの設置は、振動信号のノイズを最
小化するよう最新の注意を払わなければなりません。ケーブル
を走らせる場所は電磁インターフェイスを避け、ケーブル長が
60 メートルを超える場合や、振動信号の振幅が大きい場合、ケ
ーブル長からくる影響を、より慎重に検討しなければなりませ
ん。シールドされたツイストペアーはすべての振動センサーの
接続に推奨されますが、同軸は仮設置または可搬型データ収
集目的のみに使用するようにして下さい。