海外進出前の留意点

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の
業
企
第
アジア路地裏経営
2回
海外進出前の留意点
―進出企業の命運を分けるものとは
甲南大学 経営学部
安積敏政
教授 「海外進出前の留意点」としては、
「安易な合弁
ることが多い。
設立」、
「ロイヤリティの確保」
、
「販路の確保」
、
「現
2つ目は、新興国への事業進出では、力のない
地調査がずさんな事業計画」
、
「資材調達」
、
「仲介
企業ほど合弁を選択しがちである点だ。人材の不
人の見極め」
、
「入居先の決定」
、
「派遣人材の質」
、
足、現地での商流や物流への知識の無さ、商圏の
「国際契約の重要性」の9項目があるが、本稿で
無さ、現地政府や市政府との交渉力の欠如など経
は進出企業の命運を分ける「合弁設立」
「販路」
「入
営力への不安を感じる企業ほど、合弁相手がカ
居先」の3項目を取り上げる。
バーしてくれるという甘い期待と幻想を持つ。中
国、インド、ロシアといった社会主義的要素を持
「合弁設立」
―― 契約内容には心血を注げ!
現地インタビューの中で経営トップの口から圧
つ新興国と欧米では合弁の意味と意図が異なる。
同床異夢の中で、双方とも“信頼と忍耐”が要求
される。
倒的な反省点として出たのが、
「合弁」という経営
3つ目は、合弁は期間限定事業であるという点
形態の難しさと苦しさである。韓国や台湾での合
である。合弁開始時に途中解約または期間満了に
弁では、難しさの中にあっても歴史的にこの困難
よる別れのシナリオと条件を明確にしておく必要
を乗り越えてきた事例もある。しかし中国、タイ、
がある。意気投合した合弁開始時の両社の立役者
インドネシア、パキスタンなどへの進出において
は、合弁解消時には退任、退職や異動で存在しな
は、業種を問わず合弁形態による事業進出の苦境
いことが多い。合弁解消交渉の“最後の砦”は合弁
が多く見られ、以下の3つの課題を持っている。
契約書だけである。合弁契約締結時にどこまで解
1つ目は、アジア進出の際の事業形態の検討と
消時の条件を盛り込めるかが合弁事業の成功要因
選択が安易ではないかという点である。完全出資
の1つである。海外進出の選択肢に合弁形態を選
の自前進出、合弁、企業提携、企業買収(M&A)
ぶ以上、合弁への確固たる経営理念が必要である。
という選択肢がある中で、合弁の義務付けが無い
にもかかわらず、あえて合弁を選択することは、
将来とも合弁のメリットがあることが確信できる
「販路確保」
―― 別の販路開拓で販売急変対策を!
場合であるべきだ。中小企業にとって、アジアな
中小製造企業のアジア進出の成功要因の1つ
ど新興国における合弁解消のための長期に及ぶト
は、現地でのものづくりであるが、このものづく
ラブルは、人材などの経営資源の制約から次代の
りが製品の性能、品質、コスト、デリバリーなど
経営者が途方に暮れるような経営課題を突きつけ
の面で事業計画と大きく異なり、深刻な経営危機
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2015 年 11月号