ニコランジルは造影剤腎症を抑制する

A merican
H eart
A ssociation
第84回米国心臓協会学術集会
Nov 12-16, 2011
Location: Orange County Convention Center, Orlando, Fla.USA
最新の臨床研究の成果のため適応外の内容が含まれています。記載されている薬剤のご使用にあたっては最新の添付文書をご覧ください。
AHA Poster Winners
ニコランジルは造影剤腎症を抑制する
名和 隆英 先生 岐阜大学循環呼吸病態学・第二内科
心腎連関が注目されだしてから久しい。腎機能低下
本報告は「 Epidemiology and Prevention of
が心血管系予後を増悪させることは、今や広く知られ
CV Disease: Physiology, Pharmacology and
ている。そのような認 識のもと、造 影 剤 腎 症( C I N ,
Lifestyle.」分野の最優秀演題として表彰された。
Contrast-Induced Nephropathy)
はPCI治療に残さ
れた課題の一つである。CIN発症例では、院内死亡率
が22%、退院しても1年間に12.1%が死亡、5年間の死
造影剤腎症の予防目的で
ニコランジルに着目
亡率は44.6%に及ぶと報告されている
[Rihal CS et
検討対象とされたのは、PCI施行予定で血中シスタ
al. Circulation. 2002; 105: 2259]。CINは腎機能
チンCが高値であった腎機能が低下した192例。
シスタ
低下例で特にリスクが高く、発症率は腎機能正常例の
チンCは「男性:0.95mg/L」、
「女性:0.87mg/L」以上
5∼1 0 倍とするデータもある[ P o r t e r G A . M i n e r
を高値とした。
これら192例をニコランジル群(98例)
と
Electrolyte Metab. 1994; 20: 232]。
対照群(94例)
に無作為に割付けし、PCI後の腎機能
CINをめぐっては、多くの予防法が検討されてきた。
の推移を比較した。
ニコランジル0.096mg/mLに調製し、
しかし、補液以外、標準的治療として確立されていな
PCI施行4時間前から1mL/kg/時の投与速度で24時
いのが現状である。そのような中、経皮的冠動脈イン
間持続静注した。対照群では生理食塩水を用いた。
ターベンション
(PCI)施行4時間前からのニコランジル
試験開始時の患者背景に、両群間で有意差はな
持続静注が、腎機能低下例におけるCINを有意に抑
かった。平均年齢は70.3±8歳、推算糸球体濾過率
制するとの成績が、11月12日より米国オーランド
〔フロ
(eGFR)
は59.2mL/分/1.73m 2 、血清クレアチニン値
リダ州)
にて開催された米国心臓協会(AHA)学術集
は1.00mg/dL、
システインC濃度は1.344mg/Lだった。
会において発表された。報告したのは、岐阜大学循環
造影剤の用量は平均140mL、両群ともおよそ半数が、
呼吸病態学・第二内科の名和隆英氏。
ARBとスタチンを服用していた。
造影剤腎症がおよそ3分の1に減少
1か月間の追跡期間後、一次評価項目である
「PCI
施行1か月後のCIN」発生率は、ニコランジル群4.1%
であり、対照群の12.8%に比べ有意(p<0.05)に低
かった
(図1)。CINの定義はEuropean Society of
Urogenital Radiology( ESUR)
ガイドラインに従い、
「血清クレアチニン値の、造影剤投与前から25%以上、
指導医である西垣和彦准教授とともに
あるいは0.5mg/dL以上の増加」
とした。
岐阜大学循環呼吸病態学・第二内科は、心筋虚血に
次に血清クレアチニン値の推移を比較すると、対照
対するニコランジルの虚血プレコンディショニング様作用
群ではPCI施行24時間後から経時的に増加していた
の研究に関し世界的にも有数の研究室であり、今日まで
のに対し、ニコランジル群ではPCI施行後1か月間にわ
多くの成績を報告してきた。
そのため、CINに虚血傷害が
たりほぼ一定値を示した。
その結果、PCI施行2日後以
関与していると考えた時点で、腎に対するニコランジルの
降、ニコランジル群では対照群に比べ、有意に低値と
虚血プレコンディショニング様作用の検討を思い立ったと
なっていた
(図2)。
いう。ニコランジルはPCI時の補完療法として心保護作
用が報告されており、今回の結果を受け名和氏は、CIN
薬理学的「虚血プレコンディショニング様作用」
が重要な機序
を抑制したこの腎保護作用が心血管系を含む長期予後
に与える影響も追跡する予定だという。続報が待たれる。
ニコランジルによるCIN抑制作用の機序は多岐にわ
なお、冒頭で紹介したPoster Winnersは、AHA学
たると、名和氏らは考えている。
しかしその中で最も重要
術プログラム委員会から任命された専門家チームが評
なのが、虚血プレコンディショニング様作用であるという。
価した結果である。論文筆者属性をブラインド化の上、
すなわち、
ニコランジルにより腎臓は虚血に対する耐性
チーム構成員がそれぞれ点数をつけた。受賞者は各コア
を獲得する。
この作用により、造影剤による一過性の虚
1名で、
日本から選ばれたのは名和氏のみだった。同氏
血下にあっても腎組織は傷害から免れ得る。ニコランジ
には受賞を讃えるプレートが贈られた。
また受賞の事実
ルによる虚血プレコンディショニング様作用は、心臓に
は、学 会が発 行する日刊 紙 、
さらにA H Aウェブサイト
おいて数多くのデータが報告されている。
(%)14
12
[http://liten.be//CgEbv]
にも掲載されている。
(%) 8
対照群(94例)
6
ニコランジル群(98例)
5
10
変化率
発生率
8
6
*
4
4.1
2
0
6.58
7
12.8
3.93
4
P<0.01
3
P<0.05
2
0.7
1
0
−1
−2
対照群(94例)
ニコランジル群(98例)
*
:p<0.05(vs 対照群)
(χ2検定)
図1 PCI施行1か月後の造影剤腎症発生率
−3
0.57
0
−0.49
−2.23
PCI
施行前
PCI
24時間後
PCI
2日後
PCI
1か月後
対応のないt検定
図2 血清クレアチニン値の推移