虚血肢治療用低侵襲ナノ粒子製剤の実用化

九州大学【文部科学省 橋渡し研究加速ネットワークプログラム】シーズ:C03(TR08)
九州大学【文部科学省 橋渡し研究加速ネットワークプログラム】シーズ:C03(TR08)
虚血肢治療用低浸襲ナノ粒子製剤の実用化
中野 覚1),松本拓也2),中西洋一3),戸高浩司3)、江頭健輔1),前原喜彦2)
1)九州大学大学院医学研究院 循環器病先端医療研究開発学、
2)九州大学大学院医学研究院 消化器・総合外科、
3)九州大学病院 ARO次世代医療センター
要約
日本は超高齢化社会を迎え重症虚血性疾患が増加し,死因の主たる比率を占めています。こ
の重症虚血性疾患に対して血管増殖因子や細胞を投与する治療的血管新生療法が提案され,臨
床試験が実施されておりますが,決定的な治療には至っていないのが現状です。私たちは重症
慢性下肢虚血に対する“スタチンによる治療的血管新生療法”として,ナノテクノロジーによ
るドラッグデリバリーシステムを基盤とした革新的治療的血管新生療法を実現し,新たな治療
法の開発を行っています。スタチンは血液中のコレステロールを下げる薬として血清コレステ
ロールの低下薬として世界的に用いられています。また,スタチンは,このコレステロール低
下作用には依存しない多面的作用を持つことが広く知られています。
多面的作用としては,動脈硬化の発症抑制,血管新生作用などが臨床試験や動物実験で数多く
報告されており,ヒトに対する安全性も良く認知されています。私たちはこのスタチンの多面
的作用に着目し,さらに,ナノサイズの微少カプセルで内包することによってより少ない用
量・用法で血管新生が生ずることを明らかにしました。今後,これらの基礎研究を基盤とし,
平成24年8月に第一被験者に対して医師主導治験を開始し,さらに、一日でも早く,患者様の
もとへ還元できることを目指しております。
マウス急性下肢虚血,ウサギ慢性下肢虚血モデルおよび
カニクイザル重症下肢虚血モデルで本製剤の有効性を実証
J Vasc Surg 2010;52:412-420
Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2009;29:796-801
カニクイザル重症下肢虚血モデルアンジオCTによる血管新生の評価
下肢虚血作製(右大腿動脈切除)5週間後のアンジオCT
(患者と同様にarteriogenesisのin vivo評価が可能)
3次元イメージ
2次元イメージ
虚血肢:
Arteriogenesis
開発目標
①
開発の最終目標
ピタバスタチン封入PLGAナノ粒子筋肉内投与製剤を医薬品として市販化, 医療として定着
②
当該プロジェクトの「出口」
医師主導治験によるPOC取得
③
「出口」へ至る現時点での到達点
1.
2.
3.
Arteriogenesis
正常側:
Femoral artery
GMP製造施設への技術移管を行い,治験薬GMPの製造完了
実施計画書完成,治験薬概要書,同意取得文書を完了,治験倫理審査委員会承認
被験者リクルートを研究会等を通じて加速、ステップ2までの登録、投与完了
開発ロードマップ
最終目標
平成33年度
平成20年度~22年度
NEDO
橋渡し
促進技術開発
慢性下肢虚血モ
安定性試験
デルにおける
安全性試験
POC取得
終了
市販
ナノ粒子製剤の
治験薬GMP製造
PMDA対面助言(H23.12.6)
IRB(H24.1.19)
優れたナノ粒
子製剤を継続
して実用化
終了
国民や世界の
福祉に貢献
平成24年度~32年度
治験
投与後4週
Phase I/IIa Phase II/III
投与後8週
側副血行路数
25
20
平成21年度~24年度
橋渡し研究支援推進
プログラム
・橋渡し加速研究
カニクイザル重症下肢虚血モデルにおいてNK-104-NPの3日間および6日間連続投与により
側副血行路(血管新生)が有意に発達
CTによる画像診断結果
本用量・用法を治験に外挿
25
**
20
*
15
15
10
10
5
5
0
0
溶媒 単回 3日間 6日間
対照群 投与群 連続 連続
(N=7)(N=6)投与群 投与群
(N=6)(N=6)
**
溶媒 単回 3日間 6日間
対照群 投与群 連続 連続
(N=7)(N=6)投与群 投与群
(N=6)(N=6)
*
**
P<0.05,
P<0.01
NK-104-NPは,ピタバスタチンを血管内皮細胞選択的に送達させるドラッグデリバリーシステム
(DDS)製剤であり,血管新生促進作用を有し,下肢血流増加作用や側副血行路の増加作用が各
種下肢虚血モデル動物(マウス,ウサギ,カニクイザル)において確認されたことから,ヒト
においても重症虚血肢の改善が期待される。また,本薬の非臨床試験において,血管内皮細胞
選択的にピタバスタチンを送達させることで,全身投与と比較して,100分の1以下の用量での
血管新生促進作用が確認されており,有効性と安全性が高いことが期待される。
先端医療開発特区(スーパー特区)による支援
知的財産確保状況
治験概要
慢性重症虚血肢に対するNK-104-NPの5日間筋肉内反復投与の単施設,非盲検,用量漸増による医師
主導治験 (PhaseI/IIa)
目的
ピタバスタチンカルシウムとして0.5,1,2,4 mgを含有するNK-104-NPを慢性重症虚血肢患者に5
日間反復筋肉内投与した際の安全性および有効性を示すと考えられる投与量を探索するとともに,
血漿中および尿中の薬物動態を検討する。
試験物の概要
対象疾患
閉塞性動脈硬化症による慢性重症虚血肢
①調達法,製造元,供給先
興和株式会社
②品質
治験薬GMP(治験薬コード:NK-104-NP)
③規格
・封入薬剤として,ピタバスタチンカルシウムを使用。
・粒子径やピタバスタチンカルシウム含有率の規格値を設定。
・治験薬の調整は各バイアルに注射用生理食塩水を添加し懸濁。
治験薬GMP製剤
NK-104-NP
主な適格基準
1. Fontaine III度もしくはIV度の患者
2. 大腿動脈以下の血行再建術の適応が困難であり,かつ2週間の継続した薬物療法(血管拡張剤,
抗血小板剤,プロスタグランジン系薬剤)で症状の改善が見られない患者
3. 同意取得時の年齢が20歳以上の患者
主要評価指標
安全性:有害事象および副作用の事象名,程度,発現割合
薬物動態:ピタバスタチンおよびピタバスタチンラクトン体の血漿中および尿中薬物濃度
有効性:Fontaine分類およびRutherford分類
実用化に向けた橋渡し研究の推進体制
スーパー特区・TR拠点を活用し成果を迅速に国民に還元
TR拠点:九州大学病院
安定性・安全性試験(GLP)
・ナノ粒子製剤の安定性:粒子系と封入率は室温で6ヶ月まで不変であった。
・GLP下で行った安全性試験では、ラット、イヌの筋肉注射でいずれも重篤な副作用は認め
られなかった。
・安全性薬理試験でも、特に問題となる作用は認められなかった。
上記試験は臨床試験で行う投与方法と同じ筋肉内投与であるため,医師主導治験での推定
最大臨床用量である4 mg/bodyで,重篤な副作用が生ずる懸念は少ない。
本ナノ粒子製剤を
日本や世界の
医療として定着
NEDO橋渡し
促進技術開発
TR推進室
シーズ探索ユニット
薬事管理ユニット
ピタバスタチン
封入ナノ粒子製剤
(NK-104-NP)
企業
興和株式会社
橋渡し研究支援推進 加速
TR支援室
CRC・治験支援
治験
日本発革新的
ナノ医療実用化
より効果的かつ
安全・安心の
治療的血管新生
を達成
承認
知的財産管理
プロジェクト責任者:江頭健輔,治験責任医師:前原喜彦
問い合わせ先:プロジェクトマネージャー;中野 覚