ワークスタイル変革の勘所 キユーピー 壁なしオフィス がコラボを促進 新商品開発で 2倍速 の成果生む サラダだけでなく、肉や魚の味付けにも使える「テ 関東に分散する17事業所を集め 会話が多く生まれる職場を作る イスティドレッシング」 、ピザやグラタンの味を食パ ンで手軽に楽しめる「パン工房」─。これまでにな かった食の楽しみを、持ち前の商品開発力で提案して 無線LAN、薄型ディスプレイ きたキユーピー。グループ挙げてその力をさらに高め るべく、新オフィス開設を機に、ワークスタイル変革 グループ間のコラボも生まれて ある新商品では開発期間が半減 を敢行。商品開発の加速という成果を得ている。 京王線仙川駅から 10 分足らず歩くと、マヨネーズ のパッケージと同じ網目の外観を持つビルが見えてく る。 「仙川キユーポート」だ。キユーピーが 2013 年 10 月、90 億円を投資して東京・調布の工場跡地に完成さ フィス空間が広がる。ワンフロア 6400m2 という広さ せた、研究開発拠点も組み込んだ新オフィスだ。 は都内では最大級だという。 外観も斬新だが内部はもっとすごい。地下 1 階、地 ここに、以前は関東エリアに分散していた 17 のグ 上 5 階の建物の内部は支柱や壁がなく、広々としたオ ループ会社の本社や事務所などが集結。社員 1400 人 が働いている。 ● 関東エリア17事業所を統合したキユーピーの「仙川キユーポート」のオフィス 統合を機に 会話を生む場 を作る これまで分散していた事業所の統 合を機に、社員のワークスタイルを見 直して、商品開発力や付加価値の創出 力を高めよう─。斬新な内部空間を 持つ仙川キユーポート建設にはこんな 六角形のオフィスフロア中心に設置 した三角形の執務スペース。左側の 研究開発部門と右側の商品開発部 門の接点をあえて作り、交流を促す 狙いがあった。 仙川キユーポートができる前は、商 品開発に携わる社員同士のコミュニ ケーションがスムーズとは言えない状 74 · 日経情報ストラテジー January 2015 況が生まれていた。東京・渋谷の本社にいる社員が、東 ● 打ち合わせや会議向けの小上がりスペース「DINING」 京・府中の拠点の社員と打ち合わせをすることも少な 三角形の執務スペースに沿 ってフロア 3カ所に設置。掘 りごたつのような座卓と座椅 子を配し、リラックスしてア イデアを出しやすくする くなかった。日程調整や会議室の確保といった準備や 移動に時間がかかっていた。 そこで拠点の統合で、日程調整や移動時間のロスを 省くことを目指した。ただしせっかく統合するのだか らもっと大きな成果を目指したい。 「社員同士で会話する機会が多ければ多いほどアイ デアは生まれやすくなる。企業の商品開発力や付加価 値の創造力もそれで高まる」 (仙川キユーポートの開 発・運営を統括するキユーピーの井上伸雄取締役) 。 その考えを踏まえて 2011 年、グループ各社の社員 からなる検討の会議体を立ち上げ、ワークスタイル変 革の検討内容をイントラネットで公開しながら固めて いったり、新オフィスの説明会を開いたりして、グル ープ各社の社員の理解を得ながら移行を進めた。 ●オフィスの通路はコミュニケーションスペースとしても活用 各オフィススペースをつなぐ六 角形の通路(青線)にも、ベン チやテーブルを設置。いつでも どこでも相談や打ち合わせが できるようにしている ワークスタイル変革で目指したのは、これまで一緒 に仕事をしたことがない社員同士が出会ったり、社員 同士が会話したりする機会を生む場を、新オフィスの 随所に作ることだった。 オフィス内に小上がりダイニングをしつらえる 会議体が中心となって構想を練り具体化したのが、 仙川キユーポートだ。研究開発や商品開発などの部門 ごとに執務エリアは決まっているものの、その中であ れば社員はどこに座ってもいいフリーアドレス制を敷 く。社内のどこでもイントラネットに接続できるよう、 全館無線 LAN を配備した。 ●企画中商品の試作・試食・ディスカッションを行う 「KITCHEN」 DININGと同じく三角形の 執務スペースに沿って設置。 傍を通る社員に声をかけて 試食の感想をすぐ得やすく して企画スピードを高める ただし席数は社員全体の 8 割にとどめ、会議室の数 も移転前に比べて半減させている。その分、社員数人 が打ち合わせや相談を手軽にできるようなスペースが 随所に設けている。執務エリアをつなぐ通路にもテー ブルや長椅子を組み込んだオフィス家具を設置。相談 をしたり、数人で客先へのプレゼン内容をチェックし · 75 January 2015 日経情報ストラテジー ●仕事の合間などをつなぐスペースとして設置した「aima」 オフィススペース同士を結 ぶ空間に配置。フロアに3 カ所ある各スペースにそ れぞれ異なる特徴を持た せて、気分転換を促す たりすることを気軽にできるようにしてある。 特にユニークなのが、 「 DINING 」 「 KITCHIEN 」 「 aima 」と名付けられた 3 つのスペースだ。それぞれ オフィスフロアに 3 カ所、設置されている。 DINING は、打ち合わせや会議を行う小上がりス ペース。掘りごたつのように足を伸ばせる座卓と座椅 子がセッティングされている。座卓の下には玉砂利を 敷き、和の雰囲気を演出。間仕切りがオープンな空間 で、新しいアイデアを出しやすくする。 KITCHEN は文字通り、マヨネーズや調味料、サラ ダ・総菜など、キユーピーのグループ会社の商品企画担 当者が試作を行う調理スペース。 「 KITCHEN の近く で執務する社員に試食を呼びかけ、評価をすぐに得 て、企画サイクルを早められるようになった」と、検 人とのつながりを促す 「aima BRIDGE」 討会議体の中心メンバーであるキユーピー総務部仙川 社内外の技術情報を共有する 「aima GALLERY」 キユーポート課情報・図書担当の小勝理恵氏は話す。 仕事の「合間空間」でグループ内の交流促す オ フィス フ ロ ア に は、仕 事 の 合 間 に 交 流 を 促 す 「 aima 」と呼ぶ場も作っている。コピー機などを置く 事務仕事の場だが、目的に応じて 3 つに分かれている。 「 aima BRIDGE 」は、社員同士の ついで対話 の 促進を狙う場。郵便ポストのほかお菓子や雑誌も配し て、居合わせた社員が会話しやすくしている。 「 aima GALLER Y 」は社内外の情報を収集できる 社員個人が仕事の合間に落ち着く 「aima SWITCH」 場。グループ各社の取り組みを月替わりで紹介する専 用エリアもある。ミニ発表会を実施すると社員 100 人 が集まることもしばしば。 「発表会の終了後に、発表を 聞いていた他のグループ会社の社員が発表者と話し込 む姿も見かける」と小勝氏は話す。 最後の「 aima SWITCH 」はくつろぎや学びの場 だ。様々な形をしたソファを置いてくつろげるような 工夫も凝らしている。 執務エリアの席数を抑えた一方で、5 階の社員食堂 76 · 日経情報ストラテジー January 2015 ワークスタイル変革の勘所 ●オフィス全体に無線LANを導入したことで食堂もワークスペースに。大型ディスプレイを挟んで議論も弾む は昼食などの時間帯以外、執務の場として社員に開放 などにデジタルサイネージを分散配置。社内情報の告 している。社員はこの場で、1 人での作業に集中したり 知のほか「研究開発担当者は仕事で香りをチェックす 向かい合ったテーブル席で打ち合わせをしたりする。 るので、強い香りの利用は控えて」という内容の標語 自由に使える議論用 ディスプレイ も随所に配置 を表示するなどして、一緒のオフィスで仕事生活を送 る際の心得をさりげなく伝えている。 食堂のテーブル席の一部には大型ディスプレイを配 新オフィス完成して 1 年余り。際立った成果が出て 備。打ち合わせ可能なエリアにも、パソコン用薄型デ いる。2014 年秋に発売したある新商品では、企画開発 ィスプレイを常時複数台格納する専用棚を設置してい 期間を従来の半分以下に抑える 倍速開発 を実現し る。打ち合わせをする社員はこれを持ち出して自身の た。グループ内の販売会社がそれまで付き合いが無か ノートパソコンに接続。資料印刷の手間が省けて、話 ったグループの生産会社と連携する動きも増えてきて し合いにすぐ移れることから頻繁に利用されている。 いるという。 「商品が生まれるスピードは高まってい このほか日々の情報共有には、エレベーターホール る」と井上取締役は手応えをつかむ。 (西村 崇) · 77 January 2015 日経情報ストラテジー
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