1 北東アジア乾燥地における持続的資源利用に向けた 生態系サービスと生物多様性の統合的評価 東京大学大学院農学生命科学研究科・緑地創成学研究室 大黒俊哉 2010年度AGS研究プロジェクト報告会 2010年12月15~16日 2 研究の背景 • 生物多様性の保全と生態系サービ スの持続的利用の両立は、持続可 能な社会実現に向けた喫緊の課題 • 乾燥地:全陸地の4割、全人口の 1/3→人々の暮らしは生態系サービ スに大きく依存 • 生態系サービスは、生物多様性の 機能発現と密接に関連していること から、砂漠化防止と持続的な生産 活動を両立させるためには、生態 系サービスと生物多様性の統合的 な評価に基づく戦略的な資源マネ ジメントが必要 Source: Millennium Ecosystem Assessment (2005) 3 乾燥地のKey resource • key resource・・・干ばつや過放牧 によって地域の生物資源が減少し た際に、生物の生存に重要な役割 を果たす、撹乱や気候変動等の外 的要因に対してresilienceの高い 資源 • 乾燥地における生産活動のポテン シャルは、key resourceの賦存量 に大きく依存 • key resourceを構成する植生タイ プは同時に、生物多様性の高い 群落(biodiversity hotspot)であ ることが多く、植生回復のコアエリ アとしても重要 平時 干ばつ時 4 研究の目的 • 本研究では、乾燥地の生物多様 性保全と生態系サービス提供に 重要な役割を果たすkey resource を対象に、以下の解明を試みた ¾ どのような生態系機能が発現 されているのか ¾ 生物多様性維持にどのように 貢献しているのか • 対象地と対象種・群落 ¾ Cleistogenes squarrosa (中国・砂地草原) ¾ Achnatherum splendens (モンゴル・ゴビステップ) ¾ Caragana microphylla (モンゴル・ゴビステップ) Sandyland in China Cleistogenes squarrosa in interdune lowland Achnatherum splendens in gobi-steppe in Mogolia Caragana mycrophylla in gobi-steppe in Mogolia 5 ① Cleistogenes squarrosa(中国・砂地草原) 調査方法 • C. squarrosa:イネ科多年草。 砂丘固定、植生回復の指標種。 家畜の飼料価が高い。 • さまざまな緑化事業・砂丘固定事 業を展開(1970年~)・・・履歴の 明らかな長期モニタリングサイトと して植生・土壌調査 • 地形傾度に沿ってトランセクトを 設置 草方格 潅木植栽 長期禁牧 高木植栽 – 砂丘上部~中部~下部~丘間低地 • 各立地にコドラート(1 m2) を設置 し、 全ての出現種の被度(%)を 測定、表層土壌サンプリング 砂丘上部 丘間低地 6 ① Cleistogenes squarrosa(中国・砂地草原) 種組成からみた緑化技術間の回復パターンの差異 処理 0 処理後の期間(年) 10 20 30 Phase 0(一年草) Phase 1-2(潅木) Phase 3(多年草) Phase 4(多年草) 禁牧 潅木植栽 高木植栽 Phase 結果 0 Agriophyllum squarrosum 1 Artemisia halodendron, Corispermum candelabrum, Hedysarum leave 2 Cynanchum thesioides, Melissitus ruthenicus, Euphorbia humifusa, Salsola collina, Setaria viridis 3 Tribulus terrestris 4 Artemisia scoparia, Chloris virgata, Cleistogenes squarrosa, Eragrostis pilosa, Ferula bungeana, Portulaca oleracea 種組成からみた地形立地間の回復パターンの差異 Phase 2 Phase 3 Phase 4 0 相対被度 1 Phase 1 丘間低地→砂丘上部 丘間低地→砂丘上部 Phase0指標植物 丘間低地→砂丘上部 Phase1-2指標植物 Indicator species (P<0.01) 丘間低地→砂丘上部 Phase 3-4 指標植物 ¾緑化技術に加え、地形立地間でも回復速度に差異 9丘間低地に近いほど回復速度が速い 9回復速度と種子給源からの距離の関連を示唆 ② Achnatherum splendens(モンゴル・ゴビステップ) 調査方法 • A. splendens:イネ科多年草。パッ チ状に分布し、細粒物質等の堆積 によりマウンドを形成。飼料価は高 くないが、冬季の飼料、風よけとし て利用。 • 3サイト(A,B,C)について、マウンド の中と外で、植生・土壌調査 • 各調査地点にコドラート(0.25m2) を設置し、 全ての出現種の被度 (%)を測定、表層土壌サンプリング 7 8 ② Achnatherum splendens(モンゴル・ゴビステップ) 結果 Chenopodium albumの 草丈 (cm) (g) off 5 on 土壌水分率 45 off 40 on 300 off on 10 30 3 25 200 150 20 2 5 15 0 A B C 50 5 0 0 -1 100 10 1 A B C off on 250 35 4 EC (mS/m) (%) 6 20 15 Chenopodium albumの 地上部・地下部乾重量 0 A B C ¾マウンド内外で植生構造・土壌理化学性に差異 9マウンド内で植被率が大きく、優占種の成長が促進 9マウンド内で土壌養分がより蓄積 A B C ③ Caragana microphylla(モンゴル・ゴビステップ) 調査方法 • C. microphylla:マメ科潅木。パッ チ状に分布し、細粒物質等の堆積 によりマウンドを形成。砂質土壌域 に分布し、砂丘固定植物または飼 料用植物として植栽される。 • 密度の異なるC. microphylla 優占 域(低、中、高)に調査サイトを設定 し、植生・土壌調査 • 各調査サイトの中心に50m×50m の調査プロットを設置し、密度、サ イズ、 家畜糞密度、3つの異なるス ケール(5m×5m、20m×20m、 50m×50m)での植物総種数、植 物バイオマス、マウンド内外の土壌 サンプリング 9 ③ Caragana microphylla(モンゴル・ゴビステップ) 結果 植物種数 植物機能タイプ数 ¾植物の種多様性はスケール依存 9広いスケールで高密度プロットの種多様性が最も高い 9高密度プロットでは空間的異質性が高いため、スケール によってC. microphyllaのfacilitation効果が異なる 10 11 Key resourceの戦略的保全と持続的利用に向けて • C. squarrosaのハビタットである丘間低地は、耕地および放牧地として高い ポテンシャルを有すると同時に、植生回復のコアエリアとしても重要 ¾ 優先的に保全区域としてゾーニングすることにより、地域全体の植生回 復促進および資源価値の向上に貢献 • A. splendens、 C. microphyllaは、冬季における家畜の餌資源やシェルター としての機能に加え、養分蓄積や植物の定着促進(facilitation)等を通じて 生物多様性保全にも寄与 ¾ 保全、植栽等を通じて資源量を確保することは、非平衡環境における干 ばつ等への対処として有効 ¾ その際、適切な密度・スケールを設定することにより、エコシステムエンジ ニア(ecosystem engineer)としての機能向上が期待 成果(査読付論文) Sasaki, T., Y. Yoshihara, U. Jamsran and T. Okuro (2010) Ecological stoichiometry explains larger-scale facilitation processes. Ecological Engineering 36: 1070-1075. Yoshihara, Y., T. Sasaki, T. Okuro, J. Undarmaa and K. Takeuchi (2010) Cross-spatial-scale patterns in the facilitative effect of shrubs and potential for restoration of desert steppe. Ecological Engineering 36: 1719-1724. Okuro, T. (2010) Current status of desertification issues with special reference to sustainable provision of ecosystem services in Northeast Asia. Global Environmental Research 14: 3-10. Okayasu, T., J. Undarmaa, T. Okuro and K. Takeuchi (in press) Threshold distinctions between equilibrium and nonequilibrium pastoral systems along a continuous climatic gradient. Rangeland Ecology & Management .
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