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Beginner’s guide (BL5S1)
Documentation
AichiSR
2013 年 6 月 21 日 初版
2015 年 7 月 1 日 改定
目次
第 1 章 はじめに .................................................................................................................. 1
1.1 BL5S1 の構成 ............................................................................................................. 1
1.2 XAFS 測定の種類 ....................................................................................................... 1
1.3 利用機器・用語等説明 ............................................................................................... 2
第 2 章 ガスの選択 ............................................................................................................... 4
第 3 章 インターロック操作................................................................................................. 8
3.1 ビームライン運転許可信号の確認.............................................................................. 8
3.2 インターロック制御盤の確認 ..................................................................................... 8
3.3 実験ハッチからの退出手順 ........................................................................................ 9
3.4 放射光の導入準備..................................................................................................... 10
3.5 放射光の導入手順..................................................................................................... 10
3.6 放射光の導入及び停止 ............................................................................................. 11
3.7 緊急時対処:緊急停止ボタン [BEAM DUMP] ...................................................... 12
第 4 章 チューニング ......................................................................................................... 13
第 5 章 試料の取り付け ...................................................................................................... 14
第 6 章 エネルギー較正 ...................................................................................................... 15
第 7 章 レーザーの位置合わせ ........................................................................................... 17
第 8 章 XAFS 測定 ............................................................................................................. 18
8.1 BL5S1 における測定系の構成 .................................................................................. 18
8.2 透過法による測定 (Step Scan XAFS) ..................................................................... 18
8.3 透過法による測定 (Quick XAFS) ............................................................................ 20
第 9 章 自動試料交換装置 (サンプルチェンジャー) .......................................................... 22
第 1 章 はじめに
このマニュアルでは, 初めて XAFS 測定を行う方を対象とし, あいちシンクロトロン光セ
ンター硬 X 線 XAFS ビームライン BL5S1 での基本的な XAFS 測定の流れを説明され
ています.他の放射光施設で XAFS 測定の経験がある方も, BL5S1 を初めて利用する際に
は必要に応じて目を通して下さい.
このマニュアルは, 初めて XAFS 測定を行う方が順番に読んでいくことで, イオンチャン
バを利用した透過法による測定を行えるようになることを意図して書かれていますので,
初めての方は順に読み進めて下さい.
1.1 BL5S1 の構成
BL5S1 の光学系模式図を図 1. 1 に示します. この光学系は超伝導偏向電磁石から放射され
る X 線を XAFS 測定に適した条件に成形しています.
基本的にユーザの方がミラーやスリットなどを操作することはありませんので,具体的な
説明は割愛します.
図 1.1 BL5S1 光学系模式図
1. 2 XAFS 測定の種類
このマニュアルでは XAFS の原理等の説明は行いませんが, 後述の具体的な測定に関する
説明のため, 主な実験方法について簡単に紹介します.
1
1. 2. 1 透過法
透過法は, 他の分光法と同じように試料に入射する光の量と対象を透過後の光の量を測定
することで吸収スペクトルを測定する原理に忠実な測定方法です. 一般的には試料前後に
イオンチャンバを設置し, 入射する X 線のエネルギーを変化させながら,X 線の量を測定す
ることで X 線吸収スペクトルを求めます. このマニュアルで基本的な測定手順について説
明します.後述の通り,X 線吸収スペクトルの測定手法としては,透過法以外にも,蛍光収
量法,転換電子収量法などがありますが,透過法で測定可能な試料は, 基本的には透過法で
測定することが望ましいです.
1. 2. 2 蛍光収量法
蛍光収量法は, X 線の吸収によってできた内殻空孔へより外殻にある電子が落ちていく時に
放出される蛍光 X 線の量を測定することで, 吸収された X 線の量を間接的に測る方法です.
一般的には試料前には透過法と同様にイオンチャンバを設置して, 入射 X 線の量を計測す
ると共に, 蛍光収量法用に設計されたイオンチャンバである Lytle 検出器や SSD と呼ばれ
る Ge 検出器によって, 蛍光 X 線の量を測定することで, X 線吸収スペクトルに相当するも
のを求めます. 透過法では測定が難しい希薄なサンプルや, 厚いサンプルに適用できるこ
とがあります.
1. 2. 3 転換電子収量法
転換電子収量法は, X 線吸収に伴って放出される電子を He によって増幅し,電流値を測定
することで, X 線吸収スペクトルに相当するものを得る方法です. 表面にかなり近い領域の
みに敏感であり, ペレットにできないサンプル, 粉末や薄片化できないサンプルにも有効
な手法です.
ノート: 各手法についての詳細は, XAFS の教科書(例えば,
『X 線吸収分光法
-XAFS
とその応用-』)を参照してください.
1. 3 利用機器・用語等説明
ビームラインで用いられる機器や略語について簡単に示します.
keV(ケブ): keV (キロエレクトロンボルト, キロ電子ボルト) のことを略して呼ぶことがあ
2
ります.
モノクロ: Monochromator (モノクロメーター) の略で主に結晶分光器を指します.
イオンチャンバ: X 線の電離作用を利用して X 線の量を測る装置です.
SSD(エスエスディー): Solid State Detector の略.蛍光収量法による XAFS 測定を行う際
に利用する検出器の 1 つである 19 素子 Ge 検出器のことを指します.
Lytle 検出器(ライトル): 蛍光収量法による XAFS 測定を行う際に利用する検出器の 1 つ.
基本的な構造はイオンチャンバと変わらないが, 蛍光収量法を行う際に便利なようにフィ
ルターホルダーおよびソーラスリットが一体となっているものを指します.
3
第 2 章 ガスの選択
透過法による測定を行う場合は, まず利用する X 線のエネルギーに応じてイオンチャンバ
に適当なガスを流す必要があります. このガスの組成は, 試料前の I0 イオンチャンバでは
おおよそ入射 X 線の 10% 程度, また, 試料後の I1 イオンチャンバではおおよそ入射 X 線
の 70-90% 程度が光電流として捕捉されるように選択します. BL5S1 ではあらかじめ決
まった組成の 6 種類のガスを BL5S1 実験ハッチの裏側に用意しています (図 2. 1).
図 2. 1 イオンチャンバ用混合ガス (BL5S1 実験ハッチ裏側)
具体的なガス選択については, XAFS 測定用ソフト XafsM2 で測定対象の元素を選んだ時
に表示されます. あるいは Demeter 付属の Hephaestus や SPring-8 BL01B1 Web ペ
ージ 技術情報 に掲載されている早見表を参照して下さい.
以下には, イオンチャンバにガスを流れている状態から流すガスを交換する手順について
示します.
1. BL5S1 ハッチ内のガスホースを, ラベルを参考にして I0 および I1 イオンチャンバに
接続する.
2. BL5S1 ハッチ裏側のボンベのうち, I0 および I1 イオンチャンバでこれから利用するガ
スとヘリウムボンベの元栓が開いていることを確認する.
3. 上部に伸びている配管途中のストップ弁 (青枠で囲っているバルブ)を開ける.
4
図 2. 2 ガスの元栓など (ストップ弁, 閉の状態)
4. 更に上部へ分岐している 2 つのストップ弁の内, I0 イオンチャンバで利用するガスは向
かって左側 (A LINE) のストップ弁, I1 イオンチャンバで利用するガスは向かって右側
(B LINE) のストップ弁を開ける (赤色で囲っているバルブ).
図 2. 3 ガス流路選択弁
この場合 A LINE には 3 番, B LINE には 6 番のガスが選択されている.
5. 配管を辿って行くと, ガス流路選択弁がある. 流路選択弁の番号はそれぞれ,
1. He (70%)/ N2 (30%)
2. N2 (100%)
3. N2 (85%)/Ar (15%)
4. N2 (75%)/Ar (25%)
5. N2 (50%)/Ar (50%)
6. Ar (100%)
5
に対応しており, 向かって左側の弁が I0 イオンチャンバ (A LINE), 右側の弁が I1 イオ
ンチャンバ (B LINE) に対応しているので, それぞれの弁を利用したいガスの番号に合わ
せる.
6. 向かって右手の流量計パネルには, それぞれガス流路選択弁から来たガスが「パージ」
および「測定」とラベルされている 2 つの流量計に接続されている. それまでの測定用に「測
定」側になっている流路を閉めて, 「パージ」側 (最大流量が 1 L/ min の大流量用パス)
の弁および上部のイオンチャンバ導入用の弁を開ける (おおよそ 500 mL/min 流れるよう
に設定されている). ここまでで, ガスがイオンチャンバ内を流れるようになるが, イオン
チャンバ内のガスを十分置換するために, 10 分程度そのままにしておく. ユーザ用 PC の近
くに置いてあるタイマーを用いて 10 分経過後に流量変更を行うことを忘れないこと. また,
後述の XAFS 測定用ソフト XafsM2 の「検出器モニタ」機能を利用して, ガスの置換状況
について確認することを勧める. その後, 流量計パネルで「パージ」側から「測定」側に切
り替え, 測定を開始する. この際の流量が 20 mL/min 程度であることを確認する.
7. HV ADJ と書かれたつまみを時計回りにゆっくり回して, イオンチャンバの電圧を
1500V に設定する (図 2.5).
ノート: イオンチャンバに初めてガスを流す際には, 専用のガスホースがつながっている
ことを確認してください.
図 2.4 流量計パネル
左から順に A LINE パージ, A LINE 測定, B LINE パージ, B LINE 測定となっている.
6
図 2.5 イオンチャンバの電圧設定
1501 V とディスプレイに表示されている.
7
第 3 章 インターロック操作
本章では, ビームライン・インターロックの操作に関して説明します.
不適切な操作を行うと, 利用者の安全, 施設の運転に関わる事故につながる可能性があり
ますので, 特に注意して下さい.
ノート: 操作に関する疑問, 不明点がありましたら,すぐにビームライン担当者にお尋ね下
さい.
3.1 ビームライン運転許可信号の確認
インターロック表示板が各ビームラインに設置されています. [EXP. MODE] が点灯してい
れば利用許可が出ている状態ですので, 放射光導入手順に進むことができます.
図 3.1 ビームライン運転許可信号
3.2 インターロック制御盤の確認
制御盤の画面には, 構成ユニット, 真空度等の情報が表示されています (図 3.2). 状態エラ
ーは, 危機レベルにより分類され, レベル表示を押すことでエラー内容が確認できます. エ
ラー発生時にはアラームが発報されます. アラームは [ALARM STOP] ボタンを押すこと
で停止しますがエラー表示は消えませんので, エラーが出ている場合は, ビームライン担
当者にご連絡下さい.
8
図 3.2 制御盤画面
3.3 実験ハッチからの退出手順
1. 実験ハッチ内に人が残っていない事を確認してください.
2. 退出制御盤の [EXIT] ボタンを押すと ブザーが鳴り, パトライトが点灯, 退出シーク
エンスが開始されます. ハッチより退出しドアを閉めてください (図 3.3).
3. ハッチドアを閉めたら, シャッターキーをドアからまわし抜き, ブザー音の終了前にイ
ンターロック制御盤の [SHUTTER CONTROL] へ挿し, [ENABLE] へシャッターキーを
セットしてください (図 3.4, 図 3.5).
図 3.3 退出制御盤
9
図 3.4 ハッチドアのキーが抜かれた時
図 3.5 インターロック制御盤鍵の部分
3.4 放射光の導入準備
インターロック制御盤でシャッターキーを [ENABLE] にする事で, 放射光の導入待機状
態になります. 制御画面には, 現在のコンポーネントの状態が表示され, 画面下部バーの
[FRONTEND] と [TRANSPORT] の切り替えで BL 上流と下流の各コンポーネントが確
認できます. (通常は必要ありません.
)放射光の導入には, [MBS] (Main Beam Shutter),
[DSS] (Down Stream Shutter) ボタンを利用します.
3.5 放射光の導入手順
放射光の導入には, MBS, DSS を Open する必要があります. 制御画面コンポーネント
10
[MBS] , [DSS] ボタンを押すと [Open]/[Close] が表示され開閉動作が可能な場合, ボタン
が太枠表示されます. 動作条件を満たしていない状態では操作できません. DSS を OPEN
するには, MBS が OPEN されている必要があります (図 3.6, 図 3.7).
ノート: MBS はユーザー利用の際は通常では Open になっています.
図 3.6 MBS (黄色の MBS のボタンをタッチすると表示されます)
図 3. 7 DSS (黄色の DSS のボタンをタッチすると表示されます)
3.6 放射光の導入および停止
DSS OPEN で試料位置へ放射光が導入されます. 制御画面上には, BEAM ON 表示がで
ます. DSS を CLOSE して放射光の導入を中止すると, 実験ハッチを開けられる状態にな
ります. シャッターキーを, [DISABLE] に回してからシャッターキーを抜き, 実験ハッチ
ドアをシャッターキーで開けることでで, 実験ハッチの中に入ることができます.
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3.7 緊急時対処:緊急停止ボタン [BEAM DUMP]
実験中に放射線被爆等, 人身事故に繋がる重大事象が起きた場合, インターロック制御盤,
退出制御盤上の [BEAM DUMP] ボタンを強く押しこんでください.
図 38 ビームダンプボタン(右の赤い丸ボタン)
ノート: この操作により, あいちシンクロトロン光センターの放射光が全停止します.
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第 4 章 チューニング
ビームの調整を行う前に, 最も光の強度が強い場所に合わせておく必要があります. これ
をチューニングといいます. ユーザが行うチューニングは, 基本的には二結晶分光器の第
一結晶のチューニングのみであり, このチューニングも吸収端を変更する際だけ行う必要
があります. チューニングの際に利用するのは「条件設定」タブにある「移動/スキャン」
のみです (図 4.1).
図 4.1 「条件設定」タブの「移動/スキャン」
1. 二結晶分光器の第一結晶のチューニングの際には第一結晶の微調節に対応する「Dth1」
を選択する.
2. 「検出器」は「qct01 (100MHz)」( I0 チャンバに接続されているカウンタ)を選択する .
3. 「相対」が黄色に点灯しており, 移動速度が「Middle」になっていることを確認してか
ら「スキャン開始」をクリックする. (通常は始点が 100,終点が 100,間隔が 10,計測時
間が 1.0 になっています.)
4. 第一結晶を少しずつ動かした際に I0 チャンバに入射する X 線の量が下のグラフ描画タ
ブにプロットされます.
5. ピークの位置に「Dth1」のパルスを移動させるため, 「移動先」と書かれたところにピ
ークに対応する pulse 値を入力し, 「移動速度」を「Middle」に変更してから「移動」を
クリックする. またはグラフ上でダブルクリックすることで移動することもできます.
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第 5 章 試料の取り付け
本章では透過法の試料の取り付け方を説明します.
1. ホルダーに試料を取り付ける (図 5.1).
2. レーザーを基準に, 試料位置を調整する. 調整が終わったら, 必ずレーザーの前に鉛板
を設置し, レーザーに X 線が照射されないようにする (レーザーは第 7 章 レーザーの位置
合わせで正確に調整します.基本的にはスタッフがレーザーの調整を行います.
3. 実験ハッチから退出する (第 3 章 インターロックの項を参照).
図 5.1 試料ホルダー(銅箔の標準試料を保持した例)
図 5.2 レーザーとレーザー保護用鉛板(赤の養生テープで巻いている)
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第 6 章 エネルギー較正
蓄積リングからの白色 X 線を単色化するために, BL5S1 では Si(111) の結晶を 2 つ利用し
たカム式二結晶分光器が利用されています. この方式の分光器は他の多くの放射光施設で
用いられており, 高い精度と高い安定性を持ちますが, モーターによる駆動のため, 角度エ
ンコーダによる読み取り値と真の角度がずれてしまうことがあります. このため, 角度エ
ンコーダの読み取り値を真の角度に合わせる角度較正(エネルギー較正)作業が必要にな
ります. この項では例として, 標準的な銅箔 (Cu K-edge, 8980 eV) の測定によるエネルギ
ー較正の手順を示します. 但し, 測定したいエネルギー範囲が Cu K-edge より大きく異な
る場合には, 対象元素の箔による較正を行うことをおすすめします. どの位置をどのエネ
ルギーに較正するかは各自で参照している文献を元にしてください.
銅箔によるエネルギー較正の手順
1. 銅箔を試料ホルダーにセットする (第 5 章参照).
2. 銅箔によるエネルギー較正を行うために, Cu K-edge (8980. 3 eV) に移動して Dth1 の
チューニングを行う (第 4 章参照).
3. XAFS 測定の項を参照して銅箔を測定する (プレエッジピークが現れる位置は毎回ほと
んど変わらないので, ピーク付近を細かくスキャンすると時間効率が良い).
4. Cu K-edge XANES スペクトルのいわゆるプレエッジピークの位置を確認する. 図 6.1
の場合, プレエッジピークの位置が 8976 eV になっているが, このピークの真の位置を
8980. 3 eV と見なすため, (現在のエンコーダ位置で) 8979. 3 eV の位置に移動したのち,
Si(111) の 8980. 3 eV にあたる 12. 7183 を XafsM2 の状態/設定タブにあるエンコーダに
入力し, 設定を押す (図 6.2).
5. 再度同じように銅箔を測定し, プレエッジピークが 8980. 3 eV に現れれば較正完了とな
る.
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図 6.1 較正前後の銅箔の XANES スペクトル
図 6.2 角度エンコーダの補正
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第 7 章 レーザーの位置合わせ
X 線に対して試料位置を合わせるために, レーザーを使って間接的に位置合わせを行いま
す. 分光器の仕組みにより基本的に X 線の出射位置は変化しませんが,実際にはわずかにず
れを生じます. 本章ではレーザーの位置あわせの方法について説明します.
ノート: エネルギー較正やチューニングを行うことでビーム位置がわずかに動くため, エ
ネルギー較正やチューニングが終わってからレーザーの位置あわせを行って下さい.
図 7.1 GafChromic の貼り付け
1. GafChromic という X 線感光フィルムを図 7.1 の様に, 2 つの試料ホルダにフィルムを貼
り付ける. X 線の位置は調整前後で殆どずれないので, 元のレーザーの位置を参考に貼り付
ける)
2. DSS を OPEN して, フィルムに X 線を数秒間照射する.
3. DSS を CLOSE して, フィルムが「焼けている」ことを確認する.
4. レーザーホルダーの上下およびあおりの 4 軸を動かして, フィルム状の 2 つのスポット
をレーザーが通るように調節する. レーザーから遠い方をあおりで, 近い方を垂直水平移
動で合わせると良いです.
ノート: ハッチ上流にミラーの反射を利用するレーザーもあります. 透過法ではあまり使
用しませんが, 蛍光法の一部と, 転換電子収量法では使用します.
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第 8 章 XAFS 測定
BL5S1 にインストールされている XAFS 測定ソフト XafsM2 は 1 つのプログラムで
XAFS 測定に必要な操作を簡単に扱うことができます. 本章では, BL5S1 の透過法に関す
る測定系および測定手順について簡単な説明を行います.
ノート: XafsM2 は日々変更を加えている段階ですので, BL5S1 で実際にお使いいただく
XafsM2 とは若干見た目が異なる可能性がありますが, 記載されている機能は問題なく実行
できます. XafsM2 の詳細については, XafsM2 のマニュアルをご覧ください.
8.1 BL5S1 における測定系の構成
以下に, BL5S1 での透過法による XAFS 測定に関係している測定系について示します.
図 8.1 BL5S1 における(透過法の際の)測定系の模式図
8.2 透過法による測定 (Step Scan XAFS)
本節では, 銅箔を使用した基本的な透過法による測定について説明します.
1. 測定対象となる元素を左上の「対象元素」から Cu を選択します. XafsM2 はデフォル
トでは Cu が選択されています. また, 対象殻は, デフォルトでは K が選択されています.
これらの選択肢に応じて「エッジ位置」には吸収端エネルギーおよび分光結晶面として
Si(111) を利用した際の角度が表示されます.
2. Cu の吸収端直後で Dth1 チューニングを行う (EXAFS 測定を重視する場合は,吸収端
から 1 keV 程度高エネルギー側でチューニングを行う方がよいこともあります.
)
3. 次に「測定ブロック設定」を行います. まず, 「標準 XAFS」のボタンをクリックすると,
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「対象元素」で選択されている吸収端の測定に適切と思われる測定パラメータが設定され
ます (図 8.1).
ノート: 通常は「標準 XAFS」などのパラメータで問題ありませんが, これまでと同じ測定
パラメータ(例えば, 他の放射光施設での測定経験がある場合など)にしたい場合は適宜変
更して下さい. 特別なパラメータは標準 XANES ボタンの隣にある「保存」ボタンを押して
保存しておくと, 簡単に読込ができて便利です.
4. 「検出器選択」について, 透過法による測定の場合は I0 を「qct 100MHz 0 (I0)」およ
び I を「qct 100MHz 1 (I1)」に設定して下さい. これらはそれぞれ, 測定系の模式図で示
した通常の構成で Preamp, V-F converter, Counter を利用して XAFS 測定を行うことを
意味しています.
5. 条件設定タブにある, 分光器回転の測定元素のエネルギーを移動先 1 から移動先 4 まで
振って, I0, I1 イオンチャンバの電圧が 10 V を超えていないことを確認します (図 8.2).
超えていた場合は, イオンチャンバのレンジの桁数を落としてください.
ノート: この作業では, 一番吸収が小さいと思われる吸収端手前か EXAFS 領域で 10 V を
超えていないことを確認しています.
6. 「バッググラウンド計測」ボタンをクリックして, ガイドに従いながらバッググラウン
ドを測定します. 「バックグラウンド」は X 線がイオンチャンバなどに入射していない状況
で計測されるカウントを示しており, 測定データには差し引かれたものが記録されます.
ノート: バックグラウンドを測定するタイミングは, 測定条件(光学系)が変わったとき, イ
オンチャンバのレンジを変えた時などです. サンプルを取り換えただけの場合は測定しな
くても特に問題はありません.
7. 「データファイル」は, その名の通り測定されたデータを記録するファイル名を指定す
る項目です. コメントを入力することもできます (また, 得られるデータファイルは
Photon Factory や SPring-8 で使われている 9809 フォーマットです.).
8. 最後に「終了時動作」について, 「原位置復帰」
(分光器の角度を測定開始時の位置に戻
す)か「その場に停止」
(測定終了時点の位置で分光器の回転を停止させる)を選択し, 「繰
返し」で測定の繰り返し回数を設定してから「開始」ボタンを押すことで測定が開始され
ます.
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9. 測定が始まると, ウィンドウ下半分のグラフ描画タブに測定結果がリアルタイムで描画
されていきます. 測定が終わるまでお待ちください.
図 8.1 Cu K-edge における標準 XAFS の測定ブロックが設定されたところ
図 8.2 移動先 1 から移動先 4 までのエネルギーの変更
8.3 透過法による測定 (Quick XAFS)
本節では Quick XAFS の測定方法について説明します. Quick XAFS は分光器を測定点毎に
止めずに連続掃引しながら測定していく手法です. Step Scan XAFS と比べて短時間で測定
できることが大きな利点です. 時間とともに変化する様子を観測する場合などに用いられ
ます (時分割測定). 基本的な操作は Step Scan XAFS と変わらないので, 方法については
大幅に省略します.
1. 図 8.3 のように Q-XAFS モードにチェックを入れます.
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2. 測定ブロック設定, I0 と I1 の検出器選択をします.
3. バックグラウンドを測定し, ファイル名を決め, 開始ボタンをクリックします.
図 8.3 Q-XAFS モードの設定
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第 9 章 自動試料交換装置 (サンプルチェンジャー)
BL5S1 では 35 mm スライドマウントに固定した試料を最大 9 つ設置することができる
自動試料交換装置を用意しています. 通常, 測定を行うごとに実験ハッチを開け, 試料を手
で交換する必要がありますが, 予めセットしておくことで, その手間が省けます.
図 9.1 試料交換装置
自動試料交換装置の使い方
1. サンプルチェンジャーの原点位置を合わせる (通常スタッフが行います).
2. 9 連の試料ホルダーにスライドマウントを取り付ける.
3. サンプルチェンジャーを PC で動かしながら, 位置合わせ用のレーザーで X 線が試料交
換装置の真ん中を通っていることを確認する.
4. 実験ハッチから退出する.
5. 取り付けた試料についてイオンチャンバのレンジを確認する. 測定途中でレンジ変更が
できないため, 透過度が大きく異なる試料の場合, 後で個別に測定するなどの工夫が必要
です.
6. 通常の測定と同様に各パラメータを設定する(但し, ファイル名については, 入力したフ
ァイル名を元にしたファイルに測定データが保存される. 例: test. dat → test_1. dat,
test_2. dat . . . ).
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7. XafsM2 の「自動試料交換」の「使用」にチェックを入れ, その右の欄にサンプルを取り
付けた番号を入力する(例: 1-4 や 2, 3, 6, 7 など).
8. 測定開始ボタンをクリックする
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