原子力安全確保に向けた提言 長岡技術科学大学匠陵講演会 東京大学名誉教授 班目 春樹 福島原発事故の被害拡大原因 1. 不十分であった過酷事故対策 2. 不十分であった緊急時対策・事故後対策および 種々の緩和・回復策 3. 不十分であった津波対策 いずれも原子力規制の不十分さと関係 不十分なまま放置された深層防護を中心に振り返る 不十分な深層防護はなぜ 放置されたのか TMI・チェルノブイリ事故前の 深層防護 1. 異常の発生防止 予想される故障に対する保守的(余裕のある)設計 2. 異常の拡大防止 誤操作・誤作動が想定事故まで拡大することを防止 するシステムによる運転制御 3. 事故の影響緩和 想定事故の過酷事故への進展を防止しその影響を 緩和する工学的安全系 Three Mile Island 事故 TMI事故(1979) 炉心溶融事故 ヒューマンファクタ/マンマシンインターフェイス /長期閉じ込め方策(過酷事故への対応策) 深層防護の弱点探しのための運転経験の活用 • 重要な冗長系の完全喪失(スクラム系、電源系、最終ヒート シンクなど)への対応策の追加 • 想定外事故の影響を緩和するアクシデントマネジメント実施 • 放射性物質放出の公衆への影響を緩和するためのサイト 内・外の対応の準備 チェルノブイリ 事故 チェルノブイリ事故(1986) 不完全な深層防護 組織的な問題 効果的規制体制/安全文化 オフサイトの緊急時計画の重要性 中長期的放射能汚染対策 5層からなる深層防護 INSAG-3 IAEA(1988) 全ての安全確保方策(組織問題であろうと操作や装置関係 であろうと)はオーバーラップする備えがあるという条件とし、 たとえ異常が生じても人や最悪でも公衆に危害を与えること なく補われ修正されなければならない。この何重もの防護層 という考え方こそ深層防護の中心となる特徴である。 All safety activities, whether organizational, behavioural or equipment related, are subject to layers of overlapping provisions, so that if a failure should occur it would be compensated for or corrected without causing harm to individuals or the public at large. This idea of multiple levels of protection is the central feature of defense in depth… 5層の深層防護 目的 必要対策 保守的設計と高品質な 第1層 誤操作・誤動作の防止 建設・運転 誤動作の制御と故障の 制御・制限・保護システム 第2層 検知 とサーベイランス 事故の設計基準内へ 工学的安全系と対応手順 第3層 の制御 の準備 過酷事故への 補助的対策とアクシデント 第4層 進展防止と影響緩和等 マネジメント の対応 放射性物質大量放出 第5層 緊急時のオフサイト対応 の影響緩和 深層防護の考え方 目的 • 誤操作・誤作動をカバーする • プラントや放射性物質の障壁自体の損傷を避け、多重の障 壁を有効に維持する • 多重の障壁の有効性が一部失われたときも、公衆や環境を 害から守る 手法 • 事故を防止する • 事故防止に失敗してもより深刻な状態への進展を防止する 前段否定の考え方 「前段否定」の論理 多重防護概念とは、「前段否定」の考え方に基づいて、防 護策を多段に配置することを意味する。すなわち、各防護 策は、その前段の防護策によって異常の発生や進展を防 止できない場合があることを想定して設けられるものであ る。さらに、各防護策への性能要求は、その前段や後段 の防護策の効果を意図的に過小評価することによって、 厳しめに設定することが求められる。 http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/anzen/shidai/genan2012/genan036/siryo4-1.pdf 我が国の深層防護は 1. 異常の発生を防止する 安全上十分な余裕をもたせた設計 厳重な品質管理と入念な点検・検査 2. 異常の拡大を防止し事故に至るのを防ぐ 異常検知のための各種の自動監視装置 緊急を要する異常を検知した場合の原子炉停止 3. 事故の影響緩和 非常用炉心冷却装置(ECCS)や格納容器スプレー系 原子炉格納容器による放射性物質の閉じ込め 電気事業連合会のホームページより http://www.fepc.or.jp/nuclear/safety/shikumi/bougo/ DEFENCE IN DEPTH IN NUCLEAR SAFETY INSAG-10 (IAEA 1996.6) A report by the International Nuclear Safety Advisory Group 1. 2. 3. 4. 5. 目次 前書きとその発展の歴史 深層防護への手引き 2.1 深層防護の目的 2.2 深層防護の戦略 2.3 防護壁 2.4 深層防護の各層 深層防護の実装 既設炉の深層防護の強化 将来炉の深層防護の発展 第1層 第2層 第3層 第4層 第5層 誤操作・誤動作の防止 誤動作の制御と故障の 検知 事故の設計基準内への 制御 過酷事故への 進展防止と影響緩和等の 対応 放射性物質大量放出の 影響緩和 http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1013e_web.pdf IAEA No. NS-R-1 (2000.9) Safety of Nuclear Power Plants: Design REQUIREMENTS 本書は原子力安全を確実にするために必要な要件を定めた ものである。 本書は規制組織だけでなく、原子力施設を設計・製造・建設・ 運転する組織での利用も目指している。 This publication established safety requirements that define the elements necessary to ensure nuclear safety. This publication is intended for use by organizations designing, manufacturing, constructing and operating nuclear plants as well as by regulatory bodies. http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1099_scr.pdf IAEA No. NS-R-1 (2000.9) Safety of Nuclear Power Plants: Design REQUIREMENTS 目次 1. 前書き もちろん 5層 2. 安全目標と理念 安全目標/深層防護の概念 3. 安全管理の要求事項 管理の責任/設計管理/実証技術利用/運転経験と安 全研究/安全評価/独立の安全評価/品質保証 4. 主要な技術的要求事項 深層防護要求/安全機能/事故防止と安全特性/放射 線防護と許容基準 5. 施設設計への要求事項 6. システム設計への要求事項 http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1099_scr.pdf 我が国の対応は 発電用軽水型原子炉施設のシビアアクシデント対策としての アクシデントマネージメントについて (1992年) 原子炉安全基準専門部会共通問題懇談会報告書 案1 効果的な実施が奨励又は期待されるので、設置者が整備 等を行うよう指導し、保安規定認可時に確認する 案2 不適切な計画による設計基準事象に対する防護水準低 下防止のため、工事計画認可の際に確認する 案3 臨機の処置も含め柔軟に行う措置であることから、国の事 前評価は効果的な実施の妨げかねない。一方、関係者間 の調整が必要なことなどから、国は設置者の整備の参考 のための基本的考え方を整備する http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/anzen/shidai/genan1992/genan027/siryo1_1.htm http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/anzen/shidai/genan1992/genan027/siryo1_2.htm 我が国の対応は 発電用軽水型原子炉施設のシビアアクシデント対策としての アクシデントマネージメントについて (1992年) 原子力安全委員会決定 • 設置者において自主的に整備し、万一の場合にこれを的確 に実施できるようにすることは強く奨励されるべきである。 • 設置者においては安全性向上のため、報告書を参考に整備 を継続して進めることが必要である。行政庁も行政庁の役割 を明確にし、具体的検討を継続して進めることが必要である。 • 当面は以下のとおり行う。 • 新設炉はダブルチェックの際に行政庁の報告を受け検討 • 既設炉等は順次行政庁の報告を受け検討 • 確率論的安全評価についても行政庁の報告を受け検討 • 過酷事故の研究の継続が必要である。委員会としてもその 成果の把握に努め所要の検討を行っていく。 我が国の過酷事故対策が遅れた背景 原子炉等規制法(事故後の改正前) (許可の基準) 第二十四条 主務大臣は、第二十三条第一項の許可の申請が あつた場合においては、その申請が次の各号に適合していると 認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。 一 原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと。 二 その許可をすることによって原子力の開発及び利用の計画 的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと。 三 その者に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経 理的基礎があり、かつ、原子炉の運転を適確に遂行するに 足りる技術的能力があること。 四 原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質又は原子 炉による災害の防止上支障がないものであること。 我が国の過酷事故対策が遅れた背景 過酷事故の可能性を認める 災害の防止上支障があることを認める 許可の基準を満足していないことを認める 設置許可申請からのやり直しになる ダブルチェックも含め長期間運転不能となる との思い込み これに対して有識者は • 炉規制法にある「災害の防止上支障がない」との要件と、 安全審査で言われる「安全の確保」の要件とが同一かどう かは不明。 • 仮に同一の要件だとしても、守るべき「安全の確保」の要件 が明示されれば、当初の設置許可申請における条件より 施設・設備等のレベルが低下しても、「安全の確保」の要件 が維持されていれば、設置許可の変更は不要。 • 現在は、「安全の確保」の要件が不明確なので、一般的に みて安全性が向上すると見られる場合にも、安全が確保さ れるかどうかが不明なので設置許可の変更が必要とされ ている。「安全の確保」の要件が明示されれば、安全性が 向上する場合には、設置許可の変更は不要である。 さらに有識者は • 米国の基準・手法は、個々の事項について安全だと判断さ れれば、自動的に全体の安全の確保がなされるとの割り 切りがあるように感じる。日本では、個々の事項について 安全だと判断した上で、全体の安全の確保との論理的整 合性を説明して初めて、全体の安全の確保が認められると の扱いである。 • 現在の炉規制法の体系下では、原子炉設置許可関係のみ、 上記のような制度改革を行うことはできない。しかし、再処 理施設では、当分、このようなことは無理。したがって、現 時点で、制度改革を行うなら、実用炉だけを規制する法律 を別途つくるべき。 ⇒ 実用炉規制法、廃棄物規制法、サイクル事業規制法、 及び、その他の使用施設と研究施設を規制する法律と 原子力基本法の合体法律の合計4法律で構成を考えて はどうか。やる気になれば1年でできる。 我が国の過酷事故対策が遅れた背景 伊方原発訴訟最高裁判決の足かせ 伊方原発訴訟 一 審 : 請求棄却 (1973年~1978年) 控訴審 : 控訴棄却 (~1984年) 上告審 : 上告棄却 (~1992年) 判決要旨 原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の 取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全 専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた判断に不合 理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術 水準に照らし、調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点が あり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子 力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過 し難い過誤、欠落があり、判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、 判断に不合理な点があるものとして、判断に基づく原子炉設置許可処分は違 法と解すべきである。 我が国の過酷事故対策が遅れた背景 伊方原発訴訟最高裁判決の足かせ 本来なら、裁判所の判断は安全とした行政庁の判断手続き に違法性があるかないかの審理に限定すべきである。しか し、伊方発電所1号機の設置許可申請に対する審査は法的 十分性を満たしておらず(定足数不足の会議、審査内容の 不整合等)、手続き論では争えなかった。 その結果、裁判所に原子力の安全性の判断を求める訴訟 となった。以降、「現在の科学技術水準」に照らし、審査基 準に不合理な点があったか否かが裁判で争われることと なった。 原子力安全委員会は 何をしていたのか 2010年5月頃の原子力安全委員会 10:00 17日(月) 18日(火) 19日(水) 20日(木) 21日(金) 12:00 記載WG 14:00 16:00 委員会 炉安審 健全性委 地震WG2 10:00 12:00 24日(月) 25日(火) 原総シンポ出席 26日(水) 27日(木) 原総シンポ出席・講演 28日(金) 18:00 113部会 地震WG2 地震動作業会合 委員会 14:00 16:00 18:00 地震WG4 防災専門部会 地震動作業会合 委員会 処分安全 コミュニケーション 検討小委 地震WG1 耐震バックチェックさえこなせば仕事をした気分? ダブルチェックの形骸化 原子炉安全専門審査会の例 答申日 原子炉施設 変更内容 2012.3 JAEA大洗北 敷地変更 2012.3 JAEA大洗南 敷地変更 2012.3 女川 廃棄物貯蔵庫増設 2012.2 志賀 使用済樹脂タンク共用化 2011.3 玄海 使用済燃料貯蔵設備増設 2011.2 東通 廃棄物貯蔵庫増設 2010.12 浜岡 廃棄物固化装置変更 2010.12 川内 SGR・廃棄物貯蔵庫増設 2010.12 東通 東電東通新設 2010.11 泊 プルサーマル 2010.10 福島第一 FCS再結合装置容量変更 本文事項の変更の場合のみ ⇒ 耐震・廃棄物安全委員会!? 規制調査の実態 1999年12月炉規法改正(後続規制の強化) 事務局に規制調査課が置かれる 所掌事務:設置許可後の規制に関する事務 2002年度まで 安全審査のツケを行政庁に報告させ審議(実効性なし) 2004年まで:重要課題に取り組もうとするも行政庁は非協力 規制の科学的合理性・透明性や事業者自主を促す方策等 2005年から 品質監査型/課題抽出型/後続規制制度向上型 大きな成果は上げられず http://ponpo.jp/madarame/lec4/reg-review.pdf 炉規法には行政庁は協力しなければならないと規定 問題の有無すら知らされない状態では不可能 指針類策定の状況 安全審査指針類の体系化 指針体系化分科会(2001年4月~2003年1月) 報告書「安全審査指針類の体系化について」 指摘はすべて妥当だが委員会の能力を超えていた 新たな指針策定の要望 廃棄物関係:高レベル廃棄物/RI・研究所等廃棄物/ TRU廃棄物/ウラン廃棄物/第二種廃棄物 ほか多種多様 保安院との競合:使用済燃料中間貯蔵施設 保安院の動向:学協会規格の活用/トピカルレポート 指針類の改廃に関する規定なし 優先順位をつけるという意識の不足 IAEAの動向と我が国の状況 IAEAではDS414(NS-R-1の改訂ドラフト)が最終審議段階 2010年11月 :NUSCC(Nuclear Safety Standards Committee) 2011年には :CSS(Commission on Safety Standards) 2012年1月にNo. SSR-2/1 として発行 http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1534_web.pdf 日本では原子力ルネッサンスを喧伝 鳩山政権: 2020年までに温室効果ガス1990年比25%減 原発は計画中の14基+2030年以降に20基 海外の原発受注に官民で取り組む 我が国の安全基準が国際基準を満足しなくていいのか この指摘はかなりの説得力があったと思われる 2010年10月時点での保安院の提案 案1 基本設計段階 : 行政指導でSA対処設計と妥当性評価の参考資料を要求 詳細設計段階 : 電事法施行規則別表3下欄を改正、SA対処設計等の説明 書添付を要求(法令要求だが規制対象ではない?) 運転管理段階 : 保安規定にAM記載を要求(実質的法令要求) 案2 基本設計段階 : 行政指導でSA対処設計と妥当性評価の参考資料を要求 詳細設計段階 : 電事法施行規則別表2,3と省令62号を改正、SA対処設計 等の説明書添付を法令要求/使用前・定期検査の対象 運転管理段階 : 実用炉則を改正し保安規定に工認根拠のAM記載を要求 (法令要求) 案3 基本設計段階 : SA対処設計と妥当性評価を審査(法令要求) 詳細設計段階 : 電事法施行規則別表2,3と省令62号を改正、SA対処設計 等の説明書添付を法令要求/使用前・定期検査の対象 運転管理段階 : 実用炉則を改正し保安規定に工認根拠のAM記載を要求 (法令要求) 案3の場合既設炉のバックチェックを要求するか否か SA対処設備は「安全機能」ではなく「リスク低減機能」 2010年10月時点での保安院の提案 要求機能 : 内的事象により、早期又は大規模な格納容器から放 射性物質の放出を実質的に排除するように、格納容 津波は対象外 器の健全性を維持すること 審査の : CDF < 10-5 & LRF < CDFの10分の1 又は LRF < 10-7 既設炉も満足できるのではないかと考えられる値 目安基準 新設炉に : 次の決定論的要件を満たすことが望ましい 対する 以下の6事象の発生を仮定しても、最新の知見に基 推奨事項 づき24時間格納容器の健全性が確保されること • 高圧炉心溶融事象 メーカヒアリングでは既設炉 • 水素燃焼事象 でも一定の条件を認めれば • 水蒸気爆発事象 達成可能との感触あり? • 静的な加圧事象 • コンクリート浸食事象 • 格納容器バイパス事象 原子力規制委員会の指定 事故シーケンスグループ(BWR) • 高圧炉心溶融事象 • 水素燃焼事象 • 水蒸気爆発事象 • 静的な加圧事象 • コンクリート浸食事象 • 格納容器バイパス事象 格納容器破損モード • 雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過温破損) • 高圧溶融物放出/格納容器雰囲気直接加熱 • 炉外の溶融燃料-冷却材相互作用 • 水素燃焼 • 格納容器直接接触(シェルアタック) • 溶融炉心・コンクリート相互作用 問題解決に向けた計画 1. 「当面の施策の基本方針」を改定する http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/info/20101202.pdf 2. 上位文書を策定し指針類の位置付けを明確化する IAEAのNo. SF-1を参考とする http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1273_web.pdf 3. 喫緊の課題である過酷事故対策にまず取り組む SA対策の遅れを公開の場で指摘し保安院の取り組みを後押し 必要に応じ安全設計指針を改訂またはSA指針を制定 4. 3月16日に原子力安全シンポジウムで決意を表明する http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/forum/2011/kaisai.htm 5. 3月下旬に保安院側でも小委員会を設置して検討を開始 うまくいくはずだったが・・・ 3月11日東日本大震災発生 何がいけなかったのか 私自身反省している点は何か 1. 規制改革は「全速力」で取り組むべきだった ― 例えば • 改善し続ければ大事故は防げると思い込んでいた • 地震PSAの不確実さが大きいことから、過酷事故対策も内 的事象対策から始めるのもやむを得ないと思っていた • PAZはすぐ導入するもののEPZはゆっくり見直すとしていた 2. 改善点に気づいても指摘していなかった ― 例えば • 米国ではトレーラー積載のDGの用意があることを知りな がら、日本での採用を提案していなかった • 電力会社に安全(特に確率論的安全評価)の専門家がほ とんどいないことを知りながら、注意し続けなかった 3. 安全について掘り下げて考えなかった ― 例えば • 地震PSAの議論をしながら津波については考えなかった • 海水冷却系の重要性を知りながら津波を考えなかった 炉心損傷頻度 (/炉年) 地震PSAの不確実さ • 原子力安全委員会の耐震検討分科会(H16.10) にて、事業者の当時の評価手法の達成度を示 すために、試評価として検討状況を紹介。 • 炉心損傷頻度は平均値で10-6/炉年のオーダー。 • 不確実さの幅は2桁から3桁程度と広い。 • 試評価結果であり、これらが代表的な結果を示 しているわけではない。 http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/anzen/shidai/genan2010/genan047/siryo7-1.pdf 米国の安全性向上の取り組み South Texas Project 原子力発電所では安全系統は基本的に N+2 設計となっており、安全面で余裕のある設計となっている。 非常用ディーゼル発電機は各ユニットに100%容量のものが3 基設置されており、さらに1, 2 号機共用で移動可能な約50% 容量の移動可能なディーゼル発電機を保有している。 出典: H21年度 日本機械学会 原子力の安全規制の 最適化に関する研究会 活動報告書 研究会の場での質疑応答 移動可能なディーゼル発電機保有の理由はなにか? Ø 非常用ディーゼル発電機の原子炉運転中保全時にはそれ をつなぎこんでおくなどして、安全面の余裕を大きくするため である。 海水冷却系の喪失の 影響 ICCDP: Incremental Conditional Core Damage Probability ( 条件付き炉心損傷確率の増分) 出典: H11, 12年度 原子力発電所 の運転上の制限を満足しな い時の許容回復時間の設 定・評価方法検討報告書 もっと心掛けるべきことは何か 災害から最大限の教訓を引き出していない 関係者一人一人が自分の過ちや不作為と 真摯に向き合っていない 原子力村の住民を排除した 各種事故調査委員会の限界 事故を経て最高水準の規制は 実現したか 事故後に残された課題(1) IAEA No. SSR-2/1 要件16:想定起因事象 想定起因事象は、工学的判断並びに決定論的評価及び確率論的評価 の組み合せに基づいて特定されなければならない。 要件42:発電所設計における安全解析 決定論的手法と確率論的手法の両方の手法が適用されなければなら ない。 http://www-pub.iaea.org/MTCD/Publications/PDF/Pub1534_web.pdf https://www.nsr.go.jp/archive/jnes/content/000123919.pdf 事故後に残された課題(2) IAEA No. GSR Part 1(法令上及び行政上の基盤) 要件8:緊急時準備及び緊急時対応 政府は、原子力又は放射線の緊急事態に対する時宜を得た効果的な 対応を可能とする準備をしなければならない。 要件18:規制機関の職員の配置と能力 規制機関は、その責任を果たすため、資格と能力を有する十分な数の 職員を雇用しなければならない。 要件21:規制機関と許認可取得団体との連携 規制機関は、許認可取得団体との公式及び非公式の対話の仕組みを、 専門的・建設的な連携のもとに構築しなければならない。 http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1465_web.pdf https://www.nsr.go.jp/archive/jnes/content/000117675.pdf 事故後に残された課題(3) IAEA Integrated Regulatory Review Service (2007) 助言6:保安規定の承認や一連の運転の開始前に、保安院は安全上重要な すべての要素の総合的な評価を行うための追加的な留保点(ホールドポ イント)を設けるべきである。 判断根拠:GS-G-1.2(指針) ・・・ 通常運転を許認可する前に、規制機関はこの試運転の結果について 整合性を審査しかつ評価すべきである。規制機関がこれらの結果におけ る不整合を見つけた場合、規制機関は試運転の結果としてなされた不適 合の是正及び設計や運転手順の変更について評価すべきである。 ・・・ https://www.nsr.go.jp/archive/nisa/genshiryoku/files/report.pdf https://www.nsr.go.jp/archive/nisa/genshiryoku/files/report2.pdf 事故後に残された課題(4) IAEA Integrated Regulatory Review Service (2007) 助言14:保安院は、法律を変えずに検査の種類や頻度を変えることができる ような、より柔軟性をもったプロセスを構築すべきである。 判断根拠:GS-R-1(当時)現在は次のGSR Part 1 要件29に改定済み 規制機関は、規制要件及び許認可に明記されているすべての条件への 遵守を確認するために、施設及び活動に対する検査の計画を策定しかつ 実施しなければならない。規制機関はこの計画の中で、規制検査の種類 (定期的検査及び抜き打ち検査を含む)を指定しなければならず、また等 級別扱いに従って、検査の頻度及び検査されるべき区域と計画を規定し なければならない。 多数の目的別の検査制度の並立 効率的検査・検査官の能力向上の阻害要因 おわりに 1. 福島原発事故を経て原子力施設の安全性が飛躍的に高め られたのは確かである。 2. しかしながら我が国の原子力規制はその実効性において 世界一と呼べる水準にはない。 3. 今後も規制改革を継続的に行っていくことが必要である。 4. 福島事故以前も規制を改革しようとする努力は払われてい たはずであるが、なぜそれが実らなかったのか、根本原因 を追究する努力も必要である。
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