冷却基板フィン構造の最適化研究 田中 良武, 山地 洸平, 桜木 俊一 概要:前報(1)「パワーエレクトロニクス素子の高効率冷却機構に関する実験的研究」から,複数の矩形断 面流路と支柱から構成される基板が優れた冷却性能を発揮するという結論が得られている。本研究では, 得られた結論を基に,寸法形状の異なる矩形形状を持つ冷却フィンと流路から成る冷却基板を複数個製 作し,冷却基板フィン構造の最適化に関する実験的研究を実施した。また,CFD ソフト PHOENICS(フ ェニックス)による数値シミュレーションにより実験結果との比較検討も行った。 キーワード:最適化,パワーエレクトロニクス素子,寸法形状,冷却フィン,冷却基板 1. はじめに ハイブリッド自動車や電気自動車などに多用さ れているモータ制御用 IGBT などの大出力パワー エレクトロニクス素子は,耐久性と長時間の寿命 の確保のために高い冷却性能を要求される。本研 究では,前報(1)で矩形形状のフィン流路が高効率 冷却に適しており,フィン幅と冷却流路幅には, 冷却性能と密接した関係があるとの知見を得た。 このことから,本研究では最も効率よく冷却する 図 1. ことのできるフィンおよび流路の寸法を策定する 実験装置概略図 実験的考察を行い,最適な形状を決定する。 2.実験装置と実験手法 2.1 実験装置 図 1.に本研究で使用した実験装置の概略図を示 す。実験装置はチラ―ユニット,冷却基板,模擬 パワー素子(ラバーヒータ),流量計,熱電対,圧 力センサ等で構成されている。チラ―ユニットの 冷却能力は 1400W(液温 30℃)で,±0.1℃の精 図 2. 冷却基板性能評価装置 度で送水温度を任意に設定できる。パワートラン ジスタを模擬するため,定格出力 240W(75mm 2.2 実験手法 ×160mm×t1mm)のラバーヒータを冷却基板表 本研究では,5 種類の矩形形状フィンおよび流 面の中央部にくるように設置し,上部に重りを乗 路の伝熱部形状を持つ冷却基板の性能評価を実施 せ基板と密着するようにした。基板とヒータとの した。本研究で使用した冷却基板形状を図 3.に示 密着部の中央には基板表面温度測定用の極薄平面 す。今回のフィン形状は,実用上加工の容易な片 型熱電対(厚さ 50µm,幅 2mm)を挿入した。冷 面からの切削加工により製作した。容器および冷 却基板を納める容器には基板内部で発生する圧力 却基板はすべて A5052 材で,各基板ともフィン部 損失を計測するため,圧力センサを前後に設置し 形成空間は 170mm×75mm×12mm の共通サイ 入口側を P1,出口側を P2 とした。 ズとした。図中ではフィン数が 5 本となっている が実際のものは 9 本である。表 1.は,図 3.の A, B,C に対応した寸法を表したものである。 135 表面温度をT s=42℃に保つ 必要冷却水流量 流量:Q(L/M) 25 12 20 ヒータ出力:240W チラ―ユニット水温:30℃ 15 10 5 0 10 2.2 3.4 4.6 5.8 7.0 17.90 19.64 4.90 2.53 6.54 フィ ン 幅 8 A B 8 C 流 量 Q(L/M) 75 90 図 3. (*)注:3.4mm 基板はポンプの最大吐出でも表面温度 Ts が 42℃以下に達しなかったため図の実験値曲線から3次の多 項式で近似し外挿値として求めた。 冷却基板形状 図 5. 表 1. A(フィン幅) 2.2mm B(溝幅) 5.5mm C(両端溝幅) 5.6mm 各基板の要求冷却水量 基板寸法表 3.4mm 4.5mm 4.2mm 4.6mm 3.4mm 3.2mm 5.8mm 2.3mm 2.2mm 7.0mm 1.2mm 1.2mm 高い冷却性能を持つ 5.8mm 基板と最も冷却効率 が劣る 3.4mm 基板では約 8 倍の冷却性能差がみ 実験はラバーヒータの出力を 240W の定格出力 られる。前回の実験から,2.2mm が最も効率で劣 とし冷却基板を通過する流量を変化させたときの り,7.0mm が優れた冷却性能を発揮すると考えて 冷却基板表面温度 Ts を測定することにより, 冷却 いたが,予想と異なる結果となった。所定の温度 性能を評価した。チラ―ユニットの設定温度は Ts を達成するために要求される冷却水流量に大 30℃での送水で一定とした。また,容器部に基板 きな差があることから,循環ポンプの消費動力が 内部での流体移動のために消費される動力を評価 大きく異なることが推測される。 するために圧力センサを装着した。 3.2 3. 実験結果と考察 3.1 基板内部での消費動力 図 6.は,基板表面温度 Ts を 42℃に保つ際に発 各基板寸法における冷却性能 生する各基板の冷却水消費動力を表したものであ 図 4.は,5 種類の冷却基板について冷却水流量 る。容器に取りつけた圧力センサの冷却水入口側 を変化させたときの基板表面温度 Ts の測定値を の値を P1 (Pa),冷却水出口側を P2 (Pa)とし冷却 示したものである。同図より,フィン幅 5.8mm 水流量を Q (m3/s)として,基板内部で消費される の基板が最大冷却能力を持つことがわかる。 動力 L (W)を次式より算出した。Q は図 5.で示し 図 5.は基板表面温度を 42℃に保つために,各基 た値を使用した。 板が要求する冷却水流量を示す。同図より,最も 基板表面温度Ts(℃) 48 46 44 42 0.6 冷却水消費動力(W) 2.2mm 3.4mm 4.6mm 5.8mm 7.0mm 50 0.4 0.2 0.0 40 フィ ン 幅 消費動力(W) 38 36 0 5 図 4. 10 15 流量Q(L/M) 各冷却基板の冷却性能 20 表面温度をT s=42℃に保つために 必要な 冷却水消費動力 2.2 3.4(*) 4.6 5.8 7.0 0.34 0.50 0.04 0.02 0.20 (*)注:3.4mm 基板は図 5 と同じく近似曲線の外挿値とし て求めた。 .図 6. 各基板の冷却水消費動力 L=Q(P1-P2)・・・・(1) (Re>2300)まで高い熱伝達係数を持つことが分 消費動力 L は流量と圧力損失の積に比例する。図 かる。ただし,層流域と乱流域の境界域付近 6.より 5.8mm 基板が最も損失が小さいことが分 (Re=2300)までの熱伝達係数は 7.0mm 基板が かる。流路幅は狭いが,流量が小さいため消費動 高くなった。またグラフより,Re=4000 付近から 力は少なくなった。反対に 3.4mm 基板は流路幅 5.8mm 基板は熱伝達係数の上昇が緩やかになり, が広いが流量を多く流さなければならないため消 7.0mm 基板は降下している。これは,基板流路幅 費動力は大きくなった。両者の消費動力を比較す の縮小による流れの構造変化の影響と考えられ, ると 24 倍程度の違いがある。 今後のさらなる伝熱メカニズム研究が必要である。 3.3 4. CFD ソフト PHOENICS による解析 基板の平均熱伝達係数 平均熱伝達係数(W/m2K) また,本研究では 3 次元熱流体解析ソフト 熱伝達係数ーRe数 800 PHOENICS を使ったシミュレーションも行なっ 2.2mm 3.4mm 4.6mm 5.8mm 7.0mm 600 400 た。図 8.に計算空間を示す。発熱素子の接触する 基板表面が最下面に表示されている。計算空間は PC メモリ容量と計算時間の削減のために,冷却 200 基板中央部を切り出したモデルに所定の境界条件 を設定した。図 9.から図 11.は,最大流量時にお 0 100 1000 10000 Re数 図 7. 各基板の平均熱伝達係数 図 7.は各基板の吸収熱量 qw の計測結果から計 算された平均熱伝達係数をレイノルズ数の関数と して表したものである。レイノルズ数 Re の計算 ける PHOENICS による熱移動を伴う熱流体連成 解析結果を表示したものである。解析に使用した 方程式は,流れの運動方程式(N・S 方程式)とエネ ルギー保存方程式である(2)。図 9.はフィン部中央 断面の温度分布の計算結果である。冷却流体と接 触するフィン部で温度低下が顕著になっている状 況が見てとれる。 では,流路が円形断面を持たないため,代表長さ として水力平均深さ m(=流路断面積÷ぬれ縁長 さ)を用いた。すなわち, Re=4mu/ν・・・・ (2) ここで u : 冷却水流速,ν:水の動粘度である。 平均熱伝達係数α(W/m2K)は冷却水吸収熱量を qw(W)とすると次式で定義される。 qw=αSw(Tsw-Tw)・・・・(3) ここで,Sw : 流路の総表面積(m2),Tsw : 流路表 図 8. 面温度,Tw : 平均冷却水温(入口水温と出口水温の 計算空間形状 平均値),である。流路表面温度 Tsw は計測が困難 であるため,基板表面温度 Ts から以下の1次元熱 伝導の式を用いて算出した。 q=Sλ(Ts-Tsw)/h・・・・(4) ここで,S : ヒータ面積(m2),λ: 熱伝導率,h : 基板表面から流路表面までの距離である。5.8mm 冷 却 基 板 は 層 流 域 ( Re<2300 ) か ら 乱 流 域 図 9. 温度分布解析画面(フィン部中央断面) 38.34℃ あるものの,フィン幅 5.8mm から 7.0mm の間に 見られる圧力損失の急激な増大は,PHOENICS でも確認することができた。 35.10℃ 5. まとめ 本研究では,冷却基板フィン構造の最適化のた めに異なるフィン寸法と流路幅を持った 5 種類の 冷却基板の冷却性能を評価した。以下に本研究で 31.60℃ 図 10. フィン幅 2.2mm の温度分布 得られた結論を示す。 (1) フィン寸法 5.8mm の冷却基板が,冷却性能お よび消費動力から見ても優れた性能を発揮した。 36.97℃ (2) フィン寸法 5.8mm のものに比べて 7.0mm の ものでは,出入口の圧力差が大幅に増大すること を実験とシミュレーションの両方で確認した。こ 33.75℃ の結果から,最適なフィン寸法は 5.8mm 近傍で あることが推測される。 【参考文献】 31.64℃ 図 11. フィン幅 5.8mm の温度分布 (1) 田口智哉, 桜木俊一“パワーエレクトロニクス 素子の高効率冷却機構に関する実験的研究” 日本技術士会中部本部修習技術者研究業績発 出入口圧力損失(kPa) 表会講演論文集, 第 1 巻 2014, pp17~20. 最大流量時の圧力損失 12 (2) CHAM Ltd. “ PHOENICS の 基 礎 式 ” 10 8 実験値 PHOENICS Ver.2013 Manual(Japanese), PHOENICS Vol.1 2014, pp3-16~3-22. 6 4 【著者紹介】 2 田中 0 2.2 3.4 図 12. 4.6 フィン幅(mm) 5.8 7.0 良武 静岡理工科大学 機械工学科 理工学部 4年 出入口圧力差の比較 山地 図 10.と図 11.は冷却水の流れ方向と垂直方向の 基板断面(中央部)の温度分布を示す。フィン根元 洸平 静岡理工科大学 機械工学科 理工学部 4年 部と先端部の温度差は,2.2mm の場合 3.5℃であ り 5.8mm の場合 2.1℃である。予想通りではある 桜木 が,フィン幅が大きいほど温度差は小さく,効率 静岡理工科大学 良く熱移動が行われていることがわかる。 機械工学科 図 12.は実験値とシミュレーションの結果から 俊一 理工学部 教授 博士(工学) 得られた出入口間の圧力損失をグラフ化したもの E-mail: である。シミュレーション結果には多少の誤差は [email protected]
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